説明

真空の分析装置内への試料導入用ホルダー

【課題】試料台とその上に被せられる蓋体を有する試料導入用ホルダーであって、分析の際に、分析装置の外部からの操作を要せずに、蓋を取外して試料を開放することができる試料導入用ホルダーを提供する。
【解決手段】分析用試料を保持する試料台及びこの試料台に被せられる蓋体を有し、前記試料台と蓋体により試料及びガスを包含する空間を形成し、前記空間内と蓋体外部との圧力差が所定値以下では、前記空間内と蓋体外部間が雰囲気遮断状態となるように、試料台と蓋体がかん合しており、かつ前記かん合における試料台と蓋体間の接着力が、前記圧力差が前記所定値を超えたとき前記圧力差により蓋体が試料台上から除去される大きさであることを特徴とする試料導入用ホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空環境での分析、測定に供せられる試料を、特定の環境を保持したまま、分析装置内の真空環境へ導入するために用いる試料導入用ホルダーに関する。より詳細には、試料台とその蓋から構成される試料ホルダーであって、試料台とその蓋により形成される空間内に、試料を気密状態(雰囲気遮断状態)で保持して分析装置内の真空環境へ導入するとともに、導入後は、分析装置外部からの操作を要せずに、自発的に蓋の開放を行うことができる試料導入用ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走査電子顕微鏡(SEM)、X線マイクロアナライザ(EMPA、XMA)、2次イオン質量分析装置(SIMS)、X線光電子分光分析装置(XPS、ESCA)等の分析装置が、各種の検査、品質管理、研究等で広く用いられている。これらの装置を用いた分析では、電子、イオン、X線等による試料の照射が真空中で行われる。そこで、分析の際、試料を真空の分析室に内置する必要がある。
【0003】
真空の分析室に試料を導入する方法として、蓋付きの試料導入用ホルダー内に試料を収納し、該試料導入用ホルダーごと、分析装置の入口側に設置された試料導入室(試料交換室)等に導入する、又は、直接分析室に導入し(以下、分析室を含めて「試料導入室」と記すことがある。)、試料導入室内を真空にしてから蓋を取外して試料上部(試料の照射される側)を開放する方法が行われている。そして、ここで用いられる試料導入用ホルダーについても種々の提案がされている。例えば、特許文献1には、分析用試料を保持する試料ホルダー、その試料ホルダーに被せられ分析試料を大気と隔離して密閉する蓋体であって、試料導入室の外部から操作して開閉もしくは着脱可能な蓋体、等を備える搬送用試料容器(試料導入用ホルダー)が開示されている。
【0004】
又、特許文献2には、試料を露出可能に保持するホルダーと、前記ホルダーに被せられ試料を大気と隔離して密閉する蓋体、等を備えることを特徴とする試料搬送・分析キット(試料導入用ホルダー)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−153760号公報
【特許文献2】特開2007−108149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の搬送用試料容器では、試料導入室の外部からの操作により、蓋の開閉又は着脱がされる。このため、蓋を開閉又は着脱するための装置を、蓋や試料導入室に設ける必要がある。例えば、蓋には試料ホルダーから開放するためのねじ孔が形成されており、試料導入室には、外部からの操作でそのねじ孔にねじを差込むためのつまみや蓋の着脱棒が設けられている(段落0016、図1)。又、特許文献2の試料搬送・分析キットでも、蓋の開閉は、外部からの操作で行う必要があり、例えば、その段落0050には、試料ホルダーと蓋を固定しているねじを解除し、上下移動機構によりホルダーの位置を下げて、ホルダーと蓋体を離してホルダーを開放する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、このような方法では、蓋の開閉を外部から操作するための部材の設置や、試料導入室の改装等が必要となり、分析装置の複雑化やコストアップの要因となる。又、分析の際に、蓋を取外すための操作が必要であるので、分析の作業が煩雑になるとの問題がある。このため、試料導入室内に導入された試料導入用ホルダーの蓋を、分析装置の外部からの煩雑な操作を要せずに簡単に取外しでき、試料台上の試料を開放できる方法、及びこの方法を可能にする試料導入用ホルダーの開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、試料台とその上に被せられる蓋体を有する試料導入用ホルダーであって、分析の際に、分析装置の外部からの操作を要せずに、蓋を取外して試料を開放することができる試料導入用ホルダーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、以下に示す構成からなる試料導入用ホルダーにより解決される。