説明

真偽判別媒体

【課題】
コレステリック液晶を用いて複雑な画素及び/又は画線構成によって印刷画像を形成し、フィルタを用いない場合に観察できる画像と、フィルタを用いた場合に観察できる画像とが、全く相関のない異なる画像へと変化する、「チェンジング」の効果を得ることができる真偽判別媒体を提供するものである。
【解決手段】
基材に、複数の第1の要素を配置して潜像部を形成し、複数の第2の要素を配置して、潜像部と対を成すカモフラージュ部を形成し、第1の要素と第2の要素と重複しない位置に、複数の情報要素を配置して情報部を形成し、第一の要素は、第一の回転方向の円偏光を反射する第一のコレステリック液晶で形成し、第二の要素と情報要素は、第一の回転方向とは逆回転の第二の回転方向の円偏光を反射する第二のコレステリック液晶で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、フィルタを通さずに観察した場合と、フィルタを通して観察した場合で、視認できる画像が変化する真偽判別媒体に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止する偽造防止技術の一つとして、コレステリック液晶を用いた技術がある。
【0003】
コレステリック液晶は、その分子配列に起因する二つの特徴を有している。一つは分子配列中のらせんピッチに応じた構造色を生じ、光を反射する角度を変えることでらせんピッチが擬似的に変化し、観察される色相が変化する効果、いわゆる色相遷移効果を有するという特徴である。なお、透過光で観察した場合には反射色の補色を呈する。もう一つは、分子配列中のらせんの回転方向と同じ回転方向の偏光のみを反射するという特徴である。色相遷移効果は道具を用いず、裸眼で視認することが可能であり、一方の回転の同じ偏光のみを反射する特徴は、円偏光フィルタを介して観察した場合にのみ確認することが可能である。このように、コレステリック液晶は、二つの異なる効果を同時に利用できることから、偽造防止の分野で従来から広く活用されている。
【0004】
このようなコレステリック液晶材料を用いた印刷物として、基材の透明部にコレステリック液晶部を設け、カラー複写機やパソコンプリンタなどによる複写で偽造を試みた複写物の真偽判定を、目視で容易に行うことができる偽造防止用紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、基材上に有色層を形成し、有色層の上に入射された光のうち右回転の偏光を反射する右偏光反射層と、入射された光のうち左回転の偏光を反射する左偏光反射層を備えることを特徴とする光学素子を貼付された印刷物が開示されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0006】
また、基材上に、偏光層を設けた潜像形成体において、偏光層が少なくとも網点で形成された偏光潜像部を有し、偏光潜像部は網点潜像部と網点背景部とから成ることにより、偏光潜像及び網点潜像の双方を検出可能な検証器具を用いて、偏光潜像及び網点潜像の出現の有無から真偽判定を行うことが可能な潜像形成体が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−318399号公報
【特許文献2】特開2003−170649号公報
【特許文献3】特開2009−98454号公報
【特許文献4】特開2010−221539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の技術はいずれも、コレステリック液晶の反射する円偏光を真偽判別に用いる印刷物である。しかし、円偏光フィルタを通した場合に観察できる画像は、それまで観察されていた有意画像の一部のみが消失せずに観察できるものか、濃淡のないフラットな階調で観察されていた領域中に、それまで観察されていなかった潜像画像が出現するものに限られていた。すなわち、通常、観察されていた有意画像が、フィルタを通して観察した場合に全く異なる有意画像へと変化する効果、いわゆる「チェンジング」と呼ばれる効果を実現することは不可能であった。
【0009】
また、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4に記載の技術は、いずれも、コレステリック液晶の円偏光で真偽判別を行うために、円偏光フィルタを通して画像を確認するものである。この円偏光フィルタを用いた判定方法は、言うなればコレステリック液晶独自の分子配列の特徴を目に見える形に可視化するものであるから、極めて偽造が難しく、極めて精度の高い判定方法であるといえる。しかし、この判定方法は、専用の円偏光フィルタを別に用意して確認する必要があり、判定できるユーザーが制限されるという問題があった。
【0010】
本発明は、課題の解決を目的とするものであり、コレステリック液晶を用いて複雑な画素及び/又は画線構成によって印刷画像を形成し、フィルタを用いない場合に観察できる画像と、フィルタを用いた場合に観察できる画像とが、全く相関のない異なる画像とする、「チェンジング」の効果を得ることができる真偽判別媒体を提供するものである。
【0011】
