説明

相乗作用を示す銀含有殺生物組成物

第一の成分が1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンおよび/またはN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンおよび/またはN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの形態で体現され、他方の成分が銀成分の形態、例えば有機銀塩もしくは無機銀塩、コロイダルシルバー、銀粒子、または酸化銀の形態で体現される、少なくとも二つの殺生物成分の組み合わせを含む殺生物組成物。本発明の組成物は、様々な細菌および真菌に対する広いスペクトルの活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも二つの殺生物組成物の組み合わせを含む殺生物組成物に関する。この組成物における一方の成分は特定のイソチアゾリノン成分であり、他方の成分は銀である。この殺生物組成物は有害な微生物を防除するのに使用できる。
【背景技術】
【0002】
殺生物製品は日常生活の多くの場面で、例えば有害な細菌、真菌、または藻類の防除のために使用される。この種の組成物においては、3−イソチアゾリン−3−オン(3−イソチアゾロンとも称される)のクラスの化合物を使用することが以前から知られている。
【0003】
このクラスの化合物には、いくつかの場合で様々な活性プロフィールを示す非常に効果的な殺生物化合物が含まれる。またしばしば、種々の3−イソチアゾリン−3−オンと他の公知の殺生物性活性物質との組み合わせて使用されることもある(例えば、WO 99/08530 A、EP 0457435 A、EP 0542721 A、およびWO 02/17716 Aを参照のこと)。
【0004】
殺生物組成物に課される要求、例えば健康および環境保護への配慮に関する要求が大きくなる一方であることに鑑みれば、これらの公知の製品のさらなる改良が必要である。
【0005】
何世紀も前から、銀およびその化合物が殺菌活性または抗菌活性を有することが知られている。様々な理由から、抗菌剤としての銀化合物の使用は特定分野に制限される。
【0006】
保存用途について記載された銀調製物には、例えば、コロイド状の銀元素(elemental silver)、銀ナノ粒子の分散物、酸化銀等の銀化合物、または有機銀塩および無機銀塩が含まれる。これらの調製物における銀または銀化合物は、キャリア物質、例えばシリカ、二酸化チタン、ゼオライト、またはガラスに埋め込まれる場合もある。
【0007】
銀による保存の欠点の一つは、銀化合物が、特に還元性化合物の存在下および光の影響下で望ましくない変色を引き起こし得ることである。さらに、酵母およびかびに対する銀の活性は細菌に対する活性ほど強くなく、従って活性スペクトルのバランスをとるために高い濃度が必要になる。これは変色の危険を増大させる。さらに、市場の多くの他の殺生物処方物と比較して、銀含有殺生物調製物はかなり高額でもあり、これによってそれらの使用は大きく制限される。
【0008】
抗菌剤として銀を使用する一般的な分野の例には、医療および製薬部門、ならびに水処理部門も含まれる。工業製品の保存の部門においては、接着剤、シーラント、およびコーティング材、例えば塗料、プラスター、およびワニスに関して;浴室およびWC用品に関して;およびポリマー分散物、顔料調製物、およびプラスチックに関しても、銀が公知である。ドイツ国特許出願公開DE−A 10346387は、銀を潜在的な保存剤として認定している。
【0009】
1984年にさかのぼると、特開昭59−142543の特許要約書には、塩化銀も含有する写真感光材料における防腐剤イソチアゾリノンの使用が記載された。WO 02/15693では、極めて一般的に、殺生物混合物における金属ゼオライト(例えば、銀を含有するゼオライトを含む)の使用が言及されている。
【0010】
特許GB 1 389 940には、金属塩を含む、腐食から保護されるイソチアゾリノンの溶液が記載され、この組成物を含む塗材も記載されている。この金属は銀であり得る。
【0011】
特開平08−092010には、少量のイソチアゾリノンおよび少量の抗菌性金属または金属化合物を含む抗菌樹脂組成物が記載されている。この金属は銀であり得る。
【0012】
特開2000−044415には、銀錯体および抗菌化合物を含む無機層状化合物が記載されている。抗菌化合物は好ましくはイソチアゾリノンである。無機層状化合物は好ましくはリン酸カルシウムである。
【0013】
