説明

真偽識別方法、および真偽識別用標識

【課題】標識の偽造が極めて困難な真偽識別方法、および真偽識別用標識を提供する。
【解決手段】伐採前の立木の内部に一色以上の染液を供給し、該立木が備える道管または仮道管の吸水力を利用して立木内部を染色して製作した、立木染め木材から、基準木片を切り出すステップと、基準木片から、所定断面における複数の薄片に加工するステップと、薄片の各々を標識基材に組み込むステップと、を含む。基準木片201の柾目面215から、帯状薄片217を経て、短冊状に加工された薄片301は、互いに均一の着色された木材断面組織を持つが、その特徴は、基準木片201に固有のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真偽識別方法、および真偽識別用標識に関し、特に、立木染め木材を加工して得られる薄片を真偽識別に用いる、真偽識別方法、および真偽識別用標識に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、金券、有価証券等の紙媒体、あるいは磁気カード等のカード媒体の表面に、真偽識別用のホログラム画像を記録し、あるいは印刷する技術は公知である。また、衣料品、コンピュータソフトウェアその他の商品のタグやパッケージに、そのようなホログラム画像を印刷し、あるいはホログラムシートを貼付する技術もまた公知である。
【0003】
従来のホログラムによる偽造防止技術によると、各種媒体へのホログラム画像の記録のため、印刷のため、あるいはホログラムシートの形成のための特殊な印刷技術、あるいはエッチング等によるパターン形成技術が必要となる。また、ある種のホログラムは、印刷機械を用いて精巧に偽造される可能性がある。
【0004】
ホログラムとは異なる形式の標識を偽造防止に用いる例も、既に提案されている。例えば、特表2002−522265号公報(特許文献1)は、ハッキリとした確率論的構造上のパターンをもつ天然材料(例えば、木片、石、植物の葉または貝等)、あるいは色つき繊維、色つき片を含む紙、プラスチック・シートまたは多重シートを用いる例を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−522265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された従来技術において、天然材料、例えば貝殻について、その微細構造や元素組成に至るまで完全に再現した人工品を偽造することは、現在の技術水準から見て技術的に困難ないし不可能といえる。しかしながら、偽造品の製作を意図する者が、真正品の標識に使われている材料の調査、分析を行うことで、その標識に使われている天然材料の種類、特性、該当する天然材料が採取可能な場所や地域等を特定できる可能性がある。一旦これらが判明すれば、偽造者にとって、真正品の標識に使われている材料と同様(同じ由来)の天然材料を調達して偽造標識を作成することは、もはやそれほど難しいことではないといえる。
【0007】
また、特許文献1に開示された従来技術において、色つき繊維を含む紙等の人工材料は、紙・プラスチック加工に携わる当業者の知見があれば製造プロセスの概略を推測することも可能であるため、若干の試行錯誤を経て、真正品の標識に使用されている人工材料と同様の構造上のパターンを再現したものを工業的に生産することは、十分可能であると考えられる。
【0008】
つまり、特許文献1に開示された従来技術においては、真正標識の材料と同様の材料を入手することが可能なため、あるいは、人工的に再現可能なため、標識の偽造を防止することができないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、標識の偽造が極めて困難な真偽識別方法、および真偽識別用標識を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、偽造が極めて困難な標識材料が備えるべき特性について鋭意検討した結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明の真偽識別方法は、伐採前の立木の内部に一色以上の染液を供給し、該立木が備える道管または仮道管の吸水力を利用して立木内部を染色して製作した、立木染め木材から、基準木片を切り出すステップと、前記基準木片から、所定断面における複数の薄片に加工するステップと、前記薄片の各々を標識基材に組み込むステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態によれば、本発明の真偽識別方法は、前記基準木片切出ステップが、前記立木染め木材から柾目面を有する板材を切り出すステップを含み、前記薄片加工ステップが、前記柾目面とほぼ平行にスライスした薄い帯状片を、短冊状に切断するステップを含むこと特徴とする。
【0012】