この試料導入用ホルダーは、試料導入室が減圧されるときに、試料台と蓋体間の空間に気密状態で封じられている雰囲気ガスにより蓋を押上げる圧力が生じることを利用したものであり、当該圧力により、蓋を、試料台上から、自発的(装置外部からの操作を必要とせず)に取外すことを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明は、分析用試料を保持する試料台及びこの試料台に被せられる蓋体を有し、前記試料台と蓋体により試料及びガスを包含する空間を形成し、前記空間内と蓋体外部との圧力差が所定値以下では、前記空間内と蓋体外部間が雰囲気遮断状態となるように、試料台と蓋体がかん合しており、かつ前記かん合における試料台と蓋体間の保持力が、前記圧力差が前記所定値を超えたとき前記圧力差により蓋体が試料台上から除去される大きさであることを特徴とする試料導入用ホルダー、である。
【0011】
本発明の試料導入用ホルダーでは、試料台と蓋体により形成される空間内の試料台上に分析対象の試料が保持される。試料導入用ホルダーが、試料導入室に導入される段階では、該空間内は、ガスで充たされたガス雰囲気である。又、該空間内の雰囲気と、試料導入用ホルダー外部の雰囲気とが遮断された雰囲気遮断状態(気密状態)となるように試料台と蓋体がかん合している。
【0012】
試料導入用ホルダーが、試料導入室に導入された後、試料導入室内は減圧がされ真空にされる。この減圧により、試料導入用ホルダーの空間内と試料導入室内(試料導入用ホルダー外部)との間に気圧の差異が生じ、空間内のガスの気圧により蓋体を押上げる押圧力が生じる。本発明の試料導入用ホルダーでは、試料台と蓋体は、所定の保持力(かん合力)でかん合しており、前記押圧力、すなわち空間内と試料導入室内との間の圧力差(気圧差×押圧面積)が所定の値以下では、前記所定の保持力により、試料台と蓋体とのかん合は保持され、気密状態が保たれる。
【0013】
しかし、前記圧力差が所定の値を超えると、前記所定の保持力では、試料台と蓋体とのかん合は保持できなくなり、前記押圧力により、蓋体ははじき飛ばされ、試料台上から取除かれ、試料の上部が開放される。そして、試料の上部が開放されたので、試料は真空中での分析に供せられる。なお、前記の蓋体の取外しが、分析室(X線照射等が行われる室)とは別の試料導入室内で行われたときは、蓋体の取外し後、試料導入用ホルダー(試料台及び試料)を分析室内へ導入する操作が行われる。
【0014】
このようにして、本発明によれば、ガス雰囲気中に保持された試料を収納した状態で試料導入室に試料を導入した後、試料導入ホルダーの蓋を、(外部からの操作を要せずに)自動的に取外し試料を開放することができるので、試料導入室等に大幅な改装を施す必要がなく、蓋を取外す操作も簡単となる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、試料台と蓋体とのかん合が、試料台の1側面であって、試料台の平面図において試料の周囲を囲む図形となる面A、蓋体の1側面であり面Aと対向する面B、及び、面Aと面B間に設けられた気密材によりなされていることを特徴とする請求項1に記載の試料導入用ホルダーである。
【0016】
ここで言う平面図とは、試料台の立体図形を水平面上の投影した平面図形である。試料台の1側面である面Aは、その平面図が、試料の平面図、即ち試料の水平面への投影を囲むように配置されたものである。このような面Aと試料の配置の例としては、面Aが円柱の側面形状であり、当該円柱の上底面又は円柱内に試料が配置されたものを例示することができる。円柱の代わりに角柱であってもよく、上底面が下底面より小さい図形、すなわち円錐台、角錐台であってもよい。
【0017】
面Bは、面Aと対向、すなわち近接して向かい合っている。従って、面Bも、試料台の平面図において試料の周囲を囲む図形となり、面Aと同様な形状を例示することができる。又面Aと面Bの間には気密材が設けられ、この気密材により、面Aと面B間の隙間が閉塞されて気密状態となるとともに、面Aと面B間の位置関係が固定(保持)される。そしてホルダーの空間内と蓋体外部間の圧力差が所定値を超えたときには、この固定(保持)状態は破られ、前記圧力差により生じる押圧力により蓋体が除去されるのである。
【0018】
気密材としては、面Aと面Bの間の隙間を閉塞できる形状の弾性体が用いられる。例えば、弾性ゴムからなるOリングを挙げることができる。気密材は、試料台及び蓋体とは別個に作製しておき、試料台と蓋体をかん合させる際に、面Aと面B間に、両者の位置関係を固定する保持力が生じるように、挟持させてもよい。しかし、試料台と蓋体のかん合の作業を容易にするためには、気密材を面A又は/及び面B上に予め付着させておくことが好ましい。気密材は、面A又は面B上に少なくとも1本は必要であるが、2本以上あってもよい。
