説明

真正性識別媒体および真正性識別媒体の識別方法

【課題】目に対して安全に、且つ容易に判定が可能であり、より真正性に関する不正が行われにくい識別媒体およびその識別方法を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも、蛍光体を含有し真正性を判断するために使用される識別層と、絵柄や情報を表示するための絵柄層と、前記識別層と前記絵柄層を形成するための基材と、からなる真正性識別媒体であって、前記蛍光体は、常温より高い温度に保持するか、またはその直後に励起光(可視領域または近赤外領域)を照射した時の蛍光(可視領域または近赤外領域)の発光強度よりも、常温にて可視光を照射した後に前記励起光を照射した時の蛍光の発光強度の方が高い蛍光体が2種類以上含有されていることを特徴とする真正性識別媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光を発光することにより識別が可能となる識別媒体とその識別方法に係わり、特に、熱をかけている間またはその直後に励起光を照射することによる蛍光と、さらに一定時間、可視光を照射した後に励起光を照射することによる蛍光を測定することによって真正性を識別する真正性識別媒体とその識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券、カードおよび通行券などの貴重印刷物や、運転免許証、パスポートおよび保険証など個人を認証する証明証書、物品を真正であると証明するステッカー等の偽造防止媒体は、第三者に偽造および改竄されないために常に新たな偽造防止技術を盛り込むことが要求されており、併せて真正品であるかどうかの判断が可能な真正性識別方法または真偽判定方法が必要とされている。
【0003】
上記偽造防止技術には、セキュリティ性を高めるために、マイクロ文字、コピー牽制パターン、赤外線吸収インキあるいは蛍光発光インキなどが用いられている。上記技術のうち、蛍光発光インキとは、通常の可視光下で肉眼により視認しがたく、紫外線や赤外線を照射することにより、目視あるいはカメラによって画像を検出することが可能となるインキ等がある。
【0004】
上記の蛍光インキは、通常の印刷用のインキに用いられる可視光領域に吸収を持つ有色の有機顔料あるいは無機顔料の代わりに、蛍光性の顔料が用いられる。蛍光発光インキの他の成分としては、ビヒクルおよび補助剤などがある。上記の蛍光発光インキは、通常のオフセット印刷等の公知の印刷方式にて蛍光印刷部を形成でき、赤、緑、青などの各色に発光する蛍光体である。
【0005】
蛍光印刷部を浮かび上がらせるためには、励起光となる紫外線を照射する。紫外線を照射することにより、蛍光印刷物の蛍光体が紫外線を吸収し、可視領域の蛍光を発光する。この蛍光を目視あるいはカメラなどを利用して蛍光画像を確認することができる。照射する紫外線の波長としては、使用する蛍光体の種類により種々の光源を選択することが可能である。特に、365nmの波長の紫外線を発光するブラックライトは小型のものが広く使用されている。
【0006】
しかしながら、近年においては、蛍光発光インキなども比較的容易に入手することが可能となってきている。そのため、2種類の蛍光材を混合して、発光色のみならず、発光部位を変化させる提案がなされている。一例として、基材上に蛍光発光を吸収する可視光吸収層を印刷し、その上に二波長でそれぞれ異なった蛍光を発光するインキで、蛍光画像層を印刷した印刷物であり、波長の異なった励起光を照射して二色に変化させた上で、可視光吸収層によって、発光を吸収させ、発光色ならびに発光部位を変化させる、真偽判定可能な蛍光画像形成物が特許文献1に開示されている。
【0007】
2種類の蛍光体を混合して組み合わせた例においては、異なった励起光を照射して短波の紫外線と長波の紫外線を照射した場合では、異なった蛍光を発光する。しかしながら、これらの蛍光体は、殺菌灯によく用いられる比較的短い254nm付近の波長の紫外線で励起される蛍光体と、一般にブラックライトと呼ばれる比較的波長の長い紫外線として良く用いられる365nm付近の紫外線および254nm付近の紫外線の両方の広い波長領域で励起する蛍光体の2種類に大別され、この2種類の組み合わせとなる。この場合、蛍光体を1種類使用しても2種類使用しても、短波の紫外線を照射した際には必ず発光し、
