説明

直動案内ユニット

【課題】本願発明は,小形でコンパクトな短小形であり,ケーシングに形成した嵌挿孔にリターン路を形成する筒体を嵌挿し,転動体をリターン路でスムーズに転走させる。
【解決手段】ケーシング3に形成された嵌挿孔8にリターン路20を形成する筒体7を隙間39,40を有して嵌挿する。筒体7は,長手方向に互いに対向する両端支持梁部25と片持ち梁部26を備えている。両端支持梁部25と片持ち梁部26とは,リターン路20を転走する転動体のローラ10の押圧力を受けて弾性変形可能に構成されている。両端支持梁部25は,筒体7の両端部にあって筒体7の外周部に成る端支持部32に支持されており,片持ち梁部26は,一端が筒体7の中央部の中央支持部27に支持され,他端が自由端に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,長尺な軌道レール及び該軌道レール上に転動体を介して相対移動するスライダから構成され,特に,ケーシングが短小形である小形でコンパクトなローラ形式の直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,半導体製造装置,精密機械,測定・検査装置,医療機器,ロボット,組立装置,搬送機械,マイクロマシーン等における直線往復運動機構等の各種の装置は,省エネであり,装置そのものの構造が小形でコンパクトにして効率化が図られている。そこで,その各種の装置の摺動部に組み込まれる直動案内ユニットについても,小形でコンパクトにして,負荷容量が大きく,スライダが軌道レール上を滑らかに相対摺動できることが求められている。また,直動案内ユニットとして,負荷容量を大きく構成するには,ローラ形式が好ましく,そのローラ形式の直動案内ユニットについても,小形でコンパクトなスライダが短小形のタイプに構成されていることが求められている。
【0003】
従来,直動転がり案内ユニットについて,ケーシングのリターン孔に嵌挿したスリーブによってリターン路を形成したものが知られている。該直動転がり案内ユニットは,リターン路を形成するスリーブを弾性変形可能に構成し,転動体の摺動抵抗を吸収し,転動体のスムーズな転走を確保するため,スリーブの両端部をケーシングの嵌挿孔で保持し,両端部間の中央部を小径部に形成し,小径部の外面と嵌挿孔の壁面との間に隙間を設け,スリーブに長手方向に延びるスリットを形成して,中央部が弾性変形できる構造に構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−72335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された直動転がり案内ユニットは,先に本出願人が開発したものであり,リターン路を形成するスリーブは,長尺で,大径部に対して小径部も長尺に形成され,小径部が弾性変形し易い構造に構成されていた。しかしながら,直動案内ユニットとして,小形でコンパクトな短小形のローラ形式のものを実現する上で,スライダにおけるケーシングもスケールダウンして小形化でコンパクト化され,それに伴ってケーシングの嵌挿孔に嵌挿されるスリーブも同様に小形化でコンパクト化されることになり,上記の直動転がり案内ユニットのスリーブをスケールダウンした構成では,スリーブが小形にして短尺なものに成り,スリーブの小径部の肉厚も薄くなってスリーブの耐久性が無くなってしまい,また,耐久性を得るために小径部の肉厚を厚くした場合には,スリーブが短尺になっているので,小径部の弾性変形がし難くなり,スライダの相対摺動に滑らかさが得られないという課題があった。
【0006】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,小形でコンパクトな短小形の直動案内ユニットを実現する上で,ケーシングの嵌挿孔に嵌挿されてリターン路を形成する筒体の耐久性を確保し,スライダの軌道レールに対するスムーズな相対摺動移動を確保し,直動案内ユニットの標準形に比較してスライダの長さが短い即ちケーシングの長さが短いコンパクト形に構成され,小形化,コンパクト化された装置に使用して好ましく,特に,スライダの大きさが小さく且つスライダの長さが短い構造のローラ形式に適用しても好ましい小形でコンパクトな短小形の直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は,長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール及び前記軌道レールに転動体を介して摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第1軌道面と前記第2軌道面との間に形成される軌道路に沿って平行なリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,及び前記軌道路と前記リターン路と一対の前記方向転換路とで成る循環路を転走する複数の前記転動体を有し,前記リターン路が前記ケーシングに形成された嵌挿孔に挿通された長手状の筒体に形成されていることから成る直動案内ユニットにおいて,
