説明

真空バルブ用接点の製造方法

【課題】この発明の真空バルブ用接点の製造方法は、内部のポアが少なく密度の高い真空バルブ用接点を得る。
【解決手段】この発明に係る真空バルブ用接点の製造方法は、圧粉体を成形する圧粉体成形工程と、この圧粉体を焼結して板状のCrスケルトン1を形成するスケルトン形成工程と、このCrスケルトン1を板厚中央部で二分割に切断して切断面を形成する分割切断工程と、前記切断面の中央部にCu板2を載置する載置工程と、Cu板2を加熱して溶融したCuをCrスケルトン1の内部に浸透させる溶浸工程とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に高耐圧性能を要求される真空バルブ用接点の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高耐圧向けの真空バルブ用接点では、高耐圧の性質を有するCrを高導電体のCuに分散させたCu−Cr系や、Crを高導電体のAgに分散させたAg−Cr系の材料がよく用いられている。
その製造方法としてはCr粉末をCu粉末またはAg粉末と混合して焼結する方法や、Cr粉末を主体して構成されるスケルトンを予め焼結しておいてこれにCuまたはAgを溶浸させる方法等が知られている。
高い耐圧性能を得るには接点内部のポアを少なくして接点の密度を高める必要があり、焼結法よりも溶浸法の方が高密度化しやすい傾向にあるため、高耐圧接点の製造法としてよく利用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−114502号公報
【特許文献2】特開平5−101752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の溶浸法によるCu−Cr系の真空バルブ用接点の製造では、Cr粉末を主体として構成されるスケルトンにCuを溶浸させる工程において、内部にCrの酸化膜に対する還元作用として機能する還元性ガスとして例えば水素ガスがある場合の方が、真空中よりも接点内部のポアが多くなる傾向にある。
これは、真空中での溶浸の場合、溶融CuがCrのスケルトンに浸透していく過程で仮にクローズドポアが局所的に形成されたとしても、該ポアの内部が真空であるためにある程度の時間が経れば溶融Cuがその部分に入り込んでポアの内部を塞いでしまう。
これに対して、水素ガス中での溶浸の場合はいったんクローズドポアが形成されると、ポアの内部が水素ガスであるために気圧が障害となって時間が経っても溶融Cuがその中に入り込むことができず、ポアが多く残留してしまうためと考えられる。
【0005】
この問題を解決するため、上記特許文献2に記載の真空バルブ用接点の製造方法では、Crのスケルトンを上下に2つ積み重ねた状態とすることにより、Cu溶浸時の最終凝固部分が積み重ねの境界部に来るようにし、その部分に欠陥を濃縮させてその境界部を切断してその部分を使用しないことで、相対的に接点表面側のポアの濃度を減らす試みがなされている。
図4(a)は、上記特許文献2に記載の真空バルブ用接点の製造方法の一工程を示す図であり、台座7上にCrスケルトン1、Cu板2及びCrスケルトン1が積層され、Cuが溶浸する前の図である。
【0006】
この製造方法によれば、溶浸に供するCuの量が過剰でないことが肝要であり、もしCuが過剰であるとCrスケルトン1の内部を満たすよりも早くスケルトンの外周周囲を濡らす傾向にあり、その結果Crスケルトン1内部にランダムにポアが形成されてしまう問題があると、上記特許文献2の発明者は指摘している(特許文献2の段落0043参照)。
【0007】
しかしながら、これは、溶浸に供するCu板2の外径がCrスケルトン1よりも大きい場合に生じる現象であり、もしCu板2の外径がCrスケルトン1よりも小さい場合には、溶融したCuは毛細管現象の作用で速やかにCrスケルトン1上の設置面から吸収されていくためにこのような問題点は生じない。
むしろ、図4(b)に示すように、Cuの溶浸後では、Crスケルトン1にCuが溶浸された溶浸スケルトン4間の境界部であるCu凝固層5に、Cuが欠乏してしまう引け巣6が発生してしまい、健全な接合状態を得ることができなくなる問題点がある
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、内部のポアが少なく密度の高い真空バルブ用接点を得ることができる真空バルブ用接点の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る真空バルブ用接点の製造方法は、
高耐圧性材料を主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する圧粉体成形工程と、
この圧粉体を焼結して板状のスケルトンを形成するスケルトン形成工程と、
