説明

真空アーク蒸発源

【課題】大電流放電を行ってアークを安定して蒸発面上所定のエリアに閉じ込め制御可能とする真空アーク蒸発源を提供する。
【解決手段】 柱状蒸発物質の蒸発面を含む領域に磁界を形成して放電する真空アーク蒸発源であって、柱状蒸発物質の蒸発面における柱状蒸発物質の軸方向に伸びる略長円状の放電電圧の低い放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度を設定する磁場発生源と、200A以上のアーク電流値を設定するアーク電源とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具、機械部品等への耐磨耗性コーティング等に使用される真空アーク蒸発源に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク蒸着法の致命的な欠点であるドロップレット(溶融粒子)を低減する方法として従来より種々提案されている。
例えば、特公平5−48298号公報(特許文献1)は、「陰極(蒸発物質)の表面に平行な磁界成分を有する磁界によって、アークが無端経路をたどるようにし、あるいはさらにその磁界を発生する磁気手段を陰極に対して相対的に移動すること、を特徴とする方法及び装置。」であり、蒸発材料の溶解粒子を低減し、。アーク消弧にともなう自動再点弧を不要とするとしているものであった。
【0003】
また、特開平11−36063号公報(特許文献2)は、「アーク蒸発源の蒸発面に700Oe以上の磁界を形成し、その磁界は蒸発面前方において平行進行ないし発散し、蒸発面法線と磁力線の成す角度が0〜30度であるアーク式蒸発源」であり、ドロップレットを低減し、陰極寿命が長いアーク蒸発源を提供するものであった。
更に、特開平1−234562号公報(特許文献3)は、「外面に陰極蒸発材料を設けた中空回転体の内部に磁気発生装置を設置し、蒸発材料・磁気発生装置を回転または移動させながら放電を発生させる装置。」であり、アークパスを正確に制御し、陰極に溝状の浸食を作らないこと目的とするものであった。
【特許文献1】特開2001−262218号公報
【特許文献2】特開平11−343514号公報
【特許文献3】特許第3282865号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1、すなわち、通常入手可能なレベルの磁力を発生する磁場発生源により、蒸発面に平行な磁場を与えて、アークを蒸発面上に無端経路を描いて移動させる方法によると、アーク電流が100A以下の比較的小さい値であれば軌道は安定するが、アーク電流を増していくと軌道を外れる割合が多くなり、200Aを超えると安定的に軌道を確保することが困難となることを実験的につかんだ。
また、200Aを超えるような放電電流に対して軌道を確保するには磁力を増さなければならないが、そうするとアークスポットの速度が上がることにより放電電圧が上昇し、通常20V前後の電圧で放電可能であるのが40Vを超え、さらに磁力・電流を増すことにより100V近くの電圧を必要とすることも確認しており、極めて特殊かつ高価なアーク電源が必要となる。
【0005】
また、磁気手段を移動させなければ、蒸発物質は無端経路に沿って線状に深くえぐれるように消耗してしまい、実質的には磁気手段の移動は必須である。
前述した特許文献2の技術を利用した実際の装置にて、放電電流を150A程度として運転したところ、アークスポットが蒸発面上で偏在し、蒸発面外周部においては局所的に消耗してしまった。
さらには蒸発面一面にクラックが発生してしまうことが判明した。また通常手段により700Oeもの磁界を蒸発面に発生させるために、蒸発面の径を50mm〜60mmに抑えなければならず、小さな蒸発面積に対しての電流負荷(熱的負荷)が大きい。この技術による実際の放電には、窒素あるいはアルゴン等のガスを一定量導入しなければならず、プロセス上の制約が大きい。
【0006】
また、蒸発物質の消耗にともなって、磁力線と蒸発面の関係が大きく変化し、さらに上記のとおり小さな蒸発面積のため消耗が速いため、所望の磁場形態を実際に長時間にわたって保つことが困難である。実施例によれば、消耗にともなって蒸発面がコイル中心より引っ込むと蒸発面上の磁界が発散形状から収束形状となり、本従来技術(特許文献2)成立しなくなる。さらには蒸発面外周部の消耗によりアークスポットが飛び出し、異常放電を引き起こす可能性がある。
【0007】
前述した特許文献3によれば、現実には磁石を中空蒸発材料の内側に入れただけでは、記述されているような放電を安定して行うには制約が非常に大きい。たとえば、アークスポットを図示されたような経路に沿って移動させ、あるいは図示されたような磁力線に捕捉制御することが可能なのは、放電電流100A以下かつチャンバ圧力1Pa以下の場合に限られ、それ以上の電流・圧力条件においては、全く制御不能であることを実際に確認している。これは、アーク電流を増やすことによりアークスポットが複数発生すること、または圧力が高くなるとアークスポットの動きが広範囲になるという真空アーク放電での一般的な現象により、アークスポットに対して、図示された以外に実際に発生している磁力線が作用するようになるもので、必然的に起こることである。
