説明

直腸投与用製剤

直腸患部又は直腸下部に薬物が滞留し、そこで薬物が叙放される直腸投与用製剤が開示される。本発明は、基剤中に被覆薬物担持粒子が分散しており、被覆薬物担持粒子が、薬物が担持された多孔性微粒子担体が一定の粘度を有する水溶性高分子で被覆されている、直腸投与用製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、直腸投与用製剤に関し、更に詳細には、特に薬物が直腸患部に滞留し、かつ薬物の放出が制御される、坐剤及び注入式軟膏剤に関する。
【背景技術】
一般に、坐剤は、薬物を基剤に混和又は溶解して一定の形状に成型したものである。肛門に坐剤を適用すると、体温によって基剤が溶解するか又は分泌液で溶解して、薬物が放出され、粘膜から薬物が吸収される。このとき、薬物が坐剤から徐々に長時間放出されれば、薬物放出過剰による副作用や頻回投与による煩わしさを減少することができる。そこで、叙放性坐剤が幾つか開発されている(例えば、特開平5−238930号明細書及び特許第2702938号明細書参照)。
特開平5−238930号明細書には、多孔性微粒子担体に薬物を吸着させ、次いで高級脂肪酸グリセライドとポリエチレングリコール等の水溶性高分子物質との混合物を吸着させた薬物叙放性担体を坐剤に用いることが開示されている。
また、特許第2702938号明細書には、薬物とヒドロキシアルキルセルロース等の水溶性高分子とを混合し、顆粒剤等の固形製剤にし、この固形製剤表面をコーティングして、基剤に分散させて叙放性坐剤を製造できることが開示されている。
しかしながら、痔疾患等の局部での治療(局所作用)を目的として、特開平5−238930号明細書の坐剤を直腸に投与した場合、体温又は分泌液で坐剤が溶解して、薬物叙放性担体が直腸内に溶出するが、薬物叙放性担体表面に吸着しているポリエチレングリコールの粘度が低いため、直腸患部の粘膜に薬物叙放性担体が十分に付着かつ滞留せず、時間の経過と共に、薬物叙放性担体が直腸上部に移動してしまう。従って、直腸患部での薬物叙放性担体の存在量が少なくなり、薬物叙放性担体から直腸患部に直接放出される薬物量が減少して、薬効を十分に発揮することができないという課題がある。また、全身作用を目的とする坐剤の場合、直腸下部から薬物が吸収されれば、肝臓を通過せず、代謝による薬物の失活を少なくできるが、直腸上部から薬物が吸収されると、肝臓通過による初回通過効果が現れ、体循環に出現する薬物量が少なくなってしまうという課題がある。具体的に言えば、特開平5−238930号明細書の実施例において、ポリエチレングリコール6000を薬物叙放性担体表面に吸着させているが、これは薬物放出制御のみを目的としており、ポリエチレングリコール6000の粘度は非常に低く(後述の参考例を参照されたい)、従ってポリエチレングリコール6000で被覆された薬物叙放性担体は、直腸患部又は直腸下部の粘膜に十分に付着かつ滞留できない。
また、特許第2702938号明細書は、顆粒状の固形製剤をコーティングして分散させた坐剤を製造できることが開示されているものの、コーティング剤については全く開示されておらず、ましてや実施例において、コーティングした固形製剤を分散させた坐剤の製造等は行われていない。しかも、固形製剤表面のコーティングは、薬物放出速度を制御するためのものであって、直腸患部に固形製剤が滞留するようになっているものではない。従って、仮に、特許第2702938号明細書の顆粒状のコーティングした固形製剤を分散させた坐剤を、直腸での局所作用を目的として直腸に投与した場合、特開平5−238930号明細書の坐剤と同様、固形製剤が坐剤から直腸内に溶出するが、固形製剤が直腸上部に移動してしまい、直腸患部での固形製剤の存在量が少なくなり、固形製剤から直腸患部に直接放出される薬物量が減少して、薬効を十分に発揮することができないという課題がある。また、全身作用を目的とする場合であっても、特開平5−238930号明細書の坐剤と同様、固形製剤が直腸上部に移動して、そこで薬物が吸収され、肝臓通過による初回通過効果が現れるという課題がある。
更に言えば、特許第2702938号明細書の坐剤中に分散されている固形製剤は、前述のように、例えば顆粒が挙げられており、粒径約500〜1400μmを有する。このように大きい粒径であると、坐剤が溶解して放出された固形製剤は、直腸患部全体に対して大きな隙間を作って拡散し、固形製剤が存在しない患部部位が広く生じ、患部全体に均一に薬物を叙放することができないという課題がある。また、固形製剤の粒径が大きいので、固形製剤1粒子と同じ薬物量を有するように粒径を小さくして数を多くした微粒子製剤と比べて、固形製剤1粒子の方が表面積が小さく、患部全体に対して放出される薬物量が少なくなり、薬効を効果的に発揮できないという課題がある。また、固形製剤を基剤に混合し坐剤を成型するときに、粒径が大きいため、坐剤が固まる間に固形製剤が沈降して、固形製剤が不均一に分散した坐剤になってしまい、このような坐剤が体温又は分泌液で溶解されると、固形製剤が多く溶出したり少なく溶出したりと、直腸患部に安定した量の薬物を供給できないという課題がある。更に言えば、固形製剤が不均一に分散するので、坐剤の強度が落ちて坐剤の割れ等が発生するという課題がある。また、固形製剤の粒径が大きくて、坐剤製造時に固形製剤のコーティングが損傷して、固形製剤の薬物を叙放するというコーティングの効果を果たせなくなるという課題がある。
