説明

真偽判別可能な発光印刷物

【課題】 照射する紫外線の波長によって、異なった波長の蛍光を発するインキで印刷を施した後、印刷部分の一部に紫外線吸収剤を含むインキでオーバープリントするといった極めて簡易的な手順で、可視光照射時、紫外線長波光照射時、紫外線短波光照射時、紫外線長短波光照射時に発光色あるいは発光部位を複雑に変化させ、機械判別や目視観察による真偽判別が可能な発光印刷物を提供することを目的とする。
【解決手段】 基材に真偽判別領域を有する発光印刷物であって、真偽判別領域の表面に異なった波長の紫外線を照射することによって、それぞれ発光波長及び/又は発光強度が変化する特性を有する多色発光部が形成され、多色発光部の上に、多色発光部を励起する波長領域の一部を含んだ、紫外線を吸収する特性を有する材料が、少なくとも一部分で重なり合ってなるオーバープリント部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線領域の波長に応じて少なくとも二色以上に発光色が変化する多色発光部と紫外線波長の一部を吸収する物質が少なくとも一部に重なりをもってなる印刷物であって可視光照射時、紫外線長波光照射時、紫外線短波光照射時、紫外線長短波長照射時に印刷物の発光色あるいは発光形状がそれぞれ変化する真偽判別が可能な発光印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、有価証券、カード及び通行券などの貴重印刷物や、運転免許証、パスポート及び保険証など個人を認証する証明証書は、第三者に偽造及び改ざんされないために常に新たな偽造防止技術を盛り込むことが要求されており、併せて真正品であるかどうかの判断が可能な真偽判別方法が必要とされている。
【0003】
この中で蛍光体や磁性体等の特殊な発光や磁性を持つ機能性材料を用いる真偽判別方法は数多くあり、これらは機能性材料を印刷物に付与し、機械検査や官能検査においてそれらの発光や磁気の強度や有無を判別の一要素として真偽の判定を行うものである。
【0004】
前記機能性材料の特性を真偽判別要素として用いる場合、真性品の品質が安定していなければ、機械検査や官能検査において真性品であっても偽造品として判別される可能性があるために、その製造に当たっては工程全般に及ぶ厳重な品質管理が必要であることに加え、機能性材料を付与するためには特殊な製造設備や複雑な製造工程となることが多いことから、実際にはこれらの真偽判別要素を付与した貴重品の製造は製造者自身にとっても他の製品の生産と比較して多大な労力を必要とすることが通例である。
【0005】
以上のことから、真偽判別要素を付与した貴重印刷物や証明書は、偽造者にとって偽造が困難な高度な印刷物であって、かつ、製造者にとっては製造方法が複雑ではなく管理が容易であり、使用者にとっては真偽判別が容易である技術が望まれている。
【0006】
前記の機能性材料を用いた偽造防止技術の一例として、紫外線を照射して可視領域で発光する蛍光体を用いた印刷物があり、この印刷物に紫外線を照射し、蛍光体の発光の有無で真偽を判別する方法は多く提案されている。蛍光体の発光はその種類によって励起特性や発光色、発光強度等がそれぞれに異なることから、その差異を利用して機械検査や官能検査において偽造品と真性品を区別する判定要素として使用されている。紫外線励起型の蛍光体は従来、目視においてはその発光色が、機械検査においては蛍光体の発光強度が判定要素として扱われるのが一般的であったが、偽造者の技術レベルの高度化に対応するため、複数・異種の真偽判別要素として蛍光画像、蛍光強度、残光強度、発光色等、可能な限りの複雑な判別要素を備えることが期待されている。
【0007】