本発明のもう一つの実施の形態によれば、本発明の真偽識別方法は、前記基準木片切出ステップが、前記立木染め木材から枝を切り出すステップを含み、前記薄片加工ステップは、前記枝を輪切りにスライスするステップを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態によれば、本発明の真偽識別方法は、前記薄片の目に見える特徴を示す画像データを、特定の商品もしくは役務の識別情報、または該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報と対応づけて、データベースに格納するステップと、前記識別情報を入力して前記データベースにアクセスする端末に対し、前記画像データを、通信ネットワークを介して送信するステップと、をさらに含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の真偽識別用標識は、立木染め木材から切り出した基準木片に由来する薄片であって、該基準木片の所定断面から加工される複数の薄片同士が、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ前記薄片を、標識基材に組み込んでなるものである。
【0015】
さらに、本発明の好ましい実施の形態において、真偽識別用標識は、前記標識基材が、特定の商品もしくは役務の識別情報、または該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報を示す表示を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、立木染め木材から切り出した基準木片に由来する薄片を、標識に組み込む識別表示として使用する。ここで、立木染め木材は、伐採前の立木の内部に一色以上の染液を供給し、該立木が備える道管(導管ともいう)または仮道管(仮導管ともいう)の吸水力を利用して立木内部を染色することにより製作される木材をいう。本発明において、立木染め木材の具体的な製造方法は特に限定しないが、例えば、特開2000−254904号に開示された方法等、公知の方法を使用することができる。
【0017】
立木染めは、伐採後の木材に染液を注入ないし浸透させて着色する方法や、製材した板材の表面から塗装により着色する方法とは異なり、伐採前の生立木が備える道管(主に広葉樹の場合)または仮道管(主に針葉樹の場合。ただし例外もある。以下、本明細書において、道管および仮道管を総称して「道管」という場合がある。)の自然の吸水力を利用して立木内部を染色する。すなわち、立木染めの着色プロセスは、外部から観察が困難な立木の内部構造、立木の生育環境、天候状態等の自然条件に大きく依存する。したがって、特定の立木染め木材のある切断面における、着色された木材断面組織の目に見える特徴、例えば、着色された早材および晩材がそれぞれ発する色の色相、彩度、明度、ならびに早材(春から夏にかけて成長する部分)と晩材(夏から秋に成長する部分)の厚さ、年輪または木目の縞の並び方等は、その立木に固有の偶然の産物である。よって、ある切断面に発現する着色された木材断面組織が、如何なる目に見える特徴を持つかは、立木染めを終えた立木を伐採し、木材を切り出してみないとわからないことから、同様の着色された木材断面組織の再現を試みたところで悉く不首尾となる。このことから、仮に偽造者が原材料の木材を容易に特定できたとしても、立木染めによる着色された木材断面組織を再現し、あるいは複製することは事実上不可能である。
【0018】
立木染め木材から切り出した基準木片は、所定断面において基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ。したがって、基準木片の所定断面から加工される複数の薄片同士は、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ薄片となる。
【0019】
複数の薄片に加工される基準木片は、同一の立木染め木材が存在しないという点で、自然界に唯一かつ有限の原材料である。したがって、基準木片から、着色された木材断面組織の特徴が均一の薄片に加工し尽くしてしまうか、あるいは基準木片を粉砕や消却などにより処分してしまうと、着色された木材断面組織が一致する別の薄片を再生産することは、もはや不可能となる。
【0020】
一つの基準木片に由来する薄片同士が、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つため、薄片を標識基材に組み込むことにより、真偽識別用標識が得られる。上記のとおり、立木染め木材の所定断面における基準木片に固有の着色された木材断面組織を、人工的に再現しあるいは複製することが事実上不可能なため、そして、基準木片から薄片に加工し尽くすか、あるいは基準木片を処分してしまうと、基準木片に固有の着色された木材断面組織が一致する新たな薄片を再生産することがもはや不可能となるため、真偽識別用標識の偽造を極めて困難なものとすることができる。
【0021】
