説明

直動転がり案内ユニット

【課題】この直動転がり案内ユニットは,エンドキャップを形成するスペーサを潤滑剤含浸の多孔質成形体で作製し,方向転換路内を転走するボールにスペーサの多孔質成形体から潤滑剤を確実に安定して給油して潤滑メンテナンスフリーを実現する。
【解決手段】エンドキャップ本体5の凹部16に多孔質成形体から成るスペーサ6を配置する。スペーサ6は,貯留部31,貯留部31の両側部に一体構造の連係部及び連係部と一体的な方向転換路の内周部29を形成する導出部から構成されている。ボールは,方向転換路を転走する時に,ボールが多孔質成形体7の導出部に接して多孔質成形体に含浸された潤滑剤がボールに給油される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,長尺な軌道レール上を,複数の転動体であるボールを介して相対移動するスライダから成る直動転がり案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動転がり案内ユニットは,半導体製造装置,工作機械,各種の組立装置,搬送機械等の各種機械装置の摺動部への適用が拡大している。従来のローラタイプの直動転がり案内ユニットは,スライダの摺動方向両端のエンドキャップ内に潤滑部材を配置して,エンドキャップの方向転換路内で潤滑部材から転動体に潤滑剤を給油して潤滑メンテナンスフリーを実現している。
【0003】
本出願人に係る直動案内ユニットとして,転動体への潤滑剤の給油を方向転換路で行って,給油手段の構成を単純化し,転動体に潤滑剤を確実に安定的に給油してメンテナンスフリーを達成したものが知られている。該直動案内ユニットは,エンドキャップのケーシング側の端面に形成された凹部に潤滑剤を含浸した多孔質成形体を配設し,凹部に方向転換路に連通する開口部を形成する。多孔質成形体の突出部を開口部から方向転換路に露出させ,方向転換路を転走するローラを,突出部の露出面に接触させてローラに潤滑剤を給油したものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
従来,潤滑リニアガイド装置として,潤滑剤含有ポリマを転動体戻し路や湾曲路に設けて転動体に給油したものが知られている。該潤滑リニアガイド装置は,ポリエチレン等の補強材と潤滑剤含有ポリマとから成る潤滑剤含有ポリマ部材で構成した転動体循環チューブを,スライダ本体の転動体戻り通路に挿通したものであり,エンドキャップ内の転動体循環路となる湾曲路の一部である内壁部を構成するリターンガイドを,補強材と潤滑剤含有ポリマとを剥離を生じることなく接合し,潤滑剤含有ポリマ部材の強度を向上させたものであり,該潤滑剤含有ポリマ部材をエンドキャップ裏側の半円柱状の凹溝に嵌合させたものである(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−149469号公報
【特許文献2】特開平10−78032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,従来の直動転がり案内ユニットでは,長期間にわたって転動体に潤滑剤を供給できる潤滑メンテナンスフリーが求められている。しかしながら,ミニアチュアタイプの直動転がり案内ユニットでは,その外形寸法が非常に小さく,転動体に潤滑剤を長期間にわたって供給できる潤滑メンテナンスフリーを実現する潤滑部材を構成できるような寸法の余裕がないのが現状である。直動転がり案内ユニットについて,仮に従来のスリーブ状の潤滑部材を備えた構造のもので実施すると,潤滑部材は極めて薄肉で体積が小さくなってしまい,潤滑部材への潤滑剤の保持量が少なくなり,転動体への潤滑不足による焼付き等の潤滑不良を招く恐れがある。また,転動体に対して潤滑剤を十分に供給するには,潤滑部材を設けるケーシングに形成されたリターン路用孔を大きく形成する必要があり,ケーシング自体の剛性が低下するという恐れがあり,同時に,リターン路用貫通孔の周囲が極端に薄肉となってしまうという問題が発生する。
【0007】
