説明

相互架橋型ポリマー層を有する多層高分子物品及びその製造方法

【課題】相互架橋型多層高分子物品を提供する。
【解決手段】(A)少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層、及び(B)この(A)と接する少なくとも1層の架橋可能な熱可塑性ポリマー層を含み、(A)と(B)とが互いに非相溶性であり、且つ(A)と(B)とが相互架橋により互いに固着する、相互架橋型多層高分子物品を開示する。また、この相互架橋型多層高分子物品を調製する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層物品の層の1つとして熱可塑性ポリマーを使用する、フィルム、シート、管、細管、中空体などの高分子多層物品に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能熱可塑性プラスチック、例えば熱可塑性フルオロポリマーは、高い熱安定性、化学的不活性、及び非粘着離型特性などの特性の独特の組合せを有する。したがってこれらは、高温、攻撃的化学薬品、及び離型の用途に関係するきわめて様々な分野に用いられている。しかしながらこれらのポリマーは、多くの他のポリマーと比べて高価である。フルオロポリマーを他のポリマーと組み合わせた多層構造は、フルオロポリマーから製造される物品のコストを低減する好適な手段を提供する。これらの他のポリマーはさらに、例えば低密度、弾性、シール性、耐引っかき性など、それら他のポリマー自体の特性及び利点を提供する。フルオロポリマーを含有する多層構造体を製造する場合、フルオロポリマーに対する適正な層間接着の達成という問題が常に存在する。多くのフルオロポリマーは非極性であり、またきわめて低い表面エネルギー(非濡れ性表面)を有する。層間の濡れはフルオロポリマーを溶融することによって達成することができるが、凝固すると得られた多層生成物の層が簡単に分離する(層間剥離する)可能性がある。ほとんどの場合、フルオロポリマーを化学的に官能化しない限り、又はその表面を特殊な処理技術により化学的に変性しない限り、層間接着は不十分である。これらの処理は両方とも費用がかかり、且つ複雑である。その目的がきわめて薄いフルオロポリマー層を有する多層物品を製造することにある場合、層間表面の変性はきわめて高コストの、又は不可能でさえある作業になる可能性がある。化学的に官能化したフルオロポリマーは高価であり、またそれらはナイロン類などの特定のポリマーとの接着用に設計され、ポリオレフィン類との接着用ではない。エチレンとプロピレンの過フッ素化コポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロメチルビニルエーテルのコポリマー(MFA)、又は過フッ化アルコキシ樹脂(PFA)など、多くの熱可塑性フルオロポリマーに基づく材料の官能基化されたものは、まったく市販されていない。
【0003】
米国特許第3,650,827号(Brown他、1972年3月21日)は、ポリエチレン組成物で被覆した中心銅導線を有する電線について記載している。この制御ケーブルは、約10Mradの放射線量に曝される。テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(FEP)の薄層を、その被覆した電線上に押し出す。押出の後、高エネルギー電子、X線、又は紫外線を用いて、FEPのガラス転移温度を超える温度において、FEP外装の架橋を誘発させる。
【0004】
米国特許第4,155,823号(Gotcher他、1979年5月22日)は、200℃を超える加工温度を必要とする溶融加工可能なフッ化炭化水素ポリマー組成物に関するもので、フルオロカーボンポリマー中に架橋剤を混ぜることによって、放射線架橋可能にしている。フルオロカーボンポリマーは、そのフルオロカーボンポリマーを分解することなく満足な程度の架橋を与えるのに十分な照射線量に曝される。
【0005】
米国特許第4,677,017号(DeAntonis、1987年6月30日)は、多層型フィルム、及び多層型フィルムを共押出(coextrude)する方法を提供する。この共押出フィルムは、少なくとも1層の熱可塑性フルオロポリマー層、及びこれに隣接する少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層を有する。変性ポリオレフィンの接着剤が、各熱可塑性フルオロポリマー層と各熱可塑性高分子層との間に存在する。
【0006】
米国特許第5,480,721号(Pozzoli他、1996年1月2日)は、フッ素化及び非フッ素化熱可塑性樹脂と、塩化されていてもいなくてもよい反応基を有するコポリマーを含む1種のイオノマー又は多種類のイオノマーのブレンドとを含有するブレンドを含んだ接着性中間層の使用によって、フッ素化ポリマーと非フッ素化熱可塑性材料との接着を提供している。
【0007】
米国特許第5,578,681号(Tabb、1996年11月26日)は、フルオロエラストマーとエチレンコポリマーのエラストマーとの硬化可能なエラストマーブレンドを提供する。ここでは、フルオロエラストマーとエチレンコポリマーのエラストマーとの少なくとも一方が硬化部位モノマーを含有する。
【0008】
米国特許第5,916,659号(Koerber他、1999年6月29日)は、熱及び圧力の影響下で容易に互いに接着しないポリマーを含有する層状複合体に関する。具体的にはこの参考資料は、フルオロポリマー材料及び非フルオロポリマー材料の別々の層からなり、繊維状バインダの新規な使用により改良された剥離接着特性を持つ複合体に関する。
【0009】
国際公開第98/05493号(Spohn、E. I. DuPont de Nemour and Company、国際公開日1998年2月12日)は、フルオロポリマー層とポリアミド層とを含む積層品を提供する。ここでこの積層品は、単一押出工程、すなわち共押出により成形することができ、このフルオロポリマー層とポリアミド層とは、接着性のつなぎ層の存在なしに互いに接着する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(A)少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層、及び
(B)この(A)と接する少なくとも1層の架橋可能なポリマー層、を含み、(A)と(B)とが互いに非相溶性であり、且つ(A)と(B)とが相互架橋によって互いに固着される、相互架橋型の多層高分子物品について開示する。
【0011】
本発明の別の実施形態は、
(A)少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層、及び
