説明

相乗的抗ウイルス組成物及びその使用

本発明は、インフルエンザウイルス感染によって引き起こされ、又は、それに関連した症状、状態、又は、疾患の予防又は治療用の医薬として使用できるノイラミニダーゼ阻害剤と、イオタ‐及び/又はカッパカラギーナンとの組み合わせに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に属し、インフルエンザウイルス感染症の予防または治療のためのノイラミニダーゼ(neuraminidase)阻害剤と組み合わせられたカラギーナン(carrageenan)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
構造的には、カラギーナン(carrageenan)は、繰り返しガラクトース関連のモノマー単位(repeating galactose-related monomer units)で構成された多糖類の複雑なグループ(complex group)である。現在は、カラギーナンの3つの主要な型が、いわゆるラムダ、カッパ、イオタ‐カラギーナンと区別されている。
【0003】
オルトミクソウイルス科(orthomyxoviridae)、パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)とコロナウイルス科(coronaviridae)に対するイオタおよびカッパ−カラギーナンの抗ウイルス効果は、WO2009/027057に開示されている。ライノウイルス(rhinovirus)感染(症)に対するイオタおよびカッパ−カラギーナンの抗ウイルス効果は、WO2008/067982に開示されている。これらのポリマーは、気道の粘膜への送達(伝達)に適した抗ウイルス医薬組成物の製造に有用であることが示されている。
【0004】
ノイラミニダーゼ阻害剤の治療的使用については文献に幅広く記載されている。文献(Lancet Infect Dis. 2009 Sep; 9(9):537−45)に記載されたように、ノイラミニダーゼ阻害剤の総合的な利点は、主に感染症の最初の症状の発生とインフルエンザウイルスに感染した成人における症状緩和の始まりとの間の平均経過時間の短縮において見られる。例えば、非リスク成人群の感染患者(即ち、YOPI(young, old, pregnant, immunocompromised)群に属さない成人)への抗ウイルス薬、ザナミビル(zanamivir)の投与は、検出可能な症状緩和が得られるまでの平均時間を0.57日まで減らし得るが、代替薬物オセルタミビル(oseltamivir)の投与によって0.55日まで減らすことができた。YOPI群(即ち、ウイルス感染の際に病気を患うリスクが増加された個体)に投与されたときに、症状の緩和の検出までかかる平均時間は、ザマミビルの場合0.98日まで減少され、オセルタミビルの場合0.74日まで減少されたことが報告されている。これらのデータは、改善された治療戦略に対する余地があるだけでなく、そうしたニーズがあることを示唆している。
【0005】
タミフル(登録商標)(オセルタミビル)及びリレンザ(登録商標)(ザナミビル)の市販用パッケージに含まれた処方情報によれば、有効成分は、症状が2日以内(no more than 2 days)の患者におけるインフルエンザウイルス感染による、合併症のない急性疾患の治療に対して指示されている。したがって、症状が2日を超えてしまった患者に対する有効な療法は現に存在しない。
【0006】
また、FDA承認された市販の抗インフルエンザウイルス薬剤に対するウイルス耐性の頻度増加も、将来のインフルエンザウイルスの流行に使用することができる改良された抗ウイルス化合物に対する緊急の必要性を高める。文献[Ludwig S.; J Antimicrob Chemother. 2009 Jul;64(1 ): 1 −4]参照。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明は、前述の欠点を克服し、好ましくは、さらに2日以上続く症状を有する患者における感染症関連症状を緩和する、インフルエンザウイルス感染症の予防または治療のための効率的な戦略を提供することを目的とする。
【0008】
オセルタミビル(タミフル(登録商標))またはザナミビル(リレンザ(登録商標))などのノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせられたイオタ−及び/又はカッパ−カラギーナンの使用によって、前記化合物それぞれが単独で投与されたときの効果に比べて、インフルエンザウイルス感染の過程において、相乗的治療効果、即ち、実質的に改善されたた治療的又は症状緩和効果を示すという驚くべきことを見出した。
【0009】