一方、ある種の物質は紫外線(波長400nm未満)のある一定の波長を吸収、あるいは反射する働きを持つ。無機系紫外線遮蔽材としては酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄等が代表的であり、特に紫外線短波領域(約200nm〜300nm)に高い紫外線吸収特性を有している。また、ハロゲン、カルボニル基、ベンゼン環、不飽和基等を含む有機化合物はいずれも少なからず紫外線を吸収する特性を有しているが、サリチル酸系吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が代表的であり、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は紫外線長波領域(波長400nm〜300nm)にも顕著な吸収特性を有していることで知られている。また、ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アミノアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体、ゼラチン、ポリビニルアルコール等は紫外線領域の波長の短い領域を特に吸収する特性を持っていることで知られている。特にアクリル樹脂については光学系測定器において紫外線短波をカットするためのフィルターとして使用される。
【0008】
これら紫外線を吸収する特性を有する物質と紫外線で励起される蛍光体を組み合わせた従来の例のうち、真偽判別が可能な有価証券として、紫外線を吸収又は反射して遮断する透明フィルムに、真偽判別が可能な情報が蛍光材料を含むインキにより、透明な状態で潜像印刷された有価証券が提案されている。これは、蛍光材料を含むインキで印刷された印刷面に、紫外線を照射した場合は、インキが発光し情報が確認できるが、逆に、印刷面の裏面つまりフィルムを介してインキに紫外線を照射した場合は、フィルムが紫外線を遮断するため情報が確認できない、といったものである(例えば、特許文献1参照)。これは製造者の労力は従来と同一で使用者は単一光源を用いてフィルム表裏で2種類の蛍光画像や蛍光発光強度の差異を目視で簡易的に真偽判別ができる例である。
【0009】
ところで、前述の紫外線に対して励起特性を持つ蛍光体は、大別して紫外線短波に高い励起特性をもつ蛍光体と、紫外線長波に高い励起特性を持つ蛍光体がある。
【0010】
一般的な蛍光印刷物は、紫外線長波で励起する蛍光体を用いて発光色や発光強度を確認して真偽判別に用いるものであるが、この蛍光体自体は多種多様な種類が販売されおり、真性の蛍光体と同様な特性を持つ蛍光体を入手することは比較的容易となっていることに加え、ブラックライトやLEDで蛍光色を確認することができるため、製造や真偽判別が容易であるがゆえに第三者に偽造されやすく、現時点ではすでに偽造抑制力を失いつつある。
【0011】
また、紫外線短波励起の蛍光体については、紫外線長波励起の蛍光体と比較して蛍光体自体が少なく、入手は若干難しくなることに加え、その発光を確認するための装置が水銀灯やキセノンランプ、あるいは殺菌灯が特殊であることから紫外線長波励起蛍光体と比較して偽造抑制効果は高いものの、簡易的な真偽判別が困難であるという問題があった。
【0012】
以上のように紫外線長波励起及び紫外線短波励起それぞれの蛍光体は相対する問題をかかえており、これを解決するためには紫外線短波励起蛍光体のように偽造が困難であり、正当な使用者に対しては紫外線長波励起蛍光体のように簡易的な確認は容易で、かつ厳重な確認においては高い精度で判別が可能である蛍光体やその蛍光体印刷物が望まれていた。
【0013】
これらの技術的な課題を解決するために、紫外線短波励起の蛍光体と紫外線長波励起の蛍光体を組み合わせた多色性蛍光体が提案されている。現時点の具体的な例としては紫外線短波照射時と紫外線長波照射時で発光色が変化する二色性蛍光体を作成することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0014】