例えば,上記ローラタイプの直動転がり案内ユニットでは,方向転換路を構成するエンドキャップに潤滑剤を含浸させた多孔質成形体を嵌合し,多孔質成形体の突出部を方向転換路に露出させて,内周側からローラに潤滑剤を供給する構造であるが,構造が複雑化し,ミニアチュアタイプの直動転がり案内ユニットには不向きなものになってしまうという問題があった。また,上記潤滑リニアガイド装置は,潤滑剤含有ポリマ部材の強度を上げるため,潤滑剤含有ポリマに対して補強材の割合を高くすると,潤滑剤の含油量が十分でなくなるという問題がある。即ち,潤滑剤含有ポリマは,ポリオレフィン系ポリマとポリαオレフィン油等の潤滑剤を混合して加熱溶融した後,所定の型に注入して加圧しながら冷却固化させて成形したものであるので,潤滑材含有ポリマは,樹脂自体が潤滑剤を吸収して膨潤しているが,潤滑剤が排出されると収縮変形し,その結果,補強材部分よりも潤滑剤含有ポリマ部分が収縮することになって,転動体に潤滑剤を供給できなくなるという問題が発生する。
【0008】
そこで,本出願人は,ローラタイプで実施しているエンドキャップ内に潤滑部材を配置するという構造を,ボールタイプに適した構造に構成することを試み,しかも,ボールタイプの小形サイズの製品,即ち,軌道レールの幅寸法が3mm以下,又は転動体であるボールの直径が1mm以下のミニアチュアタイプの直動転がり案内ユニットを開発し,しかも,該直動転がり案内ユニットがボールに潤滑剤を長期間にわたって供給して潤滑メンテナンスフリーを実現させることができた。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,従来のメンテナンスフリー構造を採用できないボールタイプのミニアチュアタイプに特に適しており,スライダの摺動方向両端のエンドキャップを構成するスペーサに形成された方向転換路の壁面を,潤滑剤含浸の多孔質成形体で直接的に構成し,ボールが方向転換路内を転走する際に,ボールを方向転換路でスムーズに転走させてボールに確実に給油を行って,転動体へ潤滑剤を長期間にわたって供給して潤滑のメンテナンスフリーを実現することができる直動転がり案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,長手方向両側面に沿って第1軌道溝がそれぞれ形成された軌道レール及び前記軌道レールに跨架して長手方向に摺動自在なスライダを有し,前記スライダは,前記第1軌道溝に対向して第2軌道溝がそれぞれ形成され且つ前記第2軌道溝と前記第1軌道溝との間に形成される一対の軌道路に沿って延びるリターン路がそれぞれ形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを円弧に延びて連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路で構成される循環路を転走する複数の転動体でなるボールを有することから成る直動転がり案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップは,前記方向転換路の外周部を形成するエンドキャップ本体,及び前記エンドキャップ本体の前記ケーシング側に開口した凹部に嵌合して前記方向転換路の内周部を形成し且つ潤滑剤を含浸した多孔質成形体から形成されたスペーサから構成されており,前記ボールが前記スペーサの前記方向転換路の前記内周部の壁面に接して転走する時に,前記多孔質成形体に含浸された前記潤滑剤が前記ボールに給油されることを特徴とする直動転がり案内ユニットに関する。
【0011】
また,前記スペーサは,前記エンドキャップ本体の前記凹部に嵌合して前記エンドキャップ本体の厚さの範囲内に収まる貯留部を構成する本体部,前記本体部の両側部に一体構造にそれぞれ形成されて連係部を構成する袖部,及び前記連係部に一体的に形成されて前記方向転換路の前記内周部の前記壁面を形成する導出部から構成されている。更に,前記スペーサの前記本体部は,実質的に直方体に形成されて前記スペーサの前記袖部よりもスライダ移動方向に前記袖部と比較して3倍以上の厚みに形成されて前記エンドキャップ本体側に突出して前記凹部に嵌入している。
【0012】
また,前記スペーサの前記本体部と前記袖部との接続部分の外側形状は,円弧状に凹んだ取付け用凹溝に形成されており,前記取付け用凹溝には,前記エンドキャップと前記エンドキャップの端面に配設された端面押え板を前記ケーシングに固定する連結部材が位置している。更に,前記スペーサの前記袖部に形成された前記方向転換路の前記内周部の前記壁面の両端は,円弧状の凹形状に形成されて前記リターン路と前記第2軌道溝とにそれぞれ連通している。
【0013】