【0008】
本発明は、真空アーク蒸着法において、生産レベルの成膜時にも粗度の良い皮膜を得るために、大電流放電を行ってアークを安定して蒸発面上所定のエリアに閉じ込め制御可能とし、さらにドロップレットの発生を制御することができる真空アーク蒸発源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するため本発明は次の技術的手段を講じている。
すなわち、柱状蒸発物質の蒸発面を含む領域に磁界を形成して放電する真空アーク蒸発源であって、柱状蒸発物質の蒸発面における柱状蒸発物質の軸方向に伸びる略長円状の放電電圧の低い放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度を設定する磁場発生源と、200A以上のアーク電流値を設定するアーク電源とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の他の真空アーク蒸発源は、柱状蒸発物質の蒸発面を含む領域に磁界を形成して放電する真空アーク蒸発源であって、柱状蒸発物質の蒸発面における柱状蒸発物質の周方向に伸びる略帯状の放電電圧の低い放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度を設定する磁場発生源と、200A以上のアーク電流値を設定するアーク電源とを備えていることを特徴とするものである。
更に、真空アーク蒸発源において、永久磁石2対を同じ磁極が対向するように配置して磁力線を反発させる磁場発生源であることが推奨される。
【0011】
また、対向配置した磁石の磁力が異なることが推奨され、更に、対向配置した磁石が異極対向とされていることが推奨される。また、蒸発面における磁界の強さが5ミリテスラ以上であることが推奨される。
【0012】
更に、アーク放電の陽極部を、柱状蒸発物質の軸と平行に移動させることができ、柱状蒸発物質に対して複数の給電部を設け、この給電部を切り替え又は各給電部の電流値を変化させることこともできる。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように、本発明によれば、生産レベルの成膜時にも粗度の良い皮膜を得るために、大電流放電を行ってアークを安定して蒸発面上所定のエリアに閉じ込め制御可能とし、さらにドロップレットの発生を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は請求項1に係る実施形態を示し、図1(1)は蒸発物質と磁界の断面であり、図1(2)は蒸発面における法線に対する磁力線の方向(角度)を示し、図1(3)は、柱状蒸発物質と磁場発生源とを示す斜視図を示し、図1(4)は図1(3)のA矢示であって柱状蒸発物質の軸方向に伸びる略長円状の放電部位を示している。
図1において、円筒形で例示する柱状蒸発物質1の中空部(内部)に、N極とS極を有する永久磁石で例示する磁場発生源2が配置されており、該磁場発生源2は、柱状蒸発物質1の蒸発面1Aに、当該柱状蒸発物質1の軸方向に伸びる略長円状の放電領域(放電部位)1Bにアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度とアーク電流値が設定されている。
【0015】
すなわち、蒸発物質1が柱状である真空アーク蒸発源において、蒸発物質1の蒸発面1Aを含む領域にある一定強度以上の磁界を形成したものであって、前記蒸発面1A上における蒸発面1Aの法線Qとその磁力線Xが成す鋭角側の角度(以下αとする)がφ≦α≦θ(φ≦20°、θ≧30°)に分布し、かつα=φの領域がα=θの領域に囲まれているとともにある一定値以上のアーク電流により放電させ、α=φ付近を中心としたα=θの内側の領域(略長円状の放電部位1B)にアークスポットを閉じ込めて放電させるようになっている。
【0016】
ここで、角度φは法線に対する最小角度であり、角度θは同じく最大角度である。
この図1に示した実施形態の作用の原理を説明する。この原理は確定的なものではないが、一応以下のようであると考えられている。一般にα=θの領域では、アーク放電を形成する電子やイオン電流に対する磁界の作用(ローレンツ力)が強いため、アークスポットの動きが強く拘束されて、ランダム性がなくなりかつ移動速度が上がるために、放電電圧が上昇する。放電電圧の上昇は、その領域での放電を妨げる要因となる。一方、α=φの領域ではローレンツ力によるアークスポットの拘束力は弱いが、放電電圧は通常の電圧とほとんど変わらないレベルである。ここで、アーク電流が小さければ放電電圧の上昇による放電阻止力よりもローレンツ力による作用力が勝り、アークスポットはα=θ近辺の領域に拘束される(従来技術1はθ=90°の場合)。