紫外線短波及び紫外線長波で発光色が変化する蛍光インキは、従来の上記蛍光インキの問題点を補えるものあり、紫外線短波励起特性の高い蛍光体と紫外線長波励起特性の高い蛍光体を混合することによって、照射波長に応じて発光色が変化することを特徴としている。これらは混合する蛍光体を変えることで紫外線長波及び紫外線短波での発色を変えることが可能であることから、従来の単色の蛍光体と比較して偽造は困難となる。また、紫外線短波と紫外線長波で発光色が変化することから、目視による簡易確認においては紫外線長波で、厳重な機械検出においては紫外線短波で確認するといったセキュリティレベルに応じた確認が可能な蛍光体である。
【0015】
また、紫外線短波励起の蛍光体は紫外線長波の紫外線に対しても若干の発光を有するものが多く、ブラックライト等の紫外線長波照射装置しか持たない偽造者にも、紫外線短波励起時の発光色の見当を与えてしまう場合があった。しかし、紫外線長波照射時には紫外線長波励起特性の高い蛍光体の発光が紫外線短波励起特性の高い蛍光体の発光を隠すために、紫外線短波における発光色を想像することは不可能となる。以上のことから、二色性蛍光体は従来の蛍光体と比較して偽造防止の観点において優れた蛍光体であり、現在、様々な製品に応用されつつある。
【0016】
現在、印刷物として二色性蛍光体を利用したものにフランスの500フラン紙幣が公知であり、これは紫外線短波を照射した場合には赤色を発し、紫外線長波を照射した場合には緑色を発し、紫外線長波及び紫外線短波の照射で蛍光体印刷部全体の発光色が変化する特徴がある。
【0017】
この二色性蛍光インキと紫外線吸収剤を従来の技術を参考にして単純に用いる一つの例としては、紫外線を吸収又は反射して遮断する透明フィルムに、二波長でそれぞれ異なった蛍光を発するインキで印刷した蛍光印刷物が考えられる。具体的な蛍光印刷物を、図12及び図13をもとに説明する。図12は、蛍光印刷物の断面図である。
【0018】
蛍光印刷物の構成としては、紫外線を吸収又は反射して遮断する透明フィルム(5)の一部分に、二波長でそれぞれ異なった蛍光を発光する二色発光インキで印刷を行った二色性蛍光印刷部(6)を形成し、二色性蛍光印刷部(6)以外は、可視光下での模様及び文字等の有意味情報の視認性を高めるために通常印刷部(2)を一定の可視光反射性を有する通常のインキで被覆した構成とすることができる。
【0019】
透明フィルム(5)は、300nm以下の波長の光を透過しない基材の中から印刷適性や加工適性に優れたpetフィルムを使用し、蛍光印刷物に使用する二色発光インキは、RBタイプ(254nmで赤発光、365nmで青発光)のインキを使用する。
【0020】
図13(a)は、二色性蛍光体印刷部(6)に印刷面から紫外光(7)を照射した場合の発光例である。この場合は二色性蛍光体印刷部に照射された全波長が達するために、254nmと365nm両方の発光色が現れるが、より発光強度が高い254nm励起時の発光が主体的となり観察者の目視確認では赤発光として観察される。
【0021】
図13(b)は、二色性蛍光体印刷部(6)に印刷面の裏側から透明フィルム(5)を通して紫外光(7)を照射した場合の発光例である。この場合は、300nm以下の波長がフィルムで吸収されることから、この場合蛍光体印刷部に達する波長は紫外線の長波に限定され、365nm励起時の発光色が主体的になり、観察者の目視確認では青発光として観察される。
【0022】
前記の例は、二色性蛍光インキと紫外線吸収剤を単に組み合わせたものであるが、この二色性蛍光インキを使用して発光色のみならず発光部位を変化させる提案がなされている。その具体的な一例として、基材上に、蛍光発光を吸収する可視光吸収層を印刷し、その上に二波長でそれぞれ異なった蛍光を発光するインキで、蛍光画像層を印刷した印刷物であり、波長の異なった励起光を照射して二色に変化させたうえで、可視光吸収層によって発光を吸収させ、発光色並びに発光部位を変化させる、真偽判別可能な蛍光画像形成物が挙げられる(例えば、特許文献3参照)。
【0023】
【特許文献1】特開2001−18515号公報
【特許文献2】特開平10−251570号公報
