説明

直流電力ケーブル

【課題】 通電時の加温状態に際しても良好な絶縁破壊特性を有する、絶縁体層として非架橋樹脂体を用いた直流電力ケーブルを提供する。
【解決手段】 直流電力ケーブルの絶縁体層を密度0.920〜0.940g/cm3 、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが3以下である、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体をベース樹脂とする樹脂組成物の非架橋体で形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は直流電力ケーブルに関し、特にその絶縁体層が非架橋体により形成されている直流電力ケーブルに関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチック絶縁電力ケーブルの中でも絶縁体層が架橋ポリエチレンからなる架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(CVケーブル)は電気的特性、耐熱性に優れ、軽くて取り扱いが容易で、メンテナンスが容易であるという種々の利点から、送電用ケーブルの主流を占めている。この架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルの絶縁体層は、一般にポリエチレンに架橋剤、酸化防止剤等を添加した架橋性樹脂組成物を導体上に押出被覆した後、加圧下で加熱することによって、架橋剤を熱分解させて樹脂組成物を架橋して形成される。
【0003】近年、この架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルを高電圧直流ケーブルに適用することが試みられているが、架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルに直流を課電すると、絶縁体層中に空間電荷が形成されて、局所的に高電界領域が形成されるために破壊電圧が著しく低下するなどの問題がある。この空間電荷形成の要因のひとつとして、架橋処理時に絶縁体層内に発生する架橋分解残渣の存在がある。架橋分解残渣はポリエチレンに比べて体積固有抵抗が低いので、架橋分解残渣が絶縁体層中に存在することによって絶縁体層内の体積抵抗が場所によって異なってくる。体積抵抗が高い部分では電荷移動度が小さくなるので電荷が蓄積しやすくなり、その結果空間電荷が発生すると考えられている。
【0004】また、押出機内で溶融混練された樹脂組成物は異物が混入しないようにメッシュを通して導体上に押出被覆されるが、絶縁体層に架橋ポリエチレンを用いた場合、架橋剤が押出機内で徐々に樹脂と反応してスコーチ(焼け)が生じ、メッシュを詰まらせてケーブルの製造に支障をきたすため、連続押出時間が短くなって長尺のケーブルが製造できないという問題もあった。
【0005】これらの絶縁体層に樹脂の架橋体を用いることによって生じる問題を回避するために、非架橋の樹脂を絶縁体層とする直流電力ケーブルが提案されている。例えば、絶縁体層として高圧法低密度ポリエチレンに酸化防止剤を添加した樹脂組成物の非架橋体を用いた直流電力ケーブル(特開平2−98014号公報)などである。ところが、直流電力ケーブルにはケーブル運転時に90℃に達する発熱に耐える性能が要求されるが、上述の直流電力ケーブルでは高温での絶縁破壊特性が不十分であるという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、通電時の加温状態に際しても良好な絶縁破壊特性を有する、絶縁体層として非架橋樹脂体を用いた直流電力ケーブルを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明においては、密度0.920〜0.940g/cm3 、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが3以下である、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体をベース樹脂とする樹脂組成物の非架橋体を絶縁体層とする直流電力ケーブルが提供される。
【0008】また、上記の樹脂組成物には、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドが添加されているとよい。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の直流電力ケーブルにおける絶縁体層を形成する樹脂組成物は、密度0.920〜0.940g/cm3 、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが3以下である、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体をベース樹脂とする。このような物性を満たす、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体をベース樹脂に用いることで、非架橋であるにもかかわらず直流電力ケーブルに適用するのに十分な特性の絶縁体層を形成することができ、また架橋剤を用いないことから架橋剤の分解残渣が原因となって起こる破壊電圧の低下や、架橋剤が原因となって発生するスコーチ(焼け)による製造効率の低下という問題を免れることができる。
【0010】エチレンと共重合する不飽和炭化水素としては炭素数4、6、8など種々あるが、特に炭素数6の不飽和炭化水素を用いて得られる共重合体は、絶縁特性、特に直流破壊特性に優れているために好ましい。その理由は明らかではないが、電力ケーブルに直流高電圧が印可された時の絶縁体層中の空間電荷の蓄積挙動の差異によるものと思われる。炭素数6の不飽和炭化水素としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1ペンテン、2−メチル2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0011】ベース樹脂として用いられる炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは3以下であるものを用いる。重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnは分子量分布の指標となるものでMw/Mnが大きいほど分子量が広範囲に分布していることを示す。Mw/Mnが3を越えると分子量分布の増大に伴い増加する低分子量、高分子量成分のうち、融点の低い低分子量成分が高温での絶縁特性の低下を招くため好ましくない。このように比較的狭い分子量分布を有する樹脂は、メタロセン触媒を用いた気相法により製造することができる。
【0012】炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体はその密度が0.920〜0.940g/cm3 であるものを用いる。0.920g/cm3 未満となると絶縁特性が低下し、0.940g/cm3 を越えると可撓性が低下して、輸送用ドラムに巻き取る際に絶縁体層にクラックが生じるなどの問題が生じることがある。密度が0.920〜0.940g/cm3 の範囲であれば、直流電力ケーブルとして十分な絶縁特性を有し、ケーブルの長期の保管や輸送時の取り扱いにも優れたケーブルとなる。
【0013】一般に、絶縁体層を形成する樹脂成分の酸化劣化、熱分解、熱着色、過酷な条件下での重金属による接触劣化などを防止するために酸化防止剤を配合することが行われている。通常ケーブルに用いられる酸化防止剤は多数知られているが、本発明者らが種々の添加剤について検討した結果、本発明で用いるベース樹脂にはビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドを添加すると特に絶縁破壊特性を向上させることができることがわかった。また、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドは液体であり、ブリードアウトすることがないため長期間絶縁体層の酸化劣化を防止することができる。この酸化防止剤を主成分として含有する市販品としては、旭電化(株)製のアデカスタブAO−23などがある。
【0014】ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドの配合量は、樹脂成分100重量部に対して、0.05〜5重量部であることが好ましく、さらに0.1〜1重量部が好ましい。この配合量であれば熱老化特性も十分であり、絶縁体層の体積固有抵抗値も低下せず、ケーブルの電気特性が良好に維持される。酸化防止剤の配合量が0.05重量部未満であると絶縁体層の酸化劣化、熱分解、熱着色などの防止効果が十分ではなく、また、5重量部を越えると絶縁体層の体積固有抵抗が低下し、絶縁特性が低下するのでいずれも好ましくない。
【0015】本発明において絶縁体層を形成するための樹脂組成物には、特性を損なわない範囲で滑剤、充填剤、難燃剤、帯電防止剤、銅害防止剤、熱融着剤などの添加剤を必要に応じ配合してもよい。
【0016】
【実施例】本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
(実施例1〜3)(比較例1〜6)
断面積100mm2 の導体上に、カーボンブラックを添加したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる厚さ0.8mmの内部半導電層、表1に示す樹脂組成物からなる厚さ3.5mmの絶縁体層、さらにその上に内部半導電層と同材料からなる厚さ0.7mmの外部半導電層を、長さ100mにわたって同時押出被覆で形成した後、常法により金属遮蔽層およびシース層を被覆形成して、実施例1〜3および比較例1〜6の直流電力ケーブルを作成した。得られた直流電力ケーブルについて、下記の(1)〜(5)の測定、試験を行った。
【0017】(1)負極性直流破壊試験長さ8mの直流電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になるように通電しながら、スタート電圧を60kVとし、20kV/10分のステップアップで昇圧し、破壊試験を行った。
(2)インパルス破壊試験長さ8mの直流電力ケーブルを用意し、導体温度が90℃になるように通電しながら、スタート電圧を50kVとし、20kV/3回のステップアップで昇圧し、破壊試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0018】
【表1】