上記した本発明の目的および利点並びに他の目的および利点は、以下の実施の形態の説明を通じてより明確に理解される。もっとも、以下に記述する実施の形態は例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に好適に使用される、立木染めによる立木内部の着色方法の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本発明における、基準木片切出ステップおよび薄片加工ステップを示す、概略斜視図である。
【図3】薄片の一例について、特徴例を模式的に説明する拡大平面図である。
【図4】薄片組み込みステップを経て、標識基材に薄片を組み込んだ一実施形態を示す斜視図である。
【図5】薄片組み込みステップを経て、標識基材に薄片を組み込んだ別の実施形態を示す斜視図である。
【図6】薄片組み込みステップを経て、標識基材に薄片を組み込んださらに別の実施形態を示す斜視図である。
【図7】真偽識別用の画像データベースにアクセスするための概略システムを示すシステム構成図である。
【図8】真偽識別用の画像データベースにアクセスする端末の表示装置に表示される検索画面の一例を示す図である。
【図9】真偽識別用の画像データベースにアクセスする端末の表示装置に表示される検索結果画面の一例を示す図である。
【図10】薄片の別の例を示す、拡大平面図である。
【符号の説明】
【0023】
100 生立木
1、2 流入孔
10、20 分枝孔
200 立木染め木材
201 基準木片
301、801 薄片
401、402、403 真偽識別用標識
411、421、431 標識基材
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づき詳しく説明する。
本発明に係る真偽識別方法に使用される標識の原材料となる基準木片の出発材料は、立木染め木材である。立木染め木材の製造方法は、先に例示した特許文献1に開示されているように、元来、机や箪笥等の家具、建材の化粧面、木製食器、硯箱・オルゴール・宝石箱・ブローチ・櫛等の身の回り品、筆・ボールペン・万年筆などの筆記具の柄、釣り竿や疑似餌などの釣り具、カヌーなどの舟材料、独楽・積木などの木製玩具、額・置物等の室内装飾品、彫刻材料等の美術工芸材料等の用途に適した、装飾性の高い木材の提供を可能とする技術として提案されたものである。本発明は、立木染め木材から加工した特定の薄片を真偽識別用の標識に応用することをその要旨とし、立木染め木材の製造方法については特に限定するものではない。したがって、特許文献1や特公昭41−20043号公報等に詳しく開示された公知の方法を使用してよく、本明細書においては、特許文献1に開示された例を参照して、その概略のみを以下に説明する。
【0025】
図1は、特許文献1に開示され、本発明に好適に使用される、立木染めによる立木内部の着色方法の一実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態に係る立木染め木材の製造方法は、所定の基準で選定した立木内部へ互いに独立した2つの流入孔1、2を形成する染色前ステップと、形成した流入孔1、2毎に異なる色の染液を注入する染色ステップと、内部を染色した立木から所望木材を切り出す切出ステップを含む。なお、本実施形態は、立木内部を2色に彩色、すなわち着色する例に係るものであるが、本発明において、単色あるいは3色以上に着色してよく、かかる場合に流入孔を1つあるいは3つ以上とすることは勿論である。
【0026】
まず、染色前ステップにおいて、伐採前の立木内部に、互いに独立した複数の流入孔1、2を、伐採前の生立木の幹表面から幹内部に形成する。流入孔1、2は、電動ドリル等の周知の穿孔手段を用いて形成することができる。複数の流入孔のうち、一部の流入孔1を、他の流入孔2と、立木上下の異なる位置に形成する。また、上下の流入孔1、2の夫々に、複数の分枝孔10、20を設ける。分枝孔10、20は、流入孔1、2から枝分かれして立木の表面側に放射状に伸びる。流入孔形成時、上方の流入孔2と下方の流入孔1との略水平方向についての位置関係を調整して形成する。なお、この調整は、グラデーション(「ぼかし」、具体的には、異なる2色の間において一方の色から他方の色へ徐々に変化する両色の中間階調の部分)の有無あるいは所望のグラデーション量に従って行う。
【0027】
次に、染色ステップにおいて、先ず所望の色彩の染液即ち、所望の色の染料を溶かした液体を色毎に複数用意する。図1へ示すように、夫々の色毎にその染液を収容するポリタンク等の容器5、6を用意する。そして、目的とする立木100付近に載置台7を設けて、この載置台7の上に、染液を収容した各容器5、6を設置する。容器5、6には、内容物を排出することが可能な蛇口を持つものを用い、この蛇口にホース3、4を接続する。ホース3、4の先には、立木100の流入孔へ挿入可能な挿入部3a、4aが設けられている。挿入部3a、4aは弾力性を有する周知の素材にて形成された漏斗状のものであり、流入孔1、2へ装着される。
【0028】
