説明

真偽判別可能な情報担持体

【課題】 本発明は、可視光下で観察角度を変化させることで二つの画像が視認され、更には赤外線光を照射すると、可視光下で視認されていた画像とは異なる画像が視認できる真偽判別用の情報担持体を提供する。
【解決手段】 基材上の少なくとも一部に印刷領域を有し、その印刷領域は、赤外線吸収特性を有さない基材色とは異なる色の着色インキにより、網点面積率を異ならせることで第一の画像が形成された第1の印刷層と、第1の印刷層上に、赤外線吸収特性を有する透明性のインキにより、盛り上がりを有するような画線によって、画線面積率及び配列方向を異ならせた四つの画線群により、第二の画像及び第三の画像が形成された第2の印刷層から成る真偽判別可能な情報担持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、特に、可視光下で観察角度を変化させることで視認できる画像が変化する効果を有し、かつ、特定の波長領域の光を照射したり、可視光領域以外の波長の光で観察すると、可視光下で視認されていた画像とは異なる画像が視認できる偽造防止用又は真偽判別用の情報担持体に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティを要する貴重印刷物等には、新しい意匠性を持ち、かつ、偽造防止効果の高い偽造防止要素及び印刷技術が望まれている。このため、観察角度によって画像が変化するホログラム等の光学的なセキュリティ要素を貼付したもの、すなわち見た目に変化に富んだ偽造防止効果を有する印刷物や、特定の条件を満たした場合にのみ、埋め込まれた潜像画像を認証することができる秘匿性に優れた印刷物がある。
【0003】
前述のような光学的な変化を示す偽造防止印刷物は、一般的に高価、かつ、特殊な装置及び材料を必要とするため、付加的な製造工程が必要になり、コスト的にも負荷が高くなるといった問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、平面配向性パール顔料を用いた盛り上がりのある画線を形成し、背景情報部とメッセージ情報部で画線角度を異なる構成とすることで、斜めから観察した場合にのみ、メッセージ情報部がポジからネガへ、或いはネガからポジへ、変化して出現する効果を有する真偽判別可能な印刷物に関わる発明を出願している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1及び特許文献2で開示された真偽判別可能な印刷物は、基材の表面に盛り上がりのある画線構造によって、背景画像とメッセージ画像が形成され、かつ、背景画像の画線パターンとメッセージ画像の画線パターンは、異なる角度で形成されるために、拡散反射光が支配的な角度領域においては、メッセージ画像が肉眼ではほとんど視認されず、拡散反射光から正反射光が支配的な角度領域に変化するに従って、盛り上がりを有する背景画像とメッセージ画像が入射光に対してそれぞれ異なった光の反射を成す構造となり、メッセージ画像がネガ画像又はポジ画像として視認される効果を有する。
【0006】
また、これらの見た目の変化を重視した偽造防止印刷物とは逆に、一部の限られたユーザのみが認証可能な埋め込み画像を確認することができる、秘匿性に優れた偽造防止技術も同様に重要視されている。この技術の一例としては、可視光領域における観察では埋め込み画像を認知できず、ある特定の波長領域の光で観察した場合にのみ、埋め込み画像を視認できる技術がある。
【0007】
そこで、本出願人は、一つの第1の領域と、その第1の領域に隣接する一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域の周囲が、複数の第1の領域により囲まれ、第1の領域は、第2の領域より面積が大きく、さらに第2の領域は、赤外線吸収性色素を含むブラックインキを用いて構成された第2aの領域と、赤外線吸収性色素を含まないインキを用いて構成された黒色系である第2bの領域とを有し、各々の第2の領域における第2aの領域と第2bの領域との比率に応じて、複数の第2の領域における第2aの領域により階調画像が構成されていることを特徴とする網点印刷物を出願している(例えば、特許文献3参照)。この網点印刷物は、可視光領域における観察では埋め込み画像を視認できず、赤外線領域における観察では埋め込み画像を視認できる。したがって、目視では可視画像の中に不可視の埋め込み画像が付与されていることに気が付かないため、秘匿性を重視した偽造防止として有効な手段である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3718712号公報
【特許文献2】再公表特許W02003/013871号公報
【特許文献3】特許第3544536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の真偽判別可能な印刷物は、斜めから観察した場合に、メッセージ部が光の入射角度に応じてネガ画像からポジ画像、あるいはポジ画像からネガ画像に変化して出現するものの、メッセージ画像以外の有意味画像を視認することができず、二つの異なる画像をスイッチさせることは不可能であった。
【0010】
また、特許文献2記載の真偽判別可能な印刷物において、特許文献1の印刷物の構造を用いて、観察者にメッセージ画像と相関のない有意味画像を視認させるために、盛り上がりを有する画線を印刷する前に、あらかじめ低濃度のインキで第1の画像を形成しておく必要があった。また、前述の低濃度の第1の画像と盛り上がりを有する画線によるメッセージ画像を鮮明にスイッチさせるために、メッセージ画像を視認される観察領域において第1の画像が消失しなければならず、そのためには、第1の画像は、明度が高い(淡い)画像とする必要があり、第1の画像の視認性を低く抑える必要があった。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の真偽判別可能な印刷物は、高度な真偽判別可能な印刷物を市販のインクジェットプリンタでも手軽に作成可能な優れた発明であるが、可視画像の中に目視では視認不可能な埋め込み画像を形成するために、特殊な微細構造の網点構成を必要とし、オフセット印刷等により印刷する際、精密な刷り合わせを要することとなり、安定した品質を維持しながら大量生産をすることが困難であると共に、特殊な判別機器を用いなければ真偽判別が行えないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、可視光下において、第一の画像が視認され、観察角度を変化させることによって、第二の画像にスイッチして視認でき、更には、判別機器を用いることにより第三の画像が視認できるという、異なる三つの観察条件において、三つの画像が出現することで、カラー複写機でも再現不可能な、より高度な偽造防止効果を奏する情報担持体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、基材上の少なくとも一部に印刷領域を有し、印刷領域に三つの画像を備え、観察条件を異ならせることで三つの画像が視認可能な情報担持体であって、印刷領域は、赤外線吸収特性を有さない基材の色とは異なる着色インキにより形成された第1の印刷層と、第1の印刷層の上に、赤外線吸収特性を有し、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含有した透明性のインキによって形成された第2の印刷層から成り、第1の印刷層は、網点面積率を異ならせることにより情報部と背景部に区分けされて第一の画像が形成され、第2の印刷層は、前記透明性のインキにより盛り上がりを有する画線が複数配置された複数の画線群から成り、複数の画線群は、印刷領域内において互いに重ならないように隣接して配置された四つの画線群から成り、四つの画線群は、第1の方向に画線が第1の画線面積率で複数配列された第1の画線群と、第1の方向と同じ方向に画線が第1の画線面積率とは異なる第2の画線面積率で複数配列された第2の画線群と、第1の方向とは異なる第2の方向に画線が第1の画線面積率と同じ画線面積率で複数配列された第3の画線群と、第2の方向と同じ方向に画線が第2の画線面積率と同じ画線面積率で複数配列された第4の画線群から成り、複数の画線群により、情報部と背景部から成る第二の画像及び情報部と背景部から成る第三の画像の二つの画像が形成され、第二の画像の背景部は、第1の画線群及び第2の画線群から成り、第二の画像の情報部は、第3の画線群及び第4の画線群から成り、第三の画像の背景部は、第1の画線群及び第3の画線群から成り、第三の画像の情報部は、第2の画線群及び第4の画線群から成り、第1の画線群は、第二の画像及び第三の画像の共有の背景部と成り、第4の画線群は、第二の画像及び第三の画像の共有の情報部と成り、基材に対して拡散反射光が支配的な観察角度領域では第一の画像が視認され、基材に対して拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域では第二の画像が視認され、基材に対して赤外線を照射すると第三の画像が視認されることを特徴とする情報担持体である。