また、驚くべきことに、ノイラミニダーゼ阻害剤と、イオタ−および/またはカッパ−カラギーナンとの組み合わせは、患者に更なる利点を提供する。以前の観測に反して、上気道感染症と診断された個体の半分以上(42人の子供のうち24人)がインフルエンザAまたはBウイルスに感染し、さらに、1以上の別の呼吸器系ウイルスに感染されたことが、定量的リアルタイム−PCR手順によって決定された。したがって、一つのウイルスだけを標的とする治療法が限られた成功しかもたらさないと結論付けることもできる。対照的に、イオタ−および/またはカッパ−カラギーナンとノイラミニダーゼ阻害剤の併用療法は、インフルエンザウイルスに対して有効であるだけでなく、共感染症(co−infections)を引き起こす呼吸器系ウイルスに対しても有効である可能性が非常に高い。ここで、呼吸器系ウイルス(respiratory virus)は、好ましくは、ライノウイルス(rhinovirus)、コロナウイルス(coronavirus)、及び、パラミクソウイルス(paramyxovirus)からなる群から選択される。
【0010】
したがって、本発明の第一の実施形態は、インフルエンザウイルスによる感染症(選択的に、ライノウイルス、コロナウイルス、およびパラミキソウイルスからなる群から選択された、インフルエンザウイルス以外の別の一以上の呼吸器系ウイルスの共感染による同様の症状、状態、又は、疾患を含む。)によってもたらされるか、又は、それに関連した症状、状態、又は、疾患の併用予防又は併用治療における医薬として使用するためのノイラミニダーゼ阻害剤とイオタ−及び/又はカッパ−カラギーナンとの組み合わせに関する。
【0011】
本発明の別の実施形態において、前記インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスA又はBであっても良い。
【0012】
本発明の別の実施形態において、前記パラミキソウイルスは、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、メタニューモウイルス(metapneumovirus)、またはパラインフルエンザウイルス(parainfluenzavirus)であっても良い。
【0013】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤は、ザナミビル(zanamivir)、オセルタミビル(oseltamivir)、ペラミビル(peramivir)、及び、ラニナミビル(laninamivir)からなる群から選択されても良いが、それらに限定されない。
【0014】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤は、ザナミビル(zanamivir)またはオセルタミビル(oseltamivir)であっても良い。
【0015】
市販されている「タミフル」(登録商標)は、活性代謝物、カルボン酸オセルタミビルのプロドラッグであるリン酸オセルタミビルを含んでいて、特に経口投与に適合されている。本発明に基づいて鼻腔内投与が意図された場合、活性形態カルボン酸オセルタミビルは、リン酸(塩)プロドラッグ形態の代わりに使用され得る。
【0016】
したがって、明示的に別段の定めがない限り、または別の意味が開示から導かれない限り、本明細書において使用する用語 「タミフル(TAMIFLU)(登録商標)」は、カルボン酸オセルタミビルまたはリン酸オセルタミビルのどちらかを指す。
【0017】
予防、治療、又は、緩和すべき状態(condition)又は疾患(disease)は、主に急性気管支炎(acute bronchitis)、慢性気管支炎(chronic bronchitis)、鼻炎(rhinitis)、副鼻腔炎(sinusitis)、クループ(croup)、急性細気管支炎(acute bronchiolitis)、咽頭炎(pharyngitis)、へんとう炎(tonsillitis)、喉頭炎(laryngitis)、気管炎(tracheitis)、喘息(asthma)、肺炎(pneumonia)からなる群から選択され、そして、予防、治療又は緩和すべき前記症状は、発熱(fever)、痛み(pain)、めまい(dizziness)、震え(shivering)、発汗(sweating)、及び、脱水(dehydration)からなる群から選択される。
【0018】
マウスモデルでの実験データでは、ノイラミニダーゼ阻害剤と、イオタ−および/またはカッパ−カラギーナンとの相乗効果が、前述の市販のノイラミニダーゼ阻害薬の投与に関連して報告されたような感染の最初の症状の発生後わずか48時間という現時点における利用可能な治療ウィンドウを超えて増加された治療ウィンドウオープニング(therapeutic window opening)を提供することが明らかになった。本発明は、はじめて、症状の第1の発症(発生)から2日よりも時間が経過した患者の治療を可能にした。