流入孔1、2の注入する口を除き、流入孔1、2の他方の口や、各分枝孔10、20の立木100表面に現れる口は、夫々栓11、21をして塞ぐ。そして、ホース3、4の先の挿入部3a、4aを、流入孔1、2の口に嵌め、容器5、6の蛇口を開けて色の異なる染液を、夫々の流入孔1、2へ注入する。葉を備えた生立木は、葉の蒸散作用により、根側Rから梢側K、すなわち下方から上方に向けて、吸水能力を備える。従って、図1に示す構成を採ることにより、流入孔1、2の夫々に異なった彩色の染液を注入することによって、立木が備える道管から、染液が吸い上げられ、立木内部を多色に染め上げて行く。
【0029】
染め上げるのに必要な染色期間は、気候や樹木の吸水力によっても異なるが、通常染液注入後3日から30日の間を染色期間とする。この染色期間は、対象となる樹木種や個体差、気候によって、変更可能である。なお、染色期間が経過するまで(次の切出ステップを開始するまで)は、吸水力が低下しないよう、立木の葉を付けた状態にしておく。
【0030】
次の切出ステップにおいて、染色期間を経た立木100を伐採し、その内部から所望の木材を切り出す。この切出ステップの開始は、染色ステップにおける染色期間の経過後、ホース3、4を樹木から外し、速やかに立木を伐採すると共に、直ちに枝払いを行う。
【0031】
本発明においては、上記切出ステップが、立木染め木材から「基準木片」を切り出す基準木片切出ステップに相当する。「基準木片」からは、後述するように、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ複数の薄片が、当該木片の所定断面から加工されることとなる。
【0032】
立木染めにより立木内部を染め上げるとき、幹または枝の内部にのびる道管を通って染液が吸い上げられるが、樹木種により、道管が樹木の伸長方向に沿って真っ直ぐ伸びているものと、横方向(樹木の伸長方向と異なる方向)への乱れがあるものとがあり、また、道管の横方向に染液が滲み出すものと、そうならないものがある。さらに、図1に示す流入孔1、2と分枝孔10、20の形成位置によっては、同じ道管内で異なる染液が直接混じり合うことがある。立木内部の染め上がり状態は、自然条件のみならず、かかる樹木種に応じた道管の特性の違いと、各孔の形成位置の影響も受ける。したがって、本実施形態における立木染め木材から切り出した基準木片は、装飾性に優れる一方で、着色の態様が偶然的で再現性がないのである。
【0033】
次に、本実施形態における、基準木片切出ステップおよび薄片加工ステップについて説明する。図2は、基準木片切出ステップおよび薄片加工ステップを示す、概略斜視図である。なお、便宜上、図2注に示す立木染め木材、基準木片、薄片では、いずれも、着色の様子を省略している。
【0034】
図2(A)は、立木染め木材200内部のある部位から切り出される基準木片201を示しており、図示のものは、伐採すると共に枝払いした立木の丸太から、特に「板目取り」をする製材例を示している。本発明における基準木片切出ステップは、立木染め木材からの木取りの方法を何ら限定するものではない。立木染め木材から柾目面を有する板材を切り出すことが好ましいが、「柾目取り」、「板目取り」のいずれであってもよい。なお、立木染めは、生立木の内部をすべて染め上げることができるとは限らないため、丸太の木口面から染め上がり状況を観察して、木取りする部位、方法を適宜決定するとよい。
【0035】
図2(B)は、立木染め木材200から切り出された基準木片201を示す。図示のとおり、基準木片201は、木口面211、板目面213、柾目面215を有する。木口面211では、年輪の一部が、狭い間隔の曲線の木目として観察される。他方、板目面213では、間隔が広く不規則な木目が観察される。柾目面215では、間隔が狭く、かつ木材の伸長方向とほぼ平行な木目が観察される。早材の部分と晩材の部分の繰り返しが、複数本の木目を形成し、これが年輪として観察される。早材と晩材の一般的性状に関し、早材は、木繊維のパイプの形が大きく、壁が薄く、穴が大きく、色が淡いのに対して、晩材は、パイプの形が小さく、壁が厚く、穴が小さく、色が濃い。したがって、かかる晩材部分が、木質の色の濃い縞模様をなし、これが木口面における年輪、板材における木目として観察されるのである。本明細書においては、木目と年輪を同一の意味に用いるものとする。
【0036】
基準木片201において、ほとんどの場合、年輪の色は、立木染めにより木質本来の色から変化するが、その位置や太さは、立木に固有のもので実質的に変化しない。したがって、後述するように、着色された木材断面組織の目に見える特徴の一部には、年輪の位置や太さを含めることができる。基準木片に固有の特徴が増えるほど、また、それが偶然性のものであればあるほど、偽造がより一層困難となるからである。
【0037】
本実施形態においては、図2(B)に示すように、柾目面215において、柾目面とほぼ平行にスライスした薄い帯状片217に加工する。かかる加工には、できるだけ切削面が滑らかとなるような切削刃物、例えば鉋を用いる。
【0038】