【0019】表1に示すように、実施例1〜3の直流電力ケーブルは、直流破壊、インパルス破壊のいずれの絶縁破壊強度も良好であるのに対して、比較例1〜6の直流電力ケーブルは、絶縁体層を形成する樹脂組成物のベース樹脂の密度やMw/Mnの比が不適当であったり、ベース樹脂のコモノマーである不飽和炭化水素の炭素数が不適当であったりしたために、直流破壊強度またはインパルス破壊強度の劣っている。また、実施例2の直流電力ケーブルには、絶縁体層に酸化防止剤としてビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドを添加しているため、添加しなかったケーブルに比べて直流破壊強度が優れたものとなっている。
【0020】
【発明の効果】本発明の直流電力ケーブルは、その絶縁体層を形成する樹脂組成物のベース樹脂が、密度0.920〜0.940g/cm3 、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが3以下である、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体であるため、非架橋であるにもかかわらず直流電力ケーブルに適用するのに十分な特性の絶縁体層を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 密度0.920〜0.940g/cm3 、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが3以下である、炭素数6の不飽和炭化水素とエチレンとの共重合体をベース樹脂とする樹脂組成物の非架橋体を絶縁体層とすることを特徴とする直流電力ケーブル。
【請求項2】 上記樹脂組成物に、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィドが添加されていることを特徴とする請求項1に記載の直流電力ケーブル。