説明

相分離インク

【課題】紙に対する画像の接着性、画像耐久性、機械応力に対する堅牢性、表面光沢レベルを含む画像特性を向上した印刷プロセスおよび転相インクを提供する。
【解決手段】第1のインク吐出温度から、これより低い第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する結晶化可能な要素と;第2の温度ではアモルファスのままである材料を含むアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含み、前記結晶化可能な要素とアモルファス要素とは、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度において、相分離インクは、前記結晶化可能な要素を含む結晶相とアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、アモルファス相は最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、結晶相は、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっている、相分離インク。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書に、第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度ではアモルファスのままである材料を含む、少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含み、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相は、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相は、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっている、転相インクが開示されている。
【0002】
インクジェットデバイスは、当該技術分野で既知であるため、このデバイスを本明細書で詳細に記載する必要はない。米国特許第6,547,380号(その全体が本明細書に参考として組み込まれる)に記載されるように、インクジェット印刷システムには、一般的に、連続流式とドロップオンデマンド式の2種類がある。連続流式インクジェットシステムでは、インクは、少なくとも1個のオリフィスまたはノズルを通り、加圧された連続流の状態で放出される。この連続流に摂動を加えると、オリフィスから所定の距離で液滴へと分解される。この分解点で、液滴は、デジタルデータ信号にしたがって帯電し、再循環するためのガターに向けるため、または、記録媒体の特定の位置に向けるために、それぞれの液滴の軌跡を調節する静電場を通る。ドロップオンデマンドシステムでは、液滴は、デジタルデータ信号にしたがって、オリフィスから記録媒体の所定位置へと直接排出される。記録媒体の上に配置される予定がない場合には、液滴は作られないか、排出されない。
【0003】
ドロップオンデマンド式インクジェットシステムには、少なくとも3種類のシステムがある。ドロップオンデマンドシステムのひとつは、主な要素として、一端にノズルを備え、他端の近くに圧電式トランスデューサを備える、インクが充填されたチャネルまたは経路を含み、圧力パルスを作り出す圧電式デバイスである。別の種類のドロップオンデマンドシステムは、音響インク印刷として知られており、音波ビームが物体に衝突すると、物体に対して放射圧を生じる。したがって、音波ビームが、液溜まりの液体/空気界面のような自由表面に下から衝突すると、液溜まりの表面に対して生じる放射圧は、打ち消す力である表面張力があるものの、液溜まりから個々の液滴を放出させるのに十分に高レベルに到達することになる。液溜まりの表面または表面付近でビームを集光させると、所与の入力電力で生じる放射圧が大きくなる。さらに別の種類のドロップオンデマンドシステムは、サーマルインクジェットまたはバブルジェットとして知られており、高速の液滴を生成する。この種類のドロップオンデマンドシステムの主な要素は、一端にノズルを備え、ノズル付近に熱を発生するレジスタを備える、インクが充填されたチャネルである。デジタル情報をあらわす印刷信号は、オリフィスまたはノズルの付近にある各インク経路の中の抵抗層を通る電流パルスを生じ、すぐ近くにあるインク媒剤(通常は水)をほぼ瞬時に蒸発させ、泡を生じる。オリフィスに存在するインクは、この泡が大きくなるにつれて、加速した液滴として外に出される。
【0004】
基材または中間転写体に直接印刷する転相インクまたは固体インクを利用する圧電式インクジェットデバイスの典型的な設計(例えば、米国特許第5,372,852号(その全体が本明細書に参考として組み込まれる)に記載されるもの)では、インク吐出ヘッドに対して基材(画像を受け入れる部材または中間転写体)が4〜18回転する(段階的に移動する)間、着色したインクを適切に吐出することによって、画像が塗布される。すなわち、各回転の間、印刷ヘッドを基材に対して少し並進させる。このアプローチは、印刷ヘッドの設計を単純化し、小さく移動させることによって、液滴の位置決めを良好に行う。吐出部を操作する温度で、液体インクの液滴が印刷デバイスから放出され、インク滴が、直接、または加熱した中間転写ベルトまたは中間転写ドラムを介して記録基材表面に接触すると、インク滴はすばやく固化し、固化したインク滴の所定の模様が作られる。
【0005】
サーマルインクジェットプロセスは、十分に知られており、例えば、米国特許第4,601,777号、第4,251,824号、第4,410,899号、第4,412,224号および第4,532,530号に記載されており、それぞれの開示内容は、全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0006】
上述のように、インクジェット印刷プロセスは、室温で固体であり、高温では液体であるインクを使用してもよい。このようなインクは、ホットメルトインクまたは転相インクと呼ばれることがある。例えば、米国特許第4,490,731号(その全体が本明細書に参考として組み込まれる)は、紙のような基材に印刷するために固体インクを分配する装置を開示している。ホットメルトインクを使用するサーマルインクジェット印刷プロセスでは、印刷装置内のヒーターで固体インクを溶融させ、従来のサーマルインクジェット印刷と同様の様式で、液体として利用する(すなわち、吐出する)。印刷基材と接触したら、溶融インクはすばやく固化し、着色剤は、毛細管作用によって基材(例えば、紙)内部に入り込むのではなく、基材の表面にかなりの量が留まり、一般的に液体インクを用いて得られるものよりも印刷密度を高くすることができる。したがって、インクジェット印刷に転相インクを用いる利点は、取り扱い中にインクがこぼれる可能性がないこと、広範囲の印刷密度および印刷品質を与えること、紙のしわまたは歪みが最低限になること、ノズルに蓋をしなくても、ノズルが目詰まりする危険性がなく、無期限に印刷しない期間が可能になることである。
