説明

相乗効果のある有機タングステン酸塩成分を用いた潤滑性酸化防止組成物

【課題】有機タングステン酸アンモニウム化合物と合わせてジアリールアミン酸化防止剤を含む新規な酸化防止組成物であって、潤滑剤中に用いた場合、個々のどちらの成分より著しく高い酸化防止活性を提供する相乗的組合せを示す組成物の提供
【解決手段】潤滑性組成物が大部分量の潤滑性オイルおよび0.1〜5.0質量%の添加剤をベースとしており、その添加剤が第二ジアリールアミアミンおよび有機タングステン酸アンモニウムを含む添加剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された酸化防止特性を付与するための潤滑剤組成物に関する。具体的には、本発明は、有機タングステン酸アンモニウム化合物と合わせてジアリールアミン酸化防止剤を含む新規な酸化防止組成物であって、潤滑剤中に用いた場合、個々のどちらの成分より著しく高い酸化防止活性を提供する相乗的組合せを示す組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルは過酷な酸化条件下で機能する。エンジンオイルの酸化的分解は汚泥や付着物を発生し、オイルの粘度特性を劣化させ、エンジン部品を腐食する酸性体を生成させる。酸化の影響を克服するために、エンジンオイルを、ヒンダードフェノール、芳香族アミン、ジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、硫化炭化水素、金属および無灰ジチオカルバミン酸塩ならびに有機モリブデン化合物を含む一連の酸化防止剤と配合する。特に有効な酸化防止剤はアルキル化ジフェニルアミン(ADPA)およびZDDPである。現状では、組み合わせた場合、これらの2つの化合物はエンジンオイルの酸化防止能力の大部分を提供している。さらに、ZDDPはエンジンオイルのための耐摩耗性保護の主な供給源である。しかし、処理触媒後の排気に対するリンの毒性の影響のため、エンジンオイル中でのZDDPの使用は減少している。さらに、処理後の硫酸化灰分排出の影響のため、エンジンオイル中のイオウのレベルも低下している。したがって、リンやイオウを含有する酸化防止剤および耐摩耗性添加剤の必要性を低下させるかまたは排除することができる有効な酸化防止剤ケミストリーが必要である。
【0003】
Tynikの米国特許出願番号2004/0214731A1は、有機タングステン酸アンモニウム化合物が、潤滑性組成物にリンまたはイオウをもたらさない有効な耐摩耗性添加剤であることを開示している。本明細書の発明は、ZDDPとは異なり、これらの有機タングステン酸アンモニウム化合物は単独では、潤滑性組成物の酸化を効果的に阻止しないことを教示している。しかし、第二ジアリールアミンの存在下では、有機タングステン酸アンモニウム化合物は、共力剤として作用して、その個々の成分のいずれの場合より優れた酸化制御をもたらす。
【0004】
したがって、有機タングステン酸アンモニウムは、ZDDPなどのリンおよびイオウ含有添加剤の必要性を低下させるかまたは排除する技術を代表するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願2004/0214731A1
【特許文献2】米国特許第3,405,064号
【特許文献3】米国特許第3,574,576号
【特許文献4】米国特許第4,089,794号
【特許文献5】米国特許第4,171,273号
【特許文献6】米国特許第4,670,173号
【特許文献7】米国特許第4,517,104号
【特許文献8】米国特許第4,632,769号
【特許文献9】米国特許第5,512,192号
【特許文献10】米国特許第3,368,972号
【特許文献11】米国特許第3,539,663号
【特許文献12】米国特許第3,649,229号
【特許文献13】米国特許第4,157,309号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ASTM D2896、Standard Test Method for base Number of Petroleum Products by Potentiometric Perchloric Acid Titration
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、改善された酸化防止特性を付与するための潤滑剤組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(A)第二ジアリールアミン酸化防止剤と(B)有機タングステン酸アンモニウム化合物の組合せは、潤滑性オイル組成物に著しく改善された酸化防止性能を提供することをここに発見した。タングステン酸塩は酸化防止剤と相乗的に作用して、個々のどちらの成分より著しく改善された酸化制御を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いる第二ジアリールアミンは、配合オイルパッケージまたはパッケージ濃縮物中で可溶性でなければならない:
【化1】