また、本発明の一形態においては、円偏光フィルムを基材として、円偏光フィルムとコレステリック液晶による画像とを一体に形成した真偽判別媒体であって、従来のように真偽判別用の円偏光フィルタを所持する必要がなく、すべてのユーザーが、表側から見た場合と、裏側から見た場合とで全く相関のない、異なる画像へと変化する、チェンジングの効果を容易に観察して真偽判別をすることが可能な真偽判別媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の真偽判別媒体は、円偏光を透過する機能を有さない基材の少なくとも一部に印刷画像が形成され、印刷画像は、背景要素が規則的に複数配置されて成る背景部と、背景要素に重ならないように情報要素が規則的に複数配置されて成る情報部から成り、背景部を構成する背景要素は、潜像部を形成する第一の要素と、潜像部をカモフラージュするカモフラージュ部を形成する第二の要素に区分けされ、第一の要素は、第一の回転方向の円偏光のみを反射する第一のコレステリック液晶により形成され、第二の要素及び情報要素は、第一のコレステリック液晶と同じ構造色を有し、かつ、第一の回転方向とは逆回転の第二の回転方向の円偏光のみを反射する第二のコレステリック液晶により形成され、印刷画像を可視光の反射光下で観察すると情報部が主体的に視認され、第一の回転方向の円偏光を透過する円偏光フィルタを用いて観察した場合に、潜像部が視認されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の真偽判別媒体は、情報要素、第一の要素及び第二の要素が、画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の真偽判別媒体は、第一の回転方向の円偏光のみを透過する透明又は半透明の基材の表側の面の少なくとも一部に印刷画像が形成され、印刷画像は、背景要素が規則的に複数配置されて成る背景部と、背景要素に重ならないように情報要素が規則的に複数配置されて成る情報部から成り、背景部を構成する背景要素は、潜像部を形成する第一の要素と、潜像部をカモフラージュするカモフラージュ部を形成する第二の要素に区分けされ、第一の要素は、第一の回転方向の円偏光のみを反射する第一のコレステリック液晶により形成され、第二の要素及び情報要素は、第一のコレステリック液晶と同じ構造色を有し、かつ、第一の回転方向とは逆回転の第二の回転方向の円偏光のみを反射する第二のコレステリック液晶により形成され、基材の表側から印刷画像を可視光の反射光下で観察した場合、情報部が主体的に視認され、基材の裏側から可視光の反射光下で観察した場合及び基材の表裏から透過光下で観察した場合、潜像部が視認されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の真偽判別媒体は、情報要素、第一の要素及び第二の要素が、画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の貴重印刷物は、前述した真偽判別媒体が、真偽判別媒体を構成する基材とは異なる基材の一部に設けられた窓あき部を覆うように積層されて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真偽判別媒体は、フィルタを用いない場合に観察できる画像と、フィルタを用いた場合に観察できる画像とが、全く相関のない異なる画像へと変化する、「チェンジング」の効果を得ることができ、画像変化が大きく万人にとってわかり易いことから真偽判別性に優れる。
【0018】
また、複雑な画素及び/又は画線構成を用いなければ本発明の画像のチェンジ効果を発現させることは不可能であることから、画素、画線構成に関する知見も必要となる。よって、本発明の真偽判別媒体は、コレステリック液晶を入手しただけでは不可能であり、偽造防止効果に優れる。また、従来技術のように、通常観察されていた有意画像とフィルタを通して観察した場合に観察される有意画像の配置に制約が無くなったことで、印刷物のデザイン上の自由度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の一形態においては、従来、判別具のフィルタを別に用意しなければ行えなかった円偏光を利用した真偽判別を、印刷物を表側から観察した場合と、印刷物を裏側から見た場合とで生じる、チェンジングの効果を確認することで行える。この方法によって、印刷物を手にした万人が、迅速かつ極めて容易に真偽判別を行うことができる。
【0020】
本発明の一形態においては、従来の印刷画像とフィルタが分離したタイプの認証と比較して、全く同じ材料(コレステリック液晶とフィルタ)を用いて形成した場合でも、フィルタを通して観察される画像(本発明の真偽判別媒体においては裏側から観察した画像)が従来の技術よりも鮮明な画像となる。これはフィルタと印刷画像が密着しているために、印刷画像とフィルタ間に外乱光が入射しないことで生じる大きな利点である。
【0021】
また、従来のコレステリック液晶を用いた偽造防止技術と同様に、反射光下で光が入射した場合に特定の色相の反射光が生じる、優れたカラーフリップフロップ効果を有するとともに、光を入射させた状態で、さらに印刷物を傾けて観察することで、印刷画像の色相が、構造色を起点として長波長側から短波長側へと鮮やかにシフトする、極めて優れた色相遷移効果を有することから、真偽判別効果に優れる。
【0022】
また、透過光下で観察した場合、潜像部が透過光下で反射色の補色を呈する効果も生じることから、真偽判別効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の真偽判別媒体を示す説明図である。
【図2】(a)は印刷画像の説明図であり、(b)は情報部の説明図であり、(c)は背景部の説明図である。
【図3】(a)は背景部の説明図であり、(b)は潜像部の説明図であり、(c)はカモフラージュ部の説明図である。
【図4】(a)は第一のコレステリック液晶で形成する画像の説明図であり、(b)は第二のコレステリック液晶で形成する画像の説明図である。
【図5】(a)は、真偽判別媒体を可視光の反射光下の観察条件で観察した場合に、視認される画像の説明図であり、(b)は真偽判別媒体を、円偏光フィルタを通して観察した場合に、視認される画像の説明図である。
【図6】画線で構成される情報要素の説明図である。
【図7】画素と画線が配置される方向の説明図である。
【図8】画線と画素で構成される情報要素と背景要素の説明図である。
【図9】真偽判別媒体が貼付けられて成る貴重印刷物の説明図である。
【図10】本発明の実施例1における真偽判別媒体を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例1における下地画像を示す説明図である。
