説明

真空乾燥および焼成装置とそれを用いた燃料電池用拡散層の製造方法

【課題】高度に多孔質化した燃料電池用拡散層を少ない工程数でかつ短時間で製造できる装置10を提供する。
【解決手段】燃料電池用拡散層10は、乾燥室11と、乾燥室11を真空引きする真空ポンプ20と、乾燥室11内に配置される拡散層中間体5のためのトレイ12と、拡散層中間体5を凍結できる冷媒をトレイ12に供給する冷媒供給手段13と、凍結した拡散層中間体5の乾燥に必要な昇華潜熱をトレイ12に供給する第1の熱供給手段15と、乾燥した拡散層中間体5の焼成に必要な熱をトレイ12に供給する第2の熱供給手段19とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空乾燥および焼成装置とそれを用いた燃料電池用拡散層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの分野で真空乾燥の技術が採用され、そのための装置も種々提案されている。近年に至り、燃料電池の分野でも、電池構成要素や燃料改質剤の製造等に真空乾燥技術を採用することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料粉末を含むスラリーを凍結乾燥処理を行い多孔質化した成形体を得、それを焼成して、燃料電池の燃料である水素を得るための改質器で用いる、金属粒子担持複合酸化物焼結構造体を製造することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、触媒粉末と撥水性結着剤としてのPTFEおよび界面活性剤、溶媒等を混合分散した触媒ペーストを電極基材に塗工した後、真空凍結乾燥により溶媒を除去し、焼成して触媒層を形成する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、触媒層付きのカーボンペーパーを真空乾燥機内の棚に収納し、同一の水分量に保持した後、真空乾燥装置内を減圧することで、触媒層内の水分を凍結し、昇華潜熱により凍結した水分を除去することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−18361号公報
【特許文献2】特開平2−215049号公報
【特許文献3】特開2005−302538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料電池の触媒層や拡散層のように多孔質であることが求められる部材の製造に、昇華潜熱を利用した真空乾燥の技術を用いることは、有効性が高い。しかし、触媒層や拡散層の製造において乾燥後に焼成処理を施すことが望まれる場合、従来の真空乾燥装置は、加熱手段として昇華潜熱を供給する手段、すなわち予備凍結した被乾燥材を−20℃〜50℃程度の温度に加熱する熱を供給する手段しか備えていないことから、乾燥後の触媒層や拡散層を真空乾燥装置から取り出し、それを別装置である好ましくは真空環境下にある焼成装置内に入れ替えて焼成処理を施すようにしている。
【0008】
そのために、特に精度の高い多孔質化が求められる拡散層の場合、真空乾燥装置での乾燥処理により高度にポーラス化した拡散層が、焼成装置に投入される前にポーラス状態が部分的に壊れてしまい、拡散層としての機能を低下させてしまう恐れがあった。また、2つの装置間で被乾燥材を移し替えることは、工程的にまた処理時間的にも、さらに真空化のためのエネルギーにおいても、無駄が生じているといえた。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高度に多孔質化した燃料電池用拡散層を少ない工程数でかつ短時間で製造することのできる真空乾燥および焼成装置と、その装置を用いた燃料電池用拡散層の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による真空乾燥および焼成装置は、乾燥室と、該乾燥室を真空引きする手段と、前記乾燥室内に配置される被乾燥材用のトレイと、被乾燥材を凍結できる冷媒を前記トレイに供給する冷媒供給手段と、凍結した被乾燥材の乾燥に必要な昇華潜熱を前記トレイに供給する第1の熱供給手段と、乾燥した被乾燥材の焼成に必要な熱を前記トレイに供給する第2の熱供給手段と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0011】
