説明

省エネルギー余裕算出装置、省エネルギー総余裕算出装置および方法

【課題】マルチループ温度制御系において最遅同調制御を適用することを想定した省エネルギー余裕分を概算で見積もる。
【解決手段】省エネルギー余裕算出装置は、昇温前の操作量MVLを取得する低温時操作量取得部1と、昇温完了後の温度で待機中の操作量MVHを取得する高温時操作量取得部2と、最遅制御ループ以外の制御ループの昇温完了から最遅制御ループの昇温完了までの、最遅制御ループ以外の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測部3と、ヒータ容量に関する情報HPを記憶するヒータ容量記憶部4と、待機時間THとヒータ容量HPと操作量MVHと操作量MVLとから最遅制御ループ以外の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出部5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の省エネルギー余裕分を算出する省エネルギー余裕算出装置、省エネルギー総余裕算出装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題に起因する法改正などに伴い、工場や生産ラインのエネルギー使用量管理が強く求められている。工場内の加熱装置や空調機器は特にエネルギー使用量の大きな設備装置であるため、エネルギー使用量の上限を、本来備える最大量よりも低く抑えるように管理されることが多い。例えば電力を使用する設備装置では、電力デマンド管理システムからの指示により、特定の電力使用量以内に制限する運用が行なわれている。
【0003】
特に複数の電気ヒータを備える加熱装置では、立ち上げ時(複数の電気ヒータが設置されている領域の一斉昇温時)に消費される電力を削減するために、高温での待機時間を削減する手法が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に開示された制御装置が対象とする加熱装置の1例を図6に示す。図6の例は、加熱チャンバー100の内部の温度PVを温調計103−1〜103−4によって制御するものである。温度センサ102−1〜102−4は、それぞれヒータ101−1〜101−4によって加熱されるゾーンZ1〜Z4の温度PVを測定する。温調計103−1〜103−4は、それぞれ温度センサ102−1〜102−4によって測定された温度PVが温度設定値SPと一致するように操作量MVを算出する。電力機器104−1〜104−4は、それぞれ温調計103−1〜103−4から出力された操作量MVに応じた電力をヒータ101−1〜101−4に供給する。上位コントローラ105は、例えば温度センサ102−1〜102−4が測定した温度を表示器106に表示させる。この図6に示した温度制御系においては、各温調計103−1〜103−4がゾーン毎に独立した制御ループを形成していることになる。
【0004】
特許文献1に開示された制御装置は、図6に示したようなマルチループの温度制御系において、制御量変化が最も遅い第1制御ループのステップ応答の進捗度を算出し、第1制御ループ以外の他の制御ループの制御量が第1制御ループの制御量に同期して自動的に変化するように、他の制御ループの設定値をステップ応答の進捗度に基づいて補正することにより、他の制御ループの高温での整定待機時間を削減するようにしたものである。以下、特許文献1に開示された制御手法を最遅同調制御と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−049406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された最遅同調制御を適用するには、制御演算機能を実装した専用の演算装置を導入する必要があり、導入コストが発生する。制御量変化が早い制御ループの高温での待機時間を削減することにより、どの程度の省エネルギー効果が得られるかという「省エネルギー余裕」を算出して評価することができないと、最遅同調制御の適用効果(効果対コスト)を見積もることができない。適用効果を見積もることができない場合、省エネルギー改善の機会を逸することにもなり得る。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、マルチループ温度制御系において最遅同調制御を適用することを想定した省エネルギー余裕分を、制御実績に基づき概算で見積もることができる省エネルギー余裕算出装置、省エネルギー総余裕算出装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い第1の制御ループに他の第2の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の前記第2の制御ループの省エネルギー余裕分を算出する省エネルギー余裕算出装置であって、昇温前の操作量MVLを各コントローラのいずれかから取得する低温時操作量取得手段と、各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に前記第2の制御ループの昇温が完了