説明

真球状粒子の製造方法

【課題】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液から、安全で、しかも耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合い、外観などに優れる高品質の成形体、表皮材、塗膜などを形成することのできる球状粒子を簡便に提供する。
【解決手段】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液、塩基性水溶液および分散剤水溶液の水分散液を撹拌し中和処理すると共に、スチームを直接吹き込むことにより加熱を行ない、スチームストリッピングにより重合体溶液から有機溶剤を除去する操作において、水分散液の温度が該有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチームの流量を吹き込み開始時の流量の20〜70%とすることを特徴とする真球状粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真球状粒子の製造方法であって、詳しくは(メタ)アクリル系ブロック共重合体を主成分とする重合体からなる真球状粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体球状粒子は、型内成形用材料として工業的に用いられている。型内成形法の一種として、パウダースラッシュ成形法があり、これは、成形用金型内に重合体球状粒子を充填した後、重合体球状粒子を溶融させ、冷却固化させることで所望の成形品を得るものであり、様々な分野で積極的に採用されているものである。
【0003】
近年、このような型内成形にて作製される成形体の形状、特に自動車用途向けの成形体の形状は、微細でかつ複雑な構造を有するものが増加しており、これに対応可能な重合体球状粒子の特性が重要となっている。
【0004】
パウダースラッシュ成形用の重合体球状粒子に求められる特性としては、粉体材料が複雑な形状の金型の隅々まで行き届くよう、粉体が均一に金型に充填される必要があるため、流動性に優れることがあげられ、具体的には粒径サイズが粒子間引力や静電気力の影響を受けにくい範囲であること、粉体形状が歪でなく真球状であること等が求められる。
【0005】
近年、安全性に優れ、且つ耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合い、外観などに優れるアクリル系ブロック共重合体の研究が進められている。しかしながら、一般的なアクリル系ブロック共重合体は自動車分野などで必要とされる高温においてゴム特性を示すことは困難であり、また充分な強度を発現しない欠点があった。これら課題に対しては、酸触媒存在下にてエステル交換反応を行ない、アクリル系ブロック共重合体中にカルボキシル基を導入することで高温でのゴム特性や引裂強度を改善する解決策が報告されている(特許文献1)。また、特許文献1に関連する技術として、有機溶剤に溶解したアクリル系ブロック共重合体溶液から酸を除去した後に、分散剤水溶液とともに攪拌しながら加熱することで金型成型に適した真球に近い粒子を効率よく得ることができることが報告されている(特許文献2)。なお、前記の方法において酸を除去しないままアクリル系ブロック共重合体溶液を分散剤水溶液とともに攪拌しながら加熱すると、粒子同士の互着が発生しやすく金型成型に適した粒子を効率よく得ることが出来ず、また、互着しなかった粒子をもちいて成型体を作製しても架橋反応が酸により阻害されるためその機械強度や耐熱性は不十分となる傾向があるため、有機溶剤に溶解したアクリルブロック共重合体から酸を除去することは必須である。
【0006】
しかしながら重合体溶液から酸を除去するためには、アクリル系ブロック共重合体溶液をイオン交換樹脂充填塔に通液して酸を吸着したり、アクリル系ブロック共重合体溶液中に中和剤を添加して酸を吸着させたのちに吸着剤を濾過したりするなど、大掛かりな付帯設備が必要とされ、さらに、アクリル系ブロック共重合体溶液は粘度が高いため酸の吸着や酸の中和には操作にも多くの時間を要するなどの課題、つまり、アクリル系ブロック共重合体溶液から酸を除去する操作のために経済性が大きく損なわれるという問題があった。
【0007】
このように、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液から、安全で、しかも耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合い、外観などに優れる高品質の成形体、表皮材、塗膜などを形成することのできる球状粒子を効率良く得られる製造方法が求められていた。
【特許文献1】WO2003/068836号公報
【特許文献2】WO2006/085596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液から、安全で、しかも耐候性、柔軟性、ゴム弾性、低温特性、極性樹脂との接着性、風合い、外観、などに優れる高品質の成形体、表皮材、塗膜などを形成することの出来る形状粒子を効率よく得られる製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、
・カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液を、塩基性化合物を用いて中和処理を行なうことにより、大掛かりな付帯設備を必要とせず、短時間で有効に重合体溶液から酸を除去することが可能なこと、
・スチームストリッピング操作において水分散液より有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチーム流量を吹き込み開始時の流量の20〜70%とすることにより、実用的な生産性を維持しながら、(スチームストリッピングの工程では、水分散液の加熱が律速となるため)、高品質の真球状重合体粒子が得られること、
・得られた真球状重合体粒子は流動特性に優れ、パウダースラッシュ成形等の型内成形用材料としての適性があること、
等を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち本発明に係る形状粒子の製造方法は、撹拌翼を有する槽内に、水、有機溶剤に溶解したカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液、塩基性化合物及び分散剤を仕込んだ後、攪拌翼にて前記物質を攪拌しながら槽内にスチームを直接吹き込み、中和処理、水分散液の加熱および概有機溶剤の除去を同時に行い、水分散液中の概有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチーム流量を吹き込み開始時の流量より減少させることを特徴とする。
【0011】
また、前記製造方法においては、水分散液中の有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチーム流量を吹き込み開始時の流量の20〜70%であるのが好ましい。
【0012】
また、前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、メタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)からなる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)であることが好ましい。
【0013】
また、前記分散剤としてセルロースエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムのうち少なくとも1種類を用いることが好ましい。
【0014】
また、前記塩基性化合物が少なくとも水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹の中から選ばれる物質であることが好ましい。
【0015】
また、中和処理に使用される前記塩基性化合物の添加量が、水分散液中に含まれる酸に対して0.6〜1.4当量であるのが好ましい。
【0016】
また、前記攪拌翼として大型格子翼を用いることが好ましい。
また、本発明に係る重合体球状粒子の製造方法では、製造される球状粒子の平均粒子径が10μm以上1000μm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る重合体球状粒子の製造方法は、真球度が高く、流動性が優れ、金型成形材料として適した(メタ)アクリル系共重合体樹脂を主成分とする重合体球状粒子を、安価に効率よく提供することを可能とする。
【0018】
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の真球状粒子の製造方法は、攪拌翼を有する槽内に、水、有機溶剤に溶解した酸性の重合体(A)溶液、塩基性化合物、および分散剤からなる水分散液を仕込んだ後、該攪拌翼にて該水分散液を攪拌しながら槽内にスチームを吹き込み、中和処理、該水分散液の加熱、および該有機溶剤の除去を同時に行なう重合体(A)を主成分とする真球状粒子の製造方法であって、該水分散液の温度が、該水分散液より該有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、該スチームの流量を吹き込み開始時の流量の20〜70%とすることを特徴とする。
【0020】
以下に、本発明の真球状粒子の製造に使用される装置、重合体、溶剤、添加剤等について詳細に記す。
【0021】
(撹拌槽および撹拌翼)
本発明の真球状粒子の製造において使用する攪拌装置は、例えば撹拌槽の内部に邪魔板を2枚以上設けて、水分散液の混合状態を良好に出来る構造であることが望ましい。
【0022】
攪拌翼としては、公知の撹拌翼のうち、H型翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、サンメラー翼、Hi−Fiミキサー翼、スーパーミックス翼、特開平10−24230号公報に記載されている大型のボトムパドルを有する三段格子翼(カネカ翼)などの大型翼が、製造される粉体中の粗粒子や微粉が少なく好適である。これらの中でもH型翼、マックスブレンド翼、カネカ翼に代表される格子部分を持つ大型翼は構造が簡単であり、より好ましい。なお、ここでいうH型翼とは、攪拌シャフトを対象線として液深方向に長い2枚の平板を取り付けたものである。これに対して、2枚の平板どうしが離れておらずに攪拌シャフトを中心として合体している場合は別に平板翼と呼ぶ。カネカ翼とは、大型格子翼として、反応槽の槽底部に配置される平板翼を最下段に配置するとともに、更にくし状の翼を中段及び上段に装着し、最下段に位置する平板翼に対して、その上に隣接する中段のくし状の翼を90度未満の交差角で回転方向に対して先行させて配置し、かつ、最下段の平板翼と上に隣接する中段のくし状の翼は軸方向に対して重なりを有し、かつ、中段に位置するくし状の翼に対して、その上に隣接する上段のくし状の翼を90度未満の交差角で回転方向に対して先行させて配置し、かつ、中段のくし状の翼と上に隣接する上段のくし状の翼は軸方向に対して重なりを有する翼をいう。
【0023】
(水)
本発明の真球状粒子の製造において使用する水は、イオン交換水や蒸留水を用いるのが好ましい。これは、水中に金属塩類が含まれると分散剤の効果が十分に発現しない懸念があることによる。
【0024】
また、用いる水の量は、所望の重合体粒子径等を考慮して適宜決定することができるが、加温前の重合体溶液の体積を100体積%とした場合、25〜500体積%であるのが好ましく、40〜400体積%であるのがより好ましく、50〜300体積%であるのが特に好ましい。
【0025】
(有機溶剤)
本発明の真球状粒子を製造において使用する有機溶剤は、(メタ)アクリル系共重合体(A)に対して可溶性を有する有機溶剤ならば、特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン及びシクロペンタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