【図12】(a)は本発明の実施例1における印刷画像の説明図であり、(b)は情報部の説明図であり、(c)は背景部の説明図である。
【図13】(a)は本発明の実施例1における背景部の説明図であり、(b)は潜像部の説明図であり、(c)はカモフラージュ部の説明図である。
【図14】(a)は本発明の実施例1における第一のコレステリック液晶で形成する画像の説明図であり、(b)は本発明の一実施例における第二のコレステリック液晶で形成する画像の説明図である。
【図15】(a)は、本発明の実施例1における真偽判別媒体を可視光の反射光下の観察条件で観察した場合に、視認される画像の説明図であり、(b)は本発明の実施例1における真偽判別媒体を、円偏光フィルタを通して観察した場合に、視認される画像の説明図である。
【図16】本発明の実施例2における真偽判別媒体を示す説明図である。
【図17】(a)は本発明の実施例2における印刷画像の説明図であり、(b)は情報部の説明図であり、(c)は背景部の説明図である。
【図18】(a)は本発明の実施例2における背景部の説明図であり、(b)は潜像部の説明図であり、(c)はカモフラージュ部の説明図である。
【図19】(a)は本発明の実施例2における第一のコレステリック液晶で形成する画像の説明図であり、(b)は本発明の実施例2における第二のコレステリック液晶で形成する画像の説明図である。
【図20】(a)は、本発明の実施例2における真偽判別媒体を表側から観察した場合に視認される画像の説明図であり、(b)は本発明の実施例2における真偽判別媒体を、裏側から観察した場合に、視認される画像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1に本発明の第1の実施の形態の真偽判別媒体(1)を示す。本発明の第1の実施の形態の真偽判別媒体(1)は基材(2)上に、印刷画像(3)が形成されている。基材(2)は、透明でも不透明でも良く、材質は特に問わないが、フィルムやコート紙のように平滑性の高い材質が望ましい。以降の説明では、基材(2)上に印刷画像(3)が形成される面を「表側」とし、その反対の面を「裏側」として説明する。
【0026】
図2に、印刷画像(3)の構成を示す。図2(a)に示す印刷画像(3)は、図2(b)に示す情報部(4)と図2(c)に示す背景部(5)が組み合わさって構成される。
【0027】
情報部(4)は、高さ(H1)、幅(R1)の円形の画素である情報要素(6)がピッチ(P1)で規則的に複数配置されて成り、第一の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字を形成している。本発明において、情報要素(6)が画素で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の情報要素(6)がピッチ(P1)で二つの異なる方向にマトリクス状に配置された状態のことである。図2(b)では、情報要素(6)が上下左右方向の二つの方向に特定のピッチで配置された状態を示しているが、二つの異なる方向は、上下左右方向に限定されず、斜め方向であっても良い。
【0028】
図2(c)に示す、一方の背景部(5)は、高さ(H2)、幅(R2)の円形の画素である背景要素(7)が、情報要素(6)のピッチと同じピッチ(P1)で、同じく規則的に複数配置されて成り、一定の階調の背景を形成している。本発明において、背景要素(7)が画素で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の背景要素(7)がピッチ(P1)で二つの異なる方向にマトリクス状に配置された状態のことであり、背景要素(7)を配置する方向は、画素で形成された情報要素(6)をマトリクス状に配置する方向と同じ方向である。
【0029】
図3に、背景部(5)の構成を示す。図3(a)に示す背景部(5)は、図3(b)に示す潜像部(8)と図3(c)に示すカモフラージュ部(9)から成る。前述したように、背景部(5)を構成するのは背景要素であるが、本発明において、背景要素は、図3(b)に示す潜像部(8)を構成する画素とカモフラージュ部(9)を構成する画素に区分けされる。以降の説明では、潜像部(8)を構成する画素のことを「第一の要素(10)」、カモフラージュ部(9)を構成する画素のことを「第二の要素(11)」として説明する。
【0030】
潜像部(8)は、図3(b)に示すように、第一の要素(10)が規則的に複数配置されて、第二の有意情報であるアルファベットの「OK」の文字が形成されている。一方のカモフラージュ部(9)は、図3(c)に示すように、第二の要素(11)が規則的に複数配置されて、潜像部(8)を取り囲んでアルファベットの「OK」の文字がネガの状態で形成されている。本発明において潜像部(8)とカモフラージュ部(9)はポジとネガを成す一対の画像であり、かつ、等しい面積率で形成される。なお、本発明における面積率とは、基材(2)の一定の面積の中に印刷される要素の面積の割合のことである。この構成によって、潜像部(8)とカモフラージュ部(9)が組み合わさった場合には、潜像部(8)が背景部(5)の一定の階調を有する背景の中に隠蔽される。
【0031】
なお、情報要素(6)、第一の要素(10)及び第二の要素(11)は互いに重なり合わない位置に配置される(図2(a)の拡大図)。仮に、第一の要素(10)と第二の要素(11)の一部が重なる場合でも、第一の有意情報を観察することができるが、画像に不要な濃淡が生まれ、通常の観察条件で観察される印刷画像(3)が不明瞭になってしまい、本発明のチェンジングの効果が低くなってしまうことから好ましくない。
【0032】
