説明

真空システム

【解決手段】 本発明は、直列に接続された複数の真空チャンバー14、16、18、20と、チャンバーを差動的に排気するため真空排気装置10とを含む真空システム12を提供する。真空排気装置は、第1真空チャンバー14を排気するために接続された吸気口23と、大気に又は大気周辺に排気するための排気口25とを有する一次ポンプ22と、第2真空チャンバー16を排気するために接続された吸気口27と、一次ポンプの吸気口23に接続された排気口29とを有するブースターポンプ24と、第3真空チャンバー18、20を排気するために接続された吸気口31、33と、ブースターポンプの吸気口27に接続された排気口35、37とを有する二次ポンプ26、28とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空システムに関し、例えば、直列に接続された複数の真空チャンバー及びチャンバーを差動的に排気するための真空排気装置を含む質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
公知の真空排気装置100が図2に示されている。排気装置100は、質量分析システム102のような真空システム内の複数の真空チャンバーを差動的に排気するためのものである。真空チャンバーは直列に接続され、高圧(低真空)チャンバー104から中圧チャンバー106を介して低圧(高真空)チャンバー108に至る試料流路を形成する。典型的には、低圧チャンバーが1ミリバールに維持され、中圧チャンバーが10-3ミリバールに維持され、低圧チャンバーが10-6ミリバールに維持されることがある。真空排気装置100は、真空チャンバーを差動的に排気し、質量分析計の中に試料流量を維持するように設計される。質量分析装置の中の試料流量を増すことにより、より多くの試料が分析される。
【0003】
真空排気装置100は、2つの一次(補助)ポンプ、及び2つの二次ポンプを含む。第1及び第2の二次ポンプ110、112は、ターボ分子ポンプであるのがよい。二次ポンプは、並列に配置され、真空チャンバー106、108をそれぞれ排気するために接続される。二次ポンプは、一次又は補助ポンプ114と直列に接続される。二次ポンプは分子ポンプであり、大気に排気できないので、一次ポンプ114が二次ポンプの排気に接続され、一次ポンプは大気に排気する。このように、一次ポンプは二次ポンプを補助する。一次ポンプは、例えば、スクロールポンプであるのがよい。
【0004】
もう1つの一次ポンプが低真空チャンバー104に接続され、大気に排気する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば質量分析計のような科学的システムの性能を向上させるため、システム内の排気装置の電力要求を著しく増加させることなく、特に、約1ミリバールより大きい非分子、又は粘性流の状況を有する真空チャンバー内において、排気速度(及び試料ガスの流量)を増大させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、直列に接続された複数の真空チャンバーと、前記チャンバーを差動的に排気する真空排気装置とを含む真空システムを提供し、真空排気装置は、前記真空チャンバーの内の第1の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口及び大気に又は大気の周辺に排気するための排気口を有する一次ポンプと、前記真空チャンバーの内の第2の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口及び一次ポンプの吸気口に接続された排気口を有するブースターポンプと、前記真空チャンバーの内の第3の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口及びブースターポンプの吸気口に接続された排気口を有する二次ポンプと、を含む。
【0007】
本発明の他の好ましい及び/又は任意の側面は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0008】
本発明を十分に理解するために、単なる例として与えられる発明の実施形態を、今、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】真空排気装置を含む真空システムの模式図である。
【図2】真空排気装置を含む先行技術の真空システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
真空排気装置10を図1に示す。排気装置10は、質量分析システムのような真空システム12内の複数の真空チャンバーを差動的に排気するためのものである。真空チャンバーは直列に接続され、第1真空チャンバー14から始まり、第2真空チャンバー16、第3真空チャンバー18を介して第4真空チャンバー20に至る試料流路を形成する。圧力は、図に示すように右に流れる試料流路に沿って、第1チャンバー14の吸気口の大気から第4チャンバー20の高真空まで低下する。例えば、第1チャンバー14が、10ミリバールのような高圧(低真空)である。第2真空チャンバーは1ミリバールの比較的低い圧力である。この例では、第1及び第2真空チャンバーは、粘性又は非分子の状況又は状態にあると考えられる。第3真空チャンバー18は、10-3ミリバールの低圧である。第4真空チャンバー20は10-6ミリバールの低圧である。この例では、第3及び第4チャンバーは、分子流の状況又は状態にあると考えられる。
【0011】