【0019】
本発明の別の実施形態は、前記使用のためのしたがって、本発明は、前記医薬の投与が、感染後24時間以降に開始される前記組み合わせを含む。
【0020】
前記組み合わせの各成分は、単一の医薬組成物の中で別々に存在しても、互いに混合されていても良い。また、前記医薬の投与は、感染後48時間以降に開始され得る。
【0021】
本発明の別の実施形態は、インフルエンザウイルスによる感染によってもたらされるか、または、それに関連した症状、状態または疾患の併用予防または併用治療に適した部分のキット又は医薬組成物の製造において使用されるノイラミニダーゼ阻害剤とイオタ−及び/又はカッパカラギーナンとの組み合わせに関する。
【0022】
本発明の別の実施形態は、インフルエンザウイルスによる感染、及び/または、好ましくは、ライノウイルス、コロナウイルス、およびパラミキソウイルスからなる群から選択される、インフルエンザウイルス以外の別の一以上の呼吸器系ウイルスによる共感染によってもたらされるか、または、それに関連した症状、状態または疾患を予防又は治療するための方法であって、前記感染(症)又は前記共感染(症)のリスクがあるか又は 前記感染(症)又は前記共感染(症)を患う個体に、抗ウイルス的に有効な量のノイラミニダーゼ阻害剤と抗ウイルス的に有効な量のイオタ−及び/又はカッパカラギーナンとの組み合わせを投与することを含む方法に関する。
【0023】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤は、ザナミビル、オセルタミビル、ペラミビル、及び、ラニナミビルからなる群から選択され得る。
【0024】
前記投与は、感染後24時間以降に開始され得る。
【0025】
前記投与は、感染後48時間以降に開始され得る。
【0026】
前記投与は、任意の投与経路で投与され得る。かかる投与経路は、経口投与、吸入投与、若しくは、鼻腔内投与、又は、これらの組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。
【0027】
本発明のさらなる別の実施形態によれば、前記投与は、経口、吸入、若しくは、鼻腔内投与、又は、それらの組み合わせによって行われる。本発明の別の実施形態において、前記ノイラミニダーゼ阻害剤は、液体医薬組成物として用意されて経口投与されるが、前記カラギーナン化合物は、液体溶液として用意されて鼻腔内へ(選択的に、スプレーによって)投与される。
【0028】
本発明の別の実施形態は、抗ウイルス的に有効な量(antiviral effective amount)のノイラミニダーゼ阻害剤と、抗ウイルス的に有効な量のイオタ及び/又はカッパカラギーナンと、を含むインフルエンザウイルス感染症の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【0029】
経口投与されたオセルタミビルの活性代謝物の絶対的バイオアベイラビリティは、マウスモデルにおいて約80%であることがわかった。活性代謝物は、投与後30分以内にマウスの血漿中で検出可能であり、そして、薬剤の投与後3〜4時間後に最大濃度に達する。経口投与されたザナミビルの絶対的バイオアベイラビリティは、非常に低い(即ち、平均約2%)ことが知られている。ザナミビルの経口吸入又は鼻腔内投与後、投与量の平均10〜20%が全身的に吸収されて、概して投与後1〜2時間以内に最大(最高)血清濃度に達する。
【0030】
カラギーナン化合物を含んでない同様の(液体)溶液に比べた、イオタ−及び/又はカッパカラギーナンと、ノイラミニダーゼ阻害剤とを含む(液体)溶液の高い粘度に基づいて、粘膜に対するノイラミニダーゼ阻害剤の滞留時間(detention time)が増加し、それによって、体中の全身的な取り込み(systemic uptake)が改善される。
【0031】
したがって、イオタ及び/またはカッパカラギーナンと、ノイラミニダーゼ阻害剤とを含む(液体)溶液の鼻腔内投与は、ウイルス複製の主要部位である鼻腔において、ノイラミニダーゼ阻害剤、すなわち、ザナミビル、または、オセルタミビルの活性代謝物を使用した個体を直接的に治療を可能にするとともに、低量の前記薬剤を投与することでノイラミニダーゼ阻害剤の必要な全身的な薬物濃度を得ることを可能にする。
【0032】
本発明の別の実施形態は、ノイラミニダーゼ阻害剤と、イオタ−、および/またはカッパ−カラギーナンの両方を含む前記医薬組成物に関する。
【0033】
ザナミビルの場合、現在、経口製剤は利用できず、その結果、吸入する必要がある薬剤は販売不振に追い込まれている。イオタ及び/又はカッパカラギーナンを含んだ鼻スプレー製剤において抗ウイルス的に有効な量のザナミビルを含ませることによって、イオタ−及び/又はカッパカラギーナンの抗ウイルス効果と組み合わせられたザナミビルの局所および全身的有効性がもたらされ、それによって、ザナミビルの抗インフルエンザ治療効果の劇的な改善がもたらされる。