図4(a)に、第一の回転方向の円偏光を反射する第一のコレステリック液晶で形成する画像を示し、図4(b)に第一の回転方向とは逆の、第二の回転方向の円偏光を反射する第二のコレステリック液晶で形成する画像を示す。第一のコレステリック液晶と第二のコレステリック液晶の構造色は同じである必要がある。第一のコレステリック液晶で形成するのは、潜像部(8)のみであり、第二のコレステリック液晶で形成する画像は、情報部(4)とカモフラージュ部(9)を組み合わせた画像である。
【0033】
なお、コレステリック液晶とは、一つの平面内では細長い分子が長軸の方向をそろえて配列しているが、面に垂直な方向に進むにしたがって、分子の配列する向きがらせん状に旋回する構造の液晶であり、らせんピッチと等しい波長の光を選択的に反射する性質と、らせんの回転方向と同じ回転方向の円偏光を選択的に反射するという二つの性質を有している。らせんのピッチを制御することで反射色の色相を制御することができ、光を反射した場合に明度だけでなく色相も同時に変化させる効果、いわゆるカラーフリップフロップ性に優れる。加えて、光を反射させながらコレステリック液晶の傾きを変えて観察した場合には、コレステリック液晶のらせんピッチが擬似的に短くなり、反射光の色相が長波長側から短波長側へと鮮やかにシフトする、優れた色相遷移効果を有する。また、コレステリック液晶が反射する一定の回転方向を有する円偏光は、回転方向が一致したフィルタを透過する一方、回転方向が一致しない逆回転のフィルタは透過できない特徴を有しており、この円偏光の回転方向の違いは、専用のフィルタを所持していなければ察知することは困難であるという特徴を有する。
【0034】
本発明の真偽判別媒体(1)においては、例えば、図4(a)に示す潜像部(8)の第一の要素(10)を左回転の偏光を反射する性質を有する第一のコレステリック液晶で形成した場合、図4(b)に示す画像の情報要素(6)及び第二の要素(11)を、右回転の偏光のみを反射する性質を有する第二のコレステリック液晶で形成する。逆に、第一の要素(10)を右回転の偏光を反射する性質を有する第一のコレステリック液晶で形成した場合、図4(b)に示す画像の情報要素(6)及び第二の要素(11)を、左回転の偏光のみを反射する性質を有する第二のコレステリック液晶で形成する。第一のコレステリック液晶と第二のコレステリック液晶の構造色は同じである必要がある。
【0035】
前述のように、コレステリック液晶が反射する一定の回転方向を有する円偏光は、回転方向が一致したフィルタを透過する一方、回転方向が一致しない逆回転のフィルタは透過できない特徴を有しているため、右回転又は左回転の偏光を反射するコレステリック液晶で形成した画像を、回転が逆のフィルタを介して観察した場合には、画像が観察されないという効果が生じる。本発明では、この効果を利用してチェンジングの効果を得る。
【0036】
コレステリック液晶で画像を形成するにあたっては、コレステリック液晶を固体化して粉砕した顔料を含んだインキを使用しても良いし、流動性のある状態のコレステリック液晶自体を直接インキとして印刷して形成しても良い。印刷方式は特に限定されるものではないが、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等の一定のインキ転移量を得られる印刷方式が適している。
【0037】
以下に本発明の真偽判別媒体(1)の効果について図5を用いて説明する。第一のコレステリック液晶と第二のコレステリック液晶の構造色が、例えば緑色である場合、可視光の反射光下で観察する条件、例えば、蛍光灯や太陽光のような白色光下において裸眼で観察した場合では図5(a)に示すように、印刷画像(3)の中で濃淡が生じ、第一の有意情報である「NPB」の文字が濃く観察される。これは、図2に示した一定の階調を有する背景部(5)に対して、情報要素(6)が重なり合わない位置に配置されることによって、印刷画像(3)の中で面積率の差異による濃淡が生じるためである。
【0038】
また、可視光の反射光下で観察する条件で、真偽判別媒体(1)を入射する光に対して傾けて観察すると、傾ける角度が大きくなるにしたがって印刷画像(3)の色相が緑から青緑、青、紫へと変化する。これは傾ける角度が変わることにより、コレステリック液晶のらせんピッチが擬似的に変化することによって生じる効果である。
【0039】
本発明の真偽判別媒体(1)を第一の回転方向の円偏光のみを透過する円偏光フィルタを通して観察した場合、図5(b)に示すように第二の有意情報である潜像部(8)のみが視認される。これは、図3に示した第一の要素(10)は第一の回転方向の円偏光のみを反射する第一のコレステリック液晶で形成されており、第一の要素(10)から反射した光は、円偏光フィルタを透過して観察者の眼の達することができるからである。よって、第一の要素(10)で形成された潜像部(8)はフィルタを通しても観察できる。一方、情報要素(6)と第二の要素(11)は第二の回転方向の円偏光のみを反射する第二のコレステリック液晶で形成されることから、情報要素(6)と第二の要素(11)から反射した光は、円偏光フィルタを透過することができない。よって、情報部(4)及びカモフラージュ部(9)は円偏光フィルタを通した場合には消失する。以上のことから、本発明の真偽判別媒体(1)を第一の回転方向の円偏光のみを透過する円偏光フィルタを通して観察した場合、図5(b)に示すように第二の有意情報を現した潜像部(8)のみが視認される。
【0040】
以上のように、本発明の真偽判別媒体(1)は、円偏光フィルタを用いない場合に観察できる画像と、円偏光フィルタを用いた場合に観察できる画像とが、全く相関のない異なる画像へと変化する、「チェンジング」の効果を得ることができる。また、真偽判別媒体(1)を正反射させた場合に生じる、鮮やかなカラーフリップフロップ効果と、傾けた場合に生じる色相遷移変化も、コレステリック液晶を用いる本発明の真偽判別媒体(1)の優れた効果の一つである。
【0041】