(B)この(A)と接する少なくとも1層の架橋可能な熱可塑性ポリマー層、を含み、(A)と(B)とが互いに非相溶性である、相互架橋型の多層高分子物品の調製方法を対象とする。ここでこの方法は、
(A)及び(B)の両方の融点を超える温度、且つ0.1〜80MPaの圧力で、(A)と(B)を互いに直接に接する状態に配置して、多層物品を形成すること、及び
(A)と(B)との間の接触を保ちながらこの多層物品を架橋させて、相互架橋型の多層高分子物品を形成すること、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この相互架橋型の多層高分子物品には、少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層(A)を、少なくとも1層の架橋可能なポリマー層(B)と接する状態に配置することを含む。この(A)及び(B)の高分子層は互いに非相溶性であることに注目することが重要である。(A)を(B)と直接に接する状態に配置することを、(A)及び(B)両方の融点を超える温度、且つ0.1〜80MPaの圧力で行って、多層物品を形成する。この多層物品を架橋させることによって、結合が(A)と(B)との間に形成され、それによって相互架橋型の多層高分子物品が形成される。
【0013】
(A)熱可塑性ポリマー層:
熱可塑性ポリマー層は、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリエステル類、又はフルオロポリマー樹脂類を含めた熱可塑性樹脂から調製される。フルオロポリマー樹脂が好ましい。一般に熱可塑性樹脂は、熱を加えたとき化学的に反応せず、融解及び流動し、フィルム又はシートの形態に押し出すことができる。成分(A)として有用性を有する熱可塑性フルオロポリマーには、エチレンとプロピレンのフッ素化コポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロプロピルビニルエーテルのフッ素化コポリマー(PFA)、エチレンとテトラフルオロエチレンのコポリマー(ETFE)、エチレンとクロロトリフルオロエチレンのコポリマー(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレンポリマー(PCTFE)、ポリビニリジンフルオロポリマー(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンのセグメントを含有するターポリマー(THV)、それらのブレンド且つアロイ、又はそれらのブレンド若しくはアロイが含まれる。好ましいフルオロポリマーはFEPである。THV樹脂は、Dyneon 3M Corporation(ミネソタ州、ミナアポリス)から入手できる。ECTFEポリマーは、Ausimont Corporation (イタリア)から、商品名Halarで入手できる。本明細書中で用いられる他のフルオロポリマーは、ダイキン(日本)、DuPont (USA)、及びHoechst (ドイツ)から得ることができる。
【0014】
さらに(A)はそれ自体、架橋可能なポリマーであってもよい。(A)として働くことができる架橋可能なポリマーには、ポリアミド類、ポリエステル類、及びそれらのコポリマー類、並びにポリエチレンを含めたポリオレフィン類がある。上記の熱可塑性フルオロポリマー類の中で、ETFE、THV、及びPVDFは、電子ビームなどの放射線によって架橋することができることに注目すべきである。
【0015】
(B)架橋可能な熱可塑性ポリマー層:
ポリオレフィン類は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、又はそれらの混合物のいずれとしても、本発明用の架橋可能な熱可塑性ポリマー層(B)としての有用性を有する。本発明用のポリオレフィンの種類は、高密度ポリエチレン(PE)、中密度PE、低密度PE、超低密度PE、エチレンプロピレンコポリマー、エチレン−ブテン-1コポリマー、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリスチレン、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンポリマー(EPDM)などである。本発明用の好ましいポリオレフィンの種類はEPDMである。
【0016】
使用されるEPDMポリマーは、エチレンモノマー、プロピレンモノマー、及びジエンモノマーの相互重合単位を含む。EPDMポリマーの合計重量に対して、エチレンが約63重量%〜約95重量%、プロピレンが約5重量%〜約37重量%、またジエンが約0.2重量%〜約15重量%を構成する。好ましくはEPDMポリマーの重量に基づいて、エチレンが約70重量%〜約90重量%、プロピレンが約17重量%〜約31重量%、またジエンが約2重量%〜約10重量%である。好適なジエンモノマーには、ブタジエン、イソプレン、及びクロロプレンなどの共役ジエン類;1, 4-ペンタジエン、1, 4-ヘキサジエン、1, 5-ヘキサジエン、2, 5-ジメチル-1, 5-ヘキサジエン、及び1, 4-オクタジエンなどの、炭素原子5〜約25個を有する非共役ジエン類;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、及びジシクロペンタジエンなどの環状ジエン類;1-ビニル-1-シクロペンテン及び1-ビニル-1-シクロヘキセンなどのビニル環状エン類;3-メチルビシクロ-(4, 2, 1)-ノナ-3, 7-ジエンなどのアルキルビシクロノナジエン類、メチルテトラヒドロインデンなどのインデン類;5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ブチリデン-2-ノルボルネン、2-メタリル-5-ノルボルネン、2-イソプロペニル-5-ノルボルネン、5-(1, 5-ヘキサジエニル)-2-ノルボルネン、及び5-(3, 7-オクタジエニル)-2-ノルボルネンなどのアルケニルノルボルネン類;並びに3-メチルトリシクロ (5, 2, 1, 0. sup.2, 6)-デカ-3, 8-ジエンなどのトリシクロジエン類がある。より好ましいジエンには、非共役ジエン類がある。EPDMポリマーは、米国特許第3,646,169号及びFriedlander著、 Encyclopedia of Polymer Science and Technology, Vol. 6, pp.338-386 (New York, 1967)に記載のものなど、周知の懸濁及び溶液技術に従って容易に調製することができる。これらEPDMポリマーは高分子量の固体エラストマーである。これらのムーニー(Mooney)粘度は一般に少なくとも約20、好ましくは約25〜約150(125℃におけるML1+8)であり、またトルエン1dl当たりEPDMポリマー0.1gの溶液として25℃で測定したときの希薄溶液粘度(DSV)は、少なくとも約1、好ましくは約1.3〜約3である。原料ポリマーの典型的な未硬化引張強さは、約800psi〜約1,800psi、より典型的には約900psi〜約1,600psiであり、また破断時の伸びは少なくとも約600%である。これらEPDMポリマーは一般に、ジシクロペンタジエン、エチルノルボルネン、メチルノルボルネン、非共役ヘキサジエンなどの、少量のジエンモノマーを用いて製造され、典型的には数平均分子量が、約50,000〜約100,000である。