【0010】
式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、各基当たり1〜約20個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル、アリールおよびアルカリール基を表す。好ましい基は水素、2−メチルプロペニル、2,4,4−トリメチルペンテニル、スチレニルおよびノニルである。Xが(CH、SまたはOのいずれかであり、nが0〜2である場合、環構造を表すことができる。これらの環状化合物の例は、カルバゾール、アクリジン、アゼピン、フェノキサジンおよびフェノチアジンである。好ましいものは非環系第二ジアリールアミンである。
【0011】
本発明のためには、有機タングステン酸アンモニウムは、酸の形態のオキソタングステンと塩基性窒素またはアミンを含む有機化合物の反応によって調製する。可能なタングステン源は、これらに限定されないが、表1に挙げたものである。これらの供給源のうち、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムおよびメタタングステン酸アンモニウムは、アミンと直接反応する。三酸化タングステンは、加水分解されてタングステン酸を生成するはずの塩基性無水物である。三酸化タングステンの好ましい加水分解法は、参照により本明細書に組み込むTynikの米国特許出願2004/0214731A1に記載されている。この方法では、三酸化タングステンを、2当量の苛性で加水分解して金属タングステン酸塩水和物を生成させ、次いでこれを2当量の酸で酸性化してタングステン酸を生成させる。あるいは、タングステン酸は、タングステン酸ナトリウム二水和物およびタングステン酸カルシウムなどの市販の金属タングステン酸塩を酸性化して直接生成させることができる。ポリオキソタングステン酸塩[WxYy(OH)z]n−は、2当量未満の酸を用いて金属タングステン酸塩を中和すると形成され、これらは、有機タングステン酸アンモニウムの生成にも用いることができる。
【0012】
【表1】

【0013】
タングステン源との反応物としての目的のためには、反応物アミンは、ASTM D2896、過塩素酸電位差滴定による石油製品の塩基価の標準測定法(Standard Test Method for base Number of Petroleum Products by Potentiometric Perchloric Acid Titration)で測定できる塩基性窒素を含む化合物と定義されよう。大部分のアミン化合物は、上記タングステン源により酸/塩基反応を受けることが推定される。アミンに対する主な要件は、油溶性タングステン酸塩生成物を作製することである。好ましいものは、米国特許出願2004/0214731A1のアルキルモノアミン、およびエンジンオイルで用いられる必須成分であるポリアミン分散剤である。
【0014】
アルキルモノアミンは、式RGNH(式中、RおよびRは同一であるかまたは異なっており、水素、直鎖もしくは分枝鎖、飽和もしくは不飽和の8〜40個の炭素原子を含むアルキル基または1〜12個の炭素原子を含むアルコキシ基からなる群から選択される)からなる。最も好ましいものは、BASF Corporationから市販されている「ジトリデシルアミン」としても知られている、ジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミンおよびジ−n−オノクチルアミンである。
【0015】
ポリアミン分散剤は、ポリアルケニルアミン化合物をベースとしている。
【0016】
【化2】

【0017】
式中、RおよびRは独立に、水素、1〜25個の炭素原子を含む直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、1〜12個の炭素原子を含むアルコキシ基、2〜6個の炭素原子を含むアルキレン基および2〜12個の炭素原子を含むヒドロキシルまたはアミノアルキレン基であり、xは2〜6、好ましくは2〜4であり、nは0〜10、好ましくは2〜6である。最も好ましいものは、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物である。但し、RおよびRはどちらも水素であり、xは2〜3であり、nは2である。
【0018】
ポリアミン分散剤は、ポリアルケニルアミン化合物を、カルボン酸(ROOH)またはその反応性誘導体、アルキルもしくはアルケニルハライド(R−X)およびアルキルもしくはアルケニル置換コハク酸と反応し、カルボン酸アミド、ヒドロカルビル置換ポリアルケニルアミンおよびスクシンイミドをそれぞれ生成させることによって調製する。
【0019】
【化3】