【0034】
前記医薬組成物に係る本発明の別の実施形態において、前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、ザナミビルである。
【0035】
前記医薬組成物に係る本発明の別の実施形態において、前記ノイラミニダーゼ阻害剤はオセルタミビル、特に、カルボン酸オセルタミビル(oseltamivir carboxylate)である。
【0036】
本発明の別の実施形態は、抗ウイルス的に有効な量のイオタ−及び/又はカッパカラギーナンと医薬的に許容可能な担体とを含む第1の容器と、抗ウイルス的に有効な量のノイラミニダーゼ阻害剤と医薬的に許容可能な担体とを含む第2の容器と、好ましくは、前記イオタ−及び/又はカッパカラギーナンと前記ノイラミニダーゼ阻害剤との併用に関するパッケージ挿入物(package insert)と、を含むインフルエンザウイルス感染症の予防又は治療に適したキットに関する。
【0037】
本発明のノイラミニダーゼ阻害剤とカッパ−及びとイオタ−カラギーナンの組み合わせの有効な投与量(effective dosage amount)は、通常、投与量0.01〜10mg/kg/d(オセルタミビル)または0.01〜1mg/kg/d(ザナミビル)のノイラミニダーゼ阻害剤と、投与量0.1〜50μg/kg/d、好ましくは、2〜35μg/kg/d、最も好ましくは、8〜25μg/kg/dのカラギーナンポリマーとの組み合わせを含んだ医薬投与単位を含んでも良い。
【0038】
そのポリマーの用量は、通常(1回)適用あたり100〜400μlが鼻腔内又は吸入によって供給される。例えば、濃度2400μg/mlのカッパ‐及びイオタ−カラギーナンを含んだ複合製品(combination product)は、各鼻孔に140μlを噴霧することによって1日3回適用される。これは、2016μg/dまたは約27μg/kg/dに一日容量に対応する。
【0039】
本発明については、添付された図面及び以下の実施例をもってさらに説明していく。しかしながら、本発明の技術的範囲または権利範囲はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、インフルエンザウイルスに感染したマウスの生存(率)に対するイオタ − カラギーナンとタミフル(登録商標)との併用治療の効果を示す。ここで、抗ウイルス療法(治療)は、感染後2日で開始した。縦軸(縦座標)はマウスの生存率(%)であり、横軸(横座標)は、感染後の日数である。オープンダイヤモンド(open diamond)はネガティブコントロール(プラセボ)(鼻孔(nostril)あたり0.5%NaCl溶液25μlを用いた鼻腔内治療)であり、暗い四角は、イオタ−カラギーナンで治療したものであり、暗い円は、タミフル(登録商標)で治療したもので、そして、暗い三角は、イオタ−カラギーナンとタミフル(登録商標)の組み合わせで治療したものである。
【図2】図2は、感染後一日で治療を開始したときの、インフルエンザウイルスに感染したマウスの体重に対するイオタ−カラギーナンとタミフル(登録商標)との併用治療の効果を示す。縦軸はマウスの平均体重(g)であり、横軸は、感染後の日数である。オープン円(open circle)はネガティブコントロール(プラセボ)(鼻孔あたり0.5%NaCl溶液25μlを用いた鼻腔内治療)であり、暗い四角は、イオタ−カラギーナンで治療したものであり、暗い円は、タミフル(登録商標)で治療したものであり、そして、暗い三角は、イオタ−カラギーナンとタミフル(登録商標)の組み合わせで治療したものである。
【図3】図3は、感染後2日で抗ウイルス療法(治療)を開始したときの、インフルエンザウイルスに感染したマウスの生存率に対するイオタ−カラギーナンとオセルタミビル(oseltamivir)との併用治療の効果を示す。縦軸はマウスの生存率(%)であり、横軸は、感染後の日数である。暗い円は、ネガティブコントロール(プラセボ)(鼻孔あたり0.5%NaCl溶液25μlを用いた鼻腔内治療)であり、暗い四角は、オセルタミビルで治療したものであり、暗いダイヤモンドは、イオタ−カラギーナンで治療したものであり、そして、暗い三角は、イオタ−カラギーナンとオセルタミビルとの組み合わせで治療したものである。