【0019】
請求項3に記載の発明は、面A又は面Bのいずれか一方であって、その平面図が内側となる面が、円錐台側面形状(いわゆるテーパー状)であり、前記円錐台の底面面積が、前記空間側がホルダー外部側のより小さいことを特徴とする請求項2に記載の試料導入用ホルダーである。試料台又は蓋体の対向する側面の一方を、ホルダー外部側に向かって広がっている円錐台の側面形状とすることにより、前記圧力差が所定値を超えた際に、蓋体は勢い良く上方に飛び出しやすくなる。このため、蓋体の自動的な開放が確実となるので好ましい。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記試料台と蓋体により形成される空間内に包含されるガスが、不活性ガスであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の試料導入用ホルダーである。
【0021】
ホルダーの前記空間内に包含されるガスの種類は、試料の種類に応じて好ましいものが選択される。大気中でも劣化や化学変化等を生じにくい試料であれば、大気をそのまま使用することも可能である。しかし、試料が、大気中で劣化や化学変化等を生じる場合は、ガスとしては不活性ガスが用いられる。例えば、リチウムやナトリウムなどの高活性金属は、大気中に存在する水分や二酸化炭素と容易に反応してしまうため、これらが試料の場合は、ホルダーの前記空間内は、不活性ガス雰囲気とされる。ここで「不活性ガス」とは、試料と化学反応をしないガスという意味であり、条件により窒素、アルゴン、希ガス等が用いられる。
【0022】
前記空間内に気密状態で不活性ガス及び試料を包含させる方法としては、不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で試料を試料台上に置き、蓋体を被せ気密状態とする方法を挙げることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の試料導入用ホルダーでは、試料導入室内に導入された後、試料導入室内の減圧により生じる蓋体を上方に押圧する力により、蓋体は自動的に取り除かれ、装置外部からの操作を行わなくても試料上部が開放される。このため、試料導入室等に改装を施す必要がなく、蓋を開放する操作も簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施の形態の試料導入用ホルダーの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の試料導入用ホルダーの平面図である。
【図3】本発明の試料導入用ホルダーに入れた試料が、分析装置の分析室に導入される様子を示す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態の試料導入用ホルダーの断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態の試料導入用ホルダーの断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態の試料導入用ホルダーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一及び均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の試料導入用ホルダーの1形態を示す断面図である。図1においては、10は試料台を、20は蓋を、30は気密材としてのOリングを表す。図1(a)が示すように、本発明の試料導入用ホルダー1は、試料台10上に蓋20が被さって構成されている。又、試料台10はその外周に側面11(請求項2における面Aに該当する)を有し、蓋20は、その内側の窪みの内周に側面21(請求項2における面Bに該当する)を有し、側面11と側面21が対向することにより試料台10と蓋20がかん合している。
【0027】
Oリング30は、側面11と側面21が対向する位置に、該側面の周囲に沿って設けられている。蓋20の内周の側面21には、Oリング用溝28(凹部)が形成されており、Oリング30はこのOリング用溝28により蓋20の側面21に固定されている。試料台10と蓋20がかん合されることにより、Oリング30は、試料台10の側面11と接触し、接触力により変形するとともに側面11との間に摩擦力(静止摩擦)が生じる。そして、この静止摩擦力により試料台10と蓋20間の位置関係が固定(保持)される。
【0028】