【特許文献3】特開平10−250214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前記の二色性蛍光体と紫外線吸収素材を単純に組み合わせた例においては、フィルム表裏での発光色は異なるものの、蛍光体を付与した部位全体の色が変わるが、単純に単一素材のフィルムを用いた場合には二色性蛍光体の全面を紫外線吸収物質で被覆してしまうことになるため、二色性蛍光体印刷部全面の発光が変化してしまい、蛍光印刷部を部分的に色変化させることができないという問題があった。
【0025】
また、特開平10−250214号公報のように、異なった励起光を照射して紫外線短波と紫外線長波で異なる色を発光させ、発光を吸収する素材を下面に配す場合、本発明と同様に発光色と発光部位を波長によって変化させることが可能である。
【0026】
しかし、蛍光発光を吸収する素材を着色塗料やインキなどの有色顔料で印刷するため、可視光観察時に可視光吸収層が目視で確認できてしまう可能性がある。可視光吸収層が目視で確認できてしまうと、その可視光吸収層の形状から発光が変化する形状を想像することができてしまい、偽造されやすくなってしまう、といった問題が出てくる。さらに、紫外線励起時の発光色を可視光吸収層によって完全に取り除くことを目的とすると、蛍光体の発光色に応じて可視吸収層の色相を微調整しなければならないことから形成物を作製するには技術を要し、作製にかかる労力も必要である。また、発光体の発光強度はその紫外線照射量に比例して増減するのに対して、吸収層の色濃度は一定である、つまり、強い光を吸収するには吸収層の色濃度を極めて高くしなければならないが、弱い光の場合は吸収層の濃度を低くしなければならないことから考え、完全に発光を吸収できる条件は紫外線照射量がある一定の場合のみに限定される。このことから、ある一定の紫外線照射量の場合のみにしか所望の効果を得ることができないと思われる。加えて、発光強度や反射濃度はその観察環境に大きく依存するため、紫外線照射量が想定した値であった場合でも、可視光が差し込む環境で観察した場合と、可視光が差し込まない環境で観察した場合には、その効果は大きく変化するものと思われる。このことから、特定の条件下での観察でのみ所望の効果を得ることができても、その条件を満たさない場合には発光層あるいは吸収層が目視で容易に確認されてしまう可能性がある。
【0027】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、紫外線領域の長波長と短波長とで異なった蛍光を発光するインキで印刷を施した後、印刷部分の一部に紫外線吸収剤を含むインキでオーバープリントするといった極めて簡易的な手順で、可視光照射時、紫外線長波光照射時、紫外線短波光照射時、紫外線長短波長照射時に発光色あるいは発光部位を複雑に変化させ、機械判別や目視観察による真偽判別が可能な発光印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の真偽判別可能な発光印刷物は、基材に真偽判別領域を有する発光印刷物であって、真偽判別領域の表面に、異なった波長の紫外線を照射することによって、それぞれ発光波長及び/又は発光強度が変化することで発光色が変化する特性を有する多色発光部が形成され、多色発光部の上に、多色発光部を励起させる紫外線波長の一部を吸収する特性を有する物質を、多色発光部の一部分で重なり合わせたオーバープリント部が形成されてなることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の真偽判別可能な発光印刷物は、多色発光部が、励起波長と発光波長の異なる複数の蛍光インキがそれぞれ層状に形成してなるか、もしくは励起波長と発光波長の異なる複数の蛍光体を混合したインキで形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