したときに、昇温完了後の温度で待機中の第2の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得手段と、前記第2の制御ループの昇温完了から前記第1の制御ループの昇温完了までの前記第2の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測手段と、前記第2の制御ループのヒータ容量HPを予め記憶するヒータ容量記憶手段と、前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから前記第2の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の省エネルギー余裕算出装置の1構成例において、前記省エネルギー余裕算出手段は、前記省エネルギー余裕ESを、前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLと定数α(α≒0.5)とから、αTHHP(MVH−MVL)/100により算出することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の全制御ループの省エネルギー余裕分の合計を算出する省エネルギー総余裕算出装置であって、制御ループ毎に設けられ、各制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する複数の省エネルギー余裕算出装置と、各省エネルギー余裕算出装置が算出した省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する省エネルギー総余裕算出手段とを備え、各省エネルギー余裕算出装置は、昇温前の操作量MVLを対応する制御ループのコントローラから取得する低温時操作量取得手段と、各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に対応する制御ループの昇温が完了したときに、対応する制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得手段と、対応する制御ループの昇温完了から全ての制御ループの昇温完了までの待機時間THを計測する待機時間計測手段と、対応する制御ループのヒータ容量HPを予め記憶するヒータ容量記憶手段と、前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから対応する制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出手段とを有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い第1の制御ループに他の第2の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の前記第2の制御ループの省エネルギー余裕分を算出する省エネルギー余裕算出方法であって、昇温前の操作量MVLを各コントローラのいずれかから取得する低温時操作量取得ステップと、各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に前記第2の制御ループの昇温が完了したときに、昇温完了後の温度で待機中の第2の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得ステップと、前記第2の制御ループの昇温完了から前記第1の制御ループの昇温完了までの前記第2の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測ステップと、前記待機時間THと前記第2の制御ループのヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから前記第2の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の全制御ループの省エネルギー余裕分の合計を算出する省エネルギー総余裕算出方法であって、各制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップと、この省エネルギー余裕算出ステップで算出した各制御ループの省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する省エネルギー総余裕算出ステップとを備え、前記省エネルギー余裕算出ステップは、昇温前の操作量MVLを算出対象の制御ループのコントローラから取得する低温時操作量取得ステップと、各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に算出対象の制御ループの昇温が完了したときに、算出対象の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得ステップと、算出対象の制御ループの昇温完了から全ての制御ループの昇温完了までの待機時間THを計測する待機時間計測ステップと、前記待機時間THと算出対象の制御ループのヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから算出対象の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップとを、制御ループ毎に実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マルチループ温度制御系において最遅同調制御を適用することを想定した省エネルギー余裕分を、最遅同調制御を適用しない場合の制御実績に基づき概算で見積もることができる。