DE−A 43 39 248には、特定量の貴金属イオンを含む安定保存可能なイソチアゾリノンの水溶液が記載されている。この貴金属イオンは銀であり得る。列挙されているイソチアゾリノンはMITおよびCITのみである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、その成分が相互に有利に補い合うかまたは相乗的に協力し合い、従って個々の成分の場合に必要とされる濃度と比較して低濃度で使用できる点で区別される、少なくとも二つの殺生物成分を含む新規な殺生物組成物を提供することである。さらなる目的は、上記の殺生物成分をコーティング(例えば、ワニスまたは塗料)に使用することである。最後に、さらなる目的は、殺生物性を付与された製品、特にコーティング材および塗材(paint material)を製造することである。
【0015】
ひいては、その意図するところは、人類および環境に対する負担を軽減することであり、有害な微生物を防除する費用を抑制することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、本発明に従い、一方の成分が1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、およびN−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含む群の中の少なくとも一つの化合物を含み、さらなる殺生物成分として銀も含む、少なくとも二つの殺生物成分の組み合わせを含む殺生物組成物によって達成される。
【0017】
本発明の殺生物組成物は、ベンゾイソチアゾリノン(ベンゾイソチアゾリノン成分)と銀の相乗作用的協力によって、ベンゾイソチアゾリノンもしくはベンゾイソチアゾリノン成分および/または銀の必要使用濃度を減らすことを可能にする点で区別される。この結果として、多くの適用領域において、ベンゾイソチアゾリノンを含む殺生物組成物の感作作用(sensitizing effect)を抑制すること、およびそれらの環境適応性を改善することが可能である。同時に、公知の銀含有殺生物調製物と比較して費用を抑制することが可能である。本発明の殺生物組成物のさらなる利点は、その広い活性スペクトルに加えて、その長期安定性および活性持続性にある。
【0018】
本発明の殺生物組成物ならびにこれらを用いて抗菌性を付与した製品および調製物は、銀レベルが低いことから安定保存可能であり、公知の銀含有製品よりも有意に低い変色傾向しか示さない。この調製物は、本発明に従い殺生物性が付与された製品を適切に使用する場合、それが変色または灰色化(graying)する事例が全くなくなるかまたは少なくとも目立った事例がなくなるように容易に処方できる。従って、本発明の殺生物組成物は、実際に使用した際に変色または灰色化しないことが望まれる製品、例えば塗料、接着剤、分散物、ラテックス、ワニス等の殺生物処理に特に適する。
【0019】
本発明の殺生物組成物のさらなる利点は、汚染物質排出が少ないこと、特に3−イソチアゾリン−3−オン単独の殺生物組成物と比較して少ないことである。この理由からも、これらは缶内防腐(in−can preservation)およびフィルム保存(塗料、ワニス、接着剤等も参照)に特に適している。さらに、ハロゲン化された3−イソチアゾリン−3−オンの非存在、特に5−クロロ−2−メチルイソチアゾリン−3−オンの非存在により、本発明の殺生物組成物は、AOXをドイツ国の法律により規制されているレベル以下に抑えて処方できる点が有利である。かつ、本発明の殺生物組成物の毒性学的・環境毒性学的特性は改善されている。
【0020】
意図されるベンゾイソチアゾリノンは、三つの上記化合物、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、およびN−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含み、一方殺生物組成物用で公知のその他の3−イソ−チアゾリノンは比較的適さないことが見出された:例えば、クロロメチルイソチアゾリノンを参照されたい。
【0021】
本発明の殺生物組成物は、一つの成分として、上記ベンゾイソチアゾリン−3−オンのうちの一つのみ、またはそれ以外にもそのうちの二つの混合物を含み得る。これに関連して、一つの実施態様において、殺生物組成物は、一つの成分として、N−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンのみを含有する。本発明の一つの特に好ましい実施態様において、殺生物組成物は一つの成分として、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンのみもしくはN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンのみのいずれかまたはこの二つの混合物を含む。最後に言及したケースでは、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン 対 N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの質量比が、典型的には(10〜1):(1〜10)の範囲、好ましくは(4〜1):(1〜4)の範囲、より好ましくは1:1の範囲にあり、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンおよびN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを2:1または1:2の質量比で含む製品もまた大きな利点を有する。
