説明

真空乾燥装置

【目的】真空乾燥後に容器内を大気圧に戻す為に供給する窒素ガス等の不活性ガス中の微量水分が結露しないので、被乾燥物の乾燥度を向上させることのできる真空乾燥装置を提供する。
【構成】乾燥容器22内を真空ポンプ34で減圧して、乾燥容器22内のシリコンウエハ24に付着する水分を蒸発させて乾燥させた後、乾燥容器22内を減圧状態から大気圧状態に戻す時に、乾燥容器22内に供給する窒素ガスを加熱装置44で加熱すると共に、加熱した窒素ガスを吹付装置38でシリコンウエハ24に直接吹き付けながら乾燥容器22内を大気圧に戻すようにした。これにより、真空乾燥中にシリコンウエハ24の付着水分が蒸発することによる蒸発潜熱でシリコンウエハ24表面が窒素ガスの露点温度以下まで冷却される場合でも、シリコンウエハ24表面温度を短時間で上昇させることができるので、窒素ガス中の微量水分が結露しにくいと共に、仮に結露しても加熱した窒素ガスをシリコンウエハ24に吹き付けることにより再乾燥させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は真空乾燥装置に係り、特に、シリコンウエハ等の半導体基板を水洗浄した後に、半導体基板に付着している水分を真空下で蒸発させて乾燥する真空乾燥装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、物品に付着する水分を短時間で除去する場合、真空乾燥装置が用いられることが知られている。そして、半導体製造工程では、シリコンウエハ等の半導体基板を水洗浄した後の乾燥操作として、従来は吸水性溶剤で脱水することが行われていたが環境問題等もあり、最近は真空乾燥装置が用いられるようになってきている。
【0003】図2に、シリコンウエハ等の半導体基板の乾燥に用いられる従来の真空乾燥装置1の概略図を示す。同図に示すように、耐圧性の乾燥容器2内には、前工程で水洗浄された複数のシリコンウエハ3がウエハ立て4に配列され、この状態で真空ポンプ5により乾燥容器2内が減圧される。これにより、シリコンウエハ3に付着している水分の蒸発を促進させてシリコンウエハ3を乾燥させる。乾燥が終了したら、減圧制御弁6を閉じると共に、ガス供給制御弁7を開いて乾燥容器2内に窒素ガスを供給し、乾燥容器2内を大気圧に戻す。乾燥容器2内が大気圧になったら、図示しない扉を開けてシリコンウエハ3を乾燥容器2から取り出し、次の工程に搬送する。このように、真空乾燥装置1は、乾燥容器2内を急激に減圧してシリコンウエハ3に付着している水分の蒸発を促進させることにより、短時間でシリコンウエハ3を乾燥させることができる。
【0004】尚、7は乾燥容器2内を所定の真空度に制御する減圧制御装置、9及び10はフィルタである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、シリコンウエハ3に付着している水分が蒸発する時に、蒸発潜熱に相当する熱量をシリコンウエハ3表面から奪う為、シリコンウエハ3表面の温度が極端に低下する。この結果、真空乾燥後に乾燥容器2内に窒素ガスを吹き込んで乾燥容器2内を大気圧に戻す時に、窒素ガス中に含有される微量の水分がシリコンウエハ3表面で凝縮して結露する為、シリコンウエハ3が再び湿ってしまうという欠点がある。特に、シリコンウエハ3等の半導体基板は、結露した水分が半導体基板の表面に残ると、半導体基板の電気的特性上問題となる酸化膜形成を促進してしまうという問題が発生する。
【0006】本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、容器内を真空から大気圧に戻す際に供給する気体中の微量水分が結露しないので、被乾燥物の乾燥度を向上させることのできる真空乾燥装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は前記目的を達成するために、容器内を減圧することにより前記容器内の被乾燥物の水分を蒸発させて被乾燥物を乾燥させた後に、前記容器内に気体を供給して前記容器内を大気圧に戻す真空乾燥装置に於いて、前記容器内に供給する気体を加熱する加熱手段と、前記容器内に設けられ、前記加熱手段で加熱された気体を前記被乾燥物に吹き付ける吹付手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