【0007】
圧電式インクジェット印刷用の固体インクは、インクが中間転写ドラムに吐出される転写固定モードでうまく印刷されるように設計されている。転写固定印刷プロセスでは、インクは、吐出温度(広範囲には、約75℃〜約180℃以下、典型的には、約110℃〜約140℃)からドラム温度(典型的には、約50℃〜約60℃)まで冷却され、その後、実質的に固相として、インクが紙基材に圧着される。このようなプロセスは、鮮明な画像、吐出部を使用する際の経済性、多孔性紙間での基材の自由度といった多くの利点を与える。しかし、このようなインクの設計は、コーティングされた紙に塗布する場合には問題となることがある。一般的に、このインクおよび印刷プロセスは、引っかき、折り曲げ、摩擦応力のような紙を取り扱うときの応力に応答して、十分な画像耐久性を与えることができない場合がある。さらに、良好な転写固定挙動を与えるインク設計の鍵となる要素は、必要ではないか、紙に直接インクをつける構造において望ましい場合がある。
【0008】
現時点で入手可能な転相インクまたは固体インクによる印刷プロセスは、これらの意図する目的に適している。しかし、紙に対する画像の接着性向上、画像耐久性の向上、機械応力に対する堅牢性の向上、表面光沢レベルを含む画像特性の向上といった改良された性質を与える印刷プロセスおよび転相インクが依然として必要とされている。さらに、転相インクを紙に直接印刷するプロセスも依然として必要とされている。
【0009】
上のそれぞれの米国特許および特許公開公報の適切な要素およびプロセスの局面が、本開示内容の実施形態において選択されてもよい。さらに、本出願全体で、種々の刊行物、特許、公開された特許出願は、特定する引用によって参照されている。本出願で参照されている刊行物、特許、公開された特許出願の開示内容は、本発明に関連する技術水準をもっと完全に記述するために、本開示に参考として組み込まれる。
【発明の概要】
【0010】
第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度ではアモルファスのままである材料を含む、少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含み、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相は、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相は、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっている、転相インクが記載されている。
【0011】
また、(1)インクジェット印刷装置に、第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度でアモルファスのままである材料を含む少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含む転相インクを組み込み、ここで、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相が、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相が、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっていることと;(2)このインクを溶融させることと;(3)溶融したインクの液滴を、中間転写体の上に画像の模様になるように放出するか、または最終的な画像を受け入れる基材の上に直接放出することと;(4)場合により、中間転写体を用いる場合、画像を最終的な画像を受け入れる基材に転写することとを含む、プロセスが記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、比較例の印刷物の断面(左側の写真)と、本開示による印刷物(右側の写真)とを示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本開示の一実施形態にかかる印刷物の断面を示す顕微鏡写真である。
【図3】図3は、本開示にしたがって印刷した印刷済インクの図(左側の図解)および顕微鏡写真(右側の写真)である。
【図4】図4は、本開示にしたがって、インクが紙のトップコートに部分的に浸透しているが、紙基材には浸透していないことを示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は、比較例の印刷プロセスにしたがって、インクが紙のトップコートにも紙基材にも浸透していないことを示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、比較例のインクおよび本開示の2種類のインクについて、温度(x軸、℃)に対する複素粘度(y軸、センチポイズ)を示すグラフである。
【図7】図7は、本開示の5種類のインクについて、温度(x軸、℃)に対する複素粘度(y軸、センチポイズ)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度ではアモルファスのままである材料を含む、少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含む相分離インクが記載され、ここで、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第1のインク吐出温度は、100℃〜140℃であり、第2の温度は、20℃〜120℃、60℃〜120℃、20℃〜100℃、20℃〜80℃であり、この第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相が、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量で浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相が、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっている。
【0014】
結晶化可能な要素は、インク吐出温度から冷却するにつれて迅速に結晶化し、一方、アモルファス要素は、インク吐出温度から冷却してもアモルファスのままであり、粘度は上昇するが移動する状態のままである。
【0015】