【0017】
成分(A)及び(B)は互いに非相溶性であり、これら2つの成分は、(A)と(B)の両方の融点を超え、好ましくは400℃以下の温度で、且つ0.1〜80MPa、好ましくは40MPa以下の圧力で、互いに直接に接する状態に配置して、多層物品を予備成形する。「非相溶性」とは、(A)及び(B)が、それぞれの融点を超える温度で互いに接する状態に配置された場合でさえ、互いに混合又は溶解しないことを意味する。(A)と(B)との間には化学的相互作用は起こらず、これら成分間の結合はほとんどない。(A)及び(B)の各1層が存在する。他の実施形態では1層の(B)の各面と接する2層の(A)、又は1層の(A)の各面と接する2層の(B)が存在する。別の実施形態は、(B)の複数の層に隣接して配置された(A)の複数の層を含み、(A)及び(B)層が1層ずつ互いに交互になっている。ここでは、奇数の(A)及び(B)層が存在する場合、終端の層は両方とも(A)又は両方とも(B)のどちらかであり、また偶数の(A)及び(B)層が存在する場合、一方の外側の層は(A)であり、他方の外側の層は(B)である。別法では、少なくとも1対の互いに接する(A)及び(B)層が存在するという条件で、(A)及び(B)とは別の層が存在することもできる。
【0018】
(A)と(B)とを接触させる様々な方法がある。これらの方法は、共押出、共積層(マルチラミネーション)、押出積層、プリフォームした層の溶融コーティング、及び共成形である。共成形についていえば、共成形は、共射出(コインジェクション)成形、複数材料(マルチマテリアル)成形、マルチショット成形、トランスファー成形、ブロー成形、及び多層圧縮成形を含む圧縮成形によることができる。共成形の方法によれば、容器などの多層物品が形成される。共押出の方法によれば、フィルム又はシート、細管、あるいは異形材が形成される。
【0019】
成形は一般に、圧縮成形、トランスファー成形、及び共射出成形の3種類の基本成形技術により行われる。これら成形技術の説明は、Wright, Ralph E.著、Molded Thermoset; A Handbook for Plastics Engineers, Molders, and Designers, Hanser Publishers、Oxford University Press、New York(1991)の中で見出すことができる。
【0020】
成形技術の選択は主に、成形される物品のデザイン及び機能上の必要条件、並びに成形される物品を経済的に生産する必要性により決められる。これら方法は各々互いにいくつかの類似点を持つが、それぞれがそれ自体の設計及び操作上の必要条件を有する。ある物品を製造するために成形技術を選択する場合に考慮すべき要素には、例えば物品のデザインの特徴、金型設計、成形手順、プレスの選択及び操作、並びに成形後処理用ツール及び付属設備がある。
【0021】
圧縮成形は一般に、たて形の油圧作動プレスを使用する。このプレスは、1個が固定され1個が移動する2個のプラテンを有する。金型の半分はプラテンに固定されている。予め計量した成形用コンパウンドの供給量を、手又は自動で加熱した金型のキャビティに入れる。自動装填は、プロセス制御の使用を伴い、その成形法のより広い応用を可能にする。次いで適切な圧力及び温度を加えて金型を閉じる。成形サイクルの終わりに金型を油圧により開き、成形された部品を取り出す。
【0022】
圧縮成形用の金型の設計は、基本的に、プランジャーを備えたキャビティからなる。最終的な部品のデザインに応じて、金型は、金型操作及び成形された物品の抜き取りを助けるための様々な送り台、突出しピン、及び/又は移動プレートを有することになる。金型のフラッシュギャップ及び寸法公差は、コンパウンドの特性及び部品の必要条件に合うように調整することができる。
【0023】
トランスファー成形は、装填物を金型キャビティ中に導入する方法を除いては圧縮成形と似ている。この技術は一般に複数のキャビティを有する金型に適用される。この方法では装填物は、ランナの系を経由して金型キャビティとつながっているシリンダ中に手又は自動で導入する。スクリュを用いて、材料をトランスファーシリンダ中に導入することもできる。ランナを通して閉じた金型の金型キャビティ中に成形用コンパウンドを押し込むプランジャーを動かすために、二次油圧装置を用いる。次いで、たて形の油圧プレスが適切な温度で必要とされる圧力を加えて、目的の部品を圧縮成形する。トランスファー成形用金型の設計は、トランスファーシリンダ及びランナが存在するせいで、また金型内の流れに配慮するせいで、圧縮用金型よりもいくぶん複雑であるが、一般的な属性は似ている。シャットルプレスを使用して、インサートを導入することもできる。
【0024】
通常、共射出成形は、油圧プレスが一般に横向きになっており、且つ成形用コンパウンドがスプルブッシュ及びゲートとランナの系を経由して閉じた金型キャビティ中にスクリュにより射出されることを除いて、トランスファー成形と同様である。次いで適正な温度で圧力を加えて、部品を凝固させる。金型を開けて部品を抜き取り、移動し、金型を閉じ、次の装填物をスクリュによって射出する。射出成形技術は、上記で列挙したその他の技術に比較して、サイクル時間において著しい利点がある。したがって射出成形技術は、複数のキャビティを用いる成形の用途で広範囲に使用されている。射出成形用金型の設計は一層複雑であり、成形用コンパウンドの金型内での流れに特別の注意が必要である。射出成形の拡張された用途において、縦向きシャットルプレスを用いて、インサートを導入することができる。
【0025】
