説明

真珠層形成関与タンパク質及びそれをコードする遺伝子

【課題】真珠母貝において真珠層形成に関与する新たなタンパク質及びそれをコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】真珠母貝の外套膜縁膜部及び真珠袋に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質。(a1)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質(b1)前記アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真珠の真珠層形成に関与するタンパク質及びそれをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠は、生きた貝の体内で形成された生鉱物で、アコヤガイ等の真珠母貝の外套膜上皮細胞が何らかのきっかけで組織内部に入り込み、その細胞が袋状の組織をつくりはじめ、真珠袋が生成し、真珠袋から真珠質が分泌され、形成される。一方、養殖真珠は、外套膜上皮細胞の切片のみ、または外套膜上皮細胞の切片と核を真珠母貝の生殖巣に移植すると、移植された外套膜片の細胞が貝体内(生殖巣または外套膜)に袋状の組織をつくり、真珠袋ができ、次いで真珠質が分泌される結果、真珠袋内で真珠が形成される。ここで、真珠袋により分泌される真珠質は、真珠袋内に核がある場合は、核の周囲に真珠層を形成する。
【0003】
真珠の品質は、テリ(真珠光沢)、色、巻き(真珠層の厚さ)、形、大きさ、キズの有無などにより判断される。真珠光沢を有する真珠は、200〜700nm前後のアラゴナイトの炭酸カルシウム結晶とタンパク質による薄膜の多重層から成る真珠層構造で構築されており、真珠の品質価値に重要なテリ、光沢、巻きは、真珠袋内で形成される真珠層の結晶型や結晶層の厚さや配列、および形成量で決定される。従って、真珠層形成の分子機構の解明は、生鉱物形成の観点から真珠の品質改良のみならず、新規機能性物質の開発、骨の治療や再生等の点で重要である。
【0004】
かかる観点から、真珠層形成に関与する遺伝子のスクリーニングが行なわれている。例えば、ナクレインは貝殻に含まれる主要なタンパク質として同定されたが(非特許文献1)、外套膜上皮の真珠層形成部位で、稜柱層形成部位に較べてより多く発現することが示されている(非特許文献2)また、MSI60及びMSI31は外套膜上皮の真珠層形成部位に特異的に発現することが知られる(非特許文献3、特許文献1及び2)。また、真珠層を形成する炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶に特異的に結合するタンパク質Pifが同定されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3713568号公報
【特許文献2】特許第3718734号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Miyamoto H, Miyashita T, Okushima M, Nakano S, Morita T, Matsushiro A. (1996) A carbonic anhydrase from the nacreous layer in oyster pearls. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 93, 9657-9660.
【非特許文献2】Wang N, Kinoshita S, Riho C, Maeyama K, Nagai K, Watabe S. (2009) Quantitative expression analysis of nacreous shell matrix protein genes inthe process of pearl biogenesis. Comp. Biochem. Physiol. B154, 346-350.
【非特許文献3】Sudo S, Fujikawa T, Nagakura T, Ohkubo T, Sakaguchi K, Tanaka M, Nakashima K, Takahashi T. (1997) Structures of mollusc shell framework proteins. Nature, 387, 563-564.