紙の上にあるインク画像の形態は、画像の堅牢性を決定づけるのに大きな役割を果たすことがある。紙に深く染みこんだインクは、紙自体が損傷を受けなければインクも損傷することがないので、紙自体の堅牢性に近いだろう。このようなインクは、紙の裏側にまで透けた、きわめて目立つ好ましくない画像を与えてしまうだろう。本明細書の相分離インクは、コーティングされた紙に部分的にインクが浸透する性質を有する。紙表面の薄いコーティングにインクが染みこむことによって、部分的なインクの浸透が行われる。ほとんどの紙で、コーティングは、炭酸カルシウムおよび/またはカオリンクレーから構成されており、少量のポリマーバインダーを含んでいる。本明細書の相分離インクは、紙−コーティングに対するこのような好ましい浸透挙動を示すインク材料特性をもつ。この相分離インク組成物は、紙のコーティングには浸透するが、紙繊維には浸透しない。
【0016】
画像を受け入れる基材の表面で、インクの結晶相の厚みは、10マイクロメートルである。インクのアモルファス相は、最終的に画像を受け入れる基材のトップコートに、最大で深さ10マイクロメートルまで浸透する。
【0017】
本明細書の相分離インクは、吐出温度では単一相を含んでいてもよく、冷却すると、1相が結晶性であり、1相がアモルファスである2相を含んでいてもよく、結晶相は、別個のアモルファス相よりも大幅に移動性が低く、アモルファス相は、画像を受け入れる基材のコーティングされた紙基材のトップコート層に浸透することができ、一方、結晶相は、浸透することなく、トップコート層の上にかなりの量で存在するか、完全にとどまる。驚くべきことに、相分離するインクの結晶性要素およびアモルファス要素には粘度差がないが、結晶性転相要素は迅速に結晶化し、これによって、依然として移動性のアモルファス要素が紙コーティングおよび紙繊維に浸透する深さが決まることを発見した。結果として、画像表面は、結晶性材料の含有量が多くなっており、紙コーティングに浸透するインク部分は、アモルファス性が高い。着色剤は、アモルファス相が多い状態を好むことがわかっている。着色剤は、結晶相よりもアモルファス相に高い親和性を示し、その結果、着色剤は、かなりの部分が、アモルファス相とともに最終的な画像を受け入れる基材に浸透する。特定の実施形態では、少なくとも1種類の結晶化可能な要素が結晶化することによって、着色剤がアモルファス相に入る。
【0018】
このプロセスは、特に、最終的に画像を受け入れる基材が紙である場合、1つ以上の相分離インクを、最終的な画像を受け入れる基材の上に直接配置する直接印刷プロセスであってもよい。紙(DTP)インクジェット印刷の設計概念に関し、インクは、吐出温度と本質的に同じ温度で紙に衝突する(吐出温度は、典型的には、100℃〜140℃である)。インクが吐出温度から冷えるにつれて、本明細書のインクは、あるインク要素が迅速に結晶化し、別のインク要素はアモルファス状態のままであり、相分離させることができる。アモルファス相は、紙のコーティングに浸透し続け、着色剤のほとんどがアモルファス相とともに運ばれてもよい。結晶性材料の上側層は、色があまり集約していない保護コーティングとして作用し、画像の機械的損傷に対する耐性を高める。本明細書の相分離インク材料は、コーティング層の下にある紙には浸透せず(浸透深さは10マイクロメートル)、したがって、印刷物が透けて見えるという欠陥がない。少なくとも1種類の相分離インクの結晶相は、かなりの部分が、最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっており、基材の上に保護コーティングを与える。
【0019】
本明細書の相分離インクは、分注温度またはインク吐出温度に対応する第1の温度で、溶融し、分離していない状態であり、つまり、溶融した液体の単一相であり、また、相分離インクの少なくとも1つの要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度では複数相の状態であり、第2の温度で、相分離インクが結晶相とアモルファス相とを含む、インクを含む。つまり、相分離インクは、第2の温度で結晶化する少なくとも1つの要素と、第2の温度でアモルファスである少なくとも1つの要素とを含んでいてもよい。
【0020】
結晶性要素または結晶化可能な要素は、構成要素である原子、分子またはイオンが、3次元の空間全体にわたって規則的な繰り返しパターンで整列した固体材料を意味する。本開示の結晶性材料は、10℃/分、−50℃から200℃、次いで−50℃までの示差走査熱量測定DSCによって溶融ピークと結晶化ピークを示す。
【0021】
アモルファス要素は、結晶構造を示さない固体材料を意味する。つまり、原子または分子が局所的に規則的であってもよいが、その規則性は長時間に及ぶものではない。本開示のアモルファス材料は、10℃/分、−50℃から200℃、次いで−50℃までのDSCによって、T(ガラス転移温度)をもつが、結晶化ピークおよび溶融ピークを示さない。
【0022】
結晶性要素は、望ましい特性をもち、選択したアモルファス要素と混和性である任意の適切な結晶性要素であってもよい。結晶性要素は、任意の適切な融点をもっていてもよい。本明細書の結晶性要素は、融点が40℃〜150℃、50℃〜145℃、または55℃〜140℃である。いくつかの実施形態では、本明細書の少なくとも1種類の結晶性要素は、示差走査熱量測定によって10℃/分の速度で決定した場合、融点が150℃未満である。
【0023】
結晶性要素は、任意の適切な結晶化温度をもっていてもよく、示差走査熱量測定によって10℃/分の速度で決定した場合、例えば、30℃〜140℃、31℃〜125℃、または32℃〜120℃であってもよい。他の実施形態では、本明細書の少なくとも1種類の結晶性要素は、65℃より高く、140℃未満の結晶化温度をもつ。
【0024】
結晶化可能な要素の結晶化温度は、インク中に他の材料が存在すること、または紙または印刷プロセスの環境のような種々の因子によって下がることがある。少なくとも1種類の結晶化可能な要素は、再結晶化温度が、30℃〜135℃、または30℃〜110℃、または30℃〜100℃である。
【0025】
少なくとも1種類の結晶化可能な要素は、100℃〜140℃の温度での粘度が、1センチポイズ(cps)〜22cps、または2cps〜15cps、または2cps〜11cpsである。特定の実施形態では、少なくとも1種類の結晶化可能な要素は、110℃を超える温度で、粘度が2〜50センチポイズである。ある特定の実施形態では、少なくとも1種類の結晶化可能な要素は、140℃での粘度が2〜50センチポイズである。
【0026】
結晶化可能な要素は、エステル、芳香族アミド、芳香族エーテル、ジウレタン、オキサゾリン、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択されてもよい。結晶性要素または結晶化可能な要素を表1に示す。
【表1】

