説明

相変化メモリの形成方法、及び相変化メモリの形成装置

【課題】相変化膜の組成が変わることを抑えつつ、基板の凹部に対する相変化膜の埋め込み性を高めることのできる相変化メモリの形成方法、及び相変化メモリの形成装置を提供する。
【解決手段】相変化メモリの形成に際し、金属カルコゲナイドターゲットをスパッタして絶縁膜23の上面23s及びホール23h内に相変化膜24を形成する。次いで、相変化膜24を覆うキャップ膜25を形成する。更に、相変化膜24を加熱して、相変化膜24によってホール23hを埋め込むリフローを行う。キャップ膜25は、絶縁膜23よりも相変化膜24に対する濡れ性が低い材料で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホールやトレンチ等の凹部に埋め込まれた金属カルコゲナイド膜を相変化膜として有する相変化メモリの形成方法、及び、該方法によって相変化メモリを形成する相変化メモリの形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記憶素子の一つとして、金属元素とカルコゲン元素とを含む金属カルコゲナイド膜を相変化膜として用いた相変化メモリが広く知られている。相変化膜は、それを挟む上下の電極から与えられる熱エネルギーの違いによって、抵抗値が互いに異なる結晶相とアモルファス相との間で可逆的な相変化をする。加えて、相変化膜の各相は、常温にて安定に維持される。そのため、相変化メモリでは、こうした相変化膜の特性を利用して、互いに異なる二値を記憶することが可能である。このように、相変化メモリは、記憶を維持するために電力の供給を必要とせず、且つ、安定に記憶を維持することが可能であることから、新たな不揮発性メモリとして注目を集めている。
【0003】
こうした相変化メモリの一部断面構造を図4に示す。相変化メモリを構成する基板41には、下部電極42と、絶縁膜43とが順に積層されている。絶縁膜43には、下部電極42の一部を露出させるホール43hが、絶縁膜43の厚さ方向に形成されている。絶縁膜43のホール43h及び上面43sには、相変化膜44が形成され、そして、相変化膜44上には、上部電極45が積層されている。このうち、相変化膜44は、例えばスパッタ法によって絶縁膜43のホール43h及び上面43sに形成される。
【0004】
近年では、相変化メモリの搭載される携帯電話や携帯情報端末等の更なる小型化や処理能力の向上が求められている。そのため、相変化メモリにも更なる小型化や高容量化が求められており、それゆえに、上記ホール43hの幅Wに対する深さDの比であるアスペクト比(D/W)が大きくなりつつある。アスペクト比が大きくなると、相変化膜44の形成に際して、スパッタ粒子がホール43h内に到達しにくくなる。そのため、ホール43h内の相変化膜44に空隙が形成されやすくなる。
【0005】
そこで、例えば特許文献1に記載のように、スパッタ法にて相変化膜44が形成される工程に次いで、相変化膜44がその融点付近にまで加熱されるリフロー工程が行われている。これにより、ホール43h内の相変化膜44が流動することや、絶縁膜43の上面33sに形成された相変化膜44がホール43h内に流入することで、ホール43h内の空隙が、相変化膜44によって埋め込まれることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/063950号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記リフロー工程が行われることにより、ホール43h内が相変化膜44によって埋め込まれることにはなる。しかしながら、相変化膜44が融点付近まで加熱されると、相変化膜44を構成する元素の中で揮発性の相対的に高いカルコゲン元素が揮発し、相変化膜44の組成が変化してしまう。
【0008】
このように、スパッタ工程とリフロー工程とによりホール43hの埋め込みを行うという方法には、未だ改善の余地があり、そのため、上述のような問題を解決できる方法が切望されている。
【0009】
なお、こうした問題は、上記ホールに対して相変化膜を埋め込む場合に限らず、絶縁膜に形成されたトレンチも含めた凹部に対して相変化膜が埋め込まれる場合に、概ね共通して生じるものである。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、相変化膜の組成が変わることを抑えつつ、基板の凹部に対する相変化膜の埋め込み性を高めることのできる相変化メモリの形成方法、及び相変化メモリの形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本発明の態様の一つは、凹部を有した基板の表面に金属カルコゲナイドからなる相変化膜を形成する工程と、前記相変化膜をリフロー温度に加熱して前記相変化膜を流動させるリフロー工程とを有する相変化メモリの形成方法であって、前記リフロー工程の前に、前記リフロー温度にある前記相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑えるキャップ膜で前記相変化膜を覆うキャップ膜形成工程を備える。
