説明

真空乾燥器

【課題】試料載置棚を効率よく加熱、冷却することができ、試料の温度制御を良好に行うことができるとともに、高温の真空チャンバ内を短時間で冷却することもできる真空乾燥機を提供する。
【解決手段】試料載置棚13に温度調節用流体が流れる流体流路15を設けるとともに、真空チャンバ12の外部に、流体流路15に温度調節用流体を供給する流体供給路21と、流体流路21から温度調節用流体を排出する流体排出路30とを設けた。流体供給路21は、真空チャンバ12に設けられているチャンバ加熱用の電気ヒータ16によって温度調節用流体を加熱するための流体加熱流路14を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空乾燥器に関し、詳しくは、真空チャンバ内に設けた棚板上に試料を入れた容器を載置して試料の真空乾燥を行うための真空乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
真空乾燥器として、真空チャンバ内の試料載置棚に載置したシャーレやバットなどの容器に入れた試料をあらかじめ設定した温度に保持するため、試料載置棚に電気ヒータを設け、該電気ヒータに外部から通電することにより、試料載置棚を介して試料を所定温度に制御するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−63692号公報
【特許文献2】特開2007−303707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各特許文献に記載されているように、試料載置棚に電気ヒータを設けることにより、試料載置棚上に載置した容器を介して試料を所定温度に保持することはできるが、試料載置棚への通電に真空コネクタを使用した場合は、差し込みの不具合で通電部分が剥き出しになっていると、真空放電が起ったり、試料から発生した腐食性ガスによる劣化などの不具合が生ずることがあった。また、通電にコイルを使用した場合は、コイルから発生する電磁波を完全に遮蔽しないと制御器などが誤作動するおそれがあり、電磁波対策に要するコストが問題となる。
【0005】
さらに、試料を加熱真空乾燥した後は、試料の吸湿を防止するため、真空状態で試料の温度が常温に下がるまで、試料を真空チャンバに入れたまま長時間待たなければならなかった。また、高温の試料をシリカゲル入りのデシケータに移し替えて常温まで冷すこともできるが、この場合は、高温の真空チャンバ内に手を入れなければならず、作業に注意を要しており、デシケータに移し替えても試料温度が下がるまで長時間を要していた。このため、1日で処理できる試料数が限られるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、試料載置棚を効率よく加熱、冷却することができ、試料の温度制御を良好に行うことができるとともに、高温の真空チャンバ内を短時間で冷却することもできる真空乾燥機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の真空乾燥器は、真空チャンバ内の試料載置棚に載置した試料を真空下で加熱して乾燥させる真空乾燥器において、前記試料載置棚に温度調節用流体が流れる流体流路を設けるとともに、真空チャンバの外部に、前記流体流路に温度調節用流体を供給する流体供給路と、流体流路から温度調節用流体を排出する流体排出路とを設けたことを特徴とし、前記流体供給路は、前記真空チャンバに設けられているチャンバ加熱用ヒータによって温度調節用流体を加熱するための流体加熱流路を有していると好適である。
【0008】
また、前記真空チャンバの壁面に、前記流体供給路に接続した流体供給側接続手段と、前記流体排出路に接続した流体排出側接続手段とを設けるとともに、前記試料棚には、前記流体流路の一端に前記流体供給側接続手段に着脱可能に接続される流体入口側接続手段を、前記流体流路の他端に前記流体排出側接続手段に着脱可能に接続される流体出口側接続手段をそれぞれ設けても良く、前記流体供給路を流れる温度調節用流体と、前記流体排出路を流れる温度調節用流体とを熱交換させる熱交換器を設けることもできる。さらに、前記温度調節用流体が圧縮空気であっても良く、前記流体供給路は、該流体供給路から分岐して、先端にエアノズルを設けた洗浄経路を備えることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の真空乾燥器によれば、試料載置棚の流体流路に、所定温度に加熱した温度調節用流体を流通させることにより、試料載置棚全体の表面を迅速かつ均一に加熱することができるとともに、常温又は冷却した温度調節用流体を流体流路に流通させることにより、試料載置棚を含めた真空チャンバ内を迅速に冷却することができる。