【0014】
また、本発明の情報担持体は、第1の印刷層の情報部と背景部が、網点面積率が10〜40%の差により区分けされていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の情報担持体における第1の印刷層は、網点面積率が60〜100%の範囲で形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の情報担持体における第二の画像は、第1の方向と第2の方向の配列方向の差異により形成され、第三の画像は、第1の画線面積率と第2の画線面積率の画線面積率の差異により形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の情報担持体における第1の画線面積率と第2の画線面積率の差異は、画線群を構成する画線における画線幅の太細、画線の密度のいずれか又はその両方により形成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の情報担持体における第1の方向と第2の方向の角度の差異は、5〜90°であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の情報担持体は、画線群を構成する画線のピッチ及び画線幅が、0.06〜1mmであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の情報担持体は、画線群を形成する透明性のインキによる画線の盛り上がりの高さが、3〜150μmであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の情報担持体における第二の画像の情報部は、印刷領域内において複数配置された図柄を有し、複数配置された図柄の少なくとも二つの図柄を形成する第3の画線群及び/又は第4の画線群は、第2の方向が、第1の方向との差異である5〜90°の範囲内で異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、拡散反射光が支配的な観察角度領域においては第一の画像が、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域においては第二の画像が、更には赤外線光源下においては第三の画像がそれぞれ単独に視認されることから、異なる観察条件において三つの異なる画像を視認することができる。
【0023】
本発明は、盛り上がりを有する印刷方法とカラーフリップフロップ性を有するインキで形成することから、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域において、潜像となる第二の画像がポジからネガへ、あるいはネガからポジへ鮮やかな色相変化を伴って濃淡反転する効果を有している。
【0024】
本発明は、三つの画像がスイッチするにも関わらず、第1の印刷層と第2の印刷層の二つの層を形成するだけで作製でき、かつ、第1の印刷層と第2の印刷層には精密な刷り合わせを必要とせず、第1の印刷層と第2の印刷層が重なりあった印刷領域を有するだけで、その効果を発揮することが可能であることから、生産性が極めて優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明における情報担持体の正面図及び側面図である。
【図2】本発明における第1の印刷層を示す図である。
【図3】本発明における第2の印刷層を示す図である。
【図4】本発明における第2の印刷層を構成する四つの画線群を示す図である。
【図5】各画線群の一部拡大図である。
【図6】本発明における第二の画像及び第三の画像を示す図である。
【図7】本発明の情報担持体を観察する場合の観察角度を示す図である。
【図8】赤外線観察装置を用いて本発明の情報担持体を観察する様子を示す図である。
【図9】本発明における情報担持体を観察した場合に視認できる画像を示す図である。
【図10】本発明の情報担持体を赤外線観察装置を用いて観察した場合の画像を示す図である。
【図11】実施例1における情報担持体を示す図である。
【図12】実施例1における第1の印刷層を示す図である。
【図13】実施例1における第2の印刷層を示す図である。
【図14】実施例1における第二の画像及び第三の画像を示す図である。
【図15】実施例1における情報担持体を観察した場合に視認できる画像を示す図である。
【図16】実施例1における情報担持体を赤外線観察装置で観察した場合の画像を示す図である。
【図17】実施例2における情報担持体を示す図である。
【図18】実施例2における第1の印刷層を示す図である。
【図19】実施例2における第2の印刷層を示す図である。
【図20】実施例2における第二の画像及び第三の画像を示す図である。
【図21】実施例2における情報担持体を観察した場合に視認できる画像を示す図である。
【図22】実施例2における情報担持体を赤外線観察装置で観察した場合の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0027】
図1(a)は、情報担持体(1)の正面図であり、図1(b)は、情報担持体(1)のデフォルメした側面図である。図2は、第1の印刷層(4)であり、図3は、第2の印刷層(5)である。図4は、第2の印刷層(5)を構成する四つの画線群を示している。図5は、各画像群の一部拡大図である。図6は、第二の画像(14)及び第三の画像(17)を示している。図7は、本発明の情報担持体(1)を観察する場合の観察角度を示している。図8は、赤外線観察装置(22)を用いて本発明の情報担持体(1)を観察する様子を示している。図9(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域で本発明の情報担持体(1)を観察した場合に視認できる画像であり、図9(b)及び図9(c)は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域で本発明の情報担持体(1)を観察した場合に視認できる画像である。図10は、赤外線観察装置を用いて本発明の情報担持体(1)を観察した場合に、視認できる画像を示す。図11は、本発明の実施例1における情報担持体(1’)を示す図であり、図12は、本発明の実施例1における第1の印刷層、図13は、第2の印刷層を示す。図14は、第二の画像(14’)及び第三の画像(17’)を示す。図15(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域で本発明の情報担持体(1’)を観察した場合に視認できる画像であり、図15(b)及び図15(c)は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域で本発明の情報担持体(1’)を観察した場合に視認できる画像である。図16は、赤外線観察装置を用いて本発明の情報担持体(1’)を観察した場合に、視認できる画像を示す。図17は、本発明の実施例2における情報担持体(1”)を示す図であり、図18は、本発明の実施例2における第1の印刷層、図19は、第2の印刷層を示す。図20(a)は、第二の画像(14”)を示し、図20(b)は、第三の画像(17”)を示す。図21(a)は、拡散反射光が支配的な観察角度領域で本発明の情報担持体(1”)を観察した場合に視認できる画像であり、図21(b)及び図21(c)は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域で本発明の情報担持体(1”)を観察した場合に視認できる画像である。図22は、赤外線観察装置を用いて本発明の情報担持体(1”)を観察した場合に、視認できる画像を示す。
【0028】
まず、図1から図9を用いて、本発明の情報担持体の基本的な画線構成と、第一の画像と第二の画像が観察角度のわずかな違いでスイッチして視認され、かつ、赤外線のような特定の波長の光で情報担持体を観察した場合に、第三の画像が視認される原理について説明する。