このスケルトンを板厚中央部で二分割に切断して切断面を形成する分割切断工程と、
前記切断面の中央部に高導電材料で構成された溶浸体を載置する載置工程と、
前記溶浸体を加熱して溶融した溶浸体を前記スケルトンの内部に浸透させる溶浸工程と
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明による真空バルブ用接点の製造方法によれば、スケルトンの切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸体を載置し、加熱により溶融した溶浸体を低密度領域からスケルトンの内部に浸透させることで、局所的に溶浸から取り残される領域が発生せず、内部にポアが少ない健全な接点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】溶融したCuがCrスケルトンの内部に浸透する挙動を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1の真空バルブ用接点の製造方法における、Crスケルトンの分割切断工程を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1の真空バルブ用接点の製造方法における、Cu溶浸工程を示す断面図である。
【図4】図4(a)は従来の真空バルブ用接点の製造方法における、Cu溶浸前の工程を示す断面図、図4(b)はCu溶浸後の工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
本願発明者は、Cuの溶浸でポアが残留する原因を明らかにするために溶融Cuの浸透メカニズムを詳細に調べた。
即ち、図1に示すように、Crスケルトン1にCu板2を載せ、水素ガス雰囲気中で加熱してCu板2を溶かし、溶融CuがCrスケルトン1の内部に浸透する挙動を調べた。
そして、Cu板2からの溶融Cuは、上部から矢印Aの方向に浸透していく場合に、最初に上面部の表層に溶融Cuが染みこんだ後、内部中央に浸透するよりも早く、矢印Bで示すように、Crスケルトン1の側面部表層へ浸透し、次いで底面部表層へ先行して回り込む現象のあることがわかった。
この現象により、Crスケルトン1の内部の中央部のポアが閉じ込められ、Crスケルトン1の内部の中央部にクローズドポアの多発領域である低密度領域3が発生し、このことが低密度の接点が製造される原因といえる。
【0013】
なお、Crスケルトン1の内部中央の溶融Cuの溶浸が周囲に比べて遅いのは、Crスケルトン1の内部中央の部位は、周囲と比較して密度が低く、毛細管現象の作用力が相対的に小さくなっているためと考えられる。
このCrスケルトン1の内部中央の部位に低密度領域3が発生するのは、Crスケルトン1の製造過程でCr粉末を圧縮して圧粉体を成形する際、金型に充填された粉末は上下面と側面から加圧力を受けて圧縮されるが、粉末の流動性の具合で加圧力が内部中央まで十分に伝わらない状況が生じたためと考えられる。
【0014】
本願発明者は、こうして溶融Cuの浸透メカニズムを詳細に調べた結果、Crスケルトン1の内部中央の部位に低密度領域3が発生することを見出した。
そして、この点に着目して、次に述べる、この発明の実施の形態1による真空バルブ用接点の製造方法を発明した。
先ず、高耐圧性材料であるCrを主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する。
この圧粉体成形工程の後に、還元性ガスである水素ガス雰囲気中で圧粉体を焼結して板状のCrスケルトン1を形成する。
このスケルトン形成工程の後に、図2に示すように、このCrスケルトン1を板厚中央部に形成された低密度領域3を横断するように二分割に切断して切断面を形成する。
この分割切断工程の後に、高導電材料で構成された溶浸体であるCu板2を低密度領域3に対面するように切断面に載置する。
この載置工程の後に、水素ガスの雰囲気中でCu板2を加熱し、図3に示すようにCu板2を溶かしてCrスケルトン1の内部に浸透させる。
この溶浸工程の後、Crスケルトン1を冷却することでCu-Cr系の接点を得る。
【0015】
この発明の実施の形態1による真空バルブ用接点の製造方法によれば、Crスケルトン1の切断面に低密度領域3を露出させ、この低密度領域3の直上に溶浸用のCu板2を配置しているため、加熱時に溶融したCuが低密度領域3から浸入し、Crスケルトン1の外周部に向かって浸透していく。
このため、図1に示した現象、つまりCrスケルトン1の外周部から優先的に溶融Cuの浸透が進行することがないので、局所にCuの溶浸から取り残される領域が発生しない。このため、内部もポアの少ない健全な接点を得ることができる。
【0016】
以下、この発明の実施の形態1による真空バルブ用接点の製造方法の実施例を具体的に説明する。
実施例1.