また,前記スペーサの前記袖部端部に形成された平面部には,前記エンドキャップ本体の袖部端部の内側に形成された凸部が嵌合する位置決め用の切欠き部が形成されている。更に,前記スペーサを構成する前記多孔質成形体の少なくとも前記エンドキャップ本体側の正面には,スライダ摺動方向に突出する複数の凸部が形成されており,前記凸部は前記スペーサが前記エンドキャップ本体の前記凹部に嵌合して前記ケーシングに固定されることによって変形し,前記エンドキャップ本体に対する前記多孔質成形体の浮き上がりやがたつきを防止する。また,前記エンドキャップ本体の前記凹部に配置された前記スペーサの前記多孔質成形体は,前記軌道レールの少なくとも上面と対向する部分で前記軌道レールに対して露出している。
【0014】
また,この直動転がり案内ユニットは,前記ボールの直径が1.0mm以下,断面略矩形形状の前記軌道レールの幅寸法が6mm以下,及び前記スライダと前記軌道レールとから成る総高さが4.5mm以下であるミニアチュアタイプに構成されている。
【0015】
また,前記スペーサを構成する前記多孔質成形体は,超高分子量の合成樹脂微粒子でポリエチレン又はポリプロピレンから構成されている。更に,前記スペーサを構成する前記多孔質成形体は,前記合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形されており,前記合成樹脂微粒子間が連通状態の多孔部に保形されており,前記多孔部には前記潤滑剤が含浸されている。
【発明の効果】
【0016】
この直動転がり案内ユニットは,上記のように構成したので,エンドキャップに形成された方向転換路の内周部を形成するスペーサの壁面を,潤滑剤含浸の多孔質成形体で直接的に構成することになり,部品点数を低減してエンドキャップの構造を簡素化できる。また,スペーサが潤滑剤含有の多孔質成形体で形成されているので,ボールが方向転換路を転走するときに,ボールには方向転換路の内周側壁面の任意の位置から潤滑剤が供給され,別途の潤滑部材を設ける必要がなく部品点数を増やすことなく潤滑メンテナンスフリーを実現できる。また,エンドキャップの方向転換路では,ボールは転走方向が軌道路やリターン路の直線路から方向転換路の円弧路に変化することで慣性力による遠心力が作用する。方向転換路を転走するボールに発生する遠心力及びボールの進行方向の推力による方向転換路の壁面への衝撃力は,方向転換路の形状上では,エンドキャップ本体の方向転換路の外周部側には負荷されるが,スペーサの内周部側にはほとんど負荷されることがない。それ故に,スペーサを潤滑剤が含浸した多孔質成形体で作製しても,スペーサには損傷がほとんど発生せず,強度上の問題がなく,また,スペーサには他部品を貫通させる孔が無く,スペーサの部品強度が低下する要因が少なく,強度上の問題がなく,耐久性を維持することができる。
【0017】
また,スペーサは,エンドキャップ本体の凹部に嵌合される本体部が袖部の3倍以上の厚みに形成されて体積が大きいので,本体部で構成された貯留部には多量の潤滑剤を含浸保持できる。スペーサの袖部の端部には,方向転換路の内周部壁面の傍に位置決め用の切り欠き部があるので,エンドキャップ本体の位置決め用凸部と凹凸嵌合することで,スペーサ袖部の内周部壁面の位置が正確に位置決めされて,方向転換路が正確に形成される。更に,方向転換路内を転走するボールは,正確に案内されてスムーズに転走して,内周部壁面に接触して常時適量の潤滑剤が供給され潤滑メンテナンスフリーを実現できる。また,この直動転がり案内ユニットは,ボールを方向転換路内でスムーズに転走させて,ボールに給油できるので,ケーシング断面に寸法の余裕がないミニアチュアタイプの直動転がり案内ユニットに特に対応でき,長期にわたって潤滑メンテナンスフリーを可能にしたものであり,従来構造のように潤滑部品を追加するためにリターン路の孔径を拡大させる必要が無いので,外部からの負荷に対するスライダの剛性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明による直動転がり案内ユニットの一実施例を示す一部破断の斜視図である。
【図2】図1の直動転がり案内ユニットを示す分解斜視図である。
【図3】図1の直動転がり案内ユニットにおけるエンドキャップを構成するスペーサを示す斜視図である。
【図4】図3のスペーサであって,エンドキャップ本体側から見たスペーサを示す正面図である。
【図5】図4のスペーサを示す側面図である。
【図6】図1 の直動転がり案内ユニットにおけるエンドキャップを構成するエンドキャップ本体を示す斜視図である。
【図7】図6のエンドキャップ本体であって,ケーシング側から見たエンドキャップ本体を示す正面図である。
【図8】図7のエンドキャップ本体のA−A位置における断面図である。