【発明の開示】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、患部に薬物担持粒子が付着滞留し、そこで薬物が叙放されて、患部で薬効が十分に発揮され、薬物の副作用を抑え、製剤投与回数を減らすことができる直腸投与用製剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、直腸下部に薬物担持粒子が付着滞留し、そこで薬物が叙放されて、肝初回通過効果の影響を受けない直腸投与用製剤を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、直腸患部全体に薬物担持粒子が均一に付着かつ滞留し、薬物を叙放しながらも患部全体にまんべんなく薬物を放出する直腸投与用製剤を提供することにある。また、本発明の更に他の目的は、坐剤製造中に薬物担持粒子の被覆層が損傷されず、薬物担持粒子が基剤に均一に分散して割れにくい坐剤等を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、多孔性微粒子担体に薬物を担持させ、この薬物担持粒子に一定の粘度を有する水溶性高分子で被覆することにより、また、被覆された薬物担持粒子の粒径を一定の大きさにすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、基剤中に被覆薬物担持粒子が分散している直腸投与用製剤であって、前記被覆薬物担持粒子が、薬物が担持された多孔性微粒子担体が20質量%水溶液及び37℃の条件下で0.1〜10.0パスカル秒の粘度を有する水溶性高分子を被覆されていることを特徴とする。
また、本発明は、薬物担持粒子が、好ましくは、粒径0.1〜300μmを有する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1及び比較例1の坐剤のセルロースチューブへの付着滞留性を示す写真である。
図2は、実施例1及び比較例1の坐剤をラットへ投与した後の、ラット直腸組織における塩酸リドカイン濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の直腸投与用製剤について説明する。
本発明に使用する多孔性微粒子担体は、少なくとも表面に多数の微細な細孔を有する微粒子であり、その構造は、粒子凝集型、気泡分散型、網目構造型等のいずれでもよく、粒径約0.1〜200μm、比表面積100〜1000m/g、吸油能0.5〜8.0mL/gを有し、主成分は、ケイ酸類が好ましいが、薬物を担持できるものであれば、特に限定されない。本発明に使用する多孔性微粒子担体は、粒径0.1〜100μm、比表面積200〜700m/g、吸油能2.0〜7.0mL/gのものが更に好ましい。具体的には、軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、含水二酸化ケイ酸が挙げられる。より好ましくは、軽質無水ケイ酸及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。これらの多孔性微粒子担体は、市販されており容易に入手可能である。また、多孔性微粒子担体を単独で、又は複数混合して使用してもよい。
多孔性微粒子担体に担持する薬物は、副腎皮質ホルモン剤、局所麻酔剤、消炎、鎮痒、創傷治癒剤、ビタミン剤、サルファ剤、殺菌剤、抗ヒスタミン剤等であるが、これらに限定されない。副腎皮質ホルモン剤の具体例として、酢酸プレドニゾロン、プレドニゾロン、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、コルチゾン、酢酸デキサメタゾン、デキサメタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン若しくは酢酸トリアムシノロンが挙げられる。局所麻酔剤の具体例として、塩酸リドカイン、リドカイン、塩酸ジブカイン、ジブカイン、塩酸プロカイン、プロカイン、塩酸テトラカイン、テトラカイン、塩酸クロロプロカイン、クロロプロカイン、塩酸ブピバカイン、ブピバカイン、アミノ安息香酸エチル若しくはオキセサゼインが挙げられる。消炎、鎮痒、創傷治癒剤の具体例として、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、グリチルレチン酸、ジメチルイソプロピルアズレン、イクタモール、カンフル、クロタミトン、塩化リゾチーム、d−カンフル、dl−カンフル、セイヨウトチノキ種子エキス、ハマメリスエキス、シコンエキス、ハッカ油、dl−メントール、l−メントール、ユーカリ油、アラントイン若しくはアルミニウム・クロルヒドロキシアライントイネートが挙げられる。ビタミン剤の具体例として、酢酸トコフェロール、トコフェロール、エルゴカルシフェノール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、塩酸ピリドキシン、塩酸ピリドキサミン、リン酸ピリドキサール、リボフラビン、酪酸リボフラビン、ビタミンA油、強肝油若しくは肝油が挙げられる。