【0012】
本発明の態様の一つでは、相変化膜がキャップ膜で覆われた後に、相変化膜のリフローが行なわれる。そのため、相変化膜が流動する程度に加熱されたとしても、相変化膜を構成する元素、特に、相対的に揮発性が高いカルコゲン元素が相変化膜から脱離することが抑制される。それゆえに、相変化膜の組成が変わることを抑えつつ、凹部に対する相変化膜の埋め込み性が高められる。
【0013】
本発明の態様の一つは、前記凹部が、前記基板の表面である絶縁膜の表面に形成され、前記キャップ膜形成工程では、前記相変化膜に対する濡れ性が前記絶縁膜よりも低い材料で前記キャップ膜が形成される。
【0014】
相変化膜の表面がキャップ膜で覆われた後にリフロー工程が行われることになれば、確かに、相変化膜からカルコゲン元素が脱離することがキャップ膜で抑えられることにはなる。しかしながら、凹部内に形成された空隙は、リフロー工程で埋め込まれるとは限らず、相変化膜がキャップ膜側に流動するとともに、空隙が凹部の底部側に溜まってしまうことも少なくない。
【0015】
この点、本発明の態様の一つでは、相変化膜を覆うキャップ膜は、相変化膜に対する濡れ性が絶縁膜よりも低い材料で形成される。そのため、リフロー工程で流動性を得た相変化膜は、絶縁膜に対して相対的に強い付着張力で付着しながら、凹部内に流入する、あるいは凹部内で流動することになる。つまり、相変化膜は、キャップ膜との接触面よりも、絶縁膜との接触面に沿って流動しやすくなる。それゆえに、相変化膜の流動に伴い、凹部から押し出された空隙は、相変化膜とキャップ膜との境界に位置しやすくなる。したがって、相変化膜における組成の変化を抑えることと、凹部に対する相変化膜の埋め込み性を高めることとの両立が可能になる。
【0016】
本発明の態様の一つは、前記キャップ膜が、前記相変化膜よりも高温で軟化する材料からなり、前記リフロー工程では、前記キャップ膜が軟化する温度よりも低い温度で前記相変化膜を流動させる。
【0017】
本発明の態様の一つでは、リフロー工程にてキャップ膜が流動することが抑えられるため、相変化膜からのカルコゲン原子の脱離が、より確実にキャップ膜によって抑制される。
【0018】
本発明の態様の一つは、前記絶縁膜が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、酸化アルミニウム、及びホウリンケイ酸ガラスのいずれかからなり、前記キャップ膜形成工程では、前記キャップ膜が、窒化タンタル、窒化チタン、窒化バナジウム、及び窒化タングステンのいずれか一つである。
【0019】
本発明の態様の一つでは、絶縁膜が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、酸化アルミニウム、及びホウリンケイ酸ガラスのいずれかから形成され、且つ、キャップ膜が、窒化タンタル、窒化チタン、窒化バナジウム、及び窒化タングステンのいずれかから形成される。そして、絶縁膜が上記群のいずれか一つの材料から形成され、また、キャップ膜が上記群のいずれか一つの材料から形成されたとしても、相変化膜に対する濡れ性は、キャップ膜よりも絶縁膜の方が高くなる。それゆえに、上記リフロー工程では、相変化膜が、キャップ膜ではなく、絶縁膜に対して相対的に強い力で付着するようになる。ひいては、上記凹部内に対する相変化膜の埋め込み性が高められる。
【0020】
本発明の態様の一つは、前記絶縁膜が、前記凹部の内側面を構成する第1絶縁層と、前記第1絶縁層の周囲を囲う第2絶縁層とからなり、前記キャップ膜形成工程では、前記相変化膜に対する濡れ性が前記第1絶縁層よりも低い材料で前記キャップ膜が形成される。
【0021】
本発明の態様の一つでは、絶縁膜が第1絶縁層と第2絶縁層とから構成されているため、相変化膜に対する濡れ性がキャップ膜よりも高い材料を凹部の内側面である第1絶縁層に対してのみ用いるようにすればよい。そのため、凹部を形成するためのエッチング等が施される第2絶縁層については、その形成材料が上記濡れ性で制約されないため、第2絶縁層の形成材料の選択範囲が広げられる。それゆえに、第2絶縁層に対する加工の自由度も高められ、ひいては、相変化メモリの形成工程における自由度が高められる。
【0022】
