説明

真空ダイキャスト給湯装置

【課題】溶湯の射出時に数kPa以下の真空度となる高真空ダイカスト法を,安価に実現できる装置を開発することである。
【解決手段】1ショット分の溶湯を一旦チャンバー内のラドルに保持し、真空排気を行ってからスリーブ内に注湯する真空ダイカスト法において、チャンバー上方にパッキンで真空シールされる蓋とフランジを設け、開閉時にはバネによって浮き上がった蓋がフランジ上を移動し、真空排気時には、蓋が吸引されて真空シールされる構造とした。これにより、この方法の難点とされた真空シール部の摺動の問題が解消された。また、本発明の装置が通常のダイカストマシンに直接付設できるよう、蓋開の状態で、ラドルが上昇して、既存の搬送ロボットから溶湯を受け、そして、チャンバー内に戻って自動的に位置決めされ、真空排気後、軸の締結等を行はずに、傾転注湯される構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコールドチャンバーダイカスト法に係り、特にラドル内に満たした溶湯を減圧下でスリーブ内、さらにはキャビティ内へ導くことのできる真空ダイカストの給湯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に自動車の軽量化と資源リサイクルの要請によって、高強度のアルミニウムおよびマグネシウムの大型、薄肉部品を安価に大量生産することが求められ、その方法として、高真空ダイカスト法が採用されるようになった。この方法では、溶湯の金型への注入時に、スリーブや金型のキャビティ内の真空度を数kPa以下の高真空にする事が求められる。
【0003】
コールドチャンバー方式では、スリーブ内での溶湯の凝固を極力少なくするため、溶湯のスリーブ内での滞留時間をできるだけ少なくしなければならない。したがって、1ショット分の溶湯をスリーブに入れると、直ちに射出を開始するので、上記の高真空を達成するための排気を、何時、どのように行うかが、重要となる。
【0004】
現在実用化されている主な方法は2つあり、その一つは、射出開始後、射出プランジャーの先端部(プランジャーチップ)がスリーブの給湯口を塞いだときから、大規模な真空排気をして、射出が完了するまでの短時間で高真空を達成する方法(MFT法など)である。そしてもう一つは、あらかじめスリーブの給湯口に溶湯管を接続しておいて、真空による溶湯の吸引作用を利用して、給湯と真空排気を同時に開始し、給湯時間だけ真空排気時間を延ばす方法(Vacural法)である[特許文献1]。
【0005】
しかし、上記の方法では、排気の時間は制約され、十分な高真空を得るには操業上の困難が大きい。そこで、出願人は、スリーブに接続した新しいチャンバーを設け、溶湯を一旦このチャンバー内のラドル(溶湯保持ラドル)に保持し、ここで十分な時間真空排気を行った後に、スリーブ内に入れる方法を発明し、2つの実施例を示した。第1の実施例は、ラドルを収めるチャンバーをスリーブ周りに円環状に設けるものであり、第2の例ではチャンバーをスリーブの上に置くものであった[特許文献1]。
【0006】
前記の二つの実施例では、溶湯保持ラドルはチャンバー内に固定されているので、真空排気後、ラドルを傾転して溶湯をスリーブに入れるには、チャンバー自体を傾転する必要があった。つまり、チャンバーには固定部と可動部が設けられ、ラドルを保持する部分はチャンバーの可動部となり、固定部との接合部には長い真空シールのパッキンが必要となった。しかも、このパッキンは、チャンバーの傾転に際して摺動するから、真空排気によって発生する圧力に対抗し、その締め付け圧力を一定の範囲に保つ装置が必要となった。この装置は複雑でかなりの大きさとなるため、高価となるだけでなく、空間的制約から、既存のマシンに導入できない場合も生じ、前期の方法による真空給湯装置の普及の障害となった。
【0007】
また、前記の実施例の装置を、既存のダイカストマシンに付設しようとした場合、溶解炉から溶湯を搬送するロボットの注湯位置が、スリーブの給湯口から、溶湯保持ラドルの口に代わるため、搬送ロボットには、この二つの口に対応する二つの搬送軌跡を持たせる必要があった。このため、前記の実施例の装置の導入に際して、1段階上の新しい搬送ロボットの導入が必要となり、設備上の大きな経済負担となった。そこで、既存の搬送ロボットの搬送軌跡上から、新給湯装置の溶湯保持ラドルに給湯できる装置の開発が求められた。

