説明

真偽判定体及び真偽判定方法

【課題】真偽判断が容易に行なえる真偽判定体及び審議判定方法を提供する。
【解決手段】多角形柱状に形成された複数のプリズム22a,22bを配列したプリズム層20を備える真偽判定体を、プリズム層20は、複数のプリズム22aを、略一定の間隔で配列した第1のプリズム領域Aと、複数のプリズム22bを、第1のプリズム領域Aと間隔、配列方向の少なくとも一方を異ならせ、又は、配列周期をずらして配列した第2のプリズム領域B。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真正品と偽造品とを判別するための真偽判定体及び真偽判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真偽判定体とは、真正品と、偽造品とを判別可能とするための処理が施された印刷物等の媒体をいう。
このような真偽判定体は、例えば、証券、株券、商品券、ギフト券等の金券類、クレジットカード、プリペイドカード、キャッシュカード、IDカード等のカード類、パソコンソフト、ゲームソフト、オーディオ・ビジュアルソフト等に添付される認証情報表示体、パスポート等に用いられる。
また、このような真偽判定体を、トレーサビリティが要求される農産物、畜産物、工業製品等の製品に添付し、製品の真偽判定を行なうことができる。
【0003】
従来、真偽判定体として、カラー複写機等を用いても容易に複製できず、偽造や変造が困難でありかつ優れた意匠性を備えたホログラムを用いることが知られている(例えば、特許文献1。)。
しかし、近年、ホログラムの偽造が行なわれるようになり、目視により真偽の判定ができない場合があった。
【特許文献1】特開平08−076674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、真偽判断が容易に行なえる真偽判定体及び真偽判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0006】
請求項1の発明は、多角形柱状に形成された複数のプリズム(22a,22b)を配列したプリズム層(20)を備える真偽判定体において、前記プリズム層(20)は、複数の前記プリズム(22a)を、略一定の間隔で配列した第1のプリズム領域(A)と、複数の前記プリズム(22b)を、前記第1のプリズム領域(A)と間隔、配列方向の少なくとも一方を異ならせ、又は、配列周期をずらして配列した第2のプリズム領域(B)とを備えることを特徴とする真偽判定体である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の真偽判定体において、前記プリズム(22a,22b)は、その第1の面(23)及び第2の面(24)を前記プリズム層(20)の一方の面側に向けて設けられ、前記プリズム(22a,22b)の第1の面(23)及び第2の面(24)にそれぞれ接し、このプリズム(22a、22b)よりも低い屈折率を有する低屈折率層(30)を有し、所定の範囲の角度から前記プリズム(22a,22b)に入射する光線がこのプリズム(22a,22b)内を通過して前記第1の面(23)に入射する入射角が、この第1の面(23)における臨界角よりも大きくなるように第1の面(23)を配置したことを特徴とする真偽判定体である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の真偽判定体において、前記プリズム(22a,22b)は、前記第1の面(23)で全反射し、前記プリズム(22a,22b)内を通過して前記第2の面(24)に入射する前記光線の入射角が、この第2の面(24)における臨界角よりも大きくなるように、前記第1の面(23)及び第2の面(24)を配置したことを特徴とする真偽判定体である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の真偽判定体において、前記プリズム(22a,22b)は、前記第1の面(23)と第2の面(24)とがなす角度が、80°から100°であることを特徴とする真偽判定体である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の真偽判定体において、前記プリズム層(20)の前記第1のプリズム領域(A)における前記プリズム(22a)の配列間隔と略等しい間隔で周期的なパターンが表示された判定用媒体を重ねて関節することによって真偽を判定することを特徴とする真偽判定体である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の真偽判定体に、前記プリズム層(20)の前記第1のプリズム領域(A)における前記プリズム(22a)の配列間隔と略等しい間隔で周期的なパターンが表示された判定用媒体を重ねて観察する真偽判定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果がある。