【作用】本発明によれば、容器内を減圧状態から大気圧状態に戻す時に、容器内に供給する気体を加熱手段で加熱すると共に、加熱した気体を吹付手段で被乾燥物に直接吹き付けながら容器内を大気圧に戻すようにした。これにより、真空乾燥中に被乾燥物の水分が蒸発することによる蒸発潜熱で被乾燥物表面が前記気体の露点温度以下まで冷却される場合でも、被乾燥物の表面温度を短時間で上昇させることができるので、気体中の微量水分が被乾燥物に接触したときの結露を防止できる。また、仮に被乾燥物表面温度が前記露点温度以上に上昇する前に結露しても加熱した気体を被乾燥物に吹き付けることにより瞬時に再乾燥させることができる。
【0009】
【実施例】以下添付図面に従って本発明に係る真空乾燥装置の好ましい実施例を詳述する。図1に本発明に係る真空乾燥装置20の構成を示すように、耐圧構造の乾燥容器22は図示しない密閉可能な扉を有し、扉から被乾燥物であるシリコンウエハ24が搬入されると共に、乾燥の終了したシリコンウエハ24搬出される。搬入されたシリコンウエハ24は、乾燥されやすいように乾燥容器22内に設けられたウエハ立て26に配列される。また、乾燥容器22の側壁を貫通して減圧用配管28が配設され、この減圧用配管28は逆流防止用フィルタ30、減圧制御弁32を経由して真空ポンプ34に接続されている。この真空ポンプ34は図示しないトラップ装置が内蔵され、乾燥容器22内から吸引される水分はトラップ装置で除去されるようになっている。
【0010】また、乾燥容器22内には、乾燥容器22の上壁を貫通して窒素ガス配管36が配設され、窒素ガス配管36の先端部にはシリコンウエハ24に向けて窒素ガスを吹き付ける吹付装置38が取付けられている。また、窒素ガス配管36は、乾燥容器22外に設けられたフィルタ40、ガス供給制御弁42を経由して加熱装置44に繋がっており、加熱装置44は図示しない窒素ボンベに繋がっている。また、前記加熱装置44は、中空な加熱容器44Aと加熱容器44A内に配設されたヒータコイル44Bとヒータコイル44Bの温度を制御する温度調節器44Cで構成されており、窒素ボンベから加熱容器44Aに供給された窒素ガスが加熱容器44A内を通過する間にヒータコイル44Bで加熱されるようになっている。このように、本発明の真空乾燥装置20では、前記した加熱装置44と吹付装置38を設けることにより、加熱装置44で所定温度に加熱された窒素ガスは、ガス供給制御弁42でガス供給量が調節されると共に、フィルタ40で濾過されてから吹付装置38によりシリコンウエハ24に吹き付けられる。そして、この加熱容器44Aの容量を乾燥容器の容量の約10%程度にして、真空乾燥中に加熱容器44A内に供給した窒素ガスを所定温度に加熱しておくとよい。これにより、吹付装置38でシリコンウエハ24に吹き付ける窒素ガスの温度を最初から所定温度に安定させることができるので、シリコンウエハ24の表面温度を上昇させる上昇速度を速くすることができる。尚、図1において前記加熱装置44は、ガス供給制御弁42の前段に設けたが、この位置に限定されるものではなく、ガス供給制御弁42とフィルタ40の間、又はフィルタ40と乾燥容器22の間に設けてもよい。
【0011】また、前記減圧制御弁32とガス供給制御弁42は信号回線46、48を介して減圧制御装置50に接続されると共に、減圧制御装置50と乾燥容器22内とは細いパイプ52で連通され、乾燥容器22内の真空度が減圧制御装置50で検知される。これにより、減圧制御装置50は乾燥容器22内の真空度を常にチェックしながら減圧制御弁32を制御できるので、乾燥容器内を所定の真空度に精度良く維持することができる。また、供給制御弁42を開いて窒素ガスを吹付装置38でシリコンウエハ24に吹き付ける場合にも、窒素ガスの吹付け量を精度良く制御することができる。
【0012】次に、上記の如く構成された本発明の真空乾燥装置20の作用について説明する。先ず、乾燥容器22の扉を開けて、前工程で水洗された被乾燥物であるシリコンウエハ24を乾燥容器22内に搬入してウエハ立て26に配列した後、扉を密閉する。次に、真空ポンプ34を作動させて乾燥容器22内を減圧する。乾燥容器22内の真空度は、パイプ52を介して減圧制御装置50により逐次測定され、測定された真空度が予め減圧制御装置50に設定された所定真空度になるように減圧制御装置50で減圧制御弁32の開度が調整される。そして、乾燥容器22内を所定真空度に一定時間維持し、シリコンウエハ24に付着する水分を蒸発させてシリコンウエハ24を乾燥する。