【0017】
しかし、アーク電流がある一定値以上となった場合、ローレンツ力による拘束力よりもアーク電圧が上昇することによる放電阻止力が勝り、α=θ付近の領域よりも放電電圧の低いα=φ付近での放電に移行する(φ=0°、磁力=20mT、放電電流=600A、窒素圧力=2Paで放電部位を横から観察した写真で示す図8参照)。その結果、アークスポットはα=θで囲まれた領域の内側でα=φ付近を中心としてランダムに動き回る。したがって、アークスポットをα=θの内側に確実に閉じ込めることが可能となり、蒸発面の適切な位置に放電領域を設置することができる。特に、蒸発面の外周部にα=θとなる部位を設けることにより、従来技術2にて問題となる蒸発面外周部の消耗による異常放電を防止しつつ、有効蒸発面を効果的に消費することができる(白線部:α=90°、黒線部:α=0°で略長円状の放電領域の例を写真で示す図9参照)。
【0018】
また、アークスポットはα=θの内側を面状に動き回るため、磁場発生源を移動しなくても従来技術1の静止磁場の場合にあるような無端周回軌跡の部位だけが線状に深くえぐれるような消耗が避けられる。
更に、その放電領域では、蒸発面付近のアーク電流の向きが磁力線の向きに近くなり、放電を形成する電子がその部位の磁力線に小さな半径で巻き付くことによって放電電流密度が上がり、アークスポット1個が持ち得る電流密度を超えるために、アークスポットは通常の個数(たとえば200Aでは平均2個程度)よりも多数に分裂する。そのためアークスポット1個当たりの電流値が下がり、アークスポットで発生するドロップレットの発生確率およびドロップレットの径を大幅に小さくすることができる。
【0019】
さらには、α=φを中心とする領域から伸びる磁力線に沿ってアーク放電プラズマが活性化し、蒸発した蒸発物質のイオン化が促進され、処理物上に緻密な皮膜を形成することができる。本技術で窒化クロムの厚膜を成膜したところ、従来の標準的な皮膜に比べ、膜厚を厚くしても、良好な粗度の皮膜が得られている。
すなわち、図10は本発明により形成したCrN皮膜表面の顕微鏡写真であり、膜厚=76μm、Ra(平均粗度)=0.12μm、Rmax(最大粗度)=2.10μmである。一方、図11は従来の標準的なCrN皮膜表面の顕微鏡写真であり、膜厚=30μm、Ra=0.75μm、Rmax=8.2μmである。
【0020】
図10の実験条件は、磁界強度30mT、アーク電流800A、電圧25vであり、図11は、磁界強度0mT、アーク電流800A、電圧20vである。但し、ターゲット形状は図10、図11ともにφ90mm×L900mmの円柱状である。
また、本発明では、アーク放電にガス導入の必要はなく、通常成膜プロセスに要求される圧力範囲を完全に包含する圧力範囲、たとえばガス導入なし〜窒素圧力6Pa以上の範囲で放電が可能であることも確認している。これは放電領域前方に非常に高密度のアークプラズマが形成されるため、そのアークプラズマ自体が放電形態を律則し、ガス導入等それ以外の放電環境に影響されないためと考えられる。
【0021】
さらに本発明では、蒸発物質が消耗しても本手段の磁場形態を保ち得るため、常に上記効果を享受することが可能である。
図1に示した真空アーク蒸発源において、蒸発面における磁力線方向の磁界の強さが5mT(ミリテスラ)以上とされている。このような磁界の強さとすることにより、α=θ付近にアークスポットが移動した場合の放電電圧が確実に40v以上となるため、アークスポットがα=φを中心とした放電電圧の低い領域に確実に移行し、所望の蒸発面領域により安定的にアークスポットを拘束することができる。特に、放電電流を増大する場合は磁界の強さを増すことが望ましい。たとえば、400Aでは10mT以上、800Aでは20mT以上が望ましい。
【0022】
また、図1に示した蒸発源を使用した真空アーク蒸着装置を図2に示しており、この図2において、ワーク3はターンテーブル4上に備えられており、真空チャンバ5内において縦軸廻りに回転するようになっており、チャンバ5を陽極とした例を示している。
この図2に示した真空アーク蒸発源において、アーク電流値は200A以上とされており、このように構成したことによってアークスポットが複数個発生することによるスポット相互の反発力により、α=θを中心とした領域にアークスポットは安定存在し得なくなるため、α=φを中心とした領域へ確実にアークスポットが移行し、所望の蒸発面領域により安定的に拘束される。
【0023】
更に、前述した真空アーク蒸発源において、θ≧60°とされており、このような構成とすることによって、α=θ付近にアークスポットがある場合の放電電圧が40vを超えるため、アークスポットがα=φを中心とした放電電圧の低い領域に確実に移行し、所望の蒸発面領域により安定的にアークスポットを拘束することができる。