要約すると圧縮成形技術は、一般に、最も小さい部品収縮及び最も大きい部品密度を示す半バッチ式の方法だが、最も長いサイクル時間を有し、インサート成形品を生産する能力の点で限定され、金型設計の複雑さの点で限定され、且つ成形後の製品を仕上げる(フラッシュの除去)のに最も多くの作業を必要とする。トランスファー成形及び射出成形は、方法自体のサイクル時間が短く、インサート成形品を生産する点で操作性がすぐれており、且つ成形後の部品の仕上における作業が少ない、それぞれ半自動式及び自動式の方法である。これら技術は両方とも、圧縮成形に比較して、より低い部品密度及び大きい収縮を示す。
【0026】
本発明のシート又はフィルムは、当業者によく知られている共押出方法のいずれによっても調製することができる。例えば、成分(A)及び(B)それぞれのシートを押し出し、次いで熱軟化状態にある間に共押出ダイの中又はダイ出口の後ろで合わせて配置して、予備成形された物品を形成することができる。化学架橋剤が存在する場合は、架橋が行われることになる。存在しない場合は、このシートに放射線架橋を施すことができる。別法では、一方の面に(A)の層、そのもう一方の面に(B)の層を有する融解ポリマーの複合体流を形成することもできる。次いで、この複合体流を押出ダイに供給し、そこで複合体流を横に広げ又は変形させて、複合体シート又はフィルムの形態にする。所望の層の配置及び厚さを有する共押出複合体製品を生産するには、当業者には明らかなようにして、共押出装置の供給ラインそれぞれの送り量を相対的に制御することができる。
【0027】
いったん多層物品が予備成形された後で、架橋を行って、(A)と(B)を接着させる必要がある。この架橋がない場合、(A)及び(B)の層は分離しやすい。相互架橋によって(A)と(B)は引き離すことができなくなるか、あるいはかろうじて、またその品物を傷つけることによって引き離すことができるに過ぎなくなる。したがって本発明は、架橋前のきわめて低い剥離強度に比較して、架橋後には高い剥離強度を有する。
【0028】
架橋は放射線によって行うことができる。この放射線には、X線、γ線、紫外線、可視光線、又はe-ビームとしても知られる電子ビームが含まれる。「紫外線」又は「UV」は、170〜400nmの範囲の単波長又は複数波長の放射線を意味する。「電離放射線」は、イオンを発生させることができる高エネルギーの放射線を意味し、電子ビーム放射線、γ線、及びX線が含まれる。用語「e-ビーム」は、ヴァン・ド・グラーフ起電機、電子加速器、又はX線によって発生した電子ビームの電離放射線を意味する。
【0029】
放射線架橋は、両成分の融点を超す温度、又は室温、又はそれらの間の任意の温度において例えば(A)と(B)の両方が合わせて配置される場合に行うことができる。
【0030】
放射線による架橋のタイミングは、機会の問題である。多層物品がまだ高温の間には、(A)と(B)を隣接させて直ちに架橋させることが可能である。この筋書きではこれによって最終製品が形成される。別の選択肢の筋書きは、(A)と(B)を合わせて配置して架橋させていない物品を高温で形成し、この架橋させていない物品を冷却するに任せ、次いでこの架橋されていない物品が室温又は室温に近くなったときに、架橋を行なわせることになる。放射線量は、本明細書では放射線単位「rad」で表したものを指し、百万ラド又はメガラドを「Mrad」で示す。分子架橋の程度は放射線量に左右され、通常は線量が高いほど架橋は大きい。
【0031】
本明細書で用いる「放射線」は通常、分子架橋を直接引き起こすX線、γ線、及び高エネルギー電子などの電離放射線を意味する(しかしながら材料内に分散した架橋剤と関連して用いる場合、熱と光の両方を架橋を引き起こす放射エネルギーの形態として考えることができる)。電子は放射エネルギーの好ましい形態であり、好ましくは市販の加速器により0.1〜2.0MeVの範囲で生成される。
【0032】
架橋の好ましい方法は、電離放射線を用いた照射によるものである。したがってこの好ましい方法では、多層物品を、電子加速器から発する電子ビームに通すことによって照射する。典型的な加速器では、ビームがその多層物品の幅全体にわたって走査することになり、所望の放射線量が得られるまで、多層物品はビームを通り抜け、また繰返し通り抜けることになる。電子は通常0.1〜2.0MeVのエネルギー範囲にあり、本発明にとって好ましい線量レベルは1.0〜12.0メガラド(Mrad)の範囲にあることが分かった。もちろん、オレフィンポリマーの長鎖分子間の任意の架橋を引き起こすことになる任意の電離放射線が適している。その多層構造物を十分に強化するのに必要な線量は、その架橋性材料の分子量、密度、及び組成によって変わるはずであり、ポリエチレンなどのいくつかの構造物についてはわずか1.0Mradであることになる。これに反していくつかのコポリマーは、12Mradを超える線量レベルで、固く取扱いが困難になるような程度まで架橋されるようになる。こうして大部分の構造物については、その最適な線量レベルの範囲は4〜8Mradであることが分かった。この照射段階の後、多層物品が形成される。
【0033】
放射線のいくつかの形態に関しては、光開始剤又は増感剤組成物を用いるのが有利である。したがって成分(B)は、さらに光開始剤化合物を含んでもよい。このような化合物を(B)とブレンドして、実質的に均一な組成物を得る。紫外線を照射の形態として考える場合、好ましくは(B)は、架橋効率、すなわち単位放射線量当たりの架橋度を増すために、光開始剤を含有すべきである。また電子ビーム放射を照射の形態として考える場合、(B)は、任意選択で光開始剤を含むことができる。電子ビーム放射では、架橋は光開始剤が不在でも容易に起こるので、普通はこのような化合物と関連がない。しかしながら、このような光開始剤化合物を含有する(B)を使用すると、架橋効率が増し、したがってより高い架橋度を達成することができ、より低い線量の電子ビーム放射を使用することができ、又はそれらを組み合わせることもできることが報告されている。
【0034】