上記の装置は、乾燥した被乾燥材の焼成に必要な熱をトレイに供給する第2の熱供給手段を備えており、トレイ上の乾燥した被乾燥材を、装置から取り出すことなく、そのままで焼成処理することができる。そのために、搬出し搬入するという処理工程を省略でき、また真空乾燥処理で形成されたポーラスな状態が破壊されることもない。さらに、乾燥室に確立した真空度を処理終了までほぼそのまま維持することができるので、真空化のためのエネルギーの無駄も回避できる。
【0012】
上記の装置は、真空乾燥処理と焼成処理を必要とする任意の物品の製造に好適に用いることができるが、高度な多孔質化と焼成処理が必要な燃料電池用拡散層の製造に用いるのに特に好適である。
【0013】
従って、本発明は、上記の真空乾燥および焼成装置を用いて燃料電池で用いられる拡散層を製造する方法として、導電性基材に少なくとも撥水剤と溶媒を含む拡散層用ペーストを塗工して拡散層中間体を得る工程と、前記拡散層中間体を前記被乾燥材用のトレイ上に置き前記乾燥室内を真空引きする工程と、前記冷媒供給手段から冷媒を供給して前記拡散層中間体を凍結する工程と、前記第1の熱供給手段から昇華潜熱を供給して前記凍結した拡散層中間体を真空乾燥する工程と、および、前記第2の熱供給手段から熱を供給して前記真空乾燥した拡散層中間体を焼成して拡散層とする工程と、を少なくとも含むことを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法をも開示する。
【0014】
上記の製造方法を採用することにより、1つの装置内での連続処理によって燃料電池用拡散層を製造することができるので、高機能の拡散層を少ない工程でかつ短時間で製造することが可能となる。すなわち、大気圧での乾燥による場合と比較して、容積が不変で、泡立ち、分離、表面硬化、組織変化等が起こらない、高度に多孔質の拡散層が得られる。また、多孔質で三次元構造を保ったまま乾燥されるので、内部からも均一に脱水され充分に乾燥した高度に多孔質の拡散層が得られる。
【0015】
上記の方法において、拡散層を形成する導電性基材には、限定されないが、好ましくはカーボンペーパーまたはカーボンクロスが用いられる。また、導電性基材の形態は繊維状あるいは粒子状など特に限定されないが、燃料電池のように電極活物質に気体を用いる電気化学装置に用いる場合、ガス透過性の点から繊維状導電性無機物質(無機導電性繊維)、特にカーボン繊維が好ましい。
【0016】
拡散層用ペーストは、拡散層に撥水性を付与するために塗工される。拡散層用ペーストに含まれる撥水剤は撥水性の高分子を含むことが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は好ましい。他に、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂も、高い撥水性を有するために好ましく用いられる。拡散層用ペーストに含まれる溶媒は、界面活性剤が例として挙げられる。拡散層用ペーストには、他に、ペーストと導電性基材との濡れ性を良くするために、適宜の界面活性剤が含まれる場合がある。
【0017】
導電性基材へ拡散層用ペーストを塗工する方法は特に限定されるものではなく、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、スクリーン印刷、スプレー塗布などの方法を適宜選択すればよい。
【0018】
上記の方法において、乾燥室内を真空引きする工程も任意の方法で行うことができる。好ましくは真空ポンプを用いる方法であり、真空ポンプにより、好ましくは、0.8Torr〜0.008Torrの範囲に真空引きする。乾燥室と真空ポンプとの間に、コールドトラップを配置することが好ましいことは、従来知られている真空乾燥装置と同様である。
【0019】
上記の方法において、冷媒供給手段から供給する冷媒には、好ましくは、R−22フロン、塩化カルシウム飽和溶液が用いられる。冷媒をトレイに供給し、かつ乾燥室を真空引きすることで、トレイ上に置かれた拡散層中間体は、−40℃〜−50℃程度に冷却されて内部の水分は細かい粒状となって凍結する。その状態で、第1の熱供給手段から昇華潜熱を供給することにより、拡散層中間体を−20℃〜50℃に温度に加熱する。それにより、内部の凍結した水分は昇華し、氷の抜けた後に微小な隙間が形成され、拡散層中間体は多孔質化する。なお、第1の熱供給手段は電熱ヒータのようなものであってよい。
【0020】
