説明

真珠てり検査方法及び真珠てり検査装置

【課題】 従来の真珠の光沢を測定する装置は、真珠表面に光源で照明し、真珠表面に映った光源の像を解析することによって真珠光沢を測定するものであり、真珠の干渉色を検査することが困難であった。その結果、従来の干渉色の検査は、検査者が目視で観察することにより経験をもって判定していた。
【解決手段】 真珠を照明する照明方向に対して直交する方向から観測すると、真珠による干渉色が真珠表面に明瞭に現れる。本発明は、この状態の真珠表面に現れる干渉色の強度の分布を計測し、そのデータから指標値を算出することにより、干渉色のてりのグレードを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
真珠表面に現れる干渉色を観測して真珠のてりのグレードを判定する真珠てり検査方法および真珠てり検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠は、球状の真珠核の周囲に非常に薄い結晶層が幾重にも重なって真珠層を形成しており、この幾重にも重なった結晶層の性質に起因して真珠の色や光沢が形成される。
【0003】
真珠層は薄い半透明の結晶層が重なって出来ており、上の層を通過してきた光の一部は次の結晶層で反射し、残りの光はさらに下層の結晶層に達する。このようにして、幾重にも重なっている各々の結晶層で透過と反射が起きることによって、反射光同士やあるいは透過光と反射光とが干渉を起こし、真珠特有の色と光沢が生み出される。即ち、真珠に当てられた光は各々の層で透過する光と反射する光に分かれ、これらが複雑に合成されかつ干渉することで、真珠特有の色と光輝が形成されるのである。
【0004】
真珠の宝石としての評価は、輝きの強さ、色成分、透明感などの要素によってなされるが、これらを総合して「てり」という言葉で表現される。すなわち、「てり」とは、干渉色あるいは光彩色とも呼ばれる色成分と輝き成分から成るということができる。
【0005】
従来の真珠の光沢を測定する装置の代表的なものとして、真珠表面を光源で照明し、そのときの真珠表面に映った光源の像を解析することによって真珠光沢を測定する装置がある。上記装置を用いて真珠の光輝を測定するには、真珠と光源とを対向させて配置し、真珠と光源とを結ぶ線から30°程度傾いた方向にCCDカメラを配置する。光源でもって真珠を照明すれば、真珠表面には光が投射されるとともに真珠表面に光源の像が結ぶ。CCDカメラで真珠の画像を撮像してこの画像の明るさの分布を測定することにより、真珠の光沢の程度を判定しようとするものである。
【0006】
本発明人は、上記の測定装置を真珠の表面に現れる干渉色の解析に適用しようと実験を試みたが、上記の測定装置では真珠表面に現れる干渉色を明瞭に観測することができないことが判明した。即ち、上記の測定装置では、主として正反射光を観測する方法であるので、ほぼ観測手段の正面から真珠を照明している。この照明方法は真珠の輝きの強さを測定するには適しているが、真珠の周縁部に見られる干渉色の状態を観測するには不向きである。
【0007】
そこで、本発明人は、干渉色の観測するために真珠の半球を照明することにより、真珠の周縁部に見られる干渉色の観測する真珠光輝検査装置(特開2001−141658号、特開2003−240722号)を提案している。
【0008】
本発明人が提案した上記の真珠光輝検査装置は、真珠載置台に載置した真珠を拡散光照明で照明し、照明方向に対する真珠の背面側に外光を遮蔽する遮蔽板を配置し、照明方向と直交する方向から真珠を観測するものであり、真珠の照明光源に近い側の半球に明瞭な干渉色が現れる。
【0009】
【特許文献1】 特開2001−141658号
【特許文献2】 特開2003−240722号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、真珠の干渉色を観測する装置は本発明人によって、すでに提案されているが、これらの装置で得られた真珠の画像から真珠のてりのグレードを判定する方法については、未解決であった。
【0011】
本発明は、真珠を拡散光照明で照明し、照明方向に対する真珠の背面側の外光を遮蔽して照明方向と直交する方向から観測した真珠の画像から真珠の干渉色のグレードを判定する真珠てり検査方法および真珠てり検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の真珠てり検査方法は、真珠載置台に載置した真珠を拡散光照明で照明し、照明方向に対する真珠の背面側を外光から遮蔽し、照明方向と直交する方向から撮像した真珠の画像の色の分布状態から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする。
【0013】