真空排気装置10は、真空チャンバーを差動的に排気し、図2に示した先行技術の装置に比べて、質量分析計の中を通る試料流量を比較的高く維持するように設計される。更に、ポンプの数を増すことなく、増加した数の真空チャンバーを差動的に排気することができる。
【0012】
真空排気装置10は、第1真空チャンバー14に接続された吸気口23と、大気に又は大気の周りに排気する排気口25とを有する一次又は補助ポンプ22を含む。ポンプ22は、第1チャンバーに要求される圧力状況に適し且つ大気中へ排気するのに適したスクロールポンプであるのがよい。ブースターポンプ24は、第2チャンバー16に接続された吸気口27を有する。ブースターポンプは、大気にではなく一次ポンプの吸気口22に排気する排気口29を有する。ブースターポンプ24は、補助ポンプとは無関係に運転しておらず、一次ポンプ22と直列に接続される。少なくとも一つの二次ポンプが、それぞれの高真空チャンバーを排気するために設けられている。図1では、2つの二次ポンプ26、28が並列して示され、第3真空チャンバー18及び第4真空チャンバー20を排気するために接続された各吸気口31、33を有する。二次ポンプの出口35、37は、ブースターポンプの吸気口27に接続される。二次ポンプ26、28は、典型的には、ターボ分子ポンプであり、それ自体は大気中に効率的に排気しない。従って、二次ポンプは、直列に接続されたブースターポンプ24と一次ポンプ22によって補助される。
【0013】
ブースターポンプは、排気量(速度)の増加且つ圧縮比の減少のために配置される。従って、適当なブースターポンプは、能力を増加させるように配置されたスクロールポンプであるのがよい。この点において、ツインスタート又はマルチスタートのスクロールポンプが、高い排気量を有する。何故ならば、スクロールポンプの2以上の外側ラップがその吸気口に接続され、各外側ラップが主として排気量を増加するようになっているからである。典型的なスクロールポンプにおけるように、外側ラップは直列に接続していないので、外側ラップから次の外側ラップまで流路に沿って気体の漸次圧縮を達成せず、従って、圧縮比を減少させる。別の例が、出願人の同時係属出願GB0914217.5に記載されているように、チップシールを持たないスクロールポンプである。公知のスクロールポンプでは、通常プラスチック材料で作られたチップシールが、それぞれのスクロール壁に形成されたチャンネル内に受け入れられて、スクロール壁と向かい合うスクロール壁板との間をシールする。チップシールは、スクロール壁の高圧側からスクロール壁の低圧側への気体の逆漏れを防止する。逆漏れを減少させると、より高い圧縮率を達成することができる。しかし、チップシールは接触シールであるため、可動面間の摩擦によって引き起こされる、ポンプの電力要求を増加させる。図1に適したブースターポンプは、チップシールのないスクロールポンプである。チップシールがないと逆漏れが増加し、特に高い吸気圧力で、ポンプによって要求される電力を減少させる。
【0014】
そのようなスクロールポンプを、マルチスタートスクロールポンプに加えて又は代えて使用してもよい。例えば、スクロールポンプの平行な外側ラップにはチップシールが無くてもよいが、ポンプの圧縮段階には存在するのもよい。
【0015】
他の適当なブースターポンプが当業者に知られているであろう。
【0016】
より詳細には、一次ポンプ22は、その吸気口と排気口の間で第1圧縮比を提供するように構成される。使用中の真空システムを示す図1において、第1チャンバーは一次ポンプ22により10ミリバールまで排気され、一次ポンプは大気(1バール)に排気する。従って、一次ポンプの圧縮比は100である。ブースターポンプは、その吸気口と排気口の間で第2圧縮比を提供するように構成される。図1では、第2チャンバー16は1ミリバールまで排気され、ブースターポンプは一次ポンプの吸気口に10ミリバールで排気する。従って、ブースターポンプ24の圧縮比は10である。従って、一次ポンプの圧縮比は、ブースターポンプのそれよりも大きく、図示した例では、一桁大きい。
【0017】
また、一次ポンプは、その吸気口と排気口の間で第1排気量又は速度を提供するように構成される。図1において、一次ポンプが5800sccm(毎分1立方センチメートル(標準状態換算))の排気速度を有するのがよい。ブースターポンプは、その吸気口と排気口の間で第2排気量を提供するように構成される。図1では、ブースターポンプが1600sccmの排気速度を有するのがよい。第1排気量は第2排気量よりも小さい。一次ポンプとブースターポンプとの間には、チャンバーの中を通る流れを改善し、更なるチャンバーを排気させる相乗効果がある。この点で、ブースターポンプが高い排気速度を有するので、第1チャンバーから第2チャンバーへの流れは比較的高い。従って、要求される排気速度がブースターポンプによって達成されるので、一次ポンプは、主として良好な圧縮比を達成するように構成されるのがよい。同様に、第1及び第2チャンバー内で達成される真空は、主として一次ポンプによって達成され、低下することが許容される圧縮比よりもむしろ排気速度を増加するためにブースターポンプを構成することができる。一次ポンプとブースターポンプは、両方の二次ポンプ26、28を補助するために直列に接続される。従って、両方の二次ポンプは、一次及びブースターポンプの両方によって補助される。先行技術では、二次ポンプは1つの一次ポンプ114によって補助される。加えて、第1チャンバー104は、もう1つの一次ポンプ116により排気される。一次ポンプ114及び116の両方は、圧縮比及び要求される排気速度の両方を達成するように構成されなければならない。従って、先行技術の装置には、ある量の無駄な努力がある。図1では、一次ポンプ及びブースターポンプは、相乗効果で機能し、それによって、要求される圧縮比及び要求される排気速度を共に達成しつつ、電力要求を減少させる。