好適な光開始剤には、ベンゾフェノン、オルト及びパラメトキシベンゾフェノン、ジメチルベンゾフェノン、ジメトキシベンゾフェノン、ジフェノキシベンゾフェノン、アセトフェノン、o-メトキシアセトフェノン、アセナフテンキノン、メチルエチルケトン、バレロフェノン、ヘキサノフェノン、α-フェニルブチロフェノン、p-モルホリノプロピオフェノン、ジベンゾスベロン、4-モルホリノベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、3-o-モルホリノデオキシベンゾイン、p-ジアセチルベンゼン、4-アミノベンゾフェノン、4′-メトキシアセトフェノン、α-テトラロン、9-アセチルフェナントレン、2-アセチル-フェナントレン、10-チオキサンテノン、3-アセチルフェナントレン、3-アセチルインドール、9-フルオレノン、1-インダノン、1,3,5-トリアセチルベンゼン、チオキサンテン-9-オン、キサンテン-9-オン、7-H-ベンズ[de]アントラセン-7-オン、ベンゾインテトラヒドロフィラニルエーテル、4, 4′-ビス(ジメチルアミノ)-ベンゾフェノン、1′-アセトナフトン、2′-アセトナフトン、アセトナフトン及び2, 3-ブタンジオン、ベンズ[a]アントラセン-7, 12-ジオン、2, 2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、α,α-ジエトキシアセトフェノン、α,α-ジブトキシアセトフェノン、アントラキノン、イソプロピルチオキサントンなどがあるが、これらには限定されない。高分子開始剤には、ポリ(エチレン/一酸化炭素)、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)-フェニル]プロパノン]、ポリメチルビニルケトン、及びポリビニルアリールケトン類がある。光開始剤をUV照射と組み合わせて使用すると、一般により迅速且つより効率的な架橋を与えるので好ましい。
【0035】
市販の好ましい光開始剤には、ベンゾフェノン、アントロン、キサントン、及びその他Ciba-Geigy Corp.のIrgacure(商標)シリーズの光開始剤があり、これには2, 2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Irgacure(商標)651)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure(商標)184)、及び2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル] -2-モルホリノプロパン-1-オン(Irgacure(商標)907)が含まれる。最も好ましい光開始剤はすぐれた架橋効率をもたらすように、押出温度における蒸気圧が低くまたそのポリマー又はポリマーブレンド中で十分な溶解度を有するだけでなく、その配合した樹脂からの移行(マイグレーション)が少ないはずである。多くのよく知られている光開始剤の蒸気圧及び溶解度、すなわちポリマーとの相溶性は、その光開始剤を誘導体化すると容易に改良することができる。誘導体化光開始剤には例えば、4-フェニルベンゾフェノン、4-アリロキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノンの比較的高分子量の誘導体がある。光開始剤は、(B)と共有結合させることができる。したがって最も好ましい光開始剤は、実質上その組合せ構造から非移行性であることになる。
【0036】
光開始剤は、(B)の0〜約3重量%、好ましくは0.1〜2重量%の濃度で加えられる。
【0037】
架橋はまた、例えば過酸化物、アミン、及びシランといった化学架橋剤の使用によって行うこともできる。
【0038】
化学架橋の場合、(B)と化学架橋剤の実質上むらのない又は均一なブレンドを形成することにより、(B)の使用が準備される。下記に、各化学架橋剤についてより詳細に述べる。一般には(B)と化学架橋剤のブレンドは、固体状の形態、すなわち粉末形態の(B)と化学架橋剤をドライブレンドすることにより調製する。しかしながらこのブレンドは、液体形態の成分からブレンドを調製すること、不活性な粉末状担体中に吸着させること、及びコーティングされたペレットを調製することなど、普通のブレンドを調製するための当業界で周知の技術のいずれかを用いて調製することもできる。
【0039】
本発明において有用な熱で活性化可能な架橋剤には、遊離基を発生させる当業界で周知の化学薬品の任意のものが含まれる。このような化学薬品は熱に曝されると、分解して、少なくとも1種類、また一般には2種類以上の遊離基を形成して架橋を行う。本発明によれば、当業界で周知の架橋剤の任意のものを用いることができるが、好ましくはこの架橋剤は、有機過酸化物、アミン、及びシランといった有機架橋剤である。
【0040】
本発明において用いることができる有機過酸化物の典型的な例には、2, 7-ジメチル-2, 7-ジ(t-ブチルペルオキシ)オクタジイン-3, 5;2, 7-ジメチル-2, 7-ジ(ペルオキシエチルカーボナート)オクタジイン-3, 5;3, 6-ジメチル-3, 6-ジ(ペルオキシエチルカーボナート)オクチン-4;3, 6-ジメチル-3, 6-(t-ブチルペルオキシ)オクチン-4;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(ペルオキシベンゾアート)ヘキシン-3;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(ペルオキシ-n-プロピルカーボナート)ヘキシン-3;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(ペルオキシイソブチルカーボナート)ヘキシン-3;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(ペルオキシエチルカーボナート)ヘキシン-3;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(α-クミルペルオキ)ヘキシン-3;2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(ペルオキシβ-クロロエチルカーボナート)ヘキシン-3、及び2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(t-ブチルペルオキシ) ヘキシン-3があるが、これらには限定されない。現在好ましい架橋剤は、Elf Atochem社から商品名Lupersol 130で入手できる2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(t-ブチルペルオキシ) ヘキシン-3である。別の架橋剤の典型例は、Elf Atochem社からLupersol 500Rとして入手できる過酸化ジクミルである。好ましくは架橋剤は、(B)の重量に対して、重量で0.1〜5%、好ましくは0.5〜2%の量でそのポリマー中に存在する。
【0041】
シラン架橋に好適なシラン類には、下記の一般式のものが含まれる:
【化1】