【0013】次に、シリコンウエハ24の乾燥が終了したら、減圧制御弁32を閉じると共にガス供給制御弁42を開ける。そして、加熱装置44で所定温度に加熱された窒素ガスを、フィルタ40を通して吹付装置38に導き、吹付装置38からシリコンウエハ24に図中矢印のように吹き付けながら乾燥容器22内を大気圧まで戻す。この時、吹付装置38からの吹き付けられる窒素ガスの吹付け量は、ガス供給制御弁42の開度により調節され、シリコンウエハ24の表面温度を短時間で上昇させるに適した量が噴出される。次に、乾燥容器22内が大気圧に戻ったら、乾燥容器22の扉を開けてシリコンウエハ24搬出し、次の工程に搬送する。
【0014】ところで、上記した真空乾燥中にシリコンウエハ24の付着水分が蒸発することによる蒸発潜熱でシリコンウエハ24表面が冷却され、シリコンウエハ24に付着する水分量にもよるが、窒素ガスの露点温度以下まで冷却される。これにより、窒素ガスが前記露点温度以下に冷却されたシリコンウエハ22表面に接触すると、窒素ガス中の微量水分が結露して、シリコンウエハ24表面に水滴あるいは水膜を発生させる。この結露した水分がシリコンウエハ24表面に残ると、シリコンウエハ24等の半導体基板の電気的特性上問題となる酸化膜形成を促進してしまうという問題が発生する。
【0015】そこで、本発明の真空乾燥装置20では、上述したように、乾燥容器22内を大気圧に戻す時に、窒素ガスを加熱装置44で所定温度まで加熱してから吹付装置38によりシリコンウエハ24に吹き付けるようにした。これにより、シリコンウエハ24表面が窒素ガスの露点温度以下まで冷却された場合でも、シリコンウエハ24の表面温度を短時間で上昇させることができるので、窒素ガス中の微量水分がシリコンウエハ24表面に接触したときの結露を防止できる。また、仮にシリコンウエハ24の表面温度が前記露点温度以上に上昇する前に結露しても加熱した窒素ガスがシリコンウエハ24表面に吹き付けることにより瞬時に再乾燥させることができる。
【0016】従って、本発明の真空乾燥装置20をシリコンウエハ24等の半導体基板の乾燥工程に用いれば、乾燥精度の良い半導体基板を得ることができるので、電気的特性上問題となる酸化膜形成を促進させることがない。尚、本実施例では、被乾燥物をシリコンウエハで説明したが、被乾燥物はこれに限定されるものではなくシリコンウエハ以外の半導体基板あるいは乾燥精度が要求される精密機器等にも適用される。また、本実施例では気体として窒素ガスを使用したが、これに限定されず空気を含む他の不活性ガスでもよい。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係る真空乾燥装置によれば、容器内を減圧状態から大気圧状態に戻す時に、容器内に供給する気体を加熱手段で加熱すると共に、加熱した気体を吹付手段で乾燥容器内の被乾燥物に直接吹き付けるようにした。これにより、前記気体中に含まれる微量水分が被乾燥物表面で結露するのを防止できるので、被乾燥物の乾燥度を向上させることができる。
【0018】従って、本発明の真空乾燥装置をシリコンウエハ等の半導体基板の乾燥工程に用いれば、乾燥精度の良い半導体基板を得ることができるので、電気的特性上問題となる酸化膜形成を促進させることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る真空乾燥装置を説明する構成図
【図2】図2は従来の真空乾燥装置の構成図。
【符号の説明】
20…真空乾燥装置
22…乾燥容器
24…シリコンウエハ
34…真空ポンプ
38…吹付装置
44…加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】容器内を減圧することにより前記容器内の被乾燥物の水分を蒸発させて被乾燥物を乾燥させた後に、前記容器内に気体を供給して前記容器内を大気圧に戻す真空乾燥装置に於いて、前記容器内に供給する気体を加熱する加熱手段と、前記容器内に設けられ、前記加熱手段で加熱された気体を前記被乾燥物に吹き付ける吹付手段と、を備えていることを特徴とする真空乾燥装置。
【請求項2】前記気体は、窒素ガス、空気等の不活性ガスであることを特徴とする請求項1の真空乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平7−43066
【公開日】平成7年(1995)2月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−205892
【出願日】平成5年(1993)7月28日
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)