上記の第1の解決手段によれば、真珠と照明手段と遮蔽手段を上記のように配置した結果、真珠の照明手段側に鮮明な干渉色が発現し、これを照明方向と直交する方向から観測した画像の色の分布状態を解析することにより、真珠のてり即ち干渉色のグレードを判定することができる。
【0014】
第2の解決手段は、第1の解決手段の真珠てり検査方法であって、前記照明方向と直交するする方向から撮像した真珠の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とするものであり、数値化することにより判定を客観的に行うことができる。
【0015】
第3の解決手段は、第2の解決手段の真珠てり検査方法であって、検出されたRGB成分のうち、いずれか1つの成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする。
【0016】
第4の解決手段は、第2の解決手段の真珠てり検査方法であって、真珠の照明方向側の半球部分の画像において、中央部の領域の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする。
【0017】
第5の解決手段は、第2の解決手段の真珠てり検査方法であって、真珠の照明方向側の半球部分の画像において、周縁部および中心部の領域の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする
【0018】
第6の解決手段は、真珠てり検査装置であって、真珠を載置する真珠載置台と、真珠を拡散光で照明する拡散光照明手段と、照明方向に対する真珠の背面側に配置された遮蔽板と、照明方向と直交する方向から載置台に載置された真珠を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で得られた画像から真珠のてりのグレードを判定するてり判定手段とから成ることを特徴とする。
【0019】
第7の解決手段は、第6の解決手段の真珠てり検査装置であって、前記判定手段は、RGB成分のそれぞれの強度を検出するRGB成分検出手段を備えていることを特徴とする
【0020】
第8の解決手段は、第6の解決手段の真珠てり検査装置であって、前記真珠載置台を形成するプレートは、照明手段の照明光を拡散する機能を備えることを特徴とする請求項6に記載の真珠てり検査装置。
【発明の効果】
【0021】
上述したように本発明の真珠てり検査方法および真珠てり検査装置は、従来困難であった真珠の干渉色の検査を実現するものであり、真珠に対して一方向から照明して、照明方向から横方向から観測した真珠の画像からRGB成分の強度を検出して干渉色のグレードを判定する。
【0022】
従来の干渉色の検査は、検査者が目視で観察することにより経験をもって判定していた。本発明の真珠てり検査方法では、照明方向に対して横方向から観測した画像に真珠による干渉色が明瞭に現れるので、この色の強度の分布から指標値を算出することにより、干渉色のてりのグレードを客観的に判定することができる。
【発明の実施するための最良の形態】

【実施例】
【0023】
図をもって本発明の真珠てり検査方法および真珠てり検査装置について詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によって限定されるものではない。
【0024】
図1は第1の実施例の真珠てり装置の構造を一部断面でもって示す説明図である。真珠てり装置1のベース2は、上面のみ開放面となっており、その上部に拡散板3が取付けられ、その上に検査する真珠Pを載置する真珠載置台4が設けられる。ベース2の内側の底面にランプ5が光源として収容されている。このランプ5から出た光の一部は直に拡散板3に達し、残りはベース2の内壁6で反射して拡散板3に達する。
【0025】
拡散板3はその内部を通過した光が拡散される性質を持った透明板であり、例えば通過した光が拡散光となるフィルタ板あるいはくもりガラス板などを用いることができる。
【0026】
本実施例では、検査する真珠Pを載置する真珠載置台4が拡散板3の上方に配置される構成で示しているが、拡散板3の強度が十分でかつ真珠Pを載置する上で機能上の問題がなければ、拡散板3の上に真珠Pを載置するように構成してもよい。即ちランプ5の光を拡散させる機能を持つ部材上に真珠Pを載置する構成としてもよい。
【0027】
遮蔽板7は光を通さない材質で形成するか、あるいは光を通さない塗料等を塗布するなどして外部からの光を遮蔽するとともに、真珠Pと近接する面は光を反射せず吸収するように形成されている。遮蔽板7はベース2から取り外し可能であり、検査する真珠Pを真珠載置台4に載置する際にベース1から取り外し、検査を行う際には、ベース2に固定する。
【0028】