【0010】
また、前記流体供給路から試料載置棚の流体流路へ供給する温度調節用流体を、チャンバ加熱用ヒータによって加熱する流体加熱流路を設けることにより、温度調節用流体を加熱するための専用のヒータを設ける必要がなくなる。
【0011】
さらに、試料載置棚の流体流路を接続手段によって着脱可能に形成することにより、真空チャンバから試料載置棚を簡単に取り外したり、取り付けたりすることができ、真空チャンバや試料載置棚の清掃を容易に行うことができる。
【0012】
また、供給側の温度調節用流体と排出側の温度調節用流体とを熱交換させる熱交換器を設けることにより、熱エネルギーを回収して再利用することができ、試料載置棚の流体流路に供給する温度調節用流体を加熱するためのコストを低減できるとともに、高温の温度調節用流体が排出されることもなくなり、安全性の向上も図れる。
【0013】
特に、温度調節用流体を圧縮空気とすることにより、温度調節用流体のコストを低減できるとともに、温度調節用流体が漏れても真空チャンバの内部や周囲を汚染することはほとんどなく、温度調節用流体を回収する設備も不要となる。さらに、先端にエアノズルを設けた洗浄経路を設けておくことにより、エアノズルから噴出させた圧縮空気によって真空チャンバ内を容易に清掃することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一形態例を示す真空乾燥器の説明図である。
【図2】同じく真空チャンバの断面正面図である。
【図3】同じく真空チャンバの断面側面図である。
【図4】同じく試料載置棚の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
真空乾燥器11は、真空ポンプに接続されるステンレス製の真空チャンバ12と、該真空チャンバ12内に着脱可能に設けられる複数の試料載置棚13とを備えるもので、真空チャンバ12の側壁12aには流体加熱流路14が設けられ、各試料載置棚13には流体流路15が設けられている。さらに、真空チャンバ12の前面には扉12bが設けられ、側壁12aには真空チャンバ12内を加熱するとともに、前記流体加熱流路14内を流れる流体を加熱するための電気ヒータ16が設けられている。また、側壁12aの内面には試料載置棚13を着脱可能に支持するガイドレール17が上下3段に設けられている。
【0016】
前記流体流路15は、各試料載置棚13の内部に折り返された状態で試料載置棚13の全面にわたって配置されるとともに、試料載置棚13の基端部には、流体流路15の入口側と出口側とに連通する一対のプラグ18a,18bが設けられている。また、真空チャンバ12の後壁内面には、各試料載置棚13のプラグ18a,18bにそれぞれ対応する位置に一対のソケット19a,19bが設けられている。
【0017】
流体加熱流路14を介して流体流路15に温度調節用流体を供給するための流体供給路21は、第1切換弁22及び熱交換器23を有する加熱経路24と、第2切換弁25を有する冷却経路26と、第3切換弁27及びエアノズル28を有する清浄経路29とを備えており、前記熱交換器23は、加熱経路24を通って流体流路15に供給される温度調節用流体と、流体流路15から流体排出路30に排出される温度調節用流体とを熱交換可能に形成されている。
【0018】
試料載置棚13を上段と下段とに装着して試料の真空乾燥を行う場合、上段及び下段のガイドレール17,17に試料載置棚13,13をそれぞれ挿入し、各試料載置棚13の入口側のプラグ18aをソケット19aに、出口側のプラグ18bをソケット19bにそれぞれ挿入して流体流路15を流体供給路21と流体排出路30とに接続する。また、試料載置棚13を装着しない中段のソケット19a,19bには栓を嵌め込んで塞いでおく。
【0019】