サルファ剤の具体例として、スルファジアジン、スルフィソミジン若しくはホモスルファミンが挙げられる。殺菌剤の具体例として、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン液、フェノール、塩化セチルピリジニウムが挙げられる。血管収縮剤の具体例として、例えば塩酸ナファゾリン、塩酸エフェドリン、塩酸エピネフリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン若しくはdl−塩酸メチルエフェドリンが挙げられる。抗ヒスタミン剤の具体例として、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。これらの薬物は市販されており容易に入手可能である。また、薬物を単独で又は複数配合して使用してもよい。
本発明で使用する水溶性高分子は、天然高分子、合成高分子、生体高分子、無機高分子等、また、単独重合体、共重合体、ブロックポリマー又は共重合体等のいずれでもよい。粘度は、20質量%水溶液及び37℃の条件下で、0.1〜10.0パスカル秒、好ましくは1.0〜7.0パスカル秒、特に好ましくは1.5〜5.0パスカル秒である。20質量%水溶液及び37℃の条件下で、粘度0.1パスカル秒未満の水溶性高分子を使用すると、粘度が低すぎるために、被覆薬物担持粒子が直腸患部又は直腸下部の粘膜に付着、滞留せず、時間の経過と共に、被覆薬物担持粒子が直腸上部に拡散する。また、粘度10.0パスカル秒を超える水溶性高分子を使用すると、粘性が高すぎて被覆薬物担持粒子の製造が困難になる。
このような特定の水溶性高分子であれば、特に制限無く各種の水溶性高分子が使用でき、例えば、非イオン性セルロース類、ビニル重合体、デンプン類及びその誘導体、天然多糖類、天然ゴム類及びタンパク質類などが挙げられる。非イオン性セルロース類の具体例として、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。ビニル重合体の具体例として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。デンプン類、及びその誘導体の具体例として、カルボキシメチルスターチ、デンプン等が挙げられる。天然多糖類の具体例として、キサンタンガム、デキストラン、プルラン等が挙げられる。天然ゴム類の具体例として、アラビアゴム、グアガム、ローカストビーガム等が挙げられる。タンパク質類の具体例として、ゼラチン、カゼイン、アルブミン等が挙げられる。より好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロースである。これらの水溶性高分子は市販されており容易に入手可能である。
本発明で使用する基剤は、坐剤の場合、一般に坐剤基剤として用いられる、親油性又は親水性基剤である。親油性基剤として、カカオ脂、ラノリン脂又はハードファットが挙げられる。また、ハードファットの具体例として、ウイテップゾール、サポサイアー、イソカカオ、ファーマゾルなどが挙げられる。親水性基剤として、ポリエチレングリコール、グリセロゼラチン、マクロゴールが挙げられる。これらを単独で用いてもよいし、親油性基剤と親水性基剤とを混合して用いることもできる。
注入式軟膏剤の場合、油性軟膏剤の形態で、一般に用いられている基剤を使用できる。油性基剤として、油脂、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。油脂の具体例として、オリーブ油、大豆油、ホホバ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ヒマシ油、ハッカ油、ヤシ油、カカオ油、パーム油、ゴマ油、ツバキ油、トウモロコシ油、硬化油、モクロウ、カルナウバロウ、ラノリン油、ミツロウ、スクワラン、スクラレン、牛脂、豚脂、卵黄油、鯨ロウ、流動パラフィン、パラフィン、ワセリンが挙げられる。脂肪酸の具体例として、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられる。高級アルコールの具体例として、セタノール、ステアリルアルコールが挙げられる。脂肪酸トリグリセリドの具体例として、パナセートが挙げられる。
また、必要に応じて、坐剤又は注入式軟膏剤の直腸投与直後から、薬効を発揮させるため、基剤に前述の副腎皮質ホルモン剤、局所麻酔剤、消炎、鎮痒、創傷治癒剤、ビタミン剤、サルファ剤、殺菌剤、抗ヒスタミン剤等を配合してもよい。更に、添加物等も配合することができる。例えば、防腐剤、抗酸化剤である。防腐剤の具体例として、ポリオキシ安息香酸アルキル、ソルビタン酸が挙げられる。抗酸化剤の具体例として、ジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。