この発明によって、紫外線の照射波長によって発光色と発光部位が様々に変化する発光印刷物を得ることが可能となる。真偽判別の要素として、複数色の発光強度を用いることが可能になることに加え、発光部位の変化を画像として認識し、判別要素として加えることが可能となることから、従来と比較して真偽判別判定要素の選択肢が飛躍的に増えることとなる。また、それぞれの照射波長に応じて発光色や発光部位が変化することから、ブラックライトしか持たないユーザであっても紫外線長波発光の確認は可能であり、必要に応じて紫外線短波照射や紫外線長短波照射を行うことで、より高度で複雑な認証を行うことが可能である。
【0031】
逆に蛍光混合体はその蛍光体の組み合わせのみならず、蛍光体の混合割合によって様々な色の組み合わせや発光強度の調整が可能であることから、偽造者にとって発光色の変化を再現することは従来の単色蛍光体と比較して困難であることに加えて、波長に応じて発光部位が同時に変化する効果を全く同様に再現することは更に高い技術レベルを要する。
【0032】
また、従来、製造者にとって、ある波長の光で同じ発色をしていながら異なる波長の光を当てると色が変化するメタメリズムを利用した印刷物を得ることは、2種類の分光分布の異なるインキを混ぜ合わせて作成するために、調色に極めて高い技能を必要とし、作製にかかる労力も必要であった。しかし、この発明によって蛍光インキと紫外線吸収剤を使用する限り、少なくとも紫外線長波照射時の完全な等色性と紫外線短波照射時の異色性を保障することが可能となった。さらに、紫外線領域の波長に応じて二色に発光色が変化する発光インキの上に、その紫外線波長の一部を吸収する樹脂等を、一部分で重なるようにして印刷をして、本発明の印刷物を作成するため、調色のための高い技能を必要とせず、作製にかかる労力も不必要であり、作業が容易に行えるようになった。
【0033】
実施例2において、二色性蛍光体を175線で網点パーセント100%のベタとし、これに紫外線吸収剤を用いて175線で網点パーセントが5%から100%まで徐々に変化するグラデーションスケールの重ね刷りを行い、紫外線短波と紫外線長波を同時に照射したところ、網点面積率が高まるにつれて、色相が赤から青へと連続的に変化した。このように紫外線吸収剤の網点パーセントを故意に変化させることによって、さまざまな階調表現が可能となる。
【0034】
以上のように、高い偽造防止効果と製造安定性を同時に成す発光色と発光部位が照射する紫外線波長に応じて変化する印刷物を提案する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
発明の実施に当たっては、二色性蛍光顔料を使用して作成したインキにより蛍光印刷物を作成した場合について説明する。二色性蛍光顔料としては、DE−RB、DE−RG、DE−GB、DE−GR(根本特殊化学社製)の四種類を使用し、二色性蛍光顔料20%、ワニス80%に加え、外割りとしてフタロシアニンブルー4%、乾燥剤1%配合で3本ロールミルを使用して酸化重合型オフセットインキを作成した。図1に示すように、これらは単体のインキであるが、254nmの紫外線で励起した場合には主な発光ピークが緑又は赤の波長領域にあり、365nmの紫外線で励起した場合にはその主な発光ピークが青、緑、赤の波長領域に変化する二色性の特性を有している。
【0036】
図2はDE−RBタイプ(254nm励起で赤発光、365nm励起で青発光)の二色性蛍光顔料に対して254nm及び365nmの紫外線を照射した場合の分光強度変化を分光測定器で測定したものである。254nm照射時には、365nm照射時と同様に440nm近傍にピークが存在するものの、この発光ピークと比較して610nm近傍の発光ピークの強度が相対的に強いために、青色発光は目視確認上認められず、赤色発光として認識される。また、365nm照射時には、610nm近傍の発光ピークが存在しないため、青色発光として目視上認識される。また、このインキはフタロシアニンブルーを添加したことにより、若干蛍光発光が低下したものの可視光観察下では薄青色として認識される有色インキとなった。
【実施例1】
【0037】