短波の紫外線の照射時には上記2種類の蛍光体の混合した色となり、原色ではなく、彩度のある色が発光しなかったり、色を選べなかったりする等の制約があるため、混色になった場合に色の共通認識がないと判別しにくい問題があり、さらには、殺菌灯は目に対して危険であるという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−250214号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記した従来の問題点に鑑みてなされた発明であり、目に対して安全に、且つ容易に判定が可能であり、より真正性に関する不正が行われにくい識別媒体およびその識別方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記を解決する手段として、請求項1に記載の発明は、少なくとも、蛍光体を含有し真正性を判定するために使用される識別層と、絵柄や情報を表示するための絵柄層と、前記識別層と前記絵柄層を形成するための基材と、からなる真正性識別媒体であって、
前記蛍光体は、常温より高い温度に保持するか、または保持の終了の直後に、励起光(可視領域または近赤外領域)を照射した時の蛍光(可視領域または近赤外領域)の発光強度よりも、常温にて可視光を照射した後に前記励起光を照射した時の蛍光の発光強度の方が高い蛍光体が2種類以上含有されていることを特徴とする真正性識別媒体である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、励起波長の光を照射したときの蛍光の残光時間がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載の真正性識別媒体である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、励起波長および蛍光の発光波長が、可視領域、赤外領域のいずれか、または、両方の領域を含む光であり、前記蛍光のピーク波長以外に励起波長があることを特徴とする請求項1または2に記載の真正性識別媒体である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、2種類以上の蛍光体が1つの層に含有されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真正性識別媒体である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、それぞれ異なる蛍光体が1種類含有されている識別層が、2層以上形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真正性識別媒体である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、蛍光体の励起波長が蛍光体毎に異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の真正性識別媒体である。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、蛍光体の励起波長が同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の真正性識別媒体である。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、蛍光体の発光波長が赤外領域にあり、蛍光体が含有されている識別層よりも外側に絵柄層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の真正性識別媒体である。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の真正性識別媒
体を識別する識別方法であって、
少なくとも、真正性識別媒体に熱をかける工程と、
前記熱をかける工程が終了する前か終了直後に、前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光の発光強度を測定する工程と、
前記真正性識別媒体に可視光を一定時間照射する工程と、
前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光の発光強度を測定する工程と、をこの順に備えていることを特徴とする真正性識別媒体の識別方法である。
【0019】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の真正性識別媒体を識別する識別方法であって、
少なくとも、真正性識別媒体に熱をかける工程と、
前記熱をかける工程が終了する前か終了直後に、前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光を識別し、その発光強度を測定する工程と、
前記真正性識別媒体に可視光を一定時間照射する工程と、
