説明

直貼り用床暖房フロア材

【課題】 電気ヒータ式の直貼り用床暖房フロア材として、遮音性能にも優れ、簡単な製造手順で得ることができ、さらに、表面での温度ムラも発生しないものを得る。
【解決手段】 木質フロア基材11と、木質フロア基材11に一体に組み込まれた電気ヒータと、電気ヒータに接続するコネクタ17,18と、木質フロア基材11の裏面に貼着した遮音シート21とを備えた直貼り式床暖房フロア材10において、木質フロア基材11の裏面には多数の遮音用溝14と電気ヒータ収容用凹溝15を形成する。また、電気ヒータとして正温度係数特性(PTC特性)を備えた感熱発熱線Aを用い、感熱発熱線Aを木質フロア基材11の裏面に形成した発熱体収容用の電気ヒータ収容用凹溝15内に埋設した状態で木質フロア基材11に一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直貼り用床暖房フロア材に関し、特に、高い遮音性能を有し、製造が容易でありかつ温度ムラのない均一な加熱状態を得ることができる直貼り用床暖房フロア材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気式床暖房フロアを構成するための、遮音性能を向上させた直貼り用床暖房フロア材として、特許文献1には、裏面側に多数の遮音用溝を形成した木質フロア基材に面状発熱体である電気ヒータを組み込み、木質フロア基材の裏面全面に不織布のような遮音シートを貼り付けたものが記載されている。木質フロア基材に多数の溝を所要間隔で形成することによって、木質フロア基材の剛性を低下させ、直貼り用床暖房フロア材全体の遮音性能を向上させている。また、正温度係数特性(PTC特性)を備えた面状PTCヒータを用いることも知られており、面状発熱体として面状PTCヒータを用いる場合には、サーモスタットや温度ヒューズなどの過昇温防止装置を省略することができる。
【0003】
他の形態の直貼り用床暖房フロア材として、特許文献2には、面状発熱体ではなくコード状ヒータを発熱源として用いたものが記載されている。コード状ヒータ自体にはサーモスタット機能がないことから、この形態の直貼り用床暖房フロア材では、安全性確保の観点から、内部にサーモスタットや温度ヒューズなどの過昇温防止装置を設けることが必要となる。そのために、木質フロア基材内にそれ用の空所領域を設け、その中に過昇温防止装置を収容するようにしているが、過昇温防止装置自体は発熱しないことから、床表面においてその領域が幾分低温領域となり、温度ムラが生じることがある。また、NC加工による木質フロア基材裏面への複雑なヒータ収容用溝や空所領域の加工も必要であり、さらに、コード状ヒータと過昇温防止装置との間の複雑な結線作業も必要とする。
【0004】
一方、正温度係数特性(PTC特性)を有する線状の発熱線が感熱発熱線として知られており、特許文献3等に開示されている。感熱発熱線は、正の抵抗温度係数を有する発熱体層を有しており、そこに電流が流れ温度が上昇すると、発熱体層の抵抗値が増加して発熱体層に流れる電流を減少させ、発熱体層の発熱を抑制し、逆に、発熱体層の温度が低下すると、発熱体層の抵抗値が減少して発熱体層に流れる電流を増加させ、発熱体層の発熱を高める機能を有している。そのために、サーモスタット等の過昇温防止装置を用いなくても、感熱発熱線は、長い時間にわたり所要の温度条件範囲を維持することができる利点がある。そして、特許文献4には、上記の正温度係数特性(PTC特性)を持つ線状発熱線(感熱発熱線)を発熱源として床暖房フロアを構成することが一例として提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−106870号
【特許文献2】特開2001−90972号公報
【特許文献3】特開2004−185947号公報
【特許文献4】特開2003−343868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される形態の直貼り用床暖房フロア材を用いることにより、遮音効果に優れた電気式床暖房フロアを構築することができる。しかし、面状発熱体が木質フロア基材の内部に面接触した状態で位置していることから、面状発熱体が木質フロア基材の挙動を制限するように作用し、木質フロア基材に多数の溝を形成しても、十分な剛性低下が得られず、所望の遮音性能が得られない場合がある。
【0007】
面状発熱体に代えて、特許文献2に記載されるようなコード状ヒータを発熱源として用いる場合には、木質フロア基材の挙動に対する制約は少なくなり、所望の剛性低下を得られるものと期待できるが、サーモスタットや温度ヒューズなどの過昇温防止装置を配置するための空所領域を木質フロア基材に形成する作業が必要となり、また、過昇温防止装置の近傍が低温領域となって、床表面に温度ムラが生じるのを避けられない。