切削する前に、基準木片201にポリエチレングリコール(PEG)を含浸させて切削を行うと有利である。ポリエチレングリコールを木材に含浸させると、木材に柔軟性と弾力性を持たせることができる。したがって、切削時に、薄い帯状片217が、あるいは後述する薄片301が部分的に折れるというトラブルを回避することができる。
【0039】
図2(B)に示す帯状片加工ステップでは、帯状片217から、その次の図2(C)に示す短冊状切断ステップにおいて、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ複数の薄片に加工できるように、できるだけ帯状片217の厚みを均一となるよう切削することが好ましい。また、帯状片217の厚みは所定の範囲、特に厚さ方向の断面における道管の断面が現れる厚さ以上とすることが好ましい。このようにすると、道管の染まり方を観察することによって、「立木染め」によるものか、それ以外の染色方法によるものかを判定することができるので、有利である。具体的には、0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上の厚さとする。他方、帯状片217から加工される薄片が、必要以上の厚みを持つと、万一偽造者が、薄片を厚さ方向に2枚にスプリットすることができる可能性が生じる。薄片の厚みが一定以下であれば、薄片をスプリットさせて複数の薄膜に分割することは、不可能と考えられる。かかる観点から、厚さは、0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下とする。
【0040】
続いて、図2(B)に示す帯状片加工ステップにしたがい、柾目面215における切削加工により得られた薄い帯状片217を、図2(C)に示すように、同一サイズの短冊状に切断する。この切断加工には、例えばパンチカッターを用いることができる。
【0041】
以上のステップを経て加工された薄片は、基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ。図3は、かかる着色された木材断面組織を持つ薄片の一例について、特徴例を模式的に説明する拡大平面図である。図示する薄片の例において、特徴例には、年輪特徴とカラー特徴が含まれる。すなわち、年輪特徴には、木材断面組織から視覚により読みとれる年輪R1〜R12の位置、年輪の間隔、および年輪の太さ(本例では、表に示すように、3種類の太さに分類している。)が含まれる。また、カラー特徴には、木材断面組織から視覚により読みとれる着色A〜Eの色(「着色なし」の場合を含む)が含まれる。かかる目に見える特徴は、薄片を真偽識別に用いる典型的な特徴の一例である。もっとも、より高度な真偽識別を可能とするために、通常の肉眼では識別できない特徴、例えば、顕微鏡等により拡大して初めて観察可能な木材断面組織の微細な特徴(道管断面部分の染まり具合や、独立行政法人 森林総合研究所が提供する「日本産木材識別データベース」の検索キーに選ばれている、各樹種による組織構造の特徴)を、さらに特徴例に含めてよい。
【0042】
図2(C)に示す短冊状切断ステップの後、薄片の各々を標識基材に組み込むステップに進み、真偽識別用標識に完成させる。このとき、真偽識別用標識は、薄い木材組織からなる薄片を外力から機械的に保護するとともに、通常の標識の使用状態において、木材断面組織を観察可能とすることが必要である。図4〜図6に、薄片片組み込みステップを経て、標識基材に薄片を組み込んだ各実施形態を示す。
【0043】
図4は、薄片片組み込みステップを経て、円筒状の標識基材411に薄片301を組み込んだ一実施形態を示す斜視図である。本実施形態において、真偽識別用標識401は、透明筒状の標識基材411の中空部に、薄片301を透明樹脂413とともに封入し、固化させてなる。本実施形態においては、標識基材411の一端を貫通する、リング状のワイヤ415を有する。また、ワイヤ415の途中に接続金具417が設けられており、ワイヤを物品に通した後に接続金具417を固定することにより、真偽識別用標識401を物品から分離不能に固定することができるようになっている。
【0044】
本実施形態における真偽識別用標識401では、透明筒状の標識基材411の中空部に、真偽識別用標識ごとのシリアルナンバー419(本例では「00112PTJ09」)が表示されたプレート418も封入し、固化させている。プレートに表示されたシリアルナンバー419は、真偽識別用標識401が付される特定の商品もしくは役務の識別情報、あるいは当該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報に対応する。
本実施形態によれば、薄片301が円柱状の透明体に封入されているので、円柱のレンズ作用によって薄片の特徴の観察が非常に容易になる。また、真偽識別用標識401は、その構造上、分解して内部の薄片を無理やり取り出すことが困難であり、偽造防止に有利である。
【0045】