上式でR1は水素原子又はメチル基であり、x及びyは、xが1、yが1のときnが1〜12(1と12を含む)の整数、好ましくは1〜4(1と4を含む)の整数であるという条件で0又は1であり、また各Rは独立に、その3個のR基の多くて1個がアルキルであるという条件で、炭素原子1〜12個を有するアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アラルオキシ基(例えばベンジロキシ)、炭素原子1〜12個を有する脂肪族アシルオキシ基(例えばホルミルオキシ、アセチルオキシ、プロパノイルオキシ)、アミノ又は置換アミノ基(アルキルアミノ、アリールアミノ)、あるいは炭素原子1〜6(1と6を含む)個を有する低級アルキル基などの加水分解可能な有機基である。このようなシランは、適切な量の有機過酸化物を使用することによって、成型又は成形操作の前あるいは間に、適切なポリオレフィンにグラフトすることができる。熱及び光安定剤、顔料などの追加の成分もまた、配合物中に含めることができる。いずれの場合も架橋反応は、成型又は成形の工程の後に、グラフトされたシラン基と水との間の反応によって起こる。この水は大気から、あるいは水浴又は「サウナ浴」から、バルクポリマー中に浸透する。架橋が生成される段階を一般に「硬化段階」と呼び、また一般に「硬化」とも呼ぶ。
【0042】
効果的に(B)にグラフトし、(B)を架橋する任意のシランを、本発明の実施において用いることができる。好適なシラン類には、ビニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル、シクロヘキセニル、又はγ-(メタ)アクリルオキシアリル基などのエチレン状不飽和性ヒドロカルビル基、並びに例えばヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルボニルオキシ、又はヒドロカルビルアミノ基などの加水分解可能な基を有する不飽和型シランがある。加水分解可能な基の例には、メトキシ、エトキシ、ホルミロキシ、アセトキシ、プロピオニルオキシ、並びにアルキル又はアリールアミノ基がある。好ましいシラン類は、ポリマーにグラフトしていてもよい不飽和アルコキシシランである。これらのシラン及びそれらの調製方法については、Meverden他の米国特許第5,266,627号に、より完全に記載されている。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、及びこれらシランの混合物が、本発明で使用される好ましいシラン架橋剤である。充填剤が存在するならば、好ましくは架橋剤はビニルトリエトキシシランを含む。
【0043】
本発明の実施において用いられるシラン架橋剤の量は、熱可塑性ポリマーの性質、シラン、加工条件、グラフト効率、最終用途、及び同様の要因に応じて大きく変わるが、一般には樹脂100部当たりの部数(phr)で、少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.7が用いられる。一般に本発明の実施に用いられるシラン架橋剤の最大量に対する2つの主要な制約は、利便性及び経済性への配慮である。一般にはシラン架橋剤の最大量は、5phr以下、好ましくは2phr以下である。
【0044】
シラン架橋剤は、一般には遊離ラジカル開始剤、例えば過酸化物及びアゾ化合物の存在下で任意の従来の方法によって、又は電離放射線などによって、(B)にグラフトされる。過酸化物開始剤のいずれか1種類、例えば過酸化ジクミル、過酸化ジ-tert-ブチル、過安息香酸t-ブチル、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、ペルオクチル酸t-ブチル、過酸化メチルエチルケトン、2, 5-ジメチル-2, 5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、過酸化ラウリル、及び過酢酸tert-ブチルなどの有機開始剤が好ましい。好適なアゾ化合物は、亜硝酸アゾビスイソブチルである。開始剤の量は変えることができるが、一般には少なくとも0.04phr、好ましくは少なくとも0.06phrの量で存在する。一般にはこの開始剤は0.15phr 以下、好ましくは約0.10phr以下である。シラン架橋剤と開始剤の比もまた広範囲に変えることができるが、一般的な架橋剤:開始剤の比は、10 : 1〜30 : 1、好ましくは18 : 1〜24 : 1である。
【0045】
任意の従来の方法を用いてシラン架橋剤を(B)にグラフトすることができるが、一つの好ましい方法は、バス型ニーダーなどの反応押出機の第一段階で、この二つを開始剤とブレンドすることである。グラフト条件は変えることができるが、その溶融される温度は一般には160〜260℃、好ましくは190〜230℃であり、それは開始剤の半減期及び滞留時間による。
【0046】
硬化は架橋触媒により促進され、この作用を与える任意の触媒を本発明において用いることができる。これらの触媒には一般に、有機塩基類、カルボン酸類、並びに有機チタン酸塩類、及び鉛、コバルト、鉄、ニッケル、亜鉛及びスズの錯体又はカルボン酸塩を含めた有機金属化合物がある。ジラウリン酸ジブチルスズ、マレイン酸ジオクチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、ジオクチル酸ジブチルスズ、酢酸第一スズ、オクチル酸スズ、ナフテン酸鉛、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルトなどである。カルボン酸スズ、特にジラウリン酸ジブチルスズ及びマレイン酸ジオクチルスズは、本発明にとって特に効果的である。触媒(又は触媒の混合物)は、一般には約0.015〜約0.035phrの触媒量で存在する。
【0047】
本明細書で用いることができるアミン架橋剤には、そのアルキル基が炭素原子約2〜約14個を含有するモノアルキル、ジ及びトリアルキルモノアミン類、式N(R2)3Nのトリアルキレンジアミン類、式HN(R2)2NHのジアルキレンジアミン類、式H2NR2NH2のアルキレンジアミン類、式H2NR2 NHR2NH2のジアルキレントリアミン類、及び炭素原子4〜6個の環状鎖を有する脂肪族アミン類がある。上記式中のアルキレン基R2は、好ましくは炭素原子約2〜約14個を有する。環状アミン類は、例えばN-アルキルモルホリン類のように、その中に含有された酸素などのヘテロ原子を有することができる。使用することができるその他の環状アミンには、ピリジン及びN, N-ジアルキルシクロヘキシルアミンがある。上記アミン類は比較的不揮発性であり、発生熱によって追い払われないはずである。好適なアミンの例は、トリエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、トリエチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N, N-ジエチルシクロヘキシルアミン、及びピリジンである。所望ならばこれらアミンを適切な溶媒中に溶解することもできる。例えばトリエチレンジアミンは、ポリヒドロキシ第三級アミン類中に溶解することができる。アミンは、(B)の重量に対して約0.5%〜約10%を用いるべきである。芳香族アミン類は、毒性があり、またしばしば架橋生成物の変色を起こすので用いるべきではない。
