説明

省電力ギヤ油組成物

【課題】 省電力性、低温流動性に優れ、かつ、極圧性も良好なギヤ油組成物を提供する。
【解決手段】 環分析による%CNが25以下で、かつ%CAが1.5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤、及び硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、前記硫黄を含有する極圧剤の配合量が該組成物の全量に対して0.1〜10質量%であり、かつ該組成物の40℃における動粘度が30〜2000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力型ギヤ油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での温暖化が進行し、温室効果ガスの一つである二酸化炭素排出量削減が急務となっている。わが国でも、2006年にエネルギーの使用の合理化に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律がそれぞれ改正施行され、工場、輸送事業者等はこれまで以上に電力消費量の削減が求められるようになってきた。
【0003】
電力消費量削減の一つの方法として、産業機械や輸送機械で使用される潤滑油側からの省電力化が図られている。そのような状況下、産業機械の軸受や歯車に用いられている工業用ギヤ油においても、省電力化が検討されており、例えば、摩擦調整剤である硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートなどの配合技術による対応が試みられている(例えば、特許文献1、2参照)。
ところで、各種機械においては、通常運転時の他にも、起動時の電力消費量削減も求められており、これに対しては低温流動性の向上で対応している。ギヤ油においても同様に低温流動性の向上が必要とされている。
さらに、省電力化や低温流動性向上の際には、当然、ギヤ油としての基本性能である極圧性を十分に兼ね備えている必要もある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−220475号公報
【特許文献2】特開平7−197068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、省電力性、低温流動性に優れ、かつ、極圧性も良好なギヤ油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の%CN、及び%CAを有する炭化水素系の潤滑油基油に特定のオレフィン系粘度指数向上剤を配合し、さらに、硫黄を含有する極圧剤を添加、混合することにより、特定の組成物とすることで、省電力性、低温流動性に優れ、かつ、良好な極圧性も示すギヤ油組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、環分析による%CNが25以下で、かつ%CAが1.5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤及び硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、前記硫黄を含有する極圧剤の配合量が該組成物の全量に対して0.1〜10質量%であり、かつ該組成物の40℃における動粘度が30〜2000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記ギヤ油組成物において、前記オレフィン系粘度指数向上剤がエチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体であるギヤ油組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、上記ギヤ油組成物において、前記硫黄を含有する極圧剤が硫化オレフィン及び硫黄−リン系極圧剤から選ばれる少なくとも1種以上であるギヤ油組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記ギヤ油組成物において、さらにモリブデン化合物がモリブデン量換算で該組成物の全量に対して0.001〜1.0質量%配合されているギヤ油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のギヤ油組成物は、特定の性状の炭化水素系潤滑油基油を用い、さらに特定のオレフィン系粘度指数向上剤及び特定量の硫黄を含有する極圧剤と組み合わせているため、省電力性、低温流動性に優れ、かつ、極圧性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(基油)
本発明のギヤ油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油は、ASTM D3238環分析方法による%CNが25以下であり、好ましくは22以下である。%CNが25を超えると、電力消費量が多くなる傾向にある。なお、%CNはナフテンの含有量と相関するが、ナフテンが多いと電力消費量が多くなる傾向にあるため、より少ない方が好ましく、上記数値以下であれば下限値に限定はなく、ナフテンを実質的に含有しなくてもよい。
【0011】
