説明

直流電動機用電刷子

【課題】小型の電刷子に対しても好適に採用可能であり、摩耗粉の除去専用の付帯装置を不要としつつも、電刷子の磨耗粉が保持器内に侵入した場合であっても、保持器内に浸入した磨耗粉による電刷子の固着を防止または抑制し得る直流電動機用電刷子を提供する。
【解決手段】この電刷子20は、保持器側に摺接する表面20fに、焼成時に一体形成された複数の凸球面22を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器と、この保持器内にスライド移動可能に保持される電刷子とを有する直流電動機に好適に用い得る直流電動機用電刷子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、直流電動機の電刷子の保持構造としては、例えば真鍮製でポケット状の保持器内に電刷子をスライド移動可能に装入し、この電刷子を上部より押付ける構造が採用されている。
この種の構造としては、図4に一例を示す保持器110のように、直方体状の電刷子120が、ポケット状の保持器本体18内に上下移動自在とされ、電刷子120の下端部120t(図4および5参照)が、不図示の整流子に摺接するようになっている。
【0003】
ところで、電刷子120は消耗部品であり、電刷子120の磨耗粉は、電刷子120が整流子6に摺動する下端部120tから発生する。そして、発生した磨耗粉は、電刷子120の下方から保持器本体18内面と電刷子120外面との間に侵入する。そのため、保持器110に浸入した磨耗粉によって電刷子120の上下移動が阻害されるおそれがある。
【0004】
そこで、電刷子の磨耗粉の保持器110内への侵入防止の方策として、図6に一例を示す電刷子121のように、電刷子121の側面に切削加工によって複数の凹面121uを設けることが行なわれている(同図の例では、一側面に対して斜めに3箇所の切削加工がなされている。)。また、他の方策として、例えば特許文献1には、保持器にその外部から圧縮気体を噴出させる通気孔を穿設して、この通気孔から電刷子に対向する部位に空気を吹き込むようにした直流電動機の清掃方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−29101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電刷子側に切削加工によって凹面をつける方策は、小型の電刷子に対しては切削加工が困難であり、その製造コストが高いものとなる。また、保持器にその外部から圧縮気体を噴出させる通気孔を穿設して、この通気孔から電刷子に対向する部位に空気を吹き込む清掃方法は、摩耗粉の除去専用の付帯装置を別途に用意して、これを付設しなければ実施できないので、やはり設備のコストやランニングコストが高くなる。よって、いずれの方策においても未だ検討の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、小型の電刷子に対しても好適に採用可能であり、摩耗粉の除去専用の付帯装置を不要としつつも、電刷子の磨耗粉が保持器内に侵入した場合であっても、保持器内に浸入した磨耗粉による電刷子の固着を防止または抑制し得る直流電動機用電刷子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、保持器と、該保持器内にスライド移動可能に保持される電刷子とを有する直流電動機に用いられる電刷子であって、当該電刷子は、保持器側に摺接する面に、焼成時に一体形成された複数の凸球面を有することを特徴とする。
ここで、前記複数の凸球面が、隣接する他の凸球面との並びの位置が千鳥状に斜めの位置に配列されていることは好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電刷子は、保持器側に摺接する面に、焼成時に一体形成された複数の凸球面(以下、「逆ディンプル形状」ともいう)を有するので、切削加工によらずに、電刷子の表面に凹凸形状を形成することができる。そのため、小型の電刷子に対してもその表面に凹凸形状を形成する上で好適である。そして、この「逆ディンプル形状」によれば、複数の凸球面の頂点と保持器内壁面との間で摺接がなされることになるので、凸球面周囲が凹部として機能する。これにより、摩耗粉の除去専用の付帯装置を設けなくても、摩耗粉を凸球面周囲の凹部から保持器外部に逃がすことができる。したがって、電刷子の磨耗粉が保持器内に侵入した場合であっても、保持器内に浸入した磨耗粉による電刷子の固着を防止または抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る電刷子を有する直流電動機の一実施形態を説明する斜視図であり、同図では一部を破断して示している。
【図2】本発明に係る電刷子を有する直流電動機の保持器部分の一実施形態を説明する斜視図である。
【図3】図2の電刷子を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図であり、同図(a)および(b)では保持器本体(破断した図)を併せて示している。
【図4】従来の電刷子を有する直流電動機の保持器部分の一例を説明する斜視図である。
【図5】従来の電刷子の第一の例を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図である。
【図6】従来の電刷子の第二の例を説明する図であり、同図(a)はその正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、この直流電動機1は、カバー7内に固定子2および回転子3を有する。回転子3は、シャフト4、電機子5および整流子6を有してなり、これらが一体的に回転するようにカバー7内に支持されている。そして、整流子6の外周面に対向して複数の保持器10が配置されている。
【0012】