【0027】
*サンプルを、加熱/冷却/加熱法を用い、10℃/分、−50℃から200℃、次いで−50℃までのQ1000 Differential Scanning Calorimeter(TA Instruments)で測定した。中点の値を引用している。
【0028】
**粘度は、ARES流体レオメーターRFS3(TA instruments)にPeltier加熱プレートを取り付け、25ミリメートルの平行板を用いて測定した。使用した方法は、高温から低温まで5℃ずつ下げていく温度スイープ法であり、それぞれの温度の間のソーク(平衡)時間は120秒であり、周波数は1Hzで一定であった。
【0029】
結晶性要素は、米国特許出願第13/095,028号(まだ割り当てられていない)、代理人整理番号20101591−US−NPに記載されている結晶性芳香族モノエステルまたは結晶性芳香族アミド、米国特許出願第13/095,555号(まだ割り当てられていない)、代理人整理番号20101094−US−NPに記載されている結晶性ジエステル、米国特許出願第13/095,715号(まだ割り当てられていない)、代理人整理番号20101141−US−NPに記載されている酒石酸の結晶性エステル、米国特許出願第13/095,770号(まだ割り当てられていない)、代理人整理番号20101142−US−NPに記載されている結晶性芳香族アミド、米国特許出願第13/095,174号(まだ割り当てられていない、代理人整理番号20100007−US−NP)および米国特許出願第13/095,221号(まだ割り当てられていない)、代理人整理番号20100008−US−NP)に記載されている結晶性オキサゾリン化合物であってもよい。
【0030】
結晶性要素は、ヒドロキシル基またはアミノ基を含む化合物と、カルボン酸基または酸塩化物基を含む化合物とのエステル化反応またはアミド化反応によって調製されてもよい。また、結晶性要素は市販もされている。
【0031】
結晶性要素は、同一出願人による同時係属中の特許出願第13/095,221号、代理人整理番号20100008−US−NPおよび米国特許出願第13/095,174号(代理人整理番号20100007−US−NP)に記載されているような置換オキサゾリン化合物またはオキサゾリン誘導体から選択されてもよく、以下の一般的な構造であらわされ、
【化1】