【0020】
カルボン酸アミドの典型的なものは、米国特許第3,405,064号に開示されているものである。その開示を参照により本明細書に組み込む。その生成物は、上記のようなモノカルボン酸アミドか、または第一および第二アミン(−NHおよびNH)のうちの1つを超えるアミンがカルボン酸アミドに転換されているポリカルボン酸アミドである。カルボン酸中のR基は12〜250個の脂肪族炭素原子である。好ましいR基は、12〜20個の炭素原子、および72〜128個の炭素原子を含むポリイソブテニル鎖(PIB)を含む。
【0021】
典型的なヒドロカルビル置換ポリアルケニルアミン化合物は米国特許第3,574,576号に開示されている。その開示を参照により本明細書に組み込む。その生成物はモノまたはポリ置換体である。ヒドロカルビル基、R10は好ましくは20〜200個の炭素原子のものである。ヒドロカルビルポリアルケニルアミン化合物の生成に用いられる特に好ましいハライドは、70〜200個の炭素原子を含むポリイソブテニルクロリドである。
【0022】
本発明の好ましいポリアミン分散剤は、モノまたはビス置換のスクシンイミドである。最も好ましくはモノ置換スクシンイミドである。
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R11は8〜400個の炭素原子、好ましくは50〜200個の炭素原子である)
特に好ましいものは、800〜2,500g/モルの範囲の分子量を有するポリイソブテニルや、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物などのポリエチレンアミンから誘導されるスクシンイミド分散剤である。モノ置換スクシンイミド分散剤の具体的な市販品の例は、Chevron ORONITE(登録商標)OLOA371およびOLOA11,000、OLOA371の濃縮体である。ビス置換スクシンイミド分散剤の具体的な例は、Afton Chemicalから供給されているHiTEC(登録商標)644である。
【0025】
別のタイプの分散剤はポリアミングラフト化された粘度指数(VI)改良物質である。これらの化合物の調製法を教示しているPlethoraの特許が参照可能である。この特許の例を挙げると、米国特許第4,089,794号、同第4,171,273号、同第4,670,173号、同第4,517,104号、同第4,632,769号および同第5,512,192号がある。これらを参照により本明細書に組み込む。一般的な調製は、オレフィンコポリマーをエチレン不飽和カルボン酸物質で事前グラフト化してアシル化したVI改良物質を生成させることを含む。次いで、アシル基をポリアミンと反応させてカルボン酸アミドおよびスクシンイミドを生成させる。
【0026】
別の部類のポリアミン分散剤はマンニッヒ塩基組成物である。本発明で用いることができる典型的なマンニッヒ塩基は米国特許第3,368,972号、同第3,539,663号、同第3,649,229号および同第4,157,309号に開示されている。マンニッヒ塩基は通常、9〜200個の炭素原子のアルキル基を有するアルキルフェノール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド、ならびにトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよびその混合物などのポリアルケニルアミン化合物から調製される。
【0027】
アルキルモノアミンから有機タングステン酸アンモニウムを調製するのに好ましい方法は、Tynik、米国特許出願2004/0214731A1に記載されているような、タングステン酸水溶液と、好ましくは有機溶媒または希釈用オイル中に希釈された、アルキルモノアミンとの2相反応を含む。適切に混合および加熱した後、相を分離させ、粗有機アンモニウムオキソタングステン酸塩生成物を単離する。必要なら、生成物を真空蒸留して痕跡量の水および有機溶媒を除去する。タングステン酸とアルキルモノアミンの好ましい化学量論比は0.5〜1.0である。最も好ましい化学量論的量は1モルのタングステン酸当たり1モルのモノアミンである。
【0028】
分散剤タングステン酸塩のためには、調製の1つの方法は、タングステン酸水溶液とポリアミン分散剤、好ましくはオイル中に希釈されたポリアミン分散剤の2相反応を含む。適切な時間反応させた後、真空蒸留により水を除去する。タングステン酸とアミン性窒素の好ましい化学量論比は0.1〜1.0、好ましくは0.5〜1.0、最も好ましくは0.8〜1.0である。第2の調製法は、ポリアミン分散剤、固体タングステン酸、WO・HOおよび水からなる3相反応を含む。適切な時間反応させた後、真空蒸留により水を除去する。タングステン酸とアミン性窒素の好ましい化学量論比は0.1〜1.5、好ましくは0.5〜1.0、最も好ましくは0.8〜1.0である。
【0029】
本発明の添加剤の組合せは、潤滑性オイルと一緒に用いて潤滑性オイル組成物を形成させる。その潤滑性オイルは少なくとも50質量%を構成する。第二ジアリールアミン成分と有機タングステン酸アンモニウムの組合せは、潤滑性組成物の一部としてのこれら2つの成分の合計量が0.10〜5.0質量%の範囲である場合、酸化防止特性を向上させるのに特に有用である。特に有用な組合せは、0.1〜4.0質量%(1,000〜40,000ppm)の第二ジアリールアミン成分と、0.005〜0.5質量%(50〜5,000ppm)の有機タングステン酸アンモニウムからのタングステンを含む潤滑性組成物である。潤滑性組成物は、0.5〜2.0質量%(5,000〜20,000ppm)の第二ジアリールアミン成分と、0.05〜0.3質量%(500〜3,000ppm)の有機タングステン酸アンモニウムからのタングステンを含むことが好ましい。本発明は、第二ジアリールアミン:有機タングステン酸アンモニウムの比が質量で20:1〜1:30である潤滑性組成物も含む。その比は質量で9:1〜1:9、最も好ましくは3:1〜1:3であることが好ましい。第二ジアリールアミン対タングステン含量の比については、質量で70:1〜1:3である。好ましくは、その比は質量で30:1〜1:1、最も好ましくは16:1〜2:1である。
【0030】
本発明のオイル成分は、潤滑剤ベースストックとして用いられる潤滑粘度の鉱物性または合成のオイルの1つまたは組合せであってよい。鉱物性オイルはパラフィン系かまたはナフテン系のものであってよい。パラフィン系オイルはグループIの溶媒精製ベースオイル、グループIIの水添ベースオイルおよびグループIIIの高粘度指数の水添ベースオイルであってよい。合成オイルは、グループIVのポリアルファオレフィン(PAO)型、ならびにグループVのジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステルおよびポリシロキサンを含む合成オイルからなっていてもよい。
【0031】
第二ジアリールアミンおよび有機タングステン酸アンモニウムに加えて、潤滑性組成物は、他の分散剤、および洗剤、ZDDPを含む他の耐摩耗性添加剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、流動点降下剤、消泡添加剤、ならびに乳化破壊剤も含むことができる。
【0032】
本発明で使用できる様々な有機タングステン酸アンモニウム組成物を説明するために、以下の調製方法を例示的な実施例として提供する。以下の実施例は、説明のためだけに提供するものであって、特許請求の範囲においてのみ示される本発明の範囲を限定するためのものではない。
【実施例1】
【0033】
ジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)タングステン酸アンモニウムの調製