【0008】
本発明は、遮音性能を備えた電気式直貼り用床暖房フロア材の持つ上記のような不都合を解消することを目的とし、より具体的には、特許文献3、4に提案されているような感熱発熱線を発熱源として用いることにより、遮音性能を低下させることなく、製造も容易であり、かつ表面に温度ムラが生じることのない、より実用性に優れた直貼り用床暖房フロア材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による直貼り用床暖房フロア材は、木質フロア基材と、木質フロア基材に組み込んだ電気ヒータと、電気ヒータに接続するコネクタと、木質フロア基材の裏面に貼着した遮音シートとを備えた直貼り式床暖房フロア材であって、木質フロア基材の裏面には遮音用溝と電気ヒータ収容用凹溝が形成されており、また、電気ヒータとして感熱発熱線が用いられ、感熱発熱線は木質フロア基材の裏面に形成した前記電気ヒータ収容用凹溝内に埋設された状態で木質フロア基材に一体化されていることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記した電気ヒータ収容用凹溝は、隣接する凹溝同士がほぼ等しい間隔を保つようにして木質フロア基材の裏面の全面に形成される。
【0011】
前記したように、感熱発熱線はそれ自体が過昇温防止機能を備えており、直貼り式床暖房フロア材の中に、別途、過昇温防止装置を設けなくても、安全性は確保できる。そのために、木質フロア基材の裏面に過昇温防止装置を収容するための空間領域を加工する作業は必要なく、単に感熱発熱線を収容するための電気ヒータ収容用凹溝を加工するだけでよいので、溝加工は大きく簡素化する。また、NC加工等により木質フロア基材の裏面の全面に隣接する凹溝同士がほぼ等しい間隔を保つようにして凹溝加工を行うことも可能となると共に、その加工自体きわめて容易である。さらに、加工された電気ヒータ収容用凹溝内に感熱発熱線を埋め込み、両端にコネクタを接続するだけで、発熱源側の取り付け作業は完了するので、その作業も容易である。感熱発熱線の埋め込みを機械を用いて行うことも可能となる。
【0012】
さらに、感熱発熱線は線状のものであり、木質フロア基材の裏面に形成した電気ヒータ収容用凹溝内に感熱発熱線を埋め込んだ状態でも、裏面に形成した遮音用溝によってもたらされる木質フロア基材の挙動の自由さを阻害することはなく、遮音用溝を形成したことによって生じる遮音性能はほぼそのまま維持される。
【0013】
発熱源を埋め込んだ木質フロア基材の裏面に不織布のような遮音シートを貼着することにより、本発明による直貼り用床暖房フロア材が完成する。感熱発熱線を含む発熱源全体が木質フロア基材の裏面内に入り込んでおり、かつ全体が遮音シートにより覆われているので、直貼り用床暖房フロア材はそれ自体きわめて安定したものであり、運搬時や床暖房施工時などでの取り扱いも、格別の注意を払うことなく行うことができる。
【0014】
床暖房フロアの施工に当たっては、コネクタ同士を接続しながら、直貼り用床暖房フロア材を必要枚数だけ床下地上に接着剤などを用いて直貼りしていくだけでよく、施工作業はきわめて容易である。また、直貼り用床暖房フロア材は内部にヒューズやサーモスタット等の過昇温防止装置を配置していないので、床表面に大きな領域の低温度部分は存在せず、温度ムラが生じることもない。さらに、電気ヒータ収容用凹溝を、隣接する凹溝同士がほぼ等しい間隔を保つようにして木質フロア基材の裏面の全面に形成する場合には、直貼り用床暖房フロア材の表面温度を一層均一化することができ、床暖房フロア表面に温度ムラが生じるのを確実に排除することが可能となる。
【0015】
本発明において、木質フロア基材は、従来の電気式床暖房フロア材で用いられている木質フロア基材をすべて用いることができ、合板基材、MDFのような木質加工基材、無垢材による基材など任意である。表面に、必要な場合には均熱板を貼り付け、その上に表面化粧材を貼り付けるようにしてもよい。また、木質フロア基材は、1枚物であってもよく、複数本の長尺状単位ピースを雁木状に組み付けて構成したものでもよい。後者の場合には、感熱発熱線を埋設するための電気ヒータ収容用凹溝は、各長尺状単位ピースに連続するようにして形成される。いずれの場合も、木質フロア基材の裏面には前記したように好ましくは感熱発熱線が走る方向に直交するようにして10mm程度の間隔で多数の遮音用溝が形成される。それにより、木質フロア基材は剛性が低下して柔軟性を持つようになり、遮音性の向上が図られる。
