説明

真空ポンプ

【課題】構造が複雑になるのを抑えつつ制震性能の向上を図ることができる真空ポンプの提供。
【解決手段】本発明は、排気機能部が形成されたロータをボールベアリング8と永久磁石式磁気軸受とで支持し、ロータをモータにより高速回転させて真空排気する真空ポンプに適用される。そして、ボールベアリング8の外輪81を軸方向から挟持し、該外輪81を径方向に移動可能に保持する保持機構42,44,45と、外輪81の外周側に設けられた弾性部材46と、を備えている。弾性部材46は外輪81の外周に接触または近接するように設けられ、近接して設けた場合には、弾性部材46と外輪81との隙間47にオイルやグリスが注入される。弾性部材46に外輪81が当接して変形することにより振動が抑制され、さらに隙間47にオイルやグリスが注入することで制震効果の更なる向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石およびボールベアリングを軸受に用いた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプの軸受機構には、ボールベアリングのみを使用する構造、ボールベアリングと永久磁石とを用いる構造、電磁石のみを用いた磁気軸受構造などがある。ボールベアリングと永久磁石とを用いる構造のターボ分子ポンプとして、特許文献1に記載のような構成が知られている。
【0003】
一般的に、ターボ分子ポンプの回転周波数は、回転体の共振周波数(2次の危険速度)よりも高い周波数であるため、ポンプ起動および停止時には、この共振周波数(危険速度)を通過させる必要がある。共振周波数を通過する際には回転体が振動するが、電磁石を用いる軸受の場合にはアクティブに回転軸の振動を制御できる。しかし、永久磁石、ボールベアリングを用いる構成の場合にはアクティブに振動を制御することができない。そのため、特許文献1に記載の技術では、ボールベアリングが設けられている部分に振動を減衰させるためのダンパを設置するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表特許2006−001243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、永久磁石とボールベアリングとを用いて回転体を支持する構成のターボ分子ポンプの場合には、危険速度を通過する際に永久磁石の部分での回転体の振れ回りが大きい。そのため、特許文献1に記載のような、ベアリング外周の軸方向中央部分をOリングで支持する構成を採用した場合、回転軸が容易に傾きやすく制震効果が損なわれやすい。また、特許文献1に記載のダンパ機構では、ボールベアリングの外側に二重構造のスリーブを設け、Oリングを介して設けられた2つのスリーブの間にゲルを配置する構造が採用されており、構造が複雑で部品点数が多くなるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の本発明は、排気機能部が形成されたロータをボールベアリングと永久磁石式磁気軸受とで支持し、ロータをモータにより高速回転させて真空排気する真空ポンプにおいて、ボールベアリングの外輪を軸方向から挟持し、該外輪を径方向に移動可能に保持する保持機構と、ポンプベースに形成され、保持機構が収納されるハウジングと、ハウジング内において、外輪の外周側に接触または近接して設けられた弾性部材と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の本発明は、請求項1に記載の真空ポンプにおいて、弾性部材は、隙間を介して外輪の外周を囲むように設けられたリング状の弾性部材であって、少なくとも隙間にオイルまたはグリスが注入されていることを特徴とする。
請求項3の本発明は、請求項2に記載の真空ポンプにおいて、弾性部材の外周とハウジングとの間に形成された外周側隙間と、外周側隙間に注入されたオイルまたはグリスと、を備えたことを特徴とする。
請求項4の本発明は、請求項1に記載の真空ポンプにおいて、弾性部材は、外輪の外周面軸方向中央に接触するように設けられ、該外輪の外周面とハウジングとの間に隙間が形成されるように配置されたリング状の弾性部材であって、少なくとも隙間にオイルまたはグリスが注入されていることを特徴とする。
請求項5の本発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、弾性部材を金属で形成したことを特徴とする。
請求項6の本発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、保持機構は、外輪の軸方向両端に配設される一対の押さえ板と、一対の押さえ板の各々とハウジングとの間に配設された弾性的支持部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、永久磁石式磁気軸受とボールベアリングとによりロータを支持する真空ポンプにおいて、構造が複雑になるのを抑えつつ制震性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ターボ分子ポンプの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】ボールベアリング8の部分の拡大図である。
【図3】第1の変形例を示す図である。
【図4】第2の変形例を示す図である。
【図5】第3の変形例を示す図である。
【図6】第4の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明に係る真空ポンプの一実施形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの断面図である。ロータ3には排気機能部として回転翼30と円筒部31とが形成されている。回転翼30に対応しては、固定翼20が設けられている。なお、円筒部31に対応して固定筒が固定側排気機能部として設けられているが、図1では図示を省略した。
