説明

相互インダクタンスをキャンセリングする構造のケーブル(OffsetMagneticCancelingGeometry)

【課題】ケーブルの芯線間の相互インダクタンスを考慮し、隣り合う芯線からの磁気的クロストークを低減するケーブル構造を考案した。
【解決手段】どの芯線から見ても隣り合う両端に行き線と帰り線が等距離にくるような芯線配置をする。そのように配置することで隣り合う芯線からの相互インダクタンス成分を打ち消すことが出来る。例えば芯線11、15はチャンネル1の行き線、13、17はチャンネル1の帰り線とし、芯線12、16はチャンネル2の行き線、14、18はチャンネル2の帰り線とすると、このように配置することでどの芯線から見ても行き線と帰り線が等距離にくるので双方のチャンネルからの磁界による誘導起電力をキャンセリングできる。また2チャンネル分の芯線を1チャンネル分として組み込んだ構造であれば、このタイプは1芯あたりに流れる電流量を抑えられるので、それによる電磁誘導の影響を抑えられるメリットがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互インダクタンスを考慮した特殊な芯線配置の構造を用いたケーブル関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くのメーカーから伝送特性を考慮して作られたさまざまなオーディオ用ケーブルが発売されている。オーディオ用ケーブルには多くのバリエーションがあるが、それは根本的な問題として損失ゼロの理想電線を作成することが不可能だからである。本発明は電線の隣り合う芯線からの磁気的な相互作用、いわゆる相互インダクタンスに着目し、それをを改善するためのケーブル構造に関する発明である。
【0003】
一般的にはケーブルの劣化要素は大きく分けて、直流抵抗R、静電容量C、インダクタンスLによる減衰や外部からのノイズ成分が上げられる。さらにオーディオの分野では振動対策として制振材で固めたものや被覆材に使われる色素の影響を考慮して無色透明の被覆材を使ったものが発売されている。
【0004】
特に直流抵抗R、静電容量C、相互インダクタンスM、自己インダクタンスLは信号減衰に関わるパラメーターで、直流抵抗Rは抵抗による減衰を意味し、静電容量Cはケーブルの行き線と帰り線間に生じる静電容量で、行き線と帰り線は絶縁体によって隔絶されているように見えるが、交流の世界においては実際には線間に形成される静電容量によって結合されている。その結合力を表す容量性リアクタンスは式X=1/2πfCによって表され、信号の周波数fと静電容量Cに反比例して小さくなる。つまり、信号の周波数fと静電容量Cが大きいほど行き線と帰り線間が小さな抵抗によって短絡されているとみなすことができ、周波数fが大きければ大きいほど、静電容量Cが大きければ大きいほど信号の減衰が生じる。
【0005】
また、インダクタンスは芯線が発した磁界による電磁誘導による誘導抵抗である。相互インダクタンスMは周りの芯線により発生する磁界による相互誘導、自己インダクタンスLは自己の芯線により発生する磁界による自己誘導である。これらのパラメータにも周波数依存性があり、誘導性リアクタンスは式X=2πfLまたはX=2πfMで表される。これは周波数fが大きければ大きいほど、また自己インダクタンスL、相互インダクタンスMが大きければ大きいほど信号の減衰が生じる。
【0006】
これらの信号減衰要素やノイズ成分などの問題を解決するためにシールド線やツイステッドペア、スペーサーをつけた平型平行線が存在するが、本発明では隣り合う芯線からの相互インダクタンスに着目し隣り合う芯線からの誘導起電力をキャンセリングできるケーブル構造を考案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開2004−172131
【特許文献2】特許公開2003−258510
【特許文献3】特許公開2003−346567
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大沼 俊朗著 「最新電磁気学」朝倉書店 1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、ケーブルの隣り合う芯線に電流が流れると、その周囲に磁界が発生し相互誘導による誘導起電力が生じる点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】

本発明は隣り合う芯線からの相互インダクタンスに着目し、隣り合う芯線からの誘導起電力をキャンセリングできるケーブル構造としている。
【0011】
方法として、図1のようにひとつの芯線の隣り合う両端に行き線と帰り線を等距離に配置し、どの芯線から見ても隣り合う両端に行き線と帰り線がくるような芯線配置をしている。そのような配置をするのは隣り合う芯線からの誘導起電力をキャンセリングするためである。そのキャンセリングする現象をビジュアル化したモデルが図3〜5である。