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90mmの金型内に充填して100MPaで加圧し、外径90mmの圧粉体を形成した。
圧粉体の板厚は充填量を変えることにより調整し、15〜19mmの厚みの圧粉体を得た。
得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするCrスケルトンを作製した。
得られたCrスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割した。
その後、切断面を上にして外径75mmのCu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かしてCrスケルトン内部に浸透させ、外径90mm×板厚7〜9mmの60wt%Cu−40wt%Crの溶浸サンプルを得た。
【0017】
また、比較のため、Crスケルトンを分割せずにそのままの状態で上部に外径75mmの溶浸用Cu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に溶融Cuを浸透させ、外径90mm×板厚15〜19mmの60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。
【0018】
なお、サンプルは板厚の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。
内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。
また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径80×板厚5.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。
また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚5.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0019】
表1に評価結果を示す。
表1の実施例1−(1〜3)に示すようにこの発明のCrスケルトンを分割してCuを溶浸した接点では、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られた。
一方、比較例1−(1〜3)に見られるように、Crスケルトンを分割せずにCuを溶浸させた接点では、内部に存在するポアの総面積が大きく、99%以上の高い密度が得られなかった。
【0020】
耐圧性能については、表1の破壊電圧の飽和値に示すように、実施例1−(1〜3)で150〜153kV程度の値を示し、他の比較例に比べて非常に高い値であった。
【0021】
以上からこの実施例1では、Crスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割し、切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸用のCu板を配置しているため、溶浸時に溶融したCuが低密度領域から浸入し、外側に浸透していく。
このため、従来のように外周部から優先的に溶融Cuが浸透することがないので局所的に溶浸から取り残される領域が発生しない。
従って、内部にポアの少ない健全な接点を得ることができ、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2.
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径75mmの金型内に充填して所定の圧力で加圧し、外径75mm×板厚15mmの圧粉体を形成した。圧粉体の内部の気孔率を、加圧力を80〜250MPaの範囲で変えることにより調整し、種々の気孔率を有する圧粉体を得た。
得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って種々の気孔率を有するCrを主体とするCrスケルトンを作製した。
得られたCrスケルトンを板厚中央部から水平に切断して7mm厚に分割した。
その後、切断面を上にして外径70mmの溶浸用Cu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かしてCrスケルトン内部に浸透させ、Cr量が異なる種々の組成のCu−Cr溶浸サンプルを得た。
【0024】
また、比較のため、加圧力を60MPaで圧粉体を成形し、その後は上記と同様の工程を経て70wt%Cu−30wt%Crの溶浸サンプルを得た。
【0025】
なお、サンプルは組成の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。
内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。
また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径70mm×板厚5.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。
また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚5.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0026】
表2に評価結果を示す。
表2の実施例2−(1〜7)に示すようにサンプルのCr組成が35〜65wt%では、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られた。
一方、比較例2−1に見られるように、Cr組成が30wt%になると、急激に内部に存在するポアの総面積が大きくなり、99%以上の高い密度が得られなくなった。
耐圧性能については、表2の破壊電圧の飽和値に示すように、実施例2−(1〜7)で147〜161kV程度の値を示し、比較例2−1に比べて非常に高いことがわかった。
【0027】
以上から、この実施例2では、Crスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割し、切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸用のCu板を配置しているため、溶浸時に溶融Cuが低密度領域から浸入し、外側に浸透していく。
このため、従来のように外周部から優先的に溶融Cuが浸透することがないので局所的に溶浸から取り残される領域が発生しない。
従って、Cr組成が35〜65wt%の範囲においても内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
なお、Cr組成が30wt%の場合にポアが多くなって密度が低下するのは、Cr組成が低すぎるのでCrのスケルトン構造の維持が困難になり、内部に局所的に構造が不均一になる部分が発生し、溶融Cuの溶浸性が不均一になるためと考えられる。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例3.