なお、この例のように、気密材(Oリング等)を蓋の側面(又は試料台の側面)に形成した凹部に固定することにより、気密材の固定を確実にすることができる。さらに、気密材の汚染等が防止される効果が考えられる場合もある。又、試料台10の側面11にOリング用溝28を設け、Oリング30を側面11に固定する方法、さらには、後述するように、側面11及び側面21の両者にOリング用溝を設け固定する方法も可能である。ただし、Oリング30(気密材)の汚染を防ぐためには、側面11よりも側面21にOリング30(気密材)を固定する方が好ましい。
【0029】
図1(a)より明らかなように、試料台10と蓋20の窪みの間には空間16が形成されており、この空間16内の試料台10上に、分析対象の試料5が内置されている。空間16は、Oリング30により気密状態(雰囲気遮断状態)に保たれているが、図1で示す例では、空間16内は大気圧の不活性ガスで満たされている。
【0030】
図2は、図1で表される試料導入用ホルダー1の平面図(水平面上への投影図)である。図中、10、20、11、21及び5は、それぞれ、試料台10、蓋20、側面11、側面21及び試料5の平面図である。なお、図の煩雑を避けるために、Oリング30、Oリング用溝28の平面図は、図示が省略されている。
【0031】
図2より明らかなように、試料台10、蓋20、側面11及び側面21の平面図は円形であり、平面図において、試料5は、側面11(試料台の1側面、請求項2の面Aに該当)に囲まれており、側面21は、側面11の外周に沿って対向している。又、図1及び図2より明らかなように、試料台10は、上方に行くほど水平断面が小さくなる円錐台形状(下広がりとなるテーパー状)であって、その上底面上に試料5が設置されている。又、側面21は円錐台の側面形状であり、側面11は円柱の側面形状である。
【0032】
図1(a)に示される試料導入用ホルダー1は、不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で、試料台10の上底面上に試料5を置き、その上に蓋20を被せ、試料台10と蓋20の間に所定の保持力が生じるようにかん合させることにより作製される。このようにして作製された試料導入用ホルダー1は、試料台10に設けられたホルダー搬送手段60(この例では、試料台10の下底面に結合された棒)により、試料導入室に導入される。試料導入室に導入後、減圧がされて室内の圧力が下がると、試料導入室と、大気圧である空間16との間に圧力差が生じ、この圧力差により蓋20は上方に押圧され上方に飛び出す。
【0033】
具体的には、蓋20を前記圧力差により上方に押圧する力が、蓋20の重量と、Oリング30と側面11との間の静止摩擦力(試料台10と蓋20間の位置関係の保持力)の合計を上回ったとき、蓋20は上方に押圧され上方に動き出す。一旦動き出せば、動摩擦力は静止摩擦力より小さいため、蓋20は上方に飛び出し、試料台10の上方から取除かれる。
【0034】
なお、走査電子顕微鏡等の装置の対象とする試料の直径は、大きい場合は、2〜3cm程度であり、このとき試料台や蓋の外径は3〜4cm程度である。このような場合、内部の大気圧のガスによる上方への押圧力は優に1kgを超えるが、蓋の重量は、重い場合でも150g程度であるので、一旦蓋が動き出せば、蓋の重量よりはるかに大きい押圧力により蓋が飛び上がり、試料台の上方から容易に取除かれるのである。
【0035】
図1(b)は、蓋20が前記圧力差により上方に押圧され上方に飛び出す様子を示す断面図である。図1(b)中の上向きの矢印は、蓋20が飛び出す方向を示している。蓋20が飛び出す結果、空間16の気密は解消し、空間16内の不活性ガスは、試料導入室内に排出されるが、図1(b)の斜め下向き矢印は、この不活性ガスが排出される様子を示している。なお、試料導入室は、この不活性ガスの排出がされた後さらに減圧され、真空状態となる。
【0036】
なお、気密材としてはOリング等の弾性体のリングを挙げることができ、又気密材を形成する材料としては、ゴムや弾性を有する樹脂、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、テフロン(登録商標)を挙げることができる。
【0037】
又、図1の例で、試料5は、試料台10の上底面上に設置されているが、試料台はその上面に試料を設置するための窪み等を有していてもよい。
【0038】
さらに図1の例では、空間16の内部は大気圧であるが、蓋20を飛び出させるだけの圧力差を空間16と試料導入室間に生じさせることができる範囲内であれば、大気圧でなくてもよい。
【0039】
次に、本発明の試料導入用ホルダーが、分析装置の分析室に導入されるまでの過程を、図3に基づいて説明する。
【0040】