有機溶剤の(共)沸点については、室温での取扱い性を考慮して大気圧(1気圧)下で25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。
【0026】
また、真球状粒子の製造においては有機溶剤をほぼ完全に蒸発除去させる必要があることから、有機溶剤の(共)沸点は大気圧(1気圧)下で130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、100℃以下が特に好ましい。
【0027】

有機溶剤の使用量は重合体溶液の濃度、粘度等を考慮して適宜選択されるが、重合体溶液の固形分濃度が5〜70重量%になるよう有機溶剤を使用するのが好ましい。重合体溶液の固形分濃度が5重量%未満であれば収量が少なくなり効率的でなく、一方70重量%を超えると溶液全体の粘度が高くなり過ぎ、攪拌による重合体溶液の分散が充分に行われない可能性がある。より好ましい重合体溶液の固形分濃度は10〜50重量%である。
(有機溶剤が蒸発する温度)
本発明における「有機溶剤が蒸発する温度」とは、分散液中の全有機溶剤の5重量%以上が蒸発する温度をいう。すなわち有機溶剤の一部が蒸発するような温度であっても、その温度での蒸発量が全有機溶剤の5重量%未満である場合は、その温度は「有機溶剤が蒸発する温度」には該当しない。
【0028】
(重合体(A)溶液)
本発明の真球状粒子体の製造においては、有機溶剤に溶解したカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の酸性溶液を用いる。
【0029】
<(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)>
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックを有するブロック共重合体である。ここで「アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主成分とする」とは、重合体ブロックを構成する全ての単量体成分の中で、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの占める割合が最も多いことを意味する。なお本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味するものである。
【0030】
上記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の原料となる単量体として使用されるアクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸脂肪族炭化水素(例えば炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル)エステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸脂環式炭化水素エステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸トリルなどのアクリル酸芳香族炭化水素エステル;アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アラルキルエステル;アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチルなどのアクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル;アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのアクリル酸フッ化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0031】
また(メタ)アクリル系ブロック共重合体の原料となる単量体として使用されるメタクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘプチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸脂肪族炭化水素(例えば炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル)エステル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸脂環式炭化水素エステル;メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アラルキルエステル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸トリルなどのメタクリル酸芳香族炭化水素エステル;メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸3−メトキシブチルなどのメタクリル酸とエーテル性酸素を有する官能基含有アルコールとのエステル;メタクリル酸トリフルオロメチル、メタクリル酸2−トリフルオロエチル、メタクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタクリル酸2−パーフルオロエチル、メタクリル酸パーフルオロメチル、メタクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、メタクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、メタクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどのメタクリル酸フッ化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0032】
上記アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの中でも、コスト及び入手しやすさの点で、アクリル酸脂肪族炭化水素エステル又はメタクリル酸脂肪族炭化水素エステルが好ましく、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0033】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体の平均分子量は、特に限定されるものではないが、必要とされる物性を考慮して適宜決めればよい。(メタ)アクリル系ブロック共重合体の平均分子量は、数平均分子量として3,000〜500,000が好ましく、4,000〜400,000がより好ましく、5,000〜300,000が特に好ましい。
【0034】
また、(メタ)アクリル系ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。これは、Mw/Mnが1.8をこえると重合体球状粉体の均一性が悪化する場合があることによる。
【0035】
上記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)は、ハードセグメントであるメタクリル系重合体ブロック(a)と、ソフトセグメントであるアクリル系重合体ブロック(b)からなる構造のものである。メタクリル系重合体ブロック(a)により成形時の形状保持性が、アクリル系重合体ブロック(b)により、弾性が高い成形体が得られ、また成形時の溶融時の流動性も高くなる。
【0036】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体の構造は特に限定されないが、線状ブロック共重合体若しくは分岐状(星状)ブロック共重合体、又は、それらの混合物が好ましい。このようなブロック共重合体の構造は、必要とされる(メタ)アクリル系ブロック共重合体の物性に応じて適宜選択されるが、コスト面や重合容易性の点で、線状ブロック共重合体が特に好ましい。
【0037】
なお、線状ブロック共重合体は、いずれの構造のものであってもよいが、線状ブロック共重合体の物性又は粉体の物性の点から、メタクリル系重合体ブロック(a)をa、アクリル系重合体ブロック(b)をbと表現したとき、(a−b)型、b−(a−b)型及び(a−b)−a型(nは1以上の整数、例えば1〜3の整数)からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系ブロック共重合体からなることが好ましい。これらの中でも、加工時の取扱い容易性や球状粉体の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、又はこれらの混合物が好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)は、メタクリル系重合体ブロック(a)を15〜50重量%、アクリル系重合体ブロック(b)を85〜50重量%含むものが好ましい。メタクリル系重合体ブロック(a)の割合が15重量%より小さく、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が85重量%より大きいと、成形時の形状保持性に劣る場合があり、メタクリル系重合体ブロック(a)の割合が50重量%より大きく、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が50重量%より小さいと、成形体の弾性が低くなる場合があり、また溶融時の流動性が低下する可能性がある。
【0039】
なお、成形体の硬度の観点からは、メタクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと硬度が低くなり、また、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が少ないと硬度が高くなる傾向がある。このため、メタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、必要とされる成形体の硬度を考慮して、上記範囲内で適宜設定する必要がある。また成形加工性の観点からは、メタクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと、溶融時の粘度が低く、また、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が少ないと、溶融時の粘度が高くなる傾向がある。このため、メタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、必要とする粘度も考慮して、上記範囲内で適宜設定する必要がある。
【0040】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するメタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度の関係は、メタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度をTg、アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度をTgとすると、機械強度やゴム弾性発現等の点で下式の関係を満たすことが好ましい。
【0041】
Tg>Tg
なお、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)の調整は、下記のFox式に従い、各重合体部分の単量体の重量比率を調整することにより行なうことができる。
【0042】
1/Tg=(W/Tg)+(W /Tg)+…+(W/Tg
+W+…+W=1
(式中、Tgは共重合体のガラス転移温度を表わし、Tg,Tg,…,Tgは各重合体ブロックのガラス転移温度を表わす。また、W,W,…,Wは各ブロックの重量比率を表わす。)