各保持器10は、図2に示すように、電刷子20を内部にスライド移動可能に保持しており、その保持した電刷子20を対向する整流子6と摺動させている。そして、直流電動機1は、電刷子20を通して給電される直流電流を整流子6で受電することで、コイルを形成した電機子5に磁界を発生させ、その周囲に形成した固定子2側の磁石との作用によりシャフト4の回転力を得るようになっている。
【0013】
次に、上記保持器10について詳しく説明する。
この保持器10は、図2に示すように、ベース部12、本体部14、および押さえ腕16、並びに、ポケット状(平面視が矩形状の枠体)をなす真鍮製の保持器本体18を有する。ベース部12は、直流電動機1に保持器10全体を取り付けている。可撓性の板バネからなる押さえ腕16は、その基端部16aが取付ピン16bによって、本体部14に回動自在に取り付けられている。保持器本体18の内部には、電刷子20が収納されている。電刷子20は、直方体状をなすカーボン製の部材であり、保持器本体18の内面18nと摺接しており、保持器本体18内部において上下移動自在とされている。さらに、電刷子20は、押さえ腕16によって上記整流子6と下端部20tが摺接するように、図2の矢印Dの方向に付勢されている。
【0014】
より詳しくは、電刷子20は、押さえ腕16の先端部16cに取り付けられている。押さえ腕16は、支持ピン16dにより本体部14に回動自在に取り付けられた押さえバネ17によって、電刷子20を整流子6側に向け整流子6に摺接するように付勢している。なお、電刷子20には、電刷子20に接合されたケーブル21の先端に取り付けられたケーブル端子21aから給電される。
【0015】
ここで、この電刷子20は、図3に示すように、その直方体状の4つの側面である表面20fに、焼成時に一体形成された複数の凸球面22が形成されている。これら複数の凸球面22は、隣接する他の凸球面22との並びの位置が千鳥状に斜めの位置に配列されており、全体として、いわば「逆ディンプル形状」をなすように配置されている。なお、本実施形態の例では、各凸球面22の形状や隣接する他の凸球面22に対する離間寸法は全て同一であり、各凸球面22の高さは、保持器本体18との摺動に支障の無い範囲で可及的に高い寸法となっている。本実施形態の例では、凸球面22の高さは、0.5mm程度である。
【0016】
次に、上述した電刷子20の作用・効果について説明する。
この電刷子20は、保持器本体18内部において、上述のように上下移動自在とされており、下端部20tが整流子6に摺接するようになっている。ここで、この電刷子20は消耗部品であり、電刷子20の磨耗粉は、整流子6に摺動する、電刷子20の下端部20tから発生する。そして、発生した磨耗粉は、電刷子20の下方から保持器本体18内面18nと電刷子20外面との間に侵入し得る。そのため、磨耗粉が排除されなければ、電刷子20の上下移動が、保持器本体18に浸入した磨耗粉によって固着してしまうおそれがある。
【0017】
しかし、この電刷子20によれば、電刷子20の表面に、「逆ディンプル形状」様に配置され、焼成時に一体形成された複数の凸球面22を有しており、これら複数の凸球面22の頂点と保持器本体18内壁面との間で摺接がなされるので、凸球面22周囲が凹部として機能する。これにより、摩耗粉の除去専用の付帯装置を設けなくても、摩耗粉を凸球面22周囲の凹部から保持器本体18の外部に逃がすことができる。したがって、電刷子20の磨耗粉が保持器本体18内に侵入した場合であっても、保持器本体18内に浸入した磨耗粉による電刷子20の固着を防止または抑制することができる。
【0018】
そして、この複数の凸球面22は、焼成時に一体形成されたものなので、切削加工によらずに、電刷子20の表面に凹凸形状を形成することができる。そのため、電刷子20が小型のものであっても、その表面に凹凸形状を形成する上で好適である。
さらに、この電刷子20によれば、複数の凸球面22が、隣接する他の凸球面22との並びの位置が千鳥状に斜めの位置に配列されているので、例えば単に縦横に伸びる格子状の交点の位置に凸球面22を配置した場合と比べて、摩耗粉を掻き出す効果がより有利に生じる。そのため、浸入した磨耗粉による電刷子の固着を防止または抑制する上で好適であり、また、千鳥状に斜めの位置に配列されていることにより、保持器本体18側との摺接位置を均等配分して保持器本体18内壁面の局部的な摩耗を防止する上でも好適である。
【0019】
以上説明したように、この電刷子20によれば、小型の電刷子20に対してもその表面に凹凸形状を形成する上で好適であり、また、摩耗粉の除去目的の専用の付帯装置を不要としつつも、電刷子20の磨耗粉が保持器10内に侵入した場合であっても、保持器10内に浸入した磨耗粉による電刷子20の固着を防止または抑制することができる。
なお、本発明に係る直流電動機用電刷子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0020】
1 直流電動機
2 固定子
3 回転子
4 シャフト
5 電機子
6 整流子
10 保持器
12 ベース部
14 本体部
16 押さえ腕
17 押さえバネ
18 保持器本体
20 電刷子
21 ケーブル
22 凸球面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持器と、該保持器内にスライド移動可能に保持される電刷子とを有する直流電動機に用いられる電刷子であって、当該電刷子は、保持器側に摺接する面に、焼成時に一体形成された複数の凸球面を有することを特徴とする直流電動機用電刷子。
【請求項2】
前記複数の凸球面は、隣接する他の凸球面との並びの位置が千鳥状に斜めの位置に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の直流電動機用電刷子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−46530(P2013−46530A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184086(P2011−184086)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】