試料を入れた試料容器を試料載置棚13,13にそれぞれ載置し、扉12bを閉じてから真空ポンプを作動させて真空チャンバ12内を真空状態に保持した後、電気ヒータ16を作動させるとともに、第2切換弁25及び第3切換弁27を閉じた状態のままで第1切換弁22を開き、温度調節用流体、例えば圧縮空気の供給を開始する。
【0020】
圧縮空気供給源CAから供給される圧縮空気は、開状態の第1切換弁22を通って熱交換器23を経て加熱経路24を流れ、前記流体加熱流路14に流入する。この流体加熱流路14を流れる圧縮空気は、前記電気ヒータ16によって所定温度に加熱された後、入口側のソケット19a及びプラグ18aを介して流体流路15に流入し、試料載置棚13を所定温度に加熱した後、出口側のプラグ18b及びソケット19bを介して流体排出路30に排出され、前記熱交換器23を通って外部に排出される。
【0021】
このとき、流体流路15が試料載置棚13の全面にわたって設けられていることから、試料載置棚13の全面を確実に加熱することができ、上下の各試料載置棚13の表面温度を均一にすることができる。これにより、各試料載置棚13上にそれぞれ載置した各試料容器を、試料載置棚13上の位置に関係なく、試料載置棚13からの熱伝導で均一な温度に保持することができるので、電気ヒータ16のみで試料容器を加熱する場合に比べて、試料の温度制御を確実に行うことが可能になる。したがって、各試料載置棚13上に載置した各試料容器の温度を均一にすることができるので、一度に大量の試料を同じ条件で真空乾燥することが可能となる。
【0022】
また、試料載置棚13を加熱した後に流体流路15から流体排出路30に排出された高温の圧縮空気を前記熱交換器23に導入し、圧縮空気供給源CAから供給される圧縮空気と熱交換させることにより、供給する圧縮空気の温度を上昇させるとともに、排出される圧縮空気の温度を低下させるようにしているので、高温の圧縮空気が外部に流出することがなくなり、安全性を向上させることができ、さらに、流体流路15に供給する圧縮空気を加温することができるので、電気ヒータ16の負荷を低減することができ、消費電力の削減も図れる。
【0023】
所定時間の真空乾燥処理を終了したら、真空チャンバ12内を真空に保ちながら、電気ヒータ16を停止するとともに、第1切換弁22を閉じて第2切換弁25を開き、圧縮空気供給源CAから供給される圧縮空気を加熱することなく、常温のまま流体加熱流路14及び各流体流路15に導入し、真空チャンバ12及び試料載置棚13を冷却することによって試料容器を冷却する。試料容器の温度が常温に低下したら、真空チャンバ12内を大気圧に戻して試料容器を取り出す。
【0024】
このようにして流体流路15に常温の圧縮空気を導入することにより、試料載置棚13上の試料容器を熱伝導によって冷却することができるので、試料容器や試料容器中の試料を短時間で冷却することができる。したがって、1回の真空乾燥処理に要する時間を大幅に短縮することができ、試料の真空乾燥処理の効率が大幅に向上するだけでなく、真空乾燥処理後の試料を次工程に迅速に供給することができる。
【0025】
また、流体供給路21及び流体排出路30と試料載置棚13の流体流路15とを着脱可能に接続しているので、試料載置棚13を簡単に真空チャンバ12から取り外すことができ、試料載置棚13の清掃や装着位置の変更が簡単に行えるとともに、真空チャンバ12内の清掃も簡単に行うことができる。特に、エアノズル28を備えた清浄経路29を設けていることにより、第1切換弁22及び第2切換弁25を閉じた状態で第3切換弁27を開き、圧縮空気供給源CAから供給される圧縮空気をエアノズル28から洗浄用ガスとして噴出させることで、真空チャンバ12の内部を隅々まで容易に清掃することができ、真空チャンバ12や試料載置棚13を清浄に保つことができる。
【0026】
このように、本形態例に示す真空乾燥器11によれば、各切換弁22,25,27を切り替えることにより、圧縮空気を用いた試料の加熱乾燥、乾燥後の試料の冷却、真空チャンバ12内の清掃を良好に行うことができ、真空乾燥器11の利用効率を向上させることができるとともに、1日で処理可能な試料数を大幅に増加させることができる。
【0027】
また、冷却経路26に冷水などを用いた熱交換器を設けて圧縮空気を常温以下に冷却できるように形成しておき、試料冷却時に常温以下に冷却した圧縮空気を流体加熱流路14及び各流体流路15に供給することにより、試料の冷却時間をさらに短縮することができる。さらに、真空乾燥処理時に電気ヒータ16を使用せずに、常温あるいは常温以下に冷却した圧縮空気を供給することにより、試料を常温以下に保った状態で真空乾燥することもできる。