前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光を識別し、その発光強度を測定する工程と、
をこの順に備えており、
熱をかけている間または直後に、励起光を照射したときの蛍光の発光1と、可視光を一定時間照射した後に励起光を照射したときの蛍光の発光2をそれぞれ識別し、前記発光1よりも前記発光2の方が強度が大きく、さらに前記発光2の励起光の照射を止めてからの予め設定した経過時間と蛍光の発光強度を測定し、その減衰状態を測定することにより、予め記憶しておいた真正なデータと比較して一致している場合には、真正性識別媒体が 真正であると識別することを特徴とする真正性識別媒体の識別方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、以上の構成であるから、下記に示す如き効果を奏することができる。
【0021】
即ち、上記請求項1に係る発明によれば、偽造が困難であり、他の蛍光体との判別がしやすい蛍光体を識別媒体に設けることで、識別を可能とする効果を得られる。特には、熱をかけている間または直後に、励起波長の光を照射したときの発光強度よりも、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射したときの発光強度が高い2種類の蛍光体を判別することで、蓄光とも通常の蛍光体とも異なる効果を有しながら、識別が可能になり、さらに、蛍光体2種類以上の蛍光体を判別することで、偽造されにくい識別が可能になるという効果が得られる。
【0022】
また、上記請求項2に記載の発明によれば、前記蛍光体が励起波長の光を照射されたときの蛍光の残光時間がそれぞれ異なるため、これを検証することにより、より精度の高い識別が可能となる効果を有する。
【0023】
また、上記請求項3に係る発明によれば、励起波長と発光の波長が、可視や赤外であるため、目視で安全に検証可能となったり、検証機をつくりやすくなるという効果が得られる。
【0024】
また、上記請求項4に係る発明によれば、本発明の識別媒体に対し、偽造を困難にするための2種類以上の蛍光体を基材中に抄きこむか、又は、練り込んだり、印刷層やコーティング層に含有させたりすることで、一つの層中に2種類以上の機能を持たせ、任意の光を照射し、読み取った場合に、2種類以上を識別することで精度が向上した判定が可能になる効果が得られる。また、基材に含有させる場合、印刷よりも層を厚くすることが可能となるため、蛍光体を多量に含有させることが可能となり判定しやすくなったり、より多い種類の蛍光体を含有させることができ、識別の精度を向上させたりできるという効果が得られる。
【0025】
また、上記請求項5および6に係る発明によれば、本発明の識別媒体に対し、偽造を困難にするための蛍光体が各層に含まれて成ることにより、各蛍光体をパターン状に設けることができ、蛍光体の有無を一部分に設けることができるとともに、さらに各蛍光体をコード化した識別やすべての蛍光体でコードとなるように設けることが可能となる効果を得られる。
【0026】
また、上記請求項7に係る発明によれば、照射する励起光が1種類で可能となるため、検証機を安価につくることが可能になるという効果が得られる。
【0027】
また、上記請求項8に係る発明によれば、本発明の識別媒体に対し、偽造を困難にするための蛍光体が含まれる層よりも外側の層に印刷を設けることにより、自由なデザインを設けることができるため、外観を気にせず、任意の光を照射し、読み取った場合に、真正か否かの判定ができる効果を得られる。
【0028】
また、上記請求項9に係る発明によれば、本発明の識別媒体に対して、熱をかけている間または直後に励起波長の光を照射したときの発光強度と、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射されたときの発光強度を検出することで、真正か否かの判定が可能となる効果が得られる。
【0029】
また、上記請求項10に係る発明によれば、本発明の識別媒体に対して、熱をかけている間または直後に励起波長の光を照射したときの発光強度1と、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射したときの発光強度2を検出し、発光強度1と発光強度2の大小関係をそれぞれ識別し、比較することで、真正か否かの判定が可能となる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の識別媒体の一実施形態の平面図である。
【図2】図1の識別媒体の一実施形態の断面図を表した説明図である。