Fox式における各重合体のガラス転移温度は、たとえば、Polymer Handbook Third Edition(Wiley−Interscience 1989)記載の値を用いればよい。
【0043】
なお、上記ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定)又は動的粘弾性のtanδピークにより測定することができるが、メタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の極性が近すぎたり、ブロックの単量体の連鎖数が少なすぎると、それら測定値と、Fox式による計算式とがずれる場合がある。
【0044】
また、本発明で製造される真球状粒子には、耐熱性や耐候性や耐薬品性等を向上させる目的で、得られる成形体が架橋構造を有するように、架橋反応が可能な(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)に、その他の化合物を加えた組成物を用いる。
【0045】
このような組成物としては、例えばメタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)からなり、反応性官能基[以下において、(メタ)アクリル系ブロック共重合体が有するこの反応性官能基を、「反応性官能基(X)」と呼ぶ]をブロック(a)又は(b)に有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)と、その反応性官能基(X)と反応する反応性官能基[以下では(メタ)アクリル系ブロック共重合体が有するこの反応性官能基を、「反応性官能基(Y)」と呼ぶ]を1分子当たり少なくとも平均1.1個以上有する化合物(B)を含む組成物を用いるのが好ましい。
【0046】
<メタクリル系重合体ブロック(a)>
メタクリル系重合体ブロック(a)は、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、メタクリル酸エステル50〜100重量%及びこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%からなることが好ましい。メタクリル酸エステルの割合が50重量%未満であると、メタクリル酸エステルの特徴である耐候性などが損なわれる場合がある。
【0047】
メタクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタクリル酸エステルとしては、例えば、上述のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、加工性、コスト及び入手しやすさの点で、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0048】
メタクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などを挙げることができる。
【0049】
アクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体の例として上述したものを挙げることができる。
【0050】
芳香族アルケニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどを挙げることができる。
【0051】
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0052】
共役ジエン系化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレンなどを挙げることができる。
【0053】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0054】
ビニルエステル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどを挙げることができる。
【0055】
マレイミド系化合物としては、例えば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどを挙げることができる。
【0056】
ビニル系単量体として挙げられたこれらの化合物は、それぞれ単独で又は二以上組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、後述するメタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度や、アクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などを考慮して適宜選択される。
【0057】
メタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、50〜130℃となるように調整するのが好ましい。成形時には金型の端部にまで重合体が行き渡るよう、粉体及び粉体が溶融した流体が充分に流動する必要がある。しかしながら、メタクリル系重合体ブロック(a)の凝集力やガラス転移温度Tgが高過ぎると、溶融粘度が高くなり流動性が悪くなる傾向にある。一方で、ガラス転移温度Tgが低すぎる場合には、樹脂組成物が25℃程度の常温でも流動性を有し、粉体形状が変化する場合ある。
【0058】
<アクリル系重合体ブロック(b)>
アクリル系重合体ブロック(b)を構成する単量体は、所望する物性の球状粉体を得やすい点、コスト及び入手しやすさの点から、アクリル酸エステル100〜50重量%、これと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%からなるのが好ましく、アクリル酸エステル100〜75重量%、及び、これと共重合可能なビニル系単量体0〜25重量%とからなるのがより好ましい。アクリル酸エステルの割合が50重量%未満の場合、それらアクリル酸エステルを用いる場合の特徴である球状粉体の物性、特に耐衝撃性が損なわれる場合がある。
【0059】
アクリル系重合体ブロック(b)に必要とされる分子量は、アクリル系重合体ブロック(b)に必要とされる弾性率とゴム弾性、その重合に必要な時間などから決めればよい。
【0060】
弾性率は、分子鎖の動き易さとその分子量に密接な関連があり、ある一定以上の分子量でないと本来の弾性率を示さない。ゴム弾性についても同様であるが、ゴム弾性の観点からは、分子量が大きい方が望ましい。すなわち、アクリル系重合体ブロック(b))に必要とされる数平均分子量をMとしてその範囲を例示すると、好ましくはM>3,000、より好ましくはM>5,000、さらに好ましくはM>10,000、特に好ましくはM>20,000、最も好ましくはM>40,000である。ただし、数平均分子量が大きいと重合時間が長くなる傾向があるため、必要とする生産性に応じて設定すればよいが、好ましくは500,000以下であり、さらに好ましくは300,000以下である。
【0061】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル系ブロック共重合体の原料となる単量体の例として上述したものを挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
これらの中でも、アクリル酸脂肪族炭化水素エステルが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましく。球状粉体の耐衝撃性、コスト、及び入手しやすさの点で、アクリル酸n−ブチルが尤も好ましい。また、球状粉体に耐油性が必要な場合は、アクリル酸エチルが好ましい。また、低温特性が必要な場合はアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。さらに、耐油性と低温特性を両立させたいときには、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−メトキシエチルの混合物が好ましい。
【0063】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル及びアクリル酸−2−メトキシエチルとは異種のアクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体として例示したアクリル酸エステルと同様の単量体を挙げることができる。これらは単独で又はこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などを挙げることができ、これらの具体例としては、メタクリル系重合体ブロック(a)に用いられる上記のものと同様のものを挙げることができる。これらのビニル系単量体は、それぞれ単独で又は二以上組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度及び耐油性、メタクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などのバランスを勘案して、適宜好ましいものを選択する。例えば、球状粉体の耐油性の向上を目的とした場合、アクリロニトリルを共重合するとよい。
【0065】
アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度は、成形体の弾性を考慮して、25℃以下であるのが好ましく、0℃以下であるのがより好ましく、−20℃以下であるのがさらに好ましい。アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度が、成形体が使用される環境の温度より高いと、柔軟性やゴム弾性が発現されにくくなる傾向がある。
【0066】
<反応性官能基(X)>
上述の通り、本発明の真球状粒子の製造において、好ましく用いられる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)は、上記ブロック(a)又は(b)に反応性官能基(X)を有する。反応性官能基(X)は下記化合物(B)との反応点として作用すればよく、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)が高分子量化又は架橋されるための反応点又は架橋点として作用する。反応によって生成する結合の安定性、低温と高温での反応し易さのバランス、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)への導入の容易さ、コストなどの点から、カルボキシル基であることが好ましい。
【0067】
反応性官能基(X)は、適当な保護基で保護した形、又は、反応性官能基(X)の前駆体となる形でブロック共重合体に導入したのち、公知の化学反応で生成させることも可能である。
【0068】
これらの反応性官能基(X)は2種以上併用することもできるが、2種以上を併用する場合には、お互いに反応しない官能基を選ぶことが好ましい。
【0069】
反応性官能基(X)は、メタクリル系重合体ブロック(a)及びアクリル系重合体ブロック(b)のどちらか一方のブロックのみに含有されていてもよいし、両方のブロックに含有されていてもよく、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の反応点や、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を構成する各ブロック(メタアクリル系重合体ブロック(a)及びアクリル系重合体ブロック(b))の凝集力やガラス転移温度、さらには必要とされる(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の物性など、目的に応じて導入される。
【0070】
たとえば、反応性官能基(X)と反応性を有する反応性官能基(Y)を含有する化合物(B)と、メタアクリル系重合体ブロック(a)やアクリル系重合体ブロック(b)を選択的に反応させたい場合には、反応性官能基(X)を反応させたいブロックに導入すればよい。