なお、本発明を形成する基材(2)が白色である場合には、コレステリック液晶の構造色の補色も基材で反射されるために、観察者に達する反射光は、コレステリック液晶の反射した構造色と、基材が反射したコレステリック液晶の構造色の補色が合成された色彩となり、結果的に白色光に近くなってしまう。この場合、反射光に彩度の高い色彩を付与することが困難であり、印刷画像(3)の視認性は低くなる傾向にある。以上のことから、ユーザーが印刷画像(3)の視認性を高めたいと考える場合においては、印刷画像(3)の下に構造色の補色を吸収する働きを成す下地画像を形成しておくことが望ましい。下地画像は構造色の補色を吸収する効果を有し、印刷画像(3)の下に配置されることを満たすのであれば、その色彩や図柄は特に制限はない。下地画像については、実施例1で具体的に説明する。また、基材が透明であった場合には、基材が白色の場合と同様に構造色を観察することは困難であることから、印刷画像(3)を観察する場合には真偽判別媒体(1)の裏側に黒い色の台紙等を置いて観察することが望ましい。
【0042】
本実施の形態の説明では、情報要素(6)、第一の要素(10)及び第二の要素(11)を、画素で形成した例で説明しているが、本発明の真偽判別媒体(1)は、画線及び画素のいずれを用いても形成することができ、画線と画素の組合せを用いて形成することもできる。
【0043】
なお、本明細書でいう画素とは、印刷画像を構成する最小単位である印刷網点自体か、あるいは印刷網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、例えば円、三角形や四角形等を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号等が含まれ、画素の形状は如何なるものであっても本発明における画素に含まれるものとする。本発明において、画素の大きさ、すなわち、情報要素の高さ(H1)、幅(R1)及び背景要素の高さ(H2)、幅(R2)の大きさは、特に限定されるものではないが、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の等の貴重印刷物に形成する場合、30μm〜5mmの範囲で形成され、前述したように、情報要素と背景要素が重ならないように配置するのが良い。
【0044】
また、本明細書でいう画線とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を、所定方向に隙間無く連続して配置することにより形成した画像要素であって、例えば直線、曲線、波線、点線や破線等の分断線等が含まれ、画線の形状は如何なるものであっても本発明における画線に含まれるものとする。
【0045】
この場合、画線で構成される情報要素(6)が、ピッチ(P1)で規則的に配置されて、情報部(4)が形成される。
【0046】
本発明において、情報要素(6)が画線で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の情報要素(6)が画線の方向と異なる所定の方向にピッチ(P1)で配置された状態のことである。図6(a)では、左右方向の画線で形成された情報要素(6)に対して、上下方向にピッチ(P1)で配置された状態を示しており、図6(b)では、上下方向の画線で形成された情報要素(6)に対して、左右方向にピッチ(P1)で配置された状態を示しており、図6(c)では、左斜めに傾斜した画線で形成された情報要素(6)に対して、右斜め方向にピッチ(P1)で配置された状態を示している。情報要素(6)を配置する所定の方向は、画線の方向と異なる方向であれば、図6に示す方向に限定されるものではない。
【0047】
本説明では、図6(a)に示す上下方向の画線の太さ及び図6(b)に示す左右方向の画線の太さを、「情報要素の画線の幅(W1)」として説明する。情報要素の画線の幅(W1)は、30μm〜5mmの範囲で形成される。
【0048】
背景要素(7)が画線で構成される場合も、情報要素(6)が画線で構成される場合と同様であるので、説明は省略するが、画線で構成される背景要素(7)に対しては、背景要素の画線の幅(W2)として説明する。
【0049】
前述したように、情報要素(6)と背景要素(7)は、重なり合わないように配置されることから、情報要素(6)と背景要素(7)が画線で形成される場合、情報要素(6)と背景要素(7)の画線の方向と、情報要素(6)と背景要素(7)が配置される方向は、同じである。情報要素(6)と背景要素(7)が画線で構成される印刷物(1)は、実施例2で説明する。
【0050】
また、情報要素(6)と背景要素(7)のうち、一方が画素で形成され、他方が画線で形成される場合は、図7(a)及び図7(b)に示すように、マトリクス状に配置される画素の二つの方向のうち、一方の方向に対して、画線の方向又は画線が配置される方向の一方が同じ方向であり、マトリクス状に配置される画素の残りの方向に対して、画線の方向又は画線が配置される方向の残りの方向が同じ方向である。
【0051】
図6で説明した画線で形成される情報要素(6)と背景要素(7)に対して、目視上、同じ画線として観察される範囲であれば、図8(a)に示すように、情報要素(6)と背景要素(7)の一部を画素で形成しても良い。また、同じ画線として観察される範囲であれば、図8(b)に示すように、複数配置された情報要素(6)と背景要素(7)ごとに、画線、画素又はそれらの複合の構成としてもよい。
【0052】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、第1の実施の形態に対して、真偽判別媒体(1)を構成する基材(2)が異なり、印刷画像(3)の構成は同じである。以下、第2の実施の形態の真偽判別媒体(1)について説明するが、印刷画像(3)の構成は第1の実施の形態と同じであるため説明を省略する。
【0053】
(基材)