(1)真偽判定体は、通常は第1のプリズム領域と第2のプリズム領域とが判別できないが、第1のプリズム領域におけるプリズムの配列間隔と略等しい間隔で周期的なパターンが表示された判定用媒体を重ねて観察すると、第1のプリズム領域の範囲と、第2のプリズム領域の範囲とでは異なったモアレ模様が形成され、これによって容易に真贋の判定をすることができ、また、その偽造が困難である。
(2)真偽判定体は、所定の範囲の角度からプリズムに入射して第1の面に入射する光線の入射角が、その臨界角よりも大きくなるように第1の面を配置することによって、所定の視角からのみ印刷された情報等を目視できるようになるから、意匠効果が向上する。
(3)真偽判定体は、第1の面で全反射し、第2の面に入射する光線の入射角が、その臨界角よりも大きくなるように第2の面を配置することによって、所定の視角以外から真偽判定体を見た場合には、真偽判定体が鏡面のように見え、意匠効果がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、真偽判断が容易に行なえる真偽判定体及び真偽判定方法を提供するという目的を、多角形柱状プリズムを配列したプリズム層を備える真偽判定体において、プリズムを略一定の間隔で配列した第1のプリズム領域と、プリズムを第1のプリズム領域と配列周期をずらして配列した第2のプリズム領域とを備えることによって実現した。
以下、図面等を参照して、本発明の実施例をあげて、更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明を適用した真偽判定体の実施例1の正面視図である。図2は、実施例1の真偽判定体の断面を示す模式図である。
実施例1の真偽判定体は、例えば、IDカードであり、その表面に文字や写真等の画像情報が印刷等によって表示された表示体であるカード10(図1には図示しない。図2を参照。)と、このカード10の表示面上に添付されるプリズムシート20とを備えている。
【0015】
プリズム層であるプリズムシート20は、透明な材料によって形成された平坦膜状の基材フィルム21(図2参照)と、この基材フィルムのカード10側の面に沿って並列に設けられた多角形柱状プリズムの一例である複数の三角柱状プリズム22とを備える。なお、本明細書において、多角形柱状のプリズムとは、その長手方向に対して直交する横断面が多角形となっているプリズムをいうものとする。
また、プリズムシート20は、三角柱状プリズム22が略一定の間隔で配列された第1のプリズム領域である領域Aと、領域Aと異なった周期で三角柱状プリズム22が配列された第2のプリズム領域である領域Bとを有する。以下、領域A、領域Bに含まれる各構成要素には、その符号に添字a、bをそれぞれ付す。なお、図2においては、理解を容易にするために、各三角柱状プリズム22のサイズ及びその配列ピッチを拡大して図示している。
【0016】
三角柱状プリズム22の横断面形状は、例えば、略直角二等辺三角形状である。そして、三角柱状プリズム22の横断面形状のうち直角二等辺三角形の底辺に相当する側面は基材フィルム21のカード10側の面に接し、他の2つの側面(第1の面23、第2の面24)は、カード10の表面に対して、例えば、それぞれ約45°傾斜して対向している。
【0017】
プリズムシート20の領域Aに含まれる三角柱状プリズム22aと、領域Bに含まれる三角柱状プリズム22bとは、同様の断面形状を備え、これらが配列される間隔(ピッチ)も略同じとなっているが、領域Bは、三角柱状プリズム22bの配列周期が、領域Aにおける三角柱状プリズム22aの配列周期と、例えば、約1/2周期(180°)ずらされている。その結果、三角柱状プリズム22a、22bの長手方向に沿った領域Aと領域Bとの境界部においては、一方の領域のプリズム22の基材フィルム21からの高さが最も高い山部と、他方の領域のプリズム22の基材フィルム21からの高さが最も低い谷部とが接している。
【0018】