タングステン酸ナトリウム二水和物(132.0g)を250.0gの水の中に溶解し、次いで138.7gの26.8%硫酸溶液で徐々に酸性化する。次いで、150gヘプタン中のジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)アミン(97.7%;157.9g)の溶液を、濁った淡黄色タングステン溶液に激しく攪拌しながら一括してチャージする。次いで反応混合物を30分間還流加熱し、続いて水相を分離し、有機相をロータリーエバポレーターに移し、そこで溶媒を除去する。残留固形物をろ取する。次いで生成物を透明な黄色の粘性オイルとして得る。タングステン含量は29.5質量%と測定された。
【実施例2】
【0034】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
タングステン酸ナトリウム二水和物(33.0g)を75.0gの水の中に溶解し、次いで、35.3gの28%硫酸溶液で徐々に酸性化する。105.8gのモノ−スクシンイミド分散剤(OLOA(登録商標)371;プロセスオイル中に46.7%有効分;TBN=53.0)と65.0gのプロセスオイルの溶液を50℃に加温し、濁った淡黄色のタングステン溶液に、激しく攪拌しながら4滴のAntiformB(登録商標)と一緒に一括してチャージする。次いで、水の約75%が留去するまで反応混合物を還流加熱する。次いで徐々に真空をかけ、温度を125〜130℃に上げ、30分間保持する。次いで反応混合物を、珪藻土を通して熱時ろ過して透明な粘性の暗琥珀色のオイルを得る。タングステン含量は9.67質量%と測定された。
【実施例3】
【0035】
PIB(ポリイソブチレン)モノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
46.9gの分散剤(OLOA(登録商標)11000;プロセスオイル中に71.2%有効分;TBN=76.3)と64.5gのプロセスオイルの溶液に、16.0gのタングステン酸と16.0gの水をチャージする。次いで攪拌溶液を100℃で10分間加熱し、留出液を集めながら、1時間で徐々に160℃に加熱する。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は5.31%と測定された。
【実施例4】
【0036】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
50.2gの分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=87.8)と50.1gのプロセスオイルの溶液に、7.6gのタングステン酸と7.6gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを120℃に加熱し、水の蒸留を開始させる。次いで温度を160℃へ徐々に上げ、蒸留の進行にしたがって、反応液は緑色に変化し始める。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は2.6質量%と測定された。
【実施例5】
【0037】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
46.5gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=44.30)と46.5gのプロセスオイルの溶液に、9.0gのタングステン酸と10.6gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを還流下で160℃に徐々に加熱する。160℃で留出液を集めると、黄色がかった緑色に色が変化する。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は4.4質量%と測定された。
【実施例6】
【0038】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
49.8gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=1000;TBN=33.52)と49.9gのプロセスオイルの溶液に、19.6gのタングステン酸と15.1gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを160℃に徐々に加熱し、混合物として集めた留出液は暗緑色になる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は8.72質量%と測定された。
【実施例7】
【0039】
PIBビス−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
67.42gのビス−スクシンイミド分散剤(HiTEC(登録商標)644プロセスオイル中に約75%有効分;TBN=47.20)と16.8gのプロセスオイルの溶液に、14.24gのタングステン酸と9.35gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを99〜101℃で1.5時間加熱する。次いで2.5時間で徐々に160℃に加熱し、160℃で1.5時間保持する。その間、留出液を収集し、その混合物は緑色に変わる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は4.52質量%と測定された。
【実施例8】
【0040】
PIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤からのタングステン酸アンモニウムの調製
50.5gのモノ−スクシンイミド分散剤(プロセスオイル中に60%有効分;PIBMW=2100;TBN=44.30)と50.5gのプロセスオイルの溶液に、5.01gのタングステン酸と4.22gの水をチャージする。次いで攪拌スラリーを160℃に徐々に加熱し、その時点で留出液を収集する。その間混合物は暗緑色に変わる。蒸留が停まったら、系に真空をかけ、攪拌しながら、反応混合物が褐色になるまで160℃で反応を続行する。次いで珪藻土を通して熱時ろ過する。タングステン含量は1.9質量%と測定された。
【0041】
様々な機能性流体組成物、具体的には本発明の組成物を含む潤滑剤組成物を説明するために、以下の例示的な実施例を提供する。以下の実施例は、説明のためだけに提供するものであって、特許請求の範囲においてのみ示される本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0042】
酸化安定性試験
酸化安定性は、ASTM D6186に記載されている加圧型示差走査熱量測定(PDSC)によって測定した。PDSCは、潤滑性組成物の酸化防止能力が消耗され、ベースオイルが自動酸化として知られている酸化的連鎖反応へと進む際の発熱的な熱の放出を検出することによって酸化安定性を測定する。実験の開始から自動酸化までの時間は酸化誘導時間(OIT)として知られている。したがって、より長いOITは、より高い酸化安定性および酸化防止能力を示している。
【実施例9】
【0043】
表2に示すように、実施例1のジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)タングステン酸アンモニウムおよびVANLUBE(登録商標)961(R.T.Vanderbilt Company,Inc.から供給されたオクチル化/ブチル化第二ジアリールアミン)を、Unocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。表2にまとめたデータは、タングステン酸アンモニウムだけでは酸化に対する保護がほとんど得られないが、予測されるように、VANLUBE(登録商標)961は効果的な酸化防止剤であることを示している。より重要でありかつ予想外なことであるが、データは、広い第二ジアリールアミン:タングステン含量比の範囲のタングステン酸アンモニウムの存在下で、VANLUBE(登録商標)961の酸化防止能が著しく増大していることを示している。特に効果的なのは16:1〜5:1の比である。
【0044】
【表2】

