説明

直接型燃料電池の膜電極接合体、システム及びシステム使用方法

【課題】直接型燃料電池システムにおいて、燃料の透過抑制による燃料の利用率向上を実現する。
【解決手段】本発明の直接メタノール型燃料電池用膜電極接合体10は、電解質層11と、電解質層11の一面に接合され空気が供給されるカソード極13と、触媒が担持されて電解質層11の他面に接合されメタノール水溶液が供給されるアノード極12とを有している。アノード極12は、触媒が担持された第1触媒層12aと、第1触媒層12aと電解質層11側で隣接し、磁気作用をもつ磁力体が担持された磁力層12bと、磁力層12bの電解質層11側にさらに隣接する第2触媒層12cとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接型燃料電池の膜電極接合体、システム及びシステムの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直接型燃料電池の一種である直接メタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)のシステムが特許文献1に開示されている。このDMFCシステムは、DMFC用膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備えている。この膜電極接合体は、電解質層と、この電解質層の一面に接合され空気が供給されるカソード極と、電解質層の他面に接合されメタノール水溶液が供給されるアノード極とを有している。カソード極及びアノード極には触媒作用を奏する白金(Pt)、白金−ルテニウム(Pt−Ru)等の触媒が担持されている。
【0003】
そして、この膜電極接合体を図示しないセパレータで挟むことにより最小発電単位である燃料電池のセルが構成され、このセルが多数積層されて燃料電池スタックが構成される。アノード極にはメタノール水溶液供給手段によってメタノールが水とともに供給され、カソード極には空気供給手段によって空気が供給されるようになっている。こうしてDMFCシステムが構成される。
【0004】
この膜電極接合体では、アノード極に担持された触媒がPtである場合、Ptが以下の化1〜5に示す反応によりメタノールから水素イオンを生じる。
【0005】
(化1)
Pt+CH3OH→Pt-CH2OH+H++e-
【0006】
(化2)
Pt-CH2OH→Pt-CHOH+H++e-
【0007】
(化3)
Pt-CHOH→Pt-COH+H++e-
【0008】
(化4)
Pt-COH→Pt-CO+H++e-
【0009】
(化5)
Pt-CO→Pt+CO2+2H++2e-
【0010】
こうして、アノード極における化6に示す反応により、燃料のメタノールから水素イオン、電子及び二酸化炭素が生成される。
【0011】
(化6)
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
【0012】
そして、水素イオンはプロトン(H3+)の形で電解質層内をカソード極に向かって移動する。また、電子は、DMFCシステムに接続された負荷を通り、カソード極に流れる。
【0013】
一方、カソード極においては、化7に示す反応により、空気中に含まれる酸素と水素イオンと電子とから水が生成される。
【0014】
(化7)
3/2O2+6H++6e-→3H2
【0015】
このような反応が連続して起こることにより、DMFCシステムは起電力を連続して発生することができる。また、このDMFCシステムは、燃料を水素とする固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)のシステムと、メタノールを燃料としつつ、予めメタノールを改質して水素に変換してPEFCに供給する改質型PEFCのシステムとは異なり、燃料の取り扱いが容易であるとともに、改質器を不要として全体の小型化及び軽量化を実現可能であるという長所を有している。
【0016】
【特許文献1】特開2003−346836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、従来のDMFCシステムでは、アノード極の触媒上で反応しなかったメタノールが電解質層を透過してカソード極に至り(クロスオーバー現象)、メタノールが空気中に捨てられてしまうため、燃料の消費量が多くなるという問題がある。
【0018】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、直接型燃料電池システムにおいて、燃料の透過抑制による燃料の利用率向上を実現することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の直接型燃料電池用膜電極接合体は、電解質層と、該電解質層の一面に接合され空気が供給されるカソード極と、触媒が担持されて該電解質層の他面に接合され燃料水溶液が供給されるアノード極とを有する直接型燃料電池用膜電極接合体において、