【0032】
式中、Rは、炭素原子が1〜60個のアルキル基であり、R、R、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、炭素原子を1〜60個含む基であり、例えば、R、R、RおよびRは、ヒドロキシルアルキル基−(CH−OHであってもよく、ここで、nは1〜60の整数であるか、または、R、R、RおよびRは、アルキルエステル基−(CH−OC−(CHCHであってもよく、ここで、nは、1〜7の整数であり、mは、1〜60の整数である。
【0033】
オキサゾリン化合物の例を表2に示す。表2の化合物1〜6は、ヒドロキシアルキルで置換されたモノオキサゾリン、およびヒドロキシアルキルで置換されたモノオキサゾリンの脂肪族エステルであり、すべて結晶性であり、鋭い融点および鋭い結晶化温度を示し、相分離インク組成物中で結晶性薬剤として適切であろう。表2の化合物7〜11は、芳香族オキサゾリンおよび芳香族オキサゾリンエステル誘導体であり、一般的にアモルファス性を示し、インクジェット印刷用転相インクを含む種々のインク組成物のバインダー樹脂として適切であろう。
【表2−1】

【表2−2】

【0034】
アモルファス要素は、印刷済画像に粘着性を与え、堅牢性を付与する。望ましいアモルファス材料は、120℃よりも高い温度では比較的低粘度である(<10cps、または1〜500cps、または5〜300cps)が、室温では粘度が非常に大きい(>10cps)。120℃よりも高い温度で低粘度であることは、配合物の自由度を広くし、一方、室温での粘度が高いことで堅牢性を付与する。
【0035】
少なくとも1種類のアモルファス要素は、140℃で粘度が10〜500センチポイズである。さらなる実施形態では、少なくとも1種類のアモルファス要素は、30℃〜120℃未満の温度で粘度が10センチポイズよりも高いか、または、10ポイズよりも高い。ある特定の実施形態では、少なくとも1種類のアモルファス要素は、30℃での粘度が、10センチポイズよりも高い。
【0036】
特定の実施形態では、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素の粘度差は、30℃で少なくとも500センチポイズである。
【0037】
アモルファス材料は、DSC(10℃/分、−50から200℃、次いで−50℃まで)によって、ガラス転移温度(T)をもつが、結晶化ピークおよび溶融ピークを示さない。T値は、インクに望ましい靱性および可とう性を付与するために、典型的には、−5℃〜50℃、または−5℃〜40℃、または−5℃〜35℃である。一実施形態では、少なくとも1種類のアモルファス要素は、ガラス転移温度が−5℃〜50℃である。選択されたアモルファス材料は、分子量が低く、例えば、1000g/mol未満、または100〜1000g/mol、または200〜1000g/mol、または300〜1000g/molである。ポリマーなどの高分子量アモルファス材料は、高温では粘性および粘着性の液体であるが、望ましい温度では圧電式印刷ヘッドから吐出することができないほど粘度が高くなる。
【0038】
アモルファス要素は、エステル、オキサゾリン、ジウレタン、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択されてもよい。
【0039】
アモルファス要素は、同一出願人による同時係属中の特許出願第13/095,795号(代理人整理番号20100868−US−NP)、同一出願人による同時係属中の特許出願第13/095,015号、代理人整理番号20101358−US−NP、同一出願人による同時係属中の特許出願第13/095,784号、代理人整理番号20101140−US−NPに記載されているような、アモルファス酒石酸エステルおよびアモルファスクエン酸エステルから選択されてもよい。
【0040】
アモルファス要素は、同一出願人による同時係属中の特許出願第13/095,015号、代理人整理番号20101358−US−NPに記載されるように調製することができる。
【0041】
アモルファス要素は、クエン酸トリエステルを含んでいてもよい。クエン酸トリエステルは、任意の適切な方法によって調製することができる。いくつかの実施形態では、クエン酸トリエステルは、以下の反応スキームにしたがって調製することができる。
【化2】