【図3】本発明の識別媒体の識別方法の一実施例を説明するための説明図である。(a)は識別媒体21に熱をかけている状況を示す概略図、(b)は識別媒体21に励起光51を照射しても蛍光が出ていない状況を示す概略図で、(c)は識別媒体21に可視光61を照射している状況を示す概略図、(d)は識別媒体21に励起光51を照射すると蛍光が出て、同時に蛍光強度測定器71にて蛍光の測定を行っている状況を示す概略図である。
【図4】図3の識別媒体の識別方法の一実施例における(d)での検出方法を説明するためのグラフである。
【図5】本発明の識別媒体の一実施形態を説明する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に従い、本発明に係わる偽造防止媒体について詳しく説明する。
【0032】
図1は、本発明の識別媒体の一実施形態を示す平面図であり、図2は図1における一実施形態のX−X’の断面図である。この識別媒体1は、偽造を防止するための第一の識別層21と第二の識別層22が備えられている。
【0033】
図3は、本発明の識別媒体の識別方法の一実施例を説明するための説明図である。(a)は第一の識別層21と第二の識別層22を加熱している状況を示している。(b)は励起波長照射装置52(励起光照射装置)により識別媒体1に励起光51を照射するのと同時
に、識別媒体1から発せられる蛍光の強度を蛍光強度測定器71を用いて測定している状況を示している。(c)は可視光照射装置62を用いて識別媒体1に可視光を照射している状況を示している。(d)は(b)と同様の状況を示しているが、本発明では(b)では蛍光が識別媒体1から発せられていないのに対し、(d)では蛍光が識別媒体1から発せられている点が異なる。
【0034】
図4は、図3の識別媒体の識別方法の一実施例における(d)での検出方法を説明するためのグラフである。
【0035】
図5は、本発明の識別媒体の一実施例を説明する断面の説明図であり、一つの層に2種類の残光の異なる第一の蛍光体24および第二の蛍光体25を備えていることを表している。
【0036】
以下に本発明の識別媒体1を構成する各層の材料や形成方法について、具体的に説明する。
【0037】
本発明の基材11は、蛍光の性質がある物質を含有していない基材が好ましい。本発明の機能を持たせるための蛍光体とは別の目的で使用される漂白剤等は含有しているものでも使用することはできるが、入っていない方が好ましい。使用される基材11の物質としては、それぞれの用途に応じて選定される。例えば、識別媒体1がチケットの一部に設けられる場合は、例えば基材として上質紙が選定される場合もあるが、カードの一部に本発明の識別媒体1を設ける場合には、塩ビやPET等のプラスチックのシートを選定する。また、パッケージの一部に本発明の識別媒体1を設ける場合、例えば、コートボール紙を使用したりラベルに使用する場合は、タック加工を施された上質紙やコート紙を使用することがある。さらには、貼り替え防止の観点から、共に脆性を有するフィルム、例えば、セルロースアセテート、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイドなどの高結晶性プラスチック素材を溶液成膜法によりフィルム化した物を使用することがある。また、用途により、基材の必要性のない場合には、基材11に剥離層を設けて、剥離できるようにすることもできる。
【0038】
本発明の識別媒体1としての効果を持たせるために、第一の識別層21および第二の識別層22が設けられる。第一の識別層21および第二の識別層22は、励起波長の光(励起光51)を照射したときのみ発光する蛍光体を含んだ層であり、蛍光体は熱をかけている間または直後に、励起波長の光を照射したときの蛍光の発光強度よりも、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射したときの蛍光の発光強度の方が高い性質を持つものである。
【0039】
熱をかけている間または直後に、励起波長の光を照射したときの発光強度よりも、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射したときの発光強度が高い蛍光体を媒体中に設けることにより、一般的な蛍光体や蓄光体とは異なる特性を持たせることができる。一般的な蛍光体は、熱をかけている間または直後に、励起波長の光を照射したときと、可視光を一定時間照射した後に励起波長を照射した時の発光の強度は同じである。この差を利用することにより、不正を防ぐ識別媒体を提供できる。
【0040】