前記筒体は,前記長手方向に沿った両側に前記嵌挿孔と隙間を有して前記転動体の押圧により弾性変形可能な部分を構成する長手方向に互いに対向する一対の梁部を備えており,一方側の前記梁部は前記筒体の両端部にあって前記筒体の外周部に成る端支持部に両端が支持された両端支持梁部に形成され,他方側の前記梁部は前記筒体の中央部にあって前記筒体の前記外周部に成る中央支持部にそれぞれの一端が支持され且つそれぞれの他端が自由端になる一対の片持ち梁部に形成されていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0008】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記転動体はローラで成り,前記筒体の通し孔が断面矩形形状に形成され,前記両端支持梁部と前記片持ち梁部とは前記ローラの転動面側に対向する転走面を形成するものである。
【0009】
また,前記両端支持梁部は,前記端支持部に一体構造に連結する中央部分を弾性変形し易くするため,前記端支持部と前記中央部分との境界にR溝の凹欠部が形成されている。また,前記片持ち梁部は,前記中央支持部に一体構造に連結する梁部分を弾性変形し易くするため,前記中央支持部と前記梁部分との境界にR溝の凹欠部が形成されている。
【0010】
また,前記筒体は,前記両端支持梁部の前記端支持部間を一体化する両側部を備えており,前記片持ち梁部を支持する前記中央支持部は前記両側部に一体化して構成されており,前記両端支持梁部と前記側部との間及び前記片持ち梁部と前記側部との間にはスリットがそれぞれ形成されており,前記両端支持梁部と前記片持ち梁部とは互いに独立して弾性変形可能に構成されている。
【0011】
この直動案内ユニットでは,前記片持ち梁部は前記方向転換路の内周側に連通して配置され,前記両端支持梁部は前記方向転換路の外周側に連通して配置されている。また,前記両端支持梁部側の前記筒体の部分は,前記片持ち梁部側の前記筒体の部分の全長よりも長く突出して凸部に形成され,前記凸部は,前記エンドキャップの凹部に嵌入されている。更に,前記転動体に給油する潤滑部材は,前記エンドキャップと前記ケーシングとの間に配設されている。
【発明の効果】
【0012】
この発明による直動案内ユニットは,上記のように,リターン路を形成する筒体を構成することによって,益々の小形でコンパクトな短小形のローラ形式の直動案内ユニットが実現されている。即ち,筒体は,耐久性ある肉厚に構成されると共に,両端支持梁部に対向して長手方向両方向に延びる一対の片持ち梁部を形成したので,小径の転動体であるローラによる摺動変化である小さな作用力即ち押圧力にも容易に弾性変形することが可能になり,更に,筒体は,片持ち梁部と両端支持梁部とにより独立した2段の弾性変化が可能になり,作用力に対して柔軟な対応が可能に成って,よりスライダの滑らかな摺動を実現することができる。特に,転動体がローラであるローラ形式の直動案内ユニットに実現されたものであるので,小形でコンパクトな短小形の直動案内ユニットでありながら,負荷容量も大きなものに成っている。筒体を構成する梁部は,両端支持梁部とそれに対向する片持ち梁部から構成され,両端支持梁部には支持部に一体構造に連結する端部にR溝の凹欠部を形成したので,弾性変形がし易くなると共に,梁部の耐久性を向上させている。また,片持ち梁部が方向転換路の内周側に位置して形成されたので,片持ち梁部の自由端が変化しても転動体の転走への影響が小さくスライダが滑らかに摺動可能になっている。更に,両端支持梁部側の筒体の長さが片持ち梁部側の筒体の長さよりも突出して長く形成されていることにより,筒体と方向転換路との接続部が方向転換路の内周側と外周側とで一致することが無く,接続部がいずれか一方だけであるので,循環路の連通性が良好になっており,転動体のローラが接続部で引っ掛かることが無く,滑らかに転走して循環可能に成っている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明による直動案内ユニットの一実施例を示す部分断面を含む斜視図である。
【図2】図1の直動案内ユニットからエンドキャップを取り外した直動案内ユニットを示す端面図である。