【0048】
いったん化学架橋剤を(B)中にブレンドしたら、(A)と(B)を互いに接する状態に配置し、架橋させて多層物品を形成する。化学架橋は、架橋剤が分解し、遊離基を生じさせる反応であり、この遊離基が、多層物品を形成する(A)と(B)の架橋を引き起こす。架橋剤の分解は、温度が高いほど速く架橋剤が分解し、遊離基を生じるという点で、時間依存性の反応である。架橋剤の「半減」時間は、その架橋剤の半分を分解するのに必要な時間である。過酸化ジクミルの場合、半減時間は100℃で約100時間、120℃で10時間、138℃で1時間、182℃で30秒である。他の架橋剤も同様の挙動をする。
【0049】
ブレンディングの一形態は、(B)と化学架橋剤を同時に押出機に供給するドライブレンディングである。(B)と架橋剤を、押出機内で予備混合又は最終混合して、ポリマー−架橋剤のブレンドを得ることもできる。(B)と架橋剤の混合がスクリュ押出機内で行われるように、(B)用及び架橋剤用の別々の供給系統を備えることもできる。別法では、(B)と架橋剤を、単純なブレンドを調製するための当業界で周知の混合装置に供給し、次いでこのブレンドを、さらに混合及び加熱するための押出機に供給することもできる。
【0050】
架橋剤を使用する別の実施形態において、(A)が架橋可能なポリマーである場合は、架橋剤を(B)の代わりに(A)に加えることもできる。さらに(A)が架橋可能なポリマーである場合、架橋剤を(A)と(B)の両方に加えることもできる。
【0051】
(A)と(B)を接触させる前述の一方法は共押出である。下記の操作は、架橋を放射線によって行う共押出法についての考察である。
【0052】
放射線による架橋を例示するために、押出工程によりフィルムを調製する。押出工程では、(A)及び(B)を単独で又は組み合わせて融解し、(A)と(B)のフィルムを産出する共押出フィードブロック及びダイヘッドに供給することができる。好ましくは押出ダイは、ダイの端から端まで一様に分布するポリマーのほぼ均一な流れが得られるように構成される。現在好ましいダイは、当業界で知られている「コートハンガ(coat hanger)」タイプの形態を使用する。ダイの端から端まで一様に分布するポリマーのほぼ均一な流れが得られる当業技術者が高く評価している他のダイヘッドの種類及び形態も用いることができるが、リニアコートハンガダイヘッドの典型例は、Extrusion Dies, Inc.及びCloereu Die Corp.から商業的に入手できる。連続シートは、押出機及びリニアダイヘッドと引取装置を用いて、溶融したポリエチレンから形成することができる。ポリマーがダイに供給され、圧力下でダイを通って押し出される温度は、慎重に制御することが必要なことに留意されたい。この温度は、その架橋剤の分解温度未満だが十分高い温度、すなわち組成物が流動して材料ウェブを形成することができるように、少なくともポリマーの融解温度に保つべきである。好ましくはこのポリマーの温度は、ポリマーがダイに供給されるときに設定平均の上下約5℃の範囲内、且つポリマーがダイヘッドを通過するときに設定平均の上下約5℃の範囲内に保たれる。様々な厚さの溶融フィルムは、ダイヘッドの間隙を調整することによるか、又はフィルムを引き取る巻取ロールの速さを調整することにより得ることができる。これら調整の組合せもまた考えられる。
【0053】
いったんフィルムが形成されたら、直ちに放射線架橋を行うことができ、またそのフィルムを巻き取ることもできる。別法ではフィルムを未架橋状態で巻き取り、後に巻き戻し、次いで放射線架橋を行うこともできる。
【0054】
次の表において、様々な材料からキャスティング−共押出した(A)/(B)/(A)の3層フィルムについてのデータを示す。共押出については、(A)/(B)/(A)フィードブロック及び幅8インチのダイを備えた(B)用の1インチキロイン(Killoin)式押出機及び(A)用の3/4インチブラベンダー(Brabender)式押出機を使用する。層の厚さの比は、約15% : 70% : 15%である。押出温度は表I中に列記する。
【0055】
【表1】

【0056】
Equistar社製の汎用LDPEグレードNA353000を、奇数番号の実施例の芯層として用いる。偶数番号の実施例では、芯層をDuPont Dow Elastomers L. L. C.社製のEPDM Nordel 4920で作製する。3種類のフルオロポリマーと1種類のコポリエステル、すなわち下記の(1)〜(4)を、この多層フィルムの外皮層として用いる:(1)ダイキン社から供給されたFEP NP-12X(2)Ausimont社から供給されたECTFE Halar 300 LC(3)Dyneon社から供給されたTHV 500 G(4)DSM社から供給されたコポリエステル熱可塑性エラストマーArnitel EM 740
【0057】
押し出したフィルムから裁断した6 x 10インチの試料に、ポリマー層相互間の架橋のためのUV又はe-ビーム処理を施す。UV処理は、コンベアの速さ50フィート/分で出力300W/インチのH-plus型UV電球(Fusion-UV Systems, Inc.製)を用いて行った。UV露光を増すために、試料の各面にUV光を32回露出させた。e-ビーム処理は、試料を175kVの加速電圧の処理機に1回通過させて行った。e-ビーム放射の線量は、すべての処理される試料について12Mradである。層間接着は、T剥離試験における層の剥離力を測定することにより評価する。幅1インチのストリップを各フィルム試料から裁断し、2片のマスキングテープをストリップの両面に貼り、引き剥がして一方の外皮層の層間剥離を開始させる。静的剥離力を求めるために較正用のおもりを用いる。最小のおもりは2.5gである。未処理、UV処理、又はe-ビーム処理試料についての層間接着性データを表IIに列記する。
【0058】
【表2】

【0059】
この表から分かるとおり、未処理フィルム試料の大部分は層間接着が劣る。同時に実施例4及び8は、処理前でも、共押出した層間にかなりの相互作用がある。剥離力は、層間接着によって決まり、またT剥離がフィルム試料の曲げ及び伸びを伴うので基体材料の機械的特性によって決まる。したがって公平な比較は、同じ材料の処理及び非処理の対についてのみ行うことができる。約1桁又はそれ以上の剥離力の増加は、層間接着力の顕著な改良を示す。いくつかの試料では、層間剥離は外皮層を破壊せずには不可能であり(実施例6のe-ビーム処理フィルムなど)、ここでは接着力が凝集力よりも高い。