また、本発明のギヤ油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油は、ASTM D3238環分析方法による%CAが1.5以下であり、好ましくは1.2以下であり、より好ましくは1以下である。%CAが1.5を超えると、電力消費量が多くなる傾向にある。なお、%CAは芳香族系炭化水素の含有量と相関するが、芳香族系炭化水素が多いと電力消費量が多くなる傾向にあるため、より少ない方が好ましく、上記数値以下であれば下限値に限定はなく、芳香族系炭化水素を実質的に含有しなくてもよい。
【0012】
本発明で用いる炭化水素系潤滑油基油は、本発明の構成を満たす限り、どのような方法で製造されたものでもよく、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製など適宜組合せた製造方法が挙げられるが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理する。そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得る。この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理、安定化処理を行う。
【0013】
上記の炭化水素系潤滑油基油は、%CN及び%CAが上記範囲である限り、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明で用いる炭化水素系潤滑油基油には、ポリαオレフィン基油は含まない。ここで、ポリαオレフィン基油とは、αオレフィンの重合体からなる基油である。
【0014】
また、本発明のギヤ油組成物には、本発明の目的を害さない範囲内で、前記基油以外の他の基油を含んでもよいが、前記基油の含有割合は、全ての基油の合計量に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0015】
本発明のギヤ油組成物においては、全基油の配合量は、オレフィン系粘度指数向上剤、硫黄を含有する極圧剤や、必要に応じて添加されるモリブデン化合物やその他の添加剤の配合量と全基油の配合量の合計が100質量%になるように調整されればよいが、組成物の全量に対して30〜98.9質量%が好ましく、42〜96.9質量%がより好ましく、55〜94.8質量%がさらに好ましく、67〜92.5質量%が特に好ましい。
本発明で用いる炭化水素系潤滑油基油の40℃における動粘度は20〜60mm/sであることが好ましく、30〜50mm/sであることがより好ましい。この動粘度にすることで一層の省電力効果が得られる。
【0016】
(オレフィン系粘度指数向上剤)
本発明の作動油組成物に用いるオレフィン系粘度指数向上剤は、エチレンとエチレン以外のモノマーからなる共重合体である。
エチレンと共重合体を形成するエチレン以外のモノマーとしては、例えば、オレフィン系炭化水素、ジエン系炭化水素、ビニル芳香族炭化水素等が挙げられる。これらのエチレン以外のモノマーの炭素数は、好ましくは3〜30であり、より好ましくは3〜25であり、さらに好ましくは3〜15であり、特に好ましくは3〜8であり、最も好ましくは3〜5である。エチレン以外のモノマーの炭素数が30以下とすることで、粘度指数向上剤の分子量を比較的低く抑えることができ、耐せん断安定性を向上させることができるため好ましい。
【0017】
エチレン以外のモノマーとして用いられるオレフィン系炭化水素としては、直鎖であっても環状であっても良く、分岐があっても良い。オレフィン系炭化水素の具体例としては、プロピレン、n−ブテン、i−ブチレン、シクロブテン、n−ペンテン、i−ペンテン、シクロペンテン、n−へキセン、i−へキセン、n−へプテン、i−へプテン等が挙げられる。
エチレン以外のモノマーとして用いられるジエン系炭化水素は、鎖状であっても、環状であってもよく、分岐鎖があってもよい。ジエン系炭化水素の具体例としては、ブタジエン、シクロブタジエン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン等が挙げられる。
【0018】
エチレン以外のモノマーとして用いられるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
これらエチレン以外のモノマーの内、好ましいものはオレフィン系炭化水素であり、特に好ましいものは炭素数3〜5のオレフィン系炭化水素である。
オレフィン系粘度指数向上剤はエチレンとエチレン以外のモノマーを重合して合成するが、エチレン以外のモノマーは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0019】
エチレンとエチレン以外のモノマーのモル比は特に制限されないが、好ましくは80:20〜20:80であり、より好ましくは70:30〜30:70であり、さらに好ましくは65:35〜35:65である。
オレフィン系粘度指数向上剤は、規則的交互重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト重合体のいずれであってもよい。
【0020】
オレフィン系粘度指数向上剤の好ましい重量平均分子量は1,000〜150,000であり、より好ましくは1,200〜100,000であり、さらに好ましくは1,500〜55,000であり、特に好ましくは3,000〜30,000であり、最も好ましくは5,000〜25,000である。重量平均分子量を1,000以上とすることで、所定のトラクション特性が得やすくなる傾向にある。重量平均分子量が150,000以下とすることで、せん断下における粘度低下を抑制しやすい傾向にある。なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0021】