【実施例10】
【0045】
表3に示すように、実施例1のジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)タングステン酸アンモニウムおよびVANLUBE(登録商標)81(R.T.Vanderbilt Company Inc.から供給されたp,p’−ジオクチル化第二ジアリールアミン)を、Unocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。表3にまとめたデータは、実施例1のタングステン酸アンモニウムだけでは酸化に対する保護がほとんど得られないが、予測されるように、VANLUBE(登録商標)81は効果的な酸化防止剤であることを示している。より重要でありかつ予想外なことであるが、データは、タングステン酸アンモニウムの存在下で、VANLUBE(登録商標)81の酸化防止能が著しく増大していることを示している。
【0046】
【表3】

【実施例11】
【0047】
表4に示すように、実施例1のジ(C11〜C14分枝鎖および直鎖アルキル)タングステン酸アンモニウム、およびVANLUBE(登録商標)SL(R.T.Vanderbilt Companyから供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)をUnocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。表4にまとめたデータは、タングステン酸アンモニウムは酸化に対する保護をほとんど提供しないが、予測されるように、VANLUBE(登録商標)SLは効果的な酸化防止剤であることを示している。より重要でありかつ予想外なことであるが、データは、タングステン酸アンモニウムの存在下で、VANLUBE(登録商標)SLの酸化防止能が著しく増大していることを示している。
【0048】
【表4】