その後、第2の熱供給手段から焼成に必要な熱を供給する。第2の熱供給手段はトレイ内に組み込んだヒータ(例えば、赤外線ヒータのようなヒータ)、あるいは、マイクロ波ヒータやヒートポンプのような熱供給手段であってよい。この加熱により、拡散層中間体に塗布された拡散層用ペースト中から、溶媒、界面活性剤等が飛ばされて一層ポーラス化するとともに、撥水剤が適度に溶融して導電性基材を被覆し、拡散層の撥水性をより向上させる。この焼成温度を制御することにより、多孔質化のためのチューニングが自在に行える利点もある。
【0021】
上記の方法において、導電性基材としてカーボンペーパーまたはカーボンクロスを用い、撥水剤としてPTFEを用いる場合に、拡散層中間体を焼成するときの温度は300℃〜400℃の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高度に多孔質化した燃料電池用拡散層を少ない工程数でかつ短時間で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は拡散層中間体を製造する工程の一例を示す模式図、図2および図3は本発明による真空乾燥および焼成装置の2つの例を示す模式図である。
【0024】
図1において、1は移動テーブルであり、その上に適宜の大きさに裁断された導電性基材(例えば、カーボンペーパー)2が載置され、移動テーブル1と共に矢印方向に移動する。その移動経路上に、少なくとも撥水剤(例えば、PTFE)と溶媒を含む拡散層用ペースト3を収容した容器4が配置され、その拡散層用ペースト3が導電性基材2に塗工されて、拡散層中間体5が作られる。
【0025】
そのようにして作られた拡散層中間体5の複数個が真空乾燥および焼成装置10内に投入され、真空乾燥処理と焼成処理を受けて拡散層とされる。以下に、その製造工程を説明する。最初に、真空乾燥および焼成装置10を説明する。
【0026】
図2に示す装置10は、密封可能な容器である乾燥室11を有し、その中に、1つまたは複数個のトレイ12(図では2個のトレイが示される)が配置される。そして、各トレイ12の上には、図1で説明した拡散層中間体5の複数個が置かれる。
【0027】
装置10は、さらに、冷媒の供給制御手段13を備え、冷媒は、配管14を通してトレイ12に供給される。冷媒はトレイ12で前記した拡散層中間体5にその冷熱を放熱した後、再び供給制御手段13に戻される。冷媒の種類および供給量を制御することにより、拡散層中間体5は、約−20℃〜−50℃の間の適宜の温度で凍結する。
【0028】
15は第1の熱供給手段であり、配管16を介して所要の熱をトレイ12に送り、凍結した拡散層中間体5に対して昇華潜熱を与える。第1の熱供給手段15は、より具体的には、電熱ヒータのような手段であることが好ましい。冷媒の供給制御手段13の冷媒供給量を制御することにより、冷媒供給制御手段13を第1の熱供給手段15として用いることもできる。
【0029】
トレイ12は、さらに、第2の熱供給手段19を構成する加熱ヒータ17をさらに備え、該加熱ヒータ17には、やはり第2の熱供給手段19を構成する熱媒体源18から焼成用の熱媒体が供給される。それにより、拡散層中間体5は300℃〜400℃程度の温度に加熱される。
【0030】
前記乾燥室11の室内は真空ポンプ20に接続しており、真空ポンプ20の作動によって乾燥室内は例えば0.8Torr〜0.008Torrの範囲に真空引きされる。乾燥室11と真空ポンプ20とを接続する第1の排気路21には、コールドトラップ22が配置されており、該コールドトラップ22には、配管23,24を介して、冷媒供給制御手段13からの冷媒が循環する。
【0031】
上記装置10の使用態様の一例を説明する。最初に、図1に基づき説明したようにして作られた拡散層中間体5の複数個をトレイ12の上に配置する。乾燥室11内を密封した後、冷媒供給制御手段13を作動して、制御された量の冷媒を冷媒供給制御手段13とトレイ12との間で循環させる。それにより、各拡散層中間体5を約−20℃〜−50℃の間の適宜の温度で凍結した状態とする。
【0032】
その状態で、真空ポンプ20を作動して乾燥室11内を真空引きするとともに、冷媒供給制御トレイ12とコールドトラップ22の間で制御された量の冷媒を循環させる。また、第1の熱供給手段15を操作して、凍結した拡散層中間体5に昇華潜熱を与える。真空引きにより乾燥室内が所定の真空度に真空引きされると、凍結した水分は昇華を開始し、昇華した気体(水蒸気)はコールドトラップ22で固体として捉えられる。所定時間にわたりその状態を継続することにより、拡散層中間体5の乾燥処理は終了し、多孔質化した拡散層中間体5となる。
【0033】