前記アノード極には、磁気作用をもつ磁力体が担持されていることを特徴とする。
【0020】
発明者の知見によれば、本発明の膜電極接合体の作用効果は以下のとおりである。すなわち、この膜電極接合体では、未反応の燃料は、アノード極に担持された磁力体の磁気作用により、反磁性体として、大きな排斥力を受ける。このため、未反応の燃料は、アノード極の触媒によって上記化1〜5に示すような反応をより確実に生じ、水素イオン、電子等により確実に分解される。換言すれば、未反応の燃料のクロスオーバー現象が抑制される。
【0021】
したがって、本発明の膜電極接合体によれば、直接型燃料電池システムにおいて、燃料の透過抑制による燃料の利用率向上を実現することができる。
【0022】
本発明に係る直接型燃料電池は、燃料として、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いる直接アルコール型燃料電池の他、ジメチルエーテル(DME)を燃料に用いる直接ジメチルエーテル型燃料電池等であり得る。
【0023】
本発明の膜電極接合体は、電解質層、カソード極及びアノード極を有する。電解質としては、ナフィオン(登録商標)等のイオン交換樹脂を採用することができる。カソード極は、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の導電性のある基材と、この基材に固定した少なくとも触媒及び電解質とからなり得る。基材は撥水性及びガス透過性を有するものであり得る。撥水性を有するものとするためには、カーボンクロス等の基材に撥水材を塗布しておくことができる。アノード極は、基材と、この基材に固定した少なくとも触媒及び電解質とからなり得る。
【0024】
磁力体は磁気作用をもつものである。この磁力体としては、白金−鉄(Pt−Fe)、白金−コバルト(Pt−Co)、白金−鉄−ロジウム(Pt−Fe−Lo)が好適であり、さらには表面が被覆されたネオジウム−鉄−ホウ素磁石、サマリウム−コバルト磁石、フェライト磁石等の永久磁石を採用することができる。さらに、磁力体は、磁性体からなる電極用磁性担体であってもよく、この電極用磁性担体を導電性磁性体で被覆した後で先述した永久磁石をその外周面に担持したものであってもよい。電極用磁性担体としては、鉄、コバルト、ニッケル、鉄−コバルト合金、鉄−ニッケル合金、アルニコ等、一元系金属又は二元系以上の多元系合金を採用することができる。また、導電性磁性体としては、カーボン等を採用することができる。
【0025】
アノード極に磁力体を担持した膜電極接合体は以下のように製造され得る。まず、導電性磁性体、磁力体等を用意する。そして、導電性磁性体と磁力体と電解質溶液とを混合してペーストを作製し、このペーストを基材に塗布した後、乾燥させてアノード極を形成する。また、基材に少なくとも触媒及び電解質溶液を混合したペーストを塗布した後、乾燥させてカソード極を製造する。得られたカソード極、アノード極及び電解質層を接合する。こうして膜電極接合体を得る。
【0026】
また、上記のように、アノード極を構成した後、カソード極、アノード極及び電解質層を接合し、膜電極接合体を得る。そして、この膜電極接合体を磁場におくことにより、磁力体を磁化し、膜電極接合体を得ることもできる。
【0027】
本発明の膜電極接合体では、アノード極は、触媒が担持された触媒層と、触媒層と電解質層側で隣接し、磁力体が担持された磁力層とをもつことが好ましい。この場合、未反応の燃料は、磁力層に担持された磁力体の磁気作用により、反磁性体として、大きな排斥力を受け、触媒層に戻される。このため、未反応の燃料は、触媒層の触媒によって上記化1〜5に示すような反応をより確実に生じ、水素イオン、電子等により確実に分解される。この場合、アノード極は触媒層及び磁力層の2層構造等であることができる。
【0028】
また、本発明の膜電極接合体では、アノード極が触媒層と磁力層とをもつ場合、さらにそのアノード極は磁力層の電解質層側に隣接する第2の触媒層をもつことがより好ましい。この場合、未反応の燃料が非電解質層側の第1の触媒層に戻されずに磁力層を通り抜けたとしても、その未反応の燃料は、電解質層側の第2の触媒層によって上記化1〜5に示すような反応をより確実に生じ、水素イオン、電子等により確実に分解される。この場合、アノード極は、第1触媒層、磁力層及び第2触媒層の3層構造であってもよく、第1触媒層、第1磁力層、第2触媒層及び第2磁力層の4層構造、第1触媒層、第1磁力層、第2触媒層、第2磁力層及び第3触媒層の5層構造等であることができる。
【0029】
磁力体は、電解質層側で強い磁気力を奏するように構成されていることもできる。この場合、未反応の燃料がより電解質側に近づき難く、本発明の作用効果をより生じ易くなる。
【0030】
本発明の膜電極接合体を燃料水溶液供給手段、空気供給手段等とともに組み付けることにより、本発明の直接型燃料電池システムとなる。
【0031】