【0012】
図3〜5は行き線を座標(−5sqr(2),−5sqr(2))、帰り線を座標(5sqr(2),−5sqr(2))に置き、座標(0,0)に置いた芯線への磁気的な相互誘導の影響をコンピューターで計算し3D図として表示したものである。3D図の縦軸はその空間に生じた磁界ベクトルが、どの程度相互誘導として座標(0,0)に置いた芯線に影響を及ぼしているかを表している。縦軸の+の領域はその空間の磁界が芯線に逆方向に誘導起電力を生じさせることを意味し(座標(0,0)の芯線が行き線ならば電圧降下が起こる)、−の領域は順方向に誘導起電力を生じさせることを意味している。図3〜5よりこの3D図は上下左右対称であることがわかるが、これは行き線と帰り線をある芯線から等距離に置けば相互誘導の影響は正負で打ち消しあうことを意味する。別の解釈では電磁誘導は空間に生じる磁束の時間変化として表されるが、図3〜5は磁束の時間変化が+と−で打ち消しあい0となっていることを意味する。
本発明では、この原理を利用して隣り合う芯線からの誘導起電力をキャンセリング出来るような芯線配置をしている。
【0013】
本発明の芯線配置の例を上げると、図1は1の芯線(行き線)の隣には行き線1と帰り線3が等距離に配置されている。行き線1は芯線2へ逆方向に誘導起電力を生じさせ、帰り線3は芯線2へ順方向に誘導起電力を生じさせる。行き線1と帰り線3は芯線2から等距離にあり、行き線1と帰り線3から生じた誘導起電力は芯線2のなかではキャンセリングされる。1〜8のどの芯線から見ても必ず行き線と帰り線が等距離にあり相互誘導起電力はキャンセリングされる。
【0014】
しかし、この構造では隣の芯線からの誘導起電力はキャンセリングできても、隣の隣の芯線、そこからさらに隣の隣の芯線(芯線2から見た場合、芯線4、8と6)からの誘導起電力はキャンセルできない。つまり芯線2から見ると2、4、6、8の位置に芯線を並べた構造(8芯の場合カッド構造となる)と変わらないように見えるが、1芯あたりに流れる電流iは1/2になるので相互誘導/自己誘導による電圧変動は1/2になる。それによって電磁誘導の影響は2、4、6、8の並びのカッド構造と比べて1/2にすることが出来る。
【0015】
また、この誘導起電力をキャンセリングする構造を利用して、図2のように別々のチャンネルの信号線を組み込むと、双方のチャンネルからの電磁誘導の影響をキャンセリングできる。
【0016】
図2の場合、芯線11、15、13、17と12、16、14、18はそれぞれ別のチャンネルで、11、15はチャンネル1の行き線、13、17はチャンネル1の帰り線とする。同様に12、16はチャンネル2の行き線、14、18はチャンネル2の帰り線とする。この場合芯線11に着目すると、芯線11にはチャンネル2の行き線12と帰り線18が隣接しており、それぞれが芯線11から等距離の位置にあるので、芯線12と18からの磁気的な相互誘導起電力をキャンセリングできる。また、チャンネル2の行き線16と帰り線14も芯線11から等距離かつ対称な位置にあるので磁気的な相互誘導起電力をキャンセリング出来る。これはチャンネル2から芯線11への磁気的な影響を打ち消してあっていることを意味する。
【0017】
同様に、芯線12〜18のどの芯線から見ても、他チャンネルの行き線と帰り線が左右対称、等距離にあり、磁気的な相互誘導起電力をキャンセリング出来る。これによりチャンネル1とチャンネル2の磁気的なクロストークをキャンセリングできる。
【0018】
また磁界だけでなく電界で見た場合、芯線11、15、13、17はそれぞれチャンネル2の行き線と帰り線に挟まれており、もしチャンネル2の行き線と帰り線に電圧が掛かり、チャンネル1の芯線11、15、13、17のある空間の電位ポテンシャルが上昇したとしても、芯線11、15、13、17のある空間の電位ポテンシャルの変動は同じなので、行き線と帰り線への影響は等価である。(行き線の電圧が1V上がっても帰り線の電圧が1V上がれば電位差としては変わらないと言う意味)これにより電界変動による影響を低減できる。チャンネル2の芯線12、16、14、18から見ても同様である。オフセットで芯線を詰め込むため対称性が悪いように思われるが、実は対称性が高く、合理的な構造である。
【0019】
図2のような行き線と帰り線を等間隔に置いてチャンネル間のクロストークを低減する方法は、電話網でも利用されており、4本の芯線を縒ったカッド構造の対向配置の芯線を1チャンネル分として利用すると、お互いのチャンネルからの電磁誘導がキャンセルされる。また、特許文献1や特許文献2においても同様の原理が利用されているが、本発明における図2の構造の利点は、ひとつ目は同じ導体量であった場合、芯線数が増えるので細い芯線が利用でき、表皮効果の影響を抑制できる点。二つ目は1チャンネル分の芯線配置がカッド構造をなしているのでノイズキャンセリング効果が非常に高いと言う点があげられる。
【発明の効果】
【0020】
・相互誘導/自己誘導による影響を低減できる。(8芯や16芯などで1チャンネル分を組み込んだ場合)