第2の実施の形態に用いる基材(2)は、第一の回転方向の円偏光のみを透過する透明又は半透明な材料で形成されて成る。基材(2)の光透過率としては、30%以上が望ましい。これは、基材(2)の透過率が30%より小さくなると、表側から見た場合と、裏側から見た場合とで生じる画像の変化を観察し難くなるためである。このような基材(2)の例としては、少なくとも偏光フィルムと位相差フィルム(1/4波長板)が積層されてなる構成をとり、これらを強度的に保護し、温湿度による劣化を防止するために、透明性が高く低複屈折率であり耐候性に優れた保護フィルムを積層することが望ましい。このような保護フィルムの例としてはトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどが挙げられる。位相差フィルムは、広帯域化のため複数枚の位相差板を積層した構成をとっても良い。ただし、基材(2)の構成はこれに限らず、前述した積層構造をとらなくても同機能を発揮するものであれば良い。
【0054】
第2の実施の形態の真偽判別媒体(1)は、以上説明した基材(2)の上に、第1の実施の形態と同様にして、印刷画像(3)が形成されて成る。このように作製された第2の実施の形態の真偽判別媒体(1)を、表側から可視光の反射光下で観察した場合には、第1の実施の形態の真偽判別媒体と同様に、「NPB」の文字が濃く観察される。また、裏側から可視光の反射光下で観察した場合には、第1の実施の形態の真偽判別媒体を、フィルタを通して観察した場合の条件と同じになるため、情報部(4)及びカモフラージュ部(9)は消失し、第二の有意情報を現した潜像部(8)のみが視認される。この形態は本発明の真偽判別媒体(1)の最も優れた形態であり、従来、判別具として用いられてきた円偏光フィルタを、基材(2)として用いることで、コレステリック液晶独自の分子配列の特徴に基づく真偽判別を、真偽判別媒体(1)を手にした万人が判定具を必要とすることなく行うことができる。
【0055】
また、この円偏光フィルタを基材として用いた形態の本発明の真偽判別媒体を透過光下で観察すると、潜像部(8)はコレステリック液晶の構造色の補色に変化し、それ以外の情報部(4)とカモフラージュ部(9)は透明に変化する効果を有する。透過光下において、コレステリック液晶は反射光下で視認されていた構造色の補色を呈することが知られているため、潜像部(8)が補色を呈することは特別な効果とは言えないが、情報部(8)とカモフラージュ部(9)が無色透明に変化することは本発明の特別な効果である。これは、第二の要素(11)及び情報要素(6)によって反射されなかった第二の回転方向の構造色の補色が基材(2)によって遮断され、かつ、第一の回転方向の円偏光はそのまま観察者に達するため発生する効果である。結果として、透過光下でも構造色の補色を呈した潜像部(8)のみを視認することができる。
【0056】
以上のように、本発明において真偽判別媒体を、第一の回転方向の円偏光のみを透過する円偏光フィルタを基材に用いて形成する一形態においては、表裏から観察できる画像がそれぞれ変化する効果を得ることができる。また、反射光下で正反射させながら角度を変えて観察した場合に、印刷画像(3)が呈する色相が変化する第一の効果と、表側から見た場合と、裏側から見た場合で観察できる画像が変化する第二の効果と、透過光下で潜像部(8)が補色を呈して観察できる第三の効果を少なくとも備えており、その三つの効果のいずれも道具を必要とすることなく、裸眼で確認できることから、この形態の真偽判別媒体は特に真偽判別性に優れる。円偏光フィルタを基材に用いる真偽判別媒体の例は、実施例2で後述する。
【0057】
第2の実施の形態の真偽判別媒体(1)は、単体で用いることが可能であるだけでなく、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券、商品券等の貴重印刷物の一部に積層し、一体化して使用することができる。このような貴重印刷物の構成について図9を用いて説明する。
【0058】
図9は、例として商品券の形態の貴重印刷物(20)を示しており、図9(a)はその平面図、図9(b)は、図9(a)のX−X’線における断面図を示している。図9(a)に示す貴重印刷物(20)には、額面(23)が設けられているが、その他の模様、図柄が形成される構成でも良い。また、偽造防止対策として、スレッド、ホログラム、紫外赤外発光インキ、複写防止画線等が施される構成でも良い。
【0059】
貴重印刷物を構成する基材(21)は、紙、フィルム、プラスチックが用いられる。なお、貴重印刷物を構成する基材(21)は、透明でも良いし、不透明であっても良い。このような貴重印刷物を構成する基材(21)の一部に、あらかじめ基材(21)を除去した窓あき部(22)を形成しておく。本発明において、窓あき部(22)とは、貴重印刷物を構成する基材(21)を貫通する穴のことであり、図9(a)では、窓あき部(22)の範囲を破線で図示している。窓あき部(22)を形成する範囲は、図9(a)に示すように、真偽判別媒体(1)に形成される印刷画像(3)の範囲より大きく形成しておく必要がある。窓あき部(22)を形成する方法としては、型抜き加工、レーザー加工を用いることができる。
【0060】
そして、図9(b)に示すように、窓あき部(22)を覆うように、真偽判別媒体(1)が積層されることで、一体型の貴重印刷物(20)が形成される。このとき、真偽判別媒体(1)に形成される印刷画像(3)が窓あき部(22)の範囲内に位置するようにして積層される。真偽判別媒体(1)を積層する手段は、接着剤によって貴重印刷物を構成する基材(21)に直接貼り付ける又はラミネートフィルムで真偽判別媒体(1)を覆うようにして接着することができる。
【0061】
このようにして作製された貴重印刷物(20)は、窓あき部(22)を設けることによって、真偽判別媒体(1)の表側と裏側の観察が可能であり、画像が変化する効果が得られる。
【0062】
また、貴重印刷物を構成する基材(21)に、透明なフィルム、プラスチックを用いる場合、真偽判別媒体(1)を直接貼り付けても良い。
【0063】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した真偽判別媒体の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