【0071】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の耐熱性や耐熱分解性向上の点では、反応性官能基(X)をメタアクリル系重合体ブロック(a)に導入すればよく、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)に耐油性や、さらなるゴム弾性や圧縮永久歪み特性を付与する観点では反応性官能基(X)をアクリル系重合体ブロック(b)に架橋点として導入すればよい。
【0072】
反応性官能基(X)の含有量は、反応性官能基(X)の凝集力、反応性、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の構造及び組成、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するブロックの数、ガラス転移温度等を考慮して、必要に応じて適宜設定されるが、ブロック共重合体1分子当たり平均1.0個以上であるのが好ましく、平均2.0個以上であるのがより好ましい。これは、平均1.0個より少ないとブロック共重合体の高分子量化や架橋による耐熱性向上が不充分となる傾向があるためである。
【0073】
反応性官能基(X)をメタクリル系重合体ブロック(a)に導入する場合、アクリル系ブロック共重合体(A)の成形性が低下しない範囲で導入することが好ましい。パウダースラッシュ成形を行なう場合は無加圧下でも流動する必要があるが、反応性官能基(X)の導入によりメタクリル系重合体ブロック(a)の凝集力やガラス転移温度Tgが上昇すると、溶融粘度が高くなり成形性が悪くなる傾向にある。このため、具体的には反応性官能基(X)を導入後のメタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度Tgが130℃以下、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下になるような範囲で導入することが好ましい。
【0074】
反応性官能基(X)をアクリル系重合体ブロック(b)に導入する場合、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化しない範囲で導入することが好ましい。反応性官能基(X)の導入によりアクリル系重合体ブロック(b)の凝集力やガラス転移温度Tgが上昇すると、柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化する傾向にある。具体的には反応性官能基(X)を導入した後のアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度Tgが25℃以下となるように導入するのが好ましく、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下になるような範囲で導入することが好ましい。
【0075】
以下に、反応性官能基(X)として好ましい、カルボキシル基について説明する。
【0076】
<カルボキシル基>
カルボキシル基は、エポキシ基、アミノ基と容易に反応し、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を、高分子量化又は架橋させることが可能なため、反応性官能基(X)として好ましい。
【0077】
カルボキシル基は、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の主鎖中に導入されていても良いし、側鎖に導入されていても良いが、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)への導入の容易性から主鎖中へ導入されていることが好ましい。
【0078】
カルボキシル基の導入方法については、カルボキシル基を有する単量体が重合時に触媒を失活させるため、官能基変換によりカルボキシル基を導入するのが好ましい。官能基変換によりカルボキシル基を導入する方法としては、カルボキシル基を適当な保護基で保護した形、又は、カルボキシル基の前駆体となる官能基の形で(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)に導入し、そののちに公知の化学反応でカルボキシル基を生成させることが好ましい。
【0079】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の合成方法としては、たとえば、メタアクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、メタアクリル酸トリメチルシリル、アクリル酸トリメチルシリルなどのように、カルボキシル基の前駆体となる官能基を有する単量体を含む(メタ)アクリル系ブロック共重合体を合成し、酸分解によってカルボキシル基を生成させる方法(特開平10−298248号公報、特開2001−234146号公報)があげられる。
【0080】
<(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の製法>
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法は、特に限定するものではないが、開始剤を用いた制御重合法を用いることが好ましい。制御重合法としては、リビングアニオン重合法や連鎖移動剤を用いるラジカル重合法、近年開発されたリビングラジカル重合法が挙げられる。なかでも、アクリル系ブロック共重合体の分子量及び構造の制御の点から、リビングラジカル重合法により製造するのが好ましい。
【0081】
リビングラジカル重合法とは、重合末端の活性が失われることなく維持されるラジカル重合法である。なお、リビング重合法とは狭義において、末端が常に活性をもち続ける重合法のことを指すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれ、ここでも後者の定義を採用する。
【0082】
リビングラジカル重合法は、近年様々なグループで積極的に研究がなされており、その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる重合法、コバルトポルフィリン錯体(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1994年、第116巻、7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いる重合法(マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、第27巻、7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などが挙げられる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さの点などから原子移動ラジカル重合法が好ましい。
【0083】
原子移動ラジカル重合法とは、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤とし、周期律表の第7族、8族、9族、10族又は11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される(例えば、マティジャスツェウスキー(Matyjaszewski)ら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1995年、第117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1995年、第28巻、7901頁、サイエンス(Science)、1996年、第272巻、866頁、又は、澤本(Sawamoto)ら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1995年、第28巻、1721頁参照)。
【0084】
原子移動ラジカル重合法の特徴としては、一般的なラジカル重合法は非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいが、原子移動ラジカル重合法は、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭い(Mw/Mn=1.1〜1.5)重合体が得られること。また、分子量を単量体と開始剤の仕込み比によって自由にコントロールすることができること等があげられる。
【0085】
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物としては、1官能性、2官能性、又は、多官能性の化合物が使用できる。これらは目的に応じて使い分ければよいが、ジブロック共重合体を製造する場合は、開始剤の入手のしやすさの点から1官能性化合物が好ましく、a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は、反応工程数、時間の短縮の点から2官能性化合物を使用するのが好ましく、分岐状ブロック共重合体を製造する場合は、反応工程数、時間の短縮の点から多官能性化合物を使用するのが好ましい。
【0086】
また、開始剤として、高分子開始剤を用いることも可能である。高分子開始剤としては、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物のうち、分子鎖末端にハロゲン原子の結合した重合体からなる化合物があげられる。このような高分子開始剤は、リビングラジカル重合法以外の制御重合法でも使用することが可能であるため、異なる重合法で得られる重合体を結合したブロック共重合体を製造する際に有利である。
【0087】
1官能性化合物としては、例えば、
−CHX、
−C(H)(X)−CH
−C(X)(CH
−C(H)(X)−COOR
−C(CH)(X)−COOR
−C(H)(X)−CO−R
−C(CH)(X)−CO−R
−C−SO
で示される化合物などが挙げられる。
【0088】
(式中、Cはフェニル基、Cはフェニレン基(オルト置換、メタ置換、パラ置換のいずれでもよい)を表わす。Rは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表わす。Xは、塩素、臭素又はヨウ素を表わす。Rは炭素数1〜20の一価の有機基を表わす。)
上記1官能性化合物のなかでも、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチルが、アクリル酸エステル単量体の構造と類似しているために重合を制御しやすい点から好ましい。
【0089】
2官能性化合物としては、例えば、
X−CH−C−CH−X、
X−CH(CH)−C−CH(CH)−X、
X−C(CH−C−C(CH−X、
X−CH(COOR)−(CH−CH(COOR)−X、
X−C(CH)(COOR)−(CH−C(CH)(COOR)−X
X−CH(COR)−(CH−CH(COR)−X、
X−C(CH)(COR)−(CH−C(CH)(COR)−X、
X−CH−CO−CH−X、
X−CH(CH)−CO−CH(CH)−X、
X−C(CH−CO−C(CH−X、
X−CH(C)−CO−CH(C)−X、
X−CH−COO−(CH−OCO−CH−X、
X−CH(CH)−COO−(CH−OCO−CH(CH)−X、
X−C(CH−COO−(CH−OCO−C(CH−X、
X−CH−CO−CO−CH−X、
X−CH(CH)−CO−CO−CH(CH)−X、
X−C(CH−CO−CO−C(CH−X、
X−CH−COO−C−OCO−CH−X、
X−CH(CH)−COO−C−OCO−CH(CH)−X、
X−C(CH−COO−C−OCO−C(CH−X、
X−SO−C−SO−X
で示される化合物などが挙げられる。
(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数の6〜20アリール基、又は、炭素数720のアラルキル基を表わす。nは0〜20の整数を表わす。C、C、Xは、上記と同様である。)