【0029】
まず、本発明の情報担持体の基本的な画線構成と層構造を説明する。図1(a)は、本発明の情報担持体(1)を示す図であり、基材(2)上に印刷領域(3)を有し、印刷領域(3)内には、第1の印刷層(4)と、盛り上がりを有する四つの画線群で形成された第2の印刷層(5)とが重なり合って形成されている。図1(b)に示すように、第1の印刷層(4)の上に、第2の印刷層(5)が形成されている。なお、図1における情報担持体(1)の印刷領域(3)は、6角形の輪郭となっているが、この印刷領域(3)の形状はこれに限定されるものではなく、どのような形状でも良い。
【0030】
図2は、第1の印刷層(4)を示す図であり、「日本」の文字を形成する情報部(7)とそれを取り囲む六角形の背景部(8)とで第一の画像(6)を形成している。本例において、第1の印刷層(4)と第一の画像(6)は同一である。第1の印刷層(4)を形成する情報部(7)と背景部(8)は、共に網点により形成されているが、網点面積率は異なっており、各情報部で濃淡差が生じることで「日本」の文字が観察者に視認される。なお、第1の印刷層(4)を形成する網点は、40〜100%の網点面積率の範囲で、好ましくは60%以上の網点面積率である。40%未満の網点面積率で形成しても、第一の画像と第二の画像が明瞭にスイッチしないためである。
【0031】
また、第1の印刷層(4)の情報部(7)と背景部(8)の網点面積率の差異は、10%以上40%以下で構成する必要がある。網点面積率の差異が10%よりも少ない場合は、情報部(7)と背景部(8)との濃淡の差がでず、拡散反射光が支配的な観察角度領域において、第一の画像を視認することが困難となってしまう。また、網点面積率の差異が40%よりも多い場合は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域において、第二の画像を視認することが困難となってしまう。本発明の効果である赤外線により第三の画像を視認させる構成とするには、この第1の印刷層は、赤外線吸収特性を有しないインキを用いて形成する必要がある。それ以外の波長の光で第三の画像を視認させる構成とする場合には、赤外線吸収特性を有していても問題ない。
【0032】
図3は、第2の印刷層(5)を示す図であり、第2の印刷層は、盛り上がりを有する画線を用いて第1の印刷層(4)上に形成する。第2の印刷層は、四つの画線群(9)で構成されており、それぞれの画線群(9)を別々に図示したのが図4である。なお、図4においては、6角形の輪郭線が記載されているが、これは印刷領域(3)を示唆するものであり、実際には輪郭線を形成しても、しなくても良い。
【0033】
図4(a)は、画線が第1の方向(S)に複数規則的に配列されて第1の画線面積率を有する第1の画線群(10)を示し、図4(b)は、画線が第1の方向(S)と同じ方向に複数配列されて第1の画線面積率と異なる第2の画線面積率を有する第2の画線群(11)を示し、図4(c)は、画線が第1の方向(S)とは異なる方向の第2の方向(S)に複数配列されて第1の画線面積率と同じ画線面積率を有する第3の画線群(12)を示し、図4(d)は、画線が第2の方向(S)と同じ方向に複数配列されて第2の画線面積率と同じ画線面積率を有する第4の画線群(13)を示している。
【0034】
さらに、各画線群の構成を詳細に説明するために、図4に示した各画線群の一部拡大図を図5に示す。図5(a)は、第1の画線群(10)の一部拡大図であり、Wの画線幅を有した画線が第1の方向(S)に複数配列されている。図5(b)は、第2の画線群(11)の一部拡大図であり、第1の画線群(10)を構成している画線の画線幅(W)よりも太い画線幅(W)の画線が第1の方向(S)に複数配列されている。図5(c)は、第3の画線群(12)の一部拡大図であり、第1の画線群(10)を構成している画線の画線幅(W)と同じ画線幅を有した画線が第2の方向(S)に複数配列されている。さらに、図5(d)は、第4の画線群(13)の一部拡大図であり、第2の画線群(11)を構成している画線の画線幅(W)と同じ画線幅の画線が第2の方向(S)に複数配列されている。
【0035】
そこで、前述した画線面積率とは、印刷領域(3)の一定面積中に占める画線群の割合のことであり、図5の(a)と(b)の同一面積を有する一点鎖線による四角形内に示したように、画線幅が異なることにより、第1の画線群(10)の第1の画線面積率(R)と第2の画線群(11)の第2の画線面積率(R)が異なっていることとなる。同様に、図5の(c)と(d)では、画線幅が異なっていることにより、第3の画線群(12)の第1の画線面積率(R)と第4の画線群(13)の第2の画線面積率(R)は異なっていることとなる。なお、各画線の画線幅及びピッチは、0.06〜1mmの範囲で形成する。0.06mm以下で形成することは製造上困難であり、1mmを越えると解像度が低くなり過ぎてしまい、第一の画像と第二の画像の鮮明さがなくなってしまうからである。
【0036】
さらには、配列方向については、第1の方向(S)と第2の方向(S)とで異なっているが、図5(a)と(c)は、画線幅が共にWの画線によって構成されていることから、画線面積率は第1の画線面積率(R)として等しく、図5(b)と(d)も、画線幅が共にWの画線によって構成されていることから、画線面積率は第2の画線面積率(R)として等しいこととなる。なお、ここでの画線面積率の差異は、画線の太細による画線幅の差異のみで形成しているが、画線の粗密、いわゆる画線密度の差異をもって形成しても良い。なお、本実施の形態では、画線幅の太細による差異により画線群が構成されていることとして、以下説明する。
【0037】
また、本実施の形態では、第1の画線群(10)及び第3の画線群(12)を構成する画線の画線幅(W)よりも、第2の画線群(11)及び第4の画線群(13)を構成する画線の画線幅(W)を太く構成しているが、逆に第1の画線群(10)及び第3の画線群(12)を構成する画線の画線幅(W)より、第2の画線群(11)及び第4の画線群(13)を構成する画線の画線幅(W)が細くてもよい。
【0038】
また、第1の方向(S)を基材(2)の底辺に対して水平方向に、第2の方向(S)を基材(2)の底辺に対して垂直方向に構成しているが、第1の方向(S)と第2の方向(S)は5〜90°異なっていればよく、水平方向と垂直方向の組合せに限定されるものではない。なお、第1の方向に対して90°以上の異なる角度とは、第1の方向の始点を逆側に考えれば、やはり5〜90°の範囲ということになり、いわゆる第1の方向に対して±5〜90°の角度となる。そこで、本発明における第1の方向と第2の方向との差異は、総称して5〜90°としている。第1の方向(S)に対する第2の方向(S)の角度を5°よりも小さくすると、第一の画像と第二の画像がスイッチしなくなってしまう。
【0039】
さらに、第2の印刷層(5)において、各画線群(9)については、第1の方向(S)と第2の方向(S)の二つの方向として説明しているが、第二の画像を構成する画線群(9)を、印刷領域(3)内に複数配置し、それぞれの画線群の角度を異ならせることで、画線の角度の違いによって反射率が異なり、豊かな階調表現を奏することも可能である。この角度を複数異ならせることによる階調表現の方法については、後述する。
【0040】
第2の印刷層(5)を構成する四つの画線群(9)のうち、画線方向の同じ画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第3の画線群(12)と第4の画線群(13)を組合せると「桜模様」となり、第1の画線群(10)と第2の画線群(11)を組み合わせると、「桜模様」と対を成す「六角形で囲まれた桜模様の白ヌキ画像」となる。この「桜模様」と「六角形で囲まれた桜模様の白ヌキ画像」の二つの画像で構成された画像を図6(a)に示す第二の画像(14)とする。また、四つの画線群(9)のうち、画線幅の同じ画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第2の画線群(11)と第4の画線群(13)を組合せると「JPN」の文字となり、第1の画線群(10)と第3の画線群(12)を組み合わせると、「JPN」と対を成す「六角形で囲まれたJPNの白ヌキ画像」となる。この「JPN」と「六角形で囲まれたJPNの白ヌキ画像」の二つの画像で構成された画像を図6(b)に示す第三の画像(17)とする。