その結果、本発明では、最遅同調制御を導入するか否かを判断するための情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】制御量の変化パターンと操作量の変化パターンの例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る省エネルギー余裕算出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る省エネルギー余裕算出装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る省エネルギー総余裕算出装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る省エネルギー総余裕算出装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】加熱装置の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の原理]
加熱装置において加熱対象の温度が十分に上昇した後もヒータの出力をある程度維持しなければならない理由は、高温の加熱対象部分と低温の周囲部分との間で生じる放熱によるエネルギー分を補うためにエネルギーを供給しなければならないからである。ここで、高温部分と低温部分との温度差が大きいほど熱伝導が大きくなり、放熱量が多くなるので、高温を維持するための熱量として電力(エネルギー)が多く供給される。このとき、装置が稼動状態にならずに多くの放熱を継続しているのであれば、それだけ電力のロスが大きくなる。このロス分が、同時に省エネルギー余裕分と言える。
【0015】
特許文献1に開示された最遅同調制御の適用により昇温パターンが変化すると、すなわち設定値SPが変換されたことにより実質ランプアップのパターン(設定値SPが一定割合で直線的に緩やかに上昇する形)で温度が変化すると、操作量MVの出力パターンが、最遅同調制御を適用しない場合の操作量MVの出力パターンと相似形状ではなくなるので、最遅同調制御を適用した場合と適用しない場合を単純な幾何学的計算によって比較することが難しくなる。すなわち、電力のロスを推定し難くなる。
【0016】
図1(A)は加熱装置において最遅同調制御を適用しない場合の制御量PV(温度)の変化パターンの例を示す図、図1(B)は最遅同調制御を適用しない場合の操作量MVの変化パターンの例を示す図である。なお、図1(B)は制御量変化が最も遅い制御ループ(以下、最遅制御ループ)以外の制御ループの操作量MVを示している。図1(A)、図1(B)において、PVSは最遅制御ループの制御量PV、PVFは最遅制御ループ以外の制御ループの制御量PVであり、MVLは昇温前の操作量MV、MVHは高温での待機中の操作量MVである。図1(B)から明らかなとおり、最遅同調制御を適用しない場合、最遅制御ループ以外の制御ループの操作量MVがMVHに維持される時間が長くなる(すなわち、高温での待機時間が長くなる)ので、電力ロスが大きくなる。
【0017】
一方、図1(C)は加熱装置において最遅同調制御を適用した場合の制御量PVの変化パターンの例を示す図、図1(D)は最遅同調制御を適用した場合の操作量MVの変化パターンの例を示す図である。図1(B)の場合と同様に、図1(D)は最遅制御ループ以外の制御ループの操作量MVを示している。最遅同調制御を適用すると、図1(D)に示すように、操作量MVの出力パターンは、最遅同調制御を適用しない場合の操作量MVの出力パターンと相似形状ではなくなる。したがって、最遅同調制御を適用した場合と適用しない場合を単純な幾何学的計算によって比較することが難しくなる。
【0018】
しかし、電力量を放熱量の積算分として考えれば、制御量PVの変化パターンから電力のロスを合理的に見積もれることに着眼した。すなわち、図1(A)、図1(B)に示したように最遅制御ループと最遅制御ループ以外の制御ループを同時に昇温した場合と、図1(E)、図1(F)に示すように最遅制御ループに対して最遅制御ループ以外の制御ループの昇温開始時点を単純にずらした場合とを比較すると、最遅制御ループ以外の制御ループの高温での待機時間と待機中の操作量とから電力のロスを推定することができる。図1(F)の200が、電力ロス削減相当分である。
【0019】
最遅同調制御を適用した図1(C)、図1(D)の場合の放熱量は、制御量PVの変化パターンから考えると、図1(A)、図1(B)の場合の放熱量と図1(E)、図1(F)の場合の放熱量の中間程度と考えられるので、推定可能な電力ロスから、最遅同調制御を適用した場合の省エネルギー余裕分の概算値を算出できることになる。これにより、昇温途中の操作量MVの出力パターンを記憶・分析する必要がなく、通常の温調計が備える状態検出機能のみで省エネルギー余裕分の見積もりが可能になる。