【0022】
上記のベンゾイソチアゾリノン成分はまた、イソチアゾリノン群の中のさらなる有機殺生物剤、例えばオクチルイソチアゾリノン(OIT)と共に使用できる。好ましくは、さらなる殺生物剤は、ハロゲンを含まない物質、特にCMITを含まない物質である。
【0023】
本発明の殺生物組成物の第二成分の本質的特徴は銀の存在である。殺生物組成物のこの第二成分において、銀は、微粉化形態の、銀元素(Ag0)として、および/または可溶型もしくは不溶型の銀化合物の形態で、および/または銀イオン(Ag+)として存在する。本発明の殺生物組成物が液体形態であるか固体形態であるかに依存して、およびその中での銀の存在形態に依存して、殺生物組成物中の銀は、例えば溶液もしくは固体混合物として、またはコロイド状の分配物、例えばコロイド状分散形態もしくはナノ粒子形態として均一に分配され得る。
【0024】
一つの特定の実施態様において、銀は有機銀塩もしくは無機銀塩の形態で、コロイダルシルバーもしくは銀ナノ粒子として、または酸化銀として使用される。
【0025】
本発明の別の実施態様において、銀は、3−ベンゾイソチアゾリノンと一緒になって、一つの成分を形成する(例えば、BITの銀塩の使用)。
【0026】
この場合、この組み合わせ成分は、調製物の成分が混合された際に形成される場合もあり、あるいは最初から一つの成分として存在する場合もある。この実施態様は、フィルム保存の関係で適用するのに特に適する。
【0027】
本発明の好ましい殺生物組成物は、0.1〜100μm、好ましくは0.2〜80μm、特に0.25〜60μmの粒子サイズを有する元素の形態の銀(Ag0)を含む。一つの特定の好ましい実施態様において、使用される銀は、0.001〜0.1μm、好ましくは0.002〜0.05μm、特に0.004〜0.01μmの粒子サイズを有するよりはるかに微粉化された銀、ナノ銀である。
【0028】
あるいは、銀は、本発明の殺生物組成物において銀化合物の形態で存在し得る。適切なこのような銀化合物には、特に酸化銀ならびに有機銀塩および/または無機銀塩、例えば硝酸銀、酢酸銀、安息香酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、または銀ヘキサメチレンテトラミンが含まれる。光に敏感および変色に敏感な銀化合物、例えばハロゲン化銀、例えば塩化銀または臭化銀を本発明の殺生物組成物における銀成分として使用する場合、それらを特定の安定化された調製物として使用するのが有利である。例えば、光に敏感および変色に敏感な銀化合物が光の照射から保護されるように、それらをカプセルで包むことができ、カプセルで包んだとしても同時に殺微生物性の銀イオンが透過できるようにする。この様式で、塩化銀は、例えば二酸化チタンキャリア物質上の安定化された調製物として使用できる。光安定性の銀化合物はまた、直接的に使用することもできる。
【0029】
粒子サイズが小さい銀は、その銀をキャリア物質に塗布または埋め込むことによって本発明の殺生物組成物の成分として使用できる利点がある。この目的で、適切なキャリア物質に、例えばコロイダルシルバー溶液を含浸させるかまたは微粉化された銀および/もしくは銀化合物を混合することが可能である。当然ながら、適切な造粒補助剤を加えることで、キャリア物質と共に銀を粒状にすることも可能である。適切なキャリア物質には、特にビルダーが含まれ、例えばゼオライトである。これらに加えて、多孔性物質、例えばシリカ、ヒュームドシリカ、例えばベントナイト、ポリマー物質または珪藻土(diatomaceous earth)(「珪藻土(kieselguhr)」)もまたキャリア物質として使用することが可能であり、さらにイオン交換能を有するセラミック物質、例えばリン酸ジルコニウム系のセラミック物質、またはその他ではガラス、特に生物活性もしくは殺生物性ガラスも使用できる。キャリア物質に固定された銀は既に市販されており、例えば、AlphaSan(登録商標)(製造元:Milliken)または他ではAgION(登録商標)(製造元:AgION Technologies)がある。
【0030】
本発明の殺生物組成物において、銀に加えて、例えば微量(例えば<0.01ppm)であっても銀の抗菌活性を活性化するさらなる貴金属、例えば金および/またはパラジウムを使用するのが有利な場合がある。
【0031】
本発明の殺生物組成物は、好ましくは特定の量(絶対的な意味だけでなくイソチアゾリン−3−オン成分に対する相対的な意味で)の銀成分(または銀化合物)を含む。これに関連して、本発明の目的のために、計算に使用される基準は常に銀(Ag0)の量である。例えば、本発明の製品が1kgあたり100mgの塩化銀を含む場合、その銀含有量は1kgあたり73.53mgであり、質量%では0.007質量%として表わされる。