本発明に用いる蛍光体は、熱をかけている間または直後に、励起波長の光を照射したときの発光強度よりも、可視光を一定時間照射した後に励起波長の光を照射したときの蛍光の発光強度が高く、蓄光体とも異なるものである。蓄光とは、物質が光をためて発光する性状を示すものをいい、硫化亜鉛(ZnS系)やアルミン酸ストロンチウム(SrAl24系)が知られている。蓄光は残光時間が長く、人間の目で見ても残光がわかる程度であり、例えば具体的には残光時間が数分のものから、1日以上のものまであるのに対し、本発明で用いる蛍光体は、目ではわからない程度の残光時間である。本発明では、蛍光体という言葉を使用しているが、蛍光体とリン光体の定義は諸説あり、残光時間で定義しているものもあるため、本発明でいう蛍光体はリン光体も含めている。
【0041】
さらに、本発明に用いる蛍光体は、可視光を一定時間照射した後に、励起波長の光を照射したときの蛍光の発光強度が高く、励起光を照射してからの経過時間と蛍光の発光強度の減衰の状況を表す減衰カーブは、蛍光体の物質により異なる。この減衰カーブはそれぞれ物質により異なるために、他のものとの差別化が可能となり、これを複数用いることにより、さらに、組合せが増すために、識別の精度を向上させることが可能となり、また、識別する種類が増えたり、コードを増やすことも可能となる。
【0042】
本発明の蛍光体の励起波長と発光波長は、紫外可視領域または赤外領域のいずれかであり、更には、それぞれ可視領域または近赤外領域が望ましい。また、励起波長と発光波長で異なる波長領域があることが望ましいが、同じであっても良い。
【0043】
また、通常、赤外光で励起させて、可視光で発光させるというアンチストークスタイプの蛍光体が報告されている。しかし、この発光の機構は通常のストークスタイプとは異なり、エネルギーの低い光を照射し、エネルギーの高い光を発光させることになるため、励起光となる赤外光は強い光が必要となり、可視光を目視で見るためには、非常に人間の目には危険な赤外レーザーを用いなければならない。しかし、本発明に使用する蛍光体は、光エネルギー等を予め蛍光体内に貯蓄し、その後、近赤外光や可視光などの照射により貯蓄したエネルギーを放出して可視発光する性質を有するものである。したがって、本発明の識別媒体では可視光で照射しておくことで、レーザー程の強い光でなくLED等の光で人間の目で見える程度の光が発光するため、目視で確認することを可能にすることもできるし、検証機に安価で安全なLEDを使用しても検出しやすい発光量が得られるため、検証機をつくることも容易となる。
【0044】
第一の識別層21および第二の識別層22は、インキにより印刷にて設けることが可能である。インキにすることで、マークや文字でのパターンニングが可能になるだけでなく、そのパターンをコード状にすることで、発光の確認をするとともに、CCD等のセンサーとバンドパスフィルターやカットフィルター等のフィルタを用いた機械でコードを確認することでコードの確認もでき、個別情報と真偽(真正性)の判定の両方が同時に可能となる。
【0045】
第一の識別層21および第二の識別層22の印刷方式は、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、パッド印刷、活版印刷、インクジェット印刷等の方式を用いることができる。印刷方式により、インキの組成は異なるが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を10〜50%、それぞれの印刷方式に合わせた溶剤を30〜70%とその他、添加剤と上記蛍光体を混合してインキ化することが可能である。その他、酸化重合型のインキや水系エマルジョンのインキ等、通常の各種インキの着色顔料の代わりに蛍光体を分散、または、溶解しても良い。
【0046】
本発明の蛍光体としては、硫化物蛍光体(ZnS,CaS)があげられる。その一例として、硫化カルシウムを母体とし、これにサマリウム(Sm)およびユーロピウム(Er)を賦活剤として添加したものがあげられる。また、アルカリ土類硫化物の混合物を母体とし、ビスマスおよびサマリウムを活性化剤として含むもの、硫化マグネシウムと硫化ストロンチウムの混合物(MgxSr1-xS)を母体とし、マグネシウムやストロンチウムを混合したものがあげられる。
【0047】
本発明では、基材11自体が前記蛍光体を有する第一の識別層21や第二の識別層22、2種類の蛍光体を含有させた識別層23となる場合もある。本発明に使用される蛍光体は、識別媒体の基材11が用紙である場合には抄き込んで形成され、基材11がプラスチックである場合にはプラスチックの原料に練り込んで形成される。
【0048】
