説明

真空ポンプ

【課題】装置への低周波振動の伝送を回避する、及び/又は、ポンプ要素とハウジングとの間の相対運動を低減することにより運用寿命が延びる真空ポンプを提供する。
【解決手段】真空ポンプ(10)には、ポンプハウジング(24)の外側面(22)に保持要素(36,38) が設けられている。保持要素(36,38) は、少なくとも1つの質量要素を支持するために設けられている。好ましくは真空ポンプ(10)の長手軸(34)に対して非対称的に配置された質量要素により、生じる振動が抑制され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、特にはターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプは、例えば、サンプルを光学的又は電子的に検査するための装置のチャンバに真空を生じさせるために用いられる。このような装置は、例えば、質量分析計、電子顕微鏡、被覆処理のための装置等であり得る。このような装置は、例えば1乃至2nmの非常に高い分解能を有することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−523210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空ポンプは振動を前記装置に伝える場合があり、そのため、計測結果にエラーが発生する。更に共鳴が生じる場合があり、共鳴により、例えば、ノイズが生成されたり、又は構造的な損害が引き起こされたりする場合がある。このような振動は、例えば、回転するポンプ要素の不均衡に起因する場合がある。非常に正確に平衡が保たれているポンプ要素であっても、望まれていない振動が装置に依然として伝えられるという危険性が常に存在する。更に、ポンプの振動及び動きが、接続要素又は付属物と非対称的に接続されたポンプによって引き起こされる場合もある。前記接続要素又は付属物としては、ポンプに接続された電子制御要素、プレ真空ポンプのような接続された他のポンプ、又は、ターボ分子ポンプのための、直径が約1cm以上であり、従ってかなり重い電線があり得る。非対称の付属物又は接続要素は、長手軸に略垂直な方向へのポンプの傾き又は揺れを引き起こす場合がある。このような揺れ又は傾き運動には、装置への振動の伝送とは無関係に、高速に回転するロータとハウジングとの間に相対運動が生じるという更なる不利点がある。このために、機械的に支持されたポンプでは、高負荷が軸受に加えられる。また、電磁気的に支持されたポンプでは、磁気軸受の電子部品に負荷が加えられる。ロータのようなポンプ要素にこのようにして作用する力及びモーメントは、常時ポンプ要素に損傷を与える場合がある。そのために、軸受及び/又はポンプ要素の運用寿命が短くなる。
【0005】
真空ポンプから装置に伝えられる振動を減衰するために、真空ポンプと装置との間に機械的な減衰要素を設けることが知られている。しかしながら、これは、伝えられる振動を減少させるだけである。そのために、特には、低周波振動の伝送、具体的には200 Hzまでの振動の伝送が、ある程度だけ弱められ得る。更に、このような減衰要素は、真空ポンプの設置条件に適合させることが困難である。更に、振動を能動的に減衰することが知られている。このために、位相をずらした振動が、振動が互いに相殺するように振動発生器によって真空ポンプ内に導入される。このような構成要素は高価で、低周波振動を抑制することができない。
【0006】
本発明は、装置への臨界振動、特には低周波振動の伝送が回避される、及び/又は、ポンプ要素とハウジングとの間の相対運動を低減することにより真空ポンプの運用寿命が延びる真空ポンプ、特にはターボ分子ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
好ましくはターボ分子ポンプである本発明の真空ポンプは、ポンプハウジングによって形成された吸込室を備えている。少なくとも1つのポンプ要素が、吸込室に配置されており、前記ポンプ要素は具体的にはターボ分子ポンプのロータである。例えば、ポンプ要素に残存する不均衡により、及び/又はポンプハウジングと非対称的に接続される構成要素により引き起こされる場合がある振動を低減するために、本発明では、少なくとも1つの保持要素がポンプハウジングと接続されている。保持要素は、少なくとも1つの質量要素を支持すべく機能する。ポンプハウジングと共に移動する少なくとも1つの、好ましくは複数の質量要素を設けることにより、質量要素の配置及び/又は重量に応じて、臨界振動を抑えるか又は臨界振動の発生を回避することが可能になる。特には、このために、具体的には200 Hzまでの低周波域における臨界振動を抑制することが可能になる。
【0008】
複数の異なる質量要素が、夫々の異なる位置で真空ポンプと接続され得ることが好ましい。このために、真空ポンプの適合が可能になる。従って、適用例に応じて、用いられる接続部及び付属物を考慮して夫々の適用分野又は夫々の装置に真空ポンプを適合させることが簡易な方法で可能になる。本発明によれば、これは、質量要素を対応して配置することにより、及び/又は交換することにより簡易な方法で達成される。従って、真空ポンプ、又は真空ポンプが接続されている装置の適用に応じた複雑且つ高価な特殊な構造が、本発明により省かれ得る。言い換えると、同一のポンプが、様々な適用のために用いられることが可能であり、夫々の所与の適用に容易に適合され得る。
【0009】
保持要素は、複数の、特には異なる質量要素を収容するための複数の凹部又は区画室を有していることが好ましい。質量要素は、例えば前記凹部又は区画室に挿入されてもよい。質量要素が凹部又は区画室に好ましくは着脱可能に保持されているので、質量要素は簡易な方法で取り替えられ得る。質量要素は、例えば、質量要素と凹部若しくは区画室との間に生じる摩擦によって、又は固定要素を設けることによっても保持されている。従って、真空ポンプは、夫々の適用に容易に適合され得る。生じる振動を測定することが可能であり、質量要素を交換することにより、及び/又は他の凹部又は区画室に配置することにより振動を変更することが可能である。