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の第1の実施の形態に係る省エネルギー余裕算出装置の構成を示すブロック図である。省エネルギー余裕算出装置は、昇温前の操作量MVLを取得する低温時操作量取得部1と、昇温完了後の温度で待機中の操作量MVHを取得する高温時操作量取得部2と、最遅制御ループ以外の制御ループの昇温完了から最遅制御ループの昇温完了までの、最遅制御ループ以外の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測部3と、ヒータ容量に関する情報HPを予め記憶するヒータ容量記憶部4と、待機時間THとヒータ容量HPと操作量MVHと操作量MVLとから最遅制御ループ以外の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出部5と、省エネルギー余裕算出結果を出力する出力部6とを備えている。
【0021】
次に、省エネルギー余裕算出装置の動作について説明する。図3は省エネルギー余裕算出装置の動作を示すフローチャートである。本実施の形態では、特許文献1に開示された最遅同調制御を図6に示したようなマルチループの温度制御系に適用することを想定し、最遅制御ループ以外の制御ループ(以下、制御ループA)を省エネルギー余裕の算出対象とし、この制御ループAと最遅制御ループ(以下、ループB)とを、最遅同調制御を適用しないで同時に昇温開始することにより省エネルギー余裕算出を行なう。図6を用いて説明したとおり、各温調計(コントローラ)103−1〜103−4は、それぞれ温度センサ102−1〜102−4によって計測された温度計測値PVが温度設定値SPと一致するように操作量MVを算出して、操作量MVをヒータ101−1〜101−4に出力する。省エネルギー余裕算出装置は、各温調計103−1〜103−4が形成する4つの制御ループのうちのいずれが制御ループA,Bであるかを予め把握しているものとする。
【0022】
まず、低温時操作量取得部1は、昇温前の操作量MVLを温調計103−1〜103−4のいずれかから取得する(図3ステップS100)。ここでは、全ての制御ループの温度設定値SPが同じ値に設定されているので、操作量MVLを制御ループAの温調計から取得してもよいし、制御ループBの温調計から取得してもよい。
次に、待機時間計測部3は、ループAの温調計に入力される温度設定値SPとループBの温調計に入力される温度設定値SPとが同時に同じ値に変更されたとき(図3ステップS101においてYES)、ループA,Bの昇温が開始されたと認識する(図3ステップS102)。
【0023】
そして、待機時間計測部3は、ループAの温調計に入力される温度設定値SPと温度センサ102−1〜102−4のうちループAの温度センサによって計測された温度計測値PVとの偏差が規定値以内になったときにループAの昇温が完了したと認識し(図3ステップS103においてYES)、昇温完了後のループAの待機時間THの計測を開始する(図3ステップS104)。
【0024】
高温時操作量取得部2は、待機時間THの計測開始に伴い、昇温完了後の温度で待機中のループAの温調計から出力される操作量MVHを取得して、操作量MVHの逐次平均値を算出する(図3ステップS105)。
待機時間計測部3は、ループBの温調計に入力される温度設定値SPと温度センサ102−1〜102−4のうちループBの温度センサによって計測された温度計測値PVとの偏差が規定値以内になったときにループBの昇温が完了したと認識し(図3ステップS106においてYES)、待機時間THの計測を停止する(図3ステップS107)。こうして、ループAの昇温完了からループBの昇温完了までのループAの待機時間THが確定する。
【0025】
次に、ヒータ容量記憶部4には、ヒータ容量HPが予め記憶されている。ヒータ容量記憶部4は、少なくともループAのヒータ容量HPを記憶していればよい。
省エネルギー余裕算出部5は、待機時間THとループAのヒータ容量HPと操作量MVHの逐次平均値と操作量MVLとから、省エネルギー余裕ESを次式により算出する(図3ステップS108)。
ES=αTHHP(MVH−MVL)/100 ・・・(1)
【0026】
式(1)におけるαは定数であり、α≒0.5であるが、本実施の形態ではα=0.5としている。出力部6は、省エネルギー余裕ESの算出結果を外部に出力する(図3ステップS109)。以上で、省エネルギー余裕算出装置の動作が終了する。
【0027】
次に、本実施の形態の省エネルギー余裕算出装置による省エネルギー余裕ESの算出例を示す。ここでは、昇温前の操作量MVLを5[%]、昇温完了後の温度で待機中のループAの操作量MVHを30[%]、待機時間THを1200[sec.]、ヒータ容量HPを4.0[kW]とする。これらの値から、省エネルギー余裕ESは次式のように算出される。
ES=αTHHP(MVH−MVL)/100
=0.5×1200×4.0×(30−5)/100=600[kWsec.]