図3において、40は分析装置の分析室であり、41はその扉であり、49は分析室40の圧力計であり、50は試料導入室であり、51はその扉であり、59は試料導入室50の圧力計であり、60はホルダー搬送手段である。又、試料台10及び蓋20は、図1、図2で表わされる試料台10及び蓋20である。なお、蓋20に設けられたOリング用溝28とOリング30は、煩雑となるため図示は省略されている。以上のほか、真空ポンプ、観察のための試料の設置台等が装備されているが、これらも図示は省略されている。
【0041】
図3(1)に示す様に、試料導入室50の扉51が矢印aで示す様に開けられ、ホルダー搬送手段60により、蓋20を被せられた試料台10が矢印bで示す様に外部から試料導入室50内に導入される。なお、分析室40の扉41は閉じられている。この状態においては、試料導入室50内は大気圧である。分析室40内は真空であってもよく、真空でなくてもよいが、この例では真空である。又、試料台10と蓋20により形成される空間(図1における空間16)には、大気圧の不活性ガスが満たされ、かつ試料が含まれている。
【0042】
図3(2)に示す様に、試料導入室50の扉51が閉じられ(矢印の方向)、内部の空気の排出が開始される。図3(3)に示す様に、試料導入室50内の圧力がある程度低下すると、蓋20の内外に圧力差が生じ、その圧力差による上方への押圧力のために蓋20は試料台10から抜け、矢印で示す様に上方に飛び出す。
【0043】
図3(4)に示す様に、試料導入室50が真空になるまで、さらに排気がなされ、真空になると矢印cで示す様に分析室40の扉41が開けられ、ホルダー搬送手段60が、蓋20が取り除かれた試料ホルダー10を、矢印dで示す様に分析室40内に導入する。なお、分析室40の扉41が開けられる迄には、分析室40は真空とする必要がある。
【0044】
この後、試料台10が分析室40内の所定位置にセットされ、ホルダー搬送手段60は試料導入室50外に抜き出され、扉41が閉じられ、試料(図示せず)の観察が行われる。
【0045】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、試料台と蓋の側面は、いずれも円柱側面形状であり、このため平行な2重円筒となっている場合である。図4に、この実施の形態の試料ホルダーの断面を示す。なお、図4において、試料台、蓋、その他の部材には、図1における対応する部材と同じ符号を付けている。すなわち、10は試料台、20は蓋、28はOリング用溝、30はOリング、11は試料台10の側面、21は蓋20の側面、5は試料、16は試料台10及び蓋20により形成される空間、60はホルダー搬送手段である。なお、この実施の形態では、試料台10は蓋20の下端面25に対向する箇所に平坦部15を有している。
【0046】
この実施の形態は、試料台10の側面の形状が簡単であるため製造が容易である。又、蓋20の下端面25に対向する箇所に平坦部15を有しているので、蓋20を試料台10に被せる際に、蓋20を過度にあるいは不必要に押込むこと等により、試料台10と蓋20間の保持力が変動することが防止される。なお、他の点では、第1の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【0047】
(第3の実施の形態)
この実施の形態は、気密材を試料台10と蓋20の両方に有しており、この点以外では第1の実施の形態と同様な形態である。図5は、この実施の形態の試料ホルダーの断面図である。なお、図5においては、試料台、蓋、その他の部材には、図1における対応する部材と同じ符号を付けている。この形態によれば、試料台10と蓋20間の保持力は、Oリング30と側面11間の静止摩擦力とともに、試料台10に固定されたOリング30と蓋20に固定されたOリング30間の係止力によっても生じる。
【0048】
すなわち、蓋20が上方に動き出そうとすると、蓋20に固定されたOリング30の上方への動きが、それと係止する試料台10に固定されたOリング30により阻止され、試料台10と蓋20間の位置が保持される。試料台10に固定されたOリング30は、弾性体で形成されているので、蓋20の内外の圧力差が増大すると変形が増し、圧力差が所定値を超えると係止することができなくなり、蓋20は上方へ飛び出す。なお、他の点では、第1の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
(第4の実施の形態)
図6は、本発明の第4の実施の形態を表す断面図である。なお、図6においては、試料台、蓋、その他の部材には、図1における対応する部材と同じ符号を付けている。図6より明らかなように、この形態では、試料台10が窪みを有し、その内側面Aと、蓋20の外側面Bが対向して、試料台10と蓋20のかん合がされている。この例では、試料台10の内側面Aに、Oリング用溝28が形成されており、その中にOリング30が固定されている。なお、他の点では、第1の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【実施例】