【実施例12】
【0049】
表5に示すように、実施例2のPIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤のタングステン酸アンモニウムと種々の第二ジアリールアミンをUnocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。表5にまとめたデータは、タングステン酸アンモニウムは酸化に対する保護をほとんど提供しないが、予測されるように、第二ジアリールアミンは効果的な酸化防止剤であることを示している。より重要でありかつ予想外なことであるが、データは、タングステン酸アンモニウムの存在下で、すべての第二ジアリールアミンの酸化防止能が著しく増大していることを示している。
【0050】
【表5】

【実施例13】
【0051】
表6に示すように、実施例2のPIBモノ−スクシンイミドポリアミン分散剤のタングステン酸アンモニウム、およびVANLUBE(登録商標)SL(R.T.Vanderbilt Companyから供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)をUnocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。データは、実施例2の分散剤タングステン酸塩が、広い範囲の第二ジアリールアミン濃度にわたり、かつ高いタングステン酸アンモニウム濃度で酸化防止能を改善しており、これは、通常のものに近い、効果的な耐摩耗性保護および分散剤レベルを有する潤滑性組成物を提供していることを示している。
【0052】
【表6】

【0053】
表7に示すように、実施例2、3、4、5、6、7および8のPIBスクシンイミドポリアミン分散剤のタングステン酸アンモニウム、およびVANLUBE(登録商標)SL(R.T.Vanderbilt Companyから供給されたオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミン)をUnocal 90グループIベースオイルとブレンドした。これらのオイルの酸化安定性はASTM D6186に記載のPDSCによって測定した。表8にまとめたように、データは、PIB分子量、TBN、調製方法およびタングステン搭載量に関係なく、タングステン酸アンモニウムはすべて効果的な共力剤であることを示している。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大部分量の潤滑性オイルおよび添加剤を含む潤滑性組成物であって、
前記添加剤が、潤滑性組成物全体の0.5〜2.0質量%で存在する第二ジアリールアミンおよび前記潤滑性組成物に対して50〜3,000ppmのタングステンを提供する量で存在する有機タングステン酸アンモニウムを含み、
前記有機タングステン酸アンモニウムが、(a)タングステン源と、(b)モノまたはビス置換スクシンイミドとの反応生成物であり、
前記モノまたはビス置換スクシンイミドが次式
【化2】

(式中、RおよびRは独立に、水素、1〜25個の炭素原子を含む直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、1〜12個の炭素原子を含むアルコキシ基、2〜6個の炭素原子を含むアルキレン基および2〜12個の炭素原子を含むヒドロキシルまたはアミノアルキレン基であり、xは2〜6、好ましくは2〜4であり、nは1〜10、好ましくは2〜6であり、R11は50〜200個の炭素原子を含むアルキルもしくはアルキレン基であり、800〜2,500g/モルの範囲の分子量を有するポリイソブテニルとポリエチレンアミンから誘導される)
の化合物である潤滑性組成物。
【請求項2】
第二ジアリールアミンとタングステンの質量比が75:1〜1:3である、請求項1に記載の潤滑性組成物。
【請求項3】
第二ジアリールアミンとタングステンの質量比が35:1〜1:3である、請求項2に記載の潤滑性組成物。
【請求項4】
第二ジアリールアミンとタングステンの質量比が16:1〜2:1である、請求項3に記載の潤滑性組成物。
【請求項5】
前記第二ジアリールアミンが次式
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、各基当たり1〜20個の炭素原子を有するアルキル、アラルキル、アリールおよびアルカリール基を表し、Xは(CH(nは1〜2である)、SまたはOのいずれかである)
を含む、請求項3に記載の潤滑性組成物。
【請求項6】
、R、RおよびRの少なくとも1つが、それぞれ独立に、水素、2−メチルプロペニル、2,4,4−トリメチルペンテニル、スチレニルおよびノニルから選択される、請求項5に記載の潤滑性組成物。
【請求項7】
前記第二ジアリールアミンが、オクチル化/ブチル化第二ジアリールアミン、p,p’−ジオクチル化第二ジアリールアミンおよびオクチル化/スチレン化第二ジアリールアミンから選択される、請求項5に記載の潤滑性組成物。
【請求項8】
前記タングステン源が、タングステン酸、三酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム二水和物、タングステン酸カルシウムおよびメタタングステン酸アンモニウムから選択される、請求項1に記載の潤滑性組成物。

【公開番号】特開2013−40342(P2013−40342A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227917(P2012−227917)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2008−548890(P2008−548890)の分割
【原出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(507293620)アール.ティー. ヴァンダービルト カンパニー インコーポレーティッド (11)
【Fターム(参考)】