説明

直流電気車両、および直流電気車両の磁気シールド方法

【課題】 簡単、安価、かつ軽量の構造で、車両内部の静磁界を効果的に低減することができる、直流電気車両を提供する。
【解決手段】 本発明の直流電気車両1においては、直流電気車両1の車体11の底部に配設される底部磁気シールド板12と、この底部磁気シールド板12に接合され、車体11の両側部に配設される側部磁気シールド板13A,13Bとを備える。この側部磁気シールド板13A,13Bは、底部から窓枠下辺の下の位置まで配置される。また、所望の場合には、直流電気車両1の車体11の天井部に配設される天井部磁気シールド板14と、この天井部磁気シールド板14に接合され、車体11の両側部に配設される側部磁気シールド板13C,13Dとをさらに備える。この側部磁気シールド板13C,13Dは、車体11の天井部から、窓枠上辺より上の位置まで配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電気鉄道における直流電気車両の磁気シールド構造に関し、特に、架線やき電線およびレールを流れる電流による直流及び直流に近い低周波数磁界の遮蔽を行うことができる、直流電気車両、および直流電気車両の磁気シールド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルの磁気遮蔽に関する同種の技術はこれまでにもあった。このため直流電車のリアクトルの直上には、現在2cm程度の厚みの鉄板が敷設されている(非特許文献1を参照)。他方直流電気車両においては、このリアクトル直上部以外の場所では積極的な磁気遮蔽はなされていない。ただし、超電導磁気浮上式鉄道に応用した場合の磁界低減の検討例はある(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西田輝幸、「EMC問題への対応」、近畿車輛技報、第11号、2004年11月
【非特許文献2】Sasakawa, Tagawa,「Reduction of Magnetic Field in Vehicle of Superconductiong Maglev Train」, IEEE Transaction on Magnetics, Vol. 36, No. 5, pp.3676-3679, September 2000
【非特許文献3】持永他、「電気鉄道技術入門」、オーム社、2008年、p.98-107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
元々首都圏通勤線区に代表される日本の直流電気鉄道においては、高頻度大編成高出力の電車が運行されており、使用される電力および供給のための電流の大きさは他国に例を見ないものである。また各モータ出力も高速化・高加減速度化などのため大出力化される傾向にある一方、車内空調や空気清浄機などのための補機電力も増大化の傾向にある。
【0005】
さらに諸外国(特にEU:European Union諸国)と比較しての大きな違いはそのき電電圧であり、多くの諸外国で採用されているDC3,000VではなくDC1,500Vをき電電圧として使用している。そのため更に大きなき電電流がその駆動に必要となる。
【0006】
加えて昔の鉄道車両はある程度直流磁気遮蔽効果の期待できた鋼板(鋼板は強磁性体である)を車体構体材料として用いていたが、近年の直流電気鉄道車両は軽量化とメンテナンスフリー化のため、それら(直流磁界に対する磁気シールド効果)の期待できないステンレス製やアルミ製の車体に移行しつつある。
【0007】
他方首都圏を含めた都市部では、電車線の省メンテナンスを目指して「き電吊架式架線」が広がりつつある。
【0008】
図10は、架線システムの例を示す図である。首都圏における電車線路(電車に電気を供給する設備)は、これまでは、図10(A)に示すコンパウンド架線や、図10(B)に示すツインシンプル架線が主流であった。
図11及び図12は、直流電気鉄道に適用されるシンプル架線の設備構成の例を示す図である。各変電所の直流回線(正側の主回路)は、銅線やアルミ線で構成されるき電線に接続される。集電装置に接触する架線(電車線)は、トロリ線(銅線)と吊架線(鋼など)で構成され、一定間隔毎に設けられるき電分岐点において、き電線と接続される(非特許文献3を参照)。図12において、トロリ線は曲線引き(曲引き)金具を用いて固定されている。
【0009】
このように、シンプル架線などでは、集電装置に接触する架線設備に加え、並列に接続されるき電線が必要であり設備の大型化を招いていた。そこで、図10(C)に示すように、き電線と吊架線を一体化することで設備をスリム化したき電吊架式架線(き電吊架線には銅あるいはアルミを使用)の普及が進んでいる。