すなわち、本発明の直接型燃料電池システムは、上記膜電極接合体と、前記アノード極に燃料水溶液を供給する燃料水溶液供給手段と、前記カソード極に空気を供給する空気供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0032】
燃料水溶液供給手段はアノード極に燃料を水とともに供給するものである。燃料カートリッジ、セパレータの燃料水溶液室等を燃料水溶液供給手段とすることができる。空気供給手段は、カソード極に空気を供給するものである。ブロア、セパレータの空気室等を空気供給手段とすることができる。
【0033】
また、本発明の直接型燃料電池システムの使用方法は、電解質層と、該電解質層の一面に接合され空気が供給されるカソード極と、該電解質層の他面に接合され燃料水溶液が供給されるアノード極とを有する膜電極接合体と、
該アノード極に該燃料水溶液を供給する燃料水溶液供給手段と、
該カソード極に空気を供給する空気供給手段とを備えた直接型燃料電池システムの使用方法であって、
前記アノード極に磁気作用をもつ磁力体を担持することにより、反磁性の燃料が前記電解質層に移動することを該磁力体によって防止することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例では、直接アルコール型燃料電池として、燃料としてのアルコールにメタノールを用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC)のシステムを形成した。
【0035】
このDMFCシステムでは、図1に示す複数のセル1が用いられている。各セル1は膜電極接合体(MEA)10と一対のセパレータ20とを備えている。
【0036】
膜電極接合体10は、ナフィオン117のイオン交換膜からなる電解質層11と、この電解質層11の一面に一体に接合されたアノード極12と、電解質層11の他面に一体に接合されたカソード極13とを有している。
【0037】
各セパレータ20は、一面側にアノード極12にメタノール水溶液を供給するためのメタノール水溶液室21が形成され、他面側にカソード極13に空気を供給するための空気室22が形成されたものである。
【0038】
各セル1は、アノード極12側にメタノール水溶液室21が対面し、カソード極13側に空気室22が対面するように膜電極接合体10と一対のセパレータ20とが積層されたものである。そして、膜電極接合体10とセパレータ20とを順次積層することによりスタックが構成される。また、アノード極12側とカソード極13側とで共通する上記セパレータ20を採用している。なお、スタックの両端のセパレータ20にはメタノール水溶液室21又は空気室22だけが形成されている。
【0039】
スタックには、各セル1のメタノール水溶液室21に図示しないバルブを介して連通するメタノールカートリッジ2と、各セル1の空気室22に連通するブロア3とが接続されている。メタノールカートリッジ2及びセパレータ20のメタノール水溶液室21がアノード極12にメタノールを供給するメタノール水溶液供給手段である。また、ブロア3及びセパレータ20の空気室22がカソード極13に空気を供給する空気供給手段である。
【0040】
実施例のDMFCシステムの特徴的な構成として、アノード極12は、図2に示すように、Pt−Ru合金からなる触媒が担持された第1触媒層12aと、第1触媒層12aと電解質層11側で隣接し、磁力体が担持された磁力層12bと、磁力層12bの電解質層11側にさらに隣接する第2触媒層12cとからなる。
【0041】
磁力体は、平均粒径が50nm、Pt/Fe=50/50(at%)のPt−Fe合金を熱処理し、水で急冷したfct構造を主相とするPt−Fe合金である。
【0042】
(評価1)
このDMFCシステムにおいて、アノード極12近傍における室温での磁気力をシミュレーションする。磁気力はF=X/2μ0×∇(B)2によって計算される。μ0は4π×10-7(H/m)、Xは体積磁化率(メタノールは−0.528×10-6)である。このため、メタノールのX/2μ0は−2.10である。結果を図3に示す。
【0043】
図3より、この膜電極接合体10のアノード極12には、メタノールを磁力層12bから排除する磁気力が作用していることがわかる。反磁性体であるメタノールが磁力層12bから受ける反発力は、磁力体と磁力体との中間の最も弱い位置であっても、メタノール1m3が重力から受ける約8000Nに対して10倍以上の105N/m3の磁気的な排斥力であり、メタノールが電解質層11へ侵入することを防止する。
【0044】
すなわち、この膜電極接合体10では、図2にも示すように、メタノール(MeOH)は、第1触媒層12aの触媒によって上記化1〜5に示すような反応を確実に生じ、二酸化炭素、水素イオン及び電子を生じる。しかし、第1触媒層12aに未反応のメタノールが残存する場合もある。この未反応のメタノールは、磁力層12bに担持された磁力体の磁気作用により、反磁性体として、大きな排斥力を受け、第1触媒層12aに戻される。このため、未反応のメタノールは、第1触媒層12aの触媒によって二酸化炭素、水素イオン及び電子により確実に分解される。そして、未反応のメタノールが第1触媒層12aに戻されずに磁力層12bを通り抜けたとしても、その未反応のメタノールは、第2触媒層12cの触媒によってさらに二酸化炭素、水素イオン及び電子に確実に分解される。