【0049】
次に、本発明をより具体的に説明するための実施例を示す。ただし、この実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
この実施例は、図1で示される実施の形態に該当するものであり、図1中の符号を使用して説明する。試料台10は、図1、図2で示される形状であり、上底面が直径16.5mm、下底面は上底面と同心で直径18mm、厚さが5.5mmのステンレス製の台である。蓋20は、図1、図2で示される形状であり、ステンレス製である。蓋20の外径は23mm、全体の厚さが8.5mm、凹みの内径は18mm、凹みの深さは6mmである。又、Oリング用溝28にはめ込まれているOリング30は、内径が15.8mmであり、太さ(直径)2.4mmのゴム製のOリングである。
【0051】
なお、試料台10、蓋20の材質としては、ステンレスが発錆しにくいこと、機械的強度が優れること等から好ましいが、他にも、アルミニウムやアルミニウム合金、銅や銅合金等公知の試料導入用ホルダーに用いられている材質と同じ材質を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、真空中で試料の観察をする各種の分析装置等に利用可能である。例えば、真空環境で、固体表面を電子やイオン又はX線で励起し、その表面から得られる2次電子、回折電子、散乱電子、オージェ電子、反射イオン、特性X線、光電子等の信号を検出することによって、固体表面にどのような元素が存在し、又、どのような化学結合状態にあるかを知る表面分析、すなわち、走査電子顕微鏡(SEM)、X線マイクロアナライザ(EPMA、XMA)、2次イオン質量分析装置(SIMS)、X線光電子分光分析装置(XPS、ESCA)等に利用可能である。これらの装置は、基礎研究用の分析のみならず、資源、エネルギー、公害などの検査、品質管理の広い分野に使用され、特に、金属固溶体の相、変態、粒界、析出物、介在物、地質鉱物の岩石、鉱石、隕石、セラミックス、セメント、ガラス、化学の触媒、塗料、プラスチック、ゴム、石油、生物医学の歯、骨、組織、葉、根、半導体材料、集積回路等の広い分野の非破壊微小領域元素分析、観察等に用いられているので、本発明は、産業上も非常に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 試料導入用ホルダー
5 試料
10 試料台
11 試料台10の側面
15 平坦部
16 試料台10及び蓋20により形成される空間
21 蓋20の側面
20 蓋
25 蓋20の下端面
28 Oリング用溝
30 Oリング
40 分析室
41 分析室40の扉
49 分析室40の圧力計
50 試料導入室
51 試料導入室50の扉
59 試料導入室50の圧力計
60 ホルダー搬送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用試料を保持する試料台及びこの試料台に被せられる蓋体を有し、前記試料台と蓋体により試料及びガスを包含する空間を形成し、前記空間内と蓋体外部との圧力差が所定値以下では、前記空間内と蓋体外部間が雰囲気遮断状態となるように、試料台と蓋体がかん合しており、かつ前記かん合における試料台と蓋体間の保持力が、前記圧力差が前記所定値を超えたとき前記圧力差により蓋体が試料台上から除去される大きさであることを特徴とする試料導入用ホルダー。
【請求項2】
試料台と蓋体とのかん合が、試料台の1側面であって、試料台の平面図においては試料の周囲を囲む図形となる面A、蓋体の1側面であり面Aと対向する面B、及び、面Aと面B間に設けられた気密材によりなされていることを特徴とする請求項1に記載の試料導入用ホルダー。
【請求項3】
面A又は面Bのいずれか一方であって、その平面図が内側となる面が、円錐台側面形状(いわゆるテーパー状)であり、前記円錐台の底面面積が、前記空間側がホルダー外部側のより小さいことを特徴とする請求項2に記載の試料導入用ホルダー。
【請求項4】
前記試料台と蓋体により形成される空間内に包含されるガスが、不活性ガスであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の試料導入用ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−237292(P2011−237292A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109187(P2010−109187)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】