【0041】
したがって、第二の画像(14)は、第1の方向(S)に配列されている第1の画線群(10)と第2の画線群(11)が組み合わされて背景部(16)が形成され、第2の方向(S)に配列されている第3の画線群(12)と第4の画線群(13)が組み合わされて情報部(15)が形成されていることから、いわゆる第1の方向(S)と第2の方向(S)の画線群の配列方向の差異により形成されている。また、第三の画像(17)は、第1の画線面積率(R)を有する第1の画線群(10)と第3の画線群(12)とが組み合わされて背景部(18)が形成され、第2の画線面積率(R)を有する第2の画線群(11)と第4の画線群(13)が組み合わされて情報部(19)が形成されていることから、いわゆる第1の画線面積率(R)と第2の画線面積率(R)の、面積率の差異により形成されている。
【0042】
なお、第1の画線群(10)、第2の画線群(11)、第3の画線群(12)及び第4の画線群(13)の四つの各画線群の配置については、互いに重ならないように隣接して配置されて第2の印刷層(5)を形成している。
【0043】
この情報担持体(1)に対して、赤外線光源下で観察したときに第三の画像(17)を視認させる構成とする場合には、前述のような四つの画線群で構成した第2の印刷層(5)を、赤外線吸収特性を有し、かつ、カラーフリップフロップ性を有する透明又は半透明なインキを用いて、盛り上がりのある画線で第1の印刷層(4)の上に形成することで本発明の情報担持体(1)が完成する。なお、透明又は半透明なインキを、以下、「透明性のインキ」という。
【0044】
第2の印刷層(4)における透明性のインキによる画線の盛り上がりの高さは、3〜150μmの範囲で形成する。3μm未満の盛り上がりで形成した場合、第二の画像(14)が視認できなくなってしまい、また、150μmより高い盛り上がりの画線を形成することが、製造上困難である。
【0045】
ここで第2の印刷層(5)を形成するインキに赤外線吸収特性を付与する手段としては、赤外線吸収特性を有する顔料をインキ中に混合することが最も容易である。また、照射する光の波長に関しては、赤外線の光に限定するものではなく、可視領域の光であってもよい。例えば、可視励起赤外発光顔料のような特殊な発光顔料を含むインキを用いて第2の印刷層(5)を形成した場合には、情報担持体(1)に可視光を照射した状態で赤外線を受光するカメラで観察すると第三の画像(17)を視認することができる。
【0046】
なお、本明細書中でいう カラーフリップフロップ性とは、光が入射した場合に明暗のみが変化する明暗フリップフロップ性とは異なり、光が入射した場合に色相も変化する特性のことである。これらの特性を有する顔料には鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等がある。以上が本発明の情報担持体(1)の基本的な画線構成とその層構造である。
【0047】
以下に本発明の情報担持体(1)を入射光に対して傾けて観察することで第一の画像(6)と第二の画像(14)が変化し、特定の波長で観察すると、第三の画像(17)が視認される原理について説明する。以下では、説明を明瞭にするために情報担持体(1)に赤外線を照射し、赤外線の反射吸収を可視化できる装置を用いて第三の画像(17)を視認する場合について説明する。
【0048】
最初に可視光下の観察において、入射光の変化に応じて第一の画像(6)と第二の画像(14)がスイッチして観察される原理について説明する。そこで、まず、情報担持体(1)を視認する観察角度領域について図7を用いて定義する。
【0049】
図7は、情報担持体(1)と、光源(20)と、観察者の視点(21)の位置関係を示す図である。例えば、情報担持体(1)の表面に対し、−45°から光が入射したときに、観察する視点の角度を−20°から80°まで変化させると、観察角度領域は、拡散反射光が支配的な状況から、受光角度が45°に近づくにしたがって徐々に正反射光と拡散反射光が入り混じった観察角度領域となり、受光角度45°で正反射光が支配的な観察角度領域となり、また、そこから徐々に角度が大きくなるにしたがって拡散反射光が支配的な観察角度領域となる。
【0050】
そこで、本明細書においては、受光角度−20°〜10°の拡散反射光が支配的な観察角度領域を「観察角度領域A」、受光角度45°±5°の正反射光が支配的な観察角度領域を「観察角度領域C」、受光角度10°〜40°及び50°〜80°の拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域を「観察角度領域B」と定義する。それぞれの観察角度領域を模式的に図に示すと図7の通りとなる。
【0051】
観察角度領域Aは、拡散反射光が支配的な観察角度であることから、着色材料によって形成された色彩の差が強く認識され、光沢感を認識することは難しい。このため、物体色を有しない透明性のインキで形成された第2の印刷層(5)を視認することは困難であり、本発明の印刷領域(3)は、基材と異なる色を有するインキを用いて網点面積率の差異を用いて形成された第一の画像(6)のみが視認される。
【0052】
また、観察角度領域Bにおいては、印刷領域(3)に差し込む入射光の角度と反射する光の角度が近くなり、印刷領域(3)から生じる正反射光と拡散反射光とが混在する。このような観察角度領域においては、物体の立体構造の違いによって生じる光の反射率の差異が強く認識され、着色材料によって形成された色彩の差を認識するのは困難となる。このため、盛り上がりを有する画線で形成された第2の印刷層(5)の面構造の違い、すなわち盛り上がりを有する画線の方向の違いが強く視認されることとなり、第二の画像(14)のみが視認されることとなる。加えて第2の印刷層(5)は、カラーフリップフロップ性を有するインキで形成されているため、第二の画像(14)の画線群(9)の角度に違いによって生じる光の反射率の差異は、光の明暗の差だけでなく、色相の違いとなって、より一層強調される。なお、この観察角度領域Bにおいて、第2の印刷層(5)に含まれている第三の画像(17)は、第二の画像(14)と画線幅がわずかに違うものの、同じ画線角度で形成されているために、第二の画像(14)の強い視認性によって隠蔽される。
【0053】
続いて、観察角度領域Cにおいては、正反射光が支配的となり、単一の強力な光源によって照らし出された場合、第一の画像(6)及び第二の画像(14)が完全に消失するか、又は混ざり合って出現する。ただし、一般的な環境下において、完全な単一光源で照らされる状況はほとんどないことから、多くの場合、第2の印刷層(5)を構成するそれぞれの画線の第1の方向(S)と第2の方向(S)の違いが強く視認されることとなり、第二の画像(14)が、より一層強調されて視認される。なお、この観察角度領域Cにおいて、第2の印刷層(5)に含まれている第三の画像(17)は、観察角度領域Bと同様に、第二の画像(14)の強い視認性によって隠蔽される。
【0054】
ただし、観察角度領域Cのような正反射が支配的な観察角度領域の観察において、入射角度が45°ではなく、入射角度90°で光が垂直に情報担持体(1)に入射し、かつ、観察者も受光角度90°で情報担持体(1)の直上から観察する位置関係となった場合、第三の画像(17)は可視化される場合がある。これは、直上から光が入射した場合に、画線の盛り上がりが光の反射率に影響を与えることは不可能となることから、光の反射率を決定するのは画線の幅の差異のみとなるためであり、このため第三の画像(17)が可視化されることとなる。ただし、一般的な生活環境において完全に一方方向からの光のみに照らされる状況はほとんどなく、様々な方向からの直接の入射光や、周辺の物体から反射して入射する反射光が混在している。
【0055】
また、通常の自然光下で観察する場合、入射角度90°で情報担持体に光を入射し、受光角度90°の関係を成すと、光源と情報担持体の間に観察者が入ることになり、観察者が入射光をさえぎる位置関係となる。以上のことから、真っ暗な暗箱の中で強力な点光源を用いて情報担持体を観察したり、特殊なカメラを用いて情報担持体を観察する等の特殊な環境化での観察で無い限り、現実には第三の画像(17)が可視化されることはない。
【0056】
以上の原理によって、本発明の情報担持体(1)の印刷領域(3)は、観察角度領域Aにおいて第一の画像(6)のみが視認され、観察角度領域Bにおいて第二の画像(14)が視認される。また、可視光下のいずれの観察角度領域においても第三の画像(17)が視認されることがない。