【図3】図2の直動案内ユニットのA−A位置で断面して循環路を示す説明図である。
【図4】図1の直動案内ユニットに組み込まれた筒体を示す正面図である。
【図5】図4の筒体を示す平面図である。
【図6】図4の筒体を示す下面図である。
【図7】図4の筒体を示す側面図である。
【図8】図4の筒体のB−B位置で断面して示すB−B断面図である。
【図9】図7の筒体のC−C位置で断面して示すC−C断面図である。
【図10】図3の循環路のリターン路を構成する筒体の弾性変形していない状態を示す説明図である。
【図11】図10の筒体の一状態から両端支持梁部と片持ち梁部とが弾性変化した状態を示す説明図である。
【図12】図10の筒体の一状態から片持ち梁部が最初に弾性変化する状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの一実施例について説明する。この直動案内ユニットは,図1及び図2に示すように,実現可能になった転動体がローラ10で成る小形でコンパクトな短小形のローラ形式に構成されている。この直動案内ユニットでは,ケーシング3の長さ(Lk)は,ケーシング3の幅寸法の40%と短いものであり,スライダ2に他の機器を固定するための取付け用ねじ孔19も幅方向に1個ずつ形成されており,標準形のケーシング長さに比較して,ケーシング3の摺動方向長さが標準形の略60%に形成されたものである。この直動案内ユニットは,長手方向の両側面46に延びる逃げ溝47に沿って一対の軌道面16(第1軌道面)がそれぞれ形成された軌道レール1,及び軌道レール1に跨架して転動体であるローラ10を介して相対摺動自在なスライダ2から構成されている。スライダ2は,軌道レール1の軌道面16に対向して軌道面17(第2軌道面)がそれぞれ形成され且つ軌道面16と軌道面17との間に形成される負荷路の軌道路21に沿って平行に延びる一対の無負荷路のリターン路20がそれぞれ形成されたケーシング3,ケーシング3の両端面24にそれぞれ取り付けられ且つ軌道路21とリターン路20とをそれぞれ連通する円弧状の一対の無負荷路の方向転換路15がそれぞれ形成されたエンドキャップ4,及び軌道路21とリターン路20と一対の方向転換路15とで構成される循環路30を転走する複数の転動体であるローラ10を有している。また,リターン路20は,ケーシング3の袖部48にそれぞれ形成された一対の嵌挿孔8に挿通された長手状の筒体7の通し孔9でそれぞれ形成されている。
【0015】
この直動案内ユニットは,図2に示すように,ケーシング3は軌道レール1上に位置する本体部49と,軌道レール1に跨架した状態で本体部49の幅方向両側から軌道レール1の側面46に沿って延びる両袖部48から構成されている。スライダ2の両袖部48には,軌道路21が二条列ずつ合計四条列に形成され,軌道路21のそれぞれにリターン路20と方向転換路15が連通されて循環路30がそれぞれ形成され,袖部48の一対の循環路30のうち一方の循環路30を転走するローラ10は,スライダ2の下方向負荷を受ける下側の軌道路21からケーシング3の上側のリターン路20に循環し,また,他方の循環路30を転走するローラ10は,スライダ2の上方向負荷を受ける上側の軌道路21からケーシング3の下側のリターン路20に循環する。また,この直動案内ユニットは,エンドキャップ4の外端面に配設され且つ軌道レール1とスライダ2との隙間をシールするリップ部を備えたエンドシール12,及びケーシング3とエンドキャップ4との下面に下面シール22が配置され,スライダ2がシール構造に形成されている。スライダ2は,ケーシング3にエンドキャップ4とエンドシール12を固定すること,具体的には,固定ねじ28をエンドキャップ4とエンドシール12の取付け用孔に通してケーシング3の取付け用ねじ孔29に締め込むことによって一体に構成されている。軌道レール1には,ベース,ベッド等の他の部材に取り付けるため,ボルトを挿通する取付け用孔18が長手方向に隔置して形成されている。また,ケーシング3には,スライダ2に他の機器,ワーク,取付体等の部材を固定するため取付け用ねじ孔19が形成されている。エンドキャップ4は,方向転換路15の外周部を形成するエンドキャップ本体5,及びエンドキャップ本体5の収容部に嵌入されて方向転換路15の内周部を形成するスペーサ6から構成されている。
【0016】