【0010】
ロータ3はシャフト1に締結されており、そのシャフト1はモータ4により回転駆動される。シャフト1が締結されたロータ3は、永久磁石6,7を用いた磁気軸受とボールベアリング8とにより回転自在に支持されている。ボールベアリング8には、例えば、アンギュラコンタクト玉軸受が用いられる。円筒状の永久磁石6はロータ3に固定されている。一方、固定側の永久磁石7は磁石ホルダ11に保持され、永久磁石6の内周側に対向配置されている。
【0011】
磁石ホルダ11は、ポンプケーシング10のフランジ部分に固定されている。図1に示す例では、磁石ホルダ11の梁部分と固定翼20の位置決めを行うスペーサリング5とが、ポンプケーシング10のフランジ部とベース2との間に挟持されるように保持されている。磁石ホルダ11の中央には、ボールベアリング9を保持するベアリングホルダ13が固定されている。
【0012】
ボールベアリング9はシャフト上部のラジアル方向の振れを制限するために設けられているものであり、ボールベアリング9の内輪とシャフト1との間には隙間が形成されている。この隙間の寸法は、永久磁石6,7間の隙間寸法より小さく設定されている。これにより、危険速度通過時にロータ3が振れ回った際に、永久磁石6,7同士が接触するのを防止している。
【0013】
図2は、シャフト1の下部に設けられているボールベアリング8の部分の拡大図である。ボールベアリング8はシャフト1の下端に形成された軸部に装着されており、ナット40によって内輪80が固定されている。一方、ボールベアリング8の外輪81は、ベース2に形成された凹部22(以下では、ハウジング22と呼ぶことにする)内に固定されている。
【0014】
ハウジング22において、外輪81は一対の押さえ板44,45によって軸方向に挟持されており、ハウジング22と押さえ板45との間、および、ハウジング蓋21と押さえ板44との間には、弾性支持部材42がそれぞれ配設されている。ハウジング蓋21はボルト等によりベース2に固定されている。弾性支持部材42にはバネのような弾性的な金属部材やゴム等が用いられる。また、形状に関してはリング状の弾性支持部材42を用いても良いし、間隔を空けて複数の弾性支持部材42をリング状に配設しても良い。
【0015】
このように、外輪81は保持機構(押さえ板44,45、弾性支持部材42)によってハウジング22に弾性的に支持されており、ボールベアリング8の径方向の振動が可能な構造となっている。例えば、弾性支持部材42のゴムを用いた場合、弾性支持部材42を軸方向に関して扁平形状とすることで、ボールベアリング8の傾きを防止しつつ、径方向の摺動が可能となる。
【0016】
ハウジング22内には、外輪81の外周面に接触するようにリング状の弾性部材41が設けられている。押さえ板44,45で挟持された外輪81は、弾性部材41、弾性支持部材42によって弾性的に支持されているため、回転体が危険速度を通過する際に径方向に振動することになる。その際、振動のエネルギーの一部が弾性部材41および弾性支持部材42の変形に消費されることにより、振動が抑制される。
【0017】
また、ベース2に形成されたハウジング22内に、制震部材である弾性部材41、弾性支持部材42を直接収納する構成としているため、部品点数の増加を抑えることができる。さらに、弾性支持部材42および押さえ板44,45によって外輪81の軸方向の支持を行っているので、上述した従来の構成に比べて軸が傾き難い。
【0018】
なお、上述した例では弾性部材41、弾性支持部材42の形状をリング状としたが、ボールベアリング8の軸を中心とした円周上に複数の弾性部材を配置しても構わない。弾性支持部材42は例えばゴム系の材料が用いられ、例えば、シール部材として用いられるOリングを使用しても良い。例えば、Oリングを使用した場合、その硬度は回転体の重量や振動の状況に応じて適宜選択される。
【0019】
[第1変形例]
図3は、上述した実施形態の第1の変形例を示す図である。なお、図2に示した構成要素と同一部分には同一の符号を付し、以下では異なる部分を中心に説明する。上述した実施の形態では、図2に示したように、弾性部材41はベアリング8の外輪81に常時接触するように構成されている。一方、図3に示す第1変形例では、弾性部材46と外輪81との間に僅かな隙間47が形成されており、その隙間47にはオイルフィルムダンパとして機能するオイルが注入されている。この場合、オイルは少なくとも隙間47に注入されていることが必要であるが、弾性部材46の上部の隙間にもオイルが注入されていても構わない。
【0020】
危険速度通過時にシャフト1が径方向に振動すると、隙間47に注入されているオイルがダンパとして作用するため、制震効果の向上を図ることができる。隙間47の寸法は0.1〜0.2mm程度であり、危険速度通過時のように振動が大きい場合には外輪81と弾性部材46とが接触して弾性部材46が変形するため、弾性部材46もダンパとして機能する。
【0021】
[第2変形例]
図4は、上述した実施形態の第2の変形例を示す図である。図3に示した変形例1では、弾性部材46と外輪との間に隙間47を形成したが、図4に示す変形例では、弾性部材49の内径を外輪81との間に隙間47が形成されるような寸法とすると共に、弾性部材49とハウジング22との間にも隙間48が形成されるように弾性部材49の外径寸法を設定している。各隙間にはオイルが注入されている。
【0022】