【0042】
酒石酸およびクエン酸の誘導体である適切なアモルファス材料の例を、表3に示す。
【表3】

【0043】
*サンプルを、10℃/分の速度で、−50℃から200℃、次いで−50℃までのQ1000 Differential Scanning Calorimeterで測定した。中点の値を引用している。
【0044】
**粘度は、ARES流体レオメーターRFS3にPeltier加熱プレートを取り付け、25ミリメートルの平行板を用いて測定した。使用した方法は、高温から低温まで5℃ずつ下げていく温度スイープ法であり、それぞれの温度の間のソーク(平衡)時間は120秒であり、周波数は1Hzで一定であった。
【0045】
表4は、アモルファスの特性を示し、本明細書の転相インクのアモルファスバインダー樹脂として用いるのに適したダイマーオキサゾリン化合物の構造の例を示す。
【表4−1】

【表4−2】

【0046】
いくつかの実施形態では、アモルファス要素は、L−酒石酸ジL−メンチルを含み、結晶化可能な要素は、L−酒石酸ジフェネチルを含む。他の実施形態では、アモルファス要素は、クエン酸 トリ−DL−メンチル(TMC)を含み、結晶化可能な要素は、ビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートを含む。
【0047】
結晶性要素は、結晶性要素およびアモルファス要素を合わせた合計重量を基準として、60〜95重量%で与えられる。
【0048】
アモルファス要素は、結晶性要素およびアモルファス要素を合わせた合計重量を基準として、5〜40重量%で与えられる。
【0049】
結晶性要素とアモルファス要素との比率は、結晶性要素およびアモルファス要素を合わせた合計重量を基準として、60:40〜95:5重量%である。結晶性要素とアモルファス要素との重量比は、結晶性要素およびアモルファス要素を合わせた合計重量を基準として、65:35〜95:5重量%、または70:30〜90:10重量%である。ある種の実施形態では、結晶性要素とアモルファス要素との重量比は、95:5、80:20または60:40である。他の実施形態では、結晶性要素とアモルファス要素との重量比は、70:30、50:50または30:70である。
【0050】
相分離インクは、任意要素の着色剤を任意の望ましい量または有効な量、インクの0.1重量%〜50重量%でさらに含んでいてもよい。インク媒剤に溶解または分散させることができるものであれば、染料、顔料、これらの混合物などを含む任意の望ましい着色剤または有効な着色剤を用いてもよい。
【0051】
インクは、場合により、酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0052】
相分離インク要素を撹拌し、加熱しつつ合わせ、相分離インクを作成してもよい。インクキャリアの要素を一緒に混合した後、この混合物を少なくとも融点まで(例えば、60℃〜150℃まで)加熱してもよいが、これに限定されない。
【0053】
本明細書のインク組成物は、一般的に、95℃〜150℃の吐出温度で溶融粘度が1センチポイズ〜14センチポイズである。本明細書の相分離インクは、吐出温度での粘度が、2センチポイズから12センチポイズ未満である。いくつかの実施形態では、本明細書の相分離インクは、50℃〜140℃の吐出温度での粘度が12センチポイズ未満である。別の実施形態では、本明細書の相分離インクは、140℃の吐出温度で、粘度が2〜12センチポイズである。
【0054】
本明細書の相分離インクを、(1)インクジェット印刷装置に、第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度ではアモルファスのままである材料を含む、少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含む転相インクを組み込み、ここで、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相が、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相が、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっていることと;(2)このインクを溶融させることと;(3)溶融したインクの液滴を、中間転写体の上に画像の模様になるように放出するか、または最終的な画像を受け入れる基材の上に直接放出することと;(4)場合により、中間転写体を用いる場合、最終的な画像を受け入れる基材に画像を転写することとを含むプロセスで用いてもよい。
【0055】
任意の適切な基材または記録シートを用いてもよい。特定の実施形態では、最終的な画像を受け入れる基材は、コーティングされた紙である。別の特定的な実施形態では、最終的な画像を受け入れる基材は、クレイコーティングされた紙である。
【0056】
いくつかの実施形態では、最終的な画像を受け入れる基材は、基材層と、基材層の第1の表面の上に配置されているトップコート層と、場合により、基板層の反対側の第2の表面の上に配置されている底部コート層とを備え、インク画像は、トップコート層の上に配置されており、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相は、最終的な画像を受け入れる基材のトップコート層に、最大で深さ10マイクロメートルまでにかなりの部分が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相は、最終的な画像を受け入れる基材のトップコート層表面にかなりの部分がとどまっている。基材層は、紙を含む。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
結晶性の転相オキサゾリン要素の調製
【化3】

1リットルのParr反応器に、ダブルタービンアジテータ、蒸留装置を取り付け、これにドデカン酸(200グラム;SIGMA−ALDRICH、ミルウォーキー、WI)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ−メタン(92グラム;EMD Chemicals)、触媒としてFASCAT(登録商標)4100(0.45グラム;Arkema Inc)を入れた。内容物を2時間かけて165℃まで加熱した後、2時間かけて温度を205℃まで上げ、この間に、水蒸留物が蒸留受け器に集まった。次いで、反応器の圧力を1時間で1〜2mmHgまで下げた後、容器に取り出し、室温まで冷却した。酢酸エチル(2.5部)とヘキサン(10部)の混合物中で生成物を穏やかに加熱しつつ溶解し、次いで、室温まで冷却し、白色顆粒状粉末として純粋な生成物を結晶化させることによって生成物を精製した。ピーク融点(DSC)は、99℃であると決定された。この材料のレオロジー分析を、ARES流体レオメーターRFS3(振動数1Hz、25ミリメートルの平行板の形状、歪み200%を加える)を用い、130℃から40℃まで温度を下げていき、測定した。この材料は、130℃で8.2cpsの溶融粘度を示し、結晶化開始温度は95℃であり、ピーク粘度は4.5×10cpsであり、ピーク結晶化温度は85℃であった。
【0058】
(実施例2)
オキサゾリンインクのアモルファスバインダー樹脂の調製
工程I:ダイマーオキサゾリンテトラ−アルコール前駆体の合成
【化4】