【0010】
凹部又は区画室は、異なる質量要素を複数の位置に非対称的に配置することが可能であるように、真空ポンプの長手軸に対して、ターボ分子ポンプではロータの回転軸に対して配置されている。
【0011】
用いられる質量要素の重量が異なることが好ましい。重量は、サイズ及び/又は材料が異なる質量要素を用いることにより変更され得る。
【0012】
質量要素は例えば棒状であり、従って、凹部又は区画室に容易に挿入される。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態では、塊状体を用いて質量要素を設けることが更に可能である。例えば球状の塊状体であってもよい対応する塊状体が、異なる区画室に設けられてもよい。ある位置に設けられる質量要素の非常に細かい調整が、例えば材料及び/又はサイズが異なる球体を含む塊状体を用いることにより達成され得る。
【0014】
同様に、質量要素として、特には粘性が異なる液体を用いることが可能である。液体が更に区画室に備えられてもよい。
【0015】
区画室内の塊状体又は液体の移動は、夫々の区画室が液体又は塊状体で常に完全に満たされるように、区画室のサイズを可変とすることにより回避され得る。このために、区画室の側壁及び/又は蓋が、例えば摺動自在であってもよい。
【0016】
更なる好ましい実施形態では、少なくとも1つの保持要素は、棒状であり、円盤状の、特には円筒状の質量要素を支持すべく機能する。このような質量要素は保持要素に配置されることが可能であり、ナット等を用いて固定され得る。これに関連して、保持要素に質量要素として非対称の円盤を配置することも可能である。
【0017】
言うまでもなく、上述された実施形態は、任意に互いに組み合わせられ得る。
【0018】
好ましくは複数の凹部、区画室及び/又はピン状の突出部を有する保持要素は、ポンプハウジングの前端面に好ましくは配置されている。特には、ポンプハウジングの前端面は、真空ポンプの長手軸に垂直に延びた面である。保持要素が前端面と同一の寸法を有しており、従って前端面全体に亘って延びていることが好ましい。
【0019】
別の好ましい実施形態では、保持要素は真空ポンプを少なくとも部分的に囲んでいる。保持要素は環状であり、特には長手軸に対して対称的であることが好ましい。このような保持要素を用いることにより、真空ポンプの周りに質量要素を配置することが可能になり、必要に応じて長手軸から異なる距離に配置することも可能になる。このような保持要素により、真空ポンプの長手軸から異なる距離に且つ異なる位置に質量要素を配置することが可能になる。このために、保持要素の好ましい実施形態では、長手軸と平行に又は長手軸に対して角度を付けて延びる複数の凹部又は区画室が設けられている。
【0020】
言うまでもなく、異なるように設計された複数の保持要素を1つの真空ポンプに接続することも可能である。
【0021】
同様に、少なくとも1つの質量要素を真空ポンプの長手軸に対称的に配置するために保持要素を用いることが可能である。ここで、保持要素に対する質量要素の相対的位置が変更され得るように、少なくとも1つの質量要素が、特には棒状の保持要素に配置されてもよい。例えば、これは、保持要素が突出する孔を質量要素に非対称的に設けることにより可能である。特には、質量要素は平行六面体であってもよく、質量要素と保持要素とは、好ましくは、平行六面体の重心から所定の距離を置いて接続されている。そのために、保持要素の周りで質量要素を単に回転させることにより、振動が質量要素によって抑制されるという設定が可能になる。このために、特には100 Hzまでの低周波域で生じる臨界振動を抑制することが可能になる。
【0022】
言うまでもなく、個々の質量要素間に振動ダンパのような追加の要素を配置することが可能である。更に、ポンプハウジング又はポンプハウジングの長手軸への個々の質量要素の距離を変えるためにスペーサ要素を設けることが可能である。
【0023】
当業者が本発明を実施することを可能にする最適なモードを含む本発明の十分且つ可能な開示が、添付図面を参照して以下に更に詳細に述べられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】装置に配置された真空ポンプを簡略化して示す図である。
【図2】環状の保持要素を詳細に示す略側面図である。
【図3】真空ポンプの前端面に配置された保持要素を詳細に示す略平面図である。
【図4】2つの質量要素を示す概略図である。
【図5】保持要素と質量要素との更なる実施形態を示す略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ターボ分子ポンプのような真空ポンプ10は、例えばフランジ12を介して装置のハウジング14に配置されており、媒体、特にはガスが矢印16によって示されているように装置のチャンバから真空ポンプ10によって取り出され得る。真空ポンプ10は出口18を有しており、出口18から、取り出された媒体が矢印20の方向に排出される。出口18は、例えば、プレ真空ポンプに接続されてもよい。真空ポンプ10のポンプハウジング24のシェル面のような外側面22、制御手段26又はケーブル28が出口18に接続されてもよい。
【0026】
ターボ分子ポンプのポンプハウジング24内には、ロータの形態のポンプ要素30が、ポンプハウジング24によって画定された吸込室32内に配置されている。ロータ30は長手軸34周りを高速で回転する。
【0027】
複雑で正確な平衡法にも関わらず残存しているロータ30の不均衡により、及び/又は、長手軸34に対してポンプハウジング24に非対称的に固定された要素により、振動が真空ポンプ全体で生じる。一方では、このような振動は装置14に伝えられ、他方では、ロータ30とポンプハウジング24との間に相対運動を引き起こす場合がある。
【0028】
特には200 Hzまでの低周波域のこのような振動を抑制するために、本発明では、ポンプハウジング24に第1及び第2の保持要素36,38 が接続されている。図示された実施形態では、第1の保持要素36は、ポンプハウジング24の前端面25全体に亘って接続されており、それにより、前端面25全体が第1の保持要素36によって覆われている。図示された実施形態では、第2の保持要素38は、環状であり、ポンプハウジング24を囲んでいる。