その時点で、冷媒供給制御手段13および第1の熱供給手段15の作動を停止し、第2の熱供給手段19の作動を開始する。第2の熱供給手段19からの熱供給により、拡散層中間体5をその焼成に必要な温度(300℃〜400℃程度)に加熱する。加熱により、乾燥した拡散層中間体5に対する所定の焼成処理が進行する。なお、その間、乾燥室11内が10Pa〜100Pa程度の真空度が維持されるように真空ポンプ20の作動を継続する。焼成後、真空ポンプ20および第2の熱供給手段19の作動を停止し、乾燥室11を開いて拡散層を取り出す。
【0034】
図3に示す装置10Aは、乾燥室11と排気ポンプ30とを接続する第2の排気路31をさらに備え、かつ、第1の排気路21と第2の排気路31にはシャッター21a,31aが備えられている点で、図2に示した装置10と相違する。他の部材は装置10と同じであり、同じ符号を付し、説明は省略する。この装置10Aでは、乾燥処理を行うときには、シャッター31aを閉じ、排気ポンプ30を非作動とした状態で運転を行い、その後の焼成工程では、シャッター31aを開き、排気ポンプ30を作動させると共に、シャッター21aを閉じ、真空ポンプ20作動とした状態で運転を行う。このような切り替え運転を行うことにより、焼成時に飛散する物質によってコールドトラップ22が損傷を受けるのを回避することができる。なお、排気ポンプ30は真空ポンプ20と同じものであってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
上記のようであり、本発明による真空乾燥および焼成装置10、10Aを用いることにより、高度に多孔質化しかつ焼成処理された燃料電池用拡散層を、同一の装置内でかつ短時間で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】拡散層中間体を製造する工程の一例を示す模式図。
【図2】本発明による真空乾燥および焼成装置の一例を示す模式図。
【図3】本発明による真空乾燥および焼成装置の他の例を示す模式図。
【符号の説明】
【0037】
1…移動テーブル、2…導電性基材(例えば、カーボンペーパー)、3…拡散層用ペースト、5…拡散層中間体、10、10A…真空乾燥および焼成装置、11…乾燥室、12…トレイ、13…冷媒の供給制御手段、15…第1の熱供給手段、17…加熱ヒータ、18…熱媒体源、19…第2の熱供給手段、20…真空ポンプ、21…第1の排気路、21a…シャッター、22…コールドトラップ、30…排気ポンプ、31…第2の排気路、31a…シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥室と、該乾燥室を真空引きする手段と、前記乾燥室内に配置される被乾燥材用のトレイと、被乾燥材を凍結できる冷媒を前記トレイに供給する冷媒供給手段と、凍結した被乾燥材の乾燥に必要な昇華潜熱を前記トレイに供給する第1の熱供給手段と、乾燥した被乾燥材の焼成に必要な熱を前記トレイに供給する第2の熱供給手段と、を少なくとも含むことを特徴とする真空乾燥および焼成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空乾燥および焼成装置を用いて燃料電池で用いられる拡散層を製造する方法であって、
導電性基材に少なくとも撥水剤と溶媒を含む拡散層用ペーストを塗工して拡散層中間体を得る工程と、
前記拡散層中間体を前記被乾燥材用のトレイ上に置き、前記乾燥室内を真空引きする工程と、
前記冷媒供給手段から冷媒を供給して前記拡散層中間体を凍結する工程と、
前記第1の熱供給手段から昇華潜熱を供給して前記凍結した拡散層中間体を真空乾燥する工程と、および、
前記第2の熱供給手段から熱を供給して前記真空乾燥した拡散層中間体を焼成して拡散層とする工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項3】
導電性基材としてカーボンペーパーまたはカーボンクロスを用い、撥水剤としてPTFEを用い、かつ前記拡散層中間体を焼成するときの温度が300℃〜400℃の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用拡散層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−9829(P2009−9829A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170397(P2007−170397)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】