【図4】図4は、感染後2日で抗ウイルス療法(治療)を開始したときの、インフルエンザウイルスに感染したマウスの生存率に対するイオタ−カラギーナンとザナミビル(zanamivir)との併用治療の効果を示す。縦軸はマウスの生存率(%)であり、横軸は、感染後の日数である。暗い円は、ネガティブコントロール(プラセボ)(鼻孔あたり0.5%NaCl溶液25μlを用いた鼻腔内治療)であり、暗い四角は、ザナミビルで治療したものであり、暗いダイヤモンドは、イオタ−カラギーナンとカッパカラギーナンとの組み合わせで治療したものであり、そして、暗い三角は、イオタ−カラギーナンとカッパカラギーナンとザナミビルとの組み合わせで治療したものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明をよりよく理解してもらうために、次の実施例を挙げて説明する。これらの実施例は、いかなる点においても本発明を制限するものと解すべきではない。
【実施例1】
【0042】
感染後48時間で治療を開始したマウスにおけるイオタ−カラギーナンとタミフル(登録商標)の相乗的治療効果
40 C57BI6マウスを、麻酔なしで、致死量(10×LD50)のインフルエンザA/PR/8/34ウイルスで鼻腔内注入(i.n.)によって感染させた。鼻腔の感染後にウイルスは気道に広がると、最後にマウスの致死性肺炎を引き起こした。このモデルは、時々深刻な状態を引き起こす気道を介した、ヒトにおける自然のインフルエンザ感染(症)を模倣する。
【0043】
マウスを10匹ずつの4グループに分けた。感染後48時間において、マウスを麻酔なしに一日2回i.n.処理(治療)した。ここで、第1のグループには、ネガティブコントロールとしてプラセボ(鼻孔あたり25μlの0.5%NaCl水溶液)で処理し、第2のグループでは、鼻孔あたり濃度1200μg/mlのイオタ−カラギーナンポリマー水溶液25μlのみで処理した。第3及び第4のグループには、タミフル(登録商標)10mg/kg/dを経口投与した。ここで、第3のグループには、さらに上記濃度のイオタ−カラギーナンポリマーを鼻腔内に投与し、第4のグループには、タミフルの経口投与の他、プラセボを鼻腔内に投与した。麻酔なしの処理(治療)では、投与されたカラギーナンポリマーが肺に届かないため、気道におけるウイルスの拡散に対するポリマーの阻害効果を測定することができる。動物の生存率は健康の代理パラメーターとして毎日測定した。生き残った動物の数の差はログ−タンク(log−rank)検定を用いて評価した。
【0044】
図1に示すように、プラセボ投与群の全マウス(オープンダイヤモンド)が11日以内に死亡した。イオタ−カラギーナン投与群(暗い四角、4/10=10匹のうち4匹が生存した。)やタミフル投与群(暗い円、3/10)においてマウスの生存率は有意に改善された。しかし、タミフル(登録商標)と組み合わせたイオタ−カラギーナンで処理したマウス群(暗い三角形)では、10匹のうち6匹が致命的なインフルエンザウイルス感染症から生き残った。
【0045】
抗インフルエンザ薬の開発のためのマウスモデルの高い予測可能性(predictability)を考慮すれば、この結果は、治療が感染後48時間で開始された場合であっても、イオタ−カラギーナンの鼻腔内投与と組み合わせられたときに、経口用タミフル(登録商標)の投与量の治療的有効性を有意に改善することを示す。これは、上記場合に現に利用可能な療法が存在しないために、時に重要である。
【実施例2】
【0046】
感染後24時間で開始した治療におけるイオタ−カラギーナンとタミフル(登録商標)の相乗的治療効果
治療は感染の最初の症状の出現後24時間以内に開始されたときに治療効果が最も良いということはタミフル(リン酸オセルタミビル)について知られているため、イオタ−カラギーナンとの併用治療がタミフル(登録商標)の治療効果(治療的有効性)を改善できるかどうかを検証する。タミフル(登録商標)による治療が既に病気の致命的な発症(fatal outbreak)から高度の保護を提供するので、動物の健康予測の代理パラメーターとして平均動物体重を使用した。動物の体重はt検定を用いて比較した。治療が感染後24時間で既に開始したことを除けば、実施例1同様の実験を行った。
【0047】
図2に示すように、すべての動物は、致死性インフルエンザウイルス感染症による重量減少(体重損失)が発生した。唯一の有効成分としてタミフル(暗い円)又はイオタ−カラギーナン(暗い四角)のいずれかで処理したときに生存率において増加が見られたものの(実施例1参照)、感染後24時間で開始した治療では、最初の7日間における体重減少について有意な利点をもたらすものではなかった。これに対して、タミフル(登録商標)とイオタ−カラギーナンの組み合わせによる併用治療(暗い三角)では、図において三日目からのプラセボ投与群(オープン円)に比べて、有意により少ない体重減少という結果から確認された併用治療の相乗効果が得られた(pmax<0,004)。また、2、3、4日目において、タミフル(登録商標)とイオタ−カラギーナンの併用治療は、タミフルのみの治療よりも有意に優れ、それは、唯一の有効成分としてタミフル(登録商標)のみを使用した治療よりも前記併用治療の治療的優位性を示す。
【実施例3】
【0048】
感染後48時間で治療を開始したマウスにおけるイオタ−カラギーナンとオセルタミビル(登録商標)の相乗的治療効果