本発明の態様の一つは、相変化膜である金属カルコゲナイド膜を形成して相変化メモリを形成する相変化メモリ形成装置であって、基板が有する凹部内に前記相変化膜を形成するスパッタ装置と、キャップ膜で前記相変化膜を覆うキャップ膜形成装置と、前記相変化膜と前記キャップ膜とをリフロー温度に加熱して前記相変化膜を流動させるリフロー装置とを備え、前記キャップ膜形成装置では、前記リフロー温度にある前記相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑える材料で前記キャップ膜を形成する。
【0023】
本発明の態様の一つでは、相変化膜がキャップ膜で覆われた後に、相変化膜のリフローが行なわれる。そのため、相変化膜が流動する程度に加熱されたとしても、相変化膜を構成する元素、特に、相対的に揮発性が高いカルコゲン元素が相変化膜から脱離することが抑制される。それゆえに、相変化膜の組成が変わることを抑えつつ、凹部に対する相変化膜の埋め込み性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明における相変化メモリの形成装置を具体化した一実施形態の全体構成を示す概略図。
【図2】(a)〜(d)本発明における相変化メモリの形成方法を具体化した一実施形態を工程順に示す工程図。
【図3】(a)(b)相変化メモリの形成工程における凹部内の空隙の位置を示す工程図。
【図4】相変化メモリの一部断面構造を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の相変化メモリの形成方法の一実施形態、及び相変化メモリの形成装置の一実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。まず、相変化メモリの形成装置をマルチチャンバ成膜装置として具現化した一実施形態について、図1を参照して説明する。
【0026】
[マルチチャンバ成膜装置の全体構成]
図1に示されるように、マルチチャンバ成膜装置10が有する搬送チャンバ11の内部には、搬送ロボット11Rが搭載されている。搬送チャンバ11の外周面には、互いに異なる4つの連結部11a,11b,11c,11dが等配されている。そして、4つの連結部11a,11b,11c,11dには、ゲートバルブを介し、搬出入チャンバ12、相変化膜形成装置としての相変化膜形成チャンバ13、キャップ膜形成装置としてのキャップ膜形成チャンバ14、リフロー装置としてのリフローチャンバ15が連結されている。
【0027】
搬出入チャンバ12は、表面に凹部を有した処理前の処理基板Sをマルチチャンバ成膜装置10内に搬入し、また、処理後の処理基板Sをマルチチャンバ成膜装置10外に搬出する。なお、処理基板Sとは、先に示した図4の基板41上に、下部電極42と絶縁膜43とが順に積層された積層体であって、絶縁膜43には、凹部としてのホール43hが形成されている。
【0028】
相変化膜形成チャンバ13は、例えばGeSbTe等の金属カルコゲナイドからなる金属カルコゲナイドターゲットの搭載されたスパッタチャンバである。相変化膜形成チャンバ13では、金属カルコゲナイドターゲットが、例えばアルゴンガスから生成されたプラズマによってスパッタされることで、相変化膜である金属カルコゲナイド膜が処理基板Sに形成される。
【0029】
キャップ膜形成チャンバ14は、例えば窒化タンタル(TaN)等のキャップ膜形成材料からなるキャップ膜ターゲットの搭載されたスパッタチャンバである。キャップ膜形成チャンバ14では、キャップ膜ターゲットが、例えばアルゴンガスから生成されたプラズマによってスパッタされることで、処理基板S上の相変化膜を覆うキャップ膜が形成される。ここで、キャップ膜の形成材料には、下記3つの条件を満たす材料が用いられる。
・流動する相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを相変化膜上で抑える。
・相変化膜に対する濡れ性がシリコン系絶縁膜や酸化アルミニウムよりも低い。
・軟化する温度が相変化膜よりも高い。
【0030】
こうしたキャップ膜の形成材料としては、上記TaN、窒化チタン(TiN)、窒化バナジウム(VN、VN)、及び窒化タングステン(WN)が挙げられる。なお、キャップ膜形成チャンバ14では、上述した形成材料を希ガスによりスパッタすることの他、上述した形成材料を窒素プラズマの雰囲気でスパッタする、あるいは上述した形成材料を構成する遷移金属からなるターゲットを窒素雰囲気でスパッタするようにしてもよい。このようなキャップ膜とは、リフロー温度になる相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑える膜である。すなわち、キャップ膜とは、相変化膜から出るカルコゲン元素が、キャップ膜を通して該キャップ膜上に存在すること、及び該キャップ膜中に存在することを抑えることのできる膜密度、膜構造、組成、及び材料を有したものである。