【0057】
ただし、第一の画像(6)を形成する情報部(7)と背景部(8)の網点面積率の差異が適当でない場合には、可視光下での第一の画像(6)と第二の画像(14)のスイッチ効果が充分発揮されない。具体的には、第一の画像(6)を形成する情報部(7)と背景部(8)の網点面積率の差異が大きすぎる場合、観察角度領域Aでは第一の画像(4)の「日本」の文字がはっきりと視認できるものの、観察角度領域B及び観察角度領域Cにおいても、同様に「日本」の文字が視認できてしまい、第二の画像(14)と混ざりあって視認されることとなる。逆に、第一の画像(6)を形成する情報部(7)と背景部(8)の網点面積率の差異が小さすぎる場合、観察角度領域B及び観察角度領域Cにおいて第一の画像が消失し、第二の画像(14)と混ざり合って視認されることはないものの、観察角度領域Aにおいて、第一の画像(6)の「日本」の文字が視認しずらくなってしまう。
【0058】
本発明の情報担持体(1)の効果が最も高くなる第一の画像(6)の情報部(7)と背景部(8)の網点面積率の差異を見極めるために、情報部(7)の網点面積率を100%で固定し、背景部(8)の網点面積率のみを変化させた第一の画像(6)を9水準作製し、それぞれの第一の画像上に、すべて同じ条件の第2の印刷層を形成して観察角度領域Aと、観察角度領域B及びCで画像がスイッチして観察される条件の確認を行った。確認にあたっては、図2及び図3に示す第1の印刷層(4)と第2の印刷層(5)を用いて印刷物を作製した。
【0059】
図2に示す第1の印刷層(4)は、オフセット印刷方式の黒インキ(大日本インキ化学工業株式会社製 Dai cure セプターDT プロセス黒N)を用いて形成し、第2の印刷層(5)を形成するインキには、表1に示すスクリーンインキを用いた。なお、表1に示すインキは、着色成分を含まないことから、観察角度領域Aにおいては不可視であり、観察角度領域B及び観察角度領域Cにおいては金色の干渉色を発する、カラーフリップフリップ性を備えたインキである。
【0060】
【表1】

【0061】
第2の印刷層(5)を形成する画線は、高さ10μmであり、画線は、すべてピッチ0.4mm及び画線幅0.3mmの画線で形成した。すなわち、効果確認用の印刷物においては、第2の印刷層(5)は、第三の画像(17)を含まず、第二の画像(14)のみで構成されている。以上のような画線構成とインキを使用して、効果確認用の印刷物を前述した水準別に作製した。
【0062】
各水準別の「観察角度領域Aにおける第一の画像の視認性」について、表2に示す。この表2においては、観察角度領域Aにおける各水準の第一の画像(6)が示す「日本」の文字の視認性について、極めてはっきり判別できる場合に◎、はっきり判別できる場合に○、判別できるものの、やや判別しずらい場合△、判別できない場合×として表に記載したものである。また、「観察角度領域B及びCにおけるスイッチ効果」については、観察角度領域B及びCにおいて出現する第二の画像(14)である「桜模様」が、第一の画像(6)と重なり合うことなく単独で極めてはっきり出現する場合に◎、第一の画像(6)と重なり合うことなく単独で出現する場合に○、第一の画像(6)とやや重なり合って出現する場合に△、第一の画像(6)と完全に重なり合って出現する場合に×として表に記載したものである。
【0063】
【表2】

【0064】
以上の結果から、第一の画像(6)を構成する背景部(8)と情報部(7)の網点面積率の差異については、背景部(7)の網点面積率が60%で、情報部(6)の網点面積率が100%である水準が「観察角度領域Aにおける第一の画像の視認性」と「観察角度領域B及びCにおけるスイッチ効果」を同時に見たすということが確認できた。ただし、この条件は、第一の画像(6)を形成するインキ自体の色相及び着色力に若干左右される。
【0065】
表2における確認においては、着色力の最も強い黒インキを用いた結果であるから、例えば、黄色や桃色等の淡いインキの場合には、網点面積率に対して濃度差が低くなるため第一画像(6)と第二画像(14)は明瞭にスイッチ効果を奏するので、背景部(8)の網点面積率を10〜20%前後下げても問題ない。この背景部(8)の網点面積率が60%で,情報部(7)の網点面積率が100%によって第一の画像(6)を構成するという条件は、いずれのインキを使用するにしても、本発明の情報担持体(1)が可視光下での画像のスイッチ効果を発揮することができる条件である。
【0066】
以上のように、背景部(8)と情報部(7)の網点面積率の差異を適切に定めて第一の画像(6)を構成することにより、本発明の情報担持体(1)の印刷領域(3)には、観察角度領域Aにおいて第一の画像(6)のみが視認され、観察角度領域Bにおいて第二の画像(14)が視認される。
【0067】
最後に、赤外線を可視化する装置等で観察する、インキ特性に合った判別機器を用いて観察した場合に、第三の画像(17)が可視化する原理について説明する。
【0068】
前述のように、第三の画像(17)は、可視光下の通常の観察では可視化することはないが、周辺に情報担持体(1)に入射する外乱光が存在せず、かつ、情報担持体(1)に対して垂直方向から光が入射し、さらに観察者も情報担持体(1)の垂直方向に位置して観察した場合に限り可視化される場合がある。
【0069】
このような状況は、特定の観察装置や光源を用いることで意図的に作り出すことが可能である。特に一般的な赤外線観察装置(例えば、波長920nmの照明光源と映像モニターを備えたグローリー工業株式会社)については、装置を印刷物の直上におき、外乱光をカットした状態で装置から赤外線を情報担持体(1)に照射し、情報担持体(1)が吸収又は透過した赤外線が再び赤外線観察装置に戻り、この赤外線は、可視情報に置き換えられ、観察者は、赤外線情報を視認できる仕組みとなっている。このときの情報担持体(1)、赤外線観察装置(22)及び観察者の視点(21)を図示すると、図8のようになり、前述した第三の画像(17)が可視化される条件を満たす。
【0070】
これらの条件が満たされ、かつ、第三の画像(17)を形成する画線面積率が第二の画像(14)を形成する画線面積率と比較して適当な差異を有し、更には第2の印刷層(5)が赤外線吸収特性を有している場合にのみ、第三の画像(17)を可視化することが可能となる。
【0071】
第三の画像(17)を形成する画線面積率(R)と第二の画像(14)を形成する画線面積率(R)の差異が大きすぎる場合には、赤外線光源下での観察において、第三の画像(17)は視認しやすいものの、可視光下の観察角度領域Bや観察角度領域Cでの観察において、第三の画像(17)が第二の画像(14)と混ざり合って可視化されることとなり、第三の画像(17)を形成する画線面積率(R)と第二の画像(14)を形成する画線面積率(R)の差異が小さすぎる場合には、可視光下の観察角度領域Bや観察角度領域Cでの観察において、第三の画像(17)が第二の画像(14)と混ざり合って可視化することはないものの、赤外線での観察において第三の画像(17)が視認しずらくなる。
【0072】
また、第2の印刷層(5)において赤外線吸収特性が適当ではない場合、例えば、第2の印刷層(5)を形成するインキに赤外線吸収特性を有する顔料の配合量が多すぎる場合には、赤外線光源下での観察において、第三の画像(17)を視認しやすいものの、第三の画像(17)は、可視光下の観察角度領域Aでも可視化されてしまう。逆に、例えば、第2の印刷層(5)を形成するインキに赤外線吸収特性を有する顔料の配合量が少なすぎる場合には、第三の画像(17)は、可視光下の観察角度領域Aで可視化されることはないものの、赤外線光源下の観察において、第三の画像(17)は視認が困難となってしまう。
【0073】
以上のように、第三の画像(17)の観察に適した条件が整っていたとしても、第三の画像(17)を形成する画線面積率(R)が第二の画像(14)を形成する画線面積率(R)の差異が適当でない場合や、第2の印刷層(5)の赤外線吸収特性が適当でない場合には、第三の画像(17)が可視光下の観察で視認されてしまったり、赤外線光源下で観察した場合に視認できなかったりするという問題が生じる。
【0074】