実施例1に記載のようにマウスの感染を行った。マウスを1 0匹ずつの4グループに分けた。感染後48時間において、マウスを一日2回i.n.処理した(麻酔なし)。ここで、第1のグループは、ネガティブコントロールとしてプラセボ(鼻孔あたり25μlの0.5%NaCl水溶液)で処理し、第2のグループは投与量5mg/kg/dのオセルタミビルを経口投与し、第3のグループは、鼻孔あたり濃度1200μg/mlのイオタ−カラギーナンポリマー水溶液25μlで処理し、そして、第4のグループは、一日2回イオターカラギーナンとオセルタミビルとの組み合わせで処理した(併用治療)。この併用治療(即ち、第4グループ)において、オセルタミビルは、投与量5mg/kg/dで経口投与され、そして、鼻腔内に投与されたイオタ−カラギーナンの総量は100μlであった(このイオタ‐カラギーナンの投与量は、一日当たり120μgに相当する)。動物の生存率は健康の代理パラメーターとして毎日測定した。生き残った動物の数の差はログ−タンク(log−rank)検定を用いて評価した。
【0049】
図3に示すように、プラセボ(0/10)、セルタミビル単独治療(3/10)、イオタ−カラギーナン単独治療(4/10)と比較して、イオタ−カラギーナンの鼻腔内投与及びオセルタミビルの経口投与を含んだ併用療法(6/10)による治療時にマウスの生存率が有意に改善された。この結果は、イオタ−カラギーナンによる経鼻治療と組み合わせた場合に、感染後48時間のマウスに対するオセルタミビルによる治療が有意に改善されることを示す。
【実施例4】
【0050】
感染後48時間で治療を開始したマウスにおけるイオタ−カラギーナン、カッパ−カラギーナン及びザナミビルの相乗的治療効果
経口投与されたオセルタミビルの代わりに鼻腔内に投与されたザナミビル(0.5mg/kg/d)を使用した点、イオタ−カラギーナン単独の代わりにイオタ−カラギーナンとカッパ−カラギーナンの組み合わせを使用した点(鼻腔内に投与されたカラギーナンポリマーの総量は、100μlであり、それは一日あたり120μg(量)に対応する。)、グループのサイズがグループごとに20匹であった点、及び、使用された水溶液中ザナマビルの濃度が、0.1mg/mlであり、それは、体重1kgあたり活性薬剤0.5mgに対応する点(マウスの平均体重:約20g)において異なるだけで、実施例3に記載されたような実験を行った。
【0051】
図4に示すように、ザナミビル単独(7/20)、イオタ−カラギーナンとカッパ−カラギーナンの組み合わせ(3/20)、または、プラセボ(5/20)を使用した治療と比較した場合、イオタ−カラギーナンと、カッパ−カラギーナンと、ザナミビルとのトリプル組み合わせ(13/20)で治療したマウスの生存率が有意に改善された。この結果は、カッパ−およびイオタ−カラギーナンの混合物と組み合わせられたときに、そうでなかったらザナミビルを使用したマウスの非効果的な鼻腔内治療が、有意に改善されたことを示し、治療が感染後48時間よりも遅れて開始された場合であっても、肯定的な治療結果が得られることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスによる感染、または、インフルエンザウイルスと、好ましくは、ライノウイルス、コロナウイルス、およびパラミキソウイルスからなる群から選択された、インフルエンザウイルス以外の別の一以上の呼吸器系ウイルスとによる共感染によってもたらされるか、または、それに関連した症状、状態、または、疾患の併用予防または併用治療用の医薬として使用するためのノイラミニダーゼ阻害剤とイオタ−及び/又はカッパ−カラギーナンとの組み合わせ。
【請求項2】
前記インフルエンザウイルスが、インフルエンザウイルスA又はBである、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
前記パラミキソウイルスが、呼吸器合胞体ウイルス、メタニューモウイルス、又は、パラインフルエンザウイルスである、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項4】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、ザナミビルまたはオセルタミビルである、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項5】
前記状態又は疾患が、急性気管支炎、慢性気管支炎、鼻炎、副鼻腔炎、クループ、急性細気管支炎、咽頭炎、へんとう炎、喉頭炎、気管炎、喘息、及び、肺炎からなる群から選択される、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項6】