【0031】
リフローチャンバ15には、例えば、相変化膜とキャップ膜とが形成された処理基板Sを保持する基板ステージが設置されている。基板ステージは、処理基板Sをリフロー温度にまで加熱することで、相変化膜をリフローさせる。また、リフローチャンバ15は、キャップ膜が軟化する温度よりも低いリフロー温度で相変化膜を流動させる。なお、ここでいうリフローとは、加熱により相変化膜に流動性を与え、これにより、相変化膜の形状を変えることである。
【0032】
[マルチチャンバ成膜装置の作用]
マルチチャンバ成膜装置10が行う動作の一つである相変化メモリの製造に関わる処理について図1を参照して説明する。
【0033】
マルチチャンバ成膜装置10では、まず、各チャンバ11〜15に接続された図示されない排気部によって、各チャンバ11〜15内が所定の圧力に減圧される。各チャンバ11〜15の減圧が完了すると、処理前の処理基板Sが、図示されない外部のロボットによって搬出入チャンバ12内に搬入される。搬出入チャンバ12内の処理基板Sは、搬送ロボット11Rによって、搬送チャンバ11を介して相変化膜形成チャンバ13にまで運ばれる。相変化膜形成チャンバ13内では、相変化膜が、処理基板S上に形成される。
【0034】
相変化膜が形成されると、相変化膜形成チャンバ13内の処理基板Sは、搬送ロボット11Rによって、搬送チャンバ11を介してキャップ膜形成チャンバ14にまで運ばれ、キャップ膜形成チャンバ14内では、キャップ膜が相変化膜上に形成される。キャップ膜が形成されると、キャップ膜形成チャンバ14内の処理基板Sは、搬送ロボット11Rによって、搬送チャンバ11を介してリフローチャンバ15にまで運ばれる。リフローチャンバ15内では、上記相変化膜のリフローが行われ、リフロー処理が完了すると、リフローチャンバ15内の処理基板Sは、搬送ロボット11Rによって、搬送チャンバ11を介して搬出入チャンバ12にまで運ばれる。そして、上述した一連の処理が施された処理基板Sは、外部のロボットによって、搬出入チャンバ12から搬出される。
【0035】
[相変化メモリの形成方法]
次いで、上記相変化膜形成チャンバ13、キャップ膜形成チャンバ14、及びリフローチャンバ15の各々にて行われる処理の詳細について、図2(a)〜(d)を参照して説明する。なお、図2(a)に示される処理基板Sが、上記処理前の処理基板Sに相当し、他方、図2(d)に示される処理基板Sが、上記処理後の処理基板Sに相当する。また、図2(a)〜(d)のいずれに示される処理基板Sも、その一部断面構造を示したものである。
【0036】
図2(a)に示されるように、処理前の処理基板Sは、例えばシリコンからなる基板21を基材として有するとともに、基板21には、その表面全体を覆う下部電極22が積層されている。下部電極22は、例えば、スパッタによって形成されたタングステン膜である。
【0037】
下部電極22の表面全体には、例えば酸化シリコン(SiO)からなる絶縁膜23が積層されている。絶縁膜23には、その厚さ方向に延びるホール23hが、所定の規則性を持って複数形成されている。なお、絶縁膜23は、上記SiOの他、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、炭素含有酸化シリコン(SiOC)、酸化アルミニウム(Al)、及びホウリンケイ酸ガラス(BPSG)のいずれかによって形成されてもよい。
【0038】
そして、相変化膜形成チャンバ13にて相変化膜の形成が行われると、図2(b)に示されるように、絶縁膜23の上面23s、及びホール23h内に相変化膜24が形成される。この際、ホール23hの底面側には、通常、ホール23hの開口側と比べて、スパッタ粒子が到達しにくい。そのため、相変化膜24の形成条件、ホール23hの開口径、ホール23hのアスペクト比によっては、ホール23h内に形成された相変化膜24に空隙24gが生じる場合がある。なお、図2(b)では、ホール23hの深さDにおける略中央に1つの空隙24gが便宜的に示されているものの、該空隙24gは、ホール23hのより底面側やホール23hのより開口側に形成されたり、1つのホール23hに対して複数形成されたりする。
【0039】
相変化膜24が形成された後、キャップ膜形成チャンバ14にてキャップ膜の形成が行われると、図2(c)に示されるように、相変化膜24の上面全体にキャップ膜25が形成される。このようなキャップ膜形成工程で形成されるキャップ膜25の厚さTは、例えば5nm以上であって、相変化膜24のリフローによるストレスでクラックが生じない厚さである。なお、キャップ膜25にクラックが生じた状態とは、キャップ膜25の下層である相変化24膜の一部が外部に露出した状態をいう。