図3はこの発明に係る蛍光印刷物の平面図、図4はこの発明に係る蛍光印刷物の断面図である。図5はこの蛍光印刷物における、二色性蛍光体印刷部とオーバープリント部を各版面に分けたものであり、実際には基材上に二色性蛍光体を印刷した後、二色性蛍光印刷体の一部(オーバープリント部)に紫外線吸収剤を完全に重ね合わせ、所望の位置に印刷するものである。二色性蛍光体印刷部用版面及びオーバープリント部印刷用版面の線数はインキ転移性と発光強度を考慮して175線、加えてすべての印刷部の網点パーセントは100%のベタ版構成とした。
【0038】
本実施例において、オフセット印刷方式を選択したことから、基材は蛍光増白剤を含まない無蛍光オフセット用コート紙を使用した。オフセット用蛍光インキの転移性を考慮した場合、コート紙を用いることが適当であるが、その選別に当たってはコート紙や加工原紙に含まれる蛍光増白剤がインキの蛍光発光を阻害する可能性があることから、蛍光増白剤を含まないコート紙を使用することが望ましい。
【0039】
ただし、蛍光増白剤を含むコート紙を用いて、コート紙自体が発する発光強度と、紫外線長波あるいは紫外線短波照射時の蛍光体の発光強度を同じ程度に調整した構成とすることで、あたかも紫外線長波あるいは紫外線短波照射時に蛍光発光部がほとんど目立たない色の構成とした印刷物や、蛍光増白剤を含むコート紙を用いてコート紙自体が発する発光色と、紫外線長波及び紫外線短波照射時の蛍光体の発光色に差異を設けた構成とした印刷物等、コート紙自体が発する蛍光発光と本発明の効果を同時に利用する形態についても十分本発明が想定する範囲に属することは言うまでもない。
【0040】
また、本実施例に当たってはオフセット印刷方式を選択したが、紫外線短波照射時の発光強度と紫外線長波照射時の発光強度のバランスを変えたい場合には紫外線短波励起型の蛍光体と紫外線長波励起型の蛍光体の混合割合を見直すことが適当であることに加え、オフセット印刷による蛍光印刷部がユーザの所望する発光強度より全体に低い場合には、顔料皮膜厚さを得やすい印刷方式、例えばグラビア印刷やスクリーン印刷等の印刷方式を選択することが望ましい。
【0041】
二色性蛍光インキは、図1に示したオフセット用RBタイプの顔料20%、ワニス80%に加え、外割としてフタロシアニンブルー4%、乾燥剤1%を配合してインキを作製し、作製したインキを用いて多色発光部を形成した。また、オーバープリントに用いる紫外線吸収剤を含むインキは、一般用のオフセットインキ(DIC製OPニス new championマット)を使用した。このOPニスの紫外線吸収特性を図7に示す。
【0042】
使用する紫外線吸収剤は、これに限るものではなく二色性蛍光体の複数の励起波長のうち、その一部分を吸収あるいは反射して二色性蛍光発光部のある波長域における発光を阻害する働きを成すものであればよい。この例においては紫外線短波長側の発光を抑制することを目的として200〜300nmに強い吸収特性を持つ無機系紫外線吸収物質を含んだニスを選択したが、特にこれに限定するものではなく、紫外線長波側に強い吸収特性を持つ材料を使用しても本発明が目的とする発光色と発光部位の変化は十分成しえることはいうまでもない。
【0043】
印刷部は、図5に示すようにオーバープリント部は二色性蛍光体印刷部に重なる領域を持つことが必要であるが、全面を完全に被覆しない構成にすることが発光色のみならず発光部位も変化させる効果を得るという面では適当である。
【0044】
また、オーバープリント部用インキは一定の紫外線吸収特性を有している必要があるが、乾燥性や印刷適性を考慮した場合、その主要な成分としてはアクリル系樹脂やスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等で構成されたものが望ましい。
【0045】
ただし、発色の変化を顕著に生み出すためには紫外線短波側及び紫外線長波側の光をほぼ均等に吸収してしまうものは適当ではない。また、付与できる皮膜厚さに制限がある場合や、製品に対して長期にわたる耐久性を要求される場合には酸化チタンや酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤を配合することが適当である。加えて蛍光インキ印刷部の可視光観察時の色を阻害しないことが望ましいため、無色であることが好ましい。