また本発明において被覆薬物担持粒子を製造する際、当該粒子内又は当該粒子の表面に薬物放出性をコントロールするための添加物を配合することもできる。これにより、製剤に徐放性の機能を付与することができる。添加物の具体例として、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS(商品名:オイドラギットRS:Rohm Pharma製)、エチルセルロース(商品名:エトセル:Dow Chem.)等が挙げられる。また必要に応じ、水分散タイプの薬物放出性コントロール添加物として、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS水分散液(商品名:オイドラギットRS30D:Rohm Pharma製)、エチルセルロース水分散液(商品名:アクアコート:旭化成工業製)を使用することもできる。
また、前述した、多孔性微粒子担体に前記薬物が担持され、前記水溶性高分子で被覆された被覆薬物担持粒子は、好ましくは粒径0.1〜300μm、更に好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは0.1〜50μmを有する。被覆薬物担持粒子が粒径300μm以下の小さい粒子であれば、大きい粒子に比べて直腸患部の粘膜にまんべんなく拡散して、前記水溶性高分子による粘膜に付着かつ滞留する効果とあいまって、患部全体に均一に多くの薬物を叙放することができる。また、粒径300μmを超えると、以下に述べる基剤に分散させて坐剤を製造するときに、坐剤製造時に被覆薬物担持粒子の被覆層が損傷したり、被覆薬物担持粒子が沈降しやすくなって坐剤中の被覆薬物担持粒子の分布が不均一になり、体温又は分泌液で坐剤が溶解したときに被覆薬物担持粒子の溶出量が変化したり、坐剤が割れやすくなることがある。また、注入式軟膏剤の場合であっても、注入式軟膏剤の基剤に被覆薬物担持粒子が均一に分散しにくくなる。
次に、本発明の直腸投与用製剤の製造方法を説明する。
まず、薬物と多孔性微粒子担体とを、例えば、質量比1.0:0.1〜10.0、好ましくは1.0:0.5〜5.0で配合し、混合して、多孔性微粒子担体に薬物を担持させる。このとき、多孔性微粒子担体の細孔中に薬物を吸着させるために、薬物を、水又はエタノール等の有機溶媒又は水とエタノール等の有機溶媒との混液に溶解して、多孔性微粒子担体と混合することが好ましい。具体的には、例えば、薬物が十分に溶解できる溶媒量から多孔性微粒子担体に吸着できる溶媒量の範囲で薬物を溶解し、その薬物溶液と多孔性微粒子担体を混合する。混合後、300μm以下のふるいで篩過して、担持した薬物の融点以下又は分解しない温度範囲で120〜600分間乾燥する。
次に、得られた薬物担持粒子と特定の粘度を有する水溶性高分子とを、例えば、質量比1.0:0.01〜1.0、好ましくは1.0:0.05〜0.5で配合し、薬物担持粒子を水溶性高分子で被覆する。このとき、薬物担持粒子の表面に水溶性高分子を被覆させるために、水溶性高分子を、水又はエタノール等の有機溶媒又は水とエタノール等の有機溶媒との混液に溶解して、薬物担持粒子と混合することが好ましい。具体的には、例えば、水溶性高分子が均一になる溶媒量から多孔性微粒子担体に吸着できる溶媒量の範囲で水溶性高分子を溶解し、その水溶性高分子溶液と多孔性微粒子担体を混合する。混合後、300μm以下のふるいで篩過して、担持した薬物の融点以下又は分解しない温度範囲で120〜600分間乾燥する。
得られた被覆薬物担持粒子を、基剤に対して、例えば、1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の量で配合し、混合して、坐剤に成型し、又は注入式軟膏剤の場合は半固形状態で注入用容器に充填する。配合の際、薬物が異なる2種類以上の被覆薬物担持粒子を、基剤に配合してもよい。具体的には、坐剤の場合、日本薬局方掲載の坐剤製剤法における溶解法及び冷圧法に準じて製造することが出来る。また必要に応じて所望量の被覆薬物担持粒子の薬物とは異なる又は同一の薬物や、一般的に配合される添加剤を添加し、混合して、鋳型に注いで冷却し、固める溶融法や被覆薬物担持粒子と基剤とを、前記の量で混合し均一に粉末化した後、坐剤圧入機で成型する冷圧法などで製造できる。注入式軟膏剤の場合、日本薬局方掲載の軟膏製剤法に準じて製造することができ、必要に応じて所望量の被覆薬物担持粒子の薬物とは異なる又は同一の薬物や一般的に配合される添加剤とを混和して、残りの基剤を加えて、全質均等になるまでかき混ぜて練り合わせることで製造できる。
以下、本発明を参考例及び実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例)
[水溶性高分子の粘度試験及び付着性試験]
以下の水溶性高分子について粘度試験及び付着性試験を行った。
ヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−M、H.P.C−L及びH.P.C−SSL:日本曹達製)
メチルセルロース(M.C SM−15:信越化学製)
ポリビニルピロリドン(P.V.P−K90及びP.V.P−K25:BASF製)
アルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na I−8:君津化学製)
ポリエチレングリコール(P.E.G6000:日本油脂製)
カールボキシビニルポリマー(カーボポール934P:BFGoodrich製)
1.粘度試験方法