・・・(2)
【0028】
以上のように、本実施の形態では、マルチループ温度制御系において最遅同調制御を適用することを想定した省エネルギー余裕分を、最遅同調制御を適用しない場合の制御実績に基づき概算で見積もることができる。したがって、本実施の形態では、最遅同調制御を導入するか否かを判断するための情報を得ることができる。
【0029】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図4は本発明の第2の実施の形態に係る省エネルギー総余裕算出装置の構成を示すブロック図である。省エネルギー総余裕算出装置は、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4と、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4が算出した省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する省エネルギー総余裕算出部11と、省エネルギー総余裕算出結果を出力する総余裕出力部12とを備えている。
【0030】
第1の実施の形態では、図6に示したような温度制御系の全ての制御ループのうち制御ループAについてのみ省エネルギー余裕を算出したが、本実施の形態では、全ての制御ループについて省エネルギー余裕を算出する。省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4は、制御ループ毎に設けられる。省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4は、第1の実施の形態の省エネルギー余裕算出装置と同様の構成を有するものであるが、第1の実施の形態と異なる点については以下の説明で詳述する。
【0031】
図5は省エネルギー総余裕算出装置の動作を示すフローチャートである。まず、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4は、それぞれ対応する制御ループの省エネルギー余裕ESを算出して、算出結果を出力する(図5ステップS200)。
この省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の処理の流れは図3と同様であるが、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各低温時操作量取得部1は、それぞれ対応する制御ループのコントローラから昇温前の操作量MVLを取得する(図3ステップS100)。
【0032】
省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各待機時間計測部3は、全ての制御ループの温度設定値SPが同時に同じ値に変更されたときに(図3ステップS101においてYES)、昇温が開始されたと認識する(図3ステップS102)。そして、各待機時間計測部3は、それぞれ対応する制御ループの温度設定値SPと温度計測値PVとの偏差が規定値以内になったときに当該制御ループの昇温が完了したと認識し(図3ステップS103においてYES)、対応する制御ループの待機時間THの計測を開始する(図3ステップS104)。
【0033】
省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各高温時操作量取得部2は、それぞれ対応する制御ループの待機時間THの計測開始に伴い、対応する制御ループの温調計から出力される操作量MVHを取得して、操作量MVHの逐次平均値を算出する(図3ステップS105)。
【0034】
各待機時間計測部3は、全ての制御ループの昇温が完了したと認識したときに(図3ステップS106においてYES)、対応する制御ループの待機時間THの計測を停止する(図3ステップS107)。第1の実施の形態では、ループBの昇温が完了するまで待機時間THを計測しているが、本実施の形態では、全ての制御ループの昇温が完了するまで待機時間THを制御ループ毎に計測することになる。
省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各ヒータ容量記憶部4には、それぞれ対応する制御ループのヒータ容量HPが予め記憶されている。
【0035】
省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各省エネルギー余裕算出部5は、対応する制御ループの待機時間THと対応する制御ループのヒータ容量HPと対応する制御ループの操作量MVHの逐次平均値と操作量MVLとから、省エネルギー余裕ESを式(1)により算出する(図3ステップS108)。省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の各出力部6は、それぞれ対応する制御ループの省エネルギー余裕ESの算出結果を省エネルギー総余裕算出部11に出力する(図3ステップS109)。以上で、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4の動作が終了する(図5ステップS200)。なお、ループBの場合、待機時間THが0.0[sec.]になるので、ES=0.0が算出される。
【0036】
次に、省エネルギー総余裕算出部11は、省エネルギー余裕算出装置10−1〜10−4が算出した省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する(図5ステップS201)。
総余裕出力部12は、省エネルギー総余裕の算出結果を外部に出力する(図5ステップS202)。以上で、省エネルギー総余裕算出装置の動作が終了する。
【0037】
なお、第1、第2の実施の形態で説明した省エネルギー余裕算出装置と省エネルギー総余裕算出装置とは、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の省エネルギー余裕分を算出する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…低温時操作量取得部、2…高温時操作量取得部、3…待機時間計測部、4…ヒータ容量記憶部、5…省エネルギー余裕算出部、6…出力部、10−1〜10−4…省エネルギー余裕算出装置、11…省エネルギー総余裕算出部、12…総余裕出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い第1の制御ループに他の第2の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の前記第2の制御ループの省エネルギー余裕分を算出する省エネルギー余裕算出装置であって、
