説明

直動発電機

【課題】小型化が可能で、発電出力が向上する直動発電機を提供する。
【解決手段】外部から加振されて軸方向に往復直線運動する入力シャフト2の外周に永久磁石3を有する可動子4が取り付けられ、入力シャフト2を軸方向に往復直線運動自在に保持するケース5の内周に入力シャフト2を中心にして周回したコイル6を有する固定子7が取り付けられ、固定子7の内周と可動子4の外周が空隙8を隔てて径方向に対向した直動発電機1において、固定子7は、板厚が一定で径方向長さが異なる第一電磁鋼板9と第二電磁鋼板10とを周方向に交互に積層してなり、可動子4は、板厚が一定で径方向長さが異なる第三電磁鋼板11と第四電磁鋼板12とを周方向に交互に積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型化が可能で、発電出力が向上する直動発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
往復直線運動により電力を起こす直動発電機が知られている。直動発電機は、固定子にコイル、可動子に永久磁石を取り付け(固定子に永久磁石、可動子にコイルでもよい)、固定子と可動子の相対的な運動により、コイルに交わる磁束の向きや磁束密度が変化することで、起電力を得るものである。固定子と可動子は、磁束を望ましい磁路に導くためのコアで構成される。コアは、透磁率が高く渦電流損失が少ない複数の電磁鋼板を互いに電気的に絶縁して積層したものである。
【0003】
図6に示した直動発電機101は、固定子7と可動子4を中心軸Cに対して同軸に配置したものである。外部から加振されて軸方向に往復直線運動する入力シャフト2の外周に永久磁石3を有する可動子4が取り付けられ、入力シャフト2を軸方向に往復直線運動自在に保持するケース5の内周に入力シャフト2を中心にして周回したコイル6を有する固定子7が取り付けられる。固定子7の内周と可動子4の外周は、磁束が通りやすいよう極力狭く形成された空隙8を隔てて径方向に対向している。永久磁石3の着磁方向は径方向である。ここでは着磁方向は径方向外方とする。
【0004】
図6には、コイル6の断面の周囲を周回する磁路Mのイメージが示されている。すなわち、磁束は、永久磁石3から固定子7の内周部を軸方向に通って端面部に至り(磁路Ma)、端面部を径方向外方に通り(磁路Mb)、固定子7の外周部で軸方向に折り返して反対端面部に至り(磁路Mc)、反対端面部を径方向内方に通り(磁路Md)、可動子4を径方向及び軸方向に通って永久磁石3に戻る(磁路Me)。可動子4の運動位置に応じて磁路の方向が反転するのでコイル6に起電力が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−274871号公報
【特許文献2】特開2011−115037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直動発電機のコアにおける電磁鋼板の積層構造として、複数の電磁鋼板が周方向に配列されたものが特許文献1に示されている。このように、複数の電磁鋼板が周方向に配列されると、図6にイメージとして示した全磁路Mにわたり磁束の向きが電磁鋼板の面に沿うので、渦電流の発生が抑制され、発電効率が向上する。軸方向から見ると電磁鋼板の辺が放射状に並ぶことから、以下、このような電磁鋼板の配置を放射状配置という。
【0007】
しかしながら、電磁鋼板は板厚が均一であるため、電磁鋼板を放射状配置すると、コアの内周では電磁鋼板同士が密着するが外周では電磁鋼板間に隙間が生じる。コアの内周から外周までの径が大きいほど隙間は大きい。隙間がコア内にあることで、コア全体が占める空間に比して電磁鋼板が占める比率、すなわち電磁鋼板の密度が小さくなる。磁束を多く通すために十分な量の電磁鋼板を実装しようとするとコア全体が占める空間が大きくなり、直動発電機が大型化してしまう。
【0008】