【0021】
・2チャンネル分の信号線を組み込んだ場合、双方のチャンネルからの磁界による誘導起電力をキャンセリングできる。
【0022】
・対称性が高いので、外部からのノイズによる影響をキャンセリングできる。
【0023】
・多芯ケーブルとなるので同じ導体量ならば芯線を細くでき、表皮効果の影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は8芯1チャンネルタイプのケーブルの構造を示した図である。(実施例1)
【図2】図2は8芯2チャンネルタイプのケーブルの構造を示した図である。(実施例2)
【図3】図3は隣接するケーブルからの相互誘導の影響を示した図である。行き線を座標(−5sqr(2),−5sqr(2))、帰り線を座標(5sqr(2),−5sqr(2))に置き、電流の流れていない芯線を座標(0,0)に置き、行き線と帰り線により生じる空間の磁界ベクトルと座標(0,0)と空間座標との単位ベクトルの外積成分をグラフ化したもの。
【図4】図4は隣接するケーブルからの相互誘導の影響を上方から示した図である。
【図5】図5は隣接するケーブルからの相互誘導の影響を下方から示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ケーブルにおいてどの芯線から見ても隣り合う芯線に行き線と帰り線が一つずつくる、そしてそれが等距離にあるように芯線を配置することで実現する。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明のケーブル構造で8芯1チャンネルタイプを示した図である。1〜8のように芯線を並べている。芯線1から見て隣には行き線と帰り線が一本ずつ並んでいる。2から8も同様である。どの芯線から見ても隣り合う芯線に行き線と帰り線が一つずつくるように芯線を配置することで、芯線1、3、5、7と2、4、6、8のグループは磁気的にアイソレーションされるので、一芯あたりに流れる電流による磁界によって生じる誘導起電力の影響を低減出来る。当然、16本や32本など芯線の本数を増やして同様に並べる事も可能である。
【実施例2】
【0027】
図2は本発明のケーブル構造で8芯2チャンネルタイプを示した図である。11〜18のように芯線を並べている。芯線11、15はチャンネル1の行き線13、17はチャンネル1の帰り線、12、16はチャンネル2の行き線、14、18はチャンネル2の帰り線とすると、どの芯線から見ても他チャンネルの行き線と帰り線が対称で等距離に並んでいる。これにより他チャンネルからの電磁誘導の影響をキャンセリングする。
【産業上の利用可能性】
【0028】
ケーブルの信号もしくはエネルギー伝送線路において、隣り合う芯線からの誘導起電力が問題となり、強力なノイズキャンセリング効果を得たい場合、さらにケーブルを小さくまとめなくてはならない場合に、その解決策として利用できる。
【0029】
また2チャンネル分の信号線もしくは電源線をひとつのケーブルとして小さく纏める必要があり、お互い違う信号線もしくは電源線からの相互誘導の影響を抑えたい場合、かつ強力なノイズキャンセリング効果を得たい場合にその解決策として利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 芯線1(行き線)
2 芯線2(行き線)
3 芯線3(帰り線)
4 芯線4(帰り線)
5 芯線5(行き線)
6 芯線6(行き線)
7 芯線7(帰り線)
8 芯線8(帰り線)
9 スペーサー
10 外部ジャケット

11 芯線11(チャンネル1、行き線)
12 芯線12(チャンネル2、行き線)
13 芯線13(チャンネル1、帰り線)
14 芯線14(チャンネル2、帰り線)
15 芯線15(チャンネル1、行き線)
16 芯線16(チャンネル2、行き線)
17 芯線17(チャンネル1、帰り線)
18 芯線18(チャンネル2、帰り線)
19 スペーサー
20 外部ジャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルにおいてどの芯線から見ても隣り合う芯線に行き線と帰り線が等距離に一つずつ配置され、かつ多芯構造として上下左右に対称性を持つ芯線配置をすることでノイズキャンセリング能力を得ている事を特徴とするケーブルで、その芯線を1チャンネル分として使うケーブル。
【請求項2】
請求項1を満たすような芯線配置のケーブルで、その芯線を2チャンネル分として使うケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−41755(P2013−41755A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178185(P2011−178185)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(711006474)
【Fターム(参考)】