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、種々の内径を有する金型内に充填して100MPaで加圧し、外径30〜105mm×板厚15mmの圧粉体を形成した。
得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするCrスケルトンを作製した。
得られたCrスケルトンを板厚中央部から水平に切断して7mm厚に分割した。
その後、切断面を上にして溶浸用Cu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に溶融Cuを浸透させ、外径が異なる板厚7mmの60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。
なお、Cu板は該スケルトンのサイズに応じて外径を変えて使用し、具体的には該スケルトンの外径に応じてそれよりも5〜15mm小さい外径のものを用いた。
また、サンプルは外径の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。
内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。
また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径25mm×板厚5.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。
また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚5.5mmの円板を切り出しての真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0030】
表3に評価結果を示す。
表3の実施例3−(1〜6)に示すようにいずれの外径のサンプルにおいても、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られることがわかった。
耐圧性能については、表3の破壊電圧の飽和値に示すように、147〜154kV程度の高い値を示した。
【0031】
以上から、この実施例3では、Crスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割し、切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸用のCu板を配置しているため、溶浸時に溶融したCuが低密度領域から浸入し、外側に浸透していく。
このため、従来のように外周部から優先的に溶融Cuが浸透することがないので局所的に溶浸から取り残される領域が発生しない。
従って、接点の外径が30〜105mmの範囲においても内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例4.
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して100MPaで加圧し、外径90mm×板厚17mmの圧粉体を形成した。
また、Cr粉末を目空き径75μmと45μmのふるいに通して、45μm以上75μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して90MPaで加圧し、外径90mm×板厚17mmの圧粉体を形成した。
また、Cr粉末を目空き径125μmと75μmのふるいに通して、75μm以上125μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径90の金型内に充填して80MPaで加圧し、外径90mm×板厚17mmの圧粉体を形成した。
得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。
得られたCrスケルトンを板厚中央部から水平に切断して8mm厚に分割した。
その後、切断面を上にして溶浸用Cu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に溶浸させ、Cr粉末粒径の異なる60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。
なお、サンプルはCr粉末粒径の種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。
内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。
また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径80mm×板厚5.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。
また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚5.5mmの円板を切り出して真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。なお、破壊電圧の計測の前にAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0034】
表4に評価結果を示す。表4の実施例4−(1〜3)に示すようにいずれのサンプルにおいても、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られることがわかった。耐圧性能については、表4の破壊電圧の飽和値に示すように、151〜155kV程度の高い値を示した。
【0035】
以上からこの実施例4では、Crスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割し、切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸用のCu板を配置しているため、溶浸時に溶融したCuが低密度領域から浸入し、外側に溶浸していく。
このため、従来のように外周部から優先的に溶融Cuが浸透することがないので局所的に溶浸から取り残される領域が発生しない。
従って、Crの粉末粒径が、ふるい分級による20μm以上45μm以下の場合、45μm以上75μm以下の場合、75μm以上125μm以下の場合、のいずれについても、内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0036】
【表4】

【0037】
実施例5.
【0038】