また、図7に示されるように、外側に位置する固定子7の内周は電磁鋼板102同士が密着するのに対し、固定子7の内側に位置し空隙8を隔てて固定子7に対向している可動子4の外周は電磁鋼板103間に隙間が生じている。磁束は、固定子7から可動子4または可動子4から固定子7へ径方向に通るので、可動子4における磁路断面積は電磁鋼板103を周方向に切った断面積で規定され、隙間の部分は磁路断面積に寄与しない。
【0009】
ここで、可動子4の磁気抵抗は、
【0010】
【数1】

【0011】
で定義される。したがって、磁路断面積が小さいと、可動子4の磁気抵抗が大きくなり、発電出力が低下する。
【0012】
これに対し、特許文献1のように、コアの中心部分に大きな空間を確保し、電磁鋼板の径方向の長さを短くすることで、コアの外周の電磁鋼板間に生じる隙間を小さくすることはできる。しかし、コアの中心部分に大きな空間を確保すると、コアの外径が大きくなり、直動発電機が大型化してしまう。また、特許文献1の電磁鋼板は、隙間があっても整列させ易いようにエンボスを形成することになるが、電磁鋼板のプレス加工が容易でない。
【0013】
特許文献2のように電磁鋼板をロール状に巻いて電磁鋼板間の隙間を無くすることは可能である。しかし、電磁鋼板をロール状に巻くと、可動子の外周あるいは固定子の内周の径を周方向に一定にすることが難しく、空隙が周方向に均一にならない。また、特許文献2のコアは、磁路の一部で磁束の向きが電磁鋼板の面に交差するので、渦電流が大きくなり、発電出力が低下する。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、小型化が可能で、発電出力が向上する直動発電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明の直動発電機は、外部から加振されて軸方向に往復直線運動する入力シャフトの外周に永久磁石を有する可動子が取り付けられ、前記入力シャフトを軸方向に往復直線運動自在に保持するケースの内周に前記入力シャフトを中心にして周回したコイルを有する固定子が取り付けられ、前記固定子の内周と前記可動子の外周が空隙を隔てて径方向に対向した直動発電機において、前記固定子は、板厚が一定で径方向長さが異なる第一電磁鋼板と第二電磁鋼板とを周方向に交互に積層してなり、前記可動子は、板厚が一定で径方向長さが異なる第三電磁鋼板と第四電磁鋼板とを周方向に交互に積層してなるものである。
【0016】
前記第一電磁鋼板は、前記固定子の内周から外周までの径方向長さを有し、前記第二電磁鋼板は、前記第一電磁鋼板同士の隙間が板厚と同じになる位置から前記固定子の外周までの径方向長さを有してもよい。
【0017】
前記第一電磁鋼板と前記第二電磁鋼板は、前記コイルの軸方向片側に配置される片側切片と反対側に配置される反対側切片とを有し、前記第一電磁鋼板の片側切片と前記第二電磁鋼板の反対側切片とが軸方向に並び、前記第一電磁鋼板の反対側切片と前記第二電磁鋼板の片側切片とが軸方向に並んでもよい。
【0018】
前記第三電磁鋼板は、前記可動子の内周から外周までの径方向長さを有し、前記第四電磁鋼板は、前記第三電磁鋼板同士の隙間が板厚と同じになる位置から前記可動子の外周までの径方向長さを有してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0020】
(1)小型化が可能となる。
【0021】
(2)発電出力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示す直動発電機の中心軸に直角な断面図である。
【図2】図1の直動発電機のA−A断面図である。
【図3】固定子に使われる電磁鋼板の平面図及び固定子のコアを軸方向から見た部分平面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】本発明における可動子と固定子のコアを軸方向から見た部分平面図である。
【図6】直動発電機の中心軸に沿った断面図である。