上記2官能性化合物のなかでも、ビス(ブロモメチル)ベンゼン、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチルが、原料の入手性の点から好ましい。
【0090】
多官能性化合物としては、例えば、
−(CH−X)
−(CH(CH)−X)
−(C(CH−X)
−(OCO−CH−X)
−(OCO−CH(CH)−X)
−(OCO−C(CH−X)
−(SO−X)
で示される化合物などが挙げられる。
【0091】
(式中、Cは三置換のベンゼン環(3つの結合手の位置は1位〜6位のいずれであってもよく、その組み合わせは適宜選択可能である)、Xは上記と同じである。)
上記多官能性化合物の具体例としては、例えば、トリス(ブロモメチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。これらのうちでは、トリス(ブロモメチル)ベンゼンが、原料の入手性の点から好ましい。
【0092】
なお、重合を開始する基以外に、官能基をもつ有機ハロゲン化合物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いると、容易に末端又は分子内に重合を開始する基以外の官能基が導入された重合体が得られる。このような重合を開始する基以外の官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シリル基などが挙げられる。
【0093】
原子移動ラジカル重合法で触媒として用いられる遷移金属錯体としては、特に限定はないが、好ましいものとして、1価及び0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄、ならびに、2価のニッケルの錯体が挙げられる。これらの中でも、コストや反応制御の点から1価の銅化合物が好ましい。1価の銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などが挙げられる。その中でも塩化第一銅、臭化第一銅が、重合の制御の観点から好ましい。
【0094】
1価の銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために、2,2′−ビピリジル、その誘導体(例えば4,4′−ジノリル−2,2′−ビピリジル、4,4′−ジ(5−ノリル)−2,2′−ビピリジルなど)などの2,2′−ビピリジル系化合物;1,10−フェナントロリン、その誘導体(例えば4,7−ジノリル−1,10−フェナントロリン、5,6−ジノリル−1,10−フェナントロリンなど)などの1,10−フェナントロリン系化合物;テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンなどのポリアミンなどを配位子として添加してもよい。
【0095】
使用する触媒、配位子及び活性化剤の種類は、使用する開始剤、単量体及び有機溶剤や、適切な反応速度の関係から適宜決定すればよい。
【0096】
同様に、使用する触媒、配位子の添加量は、使用する開始剤、単量体及び有機溶剤の量や、必要とする反応速度の関係から決定すればよい。例えば、分子量の高い重合体を得ようとする場合には、分子量の低い重合体を得る場合よりも、開始剤/単量体の比を小さくしなければならないが、そのような場合には、触媒、配位子を多くすることにより、反応速度を増大させることができる。また、ガラス転移温度が室温より高い重合体が生成する場合や、系の粘度を下げて撹拌効率を上げるために適当な有機溶剤を添加した場合には、反応速度が低下する傾向があるが、そのような場合には、触媒、配位子を多くすることにより、反応速度を増大させることができる。
【0097】
原子移動ラジカル重合法は、無溶媒中で(塊状重合)、又は、各種の溶媒中で行なうことができる。また、塊状重合、各種の溶媒中で行なう重合において、重合を途中で停止させることもできる。
【0098】
重合溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒などを用いることができる。
【0099】
重合温度は、20℃〜200℃の範囲で行なうことができ、50〜150℃の範囲で行なうのが好ましい。
【0100】
(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)を重合させる方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤として次のブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などが挙げられる。これらの方法はいずれを用いてもよく、目的に応じて適宜選択する。なお、製造工程の簡便性の点からは単量体の逐次添加による方法が好ましい。
【0101】
<(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の触媒失活>
前記重合によって得られた重合体溶液は、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)に加えて触媒である金属錯体を含んでいるため、触媒の重合活性を消失させるとともに、これら金属錯体を分離除去する必要がある。金属錯体の分離除去の方法としては、有機酸を添加して金属錯体を失活させた後にこれを除去する方法がある。本発明の真球状粒子の製造において使用する有機酸としては、特に限定されないが、カルボン酸基もしくはスルホン酸基を有する有機化合物であることが好ましい。その中でも、有機溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、ベンゼンスルホン酸もしくはその誘導体が好ましく、それらの中ではp−トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0102】
加える酸触媒の量は、ブロック共重合体100重量部あたり0.1〜20重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
【0103】
触媒成分が失活した後は、不溶化した銅触媒残渣を分離する。これら固体成分の分離方法としては、濾過、遠心分離、沈降分離、液体サイクロン等の種々の分離方式を適用することが可能である。通常、不溶化した銅触媒残渣は直径数mm程度の粘着性の低い凝集体となるため、いずれの方式による分離も比較的容易に行なうことが出来る。
【0104】
なお、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)中にカルボキシル基を導入するために、アクリル系重合体ブロック(b)やメタクリル系重合体ブロック(a)に、カルボキシル基を導入する際の前駆体として、アクリル酸t−ブチルやメタアクリル酸t−ブチルを導入し、これらを分解することにより、ブロック共重合体(a)中にカルボキシル基や酸無水物基を導入する場合があるが、その際、分解の方法として、酸触媒共存下で加熱する方法が有用である。上記酸触媒としては、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機酸、塩酸や硫酸などの無機酸、およびスルホン酸型などのH+型イオン交換樹脂交換樹脂などを用いることができるが、前述した触媒精製工程で用いた有機酸をそのまま使用する方法が簡便であり、有機酸としてはp−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0105】
つまり、p−トルエンスルホン酸は、金属錯体を失活させる作用と、t−ブチル基をカルボキシル基に変換する触媒作用の両方を併せ持っており、有機酸を添加して所定温度で処理することにより、一段階で触媒失活と官能基変換を同時に行なうことが可能な有機酸化合物である。
【0106】
なお、本発明の真球状粒子を製造する際に使用される(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の製造法では、有機酸は必須であり、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)溶液中には、酸が溶解した状態で残存する。
(塩基性化合物)
本発明の真球状粒子の製造法において、使用される分散剤については、特に限定されないが、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹等が挙げられる。これらは使用する重合体に応じて適宜選択される。塩基性化合物は1種のみ使用することもでき、また2種以上を併用することもできる。
(分散剤)
本発明の真球状粒子の製造法において、使用される分散剤については、特に限定されないが、たとえば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩の有機物、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機固体、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸モノ(ジ又はトリ)ステアリンエステル、ペンタエリストール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチレン)脂肪アミン、エチレンビスステアリン酸アミド、脂肪酸とジエタノールとの縮合生成物、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0107】
これらは使用する重合体に応じて適宜選択されるが、なかでも分散性や粒子径制御性が良好なことから、セルロースエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムを用いるのが好ましい。分散剤は1種のみ使用することもでき、また2種以上を併用することもできる。
【0108】

分散剤の使用量については、重合体に対する分散性能や有機溶剤の性質を考慮して適宜選択される。例えば重合体100重量部に対して分散剤を0.01〜5重量部加えるのが好ましく、0.05〜3重量部加えるのがさらに好ましく、0.1〜3重量部加えるのが特に好ましい。0.01重量部より少ない場合には重合体は充分に水中に分散されず粒子が形成されにくい場合があり、5重量部より多く添加しても分散特性は特に変化がなく経済的でないと共に、重合体の透明性や成形性等の物性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0109】

次に、本発明の真球状粒子およびその製造方法について説明する。
<真球状粒子>
本発明により得られる真球状粒子は、粒子の全数のうち90%以上が、粒子の短径と長径の比として表されるアスペクト比が1〜2であり、且つ、平均粒子径が10μm以上1000μm未満であるものが好ましい。なお、真球状粒子のアスペクト比は1に近くなるほど真球に近く、粒子の流動性が高いことを示す。本発明において得ることができる真球状粒子は、粒子の全数のうち90%以上の粒子のアスペクト比が1〜2であるのが好ましく、1〜1.8であるのがより好ましく、1〜1.5であるのが特に好ましい。
【0110】
本発明において、粒子のアスペクト比は、拡大鏡(キーエンス社製マイクロスコープ)を用いて100〜200倍の倍率の写真を撮影し、粒子の一番長い部分を長径、長径を結ぶ線と直交していて一番長い部分を短径として測定する。長径/短径をアスペクト比として評価する。およそ300個程度の粒子について、それぞれのアスペクト比を評価する。アスペクト比が1〜2の粒子の粒子全数に占める割合は、[(アスペクト比が1〜2の粒子の数)/(評価した粒子の全数)]×100(%)として算出することができる。
【0111】
本発明の真球状粒子の平均粒子径は10μm以上1000μm未満であるのが好ましい。粒径が1000μmより大きい場合には、微細な構造の金型を用いた成形では成形異常が生じやすいため好ましくない。また、10μmより小さい場合には、静電気等が生じやすくなりかえって流動性が悪くなる場合がある。また、上記粒子径は、目的とする用途に応じて、分散剤の量、重合体溶液と水の比率等を調整することにより調整することができる。本発明においては、分散剤の量が多いほど、また重合体溶液/水(v/v)の比率が小さいほど粒子径の小さい粒子を得ることができる。例えばパウダースラッシュ成形等の金型成形用途に真球状粒子を用いる場合には、粒子の流動性及び金型への充填性を考慮して170μm以上280μm未満であるのが好ましく、190μm以上260μm未満であるのがより好ましい。