【図9】図7のエンドキャップ本体のB−B位置における断面図である。
【図10】図7のエンドキャップ本体のC−C位置における断面図である。
【図11】図1の直動転がり案内ユニットを示す側面図である。
【図12】図11の直動転がり案内ユニットのD−D位置における断面図である。
【図13】図11直動転がり案内ユニットのE−E位置における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,図面を参照して,この発明による直動転がり案内ユニットの実施例を説明する。この発明による直動転がり案内ユニットは,概して,ベース等に取り付けるための上面42から下面へ貫通する取付け用孔18や長手方向の両側面25に沿って軌道溝11(第1軌道溝)がそれぞれ形成された軌道レール1,及び軌道溝11に対向して形成された軌道溝12(第2軌道溝)を備えて軌道レール1の長手方向に転動体を介して相対的に摺動自在なスライダ2を有している。この直動転がり案内ユニットは,転動体がボール10であって,軌道レール1とスライダ2とに形成された軌道溝11,12は二条列に形成されている。スライダ1は,主として,軌道溝12(第2軌道溝)と軌道溝11と軌道溝12との間に形成される一対の軌道路17に沿って延びる一対のリターン路20が形成されると共に各種の機器,ワーク,取付体等の物体を取り付けるための取付け用ねじ孔19が形成されたケーシング3,ケーシング3の両端面21にそれぞれ取り付けられ且つ軌道路17とリターン路20とを円弧形状に延びて連通する方向転換路15が形成されたエンドキャップ4,並びに軌道路17,リターン路20及び一対の方向転換路15で構成される循環路40を転走する複数のボール10でなる転動体を有している(図1参照)。
【0020】
この直動転がり案内ユニットでは,ケーシング3は,軌道レール1の上面42側に位置する本体部13,及び本体部13の幅方向両側から軌道レール1の側面25に沿ってそれぞれ垂下して軌道レール1に跨架する一対の袖部14から構成されている。ケーシング3の袖部14には,長手方向に沿った軌道溝12と貫通孔であるリターン路20とがそれぞれ形成されている。また,エンドキャップ4は,ケーシング3側に方向転換路15の外周部28が形成され且つケーシング3側に開口した凹部16が形成されたエンドキャップ本体5(図6参照),及び反ケーシング3側に方向転換路15の内周部29が形成され且つエンドキャップ本体5に形成された凹部16に嵌合配置されたスペーサ6から構成されている(図3参照)。また,エンドキャップ4は,エンドキャップ本体5に形成された凸部33(図7参照)がスペーサ6に形成された切欠き部27(図4参照)に嵌合して組み立てられ,それによって,方向転換路15は,その外周部28と内周部29とが対向して整合することによって形成されている(図13参照)。
【0021】
この直動転がり案内ユニットでは,エンドキャップ本体5の反ケーシング側端面34には,取付け用孔37が形成された板状の端面押え板8が配置されている。スライダ端部の端面押え板8を固定ねじ9で締め込むことで,端面押え板8に押されてエンドキャップ本体5の凹部16にスペーサ6が押し付けられて嵌入固定される。スライダ2は,固定ねじ9が端面押え板8に形成された取付け用孔37,エンドキャップ本体5に形成された取付け用孔22,及びスペーサ6に形成された円弧状に凹んだ取付け用凹溝41に挿通されてケーシング3に形成された取付け用ねじ孔23に螺入して,ケーシング3にスペーサ6,エンドキャップ本体5,及び端面押え板8が固定されて組み立てられている。
【0022】
また,エンドキャップ本体5は,ケーシング3の本体部13に対向配置され且つスペーサ6を嵌合する凹部16が形成された本体部35,及び本体部35の幅方向両端から垂下して且つケーシング3の袖部14に対向する袖部36から構成されている。エンドキャップ本体5の両袖部36には,ボール10の循環路40を構成する方向転換路15の外周側である外周部28の壁面が形成されている。方向転換路15の外周部28の壁面は,軌道路17とリターン路20を繋ぐ円弧形状の通路であり,方向転換路15のボール転走方向に直角な平面における断面形状がボール10の直径寸法よりも大きな直径寸法であって実質的に円弧状の凹形状44に形成されている。また,スペーサ6は,エンドキャップ本体5の本体部35に対向配置された本体部38,及び本体部38の幅方向両端から垂下して且つエンドキャップ本体5の袖部36に対向配置される袖部39から構成されている。スペーサ6の袖部39には,方向転換路15の内周側である内周部29の壁面が形成されている。方向転換路15の内周部29の壁面は,軌道路17とリターン路20を繋ぐ円弧形状の通路であり,方向転換路15のボール転走方向に直角な平面における断面形状がボール10の直径寸法よりも大きな直径寸法であって実質的に半円形に形成されている。即ち,スペーサ6の袖部39に形成された方向転換路15の内周部29の壁面の両端は,円弧状の凹形状44に形成されて(図4参照),ケーシング3のリターン路20と軌道溝12とにそれぞれ連通している。