基材フィルム21の材料は、特に制約はないが、加工性が優れていることから、高分子フィルムを用いることが好ましい。このような高分子フィルムの素材のプラスチックは、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、アクリル樹脂等を使用することができる。また、液晶材料を使用することもできる。
【0019】
この基材フィルム21は、ある程度の厚さを有するほうが加工時の取り扱いが容易になる反面、厚みが大きすぎるとカード10に印刷等された情報の視認性が低下する。そこで、基材フィルム21の厚みは、例えば、12μmから100μm程度の範囲内であることが好ましく、更には、例えば、15μmから50μm程度の範囲内であるとより好ましい。
【0020】
三角柱状プリズム22は、直線状に形成されている。そして、三角柱状プリズム22は、基材フィルム21の全面にわたって複数設けられ、これらは相互に隣接するか、又は微小な間隔を有して略平行に配列されている。
【0021】
三角柱状プリズム22の材料としては、特に制約はないが、加工性に優れていることから、樹脂材料を用いることが好ましく、また、プリズムとして機能する光学特性を備えるため、透明又は着色透明であり、後述する低屈折率層よりも大きい屈折率を有することが要求される。なお、プリズムシート20の製造方法については後に詳述するが、この方法を適用する場合には、三角柱状プリズム22の材料は、紫外線硬化型の電離放射線硬化性樹脂液を硬化させたものを使用することが好ましい。
このような樹脂として、例えば、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマー又は単量体を、単独又は混合して用いることができる。
【0022】
このようなプレポリマー、オリゴマーとしては、例えば、不飽和ジカルボン酸と多値アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、エポキシ樹脂、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート類等が挙げられる。
【0023】
また、単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシメチル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸−2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル等の不飽和の置換アミノアルコールエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド、ジプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の多官能性化合物、ビニルピロリドン又は分子中に2個以上のチオール基を有するポリチオール化合物、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、トリメチロールプロパントリチオプロピレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコール等が挙げられる。
【0024】
特に、三角柱状プリズム22を、紫外線硬化型樹脂液に紫外線を照射し、硬化させて形成する場合には、上述した電離放射線硬化性樹脂である紫外線硬化型樹脂液に光重合開始剤を添加してもよく、また光増感剤を添加してもよい。
このような光重合開始剤として、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラ−ベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルメウラムモノサルファイド、チオキサントン類を用いることができる。
また、光増感剤として、例えば、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合して用いることができる。
【0025】
また、後述する製造方法によって三角柱状プリズム22を形成する場合には、その材料である電離放射線硬化性樹脂液の粘度は、5000cps以下にすることが好ましく、特に1000cps以下とするとより好ましい。また、三角柱状プリズム22を着色透明にする場合には、電離放射線硬化性樹脂液の硬化を阻害しない染料を添加してもよい。
【0026】
また、三角柱状プリズム22の基材フィルム21表面からの高さは、例えば、1μmから100μm程度にすることが好ましく、5μmから25μm程度にすることがより好ましい。この高さが、1μm以下では回折現象が生じ、また、100μm以上であると、真偽判定体の厚みが大きくなりすぎるからである。