こうして、この膜電極接合体10では、未反応のメタノールのクロスオーバー現象が抑制される。
【0045】
したがって、この膜電極接合体10によれば、DMFCシステムにおいて、メタノールの透過抑制によるメタノールの利用率向上を実現することができる。
【0046】
(評価2)
アノード極12に磁力層12bを形成した実施例の膜電極接合体10と、アノード極12に磁力層12bを形成しない比較例の膜電極接合体10とを用意する。これら実施例及び比較例の膜電極接合体10の他の構成は上記の膜電極接合体10と同様である。
【0047】
実施例及び比較例の膜電極接合体10について、室温におけるメタノールの濃度(Mol)とメタノールの透過レイト(mMol/cm2・h)との関係を求めた。電流密度を0mA/cm2とした場合の結果を図4に示す。
【0048】
図4より、実施例の膜電極接合体10は、比較例の膜電極接合体と比べ、メタノールの濃度が高くなっても、磁気力によってメタノールの透過量を抑えていることがわかる。
【0049】
(評価3)
実施例及び比較例の膜電極接合体10について、室温におけるメタノールの濃度(Mol)と燃料利用率(%)との関係を求めた。電流密度は100mA/cm2である。結果を図5に示す。
【0050】
図5より、実施例の膜電極接合体10の方が比較例の膜電極接合体10より燃料利用率が優れていることがわかる。
【0051】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は電気自動車等の移動用電源、あるいは据え置き用電源や可搬型電源に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例のDMFCシステムに係り、セルの要部模式断面図である。
【図2】実施例の膜電極接合体の要部拡大模式図である。
【図3】アノード極近傍の磁気力を示すグラフである。
【図4】実施例及び比較例の膜電極接合体において、メタノールの濃度とメタノールの透過レイトとの関係を示すグラフである。
【図5】実施例及び比較例の膜電極接合体において、メタノールの濃度と燃料利用率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
11…電解質層
13…カソード極
12…アノード極
10…膜電極接合体
12a…第1触媒層
12b…磁力層
12c…第2触媒層
2、21…メタノール水溶液供給手段(2…メタノールカートリッジ、21…メタノール水溶液室)
3、22…空気供給手段(3…ブロア、21…空気室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、該電解質層の一面に接合され空気が供給されるカソード極と、触媒が担持されて該電解質層の他面に接合され燃料水溶液が供給されるアノード極とを有する直接型燃料電池用膜電極接合体において、
前記アノード極には、磁気作用をもつ磁力体が担持されていることを特徴とする直接型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記アノード極は、前記触媒が担持された触媒層と、該触媒層と前記電解質層側で隣接し、前記磁力体が担持された磁力層とをもつことを特徴とする請求項1記載の直接型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
さらに前記アノード極は、前記磁力層の前記電解質層側に隣接する第2の前記触媒層をもつことを特徴とする請求項2記載の直接型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の膜電極接合体と、前記アノード極に前記燃料水溶液を供給する燃料水溶液供給手段と、前記カソード極に空気を供給する空気供給手段とを備えたことを特徴とする直接型燃料電池システム。
【請求項5】
電解質層と、該電解質層の一面に接合され空気が供給されるカソード極と、該電解質層の他面に接合され燃料水溶液が供給されるアノード極とを有する膜電極接合体と、
該アノード極に該燃料水溶液を供給する燃料水溶液供給手段と、
該カソード極に空気を供給する空気供給手段とを備えた直接型燃料電池システムの使用方法であって、
前記アノード極に磁気作用をもつ磁力体を担持することにより、反磁性の燃料が前記電解質層に移動することを該磁力体によって防止することを特徴とする直接型燃料電池システムの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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