【0028】
なお、温度調節用流体としては、水や油などの液体も使用可能であり、窒素ガスなどの不活性ガスを使用することも可能であるが、温度調節用流体に空気を使用することにより、温度調節用流体に要するコストを不要とすることができ、簡単な構造のポンプやファンを使用して流体流路15に温度調節用流体を供給することが可能となり、さらに、温度調節用流体である空気が漏れても真空チャンバの内部や周囲を汚染することはほとんどなく、温度調節用流体を回収する設備も不要となることから、他の流体を温度調節用流体に用いた場合に比べて装置コストの低減を図れ、洗浄用ガスとして手軽に利用できる。
【0029】
また、流体供給路21及び流体排出路30と試料載置棚13の流体流路15とを着脱可能に接続する手段は、温度調節用流体が漏れ出さない構造のものなら任意に選択することができる。例えば、市販の各種継手、ワンタッチカプラを用いることができ、ホースを介して接続することもできる。
【0030】
さらに、真空チャンバ12に設けられている電気ヒータ16によって流体加熱流路14を流れる温度調節用流体を加熱することによって温度調節用流体の加熱を効率よく行うことができるが、流体加熱流路14を設けずに、例えば、加熱経路24の熱交換器23の下流側に専用のヒータを設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0031】
11…真空乾燥器、12…真空チャンバ、12a…側壁、12b…扉、13…試料載置棚、14…供給管、15…内部導入管、16…電気ヒータ、17…ガイドレール、18a,18b…プラグ、19a,19b…ソケット、21…流体供給路、22…第1切換弁、23…熱交換器、24…加熱経路、25…第2切換弁、26…冷却経路、27…第3切換弁、28…エアノズル、29…清浄経路、30…流体排出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内の試料載置棚に載置した試料を真空下で加熱して乾燥させる真空乾燥器において、前記試料載置棚に温度調節用流体が流れる流体流路を設けるとともに、真空チャンバの外部に、前記流体流路に温度調節用流体を供給する流体供給路と、流体流路から温度調節用流体を排出する流体排出路とを設けたことを特徴とする真空乾燥器。
【請求項2】
前記流体供給路は、前記真空チャンバに設けられているチャンバ加熱用ヒータによって温度調節用流体を加熱するための流体加熱流路を有していることを特徴とする請求項1記載の真空乾燥器。
【請求項3】
前記真空チャンバの壁面に、前記流体供給路に接続した流体供給側接続手段と、前記流体排出路に接続した流体排出側接続手段とを設けるとともに、前記試料棚には、前記流体流路の一端に前記流体供給側接続手段に着脱可能に接続される流体入口側接続手段を、前記流体流路の他端に前記流体排出側接続手段に着脱可能に接続される流体出口側接続手段をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の真空乾燥器。
【請求項4】
前記流体供給路を流れる温度調節用流体と、前記流体排出路を流れる温度調節用流体とを熱交換させる熱交換器を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の真空乾燥器。
【請求項5】
前記温度調節用流体が圧縮空気であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の真空乾燥器。
【請求項6】
前記流体供給路は、該流体供給路から分岐して、先端にエアノズルを設けた洗浄経路を備えていることを特徴とする請求項5記載の真空乾燥器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−43275(P2011−43275A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190983(P2009−190983)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(591245543)東京理化器械株式会社 (36)
【Fターム(参考)】