【0027】
そして、三角柱状プリズム22の側面と、隣接する他の三角柱状プリズム22の側面との間は、空間部が形成され、この空間部内が三角柱状プリズム22の材料よりも屈折率が低い低屈折率層としての空気層30となっている。
【0028】
そして、図示しないPETフィルムに、ポリエステル系ヒートシール剤を塗布し、プリズムシート20の三角柱状プリズム22が配置された側の面に張り合わせをするラミネート処理を行なった。そして、このPETフィルムを、例えば、粘着剤又は接着剤によって、インクジェットプリンタによって情報を印刷したカード10に貼着することによって、真偽判定体が完成する。
また、PETフィルムに、透明又は着色透明の粘着剤又は接着剤を塗布し、その塗布面に粘着剤等の乾燥、化学変化又は汚染等を防止するための保護シートを貼着することによって、真偽判定用ラベルが完成する。
このような真偽判定用ラベルを用いると、保護シートを除去し、真偽の判定が要求される所望の媒体に貼着することによって、真偽判定体を得ることができる。
【0029】
このような粘着剤又は接着剤として、例えば、天然ゴム、再生ゴム、SBR等のエラストマー及び低分子量あるいは中程度の分子量の粘着付与剤、酸化防止剤などの混合物を溶剤で希釈し、溶液溶剤として用いることができる。
また、熱可塑性エラストマーを用いる場合は、加熱して溶融した状態でプリズムシートに塗布することができる。
【0030】
さらに、光及び酸化に対する抵抗性が必要な場合は、例えば、アクリレートコポリマーやポリイソブチレン等の材料を使用することができる。
さらにまた、粘着剤又は接着剤として、ホットメルト型のヒートシール剤を用いてもよい。なお、これらを印刷法によって塗布する場合は、特に印刷適性を考慮する必要がある。
なお、これらの粘着剤又は接着剤を塗工する厚さは、例えば、1μmから50μm程度である。
【0031】
次に、上述した真偽判定体及び真偽判定用ラベルに用いられるプリズムシート20の製造方法及び製造装置について説明する。
この製造方法は、充填工程と、接触工程と、硬化工程と、密着工程と、剥離工程とを有して構成されている。
【0032】
充填工程は、円筒状のロール凹版の表面に形成され、三角柱状プリズム22の雌型として機能する凹部に、三角柱状プリズム22の材料である電離放射線硬化性樹脂液を充填する工程である。
【0033】
接触工程は、凹部に電離放射線硬化性樹脂液が充填されたロール凹版の表面に、基材フィルム21を供給し、基材フィルム21をロール凹版上に巻きつけることによって、基材フィルム21と、電離放射線硬化性樹脂液とを接触させる工程である。
【0034】
硬化工程は、基材フィルム21と接触した電離放射線硬化性樹脂液を、電離放射線を照射することによって硬化させ、半硬化物とする工程である。
【0035】
密着工程は、基材フィルム21と電離放射線硬化性樹脂液又はこれが硬化した樹脂とを、押圧することによって密着させる工程である。なお、この工程は上述した硬化工程と同時に行われる場合がある。この点については後に詳述する。
【0036】
剥離工程は、基材フィルム21及びこれに密着して形成された硬化済みの電離放射線硬化性樹脂(三角柱状プリズム22)を、凹版ロールから剥離させる工程である。
【0037】
次に、上述した各工程に用いられるプリズムシートの製造装置について説明するとともに、各工程についてより詳細に説明する。図3は、プリズムシート20の製造装置の構成を示す図である。図3に示すように、この製造装置は、ロール凹版101と、塗工装置102と、溶剤乾燥装置103と、押圧ロール104と、硬化装置105と、送りロール106と、送りロール107と、硬化装置108とを有して構成されている。以下、各部について詳述する。
【0038】
ロール凹版101は、円柱状又は円筒状に形成され、その外周面に、三角柱状プリズム22を成型するための雌型として機能する凹部109が形成されている。凹部109は、ロール凹版101の軸方向に沿って延在するV字型断面の溝であって、ロール凹版101の外周面の全面に分布して形成されている。この凹部は、例えば、ロール凹版101の外周面に備えられた版材を、旋盤等の機械加工装置によって切削加工したり、又は電鋳法を用いて型づけしたりすることによって形成される。なお、実施例1においては、凹部109は、ロール凹版101の軸方向に沿って延在しているが、これに限らず、ロール凹版101の周方向に沿って延在するようにしてもよく、また、ロール凹版101の周方向に対して斜行するようにしてもよい。