【0112】
本発明においては、真球状粒子の平均粒子径は、標準ふるいで乾燥球状粒子をふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して重量基準による平均値を求めた値である。平均粒子径は、例えば電磁式ふるい振とう器(株式会社レッチェ製、AS200BASIC(60Hz))を用いて求めることができる。
【0113】
<真球状粒子の製造方法>
前記の攪拌翼および邪魔板を備えた攪拌槽内に真球状粒子の原料となる有機溶剤に溶解したカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)の酸性溶液、塩基性化合物、分散剤、水及びその他副原料を仕込む。
【0114】
これら原料は、あらかじめ別容器で混合しておいてから仕込んでも良いし、別々に仕込んだ後に攪拌槽内で混合しても良い。分散剤はあらかじめ水に溶解させた後仕込むのが好ましい。副原料としては特に制限はなく、必要とする球状粒子の品質に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、フィラー、顔料、粘着性付与剤、染料、可塑剤、滑剤、架橋剤、架橋促進剤などを適宜添加することができる。
【0115】
次に上記原料および副原料を攪拌槽で攪拌させ、水分散液を作成すると共に、槽内にスチームを吹き込み、中和処理、水分散液の加熱を行なうと同時に、スチームストリッピングにより有機溶剤の除去を行なう。
【0116】
ここで、スチームストリッピングとは、蒸気を揮発成分と直接接触させることにより、有機溶剤等の揮発成分をガス化させて系外に除外する方法のことをいう。
【0117】
本発明では、スチームストリッピングの操作は、有機溶剤に溶解したカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の水分散液を撹拌する際に行なう加熱とともに同一の槽でスチームを通気して実施する。したがって、攪拌槽への原料を仕込み終えたら攪拌およびスチームの吹き込みを開始する。スチームの吹き込み手段としては、スチームを導入する配管が撹拌槽の液相中に挿入されるよう接続されていれば良い。攪拌とスチーム吹き込みはどちらを先に始めても良いが、スチームラインへの重合体などの逆流を防ぎたい場合はスチームを吹き込み始めた後に攪拌を開始すればよく、各種原料の混合を重視するならば攪拌を開始してから適当な時間経過した後にスチームを吹き込めばよい。通常は攪拌およびスチームの吹き込みはほぼ同時か、攪拌開始から1時間以内にスチームを吹き込む。
【0118】
本発明においては、スチームストリッピングにより重合体溶液の分散液から有機溶剤を揮発させることで重合体粒子を得る。大気圧下で本操作をおこなう場合、液温が100℃を超えると蒸気を吹き込みつづけても温度上昇しなくなるが、重合体粒子中にごく微量存在する有機溶剤を実質的に完全除去するために蒸気を吹き込み続ける操作は、臭気低減やVOC等の観点から有効である。
【0119】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体中に含まれる酸は、パウダースラッシュ成型時のカルボキシル基の架橋反応を阻害するため、重合体粒子から除去するかあるいは塩基性化合物により中和しておく必要がある。しかしながら酸を除去するためには、アクリル系ブロック共重合体溶液をイオン交換樹脂充填塔に通液して酸を吸着したり、アクリル系ブロック共重合体溶液中に中和剤を添加して酸を吸着させたのちに吸着剤を濾過したりするなど、大掛かりな付帯設備が必要とされ、また、アクリル系ブロック共重合体溶液は粘度が高いため酸の吸着や酸の中和には操作にも多くの時間を要する。
【0120】
そこで、前記課題を解決する本発明の最大の特徴は、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液、塩基性水溶液および分散剤水溶液の水分散液にスチームを直接吹き込むことにより、中和処理、水分散液の加熱および該有機溶剤の除去を同時に行なう工程において、水分散液中の有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチーム流量を吹き込み開始時の流量より減少させることである。
【0121】
スチーム流量は、水分散液中の有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、吹き込み開始時の流量の20〜70%とすることが好ましい。スチーム吹き込み開始時の段階からスチーム流量を減少させておく、また、吹き込み開始時の20%以下のスチーム流量にすると、加温時間が遅くなり、生産性が悪化する。水分散液中の有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、スチーム流量を吹き込み開始時の流量と同量にしておく、また、吹き込み開始時の70%以上のスチーム流量にすると、酸の中和はできるものの重合体粒子どうしが粘着して凝集体が大量に発生し、収率が大幅に低下してしまう。また、真球状ではない重合体粒子しか得られない傾向がある。なお、真球状で無い重合体粒子の粉体では、流動性が劣り、また、成型時の充填性が悪くなるため成型体に気泡が発生残存するなどの問題の原因となる。
【0122】
塩基性化合物の添加量については、(メタ)アクリル系ブロック共重合体の酸性溶液に含まれる酸に対して0.6当量〜1.4当量が好ましい。添加量が0.6当量より少ない場合には酸性条件下でのスチームストリッピングとなるため、得られる重合体粒子の形状が球形ではなく、流動性が劣ってしまう。添加量が1.4当量より多い場合には重合体粒子どうしが粘着して凝集体が大量に発生してしまい収率が大幅に低下する。
【0123】
本発明の製造方法において使用される塩基性化合物については特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹が経済性や入手容易性の観点から好ましい。
【0124】
スチームストリッピングにより重合体溶液の水分散液から有機溶剤を除去することにより、球状粒子からなる重合体粒子が得られる。スチームストリッピングの所要時間は有機溶剤がほぼ完全に留去されるのに充分な時間が選ばれる。また、吹き込み開始時のスチーム流量は任意の範囲で選択できるが、流量が少なすぎると加温速度が遅いため生産に時間がかかり、一方流量が多すぎると泡立ちにより重合体溶液の水分散液が吹き零れる、巨大なスチームボイラーが必要とされるなどの問題がある。
【0125】
スチーム加温により揮発する有機溶剤ガスや凝縮液化しないスチームは、攪拌装置内にたまらないようパージし続ける必要があり、通常は熱交換器を通して液化回収する。
【0126】
スチームストリッピングにより重合体から有機溶剤が充分除去されたならば、スチーム吹き込みを停止して球形粒子が含まれる樹脂スラリーを冷却して払い出す。スラリーを脱水・乾燥させれば球状粒子の粉体が得られる。粉体としての特性向上のために、スラリーや脱水後の樹脂に対してブロッキング防止剤を添加するのが好ましい。
【0127】
(加温条件)
加熱時の最終液温は特に限定されないが、水と有機溶剤の共沸点以上であることが好ましい。ただし有機溶剤の共沸点以下でも容器内を減圧下にすれば容易に有機溶剤を除去することができる。経済性および樹脂骨格の変質を防ぐという観点からは温度の上限は160℃未満が好ましく、150℃未満がさらに好ましく、125℃未満が最も好ましい。160℃以上であると重合体の球状粒子が軟化するため、凝集等が発生して微粒子として単一の球状で分散されない可能性もある。一方で最終液温があまりに低いと、粒子中に含まれる有機溶剤の拡散速度が低下して粒子中の残存溶媒量が増加し、粒子乾燥時の安全性やVOCの問題、溶剤回収率等が低下するなどの点で好ましくない。従って有機溶剤除去の観点から温度の下限は60℃以上が好ましく80℃以上がより好ましい。
【0128】
(冷却条件)
造粒が終了した後に高温のまま攪拌を停止すると粒子が沈殿して、わずかに軟化した粒子が圧密されて凝集する可能性がある。このため、攪拌を停止する前に100℃未満まで冷却するのが好ましく、70℃未満まで冷却するのがさらに好ましい。
【0129】
(ブロッキング防止)
得られた重合体粒子のガラス転移温度が低い場合、スラリーを脱水、乾燥する後処理工程や、乾燥された重合体球状粒子に添加剤を混合する工程、さらには製品の輸送中や保管時などにおいて、重合体球状粒子がブロッキングする問題がある。ブロッキングにより粉体が凝集すると、成形用金型内に重合体球状粒子を充填する際に充填度合いが不均一になり、その後の樹脂の溶融にむらが生じ、不具合を引き起こすこととなる。
【0130】
このようなブロッキングを防止する方法として、アクリル系ラテックスによる粒子被覆が極めて効果的である。具体的には、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと、乳化重合により製造した重合体ラテックスとを混合し、その混合物に電解質水溶液を接触させることにより作製される。
【0131】
重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと乳化重合により製造した乳化重合ラテックスの混合は、撹拌下に、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーへ乳化重合ラテックスを、あるいは乳化重合ラテックスへ重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを添加することにより実施するのが好ましい。この操作により、ラテックス粒子が重合体粒子表面に凝析(析出)し、重合体粒子表面を被覆する。
【0132】
重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと乳化重合ラテックスの混合する際、重合体粒子の固形分濃度は1〜55重量%、乳化重合ラテックスの固形分濃度は0.1〜55重量%とするのが好ましい。混合時の温度は5℃以上が好ましく、5℃よりも低い場合はその後の熱処理操作のユーティリティー使用量が多大となるため好ましくない。
【0133】
本発明における重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと重合体ラテックスとの混合物への電解質水溶液の添加は、ラテックスのガラス転移温度以下の温度で実施するのが好ましい。電解質水溶液添加時に重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと重合体ラテックスとの混合物の温度がラテックス重合体のガラス転移温度を超えると、生成する重合体粒子の形状が歪むだけでなく、重合体粒子間の凝集が併発し、その結果として脱水後の含水率が高くなるため好ましくない。
【0134】
(ラテックス)
アクリル系ラテックスは、乳化重合により得られ、ラテックスに被覆される側の重合体粒子と組成が近い方が粉体としての品質に優れるため、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを単独重合または数種混合し共重合して得られるラテックスが好ましい。更に好ましくは、重合体ラテックス中のラテックス100重量部において、メチルメタアクリレートを79〜97重量部、ブチルアクリレートを0〜20重量部としたものが良い。
【0135】
重合体ラテックス中のラテックスの分子量は、大きすぎると成形時に溶融しないため、数平均分子量で40,000〜80,000が好ましい。また、熱処理時に温度を高温にした場合にラテックス同士の凝集を防ぐ点で、重合体ラテックスのガラス転移温度は75℃以上であるのが好ましい。