【非特許文献4】Suzuki M, Saruwatari K, Kogure T, Yamamoto Y, Nishimura T, Kato T, Nagasawa H. (2009) An acidic matrix protein, Pif, is a key macromolecule for nacre formation. Science, 325, 1388-1390.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記のいずれの遺伝子も、真珠層形成にどのように関与しているのかは不明であり、真珠層形成に明確に関与する遺伝子の解明が望まれている。
従って、本発明の課題は、真珠母貝において真珠層形成に関与する新たなタンパク質及びそれをコードする遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、アコヤガイ等の真珠母貝の貝殻における真珠層形成に着目し、外套膜のうち、縁膜部が真珠層の形成に関与し、膜縁部は稜柱層の形成に関与していることを明らかにし、縁膜部及び/又は真珠袋で特異的に発現する遺伝子を見出すべく、検討した。その結果、配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及びその類縁体をコードする遺伝子が、真珠層形成部位である縁膜部及び/又は真珠袋において多量に発現する一方、稜柱層形成部位である膜縁部ではあまり発現していないことから、真珠層形成部位で特異的に発現する遺伝子であり、かつ真珠層形成に関与していることを見出した。また、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及びその類縁体をコードする遺伝子が外套膜膜縁部に特異的に発現することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質を提供するものである。
(a1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【0010】
また、本発明は、上記タンパク質をコードする遺伝子を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質を提供するものである。
(a2)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【0012】
また、本発明は、上記タンパク質をコードする遺伝子を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタンパク質及び遺伝子は、真珠の品質を決定する真珠層の形成に関与することから、これを用いれば真珠層生成の制御、すなわち、真珠の品質改良が可能である。また、真珠層は、カルシウムの結晶とタンパク質とからなっており、これを制御できれば、骨の治療や再生材料、新機能性材料の開発が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】リード数が200以上の遺伝子の組織別発現パターンのクラスター解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタンパク質は、真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質である。
(a1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【0016】
また、本発明の他のタンパク質は、真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質である。
(a2)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【0017】
また、本発明の他のタンパク質は、真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質である。
(a2)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【0018】
真珠母貝としては、真珠の養殖に使用される貝であればよく、例えばアコヤガイ(Pinctada fucata)、イケチョウガイ(Hyriopsis schlegelii)、ヒレイケチョウガイ(Hyriopsis cumingii)、マベ(Pteria penguin)、シロチョウガイ(Pinctada maxima)、クロチョウガイ(Pinctada margaritifera)等が挙げられるが、アコヤガイが好ましい。
【0019】
(b1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、真珠層形成に関与する限り制限されないが、配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列と90%以上、さらに95%以上、特に98%以上の相同性(同一性)を有するものが好ましい。
【0020】
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質は、真珠層形成に関与する限り制限されないが、配列番号16のアミノ酸配列と90%以上、さらに95%以上、特に98%以上の相同性(同一性)を有するものが好ましい。
【0021】
本発明の遺伝子は、真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現し、前記の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子である。ここで(b1)のタンパク質のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加程度は、前記同様に配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列と90%以上、さらに95%以上、特に98%以上の相同性(同一性)を有するものが好ましい。
【0022】
本発明の遺伝子は、前記タンパク質をコードする塩基配列を有すればよいが、特に、真珠母貝の外套膜縁膜部及び真珠袋に特異的に発現し、次の(c1)又は(d1)のDNAからなる真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子であるのが好ましい。
(c1)配列番号1、3、5、7、9、11又は13で表される塩基配列からなるDNA
(d1)配列番号1、3、5、7、9、11又は13で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ真珠層形成関与タンパク質をコードする真珠母貝由来のDNA。
【0023】
本発明の他の遺伝子は、真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現し、前記の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子である。ここで(b2)のタンパク質のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加程度は、前記同様に配列番号16のアミノ酸配列と90%以上、さらに95%以上、特に98%以上の相同性(同一性)を有するものが好ましい。