昇温前の操作量MVLを各コントローラのいずれかから取得する低温時操作量取得手段と、
各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に前記第2の制御ループの昇温が完了したときに、昇温完了後の温度で待機中の第2の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得手段と、
前記第2の制御ループの昇温完了から前記第1の制御ループの昇温完了までの前記第2の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測手段と、
前記第2の制御ループのヒータ容量HPを予め記憶するヒータ容量記憶手段と、
前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから前記第2の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出手段とを備えることを特徴とする省エネルギー余裕算出装置。
【請求項2】
請求項1記載の省エネルギー余裕算出装置において、
前記省エネルギー余裕算出手段は、前記省エネルギー余裕ESを、前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLと定数α(α≒0.5)とから、αTHHP(MVH−MVL)/100により算出することを特徴とする省エネルギー余裕算出装置。
【請求項3】
マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の全制御ループの省エネルギー余裕分の合計を算出する省エネルギー総余裕算出装置であって、
制御ループ毎に設けられ、各制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する複数の省エネルギー余裕算出装置と、
各省エネルギー余裕算出装置が算出した省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する省エネルギー総余裕算出手段とを備え、
各省エネルギー余裕算出装置は、
昇温前の操作量MVLを対応する制御ループのコントローラから取得する低温時操作量取得手段と、
各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に対応する制御ループの昇温が完了したときに、対応する制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得手段と、
対応する制御ループの昇温完了から全ての制御ループの昇温完了までの待機時間THを計測する待機時間計測手段と、
対応する制御ループのヒータ容量HPを予め記憶するヒータ容量記憶手段と、
前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから対応する制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出手段とを有することを特徴とする省エネルギー総余裕算出装置。
【請求項4】
請求項3記載の省エネルギー総余裕算出装置において、
前記省エネルギー余裕算出手段は、前記省エネルギー余裕ESを、前記待機時間THと前記ヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLと定数α(α≒0.5)とから、αTHHP(MVH−MVL)/100により算出することを特徴とする省エネルギー総余裕算出装置。
【請求項5】
マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い第1の制御ループに他の第2の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の前記第2の制御ループの省エネルギー余裕分を算出する省エネルギー余裕算出方法であって、
昇温前の操作量MVLを各コントローラのいずれかから取得する低温時操作量取得ステップと、
各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に前記第2の制御ループの昇温が完了したときに、昇温完了後の温度で待機中の第2の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得ステップと、
前記第2の制御ループの昇温完了から前記第1の制御ループの昇温完了までの前記第2の制御ループの待機時間THを計測する待機時間計測ステップと、
前記待機時間THと前記第2の制御ループのヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから前記第2の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップとを備えることを特徴とする省エネルギー余裕算出方法。
【請求項6】
マルチループ温度制御系において、温度変化が最も遅い制御ループに他の制御ループを自動的に同調させる最遅同調制御を適用した場合の全制御ループの省エネルギー余裕分の合計を算出する省エネルギー総余裕算出方法であって、
各制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップと、
この省エネルギー余裕算出ステップで算出した各制御ループの省エネルギー余裕ESの合計である省エネルギー総余裕を算出する省エネルギー総余裕算出ステップとを備え、
前記省エネルギー余裕算出ステップは、
昇温前の操作量MVLを算出対象の制御ループのコントローラから取得する低温時操作量取得ステップと、
各制御ループの温度設定値SPが同時に変更され昇温が開始された後に算出対象の制御ループの昇温が完了したときに、算出対象の制御ループのコントローラから出力される操作量MVHを取得する高温時操作量取得ステップと、
算出対象の制御ループの昇温完了から全ての制御ループの昇温完了までの待機時間THを計測する待機時間計測ステップと、
前記待機時間THと算出対象の制御ループのヒータ容量HPと前記操作量MVHと前記操作量MVLとから算出対象の制御ループの省エネルギー余裕ESを算出する省エネルギー余裕算出ステップとを、制御ループ毎に実行することを特徴とする省エネルギー総余裕算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−68793(P2012−68793A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211838(P2010−211838)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】