【0039】
塗工装置102は、三角柱状プリズム22の材料である電離放射線硬化性樹脂液110をロール凹版101の外周面に塗布し、凹部109内に充填する機能を有するものである。塗工装置102は、ロール凹版101の外周面に対向して設けられ、具体的には、例えば、ノズル塗工装置として構成される。ノズル塗工装置は、Tダイ状に構成され、所定方向の長方形又は線状の吐出口を備える。そして、この吐出口の長手方向は、ロール凹版101の軸方向と略平行に配置されている。この塗工装置は、ロール凹版101の表面の軸方向幅のうち、所定の幅部分かつ、ロール凹版101の周上所定の位相上の表面にのみ、電離放射線硬化性樹脂液110を吐出するようになっている。なお、この電離放射線硬化性樹脂液110の塗工厚さは、後述する密着工程において基材フィルム21をロール凹版110に押圧したときに、凹部109内に電離放射線硬化性樹脂液110が十分に充填されかつ余剰とならないように設定される。
【0040】
溶剤乾燥装置103は、ロール凹版101の外周面に塗布された電離放射線硬化性樹脂液110が含有する溶剤を揮発させるための装置である。具体的には、溶剤乾燥装置103として、温風ヒータや、赤外線ヒータ等を用いることができる。この溶剤乾燥装置103を設けることによって、溶剤型の電離放射線硬化性樹脂液110を用いることができ、使用する樹脂の選択の幅を広げることができる。また、溶剤型の電離放射線硬化性樹脂液を用いると、樹脂を希釈する溶剤の量によって、樹脂液の流動性を調整することができる。なお、電離放射線硬化性樹脂液110として、無溶剤型のものを用いる場合には、この溶剤乾燥装置103は不要となる。
【0041】
押圧ロール104は、円筒状又は円柱状に形成されたローラであって、その軸方向をロール凹版101と平行に配置されている。押圧ロール104は、ロール凹版101が自転したときに、押圧ロール104の表面の速度がロール凹版101の表面の速度と略同じになるように同期して回転するようになっている。そして、プリズムシート2の基材フィルム21は、図示しない供給装置から押圧ロール104に供給され、押圧ロール104の自転に従動してロール凹版101の表面に接し、その後押圧ロール104から離脱してロール凹版101の表面に沿い、その自転に従動して走行する。
【0042】
硬化装置105は、基材フィルム21と接触し、ロール凹版101に随伴して走行する電離放射線硬化性樹脂液に対し、電離放射線を照射する電離放射線源を有する。
ここで、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子のうち、分子を重合又は架橋することができるエネルギー粒子を有するものをいう。この電離放射線として、例えば、紫外線又は電子線等を用いることができる。紫外線を用いる場合には、電離放射線源として、例えば、超高圧水銀灯、ブラックライトランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の光源を用いることができる。
【0043】
なお、実施例1の場合には、硬化装置105のほかに、基材フィルム21の走行方向前方側にも、後述する別の硬化装置108が設けられている。そして、硬化工程を多段化して硬化物の歪みや、基材フィルム21のカールを防止するため、硬化装置105は、電離放射線硬化性樹脂液110を完全に硬化させず、いわゆる半硬化物110aとするに留め、硬化装置108によって完全に硬化させるようにしている。したがって、硬化装置105においては、少なくとも電離放射線硬化性樹脂液110の流動性を失わせ、かつ、基材フィルム21との密着性を生じさせる程度に硬化させれば足りる。
また、実施例1の場合には、硬化装置はロール凹版101の外部に設けられているが、ロール凹版を、例えば、石英、ガラス等の電離放射線の透過性がよい材質によって円筒状に形成した場合には、ロール凹版の内径側に硬化装置を設けてもよい。
【0044】
送りロール106は、ロール凹版101と軸方向を平行させて設けられた円筒状又は円柱状のローラであり、その外周面の一部をロール凹版101に当接させて設けられている。
硬化装置105による電離放射線の照射される範囲を通過し、ロール凹版101に随伴して走行してきた基材フィルム21及び半硬化物110aは、ここでロール凹版101から剥離され、送りロール106の周上の一部に沿って走行後、後述する別の送りロール107までの間、平面状に走行する。
【0045】