絵柄層31は、複数の層からなるものでよい。通常の印刷に用いられるイエロー、マゼンダ、シアンの他、これらを混ぜ合わせた、または、特殊な顔料を使用した特色インキを使用できる。さらに、第一の識別層21を隠蔽するための、第一の識別層21のパターンとは逆版のパターン印刷や白色の隠蔽層、または、その他着色した隠蔽層を第一の識別層21の外側に設けてもよい。さらに、また、隠蔽するため、また、外観や耐性向上のために絵柄層より外側にニスの層を設けても良いし、別の加飾効果のある光干渉効果のあるものを印刷や転写、貼り合わせにより、設けても良い。絵柄層の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷が好ましいが、その他の印刷方式で設けることもでき、また、転写機やラミネート機を用いることにより設けることができる。
【0049】
以下に、図3を用いて、本発明の識別媒体1を検証する識別方法を説明する。図3の(a)にて上記のように形成した識別媒体1に熱41をかける。その後、(b)のように、励起波長照射器52により、励起光51を照射する。このとき、熱41をかけることにより蛍光体が蓄積していたエネルギーが逃げていくために、励起光51を照射しても識別媒体1は発光しない。さらに、(c)のように、可視光照射器62により可視光61を照射する。このとき、識別媒体1は可視光61のエネルギーを蓄える。さらにまた、(d)のように、励起波長照射機52により、励起光51を照射すると、識別媒体1は(b)の場合とは異なり、発光する。これは、(c)で蓄えられたエネルギーが、(d)の励起光51により放出して起こるものである。
【0050】
具体的には、図3(b)でかける熱41は、第一の識別層21に用いる蛍光体の特性によっても変わるが、40℃〜200℃で、20秒間〜20分間かけるものが好ましい。さらに運用面を考慮して80℃〜100℃で、1分間〜10分間かけることが最も望ましい。ただし、この条件でなくても第一の識別層21の発光が弱まっていれば良い。
【0051】
図3における励起光照射器52は、励起波長のLEDが望ましいが、蛍光灯やレーザー等、発光体の励起波長が含まれる光であれば良い。また、可視光61は、図3では可視光照射器62により照射する光であり、LED又は蛍光灯、太陽光が望ましいが、その他のものでも良い。
【0052】
図4は、図3(d)における励起光51を照射したときの第一の識別層21および第2の識別層22、または、第一の蛍光体24および第二の蛍光体25の発光強度と時間の関係の一例を表したグラフである。時間tおよび時間tで、第一の識別層21または第一の蛍光体24、および、第二の識別層22または第二の蛍光体25の発光強度をそれぞれ測定した結果の一例である。この発光強度の減衰を計測することにより、本発明の識別媒体の真正性を判定する。その判定には、簡易的に、tおよびtにおける発光強度の差(IA1−IA2)が一致するかを判定したり、時間tにおける発光強度をtにおける発光強度で除した値(IA2/IA1)を減衰率として計算し、一致するかどうかを検証したりしても良く、また検証機の仕様により、測定の点数は2点ではなく、3点以上でもよく、また、連続して測定し、関数を算出して、判定しても良い。検証機の光源の仕様と演算速度、費用が合うものを選択すれば良い。
【0053】
図4における時間tおよび時間tは、0.05ms〜2msの範囲であることが好ましく、2種類の蛍光体の差が現れる範囲の時間を、tおよびtとして設定することが
望ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
<実施例>
まず、上質紙にスクリーン印刷方式にて、図1のように識別媒体1の一部の領域に第一の識別層となるインキと第二の識別層となるインキを2μm印刷し、実施例1の識別媒体を得た。
[第一の識別層のインキ組成]
蛍光体:硫化カルシウム蛍光体 25重量部
塩化酢酸ビニル 25重量部
シクロヘキサノン 30重量部
イソホロン 20重量部
[第二の識別層のインキ組成]
蛍光体:硫化マグネシウム蛍光体 25重量部
塩化酢酸ビニル 25重量部
シクロヘキサノン 30重量部
イソホロン 20重量部
【0055】
上記実施例1で得た識別媒体を、80℃のオーブンに入れ、励起波長の赤外線800nmのLEDの光を照射した。その後、可視光を10分間照射した後、再度励起波長のLEDの光を照射した。さらに、励起波長のLEDの照射を止めて、止めてから0.5ミリ秒後の第一の識別層と第二の識別層の発光強度と、1ミリ秒後の第一の識別層と第二の識別層の発光強度を測定した。結果は図4のグラフに示した。識別層1の発光強度の差の方が大きい結果が得られた。この測定を繰り返し行ったが、結果は同じように識別層1の方が識別層2よりも大きな差が見られ、減衰率も同様な結果となり、識別可能であった。
【符号の説明】
【0056】
1 識別媒体
11 基材
21 第一の識別層
22 第二の識別層
23 2種類の蛍光体を含有させた識別層