上記水溶性高分子を水に溶解して、20質量%水溶液を調製し粘度を測定した。粘度はE型粘度計(東京計器製)を用いて37℃における水溶性高分子の20質量%水溶液の粘度(パスカル秒)を測定し、その結果を表1に示した。
2.付着性試験方法
一定量W(0.2g)の水溶性高分子を、37℃の精製水で湿らせた5×5cmの大きさに切ったセルロース膜(VISKING SEAMLEEE CELLULOSE TUBE:HANDEX製)の上に均一になるように塗布し、5分間静置した。静置後精製水(37℃)中で上下に10回激しく振とうしセルロース膜を洗浄した。洗浄後セルロース膜を減圧乾燥(70℃ 76cmHg 24h)し、セルロース膜上の水溶性高分子残存量Wを求めることで付着率(%)を次式により算出した。その結果を表1に示した。
付着率(%)=(W−乾燥セルロース膜質量)/W×100

参考例1〜7は、粘度が高く、それに対応して付着率が高かった。粘度の高い参考例1〜7の水溶性高分子を直腸粘膜に適用した場合、直腸粘膜によく付着するので、本発明に使用する薬物担持粒子の被覆剤として適切である。
【実施例】
実施例1〜8の坐剤及び注入式軟膏剤を以下の方法で製造した。
尚、実施例1〜8において水溶性高分子として使用したヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)は、前述の参考例5のヒドロキシプロピルセルロース(20質量%水溶液及び37℃の条件下で3.430パスカル秒の粘度)に該当するものであった。
[実施例1]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mgを70%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)80mgと良く混合し、日本薬局方基準50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの95%エタノール中に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。基剤のウイテップゾール W−35 1519mgを加温(50〜60℃)溶解させた後、基剤に混合する薬物等の塩酸ジフェンヒドラミン10mg、酢酸プレドニゾロン1mg、アラントイン10mg及び酢酸トコフェロール50mgを攪拌しながら均一に分散させ約40℃まで冷却した。次いで被覆薬物担持粒子160mgを基剤中に均一に分散させた後、坐剤コンテナに充填し、本発明の坐剤(釣鐘形、重さ1750mg)を得た。
[実施例2]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mgを70%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリンUFL:富士化学工業、粒径1.6μm、比表面積260m/g、吸油能3.2mL/g)80mgと良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの95%エタノール中に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。以下、実施例1と同様の操作を繰り返し、本発明の坐剤を得た。
[実施例3]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mgを70%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)50mg及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリンUFL:富士化学工業)30mgの混合物と良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの95%エタノール中に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。以下、実施例1と同様の操作を繰り返し、本発明の坐剤を得た。
[実施例4]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mg及び塩酸ジフェンヒドラミン10mgを70%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)80mgと良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。塩酸リドカイン及び塩酸ジフェンヒドラミンを担持した薬物担持粒子150mgと、120mgの95%エタノール中に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。基剤のウイテップゾールW−35 1519mgを加温(50〜60℃)溶解させた後、基剤に混合する薬物等の酢酸プレドニゾロン1mg、アラントイン10mg及び酢酸トコフェロール50mgを攪拌しながら均一に分散させ約40℃まで冷却した。次いで被覆薬物担持粒子170mgを基剤中に均一に分散させた後、坐剤コンテナに充填し、本発明の坐剤(釣鐘形、重さ1750mg)を得た。