図3は前述した真空アーク蒸発源において、磁界を移動させる例を示しており、α=φの部位を含む磁界を、図3(1)では蒸発物質の軸と平行に、または図3(2)で示すように軸を中心として回転して移動するように磁場発生源を移動させるように構成されている。
【0024】
図4は前述した真空アーク蒸発源において、アーク放電の陽極部を、蒸発物質の軸と平行に移動させるようにしたものであり、図4(1)は陽極自体を上下移動させた例を示し、図4(2)は陽極として働く部位を上下移動させた例を示している。
図5は、磁場発生源と陽極を同期回転させる例を平面図と正面図で示しており、前述した真空アーク蒸発源において、α=φの部位を含む磁界と陽極を、蒸発物質の軸を中心として同期回転させるように構成したものである。
図6は柱状蒸発物質に対して複数(図では2個)の給電部(アーク電源1、2)を設けたものであり、この給電部を切り替え又は各給電部の電流値を大小に変化させたものであり、図6は放電電流値I1 、I2 をI1 >I2 又はI1 <I2 としたものである。
【0025】
すなわち、I1 <I2 ならアークスポットは下方へ、I1 >I2 なら上方へ移動するものである。
図7は、本発明の変形例を示し、磁場発生源として磁場コイルを採用し、柱状蒸発物質は真空チャンバのくびれ部にその軸心を横向として備えられ、このくびれ部を磁場発生源である電磁コイルが配置されており、その他の構成は前述した各例と共通する。
図3〜図6に示した実施形態によれば、蒸発面をより均一に消耗させ蒸発物質を有効に使用できる。また、本発明は大電流での運転を特徴としており、アーク電流による蒸発物質の温度上昇を蒸発物質全体に均一化でき、発熱部位の偏在による蒸発物質の熱的ストレスを軽減してクラックの発生を防止する。特に、大面積の蒸発源でα=φの部位が非常に広範囲にわたる場合に効果的となる。
【0026】
アークスポットはα=φを中心に分布する他、その分布の中でも、陽極に近い側、あるいは蒸発物質への給電部に近い側に寄る傾向があることを利用することができる。
図12は柱状蒸発物質の他の例を示し、図12は内部に円形中空部を有する角柱状の蒸発物質を示し、このように蒸発物質の形状は、円筒形、角筒形、中実円柱(図7参照)、中実角柱、平板柱状等任意である。
図13〜図16は請求項2〜5に係る本発明の実施形態を示している。
すなわち、図13においては、柱状蒸発物質の蒸発面に、柱状蒸発物質の周方向に伸びる略帯状(帯環状)の放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度とアーク電流値を設定した磁場発生源を備えているのである。
【0027】
図13を参照してより具体的に説明すると、ドーナツ状で端面が磁極となっている永久磁石2対で示す磁場発生源2を同じ磁極が対向するように置いて磁力線を反発させると、両磁石の中間位置にα=0°が、その両側(図13では上下)にα=90°の部位がそれぞれ蒸発源の周方向に帯状に生じる。この場合α=0°を中心としα=90°に挟まれた帯状の部位で放電させることができる。
図14は対向配置した磁石の磁力が異なる(図14では上を強くした場合で示すが下を強くした場合も含む)ものとした例を示している。
【0028】
この図14の実施の形態においては、図15で示すように、主たる磁場方向(放電部位における磁力線のターゲット面方向成分の総和)が下を向くことにより、アークスポット(厳密にはアークスポットから発生する金属イオン流)に働くローレンツ力は、上からみて反時計の一方向に定まるため、アークスポットはその方向にほぼ定速度で周回運動を行う。ただし、ここで働くローレンツ力は弱いため、前述したような放電電圧の上昇がほとんど無く、放電を阻害する要因にはならない。
また、上下磁石の磁力が等しいと、主たる磁場方向は金属イオン流の方向と等しくなり、したがってローレンツ力が働かないため、アークスポットは放電部位を左右方向にランダムに運動するが、アノード(陽極)配置やチャンバ構造の非対称性により、蒸発物質のある方向に片寄って放電することがある。
【0029】
上下磁石を異なる磁力とすることで、アークスポットを蒸発物質全周にわたって確実に放電させることができる。
図16は対向配置した磁石が異極対向とされている実施の形態であり、これによれば、磁石サイズ・配置を適当に選ぶと図16のようになり、α=90°が3点現れた。予想では放電部位が2ヶ所現れるが、真ん中のα=90°の点の磁力が弱いと、アークスポットは上下の放電部位を行ったり来たりする。
なお、この磁場形態(図16で示した形態)で上下磁石を異なる磁力にした場合、上下磁力差が大きいと、弱い側の放電部位がなくなる。
【0030】