24 第一の蛍光体
25 第二の蛍光体
31 絵柄層
41 熱
51 励起光
52 励起波長照射器
61 可視光
62 可視光照射器
71 蛍光強度測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、蛍光体を含有し真正性を判定するために使用される識別層と、絵柄や情報を表示するための絵柄層と、前記識別層と前記絵柄層を形成するための基材と、からなる真正性識別媒体であって、
前記蛍光体は、常温より高い温度に保持するか、または保持の終了の直後に、励起光(可視領域または近赤外領域)を照射した時の蛍光(可視領域または近赤外領域)の発光強度よりも、常温にて可視光を照射した後に前記励起光を照射した時の蛍光の発光強度の方が高い蛍光体が2種類以上含有されていることを特徴とする真正性識別媒体。
【請求項2】
励起波長の光を照射したときの蛍光の残光時間がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載の真正性識別媒体。
【請求項3】
励起波長および蛍光の発光波長が、可視領域、赤外領域のいずれか、または、両方の領域を含む光であり、前記蛍光のピーク波長以外に励起波長があることを特徴とする請求項1または2に記載の真正性識別媒体。
【請求項4】
2種類以上の蛍光体が1つの層に含有されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真正性識別媒体。
【請求項5】
それぞれ異なる蛍光体が1種類含有されている識別層が、2層以上形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真正性識別媒体。
【請求項6】
蛍光体の励起波長が蛍光体毎に異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の真正性識別媒体。
【請求項7】
蛍光体の励起波長が同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の真正性識別媒体。
【請求項8】
蛍光体の発光波長が赤外領域にあり、蛍光体が含有されている識別層よりも外側に絵柄層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の真正性識別媒体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の真正性識別媒体を識別する識別方法であって、
少なくとも、真正性識別媒体に熱をかける工程と、
前記熱をかける工程が終了する前か終了直後に、前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光の発光強度を測定する工程と、
前記真正性識別媒体に可視光を一定時間照射する工程と、
前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光の発光強度を測定する工程と、をこの順に備えていることを特徴とする真正性識別媒体の識別方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の真正性識別媒体を識別する識別方法であって、
少なくとも、真正性識別媒体に熱をかける工程と、
前記熱をかける工程が終了する前か終了直後に、前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光を識別し、その発光強度を測定する工程と、
前記真正性識別媒体に可視光を一定時間照射する工程と、
前記真正性識別媒体に励起光を照射すると同時に蛍光を識別し、その発光強度を測定する工程と、をこの順に備えており、
熱をかけている間または直後に、励起光を照射したときの蛍光の発光1と、可視光を一定時間照射した後に励起光を照射したときの蛍光の発光2をそれぞれ識別し、前記発光1
よりも前記発光2の方が強度が大きく、さらに前記発光2の励起光の照射を止めてからの予め設定した経過時間と蛍光の発光強度を測定し、その減衰状態を測定することにより、予め記憶しておいた真正なデータと比較して一致している場合には、真正性識別媒体が 真正であると識別することを特徴とする真正性識別媒体の識別方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240268(P2012−240268A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111232(P2011−111232)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】