実施例1は、一般的なコート紙(日本製紙製)を基材(2´)として用い、左回転の円偏光を反射するコレステリック液晶を第一のコレステリック液晶とし、右回転の円偏光を反射するコレステリック液晶を第二のコレステリック液晶とし、各要素を円形の画素で形成した真偽判別媒体(1´)の例である。
【0065】
実施例1は図10から図15を用いて説明する。まず、基材(2´)に対して、印刷画像(3´)を形成する前に、あらかじめ黒色の下地画像(13´)をUV乾燥型フレキソ印刷で形成した(図11)。この下地画像(13´)は、コレステリック液晶の構造色の補色を吸収する働きを有し、印刷画像のコレステリック液晶の構造色を強調する効果を有する。下地画像(13´)は印刷画像(3´)と略等しい大きさのベタ画像とした。
【0066】
図12に印刷画像(3´)の構成を示す。図12(a)に示す印刷画像(3´)は、図12(b)に示す情報部(4´)と図12(c)に示す背景部(5´)から構成した。情報部(4´)は、直径0.2mmの円形の画素である情報要素(6´)をピッチ0.4mmでマトリクス状に配置して構成し、第一の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字を形成した。一方の背景部(5´)は、直径0.3mmの円形の画素である背景要素(7´)をピッチ0.4mmで、同じくマトリクス状に配置して構成し、一定の階調を形成した。
【0067】
図13に背景部(5´)の構成を示す。図13(a)に示す背景部(5´)は、図13(b)に示す潜像部(8´)と図13(c)に示すカモフラージュ部(9´)から構成した。潜像部(8´)は、直径0.3mmの円形の画素である第一の要素(10´)をピッチ0.4mmでマトリクス状に配置し、第二の有意情報であるアルファベットの「OK」の文字を形成した。一方のカモフラージュ部(9´)は、直径0.3mmの円形の画素である第二の要素(11´)をピッチ0.4mmでマトリクス状に配置し、潜像部(8´)を取り囲むアルファベットの「OK」の文字をネガで形成した。
【0068】
緑色の構造色を呈し、かつ、左回転の円偏光を反射する第一のコレステリック液晶で、図14(a)に示す画像を形成し、緑色の構造色を呈し、右回転の円偏光を反射する第二のコレステリック液晶で、図14(b)に示す画像を形成した。第一のコレステリック液晶で形成したのは、潜像部(8´)のみであり、第二のコレステリック液晶で形成した画像は、情報部(4´)とカモフラージュ部(9´)を組み合わせた画像である。それぞれの画像を、第一のコレステリック液晶及び第二のコレステリック液晶を用いてUV乾燥方式のフレキソ印刷によって基材(2´)上の下地画像(13´)に重ねて形成した。
【0069】
以下に実施例1の真偽判別媒体(1´)の効果について図15を用いて説明する。可視光の反射光下で観察する条件では図15(a)に示す第一の有意情報である「NPB」の文字が濃淡を有して表現された印刷画像(3´)自体がコレステリック液晶の構造色によって視認された。下地に下地画像(13´)が存在することから、印刷画像(3´)全体がやや暗い緑色として視認された。
【0070】
また、可視光の反射光下で、真偽判別媒体(1´)を入射する光に対して傾けて観察すると、傾ける角度が大きくなるにしたがって印刷画像(3´)の色彩が緑から青緑、青、紫へと変化する効果が確認できた。
【0071】
最後に、実施例1の真偽判別媒体(1´)を左回転の円偏光のみを透過する円偏光フィルタを通して観察した場合、図15(b)に示すように第二の有意情報である潜像部(8´)と下地画像(13´)のみが視認された。
【0072】
以上のように、実施例1の真偽判別媒体(1´)は、円偏光フィルタを用いない場合に観察できる画像と、円偏光フィルタを用いた場合に観察できる画像とが、全く相関のない異なる画像へと変化する、「チェンジング」の効果を得ることができることが確認できた。また、真偽判別媒体(1´)を正反射させて徐々に傾けた場合には印刷画像(3´)の反射色の色相が徐々に変化する色相遷移効果を観察することができた。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、左回転の円偏光のみを透過する円偏光フィルタを基材(2´´)として用い、左回転の円偏光を反射するコレステリック液晶を第一のコレステリック液晶とし、右回転の円偏光を反射するコレステリック液晶を第二のコレステリック液晶とし、各要素を画線で形成した真偽判別媒体(1´´)の例である。
【0074】
実施例2は図16から図20を用いて説明する。実施例2で用いた円偏光フィルタは、わずかに黒味を帯びているが、充分な光透過性を有する透明な材質であり、一見してフィルタであるとは判断できない。この円偏光フィルタを基材(2´´)として、印刷画像(3´´)を形成した。
【0075】
図17に印刷画像(3´´)の構成を示す。図17(a)に示す印刷画像(3´´)は図17(b)に示す情報部(4´´)と図17(c)に示す背景部(5´´)から構成した。情報部(4´´)は、幅0.10mmの画線である情報要素(6´´)をピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置し、第一の有意情報であるアルファベットの「NPB」の文字を形成した。一方の背景部(5´´)は、幅0.25mmの画線である背景要素(7´´)をピッチ0.4mmで、S1方向に配置して、一定の階調を形成した。
【0076】
図18に背景部(5´´)の構成を示す。図18(a)に示す背景部(5´´)は、図18(b)に示す潜像部(8´´)と図18(c)に示すカモフラージュ部(9´´)から構成した。潜像部(8´´)は、幅0.25mmの画線である第一の要素(10´´)をピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置し、第二の有意情報である五つの星の画像を形成した。一方のカモフラージュ部(9´´)は、幅0.25mmの画線である第二の要素(11´´)をピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置し、潜像部(8´´)を取り囲む五つの星の画像をネガで形成した。