【0024】
本発明の他の遺伝子は、前記タンパク質をコードする塩基配列を有すればよいが、特に、真珠母貝の外套膜膜縁部に発現し、次の(c2)又は(d2)のDNAからなる真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子であるのが好ましい。
(c2)配列番号15で表される塩基配列からなるDNA
(d2)配列番号15で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ真珠層形成関与タンパク質をコードする真珠母貝由来のDNA。
【0025】
ここでストリンジェントな条件でハイブリダイズするとは、例えば、0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃又は0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件でハイブリダイズすることである。ストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAとしては、配列番号1、3、5、7、9、11、13又は15の塩基配列と90%以上、さらに95%以上、特に98%以上の相同性(同一性)を有するものが好ましい。
【0026】
本発明の遺伝子は、真珠母貝の外套膜膜縁部、外套膜縁膜部及び/又は真珠袋から採取したmRNAライブラリーから、膜縁部、縁膜部及び/又は真珠袋で発現が増加している遺伝子を選択することによりクローニングできる。その手法としては、マイクロアレイ法、次世代シーケンス法、サブトラクション法等が挙げられるが、次世代シーケンス法によるのが好ましい。ここで次世代シーケンス法とは、次世代シーケンサを用いた配列情報の取得法であり、まず解析する生物や組織から抽出したmRNAを鋳型にcDNAライブラリーを構築する。これを数百bp程度の適当な長さに切断後、ビーズやフローセルなどの基盤に結合させ、アレイ上に展開する。アレイ上の百万〜数千万のcDNAにつき、cyclic array sequencingにより同時に配列情報の取得を行う。従来のサンガー法と異なり、高度に並列化処理を行うことで、低コストかつ短時間で莫大な配列情報が取得できる。また、cDNAの3'末端を選択的にシーケンスすることで、各配列を有する遺伝子の発現頻度から発現量も推定できる。既存の遺伝子情報が少ない、あるいは全くない生物でも、網羅的な遺伝子発現解析ができることが大きな利点である。
【0027】
本発明の遺伝子は、例えばmRNAの3'末端配列を集めたライブラリーを構築し、例えばビオチン等で標識したdTプライマーを用いてmRNAを鋳型にcDNAを合成する。cDNAを断片化後、アダプター配列を付加して、ビオチン等の標識を利用して3'末端を含むcDNA断片を回収する。これを次世代シーケンサにかけて、配列情報を得、配列情報をクラスタリング及びアセンブルしてもとのcDNAの配列を再成形する。さらに5'RACEにより完全長cDNA配列を得る。
【0028】
また、本発明の遺伝子は、前記(c1)及び(d1)、又は(c2)及び(d2)の塩基配列に基づいて、膜縁部、縁膜部や真珠袋由来mRNAを鋳型にした逆転写PCRによっても製造することができる。
【0029】
得られた本発明の遺伝子を用いれば、公知の組換えDNA技術により、本発明の組換えタンパク質を製造することができる。組換えタンパク質の製法としては、前記の(c)又は(d)のDNAを含有するベクターを作製し、該ベクターによって宿主細胞を形質転換し、当該形質転換体を培養してその培養物から回収する方法が挙げられる。
上記宿主細胞としては、原核生物及び真核生物のいずれも用いることができ、例えば原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌といった一般的に用いられるものが広く挙げられ、好適には大腸菌を例示できる。また、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、酵母等の細胞が含まれる。
原核生物細胞を宿主とする場合は、該宿主細胞中で複製可能なベクターを用いて、このベクター中に本発明の遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD塩基配列、さらに蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを好適に利用できる。
脊椎動物細胞を宿主とする場合の発現ベクターとしては、通常、発現しようとする本発明遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列を保有するものが挙げられ、これはさらに必要により複製起点を有していてもよい。
所望の組換えDNA(発現ベクター)の宿主細胞への導入法及びこれによる形質転換法としては、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。
また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計した遺伝子によりコードされる本発明の目的タンパク質が、形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
かくして得られる本発明の組換えタンパク質は、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作[「生化学データーブックII」、1175−1259頁、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry,25(25),8274(1986);Eur.J.Biochem.,163,313(1987)など参照]により分離、精製できる。
【0030】
本発明の遺伝子及びタンパク質は、真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に高発現し、一方で外套膜の膜縁部における発現は低い。すなわち、真珠層形成部位に特異的に高発現することから、真珠層形成に関与している遺伝子及びタンパク質である。配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及び/又はこれをコードする遺伝子のうち、配列番号2及び4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及びこれをコードする遺伝子は外套膜縁部及び真珠袋に特異的に発現するタンパク質及び遺伝子である。配列番号6、8、10及び12で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及びこれをコードする遺伝子は、外套膜縁膜部に特異的に発現するタンパク質及び遺伝子である。また、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質がこれをコードする遺伝子は、真珠袋に特異的に発現するタンパク質及び遺伝子である。また、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、真珠母貝の外套膜膜縁部と特異的に高発現する。これらのうち、配列番号2及び4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質及びこれをコードする遺伝子が特に好ましい。