【特許文献1】特願2002−233412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、1ショット分の溶湯を一旦チャンバー内のラドルに保持し、真空排気を行ってからスリーブ内に注湯する真空ダイカスト法の装置において、チャンバーの摺動と真空シールを同時に行うことの困難を回避すること、および、新しい給湯装置を、溶湯の搬送ロボットを含む、既存のダイカストマシンに適応し易くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、図1に示すごとく、ダイカストマシンの射出スリーブの給湯口に密着したチャンバー本体1を設け、チャンバー蓋2を開けて、ロボットアーム等で運ばれてきた溶湯をチャンバー内に保持された溶湯保持ラドル3に受け、直ちに蓋を閉めて真空排気し、所定真空度に達したら、溶湯保持ラドル3を真空中で傾転して、1ショット分の溶湯をスリーブ内に供給する装置である。
【0010】
チャンバー本体1とチャンバー蓋2は、それぞれ、本体フランジ11と蓋フランジ21を有し、蓋フランジ21の左先端にはキャスター支持箱22が設けられ、その中には、図2に示すように、キャスター23がバネを介して支持箱22を支えている。そして、バネの高さは調整ナットで調節され、フランジ11とフランジ21の間の真空封じのために設けられたパッキンとフランジとの間の隙間を、蓋を閉じた状態で真空排気したとき、蓋を吸引できる寸法に維持する。また、バネの剛性は、蓋の開閉にあたって、フランジとパッキンの接触が起こらない、大きさとした。なお、蓋の大きさや開閉速度が大きくなって、フランジとパッキンの接触を防ぐために、両者を大きく離し、バネにも強い剛性を与える必要があるときは、排気による蓋の確実な吸引が期待できないので、支持箱22の上に油空圧シリンダーまたは電磁石を設置し、蓋を閉じた後、フランジとパッキンの密着を強制的に行う構造にすることもできる。
【0011】
蓋2を、図1の実線で示した閉の状態から、2点鎖線で示した開の状態に移動するには、蓋移動アーム26が、蓋に溶接された蓋移動軸25を持ち上げ、アーム駆動シリンダー28によって、アーム回転支持27の回りに、回転することよって行われる。この場合、蓋移動軸25の溶接位置は、蓋の重心より右に置かれるので、蓋を持ち上げると、前記のキャスターが蓋の左端を支えながら、本体フランジ11またはそこに設けられた軌道上を移動する。
【0012】
前記の蓋の移動に際して、蓋が図1の紙面に対して前後方向に振れを生じる恐れがあるので、キャスター支持箱22の手前側には、フランジ11の縁に沿うように、図2に2点鎖線で示したようなガイドを設けている。なお、別な方法として、本体フランジ11の上に軌道を設け、キャスターの車輪がこの軌道上を移動する構造にすることもできる。
【0013】
蓋閉の状態で、真空排気により、所定の真空度に達したら、図1に点線で示した溶湯保持ラドル3を、ラドル傾転装置4によって、上方に、図1に2点鎖線で示した位置まで傾転させ、溶湯を射出スリーブに注ぐ。このラドル傾転装置4は、図3に示す如く、ラドル傾転軸42を、チャンバー本体1に固定されたラドル傾転軸受け43で受け、ウォームホイール44とウォーム軸45および減速機46を介して、モーター47で駆動する構造となっている。
【0014】
本発明の給湯装置を既存のダイカストマシンに付設しようとした場合、溶解炉から溶湯を搬送するロボットの注湯位置は、本装置を設置しないときの位置(図1における射出スリーブの給湯口)から、溶湯保持ラドル(図1で点線で示した)の口の位置に代わる。このため、搬送ロボットには、新しい給湯口に対応する新しい搬送軌跡を持たせる必要が生じ、このことが、設備費の増大を齎し、本装置導入の一つの障害となった。そこで、図4に示す如く、溶湯保持ラドル3をシリンダー5で押し上げて、既存のロボットの搬送軌跡(図4で1点鎖線の曲線で示した)の上で溶湯を受ける装置を考案した。
【0015】
前記の考案において、保持ラドル3を持ち上げるとき、ラドル3は傾転装置4から分離される必要がある。これを自動的に行うため、ラドルの傾転部には、図4および図5に示すように、下に開いたU字形の保持ラドル軸受32を採用した。また、給湯後保持ラドル3を下降するとき、保持ラドル軸受32が自動的にラドル傾転軸42に嵌め合うように、ラドル押上げ台52には、押上げ位置決め棒53をたて、ラドル腹部に設けた位置決め突起33の穴に、自動的に嵌め合うようにした。
【0016】
一般にラドルを傾転するためには、ラドル傾転軸をラドルに固定する必要があるが、本発明の装置ではこれを行わず、図5に示したラドル傾転腕41でラドル3の腹を押し上げてラドルを傾転する。ラドルが上方に傾転(90度以下)したとき、U字形のラドル軸受け32は下方に滑るので、これを止めるため、ラドルの腹には突起31を設ける。なお、押し上げ腕41は、保持ラドルが上昇下降するときは、傾転装置のモーター47の回転角を制御して、図5に2点鎖線で示した位置に置き、突起31に接触しない状態にする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の真空給湯装置は、現在実用化されている装置に較べて、極めて安価に高真空ダイカストを実現できること、および既存のダイカストマシンにほとんど手を加えずに付設できるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