このき電吊架式架線が採用された結果、これまで電車から離隔があったき電線が吊架線と一体化され、き電吊架線となることで(すなわち以前よりき電線が車体に近づくこととなり)、そこを流れる電流による特に車体上部位置での磁界が強まる傾向にある(き電線は直流き電システムにおいて電車線電流の大半が流れる部位)。
【0010】
最後に再び車両の方に戻ると、2階建て車両が近年在来線においてもしばしば製作されるようになった。その結果、1階客席は帰線電流の主に流れるレールに近づき、さらに2階座席は前述のき電線に更に近づくこととなり、車内の磁界の増加要因となっている。
【0011】
なお、近年注目されているLRT(Light Rail Transit)においては通常の電気鉄道に比較して更なる低床化がなされており、特に客室床部分は帰線電流の流れるレールにより接近することとなる。モータ出力は小さいもののき電電圧の低さ(600V程度)と相まって、LRTにおいても直流磁界を検討する価値がある。
【0012】
一方昨今のICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドラインの提唱、国内では経済産業省による同ガイドラインの省令化(電力関連設備に対して)などがあり、鉄道においても鉄道車内の直流磁界の課題は現在および今後とも重要である。
【0013】
また、EUにおいては鉄道におけるEMF規格であるEN50500の制定、またその国際規格化(IEC62597)なども検討中である。さらにWHO(World Health Organization)からは直流磁界の健康影響評価に関わる「fact sheet(ファクトシート)」が公表されたが、それにはペースメーカを対象として国際規格ISO14708−2(直流磁界1mT)よりも厳しい0.5mT(ミリテスラ)のガイドライン値にも言及している。これら一連の動きの中で、特に直流電車の車内における静磁界の低減対策の重要性が高まっている。
【0014】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、簡単、安価、かつ軽量の構造で、車両内部の磁界を効果的に低減することができる、直流電気車両、および直流電気車両の磁気シールド方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の直流電気車両は、直流電気車両の車体の底部に配設される底部磁気シールド板と、前記底部磁気シールド板に接合されるとともに、前記車体の両側部に配設される第1の側部磁気シールド板と、を備え、前記第1の側部磁気シールド板は、前記車体の底部から、窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置されることを特徴とする。
【0016】
(2)また、本発明の直流電気車両は、前記直流電気車両の車体の天井部に配設される天井部磁気シールド板と、前記天井部磁気シールド板に接合されるとともに、前記車体の両側部に配設される第2の側部磁気シールド板と、をさらに備え、前記第2の側部磁気シールド板は、前記車体の天井部から、窓枠上辺より上の所定の高さの位置まで配置されることを特徴とする。
【0017】
(3)また、本発明の直流電気車両は、前記直流電気車両の乗降用の開閉扉内に配設されるドア部磁気シールド板を、さらに備え、前記ドア部磁気シールド板は、前記車体の底部から、前記開閉扉の窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置されるとともに、前記ドア部磁気シールド板の底部側の辺部には、前記底部磁気シールド板の一部の面と平行な面をなして重なる磁気的接合面が配設されることを特徴とする。
【0018】
(4)また、本発明の直流電気車両は、前記底部磁気シールド板、側部磁気シールド板、および天井部磁気シールド板のいずれかまたは全部が方向性電磁鋼板で構成され、前記方向性電磁鋼板の磁化容易軸方向が、直流電気車両に生じる磁界の向きに一致するように配設されることを特徴とする。
【0019】
(5)また、本発明の直流電気車両の磁気シールド方法は、直流電気車両の磁気シールド方法であって、前記直流電気車両の車体の底部に底部磁気シールド板を配設し、前記底部磁気シールド板に接合される第1の側部磁気シールド板を前記車体の両側部に配設するとともに、前記第1の側部磁気シールド板を、前記車体の底部から、窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(1)本発明の直流電気車両においては、底部磁気シールド板が車体の底部に配設され、側部磁気シールド板が車体の両側部に配設される。そして、この側部磁気シールド板は、車体の底部から、窓枠下辺の下の所定の高さ位置まで配置される。