ベース2には、撮像手段が観測可能に取り付ける撮像窓8が設けられており、カメラ取付台9を介して撮像カメラ10が取り付けられる。撮像カメラ10により撮像された真珠の画像は、真珠てり判定手段11に送られ、真珠のてりのグレードが判定される。
【0029】
次に真珠のてりを検査する手順について説明する。まず、真珠Pを真珠載置台4の中央に置いて、遮蔽板7を固定し真珠Pの背面(図1の上側)から外光が入らないようにする。この状態でランプ5を点灯させると、ランプ5からでた光の一部は直に拡散板3に達し、残りは内壁6で反射して拡散板3に達する。即ちランプ5からの直接光と内壁6で反射した光は、ほぼ均一な強度の拡散光となり、真珠Pを下方から照明する。
【0030】
真珠Pの上方からの光は遮蔽板7によって遮蔽されているために、真珠Pには下方からのみ光が照射され、真珠Pの下半球が明るく光る。この状態の真珠を照明方向と直交する方向から観測する。
【0031】
図2は下方から照明されている黒蝶真珠を本実施例の真珠てり装置で撮像した画像の模式図である。黒蝶真珠の場合、図2の模式図で示すように干渉色が層になって現われる。即ち、周縁部には、緑色が強く現われ、中心に近い部分には赤色が強く現れ、その間の部分は周辺から中心に移るにしたがって緑から徐々に赤色に推移する。一方上半球は、一様に暗く映る。
【0032】
図3は下方から照明されているホワイト系真珠を本実施例の真珠てり装置で撮像した画像の模式図である。アコヤ真珠などのホワイト系真珠の場合では、図3のように下半球は色の濃さは異なるが、干渉色の現れ方は黒蝶真珠と同じであり、周縁部には、緑色が強く現われ、中心に近い部分には赤色が強く現れ、その間の部分は周辺から中心に移るにしたがって緑から徐々に赤色に変わることが分かる。一方、上半球は黒蝶と異なり干渉色が観測され、下半球とは逆に周縁部は赤色がつよく、中心で緑色が強く現れる。ただし、下方からの照明であるので、その輝きは弱く、全体的には暗く見える。
【0033】
上記の現象は、真珠を形成している結晶層である真珠層がダイクロイックミラー的機能を有するためであることを本発明者は解明しており、白バックの下に黒蝶真珠を肉眼で上方から見ると周縁部に緑色が現れるが、これは図2に示す下半球の緑色が見えているものである。
【0034】
一方、アコヤ真珠などのホワイト系真珠の場合では、拡散光が結晶層である真珠層が透過して真珠の下半球の周縁部に緑色が現れ、上半球の周縁部に赤色が強く現れる。白バックの下にホワイト系真珠を肉眼で上方から見ると周縁部に赤色が現れるが、これは図3に示す上半球の周縁の赤色が見えているものである。
【0035】
次いで、干渉色による「てり」のグレードの判定手順について説明する。下半球の干渉色の現れ方は、黒蝶真珠とホワイト系真珠でほぼ同じであるので黒蝶の真珠の場合を例にとって説明する。図4に示すように、撮像カメラ10で撮像された黒蝶真珠の画像において、下半球画像のほぼ中心部に半径の適当な広さの領域を設定する。この領域の大きさについては、四角形であれば、1辺の長さを半径に対して一定の割合となるように一辺の長さを定める。真珠のサイズによる影響を排除するためである。この領域の画像についてR、G、Bの各成分の強度を演算し、G成分の占める割合率を次の式(A)を用いて計算する。
G成分率=G/(R+G+B) (A)
ここで、R、G、B はそれぞれ、R、G、Bの各成分の強度である。
真珠のてりは、G成分率の値が強い程、てりのグレードが高いと判定する。ホワイト系真珠の場合も同様にして、てりのグレードを判定する。
【0036】
図5は、別のてりのグレード判定手順を説明する説明図である。判定するための領域を黒蝶真珠の下半球の画像の周辺部と中心部にそれぞれ判定のための領域を設定する。この2つの領域のR、G、Bの各成分の強度をそれぞれ合算した値から、G成分の占める割合率を計算する。
G成分率=G/(R+G+B) (A)
ここで、R、G、B はそれぞれ2つの領域におけるR、G、Bの各成分の強度を合算した値である。
真珠のてりの判定は、G成分率の値が強い程、てりのグレードが高いと判定する。ホワイト系真珠の場合も同様にして、てりのグレードを判定する。
【0037】
上記で、真珠のてりを判定するのにG成分率を用いて判定する方法について説明したが、必ずしもこれに限るものではなく、R成分の占める割合を示すR成分率や、B成分の占める割合を示すB成分率をその指標としてもよい。また、これらの指標のうち少なくとも2つを組み合わせることによって求められる指標を使用してもよい。
【0038】
本実施例においては、図1に示す真珠てり検査装置を用いて真珠のてりを検査する例について説明したが、これに限るものでななく、図6に示すような真珠の画像が観測できる装置であれば、この画像を独立した撮像手段で撮像し、このデータを判定装置より上記の判定を行うことができる。
【0039】