1リットルのParr反応器に、ダブルタービンアジテータ、蒸留装置を取り付け、(順に)1,12−ドデカン二酸(291グラム;SIGMA−ALDRICH)、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(306.9グラム;EMD Chemicals)、FASCAT(登録商標)4100触媒(1.0g)を入れた。反応混合物を2時間かけて内温が165℃になるまで加熱した後、さらに2時間かけて温度を205℃まで上げ、この間に、水蒸留物が蒸留受け器に集まった。次いで、反応器の圧力を1時間で約1〜2mmHgまで下げた後、容器に取り出し、冷却した。粗生成物の収量は約480グラムであり、非常に固い褐色のガラス状樹脂であった(1H−NMRで概算すると純度80%)。まず、この粗化合物を沸騰したメタノールに溶解し、次いで、熱いまま濾過して不溶性物質を除去し、次いで室温まで徐々に冷却し、再結晶化した生成物を得ることによって生成物を精製した。減圧濾過し、冷たいメタノールで洗浄した後、純粋な化合物が白色顆粒状粉末として得られ、ピーク融点は170℃を超えていた(DSCによる)。
【0059】
工程II:アモルファスバインダー樹脂、オキサゾリン化合物の混合物の調製
【化5】

【0060】
1リットルのステンレス製ジャケット付きBuchi反応器に蒸留凝縮器、4ブレードインペラ、熱電対を取り付け、これに、30.4グラム(0.075mol)の工程Iのダイマーオキサゾリンテトラアルコール、228.2グラム(1.50mol)の4−メトキシ安息香酸、51.48グラム(0.425mol)のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(98%)、0.26グラム(1.2mmol)のFASCAT(登録商標)4100触媒をこの順に入れた。混合物を撹拌することなく、50kPaの窒素雰囲気下で加圧しつつ、ジャケット温度を160℃まで上げて加熱した。この温度で撹拌を始め、ジャケット温度を30分かけて180℃まで徐々に上げ、次いで、この温度を2時間維持した。この間、縮合反応から得られる水蒸留物を集めた(10グラム)。次いで、ジャケットの温度を190℃まで上げ、この温度を1時間維持し、もっと多くの水蒸留物が生成した。減圧度を約10torrまで下げ、さらに1時間この状態にすると、水蒸留物が約10グラム生成した。水蒸留物が集まらなくなったら、130℃まで冷却することによって反応を止め、生成物を取り出した。樹脂生成物の粗収量は400グラムであり、さらに精製することなく淡褐色の粘性樹脂として得た。この材料のレオロジー分析を、ARES流体レオメーターRFS3(振動数1Hz、25ミリメートルの平行板の形状、歪み200%を加える)を用い、130℃から40℃まで温度を下げていき、測定した。この材料の粘度は、130℃で75cpsであると測定され、50℃での粘度は1.5×10cpsであった。
【0061】
(実施例3aおよび3b)
オキサゾリンインクの一般的な調製。2種類のオキサゾリンインク配合例を以下の表5にまとめる。
【表5】

【0062】
*振動数=1Hz;25mmの平行板の形状;ギャップ=0.2mm;
【0063】
歪み%=200%〜400%、ARES流体レオメーターRFS3で測定した粘度と独立した歪み
【0064】
**TA Instruments Q1000機でDSC分析、スキャン速度10℃/分で加熱冷却サイクルを2回行った後に測定。
【0065】
500ミリリットルの樹脂製ケトルに、実施例2にしたがって調製したアモルファスオキサゾリンバインダー樹脂(インクの30重量%);実施例1にしたがって調製した、溶融したオキサゾリン結晶性化合物(インクの62〜64重量%;表5の配合を参照);粘度調整剤としてKemamide(登録商標)S−180(インクの3〜4重量%);酸化防止剤としてNAUGARD 445(登録商標)をこの順に入れ、最後に、着色剤(Orasol Blue GN染料)を入れた。混合物をマントル中、内温が130℃になるまで加熱し、ステンレス製4ブレード90°ピッチインペラを用い、約175〜250rpmで機械的に2時間撹拌した。次いで、粒状物を除去するために、インク基剤混合物を、KST濾過装置を用い、5ミクロンのステンレス鋼325×2300メッシュワイヤフィルタ布(304型SS Gerard Daniel Worldwide)を通して120℃で熱いまま濾過した。溶融した混合物を500ミリリットルの樹脂製ケトルに戻し、機械的に撹拌しながら内温が130℃になるまで加熱した。加熱を継続しつつ、このインク基剤に、着色剤(6.0グラムのOrasol(登録商標)Blue GN染料;インクの3重量%)を0.5時間かけて少量ずつ加えた。着色剤を加え終わったら、275rpmで撹拌しつつ、着色したインク組成物を130℃でさらに3〜4時間撹拌し、インク組成物を確実に均質化した。次いで、120℃よりも高い温度で、着色したインク組成物を325×2300メッシュのワイヤフィルタ布に熱いまま通して濾過した後、型に分注し、室温まで冷やしつつ固化させた。着色したインク組成物について、DSCによって熱特性を決定し、ARES流体レオメーターRFS3を用いてレオロジー特性を決定した。
【0066】
実施例3aのインクの130℃での粘度は、13センチポイズであると測定され、結晶化開始温度は約80℃であった。実施例3bのインクの130℃での粘度は、11センチポイズであると測定され、結晶化開始温度は約90℃であった。図6は、実施例3aのインク(図6ではRC−87インクと書かれている)、実施例3bのインク(図6ではRC−89インクと書かれている)、比較例である市販のOce TonerPearlsシアンインクの全体的なレオロジープロフィールを示している。
【0067】
(実施例4)
クエン酸 トリ−DL−メンチル(TMC)アモルファス要素の合成
500ミリリットルのフラスコにディーンスタークトラップを取り付け、これに20グラム(104ミリモル)のクエン酸、48.8グラム(312ミリモル)のDL−メントール、240ミリリットルのキシレンを加え、懸濁物を得た。0.396グラム(2.08ミリモル)のp−トルエンスルホン酸一水和物を加え、混合物を21時間環流させ、共沸によって水を除去した。反応混合物を室温まで冷却し、10重量% KOH水溶液で洗浄し(1回)、塩水で洗浄し(2回)、MgSOで乾燥させた。濾過し、溶媒を除去した後、120℃で撹拌しつつ、減圧下で残渣を乾燥させ、49.3グラム(収量:78%)のアモルファス固体を得た。H NMRによってサンプルの特性を決定し、酸価を分析した(16.34ミリグラム KOH/グラム)。
【0068】
(実施例5)
インクの調製。以下の式の1,6−ヘキサンジオール−ビス(4−メトキシベンゾエート)エステル(融点=91℃)
【化6】