これにより、簡単、安価、かつ軽量の構造で、車両内部の磁界を効果的に低減することができる。特に、車体の下部のレールに流れる電流から生じる磁界を、底部磁気シールド板により効果的に遮蔽することができる。
【0021】
(2)本発明の直流電気車両においては、天井部磁気シールド板が車体の天井部に配設され、側部磁気シールド板が車体の両側部に配設される。そして、この側部磁気シールド板は、車体の天井部から、窓枠上辺より上の所定の高さの位置まで配置される。
これにより、簡単、安価、かつ軽量の構造で、車両内部の磁界を効果的に低減することができる。特に、車体の上部のき電線に流れる電流から生じる磁界を、天井部磁気シールド板により効果的に遮蔽することができる。
【0022】
(3)本発明の直流電気車両においては、乗降用の開閉扉内にドア部磁気シールド板を設ける。このドア部磁気シールド板は、車体の底部から、開閉扉の窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置される。また、ドア部磁気シールド板の下辺部に、底部磁気シールド板の一部の面と平行な面をなして重なる磁気的接合面を設ける。
これにより、車体の開閉扉部においても、ドア部磁気シールド板によって磁気シールドを効果的に行うことができる。
【0023】
(4)また、本発明の直流電気車両においては、底部磁気シールド板、側部磁気シールド板、および天井部磁気シールド板を方向性電磁鋼板で構成する。
これにより、各シールド材が方向性電磁鋼板となるため、磁束の流れる方向と各方向性電磁鋼板の磁化容易軸の方向を一致させることで、方向性電磁鋼板内における磁束の流れを円滑にし、車両内部の磁界を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】磁気シールド板の配置例を示す図である。
【図2】車体下部への磁気シールド板の配置例を示す図である。
【図3】図2に示す磁気シールド板の配置例における磁界低減効果を示す図である。
【図4】方向性電磁鋼板を用いる場合の磁化容易軸の配置方向の例を示す図である。
【図5】方向性電磁鋼板を用いる場合の磁界計算結果の例を示す図である。
【図6】磁気シールド板の厚み決定方法を示すフローチャートである。
【図7】車体下部と車体上部への磁気シールド板の配置例を示す図である。
【図8】ドア部磁気シールド板の配置例を示す図である。
【図9】停車時の開口部位置における磁界強度の例を示す図である。
【図10】き電吊架式架線の例を示す図である。
【図11】直流電気鉄道の電車線設備の構成(シンプル架線)を示す図である。
【図12】図11に示す電車線設備におけるき電線と吊架線とトロリ線の装柱例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
直流磁界の遮蔽効果を得るには強磁性体を用いる以外に手段がない(超電導を用いることも原理的に可能であるが現実的ではない)。基本的には車体に磁気シールド板(磁性体)を張り付けて、そこに磁束を集中させることで車両内への漏れ磁界を低減させる。
【0026】
磁気シールド用の磁性体の候補材料としては、第1に、純鉄や電磁軟鉄がある。第2に、電磁鋼板(無方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板)がある。第3に、他の材料(パーマロイやパーメンジュール)がある。入手のしやすさや価格などを考慮すると、第1の材料と、第2の材料が現実的である。特に方向性電磁鋼板は、鋼板の一方的な方向のみに磁化しやすい性質を有し、大面積の材料の入手のしやすさ、磁気特性のよさ(透磁率の高さ)、飽和磁束密度の高さなどから、本発明の直流電気車両に用いる磁気シールドとしては一番適した材料である。
【0027】
[磁気シールド板の配置例]
図1に、本発明の実施の形態に係わる直流電気車両における磁気シールド板の配置例を示す。基本的には直流電気車両1の車体11の底部(底面aの側の部分)、側部(側面bの側の部分)、天井部(天井面cの側の部分)の各部に磁気遮蔽を行う磁気シールド板を配置することになる。これらの全て部位(底部、側部、天井部)または一部分に磁気シールド板を配置する。
【0028】
