説明

相対位置同定装置

【課題】特別な補助情報装置を追加することなく衛星測位の不正確さを補うことができる相対位置同定装置を提供する。
【解決手段】他車両からの通信により、他車両が測位した位置情報を取得する車車間通信機2と、自車両が測位した位置情報と他車両の位置情報により自車両に対する他車両の方位を同定する測位由来方位同定部3と、前記他車両からの通信電波の到来方位を検出する電波方位検出手段4と、前記他車両からの通信電波の到来方位に基づいて自車両に対する前記他車両の方位を同定する電波由来方位同定部5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な補助情報装置を追加することなく衛星測位の不正確さを補うことができる相対位置同定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車車間通信技術を利用した相対位置同定装置では、それぞれの車両がGPS(Global Positioning System)等によって測位した位置情報を所定時間おきに通信することで、自車両と対象となる他車両との相対位置(具体的には、自車両に対する他車両の方位と距離)を同定している。これにより、双方の車両の相対位置や移動方向が分かるので、現在以後の出会い、すれ違い、追い越しなどの接近状況が把握でき、運転支援に活用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−15337号公報
【特許文献2】特許第2813219号公報
【特許文献3】特開2008−278162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衛星測位による位置情報のみで相対位置を同定する場合、衛星電波をよく受信できる電波良好時のみ、正確に同定できる。衛星電波の受信が困難な電波不良時は、測位が不正確になるため、相対位置を同定することが困難となる。例えば、GPSの位置誤差は、受信できる衛星の個数や受信機側の時計精度などにもよるが、電波良好時では1〜30mであるのに対し、電波不良時では30〜100mにもなる。自車両と他車両が共に衛星測位の位置誤差を有するので、電波不良時は相対位置の同定が困難となる。例えば、同定結果では自車両の前方にいるはずの他車両が実際には自車両の後方にいることも起きている。
【0005】
このような衛星測位の不正確さを補う手段として、地図情報を利用するマップマッチングが知られている。例えば、マップマッチングを採用しているカーナビゲーション装置では、現在走行中であることが確認されている道路に対し、新しく測位された位置が50m離れた隣の道路上であったとしても、確認されている道路へ位置を補正することを行っている。この場合、自車両と他車両においてそれぞれマップマッチングで補正した位置情報を提供すれば、相対位置の同定の困難さが改善される。
【0006】
しかしながら、このような補助情報装置を導入するとコストが高くなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、特別な補助情報装置を追加することなく衛星測位の不正確さを補うことができる相対位置同定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、他車両からの通信により、他車両が測位した位置情報を取得する車車間通信機と、自車両が測位した位置情報と他車両の位置情報により自車両に対する他車両の方位を同定する測位由来方位同定部と、前記他車両からの通信電波の到来方位を検出する電波方位検出手段と、前記他車両からの通信電波の到来方位に基づいて自車両に対する前記他車両の方位を同定する電波由来方位同定部とを備えたものである。
【0009】
前記電波由来方位同定部が同定した方位と前記測位由来方位同定部が同定した方位とが閾値以上異なるとき、衛星測位が不正確であると判定する測位不正確判定部を備えてもよい。
【0010】
前記電波方位検出手段は、車車間通信用アンテナの周囲を囲い、荷電の有無により電波の遮蔽又は透過が制御される電波シャッタと、前記電波シャッタに対して周方向の荷電分布を変化させることで電波透過部分を回転移動させる電波透過部分回転回路と、前記他車両からの通信電波が前記車車間通信用アンテナに受信されたときの前記電波透過部分の回転角度を前記他車両からの通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部とを備えてもよい。
【0011】