【0040】
キャップ膜25が形成された後、リフローチャンバ15にて相変化膜24のリフローが行われると、図2(d)に示されるように、絶縁膜23の上面23sに形成された相変化膜24の一部がホール23h内に流入する。このようなリフロー工程における相変化膜24の温度は、相変化膜24が軟化する温度であればよく、相変化膜24の形成材料である金属カルコゲナイドの融点以下であってもよい。これにより、相変化膜24に対しては、その流動性が確保されるとともに、揮発性の最も高いカルコゲン元素の脱離がキャップ膜25によって抑えられる。
【0041】
この際、上述したように、キャップ膜25の形成材料であるTaN、TiN、VN、VN、及びWNはいずれも、上記絶縁膜23の形成材料の全てよりも、相変化膜24に対する濡れ性が低い材料である。上記加熱によって流動性を得た相変化膜24は、絶縁膜23に対してキャップ膜25よりも相対的に強い付着張力で付着しながら、ホール23h内に流入する。つまり、相変化膜24は、キャップ膜25との接触面よりも、絶縁膜23との接触面に沿って流動しやすくなる。それゆえに、相変化膜24が流動する間、絶縁膜23の表面には、相変化膜24が付着し続け、これらの間には、空隙が介在しにくくなる。つまり、空隙24gは、相変化膜24の流動によってホール23h内から押し出されて、相変化膜24とキャップ膜25との境界側に位置しやすくなる。その結果、相変化膜24の組成が変わることを抑えることと、ホール23hに対する相変化膜24の埋め込み性を高めることとの両立が可能になる。
【0042】
また、上述した構成によれば、キャップ膜25の形成材料であるTaN、TiN、VN、VN、及びWNは、いずれも導電性の金属窒化物であることから、下部電極22の形成材料として用いることもできる。この場合、ホール23hの底面がキャップ膜25と同一の材料、あるいは、相変化膜24に対する濡れ性がキャップ膜25と同程度である材料によって形成されることになる。しかしながら、ホール23hの底面の総面積は、通常、絶縁膜23における相変化膜24との接触面積に対して十分に小さい。つまり、ホール23hから露出した下部電極22の総面積は、絶縁膜23の濡れ性に対して影響しない程度の大きさであると見なすことができる程度に小さい。それゆえに、下部電極22がキャップ膜25の形成材料によって形成されていたとしても、相変化膜24に対する濡れ性が、絶縁膜23においてキャップ膜25よりも高ければ、上述のような埋め込み性を高める効果が得られるようになる。
【0043】
また、図2(d)には、相変化膜24のリフローによってホール23h内の空隙24gがホール23h外に押し出された分だけ、ホール23hの直上に形成された相変化膜24及びキャップ膜25がホール23h側に窪んだ窪み部25aを示している。しかしながら、リフロー後には、こうした窪み部25aが形成される場合もあれば、空隙24gが、ホール23hの上方、且つ相変化膜24とキャップ膜25との境界に移動することで、窪み部25aが形成されない場合もある。
【0044】
ちなみに、相変化膜24のリフローが終了すると、処理基板Sは、マルチチャンバ成膜装置10から、外部のCMP装置に搬送される。そして、処理基板Sがキャップ膜25側から研磨されることで、キャップ膜25及び相変化膜24の一部が除去される。このとき、相変化膜24において除去される厚みは、上記窪み部25aの深さよりも大きいため、相変化膜24の上面は平坦化される。相変化膜24の平坦化が終了すると、処理基板Sが、CMP装置からスパッタ装置等の成膜装置に運ばれ、そして、処理基板Sの相変化膜24上に上部電極が形成される。こうして、先の図4に示される相変化メモリと同等の構造を有した相変化メモリが形成される。
【0045】
なお、絶縁膜23上に形成された相変化膜24の膜厚が薄くなるほど、絶縁膜23上で流動することの可能な金属カルコゲナイドが少なくなる。また、キャップ膜25の相変化膜24に対する濡れ性が、絶縁膜23の相変化膜24に対する濡れ性よりも高くなるほど、これもまた、ホール23h内に流入することの可能な金属カルコゲナイドが少なくなる。
【0046】
例えば、図3(a)に示されるように、リフロー工程の前には、基板31上に形成された下部電極32を露出させる絶縁膜33の上面33sとホール33h内とに相変化膜34が形成され、且つホール33h内に空隙34gが形成されているものとする。また、相変化膜34の上面には、相変化膜34に対する濡れ性が相対的に高いキャップ膜35が形成されているものとする。こうした状態にてリフロー工程が行われると、絶縁膜33上で流動することの可能な金属カルコゲナイドがそもそも少なく、流動する相変化膜34は、絶縁膜33よりもキャップ膜35に対して相対的に強く付着しつつ、ホール33h内に流入する、あるいは、ホール33h内にて流動することとなる。その結果、図3(b)に示されるように、相変化膜34内から空隙が押し出されるものの、相変化膜34がキャップ膜35に対して強く付着しているため、押し出された空隙34gが、ホール33hの底面33b側に溜まってしまうことになる。