図1に示す例では、直流電気車両の車体11の底部に底部磁気シールド板12を配置する。この底部磁気シールド板12は、レール3と対面する車体11の底面aに対向するように、底面aの上部近傍に配置される。また、車体11の両側部に、底部磁気シールド板12と接合される側部磁気シールド板13A,13Bを配置する。この側部磁気シールド板13A,13Bは、車体11の側面bと対向するように配置される。なお、底部磁気シールド板12と側部磁気シールド板13A,13Bとは一体として成型されるものであってもよいし、底部磁気シールド板12と側部磁気シールド板13A,13Bとを溶接などにより接合して組み立てるようにしてもよい。
【0029】
また、この側部磁気シールド板13A,13Bの高さ(図面上で上下方向の高さ)については、車体11の底部の位置(底部磁気シールド板12の位置X1)から、車体21の側面に設けられた窓21の窓枠下辺より下の所定の位置X2までの長さになるように配置される。すなわち、側部磁気シールド板13A,13Bは、車体11の側壁部分において、底部の位置X1から窓21の下辺までを電磁遮蔽することになる。
【0030】
また、車体11の天井部に天井部磁気シールド板14を配置する。この天井部磁気シールド板14は、き電線2と対面する車体11の天井面cに対向するように、天井部cの下部近傍に配置される。また、車体11の両側部に、天井部磁気シールド板14と接合される側部磁気シールド板13C,13Dを配置する。この側部磁気シールド板13C,13Dは、車体11の側面bと対向するように配置される。なお、天井部磁気シールド板14と側部磁気シールド板13C,13Dとは一体として成型されるものであってもよいし、天井部磁気シールド板14と側部磁気シールド板13C,13Dとを溶接などにより接合して組み立てるようにしてもよい。
【0031】
また、この側部磁気シールド板13C,13Dの高さ(図面上で上下方向の高さ)については、天井部の位置(天井部磁気シールド板14の位置Y1)から、窓21の窓枠上辺より上の所定の位置Y2までの長さになるように配置される。
【0032】
また、磁気シールド板12,13A,13B,13C,13D,14の厚み(板厚)は、必要な磁気シールド効果を持つ範囲でできるだけ適切に(軽量なものを)選ぶ。磁気シールド板として、部材の性質に対応させて、規定の磁束密度となる厚さを、実験あるいはシミュレーションにより求めて設定する。このような磁気シールド板の配置により、簡単、安価かつ軽量な構造で、車体11内部の磁界を効果的に低減することができる。
【0033】
[車体下部への磁気シールド板の配置例]
図2は、車体下部への磁気シールド板の配置例を示す図である。図2に示す例は、車体11の下部に配置されたレール3に流れる電流により生じる磁界の遮蔽に重点を置き、車体11の底部へ磁気シールド板を設けた構成である。車体11の側部の磁気シールド板13A,13Bは、図1で示したように、窓21の窓枠下辺より下に設置される。
【0034】
図2に示す例では、き電吊架線2とレール3との間隔が5.4m、車体11の幅が2.9m、車体11の高さが2.1m、車体11の底面aとレール3との間隔が1.3mの例である。
【0035】
図3は、車体11の長手方向に対して垂直な平面による断面図であり、図2に示す磁気シールド板の配置例における磁界低減効果を説明する図である。図3において、横軸は断面における車体11の一方の端部から他方の端部までの横の距離(単位はm)を示し、縦軸は車体の底面aから天井部cまでの縦の距離(単位はm)を示し、断面の2次元平面の各位置における磁界の強さ(単位はガウス)を示している。この図3に示す例は、車体11の底部に底部磁気シールド板12を配置し、また側部磁気シールド板13A,13Bを(窓21の窓枠下辺より下の位置の)高さ1mまで車体11の側壁部分に配置した例である。この例では、磁気シールド板12,13A,13Bとして、比透磁率1000(通常のSS材相当の比透磁率)、厚み2.3mmの磁性体を設置した場合の車体内磁界(幅2.9m×高さ2.1m)を示している(例えば、き電吊架線に流れる電流は、10,000A)。
【0036】
図3(A)に示す磁気シールド無しの場合には、車体内の空間のほとんどの領域において、磁束密度が1mT(10G)を超えているが、図3(B)に示す磁気シールド有りの場合は、天井部側(図面の上側)の一部の領域を除き、ほとんどの領域において磁束密度は1mT(10G)以下であり、磁気シールド板により磁界が大幅に低減されていることがわかる。
【0037】
次に、更に磁気シールド効果の高い方向性電磁鋼板を用いた場合の結果を示す。ただし方向性電磁鋼板を使用する場合には、その磁化容易軸方向を適切に選択する必要がある。すなわち磁化容易軸方向と磁界の向きを一致させる必要がある(非特許文献2を参照)。