オレフィン系粘度指数向上剤は、本発明の目的が損なわれないかぎり、分散型、非分散型のいずれであってもよい(モノマー由来の極性基を有するものを分散型、極性基を有さないものを非分散型という)。すなわち、エチレン以外のモノマー分子として窒素原子含有化合物やアルキルエステル類が用いられている分散型であってもよい。このような窒素原子含有化合物の具体例としては、アルキル-ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール等が挙げられる。また、アルキルエステル類の具体例として、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル等が挙げられる。これらは1種でも、2種以上でも用いることができる。
【0022】
ただし、オレフィン系粘度指数向上剤中の分散基を有するモノマーとそれ以外のモノマーのモル比は、分散基のモル比が25を超えると、基油とオレフィン系粘度指数向上剤の混合物のトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向がある。そのため、分散基を有するモノマーとそれ以外のモノマーのモル比は、好ましくは0:100〜25:75であり、より好ましくは0:100〜10:90である。
【0023】
オレフィン系粘度指数向上剤の配合量は、ギヤ油組成物の全量に対して好ましくは1〜60質量%であり、より好ましくは3〜50質量%であり、さらに好ましくは5〜40質量%であり、特に好ましくは7〜30質量%である。配合量の下限値を1質量%以上とすることで、省電力効果を得やすい傾向にある。配合量が60質量%を超えると経済的ではない。
上記のオレフィン系粘度指数向上剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
(硫黄を含有する極圧剤)
本発明のギヤ油組成物は、極圧剤として、硫黄を含有する極圧剤を含有する。
この硫黄を含有する極圧剤としては、例えば、硫黄系極圧剤や硫黄−リン系極圧剤が挙げられ、耐摩耗性の観点から、硫黄系極圧剤のうちの硫化オレフィンや硫黄−リン系極圧剤を配合することが好ましい。
【0025】
(i)硫黄系極圧剤
硫黄系極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、硫化エステル等が挙げられる。
上記炭化水素硫化物としては、一般式(1)又は一般式(2)で表される炭化水素硫化物が挙げられる。
【0026】
【化1】

【0027】
一般式(1)及び一般式(2)中、Rは、1価の炭化水素基(例えば、炭素数2〜20個の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基又はアルケニル基)、又は炭素数6〜26の芳香族炭化水素基)を表し、Rは、2価の炭化水素基(例えば、炭素数2〜20の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜26の芳香族炭化水素基)を表す。
【0028】
また、一般式(1)及び一般式(2)中、bは1以上の整数で、繰り返し単位中において各々のbは同じでも異なっていてもよく、cは0又は1以上の整数を表す。
で表される1価の炭化水素基の具体例としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、トリル基、へキシルフェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
で表される2価の炭化水素基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などが挙げられる。
【0029】
これら炭化水素硫化物の具体的な化合物例としては、(1)ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジベンジルポリサルファイドなどのポリサルファイド化合物、(2)ポリイソブチレン、テルペン類などのオレフィン類を、硫黄などの硫化物で硫化した硫化オレフィン類、(3)イソブチレンと硫黄との反応生成物で、一般式(3)、一般式(4)の化学式を有するものと推測される化合物などが挙げられる。
【0030】
【化2】

一般式(3)中、b及びcは、一般式(1)におけるb及びcと同じである。
【0031】
【化3】

【0032】
一般式(4)中、b及びcは、一般式(2)におけるb及びcと同じである。
上記硫化油脂としては、油脂と硫黄の反応生成物が挙げられる。
ここで、油脂としては、ラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂が挙げられる。
硫化エステルは、油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られ、化学構造そのものは明確でない。油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油などの動植物油脂などが挙げられる。
【0033】
(ii)硫黄−リン系極圧剤
硫黄−リン系極圧剤としては、上記の硫黄系極圧剤とリン系極圧剤とを組みあわせて配合したものや、硫黄−リン系化合物が挙げられる。