送りロール107は、送りロール106に対して離間しかつ軸方向を平行に配列された円筒状又は円柱状のロールである。送りロール107は、その外周面を送りロール106から離れて平面状に走行してくる基材フィルム21の、半硬化物110aが付着していない側の面に当接し、基材フィルム21の走行方向を転換させる。
【0046】
硬化装置108は、上述した硬化装置105と同様な電離放射線源を備え、送りロール107の表面に沿って走行している基材フィルム21上に形成された半硬化物110aに対し、電離放射線を照射し、半硬化物110aを十分に硬化させ、三角柱状プリズム22を完成させる。なお、この硬化装置108によって半硬化物110aを硬化させる間、基材フィルムは硬化装置105を通過するときとは逆の方向にカールしている。このため、各硬化装置105、108を通過する際にそれぞれ基材フィルム21につけられる「巻き癖」が相殺され、完成品であるプリズムシート2のカールが防止される。
【0047】
実施例1においては、基材フィルム21として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、ウレタンアクリレート系の紫外線硬化型樹脂液を、上述した製造方法によって成型し、硬化させることによって、第1の面23と第2の面24とがなす角度(頂角)が90°かつ、基材フィルム上からの高さが25μmの、直角二等辺三角形状断面を有する三角柱状プリズム22を形成してプリズムシート20とした。
【0048】
次に、プリズムシート20の支持体として機能する厚さ25μmのPETフィルムに、粘着剤であるポリエステル系のヒートシール剤13を、厚さ5μmの層状に塗布した。そして、プリズムシート20の三角柱状プリズム22が形成された側の面と、ヒートシール剤13を塗布されたPETフィルム12の面とを、ラミネート加工によって貼着した。ラミネートは、ロール温度150℃、速度0.8m/minの条件で行った。更に、紙の表面にシリコーン加工による剥離処理を施した保護シートである保護紙に粘着剤を塗布して、上述したPETフィルムの、プリズムシート20とは反対側の面に貼着し、真偽判定用ラベルを作製した。
そして、この真偽判定用ラベルから保護紙を除去し、カード10の表面を覆うように貼着し、真偽判定体であるIDカードとした。
【0049】
この真偽判定体を、直接目視によって観察すると、その正面(法線方向)及び、三角柱状プリズム22の長手方向に直交する軸を中心として視角を傾けた状態においては、真偽判定体の表面は鏡面のように見えた。
これに対し、真偽判定体の法線方向から、三角柱状プリズム22の長手方向と平行する軸を中心として視角を徐々に傾けつつ観察すると、当初は鏡面のように見えるが、ある視角を境にして、カード10の表面に表示された情報を視認できるようになった。
また、真偽判定体は、直接目視した場合には、領域Aと領域Bとの区別はできなかった。
【0050】
次に、この真偽判定体を用いた真偽判定方法について説明する。
図4は、実施例1の真偽判定体の真偽判定に用いる万線フィルムを示す図である。
万線フィルム50は、矩形に形成されたシート状のものであり、その寸法は、真偽判定体の全面をカバーするため、真偽判定体よりも大きく形成される。万線フィルム50は、その全面に、真偽判定体のプリズムシート20の領域Aにおける三角柱状プリズム22aの配列間隔と同じピッチの平行線51が表示され、この平行線の間隔は透明となっている。
【0051】
図5は、真偽判定体に万線フィルムを重ねた状態を示す図である。
真偽判定体のプリズムシート20が設けられた側の面を覆って、万線フィルム50を重ねて目視によって観察すると、領域Aに相当する範囲では、プリズムシート20に含まれる三角柱状プリズム22aと、万線フィルム50の平行線51との干渉によって、図5に示すようなモアレ縞が発生する。
一方、領域Bに相当する範囲でも、三角柱状プリズム22bと万線フィルム50の平行線51との干渉によってモアレ縞が発生するが、三角柱状プリズム22bは、その配列周期が領域Aの三角柱状プリズム22aに対してずれているから、形成されるモアレ縞は領域Aと異なり、これによって領域Aと領域Bとの境界が顕在化し、真偽判定体が本物であることが確認できる。
【0052】
次に、上述したように、視覚によって真偽判定体の表面が鏡面のように見える原理について説明する。図6は、実施例1の真偽判定体の三角柱状プリズム22に対し、真偽判定体の法線方向から入射した光線の軌跡を示す図である。