【0077】
赤色の構造色を呈し、かつ、左回転の円偏光を反射する第一のコレステリック液晶で、図19(a)に示す画像を形成し、赤色の構造色を呈し、右回転の円偏光を反射する第二のコレステリック液晶で、図19(b)に示す画像を形成した。第一のコレステリック液晶で形成したのは、潜像部(8´´)のみであり、第二のコレステリック液晶で形成した画像は、情報部(4´´)とカモフラージュ部(9´´)を組み合わせた画像である。それぞれの画像を、第一のコレステリック液晶及び第二のコレステリック液晶を用いてUV乾燥方式のフレキソ印刷によって基材(2´´)に形成した。
【0078】
実施例2の効果について図20を用いて説明する。実施例2の真偽判別媒体(1´´)を表側から観察した場合、図20(a)に示すように、「NPB」の第一の有意情報を現した印刷画像(3´´)が赤色で観察された。また、実施例2の真偽判別媒体(1´´)を正反射させて徐々に傾けた場合、印刷画像(3´´)が、赤色から黄色、緑色、青色へと徐々に色相が変化する色相遷移効果を示した。また、実施例2の真偽判別媒体(1´´)を裏側から観察した場合、図20(b)に示すように、第二の有意情報である5つの星を表した潜像部(8´´)のみが赤色で観察された。加えて、実施例2の真偽判別媒体(1´´)を透過光下で観察した場合には、情報部(4´´)及びカモフラージュ部(9´´)から色彩が失われて透明に変化し、一方の潜像部(8´´)は赤色の補色である青緑色(シアン)に変化することで、第二の有意情報である五つの星を表した潜像部(8´´)のみが緑色で観察された。以上のように、印刷画像(3´´)の色相変化の効果と、表側から見た画像と裏側から見た画像が異なる効果が確認できた。また、これらの効果に加えて透過光下でも潜像部(8´´)が観察できる効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0079】
1、1´、1´´ 真偽判別媒体
2、2´、2´´ 基材
3、3´、3´´ 印刷画像
4、4´、4´´ 情報部
5、5´、5´´ 背景部
6、6´、6´´ 情報要素
7、7´、7´´ 背景要素
8、8´、8´´ 潜像部
9、9´、9´´ カモフラージュ部
10、10´、10´´ 第一の要素
11、11´、11´´ 第二の要素
13´ 下地画像
20 貴重印刷物
21 貴重印刷物を構成する基材
22 窓あき部
23 額面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏光を透過する機能を有さない基材の少なくとも一部に印刷画像が形成され、前記印刷画像は、背景要素が規則的に複数配置されて成る背景部と、前記背景要素に重ならないように情報要素が規則的に複数配置されて成る情報部から成り、前記背景部を構成する前記背景要素は、潜像部を形成する第一の要素と、前記潜像部をカモフラージュするカモフラージュ部を形成する第二の要素に区分けされ、前記第一の要素は、第一の回転方向の円偏光のみを反射する第一のコレステリック液晶により形成され、前記第二の要素及び前記情報要素は、前記第一のコレステリック液晶と同じ構造色を有し、かつ、前記第一の回転方向とは逆回転の第二の回転方向の円偏光のみを反射する第二のコレステリック液晶により形成され、前記印刷画像を可視光の反射光下で観察すると前記情報部が主体的に視認され、前記第一の回転方向の円偏光を透過する円偏光フィルタを用いて観察した場合に、前記潜像部が視認されることを特徴とする真偽判別媒体。
【請求項2】
前記情報要素、前記第一の要素及び前記第二の要素が、画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする請求項1記載の真偽判別媒体。
【請求項3】
第一の回転方向の円偏光のみを透過する透明又は半透明の基材の表側の面の少なくとも一部に印刷画像が形成され、前記印刷画像は、背景要素が規則的に複数配置されて成る背景部と、前記背景要素に重ならないように情報要素が規則的に複数配置されて成る情報部から成り、前記背景部を構成する前記背景要素は、潜像部を形成する第一の要素と、前記潜像部をカモフラージュするカモフラージュ部を形成する第二の要素に区分けされ、前記第一の要素は、第一の回転方向の円偏光のみを反射する第一のコレステリック液晶により形成され、前記第二の要素及び前記情報要素は、前記第一のコレステリック液晶と同じ構造色を有し、かつ、前記第一の回転方向とは逆回転の第二の回転方向の円偏光のみを反射する第二のコレステリック液晶により形成され、前記基材の表側から印刷画像を可視光の反射光下で観察した場合、前記情報部が主体的に視認され、前記基材の裏側から可視光の反射光下で観察した場合及び前記基材の表裏から透過光下で観察した場合、前記潜像部が視認されることを特徴とする真偽判別媒体。
【請求項4】
前記情報要素、前記第一の要素及び前記第二の要素が、画線又は画素の少なくとも一つ、又はその組み合わせから成ることを特徴とする請求項3記載の真偽判別媒体。
【請求項5】
請求項3又は4のいずれか1項に記載の真偽判別媒体が、前記真偽判別媒体を構成する基材とは異なる基材の一部に設けられた窓あき部を覆うように積層されて成ることを特徴とする貴重印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−7802(P2013−7802A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138996(P2011−138996)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】