大形薄物自動車部品等の生産で、射出時に数kPa以下の高真空を必要とするダイカストを、通常のダイカスト用につくられた既存のダイカストマシンを用いて、従来に較べ極めて低いコストで、実現できるようにした。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明装置の1実施例の側面図であって、ラドル容量はアルミニウムで20kg、スリーブ内径 mmの3000tダイカストマシン用に作られたものである。この装置の場合、給湯ロボットの溶湯搬送方向は、スリーブ軸に対して45度傾いているので、給湯装置もこれに平行に設置され、図の左右方向となっている。この装置の高さは mm、左右方向の長さは、蓋を開いた状態で、mmとなっている。
【0020】
実施例1の構造は、図1から図5で示した通りであり、その内容は上の9段落から16段落で説明した通りである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
自動車の軽量化にともなって必要となってきた大形薄物ダイカスト部品の生産において、必須と見られる高真空ダイカスト法を、既存のダイカストマシンに本発明の装置を付設するだけで実現できる。したがって、その設備コストは、他の実用化されている高真空ダイカスト法と較べて、極めて低い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による真空給湯装置の蓋を閉じた側面図である。(実施例1)
【図2】蓋の移動と隙間の調整をするキャスタ-部分の図である。
【図3】本発明による真空給湯装置を上から見た断面図である。
【図4】装置の蓋を開いて溶湯保持ラドルを持ち上げ、溶湯を受ける状態の図である。
【図5】押上げ腕による溶湯保持ラドルの傾転と位置決めを行う機構の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 給湯器真空チャンバー本体
2 給湯器真空チャンバー蓋
3 溶湯保持ラドル
4 傾転装置
5 押上げシリンダー
6 搬送用ラドル
11 本体フランジ
21 蓋フランジ
22 キャスター支持箱
23 キャスター
24 キャスター調整ボルト
25 蓋移動軸
26 蓋移動アーム
27 アーム回転支持具
28 アーム駆動シリンダー
29 シリンダー回転支持具
31 保持ラドル突起
32 保持ラドル軸受
33 保持ラドル位置決め突起
41 ラドル傾転腕
42 ラドル傾転軸
43 ラドル傾転軸受
44 ウォームホイール
45 ウォーム軸
46 減速機
47 モーター
48 冷却管
51 ラドル押上げ軸受け
52 ラドル押上げ台
53 押上げ位置決め棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ショット分の溶湯を一旦チャンバー内のラドルに保持し、真空排気を行ってから スリーブ内に注湯する真空ダイカスト法において、チャンバー上方にパッキンで真空シールされる蓋と蓋の移動を導くフランジまた軌道を設け、そのフランジまた軌道上を移動するキャスターによって蓋を移動し、キャスターに付設された、ばね、電磁石、または油空圧シリンダーによって、蓋とパッキンとの隙間を調節することを特徴とする真空開閉装置。
【請求項2】
請求項1の装置において、ラドルを支持台に載せて上方から降下するのみで、ボルトなどによる締結操作無しで、ラドルを傾転する準備が完了するよう、チャンバー内のラドルの傾転の軸受をU字形に開く構造とすること、そして、チャンバー外から行う軸の回転操作のみで、上記のラドルの傾転ができるよう、軸に固定した腕を設け、この腕でラドルを押し上げるとともに、押し上げられた状態でラドルと腕が自動的に固定されるよう、ラドルの正面腹部に突起を設け、腕の先端にこれを受ける手を設けること。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−26725(P2006−26725A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213539(P2004−213539)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(594002495)