【0032】
本発明の殺生物組成物中の銀成分およびベンゾイソチアゾリノン成分は1:1〜100、好ましくは1:1〜50、特に1:1〜25の質量比で存在する場合が有利である。
【0033】
本発明の殺生物組成物は、種々の調製物、例えばそれが含有する成分の混合物として固体形態で存在していてもよく、またその調製物で使用してもよい。
【0034】
本発明の殺生物調製物は、0.01質量%〜50質量%、好ましくは0.1質量%〜25質量%、より好ましくは0.5質量%〜10質量%、特に好ましくは1.0質量%〜5.0質量%の量で銀(Ag0)を含むと有利である。本発明の殺生物調製物における3−イソチアゾリン−3−オン成分の量は、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは0.25質量%〜25質量%、特に好ましくは0.5質量%〜20質量%、極めて好ましくは0.75質量%〜15質量%である。
【0035】
一つの有利な実施態様において、本発明の殺生物組成物は、液体調製物の形態:例えば溶液、懸濁液、または液体媒体中の分散物として存在する。当然ながら、本発明の殺生物調製物はまた、保存しようとする製品と直接的に混合することも可能である。
【0036】
一つの有利な実施態様において、本発明の殺生物調製物が液体調製物として使用される場合、使用される液体媒体は、極性媒体および/または非極性媒体であり得る。好ましい極性液体媒体は、水、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、例えばエタノールおよびイソプロパノール、グリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、およびトリプロピレングリコール、グリコールエーテル、例えばブチルグリコールおよびブチルジグリコール、グリコールエステル、例えばブチルジグリコールアセタートまたは2,2,4−トリメチルペンタンジオールモノイソブチラート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミドまたは二つもしくはそれ以上のこのような媒体の混合物である。極性液体媒体は特に、水である。
【0037】
利用可能な非極性液体媒体の例には、芳香族化合物、好ましくはキシレンおよびトルエンが含まれる。これらもまた単独で使用でき、二つまたはそれ以上のこのような媒体の混合物として使用することもできる。
【0038】
本発明の殺生物組成物はまた、極性液体媒体および非極性液体媒体と同時に組み合わせることができる。
【0039】
さらなる選択肢は、さらなる活性物質の添加を通じて本発明の殺生物組成物を特定の目的に適合させること:例えば殺生物活性の向上または適合性の改善のために、本組成物を微生物から保護しようとする物品に適合させることである。
【0040】
このようなさらなる殺生物活性物質の具体例を以下に示す:
ベンジルアルコール
2,4−ジクロロベンジルアルコール
2−フェノキシエタノール
2−フェノキシエタノールヘミホルマール
フェニルエチルアルコール
5−ブロモ−5−ニトロ−1,3−ジオキサン
ホルムアルデヒドおよびホルムアルデヒド放出化合物
ジメチロールジメチルヒダントイン
グリコキサール
グルタルアルデヒド
ソルビン酸
安息香酸
サリチル酸
p−ヒドロキシ安息香酸エステル
クロロアセトアミド
N−メチロールクロロアセトアミド
フェノール、例えばp−クロロ−m−クレゾールおよびo−フェニルフェノール
N−メチロール尿素
N,N−ジメチロール尿素
ベンジルホルマール
4,4−ジメチル−1,3−オキサゾリジン
1,3,5−ヘキサヒドロトリアジン誘導体
第4級アンモニウム化合物、例えば
N−アルキル−N,N−ジメチルベンジルアンモニウムクロリドおよび
ジ−n−デシルジメチルアンモニウムクロリド
塩化セチルピリジウム
ジグアニジン
ポリビグアニド
クロルヘキシジン
1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン
3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド
エチレングリコールヘミホルマール
テトラ(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩
ジクロロフェン
2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド
3−ヨード−2−プロピニルN−ブチルカルバマート
メチルN−ベンズイミダゾール−2−イルカルバマート
N,N−ジメチル−2,2'−ジチオジベンズアミド
2−チオシアノメチルチオベンゾチアゾール
C−ホルマール、例えば
2−ヒドロキシメチル−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール
2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール
メチレンビスチオシアナート
アラントインの反応産物
【0041】
好ましいこのようなさらなる殺生物活性物質は、3−ヨード−2−プロピニルN−ブチルカルバマート、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出化合物、および2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールである。
【0042】
ホルムアルデヒド放出化合物の例は、N−ホルマール、例えば
テトラメチロールアセチレン二尿素
N,N'−ジメチルロール尿素
N−メチロール尿素
ジメチロールジメチルヒダントイン
N−メチロールクロロアセトアミド
アラントインの反応産物
グルコールホルマール、例えば
エチレングリコールホルマール
ブチルジグリコールホルマール
ベンジルホルマール
である。
【0043】
本発明の殺生物組成物はさらに、殺生物剤の分野で添加物として当業者に公知のその他の典型的な構成成分も含み得る。これらは、例えば増粘剤、消泡剤、pH調整剤、芳香剤、分散補助剤、および着色化合物または変色防止剤、錯化剤、ならびに安定剤である。
【0044】
本発明に従って使用されるベンゾイソチアゾリノンは公知の化合物であり、従って商業的に入手可能であるかまたは公知の方法により製造できる。
【0045】
本発明の殺生物組成物は、非常に広範な分野にわたる保存に使用できる。例えば塗材およびコーティング材(例えば塗料、ワニス、ステイン(stains:着色剤)、およびプラスター(壁塗装材))において、例えばエマルジョン、ラテックス、ポリマー分散物、リグノスルホナート、チョークスラリー、ミネラルスラリー、セラミック塊(ceramic masses)、接着剤、シーラント、カゼイン含有製品、デンプン含有製品、ビチューメンエマルジョン、界面活性剤溶液、モーター用燃料、洗浄剤製品、顔料ペーストおよび顔料分散物、インク、リソグラフィー用流体、増粘剤、化粧品、洗面用品、水回路(water circuits)、紙加工に関係する液体、皮革品製造に関係する液体、織物(textile)製造に関係する液体、ドリリングオイルおよびカッティングオイル、油圧式流体(hydraulic fluids)、冷却潤滑剤、ならびにポリマーコーティング(例えば床、ラミネート、家具部品、ベニア板、およびワニス用のポリマーコーティング)において、例えば細菌、糸状菌、酵母、および藻類の侵襲に抗するために使用するのに適する。
【0046】
殺生物組成物は、特に塗材およびコーティング材、例えばワニス、接着剤、および塗料、とりわけ屋内用途の使用(例えば屋内用エマルジョン塗料への添加)に適する。
【0047】
好ましくは、本発明の殺生物組成物は、塗材および/またはコーティング材、例えば塗料、ワニス、ステイン、および下塗り材において、エマルジョン、ラテックス、ポリマー分散物、接着剤、洗浄剤製品、ミネラルスラリー、セラミック塊、顔料ペーストおよび顔料分散物、ならびにシーラントにおいて微生物の侵襲に抗するために使用される。特に好ましい使用分野は、塗材およびコーティング材、例えば塗料、ワニス、ステイン、およびプラスターであり、エマルジョン、ラテックス、ポリマー分散物、および接着剤でもある。
【0048】
さらに本発明は、上記成分を適切な助剤(例えば溶媒など)と組み合わせることを含む、殺生物組成物の製造方法に関する。
【0049】
本発明はまた、商業的に常用の塗材およびコーティング材を上記の殺生物調製物と混合することを含む、塗材およびコーティング材の製造方法に関する。好ましくはこれらの成分は密に混合される。
【0050】
実際の適用に関して、殺生物組成物は、完成混合品として、またはその殺生物剤と組成物の他成分とを別々に添加することによって、保存しようとする物品に組み入れることができる。
【0051】
本発明の殺生物組成物を用いて微生物の侵襲から保存しようとする物品において、銀は好ましくは0.1ppm〜100ppmの量で、より好ましくは0.1ppm〜50ppmの量で、さらに好ましくは0.1ppm〜25ppmの量で、特に好ましくは0.1ppm〜10ppmの量で、とりわけ好ましくは0.1ppm〜5ppmの量で存在する。保存用の物品における1つまたは複数のベンゾイソチアゾリノンの量は、好ましくは0.0001質量%〜0.1質量%、より好ましくは0.001質量%〜0.05質量%、さらに好ましくは0.002質量%〜0.03質量%、特に好ましくは0.003質量%〜0.02質量%、とりわけ好ましくは0.005質量%〜0.0150質量%である。
【0052】
殺生物組成物は、カンジダアルビカンス(Candida albicans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、および大腸菌(Escherichia coli)を防除するのに特に適する。
【0053】