【0047】
それゆえに、絶縁膜33上に形成される相変化膜34の膜厚は、ホール33h内に流入することの可能な金属カルコゲナイドが十分に得られる程度の膜厚が好ましく、また、キャップ膜35の相変化膜34に対する濡れ性は、絶縁膜33の相変化膜34に対する濡れ性よりも低いことが好ましい。
【0048】
[実施例]
直径が200mmのシリコン基板に、タングステンからなる下部電極を形成し、該下部電極上に下記形成材料からなる絶縁膜を積層した。次いで、各絶縁膜に対して直径が100nmであって、深さが200nmであるホールを形成することで、絶縁膜が互いに異なる複数の試験用基板を得た。そして、GeSbTeターゲットを用いたスパッタにより、複数の試験用基板の各々にGeSbTe膜を形成した。その後、絶縁膜の形成材料ごとに、下記形成材料からなるキャップ膜をGeSbTe膜上に形成し、次いで、GeSbTe膜を1.0Pa下で350℃に加熱した。
【0049】
そして、各試験用基板におけるリフロー工程の前後にて、ホール内に空隙が形成されているか否かを走査型電子顕微鏡によって確認するとともに、相変化膜の断面における組成をエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy : EDX)により計測した。
・絶縁膜:SiO、SiN、SiON、SiOC、Al、及びBPSG
・キャップ膜:TaN、TiN、VN、VN、及びWN
走査型電子顕微鏡による確認の結果、絶縁膜の形成材料及びキャップ膜の形成材料として上述のいずれの材料が選択されたとしても、リフロー工程前にホール内に形成されていた空隙が、リフロー工程後にはホール内に形成されないことが認められた。また、EDXの計測結果から、リフロー工程の前後にて、相変化膜の組成が維持されていることが認められた。
[比較例]
上記実施例と同一の試験用基板を作成した。そして、キャップ膜を形成することなく、試験用基板に対して相変化膜であるGeSbTe膜を形成した。こうして得られた試験用基板の一部断面に含まれるホール内に空隙が形成されているか否かを走査型電子顕微鏡によって確認したところ、ホール内には空隙が形成されていないことが認められた。
【0050】
また、上記手順にて形成されたGeSbTe膜の表面における組成を実施例と同様、EDXにより計測した。この計測結果からGeSbTe膜に含まれるGe、Sb、及びTeの比を算出したところ、リフロー工程後の相変化膜における組成がリフロー工程前の組成とは異なることが認められ、しかも、Teの含有量がリフロー工程前に比べて少ないことが認められた。
【0051】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)相変化膜24がキャップ膜25で覆われた後に、相変化膜24のリフローが行なわれる。そのため、相変化膜24が流動する程度に加熱されたとしても、相変化膜24を構成する元素、特に、相対的に揮発性が高いカルコゲン元素が相変化膜24から脱離することが抑制される。それゆえに、相変化膜24の組成が変わることを抑えつつ、ホール23hに対する相変化膜24の埋め込み性が高められる。
【0052】
(2)相変化膜24を覆うキャップ膜25が、ホール23hの形成された絶縁膜23よりも相変化膜24に対する濡れ性の低い材料で形成される。そのため、リフロー工程で流動性を得た相変化膜24は、絶縁膜23に対して相対的に強い付着張力で付着しながらホール23h内に流入する。つまり、相変化膜24は、キャップ膜25との接触面よりも、絶縁膜23との接触面に沿って流動しやすくなる。それゆえに、相変化膜24の流動に伴い、ホール23h内の空隙24gは、その外部に押し出され、相変化膜24とキャップ膜25との境界側に位置しやすくなる。したがって、相変化膜24の組成の維持と、ホール23hに対する相変化膜24の埋め込み性を高めることとの両立が容易なものとなる。
【0053】