【0029】
詳細に図示された図2から分かるように、環状の第2の保持要素38は、複数の凹部40,42 及び区画室44を有している。重量が異なる棒状の質量要素が、図示された実施形態では筒状の凹部40,42 及び区画室44に挿入され得る。質量要素は、例えば摩擦により凹部40,42 及び区画室44に固定される。言うまでもなく凹部40,42 は、夫々異なる断面を有してもよく、互いにサイズが異なってもよい。凹部40は長手軸34に対して径方向に略延びている。同様に凹部42は、長手軸34と平行に延びてもよい。
【0030】
本発明の様々な実施形態を明瞭化するために、図2には、区画室44が示されている。様々な液体及び/又は塊状体が、区画室44内の質量要素として設けられ得る。
【0031】
対応して、図3に図示された第1の保持要素36は、凹部40,42 及び区画室44を備えている。
【0032】
図4は、挿入により凹部40,42 に配置され得る2つの質量要素41,43 を概略的に示している。図2及び3には、球状の塊状体45が、区画室44内の質量要素として図示されている。
【0033】
図5に図示された別の実施形態では、棒状の保持要素46がポンプハウジング24と接続されている。棒状の保持要素46は、前端面25とポンプハウジング24の外側面22との両方に接続されてもよい。円盤状の質量要素48が、棒状の保持要素46に配置され得る。円盤状の質量要素48の重量は異なってもよい。これは、異なる材料、異なるサイズ又は異なる体積を用いることにより可能である。更に、質量要素48は非対称であってもよい。
【0034】
本発明は、その例証された特定の実施形態に関して述べられ図示されているが、本発明がこのような例証された実施形態に制限されることを意図していない。当業者は、以下の請求項によって定義されている本発明の本質的な範囲から逸脱せずに、様々な変更及び調整がなされ得ることを認識する。従って、添付されている請求項及びその均等物の範囲内に含まれるように、このような変更及び調整を全て本発明の範囲内に含むことを意図している。
【0035】
本発明は、2010年5月21日付で出願された独国特許出願第102010021241.5号明細書の優先権を主張しており、その開示内容が、参照してここに組み込まれる。
【符号の説明】
【0036】
10 真空ポンプ
24 ポンプハウジング
25 前端面
30 ポンプ要素
32 吸込室
34 長手軸
36,38,46 保持要素
40,42 凹部
41,43,45,48 質量要素
44 区画室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ、特にはターボ分子ポンプにおいて、
吸込室を画定するポンプハウジングと、
前記吸込室に配置された少なくとも1つのポンプ要素と
を備えており、
少なくとも1つの保持要素が、少なくとも1つの質量要素を支持するために設けられており、前記ポンプハウジングに接続されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記保持要素は、少なくとも1つの質量要素を収容するための複数の凹部及び/又は区画室を有していることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記凹部及び/又は区画室は、前記真空ポンプの長手軸に対して非対称的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記質量要素の重量は夫々異なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
複数の、特には異なる前記質量要素は、前記凹部及び/又は区画室に配置され得ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記質量要素は棒状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記質量要素は、塊状体として、特には球状の塊状体として前記区画室に配置され得ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項8】
液体が、特には粘性が異なる液体が前記質量要素として備えられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記少なくとも1つの保持要素は、円盤状の前記質量要素を支持するために棒状であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記質量要素は、凹部及び/又は区画室及び/又は棒状の保持要素に着脱可能に配置されている及び/又は接続されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記少なくとも1つの保持要素は、前記ポンプハウジングの前端面に配置されており、好ましくは該前端面全体に亘って延びていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記1つの保持要素は、少なくとも部分的に前記真空ポンプを囲んでおり、特には環状であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の真空ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−247251(P2011−247251A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104699(P2011−104699)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(508206070)オーリコン レイボルド バキューム ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】