図6において、ビュアー12の遮蔽板14を閉じて真珠Pをビュアー12に保持する。真珠Pの下方から光源13の照明光により照明され、真珠の上面は遮蔽板14により外光が遮蔽されている。この結果、真珠Pには下方からのみ照明され、この状態の真珠の画像をカメラ15で撮像する。撮像されたデータはてり判定装置16でR、G、Bの各成分の強度を検出し、てりのグレードの判定を行う。
【0040】
図6に示すように、真珠Pの画像する撮像手段及び判定手段16は照明手段等の構成要素と一体である必要ななく、真珠Pの画像を撮像し、その画像データを判定装置に入力できる構成であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
従来の真珠の干渉色の検査は、真珠の上方から観察して真珠の周縁に現れる干渉色を観察して判定を行っていた。この場合真珠の頭頂部に光源の光輝が強く現れる結果、真珠の周縁の干渉色を観察するのが難しく、その判定に熟練を要した。
【0042】
本発明の真珠てり検査方法では、照明方向に対して横方向から観測した画像に真珠による干渉色が明瞭に現れるので、この色の強度の分布から指標値を算出することにより、干渉色の「てり」のグレードを客観的に判定することができる。その結果作業する人の熟練度に関係なく「てり」の判定を行うことができるので、真珠の鑑定や真珠の選別を行う作業の能率が格段に向上し、高い生産性を確保することができるために産業への寄与が大なるものである。
【0043】
また、得られた判定は客観的なデータから得られたものであるので、「てり」に関する取り扱いの標準ともなるものであり、業界の発展に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】 本発明の真珠てり検査方法および真珠てり検査装置の実施例を説明する一部断面でもって示す説明図である。
【図2】 本発明の方法で撮像した黒蝶真珠の画像の模式図である。
【図3】 本発明の方法で撮像したホワイト系真珠の画像の模式図である。
【図4】 てりの判定方法を説明する説明図である。
【図5】 別なてり判定方法を説明する説明図である。
【図6】 別の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 真珠てり検査装置
2 ベース
3 拡散板
4 真珠載置台
5 ランプ
6 内壁
7 遮蔽板
8 撮像窓
9 カメラ取付台
10 撮像カメラ
11 真珠てり判定手段
12 ビュアー
13 光源
14 遮蔽板
15 カメラ
16 真珠てり判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠載置台に載置した真珠を拡散光照明で照明し、照明方向に対する真珠の背面側を外光から遮蔽し、照明方向と直交する方向から撮像した真珠の画像の色の分布状態から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする真珠てり検査方法。
【請求項2】
前記照明方向と直交するする方向から撮像した真珠の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする請求項1に記載の真珠てり検査方法。
【請求項3】
検出されたRGB成分のうち、いずれか1つの成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする請求項2に記載の真珠てり検査方法。
【請求項4】
真珠の照明方向側の半球部分の画像において、中央部の領域の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする請求項2に記載の真珠てり検査方法。
【請求項5】
真珠の照明方向側の半球部分の画像において、周縁部および中心部の領域の画像のRGB成分の強度を検出し、その成分の割合から真珠のてりのグレードを判定することを特徴とする請求項2に記載の真珠てり検査方法。
【請求項6】
真珠を載置する真珠載置台と、真珠を拡散光で照明する拡散光照明手段と、照明方向に対する真珠の背面側に配置された遮蔽板と、照明方向と直交する方向から載置台に載置された真珠を撮像する撮像手段と、前記撮像手段で得られた画像から真珠のてりのグレードを判定するてり判定手段とから成ることを特徴とする真珠てり検査装置。
【請求項7】
前記判定手段は、RGB成分のそれぞれの強度を検出するRGB成分検出手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の真珠てり検査装置。
【請求項8】
前記真珠載置台を形成する部材は、照明手段の照明光を拡散する機能を備えることを特徴とする請求項6に記載の真珠てり検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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