図5は、薄片組み込みステップを経て、カード状の標識基材421に薄片301を組み込んだ別の実施形態を示す斜視図である。本実施形態において、真偽識別用標識402は、薄片301の両面を薄い透明シートで挟み込んで貼り合わせた複合シート(図示せず)を、別の1層または多層のプラスチックシートと貼り合わせたものを、打ち抜きによりカード状に成形したものである。なお、複合シート内の薄片301が分解困難となるよう、薄片301とともに透明樹脂を封入し、固化させてもよい。
本実施態様における真偽識別用標識402は、クレジットカードとして使用することができるよう、カード番号、有効期限、氏名の表示と、磁気情報(図示せず)を含んでいる。また、図4に示す実施形態と同様、真偽識別用標識ごとのシリアルナンバー419の表示を含んでいる。
【0046】
図6は、薄片組み込みステップを経て、札状の標識基材431に薄片301を組み込んださらに別の実施形態を示す斜視図である。本実施形態において、真偽識別用標識403は、薄片301の両面を薄い透明シートで挟み込んで貼り合わせた複合シート(図示せず)を、台紙に貼り合わせたものを、打ち抜きにより札状に成形したものである。なお、複合シート内の薄片301が分解困難となるよう、薄片301とともに透明樹脂を封入し、固化させてもよい。
本実施態様における真偽識別用標識403は、衣料品等の商品タグとして使用することができるよう、商標433、生産地435の表示を含んでいる。また、図4に示す実施形態と同様、真偽識別用標識ごとのシリアルナンバー419の表示を含んでいる。
【0047】
以上説明した本発明の実施形態によれば、立木染め木材200から切り出した基準木片201に由来する、複数の薄片301は、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ。すなわち、基準木片201の柾目面215から、帯状薄片217を経て、短冊状に加工された薄片301は、互いに均一の着色された木材断面組織を持つが、その特徴は、基準木片201に固有のものである。したがって、基準木片201から、実質的に均一の帯状薄片217に加工が可能であることを条件に、特徴が一致する薄片301を後から増やす(追加生産する)ことが可能である。しかし、基準木片201を粉砕や消却などにより処分してしまったとき、あるいは、基準木片201から実質的に均一の帯状薄片217に加工することが困難になったときは、それ以降、薄片301の数を増やすことができない。薄片の持つかかる特性から、真偽識別用標識は、例えば、個数限定の商品または期間限定サービス等の真偽識別に好適に用いることができる。
加えて、立木染め木材200から切り出した基準木片201に由来する、複数の薄片301には、彩色的自由度があり、装飾性に優れ、豪華性を演出できるので、美的外観を備えた本実施態様の真偽識別用標識は、時計、宝飾品、高級衣料品その他の高級商材の標識の用途として好適である。
【0048】
さらに、薄片301は、両面から観察可能な、立木染め独特の外観を有するため、偽造者から、電子写真複写機等により複製、模倣しようしても、偽造品とすぐわかってしまう。かかる点は、立木染め木材の製作には相当期間を要する一方で、立木内部の染め上がり状態は、木材を切り出してみないとわからない点等と相俟って、偽造者から、本発明の真偽識別用標識を偽造する意欲を殺ぐことになる。つまり、本発明の真偽識別用標識は、偽造抑止力を持つ標識といえる。
さらに加えて、本発明は、持続的森林経営(Sustainable Green Ecosystem Council=SGEC)認証あるいは、FSC(Forest Stewardship Council)認証を取得した森林を含め、広く森林木材一般の利用推進に役立つものである。すなわち、本発明は、森林の立木に立木染めを行い、本発明の真偽識別用標識に加工するという、伐採木材の新用途を提供することから、伐採した樹木が有効活用されるとともに、森林環境保全に大いに貢献する。
【0049】
ところで、本発明の真偽識別用標識が付された商品やサービスが、真正であることを、消費者自らが確認することを可能なさしめること換言すると、消費者の手元にある真偽識別用標識が真正であることを消費者が確認できるようにすることは、真偽識別用標識を普及させるための重要な要素である。かかる目的のために、例えば、真偽識別用の画像データベースを構築し、消費者が、端末から、通信ネットワークを介して当該画像データベースにアクセス可能とすることが有用である。
【0050】
図7は、かかる目的を達成するべく構築された、真偽識別用の画像データベースにアクセスするための概略システムを示す、システム構成図である。図7に示すように、真偽確認システム501は、データセンター510、商品またはサービスの提供者が操作する登録端末520、および消費者が操作する端末530を含み、通信ネットワーク540を介して互いに接続されている。
【0051】