【0023】
特に,図3〜図10 を参照して,この直動転がり案内ユニットについての特徴となる構成について説明する。この直動転がり案内ユニットは,特に,スペーサ6が潤滑剤を含浸した多孔質成形体7から全体的に形成されており,ボール10がスペーサ6の方向転換路15の内周部29の壁面に接して転走する時に,多孔質成形体7に含浸された潤滑剤がボール10に給油されることを特徴としている。また,スペーサ6は,エンドキャップ本体5の凹部16に嵌合してエンドキャップ本体5の厚さの範囲内,可及的に大きく形成されたスペースに収まる貯留部31を構成する本体部38,本体部38の幅方向の両側部に一体構造にそれぞれ形成されて連係部32を構成する袖部39,及び連係部32に一体的に形成されて方向転換路15の内周部29の壁面を形成する導出部30から構成されている。更に,スペーサ6の本体部38は,実質的に直方体に形成されてスペーサ6の袖部39よりもスライダ移動方向に袖部39と比較して3倍以上の厚みに形成され(図5参照)且つエンドキャップ本体5側に突出して凹部16に嵌入している。言い換えれば,エンドキャップ本体5に形成された凹部16は,スペーサ6の本体部38を嵌合するサイズに大きく凹んで形成されている。また,この直動転がり案内ユニットは,従来構造のスリーブタイプの多孔質成形体とは異なり,エンドキャップ本体5の凹部16に組み込まれるスペーサ6を形成する潤滑剤含浸の多孔質成形体7であり,スライダ摺動方向に多孔質成形体7の寸法を延長して体積を大きくすることが可能な構造であり,多孔質成形体7を大きく構成できれば,それに保持される潤滑剤の含浸量を増加させることができ,その結果,ボール10に対する長期間の潤滑メンテナンスフリーを実現させることができる。具体的には,スペーサ6を構成する本体部38の貯留部31は,多量の潤滑剤を貯留可能な一種のブロック構造であり,貯留部31は,袖部39の連係部32の3倍の厚さに形成された本体部38であり(図5参照),導出部30は連係部32の方向転換路15の内周部29の壁面であって含浸した潤滑剤を導出する機能を有している。この直動転がり案内ユニットは,ボール10が方向転換路15の内周部29の壁面の任意の位置に接触或いは押圧接触する時に,多孔質成形体7の貯留部31の潤滑剤がポンプ作用で連係部32次いで導出部30を通じて方向転換路15の内周部29へと導出される。
【0024】
更に,この直動転がり案内ユニットにおいて,エンドキャップ本体5の凹部16に配置されたスペーサ6を構成する多孔質成形体7は,軌道レール1の少なくとも上面42と対向する部分で軌道レール1に対して露出している(図1参照)。また,スペーサ6の本体部38と袖部39との接続部分の外側形状は,円弧状に凹んだ取付け用凹溝41に形成されており,取付け用凹溝41には,エンドキャップ4とその端面34に配設された端面押え板8を,ケーシング3に固定する連結部材である固定ねじ9が位置している。更に,スペーサ6の袖部39に形成された方向転換路15の内周部29の壁面の両端は,円弧状の切り欠き形状に形成されている。また,スペーサ6の袖部39の端部に形成された平面部43には,エンドキャップ本体5の袖部36の端部の内側に形成された凸部33が嵌合する位置決め用の切欠き部27が形成されている(図4参照)。従って,スペーサ6の切欠き部27が,エンドキャップ本体5の位置決め用凸部33(図7参照)と凹凸嵌合することで,スペーサ袖部の内周部29の壁面位置とエンドキャップ本体5の外周部28の壁面位置とが正確に位置決めされて,方向転換路15が段差なく正確に形成される。
【0025】