【0046】
この実施の形態において、使用した用紙の平滑性はベック平滑度600秒程度とコート紙としては若干低目で光沢度(75°光沢_JIS_P8142_Z8741)も55%と低いものであり、結果として二色性蛍光体印刷部も同様に55%とマット調であったことからオーバープリントにマット調OPニス単独で使用したが、用紙や二色性蛍光体印刷部の光沢度に応じてオーバープリント部の光沢を調整することが望ましい。具体的にはマット調とグロス調のニスを混合することでオーバープリント部の光沢度を調整することが可能であり、これらの配合割合を変えることで75°光沢においては55%から75%の光沢度、60°光沢においては40%から67%の光沢度での調整が可能であることから、可視光下での蛍光印刷部とオーバープリント部の視認性を考慮する場合、マット調OPニスとグロス調OPニスを混合し、用紙光沢度及び蛍光体印刷部の光沢度と一致させ、できる限りオーバープリント部を目立たせないことが望ましい。
【0047】
二色性蛍光体印刷部及びオーバープリント部はともに175線オフセット方式で二色性蛍光インキを付与し乾燥させた後、前記OPニスを使用して重ね刷りを行った。
【0048】
図6はこの蛍光印刷物に対して異なった波長の紫外線を照射した際の検出状態を示す図である。(a)に示す通常の可視光下では、蛍光印刷部及びオーバープリント部ともに薄青色として認識される。(b)に示す紫外線長波(365nm)照射時には、マーク全体が青色に蛍光発光し、(c)に示す紫外線短波(254nm)照射時にはオーバープリント部は発光せず、その他の二色性蛍光体付与領域のみ赤色発光に変化した。また(d)に示す紫外線長短波(200〜400nm)照射時を同時に照射時には、オーバープリント部が青発光、その他の領域が赤発光した。
【実施例2】
【0049】
多色性蛍光体と紫外線吸収剤の組み合わせの例として紫外線吸収剤の網点%を変化させ、色相を赤から青に徐々に変化させる場合の本発明実施形態について図面を参照して説明する。
【0050】
二色性蛍光体を175線で網点パーセント100%のベタとし、これに紫外線吸収剤を用いて175線で網点パーセントが5%から100%まで徐々に変化するグラデーションスケールの重ね刷りを行う。図8はこの発明に係る蛍光印刷物の平面図である。図9(a)は図8における発光印刷物の二色性蛍光印刷部を示し、図9(b)は紫外線吸収剤で印刷を行うオーバープリント部を示す。実際には、基材に二色性蛍光体で印刷をして多色蛍光部を形成し、その後に、紫外線吸収剤を多色蛍光部上の所望の位置に完全に重ね合わせ印刷するものである。
【0051】
使用したインキは実施例1と同様に多色性蛍光印刷はRBタイプの二色性蛍光インキにフタロシアニンブルーを加えて使用し、オーバープリントに用いる紫外線吸収剤も実施例1と同様に一般用のオフセットインキ(DIC製OPニス new championマット)を使用した。基材は実施例1と同様に無蛍光オフセット用コート紙を使用し、オフセット印刷機で印刷を行った。
【0052】
図10は、紫外線吸収剤単体の印刷物の紫外線吸収特性を示したものであり、紫外線吸収剤の網点面積率が大きくなるにしたがって、吸収される紫外線の量が増大していることが確認できることに加え、紫外線長波領域(365nm)においては紫外線吸収剤の網点面積率による吸収特性の差はほとんどないにもかかわらず、紫外線短波領域(254nm)においては紫外線吸収剤の網点面積率による吸収特性の差が大きく開くことがわかる。
【0053】
図11はこの実施例2における蛍光印刷物の効果を色相の変化で表した図である。蛍光体に対する紫外線吸収剤によるオーバープリント部の網点パーセントを示しており、(a)は0%の部位、(b)は50%の部位、(c)は100%の部位における紫外線短波照射時の蛍光発光分布と紫外線長波照射時の蛍光発光分布を示したものである。紫外線吸収剤の網点面積率が高まるにつれて、紫外線短波照射時の赤色の発光強度が低下するものの、紫外線長波照射時には、青色の発光強度は変化していない。