ここで、適切な第三の画像(17)を形成する画線面積率と第二の画像(14)を形成する画線面積率の差異を検討し、また、適切な第2の印刷層(5)の赤外線吸収特性を有する顔料の配合量を見極めるための確認を行った。なお、第一の画像(6)は、赤外線吸収特性を有しない青インキ(T&K TOKA製 ベストキュアー ヴェクター カートン 藍)を用いて形成し、その上に、図3に示す第2の印刷層(5)を構成する二つの画像のうち、第三の画像(17)を構成する画線は、ピッチ0.4mm画線幅0.32mmで固定し、第二の画像(14)を構成する画線幅を0.22mm、0.25mm,0.28mm及び0.30mmと変化させ、かつ、第2の印刷層(5)を形成する表1のインキに赤外線吸収顔料(カーボンブラックA)を0.05%、0.1%、0.3%及び0.5%外割りで添加し、赤外線吸収特性の異なる4種類の半透明なスクリーンインキを用いて形成した計16水準の印刷物を作製した。
【0075】
各水準の印刷物は、図2に示す図柄で情報部(7)の網点面積率100%とし、背景部(8)の網点面積率を60%で固定した第一の画像(6)の上に、それぞれ16水準の第2の印刷層(5)を重ね合わせて作製し、可視光観察下(観察角度領域A、B、C)での第三の画像(17)の隠蔽性と、赤外線観察装置で観察した場合の第三の画像(17)の視認性の確認を行った。
【0076】
表3に「可視光観察下での第三の画像(17)の隠蔽性」、表4には「赤外線観察装置で観察した場合の第三の画像(17)の視認性」を示す。視認性の評価については、「可視光観察下での第三の画像(17)の隠蔽性」は、観察角度領域A、B及びCの観察で、第三の画像(17)が完全に隠蔽され、完全に不可視である場合に◎、第三の画像(17)が隠蔽され、通常はほぼ不可視であるが、わずかに見える角度が存在する場合に○、第三の画像(17)が若干見える場合△、第三の画像(17)が完全に見える場合×とした。また、「赤外線観察装置で観察した場合の第三の画像(17)の視認性」は、はっきりと第三の画像(17)が視認できる場合を◎、第三の画像(17)が視認できる場合を○、第三の画像(17)が視認しづらい場合を△、第三の画像(17)が不可視である場合を×とした。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
以上の結果から、第2の印刷層(5)を構成する画線構成としては、第二の画像(14)をピッチ0.4mm、画線幅0.28mmで構成し、第三の画像(17)をピッチ0.4mm、画線幅0.28mmで形成した場合で、かつ、赤外線吸収顔料を0.1%から0.3%配合した場合には、第三の画像(17)の可視光下での隠蔽性と、赤外線観察装置(22)を用いた場合の視認性とを両立することができることが確認できた。以上のように、第2の印刷層(5)を適切に構成することで、第三画像(17)を可視光下で不可視とし、赤外線観察装置(22)を用いた場合にのみ可視化することが可能であることがわかった。
【0080】
本発明の情報担持体(1)において、第三の画像(17)は、画線幅の太細を用いて形成しているが、前述したように、画線の粗密を用いて形成しても問題ない。具体的には画線の配置ピッチを変えることによって画線面積率の差異を構成し、第三の画像(17)を形成できることは言うまでもない。
【0081】
以上の原理によって、本発明の情報担持体(1)は、図7に示す観察角度領域Aで観察した場合に図9(a)に示す第一の画像(6)が視認され、図7に示す観察角度領域Bで観察した場合に図9(b)及び(c)に示す第二の画像(14)がパールの干渉色による色相変化を伴って視認され、赤外線観察装置(22)を用いた場合にのみ、図10に示す第三の画像(17)を視認することが可能である。
【0082】
なお、赤外線観察装置(22)については、赤外線領域が観察可能であれば特に限定しないが、例えば、波長920nmの照明光源と映像モニターを備えたグローリー工業株式会社の赤外インク可視化装置を用いることができる。
【0083】
本発明に使用するインキについて、パール顔料を使用する場合、二色性パール顔料、虹彩色パール顔料又はその他鱗片状顔料を用いても良い。パール顔料の粒子の大きさは、使用する印刷方式に応じて選択するものであるが、好ましくは1〜50μmであり、平均粒径は5〜15μm程度が好ましい。このように、いずれのパール顔料を用いても良いが、より鱗片状顔料の配向性(リーフィング効果)を向上させるためには、3μm〜150μmの盛り上がっている線画の表面で顔料が配向するような処理を施すことが望ましい。具体的には、例えば特開2001−106937号公報に記載されたような撥水及び撥油性処理等の表面処理を行うことで、印刷部の画線表面で顔料を配向させることができ、正反射光によるパールの干渉色をより鮮やかに出現させることが可能となる。本明細書に記載したパール顔料は、市販の顔料に対してすべて前述の表面処理を行って用いている。
【0084】
また、第2の印刷層(5)について、3μm〜150μmの盛り上がりのある画線を形成し、かつ、粒径の大きなパール顔料を使用する必要があることから、印刷方式は、スクリーン印刷方式や凹版印刷方式を用いる。この中でも、形成する画線の高さの自由度や使用するパール顔料の粒径の許容性から、UV乾燥型のスクリーン印刷方式が好ましい。
【0085】
(実施例1)
以下、本発明の情報担持体について、実施例を用いて詳細に説明する。まず、実施例1については、本発明の情報担持体の可視光下でスイッチする二つの画像のうち、第一の画像を単純な二値画像ではなく、豊かな階調を有する多階調画像とする例について図11から図16までを用いて説明する。また、本実施例1における第三の画像の認証波長領域は、赤外線領域である。図11は、本発明の実施例1の情報担持体(1’)であり、基材(2’)上に印刷領域(3’)を有し、印刷領域(3’)内には、第1の印刷層(4’)の上に、盛り上がりを有する四つの画線群で形成された第2の印刷層(5’)が重なって形成されている。
【0086】
図12は、第1の印刷層(4’)を示す図であり、多階調の薔薇の画像を形成する情報部(7’)とそれを取り囲む楕円形の背景部(8’)とで第一の画像(6’)を形成している。本実施例1において、第1の印刷層(4’)と第一の画像(6’)は同一である。第1の印刷層(4’)を形成する情報部(7’)と背景部(8’)では、網点面積率が異なっている。具体的には情報部(7’)は、網点面積率65%から100%で構成されており、背景部(8’)は、網点面積率60%で構成され、最大の網点面積率の差異は40%である。まず、基材(2’)に第一の画像(6’)を成す第1の印刷層(4’)を、赤外線吸収特性を有しない青色のインキ(T&K TOKA製 ベストキュアー ヴェクター カートン 藍)を用いて、UV乾燥方式のオフセット印刷で印刷した。
【0087】
図13は、第2の印刷層(5’)を示す図であり、盛り上がりを有する画線で、第1の印刷層(4’)上に印刷する。第2の印刷層(5’)は、四つの画線群(9’)で構成されている。第1の画線群(10’)は、基材底辺に対して垂直の方向である第1の方向(S)に複数配列された画線で、ピッチ0.30mm及び画線幅0.19mmで構成され、第2の画線群(11’)は、第1の方向と同一の方向に複数配列された画線で、ピッチ0.30mm及び画線幅0.23mmにより構成され、第3の画線群(12’)は、基材底辺に対して水平の方向、所謂第1の方向に対して垂直の方向となる第2の方向に複数配列された画線で、ピッチ0.3mm及び画線幅0.19mmで構成され、第4の画線群(13’)は、第2の方向と同じ方向に複数配列された画線で、ピッチ0.30mm及び画線幅0.23mmで構成されている。
【0088】
第2の印刷層(5’)を構成する四つの画線群(9’)のうち、画線方向の同じ画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第1の画線群(10’)と第2の画線群(11’)を組合せ、第3の画線群(12’)と第4の画線群(13’)を組み合わせた場合、図14(a)に示す「Flower」の文字を楕円が囲った第二の画像(14’)となり、四つの画線群(9’)のうち、画線幅の同じ画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第1の画線群(10’)と第3の画線群(12’)を組合せ、第2の画線群(11’)と第4の画線群(13’)を組み合わせた場合、図14(b)に示す「OK」の文字を楕円が囲った第三の画像(17’)となる。
【0089】
この四つの画線群(9’)で構成された第2の印刷層(5’)を、表5に示すスクリーンインキを用いて、UVスクリーン印刷方式により第1の印刷層(4’)の上に印刷した。第2の印刷層(5’)を形成する画線の高さは、約10μmである。
【0090】
【表5】

【0091】