以下の実施例により本発明を例証する。
【実施例】
【0054】
実施例1
イソチアゾリノン/銀の組み合わせを含む殺生物組成物の活性の調査(ASTM E 2180規格に従い測定)
銀およびイソチアゾリノンの種々の組み合わせ(5ppmの銀イオンと、各々50ppmのメチル−/ベンゾ−/N−メチルベンゾ−/N−ブチルベンゾ−/オクチル−イソチアゾリノンまたは15ppmのクロロメチル−/メチル−イソチアゾリノン(3:1)の組み合わせ)の活性を、この殺生物混合物と混合した商業的に常用の塗膜(paint film)において試験した。
【0055】
殺生物処方物は以下の溶液を含む:
Acticide(登録商標)M 10由来のMIT(10%強度の水性MIT溶液);Acticide(登録商標)BW10由来のBIT(10%強度の水性BIT分散物);
Acticide(登録商標)OTW 8由来のOIT(8%強度の水性OITエマルジョン);
Acticide(登録商標)MV由来のCIT/MIT(3:1)(1.5%強度の水性CIT/MIT溶液);
ジプロピレングリコール中5%強度のストック溶液由来のN−メチル−BIT(米国特許第3,761,489号に従い製造可能);
Vanquish(登録商標)100(製造元:Avecia)由来のN−ブチルBIT;ジプロピレングリコール中5%強度のストック溶液を使用した;
二酸化チタンキャリア上の塩化銀由来の銀(二酸化チタン上2%の塩化銀、製品名IMAC LP 10(製造元:Clariant,Germany))。
【0056】
殺生物処方物は、塗膜における個々の活性物質の各使用濃度を得るために適宜希釈した。
【0057】
CIT/MIT(3:1)の濃度は15ppmに限定した。
【0058】
使用した塗料は標準的な屋内用エマルジョン塗料であり、その処方は以下の通りであった:
成分 百分率
水 17.95
Calgon N neu(硬水軟化剤) 0.05
Dispex N 40(分散剤) 0.3
Agitan 315(消泡剤) 0.2
CA 24(増量剤) 0.2
TiO2顔料(二酸化チタン) 22
タルク5/0(フィラー) 7
Socal P 2(フィラー) 2
Omyacarb 2−GU(方解石) 11.80
Omyacarb 5−GU(方解石) 15.50
Celite 281 SS(フィラー) 2
Tyloseペースト3%(増粘剤) 10
Mowilith LDM 1871(結合剤) 11
【0059】
本実験は、抗菌活性の調査に関する標準的な試験方法(ASTM E 2180)に沿って行った。この目的のために、イソチアゾリノン/銀成分を上記の塗料に組み入れ、十分撹拌し、次いでガラス支持体(寸法4.5cm×4.5cm)に適用した。このようにして得た試験標本を、均一な乾燥塗膜とするため40℃の温度で3日間保存した。
【0060】
乾燥塗膜に、バッチの微生物数が1×106CFU/ml(コロニー形成単位/ml)の各試験生物を含む寒天スラリーを重層した。接種した試験標本を、加湿雰囲気、室温下で24時間インキュベートし、次いで生存細胞を寒天スラリーの連続希釈により測定した。
【0061】
本研究に使用したテンプレート微生物は以下の三つの生物であった:黄色ブドウ球菌ATCC 6538、大腸菌ATCC 8739、カンジダアルビカンスATCC 10259。
【0062】
この目的のために、希釈したスラリー溶出液を選択的栄養素上にプレーティングし、30℃で48時間(細菌)または25℃で72時間(酵母)の間、対応するインキュベータ内で保存した。比較のために、未保存の上記塗料(ブランク)および未接種の滅菌コントロール(コントロール)の各々のケースを使用した。
【0063】
(c)BIT/銀および(f)N−メチル−BIT/銀の組み合わせによって、驚くべきほど強い活性が達成され、三つ全ての試験微生物に対して有意に微生物数を減少させた。
【0064】
他の組み合わせは全て、塗料において限られた活性しか示さなかった。
【0065】
サンプル(a)、未保存品(ブランク)、および(b)MIT/銀は不十分な活性しか示さず、サンプル(d)、CIT/MIT(3:1)/銀、(e)OIT/銀、および(g)ブチル−BIT/銀も同様にカンジダアルビカンスに対する活性を示したが、試験した他の二つの細菌株に対しては活性であることが実証されなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2 相乗効果の調査
銀と1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(BIT)の組み合わせの相乗作用を試験した。銀は硝酸銀の形態で使用した。例えば30ppmの硝酸銀を使用する場合の銀の量は19.1ppmである。使用した試験生物はグラム陰性細菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(ATCC 9027)であった。試験用に、種々の濃度の硝酸銀およびBITを含む水性混合物を調製し、緑膿菌に対するそれらの活性を試験した。水性混合物はさらに、ミュラー・ヒントンブロス(市販品「Merck Nr.10393」)を栄養培地として加えた。緑膿菌の細胞密度は106微生物/mlであった。