図13、図14においては、柱状蒸発物質の放電部位が帯状となることから、当該柱状蒸発物質と磁場発生源を図5で例示するように同期回転させる必要性はなくなる。但し、図4で例示したように陽極を移動させることはできる。
また、図13〜図14において、前述した最小角度φ、最大角度θについては前述同様であり、アーク電流値(200A以上)および磁界の強さが5ミリテスラであること、400Aでは10mT以上、800Aでは20mT等々についても前述同様である。
更に、本発明においては、前述した各実施形態を任意に組み合せることは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態を示し、(1)は蒸発物質と磁界の断面を示し、(2)は法線に対する磁力線の角度を示し、(3)は蒸発源の斜視図であり、(4)はA矢示図である。
【図2】図1の蒸発源を使用した真空アーク蒸着装置を示している。
【図3】磁界を移動させる例を示し、(1)は軸方向の平行移動(相対移動を含む)、(2)は軸廻りの回転移動(相対回転を含む)の平面図と正面図である。
【図4】陽極を移動する例を示し、(1)は陽極自体の上下移動(水平移動を含む)、(2)は陽極として働く部位の上下移動(水平移動を含む)である。
【図5】磁場発生源と陽極を同期回転させる平面図と正面図である。
【図6】蒸発物質に複数の給電部を設けた説明図である。
【図7】本発明の他の例を示す構成図である。
【図8】放電部位を横から観察した写真である。
【図9】放電領域の写真である。
【図10】本発明によるCrN皮膜表面の顕微鏡写真である。
【図11】従来の標準的なCrN皮膜表面の顕微鏡写真である。
【図12】角柱状の蒸発物質の断面図である。
【図13】請求項2に係る実施形態を示し、(1)は斜視図、(2)は平面図、(3)は正面図である。
【図14】上下磁石を異なる磁力とした例を示し、(1)は斜視図、(2)は平面図、(3)は正面図である。
【図15】図14の作用説明図である。
【図16】上下磁石を異極対向とした場合の半欠正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 柱状蒸発物質
2 磁場発生源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状蒸発物質の蒸発面を含む領域に磁界を形成して放電する真空アーク蒸発源であって、
柱状蒸発物質の蒸発面における柱状蒸発物質の軸方向に伸びる略長円状の放電電圧の低い放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度を設定する磁場発生源と、200A以上のアーク電流値を設定するアーク電源とを備えていることを特徴とする真空アーク蒸発源。
【請求項2】
柱状蒸発物質の蒸発面を含む領域に磁界を形成して放電する真空アーク蒸発源であって、
柱状蒸発物質の蒸発面における柱状蒸発物質の周方向に伸びる略帯状の放電電圧の低い放電領域にアークスポットを閉じ込めるように、磁力線の角度を設定する磁場発生源と、200A以上のアーク電流値を設定するアーク電源とを備えていることを特徴とする真空アーク蒸発源。
【請求項3】
永久磁石2対を同じ磁極が対向するように配置して磁力線を反発させる磁場発生源であることを特徴とする請求項2に記載の真空アーク蒸発源。
【請求項4】
対向配置した磁石の磁力が異なることを特徴とする請求項3に記載の真空アーク蒸発源。
【請求項5】
対向配置した磁石が異極対向とされていることを特徴とする請求項2に記載の真空アーク蒸発源。
【請求項6】
蒸発面における磁界の強さが5ミリテスラ以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の真空アーク蒸発源。
【請求項7】
アーク放電の陽極部を、柱状蒸発物質の軸と平行に移動させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の真空アーク蒸発源。
【請求項8】
柱状蒸発物質に対して複数の給電部を設け、この給電部を切り替え又は各給電部の電流値を変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の真空アーク蒸発源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−31557(P2008−31557A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251090(P2007−251090)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【分割の表示】特願2001−398223(P2001−398223)の分割
【原出願日】平成13年12月27日(2001.12.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】