表5に示すインキは赤外線を吸収する特性を有する黒色の着色顔料を含むが、その配合割合は極微量であることから、物体色を有しない半透明なインキとなる。また、金色の虹彩色パール顔料を含むことから、正反射した場合にはパール効果によって金色の干渉色を発する。よって、表5に示すインキで形成された画線は、観察角度領域Aの観察では半透明であってほぼ視認できず、観察角度領域B及び観察角度領域Cの観察では金色に光って視認できる画線となる。
【0092】
以上の手順で作製した本実施例1の情報担持体(1’)を観察角度領域Aで観察した結果、図15(a)に示すように、第一の画像(6’)のみが視認され、観察角度領域Bで観察した結果、図15(b)及び図15(c)に示すように、第二の画像(14’)のみが、その傾きによって金色の干渉色を発するパール効果を伴い、ネガポジ反転しながら視認できた。観察角度領域Cにおいてはほぼ無像となるが、実際には、観察角度領域Cは、その角度自体が狭く、観察角度領域Bに挟まれていることから、第二の画像(14’)が視認されて観察される結果となった。よって、可視光下の観察においては、入射光に対して本実施例2の情報担持体(1’)の観察角度を変化させることで、第一の画像(6’)と第二の画像(14’)がスイッチして視認できた。
【0093】
さらに、図8に示すように、本実施例1の情報担持体(1’)に対して赤外インク可視化装置(22)(グローリー工業株式会社製)を用いて観察したところ、図16に示すように、第三の画像(17’)のみが視認できた。
【0094】
よって、可視光下の観察においては、入射光に対して本実施例1の情報担持体(1’)の角度を変化させることで豊かな階調を有する第一の画像(4’)と第二の画像(12’)がスイッチして視認でき、また、赤外線領域の波長の光で観察すると、第三の画像(13’)のみが視認できた。
【0095】
(実施例2)
以下の実施例2において、本発明の情報担持体の可視光下でスイッチする二つの画像のうち、第二の画像を単純な二値画像ではなく、豊かな階調を有する多階調画像とする例について、図17から図22を用いて説明する。また、本実施例2における第三の画像の認証波長領域は、赤外線領域である。図17は、本発明の1実施例の情報担持体(1’’)であり、基材(2’’)上に印刷領域(3’’)を有し、印刷領域(3’’)中には、第1の印刷層(4’’)の上に、盛り上がりを有する八つの画線群で形成された第2の印刷層(5’’)が重なって形成されている。
【0096】
図18は、第1の印刷層(4’’)を示す図であり、「NPB」(商標第4657835号)の文字画像を形成する情報部(7’’)とそれを取り囲む四角形の背景部(8’’)により第一の画像(6’’)を形成している。本実施例2において、第1の印刷層(4’’)と第一の画像(6’’)は同一である。第1の印刷層(4’’)を形成する情報部(7’’)と背景部(8’’)では網点面積率が異なっている。具体的には情報部(7’’)は、網点面積率60%で構成されており、背景部(8’’)は、網点面積率100%で構成され、網点面積率の差異は40%である。まず、基材(2’’)に、第一の画像(6’’)を成す第1の印刷層(4’’)を、赤外線吸収特性を有しない赤色のインキ(大日本インキ化学工業株式会社製 dai cure セプターDT プロセス紅)を用いて、UV乾燥方式のオフセット印刷で印刷した。
【0097】
図19は、第2の印刷層(5’’)を示す図であり、盛り上がりを有する画線で第1の印刷層(4’’)上に印刷する。第2の印刷層は、八つの画線群(9’’)で構成されている。第1の画線群(10’’)は、基材(2’’)の底辺に対して水平の方向(本実施例2においての第1の方向(S))に複数配列された画線でピッチ0.40mm及び画線幅0.28mmの第1の画線面積率(R)で構成され、第2の画線群(11’’)は、第1の方向(S)と同じ方向に複数配列された画線で、ピッチ0.40mm及び画線幅0.32mmの第2の画線面積率(R)で構成され、第3−1の画線群(12’’−1)は、基材(2’’)に対して垂直の方向(本実施例2においての第2の方向(S))に複数配列された画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.28mmの第1の画線面積率(R)で構成され、第3−2の画線群(12’’−2)は、第2の方向(S)から時計回りに30度傾いた画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.28mmの第1の画線面積率(R)で構成され、第3−3の画線群(12’’−3)は、第2の方向(S)から反時計回りに30度傾いた画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.28mmの第1の画線面積率(R)で構成され、第4−1の画線群(13’’−1)は、第2の方向(S)に複数配列された画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.32mmの第2の画線面積率(R)で構成され、第4−2の画線群(13’’−2)は、第2の方向(S)から時計回りに30度傾いた画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.32mmの第2の画線面積率(R)で構成され、第4−3の画線群(13’’−3)は、第2の方向(S)から反時計回りに30度傾いた画線で、ピッチ0.4mm及び画線幅0.32mmの第2の画線面積率(R)で構成されている。
【0098】
本発明における第1の方向(S)と第2の方向(S)については、前述したとおり、第1の方向(S)に対して、第2の方向(S)が5〜90°の方向差を有していれば良いため、本実施例2における第3の画線群は、第1の方向とは異なる複数の方向に配列された、第1の画線面積率(R)を有する画線群を全て第3の画線群としており、前述のとおり、第2の方向(S)は、第1の方向(S)に対して垂直方向及びその垂直方向から±30°の角度を有する方向を含んでいる。同様に、第4の画線群は、第1の方向(S)とは異なる複数の方向に配列された、第2の画線面積率(R)を有する画線群を全て第4の画線群としており、前述のとおり、第2の方向(S)は、第1の方向(S)に対して垂直方向及びその垂直方向から±30°の角度を有する方向を含んでいる。なお、第2の方向(S)において、異なる角度に配列された第3の画線群及び第4の画線群は、第二の画像の情報部を形成している。以下、本実施例2においては、第2の方向(S)内における複数の異なる角度も、全て第2の方向(S)として説明していく。
【0099】
したがって、本発明の情報担持体において、第二の画像を階調表現する場合には、印刷領域(3)内において第二の画像の情報部を複数の図柄で構成し、複数配置したそれぞれの図柄の少なくとも二つの図柄を構成する第3の画線群か第4の画線群、又はその両方の画線群において、各画線群が配列されている方向、所謂第2の方向(S)を、第1の方向(S)との角度の差異である5〜90°の範囲内で異ならせて画線を配列すれば良い。本実施例2では、第二の画像を形成している情報部は、五つの図柄で構成され、全ての図柄は、第2の方向(S)を異ならせている。
【0100】
第2の印刷層(5’)を構成する八つの画線群(9’’)のうち、配列方向が同じ画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第1の方向(S)である第1の画線群(10’’)と第2の画線群(11’’)を組合せ、第2の方向(S)である第3の画線群(12’’−1、12’’−2、12’’−3)と第4の画線群(13’’−1、13’’−2、13’’−3)を組み合わせた場合、図20(a)に示す五つの星を四角形が囲った第二の画像(14’’)となり、八つの画線群(9’’)のうち、画線面積率が同じ(画線幅が同じ)画線群同士で組み合わせた場合、すなわち第1の画線面積率(R)である第1の画線群(10’’)と第3の画線群(12’’−1、12’’−2、12’’−3)を組合せ、第2の画線面積率(R)である第2の画線群(11’’)と第4の画線群(13’’−1、13’’−2、13’’−3)を組み合わせた場合、図20(b)に示す「OK」の文字を四角形が囲った第三の画像(17’’)となる。
【0101】
この八つの画線群(9’で構成された第2の印刷層(5’’)を、表6に示すスクリーンインキを用いてUVスクリーン印刷方式で第1の印刷層(4’’)の上に印刷した。第2の印刷層(5’’)を形成する画線の高さは、約10μmである。
【0102】
【表6】

【0103】