[実施例5]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mg及び塩酸ジフェンヒドラミン10mgをそれぞれ70%エタノール120mgに溶解し、別々に多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)80mgずつと良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。得られた塩酸リドカイン担持粒子140mgと塩酸ジフェンヒドラミン90mgとを、別々に120mgずつの95%エタノール中に20mgずつのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、塩酸リドカイン担持粒子及び塩酸ジフェンヒドラミン担持粒子を、ともに平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担体を得た。基剤のウイテップゾールW−35 1419mgを加温(50〜60℃)溶解させた後、基剤に混合する薬物等の酢酸プレドニゾロン1mg、アラントイン10mg及び酢酸トコフェロール50mgを攪拌しながら均一に分散させ約40℃まで冷却した。次いで塩酸リドカイン担持粒子160mg及び塩酸ジフェンヒドラミン担持粒子110mgを基剤中に均一に分散させた後、坐剤コンテナに充填し、本発明の坐剤(釣鐘形、重さ1750mg)を得た。
[実施例6]
多孔性微粒子担体に担持する薬物のリドカイン60mgを95%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)80mgと良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間60℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの精製水に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間60℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。以下、実施例1と同様の操作を繰り返し、本発明の坐剤を得た。
[実施例7]
多孔性微粒子担体に担持する薬物のリドカイン60mgを95%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリンUFL:富士化学工業、粒径1.6μm、比表面積260m/g、吸油能3.2mL/g)80mgと良く混合し、50号ふるいで篩過し、360分間60℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの精製水に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間60℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。以下、実施例1と同様の操作を繰り返し、本発明の坐剤を得た。
[実施例8]
多孔性微粒子担体に担持する薬物の塩酸リドカイン60mgを70%エタノール120mgに溶解し、多孔性微粒子担体の軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:フロイント産業、粒径3.5μm、比表面積300m/g、吸油能3.4mL/g)80mgと良く混合し、日本薬局方基準50号ふるいで篩過し、360分間70℃送風乾燥した。得られた薬物担持粒子140mgと、120mgの95%エタノール中に20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)を溶解させた水溶性高分子のエタノール溶液とを、良く混合し、50号ふるいで篩過し、平均粒子径10μmとした後、360分間70℃送風乾燥して被覆薬物担持粒子を得た。基剤の白色ワセリン1832mgを加温(50〜60℃)溶解させた後、基剤に混合する薬物等のdl−塩酸メチルエフェドリン2mg、プレドニゾロン1mg及びアルミニウムクロルヒドロキシアランイネート5mgを攪拌しながら均一に分散させ約40℃まで冷却した。次いで被覆薬物担持粒子160mgを基剤中に均一に分散させた後、注入軟膏用容器に充填し、本発明の軟膏(2g)を得た。
比較例1
水溶性高分子として20mgのヒドロキシプロピルセルロース(H.P.C−L:日本曹達)の代わりに、20mgのポリエチレングリコール(P.E.G6000:日本油脂)を除いたことを除いて、実施例1と同様にして坐剤を製造した。尚、比較例1において水溶性高分子として用いたポリエチレングリコール(P.E.G6000:日本油脂)は、参考例8のポリエチレングリコール(20質量%水溶液及び37℃の条件下で0.015パスカル秒の粘度)に該当するものであった。
試験例1
セルロースチューブ付着性試験
セルロースチューブを用いて擬似的な直腸環境を作成し、かかる環境下における実施例1及び比較例1の坐剤の付着滞留性を評価した。
(試験法)