前記症状が、発熱、痛み、めまい、震え、発汗、及び、脱水から成る群から選択される請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項7】
前記イオタ‐及び/又はカッパ‐カラギーナンが、0.1〜50μg/kg/d、好ましくは、2〜35μg/kg/d、最も好ましくは、8〜25μg/kg/dである、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項8】
前記医薬の投与が、感染後24時間以降に開始される、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項9】
前記医薬の投与が、感染後48時間以降に開始される、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項10】
インフルエンザウイルスによる感染によってもたらされるか、または、それに関連した症状、状態または疾患の併用予防または併用治療に適した医薬組成物又はキットの製造において使用するためのノイラミニダーゼ阻害剤とイオタ−及び/又はカッパ‐カラギーナンとの組み合わせ。
【請求項11】
インフルエンザウイルスによる感染、または、インフルエンザウイルスと、好ましくは、ライノウイルス、コロナウイルス、およびパラミキソウイルスからなる群から選択された、インフルエンザウイルス以外の別の一以上の呼吸器系ウイルスとによる共感染によってもたらされるか、または、それに関連した症状、状態または疾患を予防又は治療するための方法であって、インフルエンザ感染のリスクのある個体又はインフルエンザウイルス感染症を患う個体に、抗ウイルス的に有効な量のノイラミニダーゼ阻害剤と抗ウイルス的に有効な量のイオタ−及び/又はカッパ‐カラギーナンとの組み合わせを投与することを含む、方法。
【請求項12】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、ザナミビルまたはオセルタミビルである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記投与を、感染後24時間以降に開始する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記投与を、感染後48時間以降に開始する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記投与を、経口投与、吸入投与、若しくは、鼻腔内投与、又は、これらの組み合わせによって行う、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、液体医薬組成物として用意されて経口投与され、そして、前記カラギーナンが、液体溶液として用意されて鼻腔内に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗ウイルス的に有効な量のノイラミニダーゼ阻害剤と、抗ウイルス的に有効な量のイオタ−及び/又はカッパカラギーナンと、を含むインフルエンザウイルス感染症の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が、鼻腔用スプレーに適したものである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、ザナミビルである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、特に、カルボン酸オセルタミビルである、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
抗ウイルス的に有効な量のイオタ−及び/又はカッパ‐カラギーナンと、医薬的に許容可能な担体と、を含む第1の容器と、
抗ウイルス的に有効な量のノイラミニダーゼ阻害剤、と医薬的に許容可能な担体と、を含む第2の容器と、
前記イオタ‐及び/又はカッパ‐カラギーナンと前記ノイラミニダーゼ阻害剤との併用に関する指示書と、
を含むインフルエンザウイルス感染症の予防又は治療用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−515022(P2013−515022A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545143(P2012−545143)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007726
【国際公開番号】WO2011/076367
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509142863)マリノメド バイオテクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】