【0060】
不飽和化学結合を含有するEPDMはUVによって架橋することができ、一方LDPEはUV架橋性ではない。したがってLDPEを芯層として用いる実施例1、5及び7では、UV処理は層間接着を改良しない。EPDMを有するすべての実施例が、UV処理後の剥離力の増加を示す。EPDMとLDPEは両方ともe-ビームによって架橋することができ、したがってすべてのe-ビーム処理試料が、より高い層間接着を示した。
【0061】
表II中の2つのケースは、その他の実施例とは若干異なる。実施例3では、LDPEとECTFEの間の強い相互作用が、思いがけなくUV処理によって達成された。ECTFE中の化学結合がUV光によって活性化されたのは明らかである。実施例8では、共押出した層間のかなりの相互作用がどの処理の前でも観察された。それにもかかわらず、実施例8では、UV処理による層間接着の改良は明らかであった。
【0062】
これらの実施例に見られるように、接着の改良は、わずかなものからめざましいものまで様々である。ここで列挙したすべてのポリマーのなかでFEPは、どの他のポリマーとも結合させるのが最も難しいものの一つである。FEP/EPDMの組合せは、この対が相互架橋によって達成される相互の接着の最も大幅な増加を示すので、好ましいものとして選択される。
【0063】
本発明をその好ましい実施形態について説明したが、本明細書を読めばその様々な変更形態が当業技術者に明らかになることは理解されるはずである。したがって本明細書中に開示された本発明が、添付の特許請求の範囲の範囲内にあるような変更形態を包含することを意図していることは理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層と、
(B)前記(A)と接する少なくとも1層の架橋可能な熱可塑性ポリマー層と、
を含み、前記(A)と(B)とが互いに非相溶性であり、且つ前記(A)と(B)とが相互架橋により互いに固着する、相互架橋型多層高分子物品。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマー層(A)がフルオロポリマーである、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマー層(A)が架橋可能なポリマー又は架橋可能なフルオロポリマーである、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記熱可塑性フルオロポリマー(A)が、FEP、PFA、ETFE、ECTFE、PCTFE、PVDF、THV、それらのブレンド且つアロイ、又はそれらのブレンド若しくはアロイを含む、請求項2に記載の物品。
【請求項5】
前記熱可塑性フルオロポリマー(A)がFEPである、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記架橋可能なポリマー(B)がポリオレフィンである、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記架橋可能なポリマー(B)がEPDMである、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記多層物品が共押出、共積層、又は押出−積層によって形成されている、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記多層物品が共成形によって形成されている、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記共成形が、射出成形、共射出成形、多材料成形、マルチショット成形、トランスファー成形、圧縮成形、又はブロー成形を含む、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記共押出によりフィルム又はシートが提供される、請求項8に記載の物品。
【請求項12】
前記共押出により細管又は異形材が提供される、請求項8に記載の物品。
【請求項13】
前記共成形により容器が提供される、請求項9に記載の物品。
【請求項14】
多層物品の前記相互架橋がX線の使用によるものである、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
多層物品の前記相互架橋がγ線の使用によるものである、請求項1に記載の物品。
【請求項16】
多層物品の前記相互架橋が紫外線又は可視光線の使用によるものである、請求項1に記載の物品。
【請求項17】
多層物品の前記相互架橋が電子線の使用によるものである、請求項1に記載の物品。
【請求項18】
前記架橋可能なポリマー(B)が光開始剤を含有する、請求項1に記載の物品。
【請求項19】
多層物品の前記相互架橋が、過酸化物類、アミン類及びシラン類を含めた化学架橋剤の使用によるものである、請求項1に記載の物品。
【請求項20】
前記化学架橋剤が有機過酸化物である、請求項19に記載の物品。
【請求項21】
(A)及び(B)の各1層が存在する、請求項1に記載の物品。
【請求項22】
2層の(A)が1層の(B)の各面に隣接する、請求項1に記載の物品。
【請求項23】
(A)少なくとも1層の熱可塑性ポリマー層と、
(B)前記(A)と接する少なくとも1層の架橋可能な熱可塑性ポリマー層と、
を含み、(A)と(B)とが互いに非相溶性である、相互架橋型多層高分子物品を調製する方法であって、
(A)と(B)両方の融点を超える温度及び0.1〜80MPaの圧力において、(A)と(B)とが互いに直接に接するようにして、多層物品を形成すること、及び
(A)と(B)との間の接触を保ちながら前記多層物品を架橋させて、相互架橋型多層高分子物品を形成すること、
を含む、相互架橋型多層高分子物品を調製する方法。
【請求項24】
前記温度が400℃以下である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記圧力が40MPa以下である、請求項23に記載の方法。

【公開番号】特開2012−245790(P2012−245790A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−196918(P2012−196918)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2008−55282(P2008−55282)の分割
【原出願日】平成14年6月4日(2002.6.4)
【出願人】(500149223)サン−ゴバン パフォーマンス プラスティックス コーポレイション (64)
【Fターム(参考)】