【図7】従来技術における可動子と固定子のコアを軸方向から見た部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、本発明に係る直動発電機1は、外部から加振されて軸方向に往復直線運動する入力シャフト2の外周に永久磁石3を有する可動子4が取り付けられ、入力シャフト2を軸方向に往復直線運動自在に保持するケース5(図6参照)の内周に入力シャフト2を中心にして周回したコイル6を有する固定子7が取り付けられ、固定子7の内周と可動子4の外周が空隙8を隔てて径方向に対向している。
【0025】
固定子7は、板厚が一定で径方向長さが異なる第一電磁鋼板9と第二電磁鋼板10とを周方向に交互に積層してなり、可動子4は、板厚が一定で径方向長さが異なる第三電磁鋼板11と第四電磁鋼板12とを周方向に交互に積層してなる。
【0026】
図3及び図4に示されるように、固定子7では、第一電磁鋼板9は、固定子7の内周から外周までの径方向長さを有し、第二電磁鋼板10は、第一電磁鋼板9同士の隙間が板厚と同じになる位置から固定子7の外周までの径方向長さを有する。
【0027】
第一電磁鋼板9は、固定子7の内周部に位置する内周リブ13と、固定子7の端面部に位置する端面リブ14と、固定子7の外周部に位置する外周リブ15とが一体に形成されてコ字状を呈する。本実施形態では、第二電磁鋼板10は、外周リブ15と同じ形状である。
【0028】
図2及び図3に示されるように、第一電磁鋼板9と第二電磁鋼板10は、コイル6の軸方向片側に配置される片側切片9a,10aと反対側に配置される反対側切片9b,10bとを有し、第一電磁鋼板9の片側切片9aと第二電磁鋼板10の反対側切片10bとが軸方向に並び、第一電磁鋼板9の反対側切片9bと第二電磁鋼板10の片側切片10aとが軸方向に並ぶ。
【0029】
片側切片9aの外周リブ15及び片側切片10aと反対側切片9bの外周リブ15及び反対側切片10bは、互いに接して突き合わされるようになっている。本実施形態では、片側切片9aの外周リブ15及び片側切片10aと反対側切片9bの外周リブ15及び反対側切片10bの突き合わせ部分が段違いになっている。片側切片9aの内周リブ13と反対側切片9bの内周リブ13は、軸方向に十分に広い間隔が空くようになっている。
【0030】
図5に示されるように、可動子4では、第三電磁鋼板11は、可動子4の内周(=入力シャフト2)から可動子4の外周(空隙8)までの径方向長さを有し、第四電磁鋼板12は、第三電磁鋼板11同士の隙間が板厚と同じになる位置から可動子4の外周までの径方向長さを有する。
【0031】
図2に示されるように、入力シャフト2には、可動子4の軸方向両端に接する2つのフランジ17が設けられる。第三電磁鋼板11は、ほぼ矩形の外観形状であるが、あらかじめフランジ17と永久磁石3を嵌め込むための切欠部が形成される。第四電磁鋼板12は、ほぼ矩形の外観形状であるが、あらかじめ永久磁石3を嵌め込むための切欠部が形成される。フランジ17の外周に、第三電磁鋼板11と第四電磁鋼板12を交互に置いて樹脂で仮接着することで図1のように第三電磁鋼板11と第四電磁鋼板12が放射状配置に整列される。残っている隙間には樹脂が充填される。
【0032】
図2に示されるように、コイル6はボビン16に収容される。ボビン16は、外周が円筒面になっている。ボビン16の外径寸法は、ボビン16の外周が第一電磁鋼板9同士の隙間が板厚と同じになる位置に一致するよう設定されている。ボビン16の外周に、片側切片9aの外周リブ15及び片側切片10aと反対側切片9bの外周リブ15及び反対側切片10bの内周側を交互に置いて仮接着することで図1のように第一電磁鋼板9と第二電磁鋼板10が放射状配置に整列される。残っている隙間には樹脂が充填される。
【0033】
図1に示されるように、第一電磁鋼板9及び第二電磁鋼板10は、全周にわたり設けられるのではなく、ボビン16の導線引出部18については除外される。なお、図1は符号記入のため、周方向の一部を省略してある。
【0034】
以下、本発明に係る直動発電機1の作用効果を説明する。
【0035】