(3)絶縁膜23が、SiO、SiN、SiON、SiOC、Al、及びBPSGのいずれかから形成され、且つ、キャップ膜25が、TaN、TiN、VN、VN、及びWNのいずれかから形成される。そのため、絶縁膜23を上記群のいずれの材料から形成し、また、キャップ膜25を上記群のいずれの材料から形成したとしても、相変化膜24に対する濡れ性は、キャップ膜25よりも絶縁膜23の方が高くなる。それゆえに、上記リフロー工程では、相変化膜24がキャップ膜25ではなく、絶縁膜23に対して相対的に強い付着張力で付着するようになる。ひいては、ホール23h内に対する相変化膜24の埋め込み性が高められる。しかも、絶縁膜23の形成材料及びキャップ膜25の形成材料はいずれも汎用的に用いられる材料であることから、絶縁膜23及びキャップ膜25の形成を簡便に行うことができるようになる。
【0054】
(4)キャップ膜25が、相変化膜24よりも高温で軟化する材料からなり、リフロー工程では、キャップ膜25が軟化する温度よりも低い温度で相変化膜24が流動する。これにより、リフロー工程にてキャップ膜25が流動することが抑えられるため、相変化膜24からのカルコゲン元素の脱離が、より確実にキャップ膜25によって抑制される。
【0055】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・相変化膜24の埋め込まれる凹部は、絶縁膜に形成されたホールに限らず、絶縁膜に形成されたトレンチであってもよく、また、絶縁性の基材に形成されたホールやトレンチであってもよい。
【0056】
・絶縁膜が、凹部の内側面を構成する第1絶縁層と、第1絶縁層の周囲を囲う第2絶縁層とからなり、キャップ膜形成工程では、相変化膜に対する濡れ性が第1絶縁層よりも低い材料でキャップ膜が形成される方法であってもよい。こうした構成によれば、上記(1)〜(4)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0057】
(5)絶縁膜を第1絶縁層と第2絶縁層とから構成しているため、相変化膜24に対する濡れ性がキャップ膜25よりも高い材料を凹部の内側面である第1絶縁層にのみ用いるようにすればよい。そのため、凹部を形成するためのエッチング等が施される第2絶縁層については、その形成材料の自由度が高められる。それゆえに、第2絶縁層に対する加工の自由度も高められ、ひいては、相変化メモリの形成工程における自由度が高められる。
【0058】
・相変化膜24は、GeSbTe膜以外の金属カルコゲナイド膜であってもよい。例えば、GeSbTe、GeSbTe等の他の組成のGeSbTe膜や、ZnSbTe膜、ZnGeSbTe膜、InGeSbTe膜、GeCuTe膜、あるいはAgInSbTe膜等であってもよい。要は、カルコゲン原子と金属原子とを含み、且つ、上述のような相変化に伴う抵抗変化を生じるような金属カルコゲナイド膜であればよい。こうした金属カルコゲナイド膜を用いる方法であっても、上記(1)〜(4)に準じた効果を得ることができる。
【0059】
・また、GeSbTe膜以外の金属カルコゲナイド膜であって、カルコゲン元素である硫黄を含むものであってもよい。こうした金属カルコゲナイド膜を用いる方法によれば、上記(1)〜(4)に準じた効果を得ることができる。
【0060】
・キャップ膜25を積層膜として形成するようにしてもよい。例えば、TaN、TiN、VN、VN、及びWNのいずれかからなって、互いに異なる組成の窒化金属膜を積層することによりキャップ膜を形成してもよい。また、上述した窒化金属膜の他、該窒化金属膜を構成する遷移金属からなる金属膜やシリコン系の絶縁膜でキャップ膜25が形成される方法であってもよい。要は、リフロー工程の前に、リフロー工程の温度における相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑える材料からキャップ膜を形成する方法であればよい。こうした方法であっても、上記(1)〜(6)の効果を得ることはできる。
【0061】
・相変化膜よりも低温で軟化する材料によりキャップ膜が形成される方法であってもよく、また、キャップ膜が軟化する温度でリフロー工程が行われる方法であってもよい。このような方法であっても、キャップ膜にクラックが発生することなく、相変化膜のリフローを行うことは可能である。そして、リフロー工程の温度における相変化膜からカルコゲン元素が脱離することが抑えられる以上、上記(1)〜(3)、(5)、(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0062】
・相変化膜24のリフローは、上述した圧力以外の雰囲気にて、上述した温度範囲以外の温度で行なわれてもよい。要は、所定の圧力下で、相変化膜24の流動が可能な温度にてリフローを行うようにすればよい。こうした方法であっても、上記(1)〜(3)、(5)、(6)に準じた効果を得ることができる。
【0063】