【0038】
図4は、方向性電磁鋼板を用いる場合の適切な磁化容易軸の配置方向の例を示す図である。この例では、磁界源としてき電線とレールなど進行方向に電流が流れるものを想定し、図に示すように、車体底面(や車体天井面)の磁気シールド板については枕木方向(車両案内方向、すなわち2本のレールのなす平面に平行であり、かつレール延設方向に対して垂直方向)a、車体側面の磁気シールド板については上下方向bに、磁化容易軸を向ける。
【0039】
図5は、方向性電磁鋼板を用いる場合の磁界計算結果の例を示す図である。図5において、横軸は断面における車体11の一方の端部から他方の端部までの横の距離(単位はm)を示し、縦軸は車体の底面aから天井部cまでの縦の距離(単位はm)を示し、断面の2次元平面の各位置における磁界の強さ(単位はガウス)を示している。方向性電磁鋼板の特性に合わせて、比透磁率は10,000としている。前述の図3(B)に示す例では、1mT(10G)を超える領域が一部あったが、図5に示す例では全て1mT(10G)以下になっている。このように、方向性電磁鋼板を用いることにより、電磁遮蔽の効率を向上させて、車体11内の磁界の磁束密度を効果的に低減することができる。
【0040】
なお、図2乃至図5に示す例では、車体11内下部の磁界低減を重視した例について説明したが、車体11上部の磁界の磁束密度も低減したい場合には、車体11の天井部cにも磁気シールド板を追加すればよい。
【0041】
次に、磁気シールド板の厚み決定方法について説明する、図6は、磁気シールド板の厚み決定処理の流れを示すフローチャートである。以下、図6を参照して、磁気シールド板の厚み決定の処理の流れについて、電磁鋼板を磁気シールド板に用いる場合で説明する。
【0042】
まず最初に、磁気シールド領域を決定する(ステップS1)。例えば、図2に示すように、車体11内下部の磁界を低減することを決定する。そして、車体11内下部を囲うようにして、床部磁気シールド板12と、側部磁気シールド板13A,13Bとを配置することを決定する(ステップS2)。そして、方向性電磁鋼板を使用する場合、図4に示すように、磁界の向きに磁化容易軸方向を向けるようにする(ステップS3)。
【0043】
次に、磁界計算を行う(ステップS4)。続いて、磁気シールド板内部における磁束密度を判定(チェック)し、飽和磁束密度(例えば、1.5T)以上であるかどうかを判定する(ステップS5)。
【0044】
そして、磁束密度が飽和磁束密度以上の場合は(ステップS5:Yes)、磁束密度が許容値以上であるので、磁気シールド板の厚みを増加させる(ステップS6)。そして、再度、ステップS4に移行して磁界計算を行う。
【0045】
一方、ステップS5の磁束密度の判定において、磁束密度が飽和磁束密度(例えば、1.5T)以下と判定された場合は(ステップS5:No)、磁束密度が許容値以下であるので、最終形状(最終的な厚み)が決定される(ステップS7)。
これにより、磁気シールド板の最適な厚みを決定することができる。なお、電磁鋼板でない磁気シールド材を用いる場合には、上記の飽和磁束密度の値(例えば、1.5T)を適宜変更する。
【0046】
[車体下部と車体上部への磁気シールド板の配置例]
次に、車体下部(底部側)と、車体上部(天井部側)の両方に磁気シールド板を配置する例について説明する。図7は、車体下部と車体上部への磁気シールド板の配置例を示す図である。より正確には、2階建て車両の一階部分の下部をレール3に流れる電流により生じる磁界から遮蔽し、かつ、2階部分の上部をき電吊架線2に流れる電流により生じる磁界から遮蔽する場合の磁気シールド板の配置例を示す図である。
【0047】
図7に示すように、車体の底部へ底部磁気シールド板12を設置する場合、側部磁気シールド板13A,13Bの高さは、図1で示した場合と同様に、車体の底部の位置(底部磁気シールド板12の位置)から、窓21の窓枠下辺より下の位置までとする。また、車体の天井部に天井部磁気シールド板14を設置する場合、側部磁気シールド板13C,13Dの高さは、図1で示した場合と同様に、車体の天井部cの位置(天井部磁気シールド板14の位置)から、窓22の窓枠上辺より上の位置までとする。
【0048】
[開閉扉部(ドア部)の磁気シールドについての説明]
開閉扉部(ドア部)についても磁気シールド板を入れるのが望ましい。図8(A)は、開閉扉内に設けられるドア部磁気シールド板の配置例を示す図である。また、図8(B)は、底部磁気シールド板12とドア部磁気シールド板15Bとの間の磁気的接合方法を示す図である。