また,この直動案内ユニットにおいて,方向転換路15は,エンドキャップ4の両袖部にたすき掛けに交差状態にそれぞれ形成され,図3に示すように,長円状でなる外側の方向転換路15Lと短円状でなる内側の方向転換路15Sとが互いにたすき掛けに交差状態に成っており,一対の循環路30は,一方が方向転換路15L,軌道路21,リターン路20,及び方向転換路15Sで構成され,また,他方が方向転換路15S,軌道路21,リターン路20,及び方向転換路15Lで構成されている。軌道路21を転走するローラ10は,循環路30を転動する転動面50とその両端の端面51から構成されている。ローラ10は,保持板23によってローラ10の端面51が保持され,スライダ2を軌道レール1から外した場合に,スライダ2から脱落することが無いものになっている。保持板23は,保持バンド13によりケーシング3の軌道面17間に保持され,保持バンド13の両端がエンドキャップ4のバンド溝に嵌入して係止することによってスライダ2に固着されている。この直動案内ユニットは,エンドシール12の端面にグリースニップル14が取り付けられており,エンドキャップ4の給油孔に連通しており,図1及び図3に示すように,エンドキャップ4のケーシング側端面の凹部52には潤滑剤を含浸した焼結樹脂部材等の多孔質成形体から成る潤滑部材11が配設されて,潤滑部材11の導出部を方向転換路に露出している。従って,この直動案内ユニットは,方向転換路15を転走するローラ10に潤滑剤が供給されるので,給油されたローラ10が軌道路21を転走することによって軌道路21に潤滑剤が給油されるように構成され,小形でコンパクトな短小形にあっても多量の潤滑剤を保留できる構造に構成されており,潤滑剤のメンテナンスフリーが達成されている。
【0017】
この発明による直動案内ユニットは,特に,スライダ2を構成するケーシング3の嵌挿孔8に嵌挿されてリターン路20を形成する筒体7に特徴を有しているものであり,筒体7は,小形でコンパクトな短小に構成されており,弾性変形部分の肉厚を薄くすることなく,スリット31,スリット状孔34,凹欠部35,36を形成して弾性変形し易い構造に構成されていることを特徴としている。この直動案内ユニットは,小形に形成されると共に,標準形のスライダに比較してスライダ2の長さが短い,即ちケーシング3の長さが短いコンパクト形に構成されている。図1に示した直動案内ユニットでは,具体的には,ケーシング3の長さLkが,ケーシング3の幅寸法の40%と短いものであり,標準形のケーシング長さに比較して略60%に形成されている。この直動案内ユニットについて,筒体7は,断面矩形形状に形成されており,図4〜図9に示すように,通し孔9の一面を形成する両端支持梁部25,両端支持梁部25に対向する対向面を形成する片持ち梁部26,両端支持梁部25の両端の端支持部32,両端支持部32に連係する通し孔9の対向側面を形成する側部37,及び側部37の中央に一体に形成されて片持ち梁部26を支持する中央支持部27が成形によって一体構造に構成されている。筒体7は,特に,長手方向に沿った両側に嵌挿孔8と隙間を有して転動体であるローラ10の押圧により弾性変形可能な部分を構成する長手方向に通し孔9を介して互いに対向する一対の梁部が形成されており,一方側の梁部は両端が筒体7の両端部にあって筒体7の外周部に成る端支持部32に支持された両端支持梁部25であり,また,他方側の梁部は一端が筒体7の中央部にあって筒体7の外周部に成る中央支持部27に支持され且つ他端が自由端になる一対の片持ち梁部26であることを特徴としている。
【0018】
筒体7は,図3に示すように,ケーシング3に形成された嵌挿孔8に全長に渡って挿通されて長手状に形成され,筒体7の通し孔9がリターン路20に形成されている。言い換えれば,リターン路20は,ケーシング3の嵌挿孔8に挿通された長手状でなる筒体7の断面矩形形状の通し孔9で形成されている。また,この直動案内ユニットでは,両端支持梁部25と片持ち梁部26とは,ローラ10の転動面50側に対向する転走面41,42を形成するものである。また,リターン路20である通し孔9は,転動体のローラ10が滑らかに転走可能になるように,ローラ10よりも若干大きな矩形孔に形成されており,通し孔9の一対の対辺の短辺HAは,側部37であって,ローラ10の端面51側に対向し,他の一対の対辺の長辺HBは,両端支持梁部25と片持ち梁部26とであって,ローラ10の転動面50側に対向している。筒体7の外周部の全周である外形(外径)は,図7に示すように,ケーシング3の嵌挿孔8に合わせて円形に形成されている。
【0019】