大きさφ14×25cmのセルロースチューブ(VISKING SEAMLEEE CELLULOSE TUBE:HANDEX製)の下端を封鎖し、実施例1の坐剤又は比較例1の坐剤及び精製水5mLをチューブ内に入れ、上端を封鎖した。このセルロースチューブを37℃に維持した水で満たしたビーカーの中へ入れ、一定時間経過後に、坐剤中の被覆薬物担持粒子のセルロースチューブ内壁への付着性を観察した。付着性の観察は、試験開始直後、5分後、10分後及び20分後に行った。尚、観察しやすいように被覆薬物担持粒子を青色に着色した。結果を図1に示す。
実施例1の坐剤について、試験開始後10分後以降に、坐剤から遊離した被覆薬物担持粒子のセルロースチューブ内壁への付着が観察された(図1右側)。
一方、比較例1の坐剤では、坐剤から遊離した被覆薬物担持粒子はセルロースチューブ内壁へ付着することなく、試験開始後10分後以降にセルロースチューブ上部へと移動してしまった(図1左側)。
以上の結果は、本発明の直腸投与用製剤は、薬物担持粒子を患部に付着滞留させることができることを示している。
試験例2
直腸組織中の薬物量の定量
実施例1及び比較例1の坐剤をラットへ投与して、所定時間経過後のラット直腸組織における薬物(塩酸リドカイン)濃度を評価した。
(試験法)
本試験では、実施例1及び比較例1の記載にしたがい製造した各坐剤を、それぞれラットの肛門から投与できる大きさに成形したもの(円柱形、重さ100mg、塩酸リドカイン濃度3.4mg/個)を用いた。
上記の各坐剤を、48時間絶食したラットへそれぞれ投与し、直ちに瞬間接着剤(アロンアルファ(登録商標))にて肛門を塞ぎ坐剤の漏出を防止した。一定時間経過後に直腸を摘出し、生理食塩水で充分に洗浄した後、肛門から4cmの区分の直腸組織を採取した。採取した直腸組織を当該組織重量の100倍量の生理食塩水を用いてホモジネートし、組織中の塩酸リドカインを抽出した。抽出液から試料溶液を作製し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)により直腸組織1g中の塩酸リドカイン量の定量を行った。尚、直腸の摘出は坐剤投与15分後、30分後、60分後及び120分後に行った。結果を図2に示す。
投与後60分後以降において、実施例1の坐剤は、比較例1の坐剤よりも高い直腸組織中塩酸リドカイン濃度を示した。実施例1の結果は、実施例1の坐剤は薬物担持粒子を腸管粘膜へ付着滞留させることができるので、直腸組織内の薬物濃度を長時間維持できたことを示している。一方、比較例1の結果は、比較例1の坐剤は薬物担持粒子を腸管粘膜へ付着滞留させることができず、薬物担持粒子が坐剤の移動に伴って腸管内を移動してしまうため、結果として直腸組織内の薬物濃度が低くなったことを示している。
【産業上の利用可能性】
多孔性微粒子担体に担持する薬物、基剤等を適宜選択することによって、直腸(肛門)だけでなく、膣、尿道、鼻腔等に適用する坐剤及び注入式軟膏剤を調製することができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基剤中に被覆薬物担持粒子が分散している直腸投与用製剤であって、前記被覆薬物担持粒子が、薬物が担持された多孔性微粒子担体が20質量%水溶液及び37℃の条件下で0.1〜10.0パスカル秒の粘度を有する水溶性高分子で被覆されていることを特徴とする、直腸投与用製剤。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、1.0〜7.0パスカル秒の粘度を有する、請求項1に記載の直腸投与用製剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、1.5〜5.0パスカル秒の粘度を有する、請求項1又は2に記載の直腸投与用製剤。
【請求項4】
前記被覆薬物担持粒子が、粒径0.1〜300μmを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の直腸投与用製剤。
【請求項5】
前記被覆薬物担持粒子が、粒径0.1〜100μmを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の直腸投与用製剤。
【請求項6】
前記被覆薬物担持粒子が、粒径0.1〜50μmを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の直腸投与用製剤。
【請求項7】
前記水溶性高分子が、ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1〜6のいずれかに記載の直腸投与用製剤。
【請求項8】
坐剤である、請求項1〜7のいずれかに記載の直腸投与用製剤。
【請求項9】
注入式軟膏剤である、請求項1〜7のいずれかに記載の直腸投与用製剤。

【国際公開番号】WO2005/020960
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513557(P2005−513557)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012870
【国際出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(592142670)佐藤製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】