【0068】
インキュベート時間は25℃で72時間であった。各サンプルは、インキュベーションシェーカーを用いて120rpmでインキュベートした。72時間後に緑膿菌の増殖についてサンプルを調査した。増殖は栄養培地の混濁化を通して示された。この方法で二つの活性物質の個別のおよび組み合わせの最小阻止濃度(MIC)を確認した。MICは栄養培地が混濁化しなくなる濃度である。
【0069】
相乗作用が生じていることを、シナジー指数(SI)を算出することによって数値的に表した。この計算は、F.C.Kull et al.,Applied Microbiology,vol.9(1961),p.538のごく普通の方法に従って行った。同書においてSIは次式に従って算出される:
シナジー指数SI=Qa/QA + Qb/QB
この式を本試験下の殺生物系BIT+Agに適用する場合、式のパラメータは以下の通りに規定される:
a=BIT+Agの殺生物混合物中のBITの濃度
A=一成分殺生物剤としてのBITの濃度
b=BIT+Agの殺生物混合物中のAgの濃度
B=一成分殺生物剤としてのAgの濃度
【0070】
シナジー指数が1より大きい値を有する場合、これは拮抗作用が生じていることを意味する。シナジー指数の値が1の場合、これは二つの殺生物剤が加算的な効果を有することを意味する。シナジー指数が1未満の値の場合、これは二つの殺生物剤が相乗作用を示すことを意味する。
【0071】
表2は、緑膿菌(ATCC 9027)のケースで見出された最小阻止濃度ならびに銀およびBITの組み合わせについて算出されたシナジー指数を示す。
【表2】

【0072】
表2から、最適な相乗作用、すなわちBIT+Ag混合物の最も低いシナジー指数(0.63)が、86.3質量%のBIT対13.7質量%のAgの比率において生じることが明らかになった。
【0073】
実施例3 相乗効果の調査
緑膿菌に代えて黄色ブドウ球菌(ATCC 6538)をグラム陰性試験生物として用いたことを除いて同じ方法で実施例2の試験を繰り返した。表3は、試験した系において見出された最小阻止濃度および算出されたシナジー指数を示す。
【表3】

【0074】
表3から、最適な相乗作用、すなわちBIT+Ag混合物の最も低いシナジー指数(0.42)が、61.0質量%のBIT対39.0質量%のAgの比率において生じることが明らかになった。
【0075】
実施例4 MBITによる相乗作用に関する実験
殺生物成分としてN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(MBIT)を用いたことを除いて同じ方法で実施例3を繰り返した。
【表4】

【0076】
表4から、最適な相乗作用、すなわちMBIT+Ag混合物の最も低いシナジー指数(0.69)が、67.6質量%のMBIT対34.2質量%のAgの比率において生じることが明らかになった。
【0077】
実施例5 N−ブチル−BITによる相乗作用に関する実験
殺生物成分としてN−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(BBIT)を用いたことを除いて実施例3を繰り返した。
【表5】

【0078】
表5から、最適な相乗作用、すなわちBBIT+Ag混合物の最も低いシナジー指数(0.57)が、84.0質量%のBBIT対16.0質量%のAgの比率において生じることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の成分が1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、およびN−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを含む群より選択される少なくとも一つの化合物を含み、他方の成分が銀元素および/または有機銀化合物もしくは無機銀化合物の形態の銀を含む、少なくとも二つの殺生物成分の組み合わせを含む殺生物組成物。
【請求項2】
銀が有機銀塩もしくは無機銀塩の形態でまたはコロイダルシルバーもしくは銀ナノ粒子として存在する、請求項1に記載の殺生物組成物。
【請求項3】
銀が有機キャリア物質または無機キャリア物質に埋め込まれている、請求項1または2に記載の殺生物組成物。
【請求項4】
銀が遊離可能な形態でガラス、ゼオライト、またはイオン交換樹脂中に存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項5】
銀成分およびベンゾイソチアゾリノン成分が1:1〜100の質量比で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項6】