【0018】
複数の真空チャンバー14、16を差動的に排気するために一次ポンプ22と直列にブースターポンプ24を設けることは、例えば質量分析システムにおいて有利である。ブースターポンプは、二次ポンプ26、28のための補助を提供できるだけではなく、特に粘性の圧力状況で、及びその状況における1つ以上のチャンバー内で、高い試料気体流れを提供することができる。
【0019】
より詳細には、単一の一次ポンプは、高圧チャンバーを排気するのに必要な吸気口の圧力が高すぎて、二次ポンプを補助しないので、一般的に、高圧真空チャンバーを排気し且つ二次ポンプを補助することは不可能である。従って、図2に示すように、2つの一次ポンプが必要である。第1の一次ポンプが第1真空チャンバー104を排気し、第2の一次ポンプが二次ポンプを補助する。
【0020】
図1では、直列に接続された一次ポンプとブースターポンプの組み合わせが、先行技術に比して多くの利点をもたらす。第1に、この組み合わせが排気量の増加をもたらすので、試料流量の増加が達成される。第2に、一次ポンプ22とブースターポンプ24の両方を、2つの真空チャンバー14、16を排気するために接続することができる。先行技術では、2つの一次ポンプは1つの真空チャンバーだけを排気できる。この後者に関して、一次ポンプとブースターポンプの組み合わせは、ブースターポンプの吸気口において、図2に示す一次ポンプの何れかで可能であるよりも低い圧力を排気できる。従って、ブースターポンプの吸気口を、真空チャンバーに接続し且つ二次ポンプを補助するために接続することができる。更なる利点は、先行技術におけるのと同じ数のポンプを使用しながら、先行技術に比べて差動的に排気される追加のチャンバーを本システム内に設けることができることである。
【0021】
図2に示す先行技術の排気装置とは異なり、ブースターポンプの使用は、電力消費又は真空排気装置の物理的なサイズの大幅な増加なしに、高い排気性能をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数の真空チャンバーと、前記チャンバーを差動的に排気するための真空排気装置とを含む真空システムであって、
真空排気装置は、
前記真空チャンバーの内の第1の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口と、大気に又は大気周辺に排気するための排気口とを有する一次ポンプと、
前記真空チャンバーの内の第2の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口と、一次ポンプの吸気口に接続された排気口とを有するブースターポンプと、
前記真空チャンバーの内の第3の真空チャンバーを排気するために接続された吸気口と、ブースターポンプの吸気口に接続された排気口とを有する二次ポンプとを含む、真空システム。
【請求項2】
前記真空チャンバーの内の第3及び第4の真空チャンバーをそれぞれ排気するための2つの二次ポンプを含み、前記2つの二次ポンプの排気口がブースターポンプの吸気口に接続されている請求項1に記載の真空システム。
【請求項3】
真空チャンバーは、流体を第1真空チャンバーから順に真空チャンバーの中を流通させるように接続される、請求項2に記載の真空システム。
【請求項4】
一次ポンプ及びブースターポンプは、少なくとも第1チャンバー内で粘性流が起こる低真空でそれぞれの第1及び第2チャンバーを排気するように構成される、請求項3に記載の真空システム。
【請求項5】
一次ポンプはその吸気口と排気口の間で第1圧縮比を提供するように構成され、ブースターポンプはその吸気口と排気口の間で第2圧縮比を提供するように構成され、第1圧縮比は第2圧縮比よりも大きい、請求項4に記載の真空システム。
【請求項6】
一次ポンプはその吸気口と排気口の間で第1排気量を提供するように構成され、ブースターポンプはその吸気口と排気口の間で第2排気量を提供するように構成され、第1排気量は第2排気量より小さい、請求項5に記載の真空システム。
【請求項7】
ブースターポンプは、排気量を増加させ且つ圧縮比を低下させるように構成されたスクロールポンプである、請求項1乃至6の何れか一項に記載の真空システム。
【請求項8】
スクロールポンプは、マルチスタートスクロールポンプ及び/又はその協働するスクロール壁の範囲の少なくとも一部にチップシールを持たないスクロールポンプである、請求項7に記載の真空システム。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の真空システムに基づく質量分析システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−501886(P2013−501886A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524279(P2012−524279)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050533
【国際公開番号】WO2011/018637
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(507261364)エドワーズ リミテッド (85)
【Fターム(参考)】