を、実施例5の結晶性要素に用いた。1,6−ヘキサンジオール−ビス(4−メトキシベンゾエート)を、米国特許第6,682,587号に記載されるように調製した。以下の式のクエン酸 トリ−DL−メンチル(TMC)
【化7】

を、実施例5のアモルファス要素に用いた。TMCおよび結晶性材料を120℃の溶融状態で撹拌し、次いで冷却し、インクサンプルを得た。インクサンプルの結晶/アモルファス比は、以下の表6に示されるように、重量%で100/0、70/30、50/50、30/70、0/100であった。
【表6】

【0069】
全混合比率で、2つの材料を十分に混和した。図7は、表6のインクサンプルのレオロジーデータを示す。全インクが、望ましい温度範囲(60℃<T<130℃)で>10センチポイズまで転相し、結晶/アモルファスの比率を変えることによって転相温度を調節することができる。さらに、130℃(吐出温度)付近での粘度は10センチポイズであり、これもまた、結晶/アモルファスの比率を変えることによって調節することができた。
【0070】
断面の顕微鏡撮影から、本開示の相分離インクを用いて達成される画像の耐引っ掻き性、折りたたみ挙動の改善に関与する機構に関する知見が得られる。図1は、本開示の実施例3のインクを用いて調製した印刷済画像(右側の写真)に対し、現時点で入手可能なインク(Xerox(登録商標)Part Number 108R00749)を用いて調製した印刷済画像の印刷物断面を示す顕微鏡写真であり、紙のトップコートにも紙基材にもインクが浸透していないことを示す(左側の写真)。左側および右側の画像は、同一出願人による同時係属中の米国特許出願第13/095,038号(代理人整理番号20101076−US−NP)の印刷プロセスを用い、Xerox(登録商標)Digital Color Elite Gloss紙120gsm(DCEG)に印刷したものである。実施例3のインクおよび比較例のインクを、改変したXerox(登録商標)8860プリンタに別個に入れた。それぞれのインクを115℃で溶融させ、55℃でDCEG光沢紙に吐出した。吐出したインクが乗った紙を、展着するために第2の改変したXerox(登録商標)8860に移した。このプリンタで、インク画像に57.5℃の高温で、手紙サイズの紙1枚/秒の速度で800ポンド/平方インチの圧力を加えた。図1は、紙表面にある比較例のインク(左側)を示し、紙のコーティング層への浸透を含む本開示の性質を示す実施例3のオキサゾリンインク(右側)を示す。
【0071】
図2は、クエン酸エステルと本開示にしたがった結晶性要素とを含む実施例5のインクを用いて調製した印刷済画像の断面図を示す顕微鏡写真である。3重量%のOrasol Blue GNを、120℃で撹拌しつつ実施例5bのインク媒剤に組み込み(インク配合物:アモルファス/結晶/染料=1.16/2.72/0.12(グラム)=29.1/67.9/3(wt%))、印刷することによって、着色したインク画像を調製した。実施例5の着色したインクを、改変したXerox(登録商標)8860プリンタに入れ、115℃で溶融し、55℃でDCEG光沢紙に吐出した。吐出したインクが乗った紙を、展着するために第2の改変したXerox(登録商標)8860に移した。このプリンタで、インク画像に57.5℃の高温で、手紙サイズの紙1枚/秒の速度で800ポンド/平方インチの圧力を加えた。
【0072】
図3は、本発明のプロセスによって印刷した後に、画像の断面として実施例3のインクを示す模式図(図3の左側の図)および顕微鏡写真(図3の右側の写真)を示す。図3の断面顕微鏡写真および本明細書に記載した全顕微鏡写真は、Carl Zeiss,Inc.から入手可能なAxialplan光学顕微鏡を用いて撮影した。この模式図は、右側の顕微鏡写真を調べるときの肉眼でのガイドとなるよう意図しており、インクが紙のコーティング層に浸透していることを示す。
【0073】
図4は、実施例3のインクを用い、上と同じ様式で印刷した印刷済画像の顕微鏡写真である。図4は、紙のトップコートに部分的に浸透しているが、紙基材には浸透していないことを示している。
【0074】
図5は、現時点で入手可能なインク(Xerox(登録商標)Part Number 108R00749)を用いて調製した印刷済画像の顕微鏡写真であり、インクが紙のトップコートにも紙基材にも浸透していないことを示している。
【0075】
図6は、比較例のインク(Xerox(登録商標)Part Number 108R00749)、本開示の実施例3aのインク(図6でRC−87と書かれている)、実施例3bのインク(図6でRC−89と書かれている)について、温度(x軸、℃)に対する複素粘度(y軸、センチポイズ)を示すグラフである。
【0076】
図7は、表6に記載したようなアモルファス:結晶比率をもつ実施例5の5種類のインクサンプル(実施例5a、5b、5c、5d、5e)について、温度(x軸、℃)に対する複素粘度(y軸、センチポイズ)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;
第2の温度ではアモルファスのままである材料を含む、少なくとも1種類のアモルファス要素と;
任意要素の着色剤とを含み、
少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、
第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、
少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相は、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、
少なくとも1種類の相分離インクの結晶相は、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっている、相分離インク。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、前記少なくとも1種類のアモルファス要素は、前記第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、前記第1のインク吐出温度は、100℃〜140℃であり、場合により、前記第2の温度で、相分離インクは、結晶相とアモルファス相とを含み、前記第2の温度は、60℃〜120℃である、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項3】
前記相分離インクのアモルファス相は、前記最終的な画像を受け入れる基材に、最大で10マイクロメートルの深さまで浸透する、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項4】
前記最終的な画像を受け入れる基材が、基材層と;基材層の第1の表面の上に配置されているトップコート層と;場合により、基板層の反対側の第2の表面の上に配置されている底部コート層とを備え、前記相分離インクのアモルファス相は、最終的な画像を受け入れる基材のトップコート層に、最大で深さ10マイクロメートルまで浸透し、場合により、前記基材層が紙を含む、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の相分離インクの結晶相が、前記最終的な画像を受け入れる基材の表面にかなりの量残り、基材表面に保護コーティングを与える、請求項3に記載の相分離インク。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素が、再結晶化温度が30℃〜135℃の材料を含み、場合により、前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素が、140℃で粘度が2〜50センチポイズの材料を含み、
場合により、前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素は、融点が40℃〜150℃であり;場合により、前記少なくとも1種類のアモルファス要素は、140℃で粘度が10〜500センチポイズの材料を含み、場合により、前記少なくとも1種類のアモルファス要素は、30℃〜120℃未満の温度で粘度が10センチポイズより大きい材料を含み、
場合により、前記少なくとも1種類のアモルファス要素は、ガラス転移温度が−5℃〜50℃であり、
場合により、前記少なくとも1種類のアモルファス要素は、分子量が100〜1000g/molである、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素と前記少なくとも1種類のアモルファス要素の30℃での粘度差が少なくとも500センチポイズである、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項8】
結晶化可能な要素とアモルファス要素の重量%での比率が、結晶性要素とアモルファス要素を合わせた合計重量を基準として、60:40〜95:5重量%である、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項9】
前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素が、エステル、芳香族アミド、芳香族エーテル、ジウレタン、オキサゾリン、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択され、
前記少なくとも1種類のアモルファス要素が、エステル、オキサゾリン、ジウレタン、およびこれらの混合物および組み合わせからなる群から選択されるか、または、前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素が、L−酒石酸ジフェネチルであり、前記少なくとも1種類のアモルファス要素が、L−酒石酸 ジ−L−メチルであるか、または、
前記少なくとも1種類の結晶化可能な要素が、ビス(4−メトキシフェニル)オクタンジオエートであり、前記少なくとも1種類のアモルファス要素が、クエン酸 トリ−DL−メンチルである、請求項1に記載の相分離インク。
【請求項10】
(1)インクジェット印刷装置に、第1のインク吐出温度から、第1のインク吐出温度よりも低い、少なくとも1種類の結晶化可能な要素の結晶化を開始させるのに十分な第2の温度まで冷却するにつれて結晶化する材料を含む、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と;第2の温度でアモルファスのままである材料を含む少なくとも1種類のアモルファス要素と;任意要素の着色剤とを含む転相インクを組み込み、ここで、少なくとも1種類の結晶化可能な要素と、少なくとも1種類のアモルファス要素は、第1のインク吐出温度では溶融した単一相の状態であり、第2の温度で、相分離インクは、少なくとも1種類の結晶化可能な要素を含む結晶相と、少なくとも1種類のアモルファス要素を含むアモルファス相とを含み、少なくとも1種類の相分離インクのアモルファス相が、最終的な画像を受け入れる基材にかなりの量が浸透し、少なくとも1種類の相分離インクの結晶相が、かなりの量が最終的な画像を受け入れる基材の表面にとどまっていることと;
(2)このインクを溶融させることと;
(3)溶融したインクの液滴を、中間転写体の上に画像の模様になるように放出するか、または最終的な画像を受け入れる基材の上に直接放出することと;
(4)場合により、中間転写体を用いる場合、画像を最終的な画像を受け入れる基材に転写することとを含む、プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233183(P2012−233183A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96375(P2012−96375)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】