硫黄系極圧剤と組み合わせるリン系極圧剤としては、ホスフェート、ホスファイト、及びこれらの誘導体が挙げられる。ホスフェート、ホスファイトは、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基などの炭素数4〜30のアルキル基、フェニル基などの炭素数6〜30のアリール基、メチルフェニル、オクチルフェニル基などの炭素数7〜30のアルキル置換アリール基などが挙げられる。上記リン系極圧剤の具体的化合物の例としては、トリブチルホスフェート、モノオレイルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。これらの誘導体としては、上記モノエステルすなわちアシッドホスフェートやアシッドホスファイトのアミン塩があり、例えばステアリルアミン塩、オレイルアミン塩、ココナッツアミン塩などが挙げられる。
【0034】
硫黄−リン系化合物としては、チオホスファイト、チオホスフェート及びこれらの誘導体が挙げられる。チオホスファイトは、モノ、ジ、トリチオホスファイトのいずれでもよい。チオホスフェートは、モノ、ジ、トリ、テトラチオホスフェートのいずれでもよい。またチオホスファイト、チオホスフェートは、モノ、ジ、トリエステルのいずれでもよく、そのアルコール残基としては、ブチル、オクチル、ラウリル、ステアリル、オレイル基などの炭素数4〜30のアルキル基、フェニル基などの炭素数6〜30のアリール基、メチルフェニル、オクチルフェニル基などの炭素数7〜30のアルキル置換アリール基などが挙げられる。
【0035】
硫黄−リン系化合物の具体例としては、トリブチルチオホスフェート、モノオレイルチオホスフェート、ジオクチルチオホスフェート、トリクレジルチオホスフェートなどが挙げられる。これらのアミン塩としては、ステアリルアミン塩、オレイルアミン塩、ココナッツアミン塩などが挙げられる。チオホスファイト及びチオホスフェートの誘導体としては、上記アシッドチオホスファイト及びアシッドチオホスフェートとのアミン塩、金属塩、脂肪酸との反応物等が挙げられ、下記一般式(5)で表されるジチオリン酸エステル系化合物等も用いることができる。
【0036】
【化4】

【0037】
上記一般式(5)において、R、Rは、炭素数3〜18の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、環状炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよい。具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、ヘキシルフェニル基などがある。
【0038】
は炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、アミレン基、へキシレン基があり、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。
は水素原子または炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基、環状炭化水素基を表す。具体的には、水素原子、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、フェニル基、ヘキシルフェニル基などがある。好ましい例として、Rがプロピレン基でRが水素原子のものが挙げられる。
【0039】
上記の硫黄を含有する極圧剤の含有量は、本発明のギヤ油組成物の全量に対し、0.1〜10質量%であることが必要である。この含有量は、より好ましくは0.1〜8質量%であり、さらに好ましくは0.2〜5質量%であり、特に好ましくは0.5〜3質量%である。含有量が0.1質量%未満であると、ギヤ油組成物として求められる極圧性能を得にくくなる傾向にあり、10質量%を超えても添加量に見合った効果が得られない。
上記の硫黄を含有する極圧剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
(モリブデン化合物)
本発明のギヤ油組成物は、さらにモリブデン化合物をギヤ組成物の全量に対しモリブデン量換算で0.001〜1.0質量%含有させることで、さらに省電力効果を高めることができる。モリブデン化合物のモリブデン量換算の含有量は、好ましくは0.005〜0.3質量%であり、より好ましくは0.01〜0.2質量%である。
上記モリブデン化合物としては、モリブデン酸アミン、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメートなどが挙げられる。
【0041】
モリブデン酸アミンとしては、三酸化モリブデン、モリブデン酸、又はそのアルカリ塩を還元剤にて還元後、アミン類と反応させて得ることができる。ここで用いられるアミン類としては第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンのいずれであってもよく、その一例として、第一級アミンとしては炭素数4〜24のアルキル基を有するモノアルキルアミン等、第二級アミンとしては炭素数1〜24のアルキル基を有するジアルキルアミン等、第三級アミンとしては炭素数1〜24のアルキル基を有するトリアルキルアミン等を挙げることができる。このうち、生成物の油溶性の点で特に好ましいアミンは、第二級アミンであり、炭素数6〜24のアルキル基を有するジアルキルアミンが好ましい。ジアルキルアミンにおけるアルキル基の炭素数は、8〜20がより好ましく、10〜16がさらに好ましい。
【0042】
モリブデンジチオカーバメートとしては一般式(6)の構造を有する化合物が挙げられる。
【化5】

(式中、R〜R10は炭素数6〜18の炭化水素基であり、それぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。X及びYは、硫黄原子又は酸素原子を示す。)