前記電波方位検出手段は、電波を遮蔽する材料で車車間通信用アンテナの周囲を一部だけ開放して囲う遮蔽部材と、前記遮蔽部材を前記車車間通信用アンテナの周方向に回転させる回転アクチュエータと、前記他車両からの通信電波が前記車車間通信用アンテナに受信されたときの前記遮蔽部材の開放部分の回転角度を通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0013】
(1)特別な補助情報装置を追加することなく衛星測位の不正確さを補うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す相対位置同定装置の構成図である。
【図2】本発明に用いる電波方位検出手段の構成図である。
【図3】電波方位検出手段の電波透過部分の方位ごとの電界強度を平面上に示す模式図である。
【図4】方位ごとに通信電波が受信される様子を示す模式図である。
【図5】測位由来方位同定部と電波由来方位同定部による他車両の方位同定の様子を平面上に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
図1に示されるように、本発明に係る相対位置同定装置1は、他車両からの通信により、他車両が測位した位置情報を取得する車車間通信機2と、自車両が測位した位置情報と他車両の位置情報により自車両に対する他車両の方位を同定する測位由来方位同定部3と、前記他車両からの通信電波の到来方位を検出する電波方位検出手段4と、前記他車両からの通信電波の到来方位に基づいて自車両に対する前記他車両の方位を同定する電波由来方位同定部5と、電波由来方位同定部5が同定した方位と測位由来方位同定部3が同定した方位とが閾値以上異なるとき、衛星測位が不正確であると判定する測位不正確判定部6とを備える。
【0017】
自車両と他車両には、GPS等の衛星測位装置7が搭載される。衛星測位装置7については公知の技術であるので、説明を省略する。
【0018】
車車間通信機2は、公知の技術であるが、簡単に説明すると、車両に起立させて取り付けられた車車間通信用アンテナで5GHz帯の電波を所定時間間隔で送受信して自車両と他車両が相互に通信するものである。車車間通信の電文には車両を識別する車両IDと衛星測位による位置情報が含まれる。車車間通信の電波は微弱なものであり、比較的近距離の車両同士のみ通信可能である。
【0019】
測位由来方位同定部3は、自車両の位置情報と他車両の位置情報とから、自車両に対する他車両の相対位置(方位と距離)を同定することができる。
【0020】
電波方位検出手段4は、電波シャッタを用いて構成することができる。電波シャッタは、荷電の有無により電波の遮蔽又は透過が制御される部材である。電波シャッタは、特許文献3のように複数の導体を並べて配置したものでもよいが、ここでは電波シャッタとして液晶ブラインドを用いる。液晶ブラインドは、電界に応じて電波の透過率が変化する短冊状の液晶板を複数並べ、液晶板ごとに電波の遮蔽又は透過が制御されるようにした部材である。
【0021】
図2に示されるように、電波方位検出手段4は、車車間通信用アンテナ21の周囲を囲い、荷電の有無により電波の遮蔽又は透過が制御される電波シャッタ22と、電波シャッタ22に対して周方向の荷電分布を変化させることで電波透過部分(以下、スリットという)23を回転移動させる電波透過部分回転回路24と、前記他車両からの通信電波が車車間通信用アンテナ21に受信されたときのスリット23の回転角度を前記他車両からの通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部25とを備える。
【0022】
車車間通信用アンテナ21は、車両の表面から起立させて設けられ、水平面上で無指向性を有する。
【0023】
電波シャッタ22としての液晶ブラインド22aは、起立させた複数の液晶板26を車車間通信用アンテナ21の全周囲に並べたものである。図2には、電界の制御によりスリット23が形成されている状態が示されている。図示しないが、車車間通信用アンテナ21をレドームで覆い、レドームの周囲に液晶板26を並べてもよい。
【0024】
電波透過部分回転回路24は、個々の液晶板26に対する電界の制御を適宜な規則に従って変更することで、スリット23を車車間通信用アンテナ21の周方向に回転移動させるようになっている。
【0025】
到来方位検出部25は、対象としている車両IDを含む電文が通信されているときの、電波透過部分回転回路24で制御しているスリット23の回転角度を通信電波の到来方位として検出するようになっている。通信が可能な回転角度が広い場合は、車車間通信用アンテナ21で受信される通信電波の電界強度が最も大きい回転角度を通信電波の到来方位とすればよい。