Cr粉末を目空き径45μmと20μmのふるいに通して、20μm以上45μm以下の粒径とし、これにつなぎ材として数μmの粒径のCu粉末を少量添加して撹拌混合した後、内径100mmの金型内に充填して100MPaで加圧し、外径100mm×板厚17mmの圧粉体を形成した。得られた圧粉体を水素ガス雰囲気中、1100℃で2時間の焼結を行って所定の気孔率を有するCrを主体とするスケルトンを作製した。
得られたCrスケルトンを板厚中央部から水平に切断して8mm厚に分割した。
その後、切断面を上にして溶浸用Cu板を乗せ、水素ガス雰囲気中、1150℃で1時間の加熱を行い、該Cu板を溶かして該スケルトン内部に溶浸させた。このとき、溶浸用Cu板の外径サイズを変えることで溶融CuのCrスケルトンへの浸入面積を変え、溶浸過程の異なる板厚8mmの60wt%Cu−40wt%Cr溶浸サンプルを得た。
サンプルは種類ごとに、内部組織(ポアの状態)観察用、密度測定用、耐圧性能評価用(破壊電圧測定用)の3個をそれぞれ作製した。
内部組織の観察では、サンプルを直径方向に切断して光学顕微鏡により観察を行い、撮影した写真から断面中央部2mm×2mmの領域に見られるポアの総面積を計測した。
また、密度測定では、板厚方向の中央部から外径90mm×板厚5.5mmの円板を切り出してアルキメデス法を用いて密度を評価し、真密度と比較して密度比を求めた。
また、耐圧性能試験では、板厚方向の中央部から外径20mm×板厚5.5mmの円板を切り出しての真空バルブに組み付けて接点間距離2mmの条件でインパルス電圧を徐々に上げながら破壊電圧を計測し、電圧印加回数の増加に伴う破壊電圧の増大プロファイルを計測してその飽和値から耐圧性能を評価した。
なお、破壊電圧の計測の前にはAC100kVの電圧コンディショニングを行った。
【0039】
表5に評価結果を示す。
表5の実施例5−(1〜4)示すように溶浸用Cu板の外径が50〜100mmの範囲では、内部のポアの総面積が小さく、密度比99%以上の高値が得られることがわかった。
圧性能については、表5の破壊電圧の飽和値に示すように、150〜154kV程度の高い値を示した。
一方、溶浸用Cu板の外径が40mmの場合は接点内部に溶浸むらが発生し、比較例5−1に示すように接点全体の密度が低くなってしまった。
また、溶浸用Cu板の外径が接点の外径よりも大きくなると、比較例5−2に示すように接点外周部への溶融Cuのはみ出しが生じ、アルミナ台座と接点が溶着する不具合が発生した。
【0040】
以上からこの実施例5では、Crスケルトンを板厚中央部から水平に切断して分割し、切断面に露出した低密度領域の直上に溶浸用のCu板を配置しているため、溶浸時に溶融したCuが低密度領域から浸入し、外側に浸透していく。
このため、従来のように外周部から優先的に溶融Cuが浸透することがないので局所的に溶浸から取り残される領域が発生しない。
従って、溶浸用Cu板の外径が50〜100mmの範囲(溶浸用Cu板外径/接点外径=0.5〜1.0の範囲)において、内部にポアのほとんどない高密度のCu−Cr接点を得ることができ、この結果、真空バルブでは高い耐圧性能を得ることができる。
【0041】
【表5】

【0042】
なお、上記の実施の形態、実施例では、スケルトンとして高耐圧性材料であるCrを用いたCrスケルトン1を使用し、また溶浸体として高導電材料であるCu板2を使用したが、勿論このものに限定されない。Crの代わりに例えばW、Moを用い、またCuの代わりに例えばAgであってもよい。
また、還元性ガスとして水素ガスを用いたが、例えばアンモニアガスでもよい。
また、この発明は、還元性ガスがない真空下で、スケルトンを形成し、またスケルトン内部に溶けた溶浸体を浸透させる真空バルブ用接点の製造方法にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 Crスケルトン(スケルトン)、2 Cu板(溶浸体)、3 低密度領域、4 溶浸スケルトン、5 Cu凝固層、6 引け巣、7 台座。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高耐圧性材料を主体とする粉末を金型で加圧して圧粉体を成形する圧粉体成形工程と、
この圧粉体を焼結して板状のスケルトンを形成するスケルトン形成工程と、
このスケルトンを板厚中央部で二分割に切断して切断面を形成する分割切断工程と、
前記切断面の中央部に高導電材料で構成された溶浸体を載置する載置工程と、
前記溶浸体を加熱して溶融した溶浸体を前記スケルトンの内部に浸透させる溶浸工程と
を備えたことを特徴とする真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項2】
前記圧粉体は、還元性ガスの雰囲気中で焼結されることを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項3】
前記還元性ガスは、水素ガスであることを特徴とする請求項2に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項4】
前記高耐圧性材料はCrであり、前記高導電材料はCuであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項5】
前記圧粉体は、成形圧が80〜250MPaであり、前記Crは、組成が35〜65wt%、前記Cuは、組成が65〜35wt%であることを特徴とする請求項4に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項6】
前記スケルトンは、外径が30〜105mmであり、前記溶浸体は、外径がスケルトンの外径よりも5〜15mm小さいことを特徴とする請求項4または5に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項7】
前記圧粉体は、粉末粒径が20〜125μmであることを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項8】
前記溶浸体の外径R1と前記スケルトンの外径R2との比である(R1/R2)は、0.5〜1.0であることを特徴とする請求項4〜7の何れか1項に記載の真空バルブ用接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−12328(P2013−12328A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143055(P2011−143055)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】