光線がプリズムシート2の基材フィルム21側の表面から入射し、基材フィルム21及び三角柱状プリズム22内を伝播して、三角柱状プリズム22の側面のうち、カード10に対向する第1の面23に入射する入射角をθ1とする。なお、入射角とは、媒質の境界面(この場合には、三角柱状プリズム22と空気層8との界面)の法線方向と、光線の入ってくる方向とのなす角度をいう。そして、この入射角θ1が、第1の面23における臨界角θtよりも大きい場合には、光線はこの第1の面において全反射し、空気層8には入射しない。なお、臨界角θtは、低屈折率としての空気層8の屈折率をa、三角柱状プリズム22の屈折率をbとすると、θt=arcsin(a/b)として表される。
【0053】
したがって、三角柱状プリズム22の材料及びその第1の面がカード10の表面に対してなす角度は、上述した全反射を生じさせることを考慮して設定される。例えば、三角柱状プリズム22を屈折率1.5の材料によって形成した場合、空気層の屈折率は1であるから、臨界角θt=41.8°となる。本実施形態の場合、例えば、真偽判定体の法線方向から入射する光線の第1の面への入射角は略45°であるから、この照射光は第1の面23において全反射し、その反射光はカード1の表面と略平行に第2の面24に向かって三角柱状プリズム22内を伝播する。
【0054】
そして、第1の面23において全反射した反射光の第2の面24への入射角も略45°となる。この入射角もまた上述した臨界角よりも大きいため、第2の面24においても全反射が生じ、この反射光は、真偽判定体の略法線方向に反射される。
【0055】
以上のように、実施例1によれば、万線フィルム50を重ねて目視することによって容易に真偽の判定ができかつ偽造が困難な真偽判定体を提供することができる。
また、所定の方向から真偽判定体に入射する光線は、第1の面及び第2の面においてそれぞれ全反射し、これによって真偽判定体は鏡面状に見えるから、その意匠効果を向上できる利点がある。
【実施例2】
【0056】
図7は、本発明の真偽判定体の実施例2の正面視図である。また、図8は、実施例2の真偽判定体に用いられる真偽判定用ラベルの拡大断面図である。なお、以下説明する各実施例においては、上述した実施例1と共通する箇所については同じ参照番号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0057】
実施例2においては、プリズムシート20の領域Bに代えて、領域Cを設けている。
領域Cは、三角柱状プリズム22cのサイズを領域Aの三角柱状プリズム22aよりも相似形のまま大きくし、これに伴い、その間隔も大きくして配列している。これらの三角柱状プリズム22a,22cは、その山部(頂部)がカード10の表面に沿った略同一平面上となるように配置されている。
実施例2も、上述した実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
(変形例)
なお、本発明は、上述した実施例によって限定されるものではなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
(1)実施例は、真偽判定体はカードであったが、これに限らず、真偽判定が要求される他の媒体を真偽判定体としてもよい。例えば、真偽判定体は、金券、証券、ギフト券等の金券類や、パソコンソフト、AVソフト等に添付される認証シール等、パスポート等、農産物、畜産物、工業製品等に添付されるタグ等であってもよい。
(2)実施例は、三角柱状プリズムを一定の間隔で配列した領域と、配列周期又は配列間隔が異なった領域とを有するものであるが、三角柱状プリズムの配列方向を異ならせた領域を設けてもよい。また、配列周期、配列間隔、配列方向のうち2つ以上が異なった領域を設けてもよい。
(3)実施例は、三角柱状プリズム22の断面形状は略二等辺三角形であるが、これに限らず、他の形状であってもよい。例えば、単なる二等辺三角形や、直角三角形、これらいずれにも該当しない三角形であってもよい。
例えば、図9に示すように、三角柱状プリズムの断面形状を二等辺ではない直角三角形状とし、その斜辺が基材フィルムに接するようにしてもよい。この場合、全反射を生じる光線の入射角の範囲は上述した実施例から変化する。しかし、全反射を生じる方向から観察することによって、鏡面状に見えるため、意匠性が向上する。
また、三角形以外の断面形状を有する多角形柱状プリズムを用いてもよい。また、上述した各実施例においては、三角柱状プリズム22は直線状に形成されているが、湾曲した形状であってもよい。
(4)プリズム層は、その一部において、隣接する三角柱状プリズムの隙間を、プリズムの材料と略屈折率が等しい透明材料によって充填してもよい。また、このような透明材料によって充填された部分と、それ以外の部分とによって、文字や図柄等のパターンを形成してもよい。