この直動案内ユニットでは,リターン路20を形成する筒体7は,通し孔9の長手方向に沿った両側になるローラ10の転動面50側に対向するそれぞれの長辺HB側にあって,一方側の梁部は,筒体7の両端部を外周部に形成して一対の端支持部32とし,端支持部32間はケーシング3の嵌挿孔8と隙間39を持って弾性変形可能にする小径部に形成している。小径部は,弾性変形する梁部に形成され,当該梁部は,両端がそれぞれ端支持部32に一体構造に連結して外径が端支持部32の外径よりも小さく形成され,且つ長手方向に沿った両側の側部37で通し孔9に貫通する長手状のスリット,具体的には,細孔になるスリット状孔34がそれぞれ形成され,所謂,両端支持梁部25に構成されている。従って,スリット状孔34は,ほぼ端支持部32間に延びて形成されている。また,筒体7における一方側の梁部に対向する他方側の梁部は,筒体7の中央部を上記外周部に形成して一つの中央支持部27とし,中央支持部27の両端からそれぞれの筒体7の端面に渡ってケーシング3の嵌挿孔8と隙間40を持って弾性変形可能にする一対の小径部を形成している。その一対の小径部は,それぞれの一端が中央支持部27に一体構造に連結して外径が中央支持部27の外径よりも小さく形成され,且つ長手方向に沿った両側の側部37で通し孔9に貫通して他端に開口する長手状のスリット31がそれぞれ形成され,他端が自由端に成る梁部分44,所謂,一対の片持ち梁部26に構成されている。具体的には,スリット31は,中央支持部27の端面から他端に延びて形成されている。言い換えれば,筒体7は,両端支持梁部25の端支持部32間を一体化する両側部37を備えており,片持ち梁部26を支持する中央支持部27は両側部37に一体化して構成されており,両端支持梁部25と側部37との間にはスリット状孔34が及び片持ち梁部26と側部37との間にはスリット31がそれぞれ形成されており,両端支持梁部25と片持ち梁部26とは互いに独立して弾性変形可能に構成されている。
【0020】
また,筒体7については,ローラ10の端面51側に対向する一対の短辺HA側は,両端の端支持部32間の外周部に渡って面一に連なる外周部に形成され,通し孔9側はローラ10の端面51を案内する側部37の平面の側壁面38に成っており,外周部がケーシング3の嵌挿孔8に嵌着しているので,ローラ10の端面51が所定位置に循環転走可能に案内される。また,対向する側壁面38の端面は,図4〜図6に示すように,互いにずれた位置に構成されており,それにより,エンドキャップ4の方向転換路15とそのずれた位置で連結して連通し,ローラ10のそれぞれの端面51がそれぞれの連結位置に対応して摺接転走することになるので,ローラ10のひっかりが生じ難くローラ10の滑らかな循環が可能に成っている。例えば,この実施例では,筒体7は,外周部の外径Dが3.5mm,,長さLtが15mm,通し孔9の短辺HAは1.7mm,長辺HBは2.2mmに形成されたものに成っている。
【0021】
筒体7は,片持ち梁部26が両端支持梁部25に比較して,かなり弾性変形し易い構造に構成されている。例えば,上記実施例において,片持ち梁部26の自由端である先端に,0.1Nの力を作用させたとき,先端は0.2mm変位し,両端支持梁部25の中央に,0.1Nの力を作用させたとき,中央は0.034mm変位して,片持ち梁部26が両端支持梁部25に比較して約6倍程に弾性変形し易い構造に構成されている。従って,片持ち梁部26は,リターン路20を通るローラ10の僅かな押圧にも弾性変形可能に構成されている。この直動案内ユニットにおける循環路30において,図3に示すように,軌道路21では転動体のローラ10を介して軌道レール1の軌道面16とケーシング3の軌道面17とが負荷を受け圧着した状態に負荷路に成っており,一対の方向転換路15及びリターン路20ではボール10と僅かな隙間を有した通路で無負荷路に成っている。
【0022】
図3に示すように,軌道レール1に対してスライダ2が矢印方向vに移動すると,循環路30を循環転走する転動体のローラ10は,無負荷路から負荷路の軌道路21に侵入する入口部分Pにおいて,どうしても負荷路の軌道路21に入りずらく成り抵抗力を受け,同時にスライダ2にも摺動抵抗変化が生じることになる。それ故,従来よりケーシング3の入口部分Pには,転動体のローラ10が負荷路の軌道路21に入り易くするために,緩やかカーブ形状のクラウニングが施されている。しかしながら,特に,転動体がローラ10の場合は,クラウニングが施されていても,ローラ10の軸心が傾いたスキュー状態で侵入したときなどでは,どうしても入りずらくなって,スライダ2の摺動抵抗変化が生じている。そこで,ローラ形式の直動案内ユニットでは,先の特許文献1に述べたように,リターン路を構成するスリーブには,ケーシングの嵌挿孔と隙間を持って弾性変形可能な小径部が設けられ,スライダの摺動変化を是正して,スライダの滑らかな摺動を得ていた。しかしながら,特に,小形でコンパクトな短小形のローラ形式の直動案内ユニットでは,前述したとおり課題があった。
【0023】