【0031】
従って、本発明の遺伝子及びタンパク質を用いれば、真珠の養殖において、真珠の品質を決定する真珠層の形成をコントロールすることができる。例えば、本発明の遺伝子又はタンパク質を縁膜部及び/又は真珠袋に導入することにより、真珠層の形成を促進させることができる。真珠層形成を促進するには、移植に用いる外套上皮細胞、すなわち縁膜部に本発明遺伝子又はタンパク質を導入し、その細胞と核を真珠貝の生殖巣に移植すればよい。その後は、常法に従って真珠母貝を養殖すればよい。
【実施例】
【0032】
実施例
(1)次世代シーケンサを用いたEST解析
アコヤガイの外套膜縁膜部、真珠袋から、又は膜縁部からmRNAを抽出し、これを鋳型にcDNAライブラリーを構築した。続いて、cDNAを400bp程度に切断し、ポリAテールを利用して3'末端を含むcDNA断片を選択的に回収した。各cDNA断片をビーズに結合させ、エマルジョンPCRにより増幅した。これをGS−FLX454次世代シーケンサ(Roche社)のプレートに展開し、一試料あたり1/4プレート分(約25万リード)の配列情報を取得した。得られた塩基配列は、Blastclustによりクラスタリング後、各クラスターのリード数を全リード数で標準化した発現頻度を算出し、Cluster3.0を用いて発現頻度と組織分布の関係を解析した。
【0033】
まず、次世代シーケンサにより得られたデータ量は、リード数は、稜柱層形成部位である膜縁部から147870リード、縁膜部から176175リード、真珠袋から184685リード、3組織合計で508730リードであった。クラスタリングの結果、この中には、膜縁部で8533種類、縁膜部で11353種類、真珠袋で14833種類、計29682種類の遺伝子配列が含まれていた。
【0034】
各遺伝子配列が何回発現したかを示すリード数は、すなわちその遺伝子の発現量を反映している。ここではリード数が200以上の発現量の多い遺伝子に絞って、発現パターンのクラスター解析を行なった。リード数が200以上の遺伝子は195種類で全体のわずか0.7%であるが、それらの合計リード数は全体の34%を占め、全発現プロファイルの主要構成成分といえる。各遺伝子のリード数を組織別の全リード数で標準化したものを発現頻度とし、クラスター解析で組織別の発現パターンを系統樹として表した(図1)。緑色の濃さが発現頻度の高さ、すなわち発現量の多さを反映している。近隣にある遺伝子同士は発現パターンが類似することを示し、同様の転写制御を受けていたり、同じ分子ネットワークに含まれる可能性が考えられる。全体的な遺伝子の発現パターンは、膜縁部と縁膜部で良く類似し、真珠袋とは異なっていた。これは、縁膜部と膜縁部が同じ外套膜の一部であるのに対し、真珠袋は外套膜由来であるものの、真珠層形成に特化した組織であることを反映しているものと思われる。この中で、真珠層形成部位あるいは稜柱層形成部位に特異的に発現する遺伝子が複数検出された。
【0035】
(2)本発明遺伝子の検出
真珠層形成部位(縁膜部又は真珠袋)に高発現し、稜柱層形成部位(膜縁部)には発現の低い遺伝子として、000027、000096、N16.7、000496、002138、006605及びN19.2が得られた。また、膜縁部に高発現する遺伝子としてN16.6が得られた。
【0036】
【表1】

【0037】
次世代シーケンス法により決定された000027、000096、N16.7、000496、002138、006605、N19.2及びN16.6の部分塩基配列を基に5'RACEを行い、両遺伝子の完全長cDNAの塩基配列を決定したところ、それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11、13及び15の塩基配列を有することが判明した。
【0038】
これらの遺伝子は、真珠層形成部位(縁膜部又は真珠袋)で高発現し、稜柱層形成部位(膜縁部)では発現が少ないことから、真珠層形成に関する遺伝子であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質。
(a1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【請求項2】
真珠母貝の外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現し、次の(a1)又は(b1)の真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子。
(a1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b1)配列番号2、4、6、8、10、12又は14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【請求項3】
真珠母貝の、外套膜縁膜部及び/又は真珠袋に特異的に発現し、次の(c1)又は(d1)のDNAからなる真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子。
(c1)配列番号1、3、5、7、9、11又は13で表される塩基配列からなるDNA
(d1)配列番号1、3、5、7、9、11又は13で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ真珠層形成関与タンパク質をコードする真珠母貝由来のDNA
【請求項4】
真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現する遺伝子によってコードされる、次の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質。
(a2)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【請求項5】
真珠母貝の外套膜膜縁部に特異的に発現し、次の(a2)又は(b2)の真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子。
(a2)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号16のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、真珠層形成に関与するタンパク質
【請求項6】
真珠母貝の、外套膜膜縁部に特異的に発現し、次の(c2)又は(d2)のDNAからなる真珠層形成関与タンパク質をコードする遺伝子。
(c2)配列番号15で表される塩基配列からなるDNA
(d2)配列番号15で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ真珠層形成関与タンパク質をコードする真珠母貝由来のDNA

【図1】
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【公開番号】特開2012−120525(P2012−120525A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28112(P2011−28112)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】