表6に示すインキは、赤外線を吸収する特性を有する黒色の着色顔料を含むが、その配合割合は極微量であることから、物体色を有しない半透明なインキとなる。また、赤色の虹彩色パール顔料を含むことから、正反射した場合には、パール効果によって赤色の干渉色を発する。よって、表6に示すインキで形成された画線は、観察角度領域Aの観察では半透明であってほぼ視認できず、観察角度領域B及び観察角度領域Cの観察では赤色に光って視認できる画線となる。
【0104】
以上の手順で作製した本実施例2の情報担持体(1’’)を観察角度領域Aで観察した結果、図21(a)に示すように第一の画像(6’’)のみが視認され、観察角度領域Bで観察した結果、図21(b)及び図21(c)に示すように第二の画像(14’’)のみがその傾きによって赤色の干渉色を発するパール効果を伴ってネガポジ反転しながら視認されることが確認できた。また、この観察角度領域で観察できる第二の画像(14’’)は、それぞれの星の画像を構成している画線の角度の違いによって画線の光の反射率が異なり、パールの干渉光に濃淡の違いが生じ、豊かな階調が表現されていることが確認できた。観察角度領域Cにおいてはほぼ無像となるが、実際には、観察角度領域Cはその角度自体が狭く、観察角度領域Bに挟まれていることから、第二の画像(14’’)が視認されて観察される結果となった。よって、可視光下の観察においては、入射光に対して本発明の情報担持体(1’’)の観察角度を変化させることで第一の画像(6’’)と第二の画像(14’’)がスイッチして視認できた。
【0105】
さらに、図8に示すように、本実施例2における情報担持体(1’’)に対して赤外インク可視化装置(22)(グローリー工業株式会社製)を用いて観察したところ、図22に示すように第三の画像(17’’)のみが視認できた。
【0106】
よって、可視光下の観察においては、入射光に対して本発明の情報担持体(1’’)の角度を変化させることで第一の画像(6’’)と豊かな階調を有する第二の画像(14’’)がスイッチして視認されることを確認でき、また、赤外線領域の波長の光で観察すると、第三の画像(17’’)のみが視認できることが確認できた。
【0107】
本実施例2においては、第三の画像(17’’)が出現する条件として赤外線で観察した場合を記載したが、これに限定するものでない。赤外線と紫外線の両方の波長で認証することも可能である。例えば、第2の印刷層を形成するインキに赤外吸収特性を有する着色顔料と、紫外線で励起して可視光を発する蛍光顔料の二つの機能性材料を混合すればよい。
【符号の説明】
【0108】
1、1’、1’’ 本発明の情報担持体
2、2’、2’’ 基材
3、3’、3’’ 印刷領域
4、4’、4’’ 第1の印刷層
5、5’、5’’ 第2の印刷層
6、6’、6’’ 第一の画像
7、7’、7’’ 第一の画像の情報部
8、8’、8’’ 第一の画像の背景部
9、9’、9’’ 画線群
10、10’、10’’ 第1の画線群
11、11’、11’’ 第2の画線群
12、12’、12’’−1、12’’−2、12’’−3 第3の画線群
13、13’、13’’−1、13’’−2、13’’−3 第4の画線群
14、14’、14’’ 第二の画像
15、15’、15’’ 第二の画像の情報部
16、16’、16’’ 第二の画像の背景部
17、17’、17’’ 第三の画像
18、18’、18’’ 第三の画像の情報部
19、19’、19’’ 第三の画像の背景部
20 光源
21 観察者の視点
22 赤外線観察装置
第1の方向
第2の方向
、W 画線幅
第1の画線面積率
第2の画線面積率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に印刷領域を有し、前記印刷領域に三つの画像を備え、観察条件を異ならせることで前記三つの画像が視認可能な情報担持体であって、
前記印刷領域は、赤外線吸収特性を有さない前記基材の色とは異なる着色インキにより形成された第1の印刷層と、前記第1の印刷層の上に、赤外線吸収特性を有し、カラーフリップフロップ性を備えた材料を含有した透明性のインキによって形成された第2の印刷層から成り、
前記第1の印刷層は、網点面積率を異ならせることにより情報部と背景部に区分けされて第一の画像が形成され、
前記第2の印刷層は、前記透明性のインキにより盛り上がりを有する画線が複数配置された複数の画線群から成り、
前記複数の画線群は、前記印刷領域内において互いに重ならないように隣接して配置された四つの画線群から成り、
前記四つの画線群は、第1の方向に画線が第1の画線面積率で複数配列された第1の画線群と、前記第1の方向と同じ方向に画線が前記第1の画線面積率とは異なる第2の画線面積率で複数配列された第2の画線群と、前記第1の方向とは異なる第2の方向に画線が前記第1の画線面積率と同じ画線面積率で複数配列された第3の画線群と、前記第2の方向と同じ方向に画線が前記第2の画線面積率と同じ画線面積率で複数配列された第4の画線群から成り、
前記複数の画線群により、情報部と背景部から成る第二の画像及び情報部と背景部から成る第三の画像の二つの画像が形成され、
前記第二の画像の背景部は、前記第1の画線群及び前記第2の画線群から成り、前記第二の画像の情報部は、前記第3の画線群及び前記第4の画線群から成り、前記第三の画像の背景部は、前記第1の画線群及び前記第3の画線群から成り、前記第三の画像の情報部は、前記第2の画線群及び前記第4の画線群から成り、
前記第1の画線群は、前記第二の画像及び前記第三の画像の共有の背景部と成り、前記第4の画線群は、前記第二の画像及び前記第三の画像の共有の情報部と成り、
前記基材に対して拡散光が支配的な観察角度領域では第一の画像が視認され、前記基材に対して拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域では第二の画像が視認され、前記基材に対して赤外線を照射すると第三の画像が視認されることを特徴とする情報担持体。
【請求項2】
前記第1の印刷層の情報部と背景部は、網点面積率が10〜40%の差により区分けされていることを特徴とする請求項1記載の情報担持体。
【請求項3】
前記第1の印刷層は、網点面積率が40〜100%の範囲で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の情報担持体。
【請求項4】
前記第二の画像は、前記第1の方向と前記第2の方向の配列方向の差異により形成され、前記第三の画像は、前記第1の画線面積率と前記第2の画線面積率の画線面積率の差異により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の情報担持体。
【請求項5】
前記第1の画線面積率と前記第2の画線面積率の差異は、前記画線群を構成する画線における画線幅の太細、画線の密度のいずれか又はその両方により形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の情報担持体。
【請求項6】
前記第1の方向と前記第2の方向の角度の差異は、5〜90°であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の情報担持体。
【請求項7】
前記画線群を構成する画線のピッチ及び画線幅は、0.06〜1mmであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の情報担持体。
【請求項8】
前記画線群を形成する前記透明性のインキによる画線の盛り上がりの高さは、3〜150μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の情報担持体。
【請求項9】
前記第二の画像の情報部は、前記印刷領域内において複数配置された図柄を有し、前記複数配置された図柄の少なくとも二つの図柄を形成する第3の画線群及び/又は第4の画線群は、前記第2の方向が、前記第1の方向との差異である5〜90°の範囲内で異なっていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の情報担持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−269475(P2010−269475A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121477(P2009−121477)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】