本発明の直動発電機1にあっては、図3に示されるように、固定子7は、板厚が一定で径方向長さが異なる第一電磁鋼板9と第二電磁鋼板10とを周方向に交互に積層してなるため、従来技術より隙間が少なくなり、電磁鋼板の密度が大きくなる。したがって、磁束を多く通すために十分な量の電磁鋼板を実装したとき、コア全体が占める空間は従来技術より小さくなり、直動発電機1の小型化が達成される。特に、本実施形態では、磁路Mc(図6参照)が通る固定子7の外周部では、第一電磁鋼板9の外周リブ15同士の間に外周リブ15と同じ形状を有する第二電磁鋼板10が存在することになるので、従来技術に比べて磁路断面積は2倍が確保され、従来技術と同じ磁路断面積を確保しつつ固定子7の外径を小さくすることができる。
【0036】
本発明の直動発電機1にあっては、図5に示されるように、可動子4は、板厚が一定で径方向長さが異なる第三電磁鋼板11と第四電磁鋼板12とを周方向に交互に積層してなるため、従来は隙間であったところに第四電磁鋼板12が存在することになり、磁路Me(図6参照)が通る可動子4の外周部における磁路断面積が大きくなる。この結果、可動子4の磁気抵抗が小さくなり、発電出力が向上する。
【0037】
本発明の直動発電機1にあっては、第一〜第四電磁鋼板9〜12は、板厚が一定であり、板厚方向の膨らみがないのでプレスにより容易に成形できる。
【0038】
本実施形態では、片側切片9aの外周リブ15及び片側切片10aと反対側切片9bの外周リブ15及び反対側切片10bの突き合わせ部分を段違いとしたが、段違いでなくともよく、合わせ目が軸に対して直角あるいは傾斜した直線となってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 直動発電機
2 入力シャフト
3 永久磁石
4 可動子
5 ケース
6 コイル
7 固定子
8 空隙
9 第一電磁鋼板
10 第二電磁鋼板
11 第三電磁鋼板
12 第四電磁鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から加振されて軸方向に往復直線運動する入力シャフトの外周に永久磁石を有する可動子が取り付けられ、前記入力シャフトを軸方向に往復直線運動自在に保持するケースの内周に前記入力シャフトを中心にして周回したコイルを有する固定子が取り付けられ、前記固定子の内周と前記可動子の外周が空隙を隔てて径方向に対向した直動発電機において、
前記固定子は、板厚が一定で径方向長さが異なる第一電磁鋼板と第二電磁鋼板とを周方向に交互に積層してなり、
前記可動子は、板厚が一定で径方向長さが異なる第三電磁鋼板と第四電磁鋼板とを周方向に交互に積層してなることを特徴とする直動発電機。
【請求項2】
前記第一電磁鋼板は、前記固定子の内周から外周までの径方向長さを有し、
前記第二電磁鋼板は、前記第一電磁鋼板同士の隙間が板厚と同じになる位置から前記固定子の外周までの径方向長さを有することを特徴とする請求項1記載の直動発電機。
【請求項3】
前記第一電磁鋼板と前記第二電磁鋼板は、前記コイルの軸方向片側に配置される片側切片と反対側に配置される反対側切片とを有し、
前記第一電磁鋼板の片側切片と前記第二電磁鋼板の反対側切片とが軸方向に並び、
前記第一電磁鋼板の反対側切片と前記第二電磁鋼板の片側切片とが軸方向に並ぶことを特徴とする請求項1又は2記載の直動発電機。
【請求項4】
前記第三電磁鋼板は、前記可動子の内周から外周までの径方向長さを有し、
前記第四電磁鋼板は、前記第三電磁鋼板同士の隙間が板厚と同じになる位置から前記可動子の外周までの径方向長さを有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の直動発電機。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115990(P2013−115990A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261953(P2011−261953)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)