【0054】
目視の確認においても、紫外線長波照射時には青の発光が主体的であり、青の濃度はオーバープリント部の網点パーセント5%〜100%の部位でほとんど変化が認められず、紫外線短波照射時には、赤色の発光が主体的であるものの、赤の濃度はオーバープリント部の網点パーセントが大きくなるにつれて、発光が抑制されていた。紫外線短波と紫外線長波を同時に照射したところ、網点面積率が高まるにつれて、色相が赤から青に徐々に変化し、赤から青のグラデーション状に色相が徐々に変化した。
【0055】
この実施例において紫外線吸収剤の網点面積で色相を調整したが、紫外線吸収剤の被覆厚さを変化させても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0056】
以上のように、多色性蛍光体と紫外線吸収剤の組み合わせによって、蛍光色と蛍光部位の色相が連続的に変化する偽造防止や真偽判別に有効な蛍光印刷物を得た。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】二色性蛍光インキの、254nm励起時、及び365nm励起時の発光ピークを示す。
【図2】DE−RBタイプの分光強度変化を示す。
【図3】本発明の蛍光印刷物の平面図を示す。
【図4】本発明の蛍光印刷物の断面図を示す。
【図5】(a)は本発明の実施例1における蛍光印刷物の二色性蛍光印刷部を示し、(b)はオーバープリント部を示す。
【図6】本発明の蛍光印刷物の観察状態を示す図であり、(a)は可視光観察時、(b)は紫外線長波(365nm)照射時、(c)は紫外線短波(254nm)照射時、(d)は紫外線長短波(200〜400nm)照射時を示す図である。
【図7】OPニスの紫外線吸収特性を示す。
【図8】本発明の実施例2における蛍光印刷物の平面図を示す。
【図9】(a)は本発明の実施例2における蛍光印刷物の二色性蛍光印刷部を示し、(b)はオーバープリント部を示す。
【図10】本発明の実施例2におけるオーバープリント部の紫外線吸収特性を示す。
【図11】本発明の実施例2におけるオーバープリント部の分光強度変化を示しており、(a)は網点0%の部位、(b)は網点50%部位、(c)は網点100%の部位を示す図である。
【図12】従来の技術の蛍光印刷物の断面図を示す。
【図13】(a)は蛍光体印刷部に印刷面から紫外光を照射した場合の発光例、(b)は蛍光体印刷部に印刷面裏側からフィルムを通して紫外光を照射した場合の発光例を示す。
【符号の説明】
【0058】
1 基材
2 通常印刷部
3 多色発光部
4 オーバープリント部
5 透明フィルム
6 二色性蛍光印刷部
7 紫外光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に真偽判別領域を有する発光印刷物であって、
前記真偽判別領域の表面に、異なった波長の紫外線を照射することによって、それぞれ発光波長及び/又は発光強度が変化することで発光色が変化する特性を有する多色発光部が形成され、
前記多色発光部の上に、前記多色発光部を励起させる紫外線波長の一部を吸収する特性を有する物質を、多色発光部の一部分で重なり合わせたオーバープリント部が形成されてなることを特徴とする真偽判別可能な発光印刷物。
【請求項2】
前記多色発光部は、励起波長と発光波長の異なる複数の発光インキがそれぞれ層状に形成してなるか、もしくは励起波長と発光波長の異なる複数の発光体を混合したインキで形成してなることを特徴とする請求項1記載の真偽判別可能な発光印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−192706(P2006−192706A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6585(P2005−6585)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】