【0136】
また、得られたラテックスに対し、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの組成や分子量が異なる重合体をグラフト重合させることにより、内層、外層の組成および分子量が異なる重合体を得ることができる。
【0137】
上記の重合体ラテックスの一般的な製造方法は、例えば特開平2−269755号公報、特開平8−134316号公報、特開平8−217817号公報に詳細に記載されている。
【0138】
ラテックス粒子の平均粒子径には特に制限はないが、通常の乳化重合で得られる平均粒子径0.05〜0.5μmの重合体粒子を用いることができる。
【0139】
(電解質)
電解質水溶液としては、ラテックスを凝析・凝固し得る性質を有する有機酸(塩)または無機酸(塩)の水溶液であれば良く、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン等の無機塩類の水溶液、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類の水溶液、酢酸、ギ酸等の有機酸類およびそれらの水溶液、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウム等の有機酸塩類の水溶液を単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウム、塩化第一鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸の水溶液が好適に用いることができる。
【0140】
電解質水溶液の濃度は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは1%以上である。電解質水溶液の濃度が0.001重量%以下の場合は、ラテックスを凝析させるために多量の電解質水溶液を添加する必要があるため好ましくない。
【0141】
なお、本発明では、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと乳化重合ラテックス混合物への電解質水溶液の添加は、重合体粒子の懸濁液と重合体ラテックスとの混合の後に実施する。これは、重合体粒子の懸濁液と重合体ラテックスの混合時に電解質水溶液が存在すると、生成する重合体粒子の形状が歪み、脱水後含水率が高くなるだけでなく、未凝固のラテックスが残存し、極度の濾過性の悪化を招くためである。
【0142】
本発明にかかる方法においては、スラリー中の重合体粒子とラテックスの固形分比は、重合体粒子100重量部に対して、ラテックスを0.1〜30重量部とするのが好ましく、0.2〜10重量部とするのがより好ましい。なお、本発明の重合体球状粒子を製造するにあたって、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーと重合体ラテックスとの混合物に電解質水溶液を添加するだけでは、低含水率の重合体球状粒子は得られない。低含水率の重合体球状粒子を得るには、電解質水溶液を添加した後の懸濁液が中性となるようにした後、50〜120℃で熱処理するとよい。熱処理により、スラリー中の重合体粒子表面を被覆したラテックス粒子の凝集体が緻密化し、重合体粒子の含水率が低下することとなる。その後、常法に従って脱水および乾燥を行なえば、本発明の重合体球状粒子が得られる。
【0143】
熱処理温度は、ラテックスのガラス転移温度より低くするのが好ましい。熱処理温度がラテックスのガラス転移温度より高くなると、スラリー中の重合体粒子に被覆したラテックスが軟化し、ブロッキングが生じやすくなるためである。
【0144】
一般に、粒子の表面に微粒子を付着させる時には付着される側の粒子径は大きい方が、付着面積が減って付着性が向上する。重合体粒子にラテックス粒子を付着させる際にも、粒径の小さな重合体粒子は少ない方が好ましい。重合体粒子にラテックス粒子を付着させる際は、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーから重合体粒子を分離して小さな重合体を除去し、その後、重合体粒子とラテックスの混合物を電解質水溶液と混合することにより、ラテックス粒子の付着性を向上させることができる。
【0145】
重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーから重合体粒子を分離する方法としては、特に限定はなく、例えば、濾過、遠心分離又は沈降分離法を用いることができる。分離は、例えば遠心脱水で脱水時間を延長して、重合体粒子の含水率が少なくなるようにしても良いし、静置分離をした後で上澄み液の一部を抜き出すような簡便な分離でも良い。
【0146】
分離した後の重合体粒子は、水分が少なくハンドリングが悪い、ラテックス粒子付着時に混合しにくい等の問題があるため、純水や分散剤水溶液で希釈すると良い。希釈率は特に限定はないが、好ましくは固形分濃度で0.1〜55重量%、さらに好ましくは1〜40重量%である。
【0147】
重合体球状粉体を含む水分散液を得た後、必要に応じて水分散液を濾過、遠心分離又は沈降分離法等を行ない、重合体球状粉体を分離することができる。さらに必要に応じて、溝型撹拌乾燥機などの伝導伝熱式乾燥機あるいは流動乾燥機などの熱風受熱式乾燥機などを用いて乾燥することにより、重合体球状粉体とすることができる。
【0148】
(粒子サイズ)
本発明の球状粒子の平均粒子径は10μm以上1000μm未満であるのが好ましい。粒径が1000μmより大きい場合には微細な構造の金型を用いた成形では成形異常が生じやすいため好ましくない。また10μmより小さい場合には粒子間引力や静電気等が生じやすいため流動性が悪くなる。また上記粒子径は、目的とする用途に応じて、分散剤の量、重合体溶液と水の比率等を調整することにより調整することができる。
【0149】
本発明においては、分散剤の量が多いほど粒子径の小さい粒子を得ることができる。パウダースラッシュ成形等の金型成形用途に球状粒子を用いる場合には、粉体の流動性及び金型への充填性、取扱い時の粉塵抑制などを考慮して20μm以上700μm未満であるのが好ましく、50μm以上500μm未満であるのがより好ましい。
【0150】
<化合物(B)>
本発明において、化合物(B)は特に限定されず、一分子当たり少なくとも平均1.1個以上の反応性官能基(Y)を含有する化合物であればよい。特に官能基(X)と反応し、ブロック共重合体(A)を高分子量化、あるいは架橋できるものであることが好ましい。
【0151】
本発明において、反応性官能基(Y)はブロック共重合体(A)中の反応性官能基(X)と反応するものであれば特に限定されず、反応によって生成する結合の安定性、低温と高温の反応のバランス、化合物(B)のコストなどの点から、エポキシ基であることが好ましい。
【0152】
また、化合物(B)は、沸点が200℃以上のものが好ましく、230℃以上のものがより好ましく、250℃以上であるものがさらに好ましい。得られる組成物は高温で成形されることから、沸点が200℃未満であると成形時に化合物(B)が揮発しやすくなり、成形方法や条件が限定される。
【0153】
さらに化合物(B)は重合体であることが好ましく、重量平均分子量50,000以下の重合体であることが好ましく、重量平均分子量30,000以下の重合体であることがさらに好ましい。重量平均分子量が50,000を超えると可塑剤として流動性を向上させる効果が低くなる傾向にある。
【0154】
これらの化合物(B)の配合量は、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。化合物(B)の配合量が0.1重量部より小さいと十分に(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)との架橋反応が進まず、成形体の耐熱性が不十分になる場合があり、100重量部より大きいと架橋反応が過剰に進み、成形体の伸びや柔軟性が損なわれる場合がある。
【0155】
化合物(B)中の反応性官能基(Y)の含有数は、反応性官能基(Y)の反応性、反応性官能基(Y)の含有される部位及び様式によって変化する。そのため、必要に応じて設定すればよく、好ましくは化合物(B)1分子当たり平均1.1個以上であり、さらに好ましくは平均1.5個以上、特に好ましくは平均2.0個以上である。1.1個より少なくなるとアクリル系ブロック共重合体の高分子量化反応剤、あるいは架橋剤としての効果が低くなり、アクリル系ブロック共重合体(A)の耐熱性向上が不充分になる傾向がある。
【0156】
化合物(B)は特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらを水添したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ポリブタジエンあるいはNBRを含有するゴム変性エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の難燃型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、多価アルコールのグリシジルエーテル類や多塩基酸のグリシジルエステル類であるエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ系可塑剤や、ボンドファースト(商品名、住友化学工業(株)製)やARUFON(商品名、東亞合成(株)製)などのエポキシ基含有重合体;オレフィン系重合体、スチレン系重合体やアクリル系重合体などの石油樹脂などのごとき不飽和重合体のエポキシ基含有重合体などが例示されるが、これらに限定されるものではなく、一般に使用されているエポキシ基含有化合物が使用されうる。具体的には東亞合成(株)のARUFON(登録商標)XG4000、ARUFON UG4000、ARUFON XG4010、ARUFON UG4010、ARUFON XD945、ARUFON XD950、ARUFON UG4030、ARUFON UG4070などが好適に使用できる。これらは、全てアクリル、アクリレート/スチレン等のアクリル系重合体であって、エポキシ基を1分子中に1.1個以上含むものである。これらのエポキシ基含有化合物は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0157】
上記エポキシ基を有する化合物(B)のうちでは(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)との相溶性、入手容易性、コスト、成形時の低揮発性、成形性の改善効果及び得られる成形体の機械特性などの点で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、多価アルコールのグリシジルエーテル類や多塩基酸のグリシジルエステル類であるエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ系可塑剤や、東亞合成(株)のARUFON(登録商標)等のエポキシ基含有重合体が好ましい例としてあげられる。
【0158】
上記(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)及び化合物(B)間で架橋が必要な場合、架橋する方法に特に制限はないが、(メタ)アクリル系ブロック共重合体(A)と化合物(B)を含む組成物を、加熱することにより架橋された(メタ)アクリル系共重合体を得ることが好ましい。
【0159】
【実施例】
【0160】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0161】
<分子量>
本実施例に示すブロック共重合体の分子量及び分子量分布は、Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)を用いて測定した。数平均分子量はポリスチレン換算で表記した。
【0162】
<粒子サイズ>