データセンター510は、薄片の目に見える特徴を示す画像データを、特定の商品もしくは役務の識別情報、または該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報と対応づけて、格納するデータベースを備えている。例えば、本実施形態において、薄片301の画像データと、目に見える特徴に関する記述と、真偽識別用標識ごとの識別情報(シリアルナンバー)を、対応づけて記憶させることができる。また、かかるデータとは別に、消費者には非公開であるが、提供者が閲覧できる付加的なデータを記憶させてもよい。
【0052】
登録者が操作する登録端末520、消費者が操作する端末530は、Webページを閲覧可能なWebブラウザを搭載し、当該Webブラウザの機能により、端末530が備える表示部に各種のWebページを表示することができる。端末530が表示するWebページは、HTML(HyperText Markup Language)、XML(eXtensible Markup Language)、CompactHTML、DHTML(Dynamic HTML)、WML(Wireless Markup Language)、HDML(Handheld Device Markup Language)等のマークアップ言語及びこれらを拡張した言語により記述したファイルとすることができるが、それらに限定されるものではない。
【0053】
登録者が操作する登録端末520は、登録者が、データセンター510のデータベースに格納する、真偽識別用標識の外観画像データおよび薄片301の画像データと、目に見える特徴に関する記述と、真偽識別用標識ごとの識別情報(シリアルナンバー)とを、新規に登録し、変更し、または削除するためのものであり、そのための入力装置521、例えばキーボード、マウス、薄片301の画像データを外部記憶メディア等から取り込むための、USB(Universal Serial Bus)等のI/F部を備える。
【0054】
消費者は、端末530が備える図示しない入力部を操作して、後述する検索画面、検索結果画面を含むWebページをスクロールし、検索画面の検索窓の入力ボックスに文字、記号、数字その他の情報を入力し、また、検索画面の検索ボタンを押下してデータセンター510のデータベースの検索を実行させ、検索結果を得ることができる。
【0055】
なお、いうまでもないが、提供者が操作する登録端末520、消費者の端末530は、CPU、ROMまたはハードディスク等の記憶装置、RAM、通信制御部、入力部、および表示部を含む一般的なパーソナルコンピュータ(PC)、または、Webページを閲覧可能なWebブラウザを搭載した携帯電話機、スマートフォン、携帯端末でよい。CPUは、記憶装置に格納されているプログラムを読み出し、RAMが有するワークエリアに展開して実行し、各部を制御する。
【0056】
通信ネットワーク540は、典型的にはインターネットであるが、専用線、公衆電話回線、衛星通信回線等の各種通信回線や図示しない各種サーバ等を含んで構成されてもよく、その具体的様態は特に限定されない。
【0057】
次に、図8および図9を参照し、真偽確認システム501の動作を説明する。
図8は、真偽識別用の画像データベースにアクセスする端末の表示装置に表示される検索画面の一例を示す図であり、図9は、真偽識別用の画像データベースにアクセスする端末の表示装置に表示される検索結果画面の一例を示す図である。
【0058】
図8を参照して、消費者の操作により、消費者の端末530から、データセンター510にアクセスし、端末530の表示部に検索画面610を表示させる。次いで、消費者の操作により、検索画面610上で、シリアルナンバーデータ入力ボックス611に、手元の真偽識別用標識に付されたシリアルナンバー419を入力し、検索ボタン613を押下することにより、シリアルナンバーを含む、検索要求をデータセンター510に送信する。データセンター510は、消費者の端末530から、識別情報としてシリアルナンバーを受信するとともに、当該シリアルナンバーをキーとして、対応する真偽識別用標識の外観画像データおよび薄片301の画像データと、目に見える特徴に関する記述を、データベースから取り出し、図9に示すような検索出力画面701を生成するための出力データを、消費者の端末530に送信する。
【0059】
消費者の端末530は、データセンター510から受信した出力データをもとに、検索出力画面701を構成して、表示部に表示させる。
本実施形態では、検索出力画面701は、図3を参照して説明したものと同様の、薄片の拡大画像と、年輪特徴とカラー特徴の記述を含んでいる。また、偽識別用標識の外観画像711とサイズの記述を含んでいる。
したがって、消費者は、検索出力画面701に示されている、偽識別用標識の外観画像、薄片の拡大画像、目に見える特徴の説明から、手元の偽識別用標識が真正かどうかを、自ら確認することができる。
【0060】