【0043】
モリブデンジチオホスフェートとしては、一般式(7)の構造を有する化合物が挙げられる。
【化6】

(式中、R〜R10は炭素数6〜18の炭化水素基であり、それぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。X及びYは、硫黄原子又は酸素原子を示す。)
上記モリブデン化合物の中で、最も好ましいものはモリブデン酸アミンである。
【0044】
(その他添加剤)
本発明のギヤ油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種公知の添加剤を配合することができる。例えば酸化防止剤、油性剤、清浄分散剤、さび止め剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、泡消剤、抗乳化剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、ホスホン酸エステル等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0045】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイルアルコール等の高級アルコール、オレイルアミン等のアミン、ブチルステアレート等のエステルが挙げられる。
清浄分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系清浄分散剤、アルカリ土類金属系清浄分散剤が挙げられる。
さび止め剤としては、カルボン酸、金属セッケン、カルボン酸アミン塩、スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分エステル等が挙げられる。
【0046】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾ−ルおよびその誘導体、アルキルコハク酸誘導体が挙げられる。
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン油やエステル系消泡剤等が挙げられる。
抗乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の抗乳化剤が挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(ギヤ油組成物の性状)
本発明のギヤ油組成物の40℃における動粘度は、JIS K2283動粘度試験方法(40℃)において、30〜2000mm/sであり、好ましくは60〜1000mm/sである。40℃動粘度が30mm/s未満であると、適切な油膜厚さが保たれなくなり、極圧性が低下する傾向がある。40℃動粘度が1000mm/sを超えると、電力消費量が多くなる傾向がある。
【0048】
また、本発明のギヤ油組成物の粘度指数は、JIS K2283動粘度試験方法において、好ましくは100以上であり、より好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは130以上である。粘度指数が低すぎると低温粘度が高くなり、低温始動時の電力消費量が多くなる傾向がある。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
各実施例、比較例において組成物の調製に用いた基油、添加剤成分は次のとおりである。
【0050】
(A)基油
各実施例、比較例において組成物の調製に用いた基油の製造方法と性状を下記に記載する。
なお、40℃動粘度はJIS K2283動粘度試験方法で測定した。
【0051】
(1)水素化分解油
原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理し、そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行った。その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得た。残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分の水素化脱ロウ処理、安定化処理を行った。
以下に、基油(A−1)及び(A−2)の性状を示す。
【0052】
(A−1)水素化分解油
40℃動粘度:35.6mm/s、40℃における密度:0.824、
%CN:19.4、%CA:0.6
(A−2)水素化分解油
40℃動粘度:43.5mm/s、40℃における密度:0.828、
%CN:20.5、%CA:0.4
【0053】
(2)水素化精製油
原油を常圧蒸留し、分留後の残油を減圧下で分留、得られた留出油をフルフラール溶剤抽出法によってパラフィンリッチラフィネートを精製した。つづいてそのラフィネートをベンゾケトンによる溶剤脱ロウ処理し、得られた脱ロウ油の高圧水素化処理を行った。
(A−3)水素化精製油
40℃動粘度:81mm/s、40℃における密度:0.859、
%CN:29.9、%CA:2.0
【0054】
(3)精製鉱油
原油を常圧蒸留し、分留後の残油を減圧下で分留、得られた留出油をフルフラール溶剤抽出法によってパラフィンリッチラフィネートを精製した。つづいてそのラフィネートをベンゾケトンによる溶剤脱ロウ処理をした。以下に、得られた基油(A−4)及び(A−5)の性状を示す。
(A−4)精製鉱油
40℃動粘度:99mm/s、40℃における密度:0.869
%CN:24.4、%CA:7.7