球状粒子の各区分の粒子径及び平均粒子径は、電磁式ふるい振とう器(株式会社レッチェ製、AS200BASIC(60Hz))を用いて測定した。重量基準の中位径を平均粒子径とした。
【0163】
<パウダースラッシュ成型性試験>
本実施例および比較例に示すスラッシュ成型性は以下に示す方法で評価した。樹脂粉体を1kg粉体箱に投入し、300℃に加熱したシボ付き平板を樹脂粉体が入った箱にセットした後、260℃まで冷却した。シボ付き平板が260℃となった時点で、反転して6秒放置した後、再度反転させた。この後、余剰の未溶着樹脂粉体を振り落とし60秒間経過した時点で金型を冷却水で40秒冷却した。この後、シートを金型から剥がし、成型シートを得た。得られた成形シートを目視にて、シボ転写性が良好で、ピンホール/気泡がないものや、シボ転写性が良好で、ピンホール/気泡がないがシート裏面が平滑でないもの:○、シボ形成不良個所有りかつピンホール/気泡有るもの:×として評価した。
【0164】
<機械強度>
JIS K7113に記載の方法に準用して、株式会社島津製作所製のオートグラフAG−10TB型を用いて測定した。測定はn=3にて行ない、試験片が破断したときの強度(MPa)と伸び(%)の値の平均値を採用した。試験片は2(1/3)号形の形状にて、厚さが約2mm厚のものを成型シートから切り出して用いた。試験は23℃にて500mm/分の試験速度で行なった。
【0165】
<錘痕試験>
歪回復性の確認を行なうため、錘痕試験を行った。比較例に示す錘痕試験は、以下に示す条件で行った。スラッシュ成型シートのシボ模様のシート上に、チューブ状の錘(重量:59.5g、シートとの接触面あたりの重さ:26.3g/cm2)を載せ、24時間120℃で放置した。その後、錘を取り除いた後の表面を目視で観察し、錘痕のないものや、極僅かに痕が残っているもの:○、僅かに痕が残っているもの:△、大きく痕が残っているものや、シボが消失しているもの:×として評価した。
【0166】
<粉体流動性>
得られた成型シートの裏面観察を行い、以下の基準で評価した。
【0167】
金型コーナー部及びリフ゛裏側への粉体充填性が良好なもの;○
金型コーナー部及びリフ゛裏側の一部で粉体充填性が不十分なもの;△
金型コーナー部及びリフ゛裏側の大部分で粉体充填性が不十分なもの;×
<安息角>
安息角は、ホソカワミクロン製パウダテスタを用い、机上から浮かせた円板上11cmの高さから粒子をゆっくり落とし、粒子の形成する三角錐の底角(即ち安息角)を測定することで評価した。安息角は、粉体粒子の山の崩れやすさ、静状態で粉体粒子の流れやすさを表す指標であり、安息角が小さいほど粒子の粉体流動性が良好であることを示し、金型の隅々まで粒子が行き渡りやすい。
【0168】
<見掛け比重>
見掛け比重も安息角と同じく、ホソカワミクロン製パウダテスタを用いて測定した。粒子を既知の容積の容器に充填し、粒子の重量を容器の容積で割ることで算出した。見掛け比重は樹脂の充填率の大きさを示す指標であり、見掛け比重が小さい樹脂粉体を用いると、成型時に空隙の多い成型体ができやすい。
【0169】
(製造例)
<(メタ)アクリル系ブロック共重合体の合成>
(MMA/EA)−b−(BA/TBA)−b−(MMA/EA)(BA/TBA=22.4/1mol%、MMA/EA=7.8/1mol%、(BA+TBA)/(MMA+EA)/=6/4重量%)型(メタ)アクリル系ブロック共重合体の合成
窒素置換した後真空脱揮した500L反応機に、反応機内を減圧にした状態でBA77816.8gを仕込んだ。次に臭化第一銅692.1gを仕込み、30℃で15分間攪拌した。その後、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル965.1gをアセトニトリル7137.1gに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温しながらさらに60分間攪拌を行った。ペンタメチルジエチレントリアミン83.6gを加えて、第一ブロックとなるBA/TBAの重合を開始した。BA転化率が98.9%に到達したところで、トルエン106860.6g、塩化第一銅477.7g、MMA49593.7g、EA8050.9gを仕込み、ペンタメチルジエチレントリアミン83.6gを加えて、第二ブロックとなるMMA/EAの重合を開始した。45分ごとにペンタメチルジエチレントリアミン83.6gを加えていき、MMA転化率が95.4%に到達したところで、トルエン240000gを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却した。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが79800、分子量分布Mw/Mnが1.48であった。得られたブロック共重合体溶液に対しトルエンを加えて重合体濃度を25wt%になるよう調整した。得られた重合体溶液1kgに対し、p−トルエンスルホン酸5.5g、TBMA1.0gを加え、反応機内を窒素置換し、ジャケットを昇温した。内温148℃到達から7時間後にサンプリングを行ない、内部標準物質として添加したTBMAのカルボキシル基への変換反応転化率が100%であることを確認した。すなはち、重合体中のカルボキシル基の前駆体となるTBAが酸分解によってカルボキシル基に100%変性された。また、そのサンプリングにおいて銅錯体が凝集し不溶化していることを確認した。さらにその30分後に冷却を開始した。冷却完了後に濾過助剤としてラヂオライト#3000(昭和化学工業(株)製)を5.0g添加し、30℃で30分攪拌した。加圧濾過機を用いて固体分を分離した。
【0170】

(実施例1)
攪拌装置に純水800部、製造例に示す重合体の酸性溶液100部(875g)、重合体の酸性溶液に含まれる酸(7.5g)に対して1当量の重曹(3.6g)、ポリビニルアルコール(KH17、日本合成化学)14.5部(固形分基準で0.42部)、カーボンを主成分とする黒色顔料0.75部を、径が120mmのH翼を備えた槽直径300mmの攪拌容器に仕込み、500rpmで攪拌しながら攪拌槽下部よりスチーム流量7.5kg/hrでスチームを吹き込んで昇温した。攪拌槽内が80℃に到達した時点で、スチーム流量を4.0kg/hrに低下させ、100℃まで昇温する。温度上昇によって蒸発した溶媒ガスは槽から逐次排気したため、槽内部の圧力は大気圧と等しい。100℃に到達して60分後、スチームの投入を停止した。生成した樹脂スラリーは冷却して回収した。平均粒子径は180μmであった。
【0171】
樹脂スラリーを静置分離して、上澄み液の一部を抜き出してスラリー濃度を20重量%に調整した後に、径が56mmのH翼を備えた直径140mmのジャケット付き攪拌容器に樹脂スラリー(樹脂100部、純水400部)を仕込み200rpmで攪拌しながらジャケットを過熱することにより昇温した。攪拌槽内が50℃に到達した時点で、MMA/BAの重量組成比が90/10である粒子径110nmの重合体ラテックスを3.7部(固形分基準で1.2部)添加して5分間温度を保持し、再度加熱を行ない60℃まで昇温後15%硫酸ナトリウム水溶液5.6部を滴下した。滴下終了から5分後、70℃まで過熱し5分間温度を保持した後、十分に冷却して払い出した。樹脂スラリーを、遠心脱水機で脱水後、流動乾燥機を用いて乾燥し、樹脂粉体を得た。
【0172】
得られた樹脂粉体は真球であり、流動性は良好である。
【0173】

(実施例2)
攪拌装置に純水800部、製造例に示す重合体の酸性溶液100部(875g)、重合体の酸性溶液に含まれる酸(7.5g)に対して1当量の重曹(3.6g)、ポリビニルアルコール(KH17、日本合成化学)14.5部(固形分基準で0.42部)、カーボンを主成分とする黒色顔料0.75部を、径が120mmのH翼を備えた槽直径300mmの攪拌容器に仕込み、500rpmで攪拌しながら攪拌槽下部よりスチーム流量7.5kg/hrでスチームを吹き込んで昇温した。攪拌槽内が80℃に到達した時点で、スチーム流量を2.0kg/hrに低下させ、100℃まで昇温する。温度上昇によって蒸発した溶媒ガスは槽から逐次排気したため、槽内部の圧力は大気圧と等しい。100℃に到達して60分後、スチームの投入を停止した。生成した樹脂スラリーは冷却して回収した。平均粒子径は200μmであった。
【0174】
樹脂スラリーを静置分離して、上澄み液の一部を抜き出してスラリー濃度を20重量%に調整した後に、径が56mmのH翼を備えた直径140mmのジャケット付き攪拌容器に樹脂スラリー(樹脂100部、純水400部)を仕込み200rpmで攪拌しながらジャケットを過熱することにより昇温した。攪拌槽内が50℃に到達した時点で、MMA/BAの重量組成比が90/10である粒子径110nmの重合体ラテックスを3.7部(固形分基準で1.2部)添加して5分間温度を保持し、再度加熱を行ない60℃まで昇温後15%硫酸ナトリウム水溶液5.6部を滴下した。滴下終了から5分後、70℃まで過熱し5分間温度を保持した後、十分に冷却して払い出した。樹脂スラリーを、遠心脱水機で脱水後、流動乾燥機を用いて乾燥し、樹脂粉体を得た。
【0175】
得られた樹脂粉体は真球であり、流動性は良好である。
【0176】

(比較例1)
実施例1と同様の操作を、攪拌槽内が80〜100℃の間でスチーム流量をスチーム吹き込み開始時から一定の7.5kg/hrで実施した。生成した樹脂は粘着性が強く、多くの凝集体が発生した。また、得られた樹脂粉体は真球度が悪く、流動性は実施例1に比べ劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌翼を有する槽内に、水、有機溶剤に溶解した酸性の重合体(A)溶液、塩基性化合物、および分散剤からなる水分散液を仕込んだ後、該攪拌翼にて該水分散液を攪拌しながら槽内にスチームを吹き込み、中和処理、該水分散液の加熱、および該有機溶剤の除去を同時に行なう重合体(A)を主成分とする真球状粒子の製造方法であって、該水分散液の温度が、該有機溶剤が蒸発する温度に達した時点で、該スチームの流量を吹き込み開始時の流量の20〜70%とすることを特徴とする真球状粒子の製造方法。
【請求項2】
重合体(A)が(メタ)アクリル系ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体が、メタクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)からなることを特徴とする請求項2記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体が分子中にカルボキシル基を有することを特徴とする請求項2〜3のいずれか1項に記載の重合体球状粒子の製造方法。
【請求項5】
中和処理に使用される前記塩基性化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項6】
中和処理に使用される前記塩基性化合物の添加量が、前記水分散液中に含まれる酸に対して0.6〜1.4当量であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項7】
前記分散剤がセルロースエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項8】
前記攪拌翼が大型格子翼であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の真球状粒子の製造方法。
【請求項9】
前記真球状粒子は、粉体粒子の全数のうち90%以上が、粒子の短径と長径の比として表せれるアスペクト比が1〜2であり、且つ、平均粒子径が10μm以上1000μm未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の真球状粒子の製造方法。


【公開番号】特開2009−221260(P2009−221260A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64699(P2008−64699)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】