【0026】
図1に戻り、電波由来方位同定部5は、電波方位検出手段4が検出した他車両からの通信電波の到来方位に基づいて自車両に対する他車両の方位を同定するものである。ここで、同定される方位は自車両(厳密には車車間通信用アンテナ21)を中心とした方位である。基準となる方位(0deg)は、自車両の前方としてもよいし、地球座標系の特定方位(例えば、北)としてもよい。自車両の前方をスリット23の回転角度の基準としておけば、スリット23の回転角度の読み値がそのまま自車両の前方を基準とした他車両の方位となる。
【0027】
測位不正確判定部6は、電波由来方位同定部5が同定した方位と測位由来方位同定部3が同定した方位とが閾値未満の差であれば、衛星測位の位置情報の精度が高いと判定し、電波由来方位同定部5が同定した方位と測位由来方位同定部3が同定した方位とが閾値以上異なるとき、衛星測位が不正確であると判定するようになっている。
【0028】
以下、相対位置同定装置1における電波方位検出手段4と電波由来方位同定部5の動作を説明する。
【0029】
図2で説明したように、無指向性を有する車車間通信用アンテナ21の周囲が液晶ブラインド22aで囲まれているため、総合の指向性はスリット23が開いている方向に限定される。スリット23を車車間通信用アンテナ21の周方向に回転移動させると、全方位について指向性の向きを掃引することができる。なお、スリット23の開口角度は、広くすると方位の同定精度が低下し、狭くすると方位の同定精度は向上するが、狭くしすぎると受信の電界強度が小さくなり通信の障害となるので、適切な開口角度を実験等により決定するとよい。また、スリット23の回転移動速度についても、通信の障害が起きないよう実験等により決定するとよい。
【0030】
今、図3に示されるように、自車両31に対して方位90degに他車両32が存在するとする。
【0031】
電波方位検出手段4において、指向性を掃引しながら、他車両32との通信が可能であるという事象をサンプリングしていくと、方位90degに他車両32が存在するため、図4に示されるように、スリット23の回転角度が90degごとの所定期間に車車間通信が可能となる。
【0032】
したがって、電波由来方位同定部5では、自車両31に対して方位90degに他車両32が存在することが同定できる。このとき、自車両31の近くに複数の車両が存在する場合でも、車車間通信によって車両IDが得られるので、車両を区別してそれぞれ方位を同定することができる。
【0033】
次に、衛星測位が不正確な場合における本発明の相対位置同定装置1の動作を説明する。
【0034】
図5に示されるように、自車両31に対して方位90degに他車両32が存在するとする。
【0035】
車車間通信機2は、他車両32からの通信により、他車両32が測位した位置情報を取得する。測位由来方位同定部3は、自車両31が測位した位置情報と他車両32の位置情報により自車両31に対する他車両32の相対位置を同定する。しかし、衛星測位が不正確であるため、同定された相対位置Pは、実際の他車両32の位置とは異なる。この例では、他車両32は方位330degに同定される。
【0036】
このとき、電波由来方位同定部5では、既に説明したように、他車両32を正確に方位90degに同定している。したがって、測位由来方位同定部3による方位330degは誤りであり、相対位置Pは誤りであると判定できる。すなわち、測位不正確判定部6は、電波由来方位同定部5が同定した方位と測位由来方位同定部3が同定した方位とが閾値以上異なるとき、衛星測位が不正確であると判定する。この結果、相対位置Pは利用できなくなるが、電波由来方位同定部5で同定した方位は正確であるため、これを運転支援に利用することになる。逆に、電波由来方位同定部5が同定した方位と測位由来方位同定部3が同定した方位との差が閾値未満であれば、衛星測位が正確であると判定でき、測位由来方位同定部3が同定した相対位置の信頼性が確認できる。
【0037】
以上説明したように、本発明に係る相対位置同定装置1によれば、他車両からの通信電波の到来方位を検出し、その到来方位に基づいて自車両に対する他車両の方位を同定するようにしたので、衛星測位が不正確なときでも他車両の方位を正確に同定することができ、衛星測位の不正確さを補うことができる。
【0038】