(A−5)精製鉱油
40℃動粘度:510mm/s、40℃における密度:0.885
%CN:22.0、%CA:8.4
【0055】
(B)粘度指数向上剤
(B−1) 重量平均分子量が16,000、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレン/プロピレン共重合体
(B−2) 重量平均分子量が5,000、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレン/プロピレン共重合体
(B−3) 重量平均分子量が150,000であるポリイソブチレン
(B−4) 重量平均分子量が22,000であるポリメタクリレート
重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにて測定、ポリスチレン換算にて算出した。ゲル浸透クロマトグラフィーはカラムにShodex GPC LF−804を3本、移動層にTHF、検出器に示差屈折検出器を用いた。
【0056】
(C)極圧剤
(C−1) 硫化オレフィン(硫黄含有量19質量%)
(C−2) アシッドホスフェートのアミン塩
(C―3) β−ジチオホスホリル化プロピオン酸(一般式(5)の、RとRがイソブチル基、Rがプロピレン基、Rが水素原子であるもの)
(C−4) 硫化エステル
(D)モリブデン化合物
(D−1) Mo酸アミン(Mo量:4.4質量%、モリブデン酸のジトリデシルアミンとの反応物)
【0057】
(評価方法)
ギヤ油組成物の粘度指数、極圧性、省電力効果について、下記の評価方法により評価した。
<粘度指数>
粘度指数はJIS K2283動粘度試験方法により測定した。
【0058】
<極圧性>
極圧性を耐荷重試験で評価した。耐荷重試験はFZGギヤ試験機を用い、ドイツ工業規格(DIN)のDIN51354−2に準拠した。具体的には、規格に沿った荷重をギヤに負荷したのち、ギヤ回転速度1,440rpmで21,700回転に達するまで試験を行う。ここまでを1ステージとする。以下、荷重ステージを段階的に上昇させ、各ステージ終了時におけるピニオンの16歯面における摩耗傷(スカッフィング、スコーリング)の合計面積を測定し、20mm未満を合格とした。各表に記載した「FZGギヤ試験不合格ステージ」は不合格となった最終ステージである(例えば、FZGギヤ試験不合格ステージが11のものは、10ステージまでは合格で、11ステージ目で不合格となったことを示す。)。したがって、FZGギヤ試験合格ステージの数値が大きい程、極圧性は高い。なお、試験は12ステージまで実施し、12ステージ目を合格したものは12+として示した。
【0059】
<省電力効果>
ASTM D 5182に規定されるFZG試験において、50℃、1450rpm、3ステージにおける消費電力をJIS K 2219に規定する工業用2種のギヤ油(コスモギヤSE220)の消費電力と比較し、下記の基準で評価した。
◎:省電力効果2.5%以上
○:省電力効果1.5%以上〜2.5%未満
△:省電力効果0.5%以上〜1.5%未満
×:省電力効果0.5%未満
【0060】
(実施例1〜6)
基油に粘度指数向上剤、硫黄を含有する極圧剤、その他の添加剤を表1の上段に示す割合(質量%)で配合し、ギヤ油組成物を調製した。それらのギヤ油組成物の各種性能を評価し、その結果を表1の下段に示す。
(比較例1〜5)
基油に粘度指数向上剤、極圧剤、その他の添加剤を表2の上段に示す割合(質量%)で配合し、ギヤ油組成物を調製した。それらのギヤ油組成物の各種性能を評価し、その結果を表2の下段に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のギヤ油組成物は、種々の用途において使用することが可能である。例えば、産業機械の軸受や歯車、金属加工、特に好ましくは圧延機、搬送用ベルトコンベア、発電所のタービン、建設機械、工作機械、船舶等に用いることができる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
環分析による%CNが25以下で、かつ%CAが1.5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤及び硫黄を含有する極圧剤が配合された組成物であって、前記硫黄を含有する極圧剤の配合量が該組成物の全量に対して0.1〜10質量%であり、かつ該組成物の40℃における動粘度が30〜2000mm/sであることを特徴とするギヤ油組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系粘度指数向上剤がエチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体である請求項1に記載のギヤ油組成物。
【請求項3】
前記硫黄を含有する極圧剤が硫化オレフィン及び硫黄−リン系極圧剤から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1又は請求項2に記載のギヤ油組成物。
【請求項4】
さらにモリブデン化合物がモリブデン量換算で該組成物の全量に対して0.001〜1.0質量%配合されている請求項1〜3のいずれかに記載のギヤ油組成物。


【公開番号】特開2010−95690(P2010−95690A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270353(P2008−270353)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】