【0016】
本発明において、感熱発熱線は、正温度係数特性(PTC特性)を備えた線状の感熱発熱線を適宜用いることができ、例えば、前記した特許文献3あるいは特許文献4などに記載されている従来知られた感熱発熱線をそのまま用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遮音性能を低下させることなく、製造も容易であり、かつ表面に温度ムラが生じることのない、より実用性に優れた直貼り用床暖房フロア材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は本発明による直貼り用床暖房フロア材の一実施の形態を示す背面図であり、図2aは図1でのa−a線での断面図、図2bは図1でのb−b線での断面図である。図3は直貼り用床暖房フロア材の一部を遮音シートを除いた状態で示す拡大斜視図である。図4は本発明による直貼り用床暖房フロア材で用いる正温度係数特性(PTC特性)を備えた感熱発熱線の一例を説明するための断面図である。
【0019】
図1、図2に示すように、直貼り用床暖房フロア材10は、合板などで作られた木質フロア基材11を備える。木質フロア基材11は一枚物であってもよく、図示するもののように、4周にサネ加工を施した複数本(図示のものでは4本)の長尺状単位ピース11aを雁木状に組み付けて構成してもよい。いずれにしても、木質フロア基材11の周囲には雄実12と雌実13が形成され、隣接する直貼り式床暖房フロア材10同士の接続を安定化している。また、木質フロア基材11の裏面には、図1,図3に示すように、その短辺方向に平行な多数の遮音用溝14が、両端が木質フロア基材11の左右の長辺にまで達するようにして形成されている。遮音用溝14は、好ましくは10mm程度の間隔をおいて形成される。1つの遮音用溝14の溝幅は1〜2mm程度であり、その深さは所望の遮音性能が得られるまでに木質フロア基材11の剛性を低下させ得る深さにまで成形される。
【0020】
木質フロア基材11の裏面には、4枚の長尺状単位ピース11aを連続するようにして感熱発熱線Aのための電気ヒータ収容用凹溝15が形成されている。好ましくは、電気ヒータ収容用凹溝15は、図示されるように、隣接する凹溝同士がほぼ等しい間隔を保つようにして木質フロア基材の裏面の全面に形成される。形成した電気ヒータ収容用凹溝15内には、発熱源である正温度係数特性(PTC特性)を備えた感熱発熱線Aが埋設されている。感熱発熱線Aの両端には電源線16を介して雄コネクタ17と雌コネクタ18が接続しており、各コネクタ17,18は、木質フロア基材11の裏面に形成したそれぞれのコネクタ収容凹部19,20内に収容されている。この例において、雄コネクタ17はコネクタ収容凹部19内に引き出し可能な状態で収容されている。この場合、コネクタ収容凹部19は大きな平面積を持つこととなるので、強度を確保するために、コネクタ収容凹部19内には補強板22(図2b)が取り付けてある。
【0021】
木質フロア基材11の裏面には、その全面を覆うようにして不織布のような緩衝性を備えた遮音シート21が貼着されている。
【0022】
図4は、本発明による直貼り式床暖房フロア材で使用する感熱発熱線Aの一例を断面で示している。この感熱発熱線Aは、線状電極1aと1bを長手方向に一定の間隔を隔てて平行に配置し、この線状電極1aと1bの軸方向外周全体を覆うように正の抵抗温度係数を有する発熱体層2を断面円形または楕円形状に押出成形し、さらに、この発熱体層2の外周に絶縁シース層3を押出被覆して短手方向の断面を円形または楕円形状に形成した構造を有する。
【0023】
正の抵抗温度係数を有する発熱体層2は少なくとも熱可塑性樹脂および導電性粒子を含有しており、熱可塑性樹脂としては結晶性熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、ポリオレフィン樹脂及びその共重合樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ジエン系重合体、ポリフェニレンオキシド樹脂、ノニル樹脂、ポリスルフォン樹脂等を挙げることができる。分配配合される導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック粒子、グラファイト粒子等の粒状物、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の金属微粒子、金属粉体、金属酸化粉体等の粉状物、炭素繊維等の繊維状物、導電性無機材料(In―Sn―O等)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等の正の抵抗温度係数を有する無機材料等を挙げることができる。