弾性部材49の内外周の隙間寸法は変形例1の場合と同様に0.1〜0.2mm程度とされ、弾性部材49の軸方向の隙間寸法は10〜20μm程度に設定される。そのため、危険速度通過時にシャフト1が径方向に振動すると連動して弾性部材49も径方向に振動し、弾性部材49の内外周の隙間47,48に注入されているオイルがオイルフィルムダンパとして機能する。図3の場合と比較すると、隙間48が形成されている分だけ制震効果が高くなる。なお、シャフト1の振動振幅が大きい場合には、弾性部材49は振動するだけでなく、外輪81が当接して変形されることになる。
【0023】
[第3変形例]
図5は、上述した実施形態の第3の変形例を示す図である。変形例3では、ボールベアリング8の外輪81のほぼ軸方向中央に接するようにリング状の弾性部材50を設け、その弾性部材50の軸方向両側に隙間51を形成し、その隙間51にオイルフィルムダンパとして機能するオイルを注入している。この場合、弾性部材50と隙間51のオイルとが同時にダンパとして機能する。なお、特許文献1に記載の構造と同じように弾性部材50がボールベアリング8の外輪81の軸方向中央に配置されているが、隙間51にオイルが注入されておりダンパとして機能しているため、ベアリングの傾きを防止することが可能である。
【0024】
[第4変形例]
図6は第4の変形例を説明する図である。図2〜図5ではベアリング8の外周側にOリングのような弾性部材41を配置したが、弾性部材の材料はゴム材や弾性的樹脂などに限らず、例えば金属であっても構わない。図6(a)は金属弾性部材52の一例を示したものであり、金属の波板をリング状に形成したものである。二点差線で示したリング状部材は図2に示した弾性部材41を金属弾性部材52に重ねて示したものである。
【0025】
大型のポンプの場合には回転体の重量も増すため、振動が大きくなった場合、ゴム材の弾性部材では変形量が大きくなりすぎてしまうので、このような金属弾性部材52を用いるのが好ましい。なお、図6(a)では、弾性部材41の代わりに金属弾性部材52を使用する場合を例に示したが、図3〜5に示した弾性部材46,49,50の代わりに、図6に示すような形状の金属弾性部材を用いても良い。
【0026】
弾性部材41,50の代わりに金属弾性部材を用いる場合、ハウジング22の内周面および外輪81の外周面が金属弾性部材52に接触しているが、波状の隙間にオイルを注入することにより、そのオイルをオイルフィルムダンパとして機能させることができる。金属弾性部材の構造は種々のものが可能であり、例えば、図6(b)に示すように、リング状板材53の周面に突状部53aを一周に亘って複数形成するようにしても良い。
【0027】
なお、上述した実施の形態では隙間にオイルを注入したが、オイルに代えてグリスを注入するようにしても良い。グリスの粘性によってダンピング効果が生じ、危険速度通過時のシャフト1の振動が抑えられる。また、ターボ分子ポンプに限らず、同様の軸受構造を有する真空ポンプ、例えば、ドラッグポンプ等の真空ポンプにも適用することができる。
【0028】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0029】
1:シャフト、2:ベース、3:ロータ、4:モータ、6,7:永久磁石、8,9:ボールベアリング、22:ハウジング、41,46,49,50:弾性部材、42:弾性支持部材、44,45:押さえ板、47,48:隙間、52:金属弾性部材、80:内輪、81:外輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気機能部が形成されたロータをボールベアリングと永久磁石式磁気軸受とで支持し、前記ロータをモータにより高速回転させて真空排気する真空ポンプにおいて、
前記ボールベアリングの外輪を軸方向から挟持し、該外輪を径方向に移動可能に保持する保持機構と、
ポンプベースに形成され、前記保持機構が収納されるハウジングと、
前記ハウジング内において、前記外輪の外周側に接触または近接して設けられた弾性部材と、を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記弾性部材は、隙間を介して前記外輪の外周を囲むように設けられたリング状の弾性部材であって、
少なくとも前記隙間にオイルまたはグリスが注入されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記弾性部材の外周と前記ハウジングとの間に形成された外周側隙間と、
前記外周側隙間に注入されたオイルまたはグリスと、を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記弾性部材は、前記外輪の外周面軸方向中央に接触するように設けられ、該外輪の外周面と前記ハウジングとの間に隙間が形成されるように配置されたリング状の弾性部材であって、
少なくとも前記隙間にオイルまたはグリスが注入されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記弾性部材を金属で形成したことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記保持機構は、
前記外輪の軸方向両端に配設される一対の押さえ板と、
前記一対の押さえ板の各々と前記ハウジングとの間に配設された弾性的支持部材と、を有することを特徴とする真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104370(P2013−104370A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249507(P2011−249507)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】