【0049】
図8(A)に示すように、ドア部磁気シールド板15A,15Bは、開閉扉部(ドア部)内に張り付けられるようにして配設される。また、ドア部磁気シールド板15A,15Bは、開閉扉の開閉動作に伴い、底部磁気シールド板12に対して平行に移動する(図面の用紙面に垂直な方向に移動する)。また、ドア部磁気シールド板15A,15Bの高さについては、図1に示す側部磁気シールド板13A,13Bの場合と同様に、ドア部の窓枠下辺より下側の位置とする(一般にドア部窓と非ドア部窓の高さは揃っていることが多い)。
【0050】
このドア部磁気シールド板15A,15Bについては、特に、底部磁気シールド板12との磁気的連続性に配慮する必要がある。なぜなら、磁束は図4に示すように車体側面では上下方向bに、車体底面では枕木方向aに流れるので、磁束をスムーズに底部磁気シールド板12からドア部磁気シールド板15A,15B内に流すには、底部磁気シールド板12とドア部磁気シールド板15A,15Bとの境界の磁気抵抗が重要な要素になるからである。
【0051】
一方、ドア部磁気シールド板15A,15Bと、非ドア部である側部磁気シールド板13A,13B(図示せず)との間の磁気的接合にはそれほど注意を払わなくてよい。この方向にはあまり磁束の流れが無いことが計算により解析されている(後述)からである。
【0052】
具体的なドア部磁気シールド板15Bと底部磁気シールド板12との間の磁気的接合方法としては、図8(B)に示すように、ドア部磁気シールド板15Bの下辺を、底部磁気シールド板12の方向に向けてL字型に曲げて磁気的接合面16Bを形成し、この磁気的接合面16Bを底部磁気シールド板12とオーバーラップさせるなどの方法が考えられる。
【0053】
すなわち、ドア部磁気シールド板15A,15Bの下辺をL字型に曲げて磁気的接合面16A,16Bを形成し、この磁気的接合面16A,16Bが、底部磁気シールド板12と平行な面をなして重なるようにする。すなわち、底部磁気シールド板12と、磁気的接合面16A,16Bとが、磁気結合を可能とするよう、平行な面が所定の面積を有するように構成されている。これにより、底部磁気シールド板12とドア部磁気シールド板15A,15Bとの境界の磁気抵抗を減らし、磁束をスムーズにドア部磁気シールド板15A,15B内に流すことができる。これにより、開閉扉部においても、磁気シールド効果を得ることができる。
【0054】
また、電車がホームに停車するときはドアが開き、磁気的には開口部が生じる。駅停車時でも同一き電回線を共有する他列車及び自列車補機負荷によりき電吊架線に電流が流れる可能性があるため、この場合の磁気遮蔽効果の検討も必要となる。特に都市部における過密線区では、他列車の影響は非常に大きくなる。
【0055】
図9は、停車時の開口部位置における磁界強度の例を示す図である。図9において、横軸は側部における車体11のドアの開口部の端部を基点とし、この基点からの横の距離(単位はm)を示し、縦軸は車体の底面aから天井部cまでの縦の距離(単位はm)を示し、車体11内の2次元平面の各位置における磁界の強さ(単位はガウス)を示している。
図9に示す例は、ホーム停止時の磁界計算結果(ドアより100mm内側)を示す。ドア開口幅は800mmである。他の計算条件は、図5に示す例と同様である。図9の計算結果に示されるように、若干磁界は上昇するものの1mT(10G)以下であり、それほど大きくないことがわかる。従ってドア開口時の特別な対策は必要ないと考えられる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、ここで、本発明と実施の形態との対応関係を補足しておく。
【0057】
本発明の実施の形態において、本発明の直流電気車両は直流電気車両1が相当し、本発明の車体は車体11が相当する。また、本発明の底部磁気シールド板は底部磁気シールド板12が相当し、本発明の第1の側部磁気シールド板は側部磁気シールド板13A,13Bが相当し、本発明の第2の側部磁気シールド板は、側部磁気シールド板13C,13Dが相当する。また、本発明の天井部磁気シールド板は、天井部磁気シールド板14が相当する。また、本発明のドア部磁気シールド板は、ドア部磁気シールド板15A,15Bが相当し、本発明の磁気的接合面は、磁気的接合面16A,16Bが相当する。
【0058】
そして、本実施の形態において、底部磁気シールド板12が、車体11の底部に配設される。また、側部磁気シールド板13A,13Bが、底部磁気シールド板12に接合されるとともに、車体11の両側部に配設される。そして、側部磁気シールド板13A,13Bは、車体11の底部から、窓枠下辺より下の位置まで配置される。