【0024】
この感熱発熱線Aにおいて、線状電極1aと1bに通電することにより、発熱体層2に電流が流れ発熱する。正の抵抗温度係数を有する発熱体層2は、発熱体層2に電流が流れ、発熱体層2の温度が上昇すると、発熱体層2の抵抗値が増加して発熱体層2に流れる電流を減少させ、発熱体層2の発熱を抑制し、逆に、発熱体層2の温度が低下すると、発熱体層2の抵抗値が減少して発熱体層2に流れる電流を増加させ、発熱体層2の発熱を高める機能を有している。そのために、サーモスタット等の過昇温防止装置を用いなくても、感熱発熱線Aは、長い時間にわたり所要の温度条件範囲を維持することができ、かつ温度分布も均一となる。
【0025】
なお、発熱体層2と絶縁シース層3の間には、必要に応じ、バリア層4が介在されてもよい。バリア層4は例えばポリエステルテープを縦添えして形成される。さらに、好ましくは、発熱体層2の熱による経時的な劣化を防止し、長期間安定した発熱が具現されるように、一対の線状電極1aと1b間にポリエチレン樹脂等で形成される絶縁体障壁5を配置することも行われる。
【0026】
上記した直貼り式床暖房フロア材10の複数枚をコネクタ同士を接続しながら床下地上に敷設することにより、電気式床暖房フロアが形成される。直貼り式床暖房フロア材10の発熱源は前記した感熱発熱線Aであり、サーモスタット等の過昇温防止装置を組み込まなくても、単に通電を継続するだけで、電気式床暖房フロアとして一定の温度範囲を維持することができる。また、低温領域となりがちな過昇温防止装置が存在しないことから、フロア表面での温度ムラも発生することはない。さらに、木質フロア基材11には遮音用溝14が形成されており、かつ裏面には遮音シート21が貼着されていることから、電気式床暖房フロアの高い遮音性能も確保される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による直貼り用床暖房フロア材の一実施の形態を示す背面図。
【図2】図2aは図1でのa−a線での断面図、図2bは図1でのb−b線での断面図。
【図3】直貼り用床暖房フロア材の一部を遮音シートを除いた状態で示す拡大斜視図。
【図4】本発明による直貼り用床暖房フロア材で用いる正温度係数特性(PTC特性)を備えた感熱発熱線の一例を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0028】
A…正温度係数特性(PTC特性)を備えた感熱発熱線、1a、1b…線状電極、2…発熱体層、3…絶縁シース層、4…バリア層、10…直貼り式床暖房フロア材、11…木質フロア基材、11a…長尺状単位ピース、14…遮音用溝、15…電気ヒータ収容用凹溝、16…電源線、17,18…コネクタ、19,20…コネクタ収容凹部、21…遮音シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質フロア基材と、木質フロア基材に組み込んだ電気ヒータと、電気ヒータに接続するコネクタと、木質フロア基材の裏面に貼着した遮音シートとを備えた直貼り式床暖房フロア材であって、
木質フロア基材の裏面には遮音用溝と電気ヒータ収容用凹溝が形成されており、また、電気ヒータとして感熱発熱線が用いられ、感熱発熱線は木質フロア基材の裏面に形成した前記電気ヒータ収容用凹溝内に埋設された状態で木質フロア基材に一体化されていることを特徴とする直貼り式床暖房フロア材。
【請求項2】
電気ヒータ収容用凹溝は、隣接する凹溝同士がほぼ等しい間隔を保つようにして木質フロア基材の裏面の全面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の直貼り用床暖房フロア材。
【請求項3】
木質フロア基材は複数本の長尺状単位ピースを雁木状に組み付けて構成されており、感熱発熱線を埋設するための電気ヒータ収容用凹溝は、各長尺状単位ピースに連続するようにして形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の直貼り用床暖房フロア材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−32067(P2007−32067A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216176(P2005−216176)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】