また,スペーサ6を構成する多孔質成形体7の少なくともエンドキャップ本体5側の正面には,スライダ摺動方向に突出する複数の凸部26が形成されている(図3参照)。多孔質成形体7に形成された凸部26は,具体的には,貯留部31の連係部32寄りの位置と,連係部32の方向転換路15の内周部29の壁面の下側に左右対称の位置に形成され,合計で4箇所に形成されている。多孔質成形体7に形成された凸部26は,端面押え板8をエンドキャップ4を介在させて固定ねじ9でケーシング3に締め込むことによって,スペーサ6がエンドキャップ本体5の凹部16に嵌合して押圧されて変形され,それによって,エンドキャップ本体5に対する多孔質成形体7の浮き上がりやがたつきを防止する機能を果たす。凸部26は,エンドキャップ本体5側の面に対向して本体部38と袖部39に2個ずつそれぞれ形成されているが,これに限るものではなく,姿勢が安定的になるように適正に複数個設けることができる。
【0026】
また,この直動転がり案内ユニットは,主として,ボールの直径が1. 0mm以下であり,軌道レール1の幅寸法が5mm以下に構成しており,この実施例では,軌道レール1のレール幅が3mmであってボール10の直径の4倍未満に形成されており,軌道レール1のレール高さが2. 6mmに形成され,また,軌道レール1が幅広構造の場合は,軌道レール1の幅寸法が6mm以下であり,軌道レール1の高さが2. 8mm以下であり,スライダ2と軌道レール1とから成る総高さが4.5mm以下であるミニアチュアサイズであって,スライダ2に潤滑剤供給のための油孔やグリースニップルが設けられていない構造であり,潤滑メンテナンスフリーを実現できるように構成されている。即ち,この直動転がり案内ユニットは,ボール10のボール直径が1.0mm以下,断面略矩形形状の軌道レール1の幅寸法が6mm以下,及びスライダ2と軌道レール1とから成る総高さが4.5mm以下であるミニアチュアタイプに構成して好ましいものである。また,このミニアチュアサイズの直動転がり案内ユニットでは,ケーシング3の袖部14の幅はボール直径の3倍未満であり,ケーシング3の袖部14の高さはボール直径の2. 2倍未満に形成されている。
【0027】
また,この直動転がり案内ユニットでは,スペーサ6を構成する多孔質成形体7は,超高分子量の合成樹脂微粒子でポリエチレン又はポリプロピレンから構成されている。更に,スペーサ6を構成する多孔質成形体7は,合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形されており,合成樹脂微粒子間が連通状態即ちオープンポア状態の多孔部に保形されており,その多孔部には,潤滑剤が含浸されている。従って,スペーサ6の多孔質成形体7は,含浸された潤滑剤を適正に浸出させてボール10に給油して安定して長期にわたって良好に潤滑メンテナンスフリーを達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明による直動転がり案内ユニットは,半導体製造装置,精密機械,測定・検査装置,医療機器,各種ロボット,各種組立装置,搬送機械,工作機械,マイクロマシーン等の各種装置における摺動部に組み込んで利用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0029】
1 軌道レール
2 スライダ
3 ケーシング
4 エンドキャップ
5 エンドキャップ本体
6 スペーサ
7 多孔質成形体
8 端面押え板
9 固定ねじ
10 ボール
11 軌道溝(第1軌道溝)
12 軌道溝(第2軌道溝)
15 方向転換路
16 凹部
17 軌道路
20 リターン路
21,34 端面
25 側面
26,33 凸部
27 切欠き部
28 方向転換路の外周部
29 方向転換路の内周部
30 導出部
31 貯留部
32 連係部
35,38 本体部
36,39 袖部
40 循環路
41 円弧状に凹んだ取付け用凹溝
42 上面
43 平面部
44 凹形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向両側面に沿って第1軌道溝がそれぞれ形成された軌道レール及び前記軌道レールに跨架して長手方向に摺動自在なスライダを有し,前記スライダは,前記第1軌道溝に対向して第2軌道溝がそれぞれ形成され且つ前記第2軌道溝と前記第1軌道溝との間に形成される一対の軌道路に沿って延びるリターン路がそれぞれ形成されたケーシング,前記ケーシングの両端面にそれぞれ取り付けられ且つ前記軌道路と前記リターン路とを円弧に延びて連通する方向転換路が形成されたエンドキャップ,並びに前記軌道路,前記リターン路及び一対の前記方向転換路で構成される循環路を転走する複数の転動体でなるボールを有することから成る直動転がり案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップは,前記方向転換路の外周部を形成するエンドキャップ本体,及び前記エンドキャップ本体の前記ケーシング側に開口した凹部に嵌合して前記方向転換路の内周部を形成し且つ潤滑剤を含浸した多孔質成形体から形成されたスペーサから構成されており,前記ボールが前記スペーサの前記方向転換路の前記内周部の壁面に接して転走する時に,前記多孔質成形体に含浸された前記潤滑剤が前記ボールに給油されることを特徴とする直動転がり案内ユニット。
【請求項2】
前記スペーサは,前記エンドキャップ本体の前記凹部に嵌合して前記エンドキャップ本体の厚さの範囲内に収まる貯留部を構成する本体部,前記本体部の両側部に一体構造にそれぞれ形成されて連係部を構成する袖部,及び前記連係部に一体的に形成されて前記方向転換路の前記内周部の前記壁面を形成する導出部から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項3】
前記スペーサの前記本体部は,実質的に直方体に形成されて前記スペーサの前記袖部よりもスライダ移動方向に前記袖部と比較して3倍以上の厚みに形成されて前記エンドキャップ本体側に突出して前記凹部に嵌入していることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項4】
前記スペーサの前記本体部と前記袖部との接続部分の外側形状は,円弧状に凹んだ取付け用凹溝に形成されており,前記取付け用凹溝には,前記エンドキャップと前記エンドキャップの端面に配設された端面押え板を前記ケーシングに固定する連結部材が位置していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項5】
前記スペーサの前記袖部に形成された前記方向転換路の前記内周部の前記壁面の両端は,円弧状の凹形状に形成されて前記リターン路と前記第2軌道溝とにそれぞれ連通していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項6】
前記スペーサの前記袖部端部に形成された平面部には,前記エンドキャップ本体の袖部端部の内側に形成された凸部が嵌合する位置決め用の切欠き部が形成されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項7】
前記スペーサを構成する前記多孔質成形体の少なくとも前記エンドキャップ本体側の正面には,スライダ摺動方向に突出する複数の凸部が形成されており,前記凸部は前記スペーサが前記エンドキャップ本体の前記凹部に嵌合して前記ケーシングに固定されることによって変形し,前記エンドキャップ本体に対する前記多孔質成形体の浮き上がりやがたつきを防止することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項8】
前記エンドキャップ本体の前記凹部に配置された前記スペーサの前記多孔質成形体は,前記軌道レールの少なくとも上面と対向する部分で前記軌道レールに対して露出していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項9】
前記ボールの直径が1.0mm以下,断面略矩形形状の前記軌道レールの幅寸法が6mm以下,及び前記スライダと前記軌道レールとから成る総高さが4.5mm以下であるミニアチュアタイプに構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項10】
前記スペーサを構成する前記多孔質成形体は,超高分子量の合成樹脂微粒子でポリエチレン又はポリプロピレンから構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の直動転がり案内ユニット。
【請求項11】
前記スペーサを構成する前記多孔質成形体は,前記合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形されており,前記合成樹脂微粒子間が連通状態の多孔部に保形されており,前記多孔部には前記潤滑剤が含浸されていることを特徴とする請求項10に記載の直動転がり案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−108608(P2013−108608A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256238(P2011−256238)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】