以上説明した実施形態において、立木染め木材200から切り出した基準木片201に由来する、複数の薄片301は、立木染め木材200内部のある部位から基準木片201を切り出し、基準木片201の柾目面215において加工したものであったが、基準木片切出ステップを、立木染め木材から枝を切り出すステップに代替し、薄片加工ステップを、当該枝を輪切りにスライスするステップに代替してもよい。すなわち、基準木片が、幹よりも細い枝とし、その枝を輪切りにスライスして、複数の薄片に加工してもよい。
図10は、薄片の別の例を示す、拡大平面図である。かかる代替方法により得た薄片801は、基準木片が、立木染めされた枝の場合にも、輪切り面から加工される複数の薄片同士は、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持っている。したがって、短冊状の薄片301と同様に、輪切り状の薄片801を標識基材に組み込んで、真偽識別用標識を構成することができる。
【0061】
本発明において、立木染め木材の樹木種は、広葉樹、針葉樹のいずれをも含み、特にこれを限定しない。例えば、特開2000−254904号に開示されたような、既存の立木染めの手法において見いだされている樹木の選定基準でよく、また、今後見いだされあるいは確立される別の選定基準によってもよい。
また、立木染めに使用する染液についても、特に限定しない。既存の立木染めの手法において見いだされている好適な染料、希釈液、希釈比率でよく、また、今後見いだされる、あるいは開発される各種の染料を使用する染液であってもよい。例えば、蛍光染料を選択し、立木に注入することで、蛍光色を発現する部位を含む立木染め木材を、意図的に制作するようにしてもよい。
【0062】
さらに、原材料の立木染め木材を製作するにあたり、立木染めの着色プロセスをすべて生立木の自然の生長に委ねるのではなく、強度の枝打ちを実施する等の人為的な操作を加えることにより、年輪の幅を操作する等してもよい。
【0063】
以上、複数の実施の形態において図面を引用しつつ例示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なうことのない範囲において適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、標識の偽造が極めて困難な真偽識別用標識に適用され、商品やサービス提供の真正性と安全の保証に資する。また、伐採木材の新用途を提供することから、伐採した樹木の有効活用と、森林環境保全への貢献度は大きなものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伐採前の立木の内部に一色以上の染液を供給し、該立木が備える道管または仮道管の吸水力を利用して立木内部を染色して製作した、立木染め木材から、基準木片を切り出すステップと、
前記基準木片から、所定断面における複数の薄片に加工するステップと、
前記薄片の各々を標識基材に組み込むステップと、
を含むことを特徴とする、真偽識別方法。
【請求項2】
前記基準木片切出ステップは、前記立木染め木材から柾目面を有する板材を切り出すステップを含み、
前記薄片加工ステップは、前記柾目面とほぼ平行にスライスした薄い帯状片を、短冊状に切断するステップを含むこと
を特徴とする、請求項1に記載の真偽識別方法。
【請求項3】
前記基準木片切出ステップは、前記立木染め木材から枝を切り出すステップを含み、
前記薄片加工ステップは、前記枝を輪切りにスライスするステップを含むこと
を特徴とする、請求項1に記載の真偽識別方法。
【請求項4】
前記薄片の目に見える特徴を示す画像データを、特定の商品もしくは役務の識別情報、または該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報と対応づけて、データベースに格納するステップと、
前記識別情報を入力して前記データベースにアクセスする端末に対し、前記画像データを、通信ネットワークを介して送信するステップと、
をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の真偽識別方法。
【請求項5】
立木染め木材から切り出した基準木片に由来する薄片であって、該基準木片の所定断面から加工される複数の薄片同士が、互いに均一だが基準木片に固有の着色された木材断面組織を持つ前記薄片を、標識基材に組み込んでなる、
真偽識別用標識。
【請求項6】
前記標識基材は、特定の商品もしくは役務の識別情報、または該特定の商品もしくは役務の提供者の識別情報を示す表示を含むことを特徴とする、請求項5記載の真偽識別用標識。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−51237(P2011−51237A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202324(P2009−202324)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(509247733)聖産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】