そこで,小形でコンパクトな短小形のローラ形式の直動案内ユニットでは,図4〜図9に示した筒体7に構成することで課題が解決されている。特に,筒体7に片持ち梁部26を形成することで解決され,スライダ2の軌道レール1上での滑らかな摺動を得ることができた。筒体7が組み込まれた直動案内ユニットでは,スライダ2のリターン路部分を図10に示すように,ローラ10の循環抵抗が小さいとき(押圧力Fo )には,筒体7の両端支持梁部25及び片持ち梁部26とも弾性変形することが無く,ローラ10は筒体7の所定の通し孔9を循環している。しかしながら,例えば,図3に示したように,ケーシング3の軌道路21の入口部分Pにてローラ10に抵抗力が発生したときには,無負荷路である方向転換路15のローラ10にも押圧力が作用し,ローラ10の押圧力により筒体7もローラ10から押圧される。筒体7は,押圧されると,先ず弾性変形しやすい片持ち梁部26から変位し,図11に示されるように更なる押圧(押圧力F1 )により両端支持梁部25も弾性変形する状態に変化する。梁部25,26が弾性変形すると,図11に示すように,ローラ10間の距離が縮まる。そうすると,スライダ2は,縮まった距離の2倍分,さらに移動することになり,入口部分Pにあるローラ10が容易に負荷路の軌道路21に侵入することが可能に成る。ローラ10が負荷路の軌道路21に侵入すると,同時に,ローラ10の抵抗力F1 が無くなり,ローラ10の押圧力が元に戻り(押圧力Fo ),筒体7も図10に示す状態に復帰する態様に成る。これらが瞬時に行われ,結果的に,スライダ2の滑らかな摺動が得られている。なお,筒体7は,図10から図11へ変化する初期段階において,図12に示すように,弾性変形し易い片持ち梁部26から弾性変形する。また,場合によって,筒体7は,図12に示すように,僅かな押圧力F2 (Fo <F2 <F1 )のときには,片持ち梁部26のみが弾性変形するときもある。よって,筒体7は,片持ち梁部26と両端支持梁部25とにより,2段の弾性変化が可能になり,より柔軟な対応が可能に成っている。
【0024】
筒体7は,片持ち梁部26と両端支持梁部25とのそれぞれの梁部は,支持部に一体構造に連結する端部に弾性変形をし易くするためのR溝の凹欠部35,36が形成されており,弾性変形による応力集中も緩和され端部の耐久力があるものに成っている。具体的には,両端支持梁部25は,端支持部32に一体構造に連結する中央部分43に弾性変形をし易くするため,端支持部32と中央部分43との境界にR溝の凹欠部35が形成されている。また,片持ち梁部26は,側部37の中央の中央支持部27に一体構造に連結する両梁部分44に弾性変形をし易くするため,中央支持部27との境界にR溝の凹欠部36が形成されている。また,筒体7は,図3に示すように,片持ち梁部26が方向転換路15の内周側に位置して形成されており,片持ち梁部26の自由端が変化して方向転換路15との接続部に僅かな段差が生じても方向転換路15の外周側に比較して転動体のローラ10の転走への影響が小さく,スライダ2の滑らかな摺動を得ている。また,両端支持梁部25は,方向転換路15の外周側に連通して位置設定して形成されている。また,両端支持梁部25側の筒体7の長手方向長さは,片持ち梁部26側の筒体7の長手方向長さよりも長く突出して凸部33に形成されている。即ち,筒体7は,両端支持梁部25側である端支持部32の両端に凸部33がそれぞれ形成され,図3に示すように,凸部33がエンドキャップ4の凹部45に嵌入して筒体7の回り止めをして位置決めを成している。筒体7は,凸部33を形成したことにより,両端支持梁部25(=長さL)が片持ち梁部26(=長さLt)よりも突出して長く形成されていることで,ローラ10の転動面50側にあって,筒体7と方向転換路15との接続部が方向転換路15の内周側と外周側とで一致することが無いので,循環路30の連通性が良好になり,ローラ10は接続部で引っ掛かることが無く滑らかに循環可能に成っている。
【0025】
また,筒体7は,一体構造の合成樹脂成形体に構成されている。しかしながら,従来のように,通し孔の長辺の中央位置で分割した半体を合わせて構成してもよいものである。また,筒体7は,実施例では,ローラ形式の直動案内ユニットに適用されているが,ボール形式の直動案内ユニットにも応用可能であり充分に適用可能に成っている。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明による直動案内ユニットは,半導体製造装置,精密機械,測定・検査装置,医療機器,各種ロボット,各種組立装置,搬送機械,工作機械,マイクロマシーン等の各種装置における摺動部に組み込んで利用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0027】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