【0059】
また、上述した実施例においては、低屈折率層を空気層としたが、空気以外の気体や、液体、個体の材料であっても、透明性を有しかつその屈折率が、プリズムの材料に対し、上述した全反射を生じさせる条件を満たす程度に低いものであれば、低屈折率層として用いることができる。また、低屈折率層内を真空としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を適用した真偽判定体の実施例1の正面視図である。
【図2】図1の真偽判定体の断面を示す模式図である。
【図3】図1の真偽判定体のプリズムシートの製造装置の構成を示す図である。
【図4】図1の真偽判定体の真偽判定に用いる万線フィルムを示す図である。
【図5】図1の真偽判定体に図4の万線フィルムを重ねた状態を示す図である。
【図6】実施例1の真偽判定体が鏡面状に見える原理を示す図である。
【図7】本発明を適用した真偽判定体の実施例2の正面視図である。
【図8】図7の真偽判定体の断面を示す模式図である。
【図9】本発明による真偽判定体の他の実施例であって、三角柱状プリズムの断面形状を二等辺ではない直角三角形状としたものの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 カード
20 プリズムシート
21 基材フィルム
22(22a,22b) 三角柱状プリズム
23 第1の面
24 第2の面
30 空気層
50 万線フィルム
51 平行線
101 ロール凹版
102 塗工装置
103 溶剤乾燥装置
104 押圧ロール
105 硬化装置
106 送りロール
107 送りロール
108 硬化装置
109 凹部
110 電離放射線硬化性樹脂液
110a 半硬化物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形柱状に形成された複数のプリズムを配列したプリズム層を備える真偽判定体において、
前記プリズム層は、
複数の前記プリズムを、略一定の間隔で配列した第1のプリズム領域と、
複数の前記プリズムを、前記第1のプリズム領域と間隔、配列方向の少なくとも一方を異ならせ、又は、配列周期をずらして配列した第2のプリズム領域とを備えること
を特徴とする真偽判定体。
【請求項2】
請求項1に記載の真偽判定体において、
前記プリズムは、その第1の面及び第2の面を前記プリズム層の一方の面側に向けて設けられ、
前記プリズムの第1の面及び第2の面にそれぞれ接し、このプリズムよりも低い屈折率を有する低屈折率層を有し、
所定の範囲の角度から前記プリズムに入射する光線がこのプリズム内を通過して前記第1の面に入射する入射角が、この第1の面における臨界角よりも大きくなるように第1の面を配置したこと
を特徴とする真偽判定体。
【請求項3】
請求項2に記載の真偽判定体において、
前記プリズムは、前記第1の面で全反射し、前記プリズム内を通過して前記第2の面に入射する前記光線の入射角が、この第2の面における臨界角よりも大きくなるように、前記第1の面及び第2の面を配置したこと
を特徴とする真偽判定体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の真偽判定体において、
前記プリズムは、前記第1の面と第2の面とがなす角度が、80°から100°であること
を特徴とする真偽判定体。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の真偽判定体において、
前記プリズム層の前記第1のプリズム領域における前記プリズムの配列間隔と略等しい間隔で周期的なパターンが表示された判定用媒体を重ねて観察することによって真偽を判定すること
を特徴とする真偽判定体。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の真偽判定体に、前記プリズム層の前記第1のプリズム領域における前記プリズムの配列間隔と略等しい間隔で周期的なパターンが表示された判定用媒体を重ねて観察する真偽判定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−30636(P2006−30636A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209905(P2004−209905)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】