本発明に係る相対位置同定装置1によれば、電波方位検出手段4は、車車間通信用アンテナ21の周囲を電波シャッタ22で囲い、電波シャッタ22のスリット23を回転移動させて他車両からの通信電波の到来方位を検出するようにしたので、指向性を好適に限定して方位の同定精度を高めることができると共に、小型で構造が簡単になり、車両への設置に有利である。従来より、指向性を限定する部材として、パラボラ型やコーナー型の反射器があるがスリット23はこれらよりも指向性が鋭くできる。また、反射器を用いると、指向性を全方位に掃引するには機械的に回転させなければならず、構造が複雑かつ大型になる。
【0039】
本実施形態では、電波方位検出手段4に電波の遮蔽/透過が制御される電波シャッタ22を利用したが、電波を遮蔽する遮蔽部材を用いて構成することもできる。すなわち、電波方位検出手段は、電波を遮蔽する材料で車車間通信用アンテナ21の周囲を一部だけ開放して囲う遮蔽部材と、遮蔽部材を車車間通信用アンテナ21の周方向に回転させる回転アクチュエータと、他車両からの通信電波が車車間通信用アンテナ21に受信されたときの遮蔽部材の開放部分の回転角度を通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部とを備えるように構成する。この場合、遮蔽部材の開放部分がスリットであり、遮蔽部材を回転アクチュエータで回転させることにより、スリットを回転移動させることができる。遮蔽部材の径は車車間通信用アンテナ21の径よりやや大きい程度でよいので、パラボラ型やコーナー型の反射器を回転させるより、小型で構造が簡単にできる。遮蔽部材の径を車車間通信用アンテナ21の径より十分大きくしてもよく、この場合、遮蔽部材の内面は電波を反射する材料とするのが好ましい。
【0040】
本実施形態では、測位装置として衛星測位装置7を利用したが、車両に搭載される測位装置は衛星測位装置7に限らず、車速センサやヨーレートセンサあるいは操舵角センサのデータからいわゆる自立航法で測位するものや、ビーコン等を利用するものであってもよく、本発明により測位の不正確さを補うことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 相対位置同定装置
2 車車間通信機
3 測位由来方位同定部
4 電波方位検出手段
5 電波由来方位同定部
6 測位不正確判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他車両からの通信により、他車両が測位した位置情報を取得する車車間通信機と、
自車両が測位した位置情報と他車両の位置情報により自車両に対する他車両の方位を同定する測位由来方位同定部と、
前記他車両からの通信電波の到来方位を検出する電波方位検出手段と、
前記他車両からの通信電波の到来方位に基づいて自車両に対する前記他車両の方位を同定する電波由来方位同定部とを備えたことを特徴とする相対位置同定装置。
【請求項2】
前記電波由来方位同定部が同定した方位と前記測位由来方位同定部が同定した方位とが閾値以上異なるとき、衛星測位が不正確であると判定する測位不正確判定部を備えたことを特徴とする請求項1記載の相対位置同定装置。
【請求項3】
前記電波方位検出手段は、
車車間通信用アンテナの周囲を囲い、荷電の有無により電波の遮蔽又は透過が制御される電波シャッタと、
前記電波シャッタに対して周方向の荷電分布を変化させることで電波透過部分を回転移動させる電波透過部分回転回路と、
前記他車両からの通信電波が前記車車間通信用アンテナに受信されたときの前記電波透過部分の回転角度を前記他車両からの通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部とを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の相対位置同定装置。
【請求項4】
前記電波方位検出手段は、
電波を遮蔽する材料で車車間通信用アンテナの周囲を一部だけ開放して囲う遮蔽部材と、
前記遮蔽部材を前記車車間通信用アンテナの周方向に回転させる回転アクチュエータと、
前記他車両からの通信電波が前記車車間通信用アンテナに受信されたときの前記遮蔽部材の開放部分の回転角度を通信電波の到来方位として検出する到来方位検出部とを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の相対位置同定装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−145374(P2012−145374A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2309(P2011−2309)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】