銀成分およびベンゾイソチアゾリノン成分が1:1〜50の質量比で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項7】
銀成分およびベンゾイソチアゾリノン成分が1:1〜25の質量比で存在する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項8】
化合物N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンおよび/または化合物1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンがベンゾイソチアゾリノン成分として使用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項9】
1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンが殺生物成分として使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項10】
N−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンが殺生物成分として使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項11】
質量比が(10〜1):(1〜10)のN−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンおよび1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンの混合物が殺生物成分として使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項12】
化合物オクチルイソチアゾリノン(OIT)、N−メチル−ベンゾイソチアゾリノン(N−メチル−BIT)、またはN−ブチル−ベンゾイソチアゾリノン(N−ブチル−BIT)の少なくとも一つがさらなる殺生物成分として使用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項13】
液体調製物の形態である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項14】
銀に加え、さらなる貴金属を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の殺生物組成物。
【請求項15】
缶内防腐のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の殺生物組成物の使用。
【請求項16】
フィルム保存のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の殺生物組成物の使用。
【請求項17】
コーティング材および塗材の保存のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の殺生物組成物の使用。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の殺生物組成物を含む、塗材およびコーティング材、エマルジョン、ラテックス、ポリマー分散物、リグノスルホネート、チョークスラリー、ミネラルスラリー、セラミック塊、接着剤、シーラント、カゼイン含有製品、デンプン含有製品、ビチューメンエマルジョン、界面活性剤溶液、モーター用燃料、洗浄剤製品、顔料ペーストおよび顔料分散物、インク、リソグラフィー用液体、増粘剤、化粧品、洗面用品、水回路、紙加工に関係する液体、皮革品製造に関係する液体、織物製造に関係する液体、ドリリングオイルおよびカッティングオイル、油圧式流体、ならびに冷却潤滑剤から選択される製品。
【請求項19】
コーティング材または塗材である、請求項18に記載の製品。
【請求項20】
ワニス、接着剤、または塗料である、請求項19に記載のコーティング材または塗材。
【請求項21】
屋内用塗料である、請求項19に記載のコーティング材または塗材。
【請求項22】
商業的に常用のコーティング材または塗材を、請求項1〜14のいずれか一項に記載の殺生物調製物と混合することからなる、請求項19に記載のコーティング材または塗材の製造方法。

【公表番号】特表2009−519207(P2009−519207A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528524(P2008−528524)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065878
【国際公開番号】WO2007/026004
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508063749)トール・ゲー・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】