・SiO、SiN、SiON、SiOC、Al、及びBPSG以外の材料から絶縁膜23を形成する方法であってもよい。要は、相変化膜に対する濡れ性がキャップ膜よりも高い材料から絶縁膜を形成する方法であれば、上記(1)、(2)、(4)に準じた効果を得ることは可能である。また、相変化膜に対する濡れ性がキャップ膜よりも低い材料から絶縁膜を形成する方法であっても、凹部のアスペクト比が小さく、空隙の形成される位置が凹部の開口近傍にある場合であれば、上記(1)、(4)〜(6)に準じた効果を得ることは可能である。また、絶縁膜上から凹部内へ流動することの可能な相変化膜が十分に得られる方法であれば、絶縁膜及びキャップ膜の形成材料が上記の材料でなくとも、同様にして、上記(1)、(4)〜(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0064】
・マルチチャンバ成膜装置10には、リフローチャンバ15を搭載するようにしたが、リフローチャンバ15が割愛され、キャップ膜形成チャンバ14が相変化膜24のリフローを行う加熱装置を有する構成であってもよい。あるいは、相変化膜形成チャンバ13が相変化膜24のリフローを行う加熱装置を有する構成であってもよい。こうした構成によれば、上記(1)〜(6)の効果が得られることに加えて、マルチチャンバ成膜装置の構成を簡単にでき、且つ、マルチチャンバ成膜装置を小さくできる。
【符号の説明】
【0065】
10…マルチチャンバ成膜装置、11…搬送チャンバ、11a、11b、11c、11d…連結部、11R…搬送ロボット、12…搬出入チャンバ、13…相変化膜形成チャンバ、14…キャップ膜形成チャンバ、15…リフローチャンバ、21,31,41…基板、22,32,42…下部電極、23,33,43…絶縁膜、23h,33h,43h…ホール、23s,33s,43s…上面、24,34,44…相変化膜、24g,34g…空隙、45…上部電極、25,35…キャップ膜、25a…窪み部、S…処理基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有した基板の表面に金属カルコゲナイドからなる相変化膜を形成する工程と、
前記相変化膜をリフロー温度に加熱して前記相変化膜を流動させるリフロー工程と
を有する相変化メモリの形成方法であって、
前記リフロー工程の前に、前記リフロー温度にある前記相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑えるキャップ膜で前記相変化膜を覆うキャップ膜形成工程を備える
ことを特徴とする相変化メモリの形成方法。
【請求項2】
前記凹部は、
前記基板の表面である絶縁膜の表面に形成され、
前記キャップ膜形成工程では、
前記相変化膜に対する濡れ性が前記絶縁膜よりも低い材料で前記キャップ膜が形成される
請求項1に記載の相変化メモリの形成方法。
【請求項3】
前記キャップ膜は、前記相変化膜よりも高温で軟化する材料からなり、
前記リフロー工程では、前記キャップ膜が軟化する温度よりも低い温度で前記相変化膜を流動させる
請求項1又は2に記載の相変化メモリの形成方法。
【請求項4】
前記絶縁膜は、
酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、酸化アルミニウム、及びホウリンケイ酸ガラスのいずれかからなり、
前記キャップ膜形成工程では、
前記キャップ膜が、窒化タンタル、窒化チタン、窒化バナジウム、及び窒化タングステンのいずれか一つである
請求項2又は3のいずれか一項に記載の相変化メモリの形成方法。
【請求項5】
前記絶縁膜は、
前記凹部の内側面を構成する第1絶縁層と、前記第1絶縁層の周囲を囲う第2絶縁層とからなり、
前記キャップ膜形成工程では、
前記相変化膜に対する濡れ性が前記第1絶縁層よりも低い材料で前記キャップ膜が形成される
請求項2〜4のいずれか一項に記載の相変化メモリの形成方法。
【請求項6】
相変化膜である金属カルコゲナイド膜を形成して相変化メモリを形成する相変化メモリの形成装置であって、
基板が有する凹部内に前記相変化膜を形成するスパッタ装置と、
キャップ膜で前記相変化膜を覆うキャップ膜形成装置と、
前記相変化膜と前記キャップ膜とをリフロー温度に加熱して前記相変化膜を流動させるリフロー装置と
を備え、
前記キャップ膜形成装置では、前記リフロー温度にある前記相変化膜からカルコゲン元素が脱離することを抑える材料で前記キャップ膜を形成する
ことを特徴とする相変化メモリの形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−55258(P2013−55258A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193281(P2011−193281)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】