7 筒体
8 嵌挿孔
9 通し孔
10 ローラ(転動体)
11 潤滑部材
15 方向転換路
16 軌道面(第1軌道面)
17 軌道面(第2軌道面)
20 リターン路
21 軌道路
24 端面
25 両端支持梁部
26 片持ち梁部
27 中央支持部
30 循環路
31 スリット
32 端支持部(筒体)
33 凸部(筒体)
34 スリット状孔(スリット)
35,36 凹欠部
37 側部
39,40 隙間
41,42 転走面
43 中央部分
44 梁部分
45 凹部
50 転動面
L 両端支持梁部の長さ
Lt 片持ち梁部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って第1軌道面が形成された軌道レール及び前記軌道レールに転動体を介して摺動自在なスライダから成り,前記スライダは,前記軌道レールの前記第1軌道面に対向して第2軌道面が形成され且つ前記第1軌道面と前記第2軌道面との間に形成される軌道路に沿って平行なリターン路が形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,及び前記軌道路と前記リターン路と一対の前記方向転換路とで成る循環路を転走する複数の前記転動体を有し,前記リターン路が前記ケーシングに形成された嵌挿孔に挿通された長手状の筒体に形成されていることから成る直動案内ユニットにおいて,
前記筒体は,前記長手方向に沿った両側に前記嵌挿孔と隙間を有して前記転動体の押圧により弾性変形可能な部分を構成する長手方向に互いに対向する一対の梁部を備えており,一方側の前記梁部は前記筒体の両端部にあって前記筒体の外周部に成る端支持部に両端が支持された両端支持梁部に形成され,他方側の前記梁部は前記筒体の中央部にあって前記筒体の前記外周部に成る中央支持部にそれぞれの一端が支持され且つそれぞれの他端が自由端になる一対の片持ち梁部であることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記転動体はローラで成り,前記筒体の通し孔が断面矩形形状に形成され,前記両端支持梁部と前記片持ち梁部とは前記ローラの転動面側に対向する転走面を形成することを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記両端支持梁部は,前記端支持部に一体構造に連結する中央部分を弾性変形し易くするため,前記端支持部と前記中央部分との境界にR溝の凹欠部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記片持ち梁部は,前記中央支持部に一体構造に連結する梁部分を弾性変形し易くするため,前記中央支持部と前記梁部分との境界にR溝の凹欠部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記筒体は,前記両端支持梁部の前記端支持部間を一体化する両側部を備えており,前記片持ち梁部を支持する前記中央支持部は前記両側部に一体化して構成されており,前記両端支持梁部と前記側部との間及び前記片持ち梁部と前記側部との間にはスリットがそれぞれ形成されており,前記両端支持梁部と前記片持ち梁部とは互いに独立して弾性変形可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記片持ち梁部は前記方向転換路の内周側に連通して配置され,前記両端支持梁部は前記方向転換路の外周側に連通して配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記両端支持梁部側の前記筒体の部分は,前記片持ち梁部側の前記筒体の部分の全長よりも長く突出して凸部に形成され,前記凸部は,前記エンドキャップの凹部に嵌入されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項8】
前記転動体に給油する潤滑部材は,前記エンドキャップと前記ケーシングとの間に配設されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−92236(P2013−92236A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235957(P2011−235957)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】