これにより、簡単、安価、かつ軽量の構造で、車体11内部の磁界を効果的に低減することができる。特に、車体の下部のレールに流れる電流により生じる磁界を、効果的に遮蔽することができる。
【0059】
また、上記実施の形態においては、天井部磁気シールド板14が、車体11の天井部に配設される。また、側部磁気シールド板13C,13Dが、天井部磁気シールド板14に接合されるとともに、車体11の両側部に配設される。そして、側部磁気シールド板13C,13Dは、車体11の天井部から、窓枠上辺より上の位置まで配置される。
これにより、簡単、安価、かつ軽量の構造で、車体11内部の磁界を効果的に低減することができる。特に、車体の上部の電車線に流れる電流により生じる磁界を、効果的に遮蔽することができる。
【0060】
また、上記実施の形態においては、ドア部磁気シールド板15A,15Bが、乗降用の開閉扉内に配設される。このドア部磁気シールド板15A,15Bは、車体11の底部から、開閉扉の窓枠下辺より下の位置まで配置されるとともに、ドア部磁気シールド板15A,15Bの下辺部には、底部磁気シールド板12と平行な面をなして重なる磁気的接合面16A,16Bが配設される。
これにより、車体の開閉扉部においても、磁気シールドを効果的に行うことができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の直流電気車両は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
1・・・直流電気車両、2・・・き電吊架線、3・・・レール、11・・・車体、12・・・底部磁気シールド板、13A,13B,13C,13D・・・側部磁気シールド板、14・・・天井部磁気シールド板、15A,15B・・・ドア部磁気シールド板、16A,16B・・・磁気的接合面、21,22・・・窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電気車両の車体の底部に配設される底部磁気シールド板と、
前記底部磁気シールド板に接合されるとともに、前記車体の両側部に配設される第1の側部磁気シールド板と、
を備え、
前記第1の側部磁気シールド板は、
前記車体の底部から、窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置される
ことを特徴とする直流電気車両。
【請求項2】
前記直流電気車両の車体の天井部に配設される天井部磁気シールド板と、
前記天井部磁気シールド板に接合されるとともに、前記車体の両側部に配設される第2の側部磁気シールド板と、
をさらに備え、
前記第2の側部磁気シールド板は、
前記車体の天井部から、窓枠上辺より上の所定の高さの位置まで配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の直流電気車両。
【請求項3】
前記直流電気車両の乗降用の開閉扉内に配設されるドア部磁気シールド板を、さらに備え、
前記ドア部磁気シールド板は、前記車体の底部から、前記開閉扉の窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置されるとともに、
前記ドア部磁気シールド板の底部側の辺部には、前記底部磁気シールド板の一部の面と平行な面をなして重なる磁気的接合面が配設される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の直流電気車両。
【請求項4】
前記底部磁気シールド板、側部磁気シールド板、および天井部磁気シールド板のいずれかまたは全部が方向性電磁鋼板で構成され、
前記方向性電磁鋼板の磁化容易軸方向が、直流電気車両に生じる磁界の向きに一致するように配設される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の直流電気車両。
【請求項5】
直流電気車両の磁気シールド方法であって、
前記直流電気車両の車体の底部に底部磁気シールド板を配設し、
前記底部磁気シールド板に接合される第1の側部磁気シールド板を前記車体の両側部に配設するとともに、
前記第1の側部磁気シールド板を、前記車体の底部から、窓枠下辺より下の所定の高さの位置まで配置する
ことを特徴とする直流電気車両の磁気シールド方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate