説明

真空処理方法および電子写真感光体の製造方法

【課題】 搬送容器内を真空排気する際にリング状部材の表面に残留したダストが円筒状基体の端面と円筒状補助基体の端面との接触部分の微小な隙間から飛散することを抑えることができる真空処理方法、および、該真空処理方法を用いた電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 リング状部材および円筒状基体を設置するための基体ホルダーの筒状部に貫通孔を設け、リング状部材の貫通孔の少なくとも一部と基体ホルダーの貫通孔の少なくとも一部とが重なる状態で搬送容器内を真空排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基体上に堆積膜を形成する真空処理方法、および、真空処理方法を用いた電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空処理方法には、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、プラズマエッチング法など、高周波電力により生成されるプラズマを用いた処理方法が知られている。これら真空処理方法は、電子写真感光体、半導体デバイス、画像入力ラインセンサー、撮影デバイス、光起電力デバイスなどを製造するために用いられている。
【0003】
真空処理方法の中でも、グロー放電により原料ガスのプラズマを生成し、原料ガスの分解種を基体上に堆積させて堆積膜を形成するプラズマCVD法は、原料ガスにシランガスを用いることで、アモルファスシリコンの堆積膜を容易に形成できることが知られている。
【0004】
このような真空処理方法により、高品質な堆積膜の形成が行われているが、近年、堆積膜のさらなる品質向上が検討されている。
【0005】
特許文献1には、円筒状基体の端部の内周面と円筒状補助基体の端部の内周面に、円筒状基体と円筒状補助基体とを略同軸に配置するためのリング状部材を取り付け、円筒状基体と円筒状補助基体の同軸性を高めることで、堆積膜の特性の均一化を図る技術が開示されている。
【0006】
また、基体が設置された基体ホルダーを搬送容器内に搬入し、それをチャッキング部材でチャックした状態で搬送容器内を大気状態から真空状態に排気する工程に関しても改良が進められている。大気状態とは、大気圧の状態のことであり、真空状態とは、大気圧よりも圧力が低く、所定の真空度の状態のことである。
【0007】
特許文献2には、基体ホルダーの凹状のチャッキング部位に残留した、液体ホーニング用研磨材などのダストが円筒状基体の表面に付着しないように、基体ホルダーの凹状のチャッキング部位の一部に貫通孔を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−285339号公報
【特許文献2】特開2009−7654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術により、堆積膜の品質向上が図られてきた。
ところが、近年、例えば、堆積膜が用いられる電子写真感光体の画像特性の向上のため、堆積膜には従来以上の特性の均一性が求められるようになっている。
【0010】
特許文献1の技術によれば、リング状部材を用いることで円筒状基体と円筒状補助基体との同軸性が高まり、堆積膜の特性の周方向の均一性の向上が可能となる。しかしながら、リング状部材の外周寸法と円筒状基体および円筒状補助基体の内周寸法との差が小さくなるに従い、円筒状基体の端部の内周面および円筒状補助基体の端部の内周面にリング状部材を取り付ける際に、リング状部材と円筒状基体および円筒状補助基体との間で摺擦が生じやすくなる。そして、摺擦により発生したダストがリング状部材の表面に残留してしまう場合がある。
【0011】
リング状部材の表面に残留したダストは、周囲環境を大気状態から真空状態にした際、円筒状基体の端面と円筒状補助基体の端面との接触部分の微小な隙間から飛散してしまう場合がある。飛散したダストが円筒状基体の表面に付着すると、堆積膜の表面には堆積膜の異常成長で生じる球状突起が発生しやすくなる。電子写真感光体の堆積膜の表面に球状突起が発生すると、その電子写真感光体を用いて出力された画像には、画像不良が生じる場合がある。
【0012】
本発明の目的は、リング状部材の表面に残留したダストが円筒状基体の端面と円筒状補助基体の端面との接触部分の微小な隙間から飛散することを抑えることができる真空処理方法、および、該真空処理方法を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、円筒状基体の端部の内周面と円筒状補助基体の端部の内周面にリング状部材を取り付け、筒状部を有する基体ホルダーに該円筒状基体および該円筒状補助基体を設置し、該基体ホルダーをチャッキング部材によりチャックして真空排気可能な搬送容器内に搬入し、搬入した状態で該搬送容器内を真空排気し、該円筒状基体および該円筒状補助基体を真空状態で搬送する工程を有する真空処理方法において、
該リング状部材および該基体ホルダーの筒状部に貫通孔を設け、該搬送容器内を真空排気する際、該リング状部材の該貫通孔の少なくとも一部と該基体ホルダーの貫通孔の少なくとも一部とが重なる状態で該搬送容器内を真空排気することを特徴とする真空処理方法である。
【0014】
また、本発明は、上記真空処理方法を用いて円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リング状部材の表面に残留したダストが円筒状基体の端面と円筒状補助基体の端面との接触部分の微小な隙間から飛散することを抑えることができる真空処理方法、および、該真空処理方法を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】リング状部材および基体ホルダーの例を示す図である。
【図2】電子写真感光体の連続製造装置の例を示す図である。
【図3】電子写真感光体の堆積膜を形成するための真空処理装置の例を示す図である。
【図4】円筒状基体および円筒状補助基体にリング状部材を取り付ける方法の例を説明するための図である。
【図5】リング状部材を取り付けた円筒状基体および円筒状補助基体を設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャックした状態の例を示す図である。
【図6】リング状部材を取り付けた円筒状基体および円筒状補助基体を設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャックした状態の従来例を示す図である。
【図7】アモルファスシリコン電子写真感光体の層構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、円筒状基体の外周面にダストが付着する原因に関して検討した。
図6は、円筒状基体と円筒状補助基体とを略同軸に配置するためのリング状部材を取り付けた円筒状基体および円筒状補助基体を設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャックした状態の従来例を示す図である。
【0018】
図6に示す従来の構成では、基体ホルダー631は、チャッキング部材603によりチャックされて、真空排気可能な搬送容器(不図示)内に搬入される。真空排気とは、所定の真空度になるまで排気することである。その後、搬入した状態で搬送容器内を真空排気する工程において、円筒状基体601の端面と円筒状補助基体604の端面との接触部分の微小な隙間からダストが飛散することが判明した。チャッキング部材603が基体ホルダー631をチャックした状態では、基体ホルダー631と円筒状基体601および円筒状補助基体604との間の空間が、チャッキング部材603により閉じられた空間になる。そのため、閉じられた空間内に存在する空気が、円筒状基体601の端面と円筒状補助基体604の端面との接触部分の微小な隙間から真空排気される。その結果、リング状部材621の表面に残留したダストが気流に乗って円筒状基体601の外周面まで流れていき、円筒状基体601の外周面に付着することが判った。リング状部材621の表面に残留するダスト608は、リング状部材621を円筒状基体601の端部の内周面と円筒状補助基体604の端部の内周面に取り付ける際、リング状部材621と円筒状基体601および円筒状補助基体604との間の摺擦により発生する。図6に示す従来の構成では、リング状部材621の表面に残留したダストが、真空排気中、例えば、矢印614の向きに、円筒状基体601の上端部601aの端面と円筒状補助基体604の下端部604bの端面との接触部分の微小な隙間から飛散するのを抑えられなかった。
【0019】
そこで、本発明者らは、リング状部材および基体ホルダーの筒状部(円筒状基体および円筒状補助基体と面する筒状の部分)に貫通孔を設け、リング状部材の貫通孔の少なくとも一部と基体ホルダーの貫通孔の少なくとも一部とが重なる状態で搬送容器内を真空排気することにした。その結果、基体ホルダーの内側への排気の経路が十分に確保され、ダストの飛散が抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0020】
図1は、リング状部材および基体ホルダーの例を示す図である。
図1において、120はリング状部材であり、130は円筒状基体および円筒状補助基体と面する筒状の部分(筒状部)を有する基体ホルダーである。図1の(a)は、リング状部材120の上面図であり、(b)および(c)は、リング状部材120を矢印Aから見た図(2つの例)である。
【0021】
リング状部材120は、貫通孔122が設けられた円筒状(リング状)の本体121を有している。
リング状部材120の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼などが挙げられる。これらの中でも、変形のしにくさや耐久性の観点から、ステンレス鋼が好ましい。
【0022】
貫通孔122の形状、大きさおよび数に関しては、基体ホルダー130の貫通孔132と重なる状態にすることを考慮する必要がある。例えば、図1(b)に示す例は、長方形の貫通孔122が、リング状部材121の周方向に等間隔で設けられている例である。さらに、リング状部材120の貫通孔122が、基体ホルダー130の貫通孔132と重なる状態になるよう、千鳥状に4段設けられている。また、図1(c)に示す例は、長方形の貫通孔122が、45°傾いた状態でリング状部材121の周方向に等間隔で並列に設けられている例である。
【0023】
基体ホルダー130は、例えば、図1(d)や(e)に示すように筒状部に貫通孔132が設けられた本体131を有し、貫通孔132は、リング状部材120の貫通孔122に対応する位置に設けられている。
【0024】
基体ホルダー130の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンなどが挙げられ、また、これらの合金も挙げられる。これらの中でも、加工性や製造コストの観点から、アルミニウムの合金が好ましい。アルミニウムの合金の中でも、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金が好ましい。
【0025】
貫通孔132の形状、大きさおよび数に関しては、リング状部材120の貫通孔122と重なる状態にすることを考慮する必要がある。例えば、図1(d)に示す例は、長方形の貫通孔132が、基体ホルダー131の周方向に等間隔で4箇所設けられている例である。さらに、リング状部材120の貫通孔122と重なる状態になるように基体ホルダー131の貫通孔132の縦の長さを調整することが好ましい。また、図1(e)に示す例は、丸形の貫通孔132が基体ホルダー131に設けられている例である。
【0026】
次に、リング状部材120および基体ホルダー130を用いて行われる電子写真感光体の製造方法の例について説明する。
図4は、円筒状基体および円筒状補助基体にリング状部材を取り付ける方法の例を説明するための図である。
【0027】
リング状部材としては、図1の(b)と同一形状のリング状部材421を使用している。
基体ホルダーとしては、図1の(d)と同一形状の基体ホルダー431を使用している。
【0028】
図4(a)に示すように、円筒状基体401の端部の内周面には、内径が大きくなっているインロー部415が設けられている。インロー部415は、電子写真感光体にフランジを取り付ける際にフランジを嵌める部分として利用することができる。
【0029】
円筒状補助基体404の端部の内周面にも、内径が大きくなっているインロー部416が設けられており、円筒状基体401のインロー部415と同一の内径となっている。
【0030】
まず、図4(b)に示すように、リング状部材421を、円筒状基体401の上端部の内周面に取り付ける。ここで、複数本の円筒状基体401を積み重ねる場合は、複数のリング状部材421を用いる。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、円筒状補助基体404をリング状部材421に載せるようにして設置する。
【0032】
このように、円筒状基体401の端部の内周面と円筒状補助基体404の端部の内周面にリング状部材421を取り付けた後、これらを基体ホルダー431に設置する。例えば、このとき、基体ホルダー431の貫通孔432の少なくとも一部とリング状部材421の貫通孔422の少なくとも一部とが重なる状態にしておく。その状態を図4(d)に示す。
【0033】
図5は、リング状部材を取り付けた円筒状基体および円筒状補助基体を設置した基体ホルダーをチャッキング部材でチャックした状態の例を示す図である。
【0034】
円筒状基体501が設置された基体ホルダー531は、チャッキング部材503によりチャックされ、真空排気可能な大気状態の搬送容器(不図示)内に搬入される。その後、搬送容器内は、搬入した状態、すなわち、基体ホルダー531がチャッキング部材503にチャックされたままの状態で真空排気される(所定の圧力になるまで減圧される)。
【0035】
図6に示す従来の構成では、チャッキング部材603が基体ホルダー631をチャックした状態になると、基体ホルダー631と円筒状基体601および円筒状補助基体604との間の空間が、チャッキング部材603により閉じられた空間になる。真空排気の際、その閉じられた空間622の空気が、円筒状基体601の端面と円筒状補助基体604の端面との接触部分の微小な隙間から抜けてしまう。その結果、リング状部材621の表面に残留したダストが、気流に乗って円筒状基体601の外周面へ飛散する場合があった。
【0036】
図5に示す本発明に係る構成では、基体ホルダー531に貫通孔532を設け、リング状部材521に貫通孔522を設けている。さらに、基体ホルダー531の貫通孔532の少なくとも一部とリング状部材521の貫通孔522の少なくとも一部が重なる状態となっている。これにより、基体ホルダー531の内側への排気の経路を十分に確保され、リング状部材521の表面に残留したダスト514が矢印の向きへ抜けることとなる。この結果、真空排気の際、円筒状基体501の上端部501aの端面と円筒状補助基体504の下端部504bの端面との接触部分の微小な隙間から円筒状基体501の外周面へ飛散するのを抑えることが可能となる。
【0037】
リング状部材521の表面に残留したダストが円筒状基体501の外周面へ飛散するのを抑えるには、基体ホルダー531とリング状部材521の両方ともに貫通孔を設ける必要がある。例えば、基体ホルダー531のみに貫通孔がある場合では、リング状部材521の周辺の空気を基体ホルダー531の内側へ抜けさせるには十分でない場合があった。
【0038】
次に、チャッキング部材503の構成について説明する。
チャッキング部材503は、圧縮ばね512、爪部507およびシャフト506を有している。また、チャッキング部材503は、下部にフランジ部、上部に筒状部を備えたケース510をさらに有している。そして、円盤505がケース510の下部のフランジ部に取り付けられている。シャフト506は、ケース510の筒状部内に挿通されており、リンク機構511を介して先端には2つの爪部507が設けられている。2本の爪部507は、シャフト506を上下に移動することにより、リンク機構511によって矢印507aの向きに移動して、2本の爪部507同士は近づいたり離れたりすることができる。図5に示すように、チャッキング部材503が基体ホルダー502をチャックした状態は、2本の爪部507同士が離れた状態である。
【0039】
次に、チャッキング部材503による基体ホルダー531のチャック工程について説明する。
まず、2本の爪部507同士が近づいた状態で、円筒状基体501が設置された基体ホルダー531の上端の頭部をクランプ可能な位置までチャッキング部材503を下降させる。その後、2本の爪部507同士をリンク機構511によって離した状態にし、2本の爪部507を基体ホルダー531上端の頭部にクランプさせる。これにより、基体ホルダー531の上端の頭部が2つの爪部507とチャッキング部材503の円盤505との間に固定され、チャッキング部材503による基体ホルダー531のチャック工程が完了する。
【0040】
チャッキング部材503を構成する種々の部材の材質としては、基体ホルダー531などの重量物を繰り返し搬送可能な強度を持つものであることが好ましく、具体的には、ステンレス、鉄が好ましく、その表面にニッケルまたはクロムによるメッキ被膜処理したものがより好ましい。
【0041】
円筒状基体501や円筒状補助基体504の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンなどが挙げられ、また、これらの合金も挙げられる。これらの中でも、加工性や製造コストの観点から、アルミニウムの合金が好ましい。アルミニウムの合金の中でも、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金が好ましい。
【0042】
また、基体ホルダー531の形状に関しては、円筒状基体501を搬送容器や反応容器の中に運搬し、それらの中で保持することができるような形状であることが好ましく、円筒状基体501の設置のしやすさの観点から、図5に示すように、円筒状基体501の下端を保持する形状がより好ましい。
【0043】
図2は、電子写真感光体の連続製造装置の例を示す図である。
図2に示す連続製造装置は、大別すると、投入装置2100、加熱装置2200、反応装置2300、冷却および排出装置2400、および、これらの装置間で移動可能な搬送装置2500を備えている。
【0044】
搬送装置2500の搬送容器2502内には、円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を掴むための爪、ならびに、固定用の円盤、上下移動用のシャフトおよび圧縮ばねなどを備えたチャッキング部材2507が設けられている。
【0045】
上記各装置の加熱容器2202、反応容器2302、冷却および排出容器2402、搬送容器2502は、真空排気可能な円筒状の縦型容器である。それら容器の各々には、容器内を真空排気するための排気ポンプ2205、2305、2405、2505が設けられている。さらに、それらの容器の各々には、排気バルブ2203、2303、2403、2503、2509が設けられている。さらに、それらの容器の各々には、開閉ゲート2201、2301、2401、2501が設けられている。搬送装置2500の開閉ゲート2501は、それらの容器の各々の開閉ゲート2201、2301、2401に接続可能になっている。
【0046】
投入容器2102には、開閉ゲート2101が設けられている。投入容器2102内には、その内部を大気状態としたまま、円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510が搬入される。加熱容器2202には、加熱時に使用するガスを流入させる補助バルブ2204が設けられている。冷却および排出容器2402には、加熱容器2202内を大気圧に戻すためのリークバルブ2404が設けられている。反応容器2302には、反応ガスを流入させる補助バルブ2304、2306が設けられており、高周波マッチングボックス(不図示)および高周波電源(不図示)が接続されている。
【0047】
搬送容器2502には、容器内を減圧し、所定の真空度にするための排気バルブ2503、ゲート間を減圧し、所定の真空度にするための排気バルブ2509、ゲート間を大気圧に戻すためのリークバルブ2504が設けられており、内部空間を真空排気可能である。さらに、搬送容器2502には、円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を移動させるためのチャッキング部材2507が設けられている。チャッキング部材2507は、基体ホルダー2510をチャックして、搬送容器2502内への搬入および搬送容器2502内からの搬出を行う。搬送装置2500は、シャフトにより上下に移動可能であり、移動用レール2506の上を移動可能である。
【0048】
投入容器2102、加熱容器2202、反応容器2302、冷却および取り出し容器2402の数は、それぞれの処理時間に応じて選択される。また、搬送容器2502は、同時に複数の基体を移送できるように複数設けることも可能である。
【0049】
図2に示す連続製造装置を用いた電子写真感光体の連続製造は、例えば、以下のように行われる。
【0050】
円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を投入容器2102内に設置した後、搬送容器2502を投入容器2102上に移動・下降させて、開閉ゲート2501を開閉ゲート2101に接続させる。
【0051】
開閉ゲート2501、2101を開き、円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510をチャッキング部材2507により搬送容器2502内に移動させた後、開閉ゲート2501、2101を閉じ、搬送容器2502を所定の位置まで上昇させる。この状態で、搬送容器2502の下部側から排気ポンプ2505および排気バルブ2503によって搬送容器2502内を排気し、搬送容器2502内を大気圧から所定の真空度になるまで減圧する。搬送容器2502内が所定の真空度に到達した時点で、排気バルブ2203および排気ポンプ2205によって搬送容器2502を所定の真空度に保持した加熱容器2202上に移動させる。その後、開閉ゲート2501を開閉ゲート2201に接続させ、排気バルブ2509を開け、排気ポンプ2505によって開閉ゲート2501、2201間を所定の真空度にする。なお、搬送容器2502内が所定の真空度でない場合は、排気バルブ2503を開け、排気ポンプ2505によって減圧を行う。
【0052】
開閉ゲート2501、2201間が所定の真空度に到達した段階で、双方の開閉ゲートを開き、チャッキング部材2507によって円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を加熱容器2202内に移動させる。円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を加熱容器2202内に設置し、チャッキング部材2507を搬送容器2502内に引き上げさせた後、開閉ゲート2501、2201を閉じ、リーク用ガスを開閉ゲート間リークバルブ2504から開閉ゲート2501、2201間に供給し、開閉ゲート2501、2201間を大気圧にする。その後、搬送容器2502の開閉ゲート2501を開閉ゲート2201から切り離す。
【0053】
加熱容器2202内が所定の圧力になるまで加熱用ガスを補助バルブ2204から加熱容器2202内に供給し、加熱容器2202内に設置されている円筒状基体加熱用のヒーター(不図示)を用いて基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508を所定の温度に加熱する。
【0054】
搬送容器2502の開閉ゲート2501を再び開閉ゲート2201に接続させ、排気バルブ2509を開けて排気ポンプ2505にて開閉ゲート2501、2201間を所定の真空度にする。開閉ゲート2501、2201間が所定の真空度に到達した段階で、開閉ゲート2501、2201を開き、チャッキング部材2507によって円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510を搬送容器2502内に移動させる。移動後、開閉ゲート2501、2201を閉じ、リーク用ガスを開閉ゲート間リークバルブ2504から開閉ゲート2501、2201間に供給し、開閉ゲート2501、2201間を大気圧にする。その後、搬送容器2502の開閉ゲート2501は、開閉ゲート2201から切り離され、後工程へ移る。
【0055】
後工程においては、上記と同様の操作によって、反応容器2302ならびに冷却および排出容器2402と搬送容器2502との間で、円筒状基体2508および円筒状補助基体(不図示)が設置された基体ホルダー2510の受け渡しが行われる。
【0056】
反応容器2302内では、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508上に堆積膜が形成される。冷却および排出容器2402内では、基体ホルダー2510に設置された円筒状基体2508が所定の温度になるまで冷却される。そして、冷却および排出容器2402内が大気圧になるまでリーク用ガスをリークバルブ2404から排出容器2402内に供給した後、冷却および排出容器2402内から円筒状基体2508を搬出する。
【0057】
次に、図3に示す真空処理装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。
まず、あらかじめ脱脂洗浄した円筒状基体3112を、円筒状補助基体3125およびリング状部材3126とともに基体ホルダー3123に設置し、図2に示す連続製造装置の搬送装置(図2の2500)を用いて、反応容器3100(図2の2302)内に設置する。反応容器3100内は、排気ポンプ(不図示)によりあらかじめ真空保持されている。また、円筒状基体加熱用のヒーター3113には、あらかじめ電力を供給しておき、加熱容器で加熱された円筒状基体3112が所定の温度(例えば、50〜350℃)に保たれるよう、基体ホルダー3123に設置された円筒状基体3112を加熱する。このとき、ガス供給装置3200より、Ar、Heなどの不活性ガスを反応容器3100内に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
【0058】
次に、ガス供給装置3200より堆積膜形成用の原料ガスを反応容器3100内に供給する。すなわち、補助バルブ3210を開けて、必要に応じてバルブ3231〜3236、3241〜3246、3251〜3256を開き、マスフローコントローラー3211〜3216の流量設定を行う。マスフローコントローラー3211〜3216の各々の流量が安定したところで、真空計3119の表示を見ながら反応容器3100内の圧力が所定の圧力になるように調整する。反応容器3100内の圧力を調整する方法としては、例えば、メカニカルブースターポンプの回転数を操作する方法などが挙げられる。
【0059】
所定の圧力が得られたところで、高周波電源3120より高周波電力を反応容器3100内に供給するとともに、高周波マッチングボックス3115を操作し、反応容器3100内にプラズマ放電を生起させる。その後、速やかに高周波電力を所定の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。
【0060】
堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の供給を停止し、バルブ3231〜3236、3241〜3246、3251〜3256、および、補助バルブ3210を閉じ、原料ガスの供給を終える。それとともに、メインバルブ3118を全開にし、反応容器3100内の圧力が所定の圧力(例えば、1Pa以下)になるまで反応容器3100内を排気する。
【0061】
複数の堆積層を形成する場合、再び上記の手順を繰り返して、それぞれの層の堆積膜を形成すればよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0063】
[実施例1]
図2に示す連続製造装置および図3に示す真空処理装置を用い、表1に示す条件で、円筒状基体上に図7に示す層構成の電子写真感光体(アモルファスシリコン感光体)を5本製造した。図7中、701は円筒状基体であり、702は下部電荷注入阻止層であり、703は光導電層であり、704は表面層である。
【0064】
本実施例では、基体ホルダーをチャックするためのチャッキング部材として、図5のチャッキング部材503を使用した。
【0065】
図4を用いて説明した方法により、円筒状基体401の端部の内周面と円筒状補助基体404の端部の内周面にリング状部材421を取り付け、これらを基体ホルダー431に設置した。
【0066】
本実施例において使用した円筒状基体は、内径が78mm、外径が84mm、長さが381mm、肉厚が3mmのアルミニウム製の円筒状基体である。また、この円筒状基体の両端部の内周面には、内径が大きくなっているインロー部が設けられており、インロー部の深さ(円筒状基体の軸方向の長さ)は13mmであり、内径は79.7mmである。
【0067】
また、本実施例において使用した円筒状補助基体は、外径が84mm、長さが100mm、肉厚が3mmのアルミニウム製の円筒状補助基体である。また、この円筒状補助基体の端部(円筒状基体と接する側の端部)の内周面には、上記円筒状基体のインロー部と深さおよび内径が同一のインロー部が設けられている。
【0068】
また、本実施例において使用したリング状部材は、図1(b)に示す形状の、内径が77.8mm、外径が79.4mm、高さが25.8mmのステンレス鋼製のリング状部材である。また、このリング状部材に設けられている長方形の貫通孔の長さはl20mmであり、幅wは2.5mmであり、リング状部材の周方向に10mm等間隔に千鳥状に4段設けられている。
【0069】
また、本実施例において使用した基体ホルダーは、図1(d)に示す形状の、円筒状基体および円筒状補助基体と面する筒状の部分(筒状部)の外径が76mm、内径が68mmであるアルミニウム製の基体ホルダーである。また、この基体ホルダーの筒状部に設けられている長方形の貫通孔の長さlは20mm、幅wは8mmであり、基体ホルダーの周方向に4箇所等間隔に、リング状部材の貫通孔と対向する位置に設けられている。
【0070】
本実施例では、リング状部材421を取り付けた円筒状基体401および円筒状補助基体404を基体ホルダー431に装着した状態で、リング状部材421の貫通孔422の一部と基体ホルダー431の貫通孔432の一部が重なる状態となる。
【0071】
また、本実施例における搬送容器内を大気状態から真空状態に排気する工程は、搬送容器2502内に円筒状基体2508が設置された基体ホルダー2510を搬入し、これをチャッキング部材2507でチャック(クランプ固定)した状態で実施した。より具体的には、大気状態から排気バルブ2509および排気ポンプ2505によって搬送容器内の排気を行い、15分後に2.67kPaに達する排気速度で真空排気を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
[比較例1]
リング状部材および基体ホルダーをどちらも貫通孔がないものに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を5本製造した。
【0074】
[比較例2]
リング状部材を貫通孔がないものに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を5本製造した。
【0075】
[比較例3]
基体ホルダーを貫通孔がないものに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を5本製造した。
【0076】
[実施例2]
リング状部材および基体ホルダーを以下のものに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を5本製造した。
【0077】
本実施例において使用したリング状部材は、図1(c)に示す形状の、内径が77.8mm、外径が79.4mm、高さが25.8mmのステンレス鋼製のリング状部材である。また、このリング状部材に設けられている長方形の貫通孔の長さlは26mmであり、幅wは2mmであり、傾きは45°であり、リング状部材の周方向にd=8mmの等間隔に並列に設けられている。
【0078】
本実施例において使用した基体ホルダーは、図1(e)に示す形状の、円筒状基体および円筒状補助基体と面する筒状の部分(筒状部)の外径が76mm、内径が68mmであるアルミニウム製の基体ホルダーである。また、この基体ホルダーの筒状部に設けられている丸形の貫通孔の直径は10mmであり、基体ホルダーの周方向に4箇所等間隔に、リング状部材の貫通孔と対向する位置に設けられている。
【0079】
[評価]
実施例1〜2および比較例1〜3で製造した電子写真感光体に対して、堆積膜の異常成長で生じる球状突起の評価を以下の方法で行った。
【0080】
製造した電子写真感光体に対して、電子写真感光体の軸方向の中心から±170mmの領域を光学顕微鏡で観察し、電子写真感光体の表面(=堆積膜の表面)に存在する直径10μm以上の球状突起の個数を数えた。
【0081】
各例ごとに5本の電子写真感光体の球状突起の個数の平均値を算出し、比較例1で製造した電子写真感光体の当該平均値を100として、各例の相対比較を行った。その値が小さいほど、球状突起の個数が少ないことを示す。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【符号の説明】
【0083】
121、421 リング状部材
122、132、422、432 貫通孔
131、431 基体ホルダー
401 円筒状基体
404 円筒状補助基体
503 チャッキング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基体の端部の内周面と円筒状補助基体の端部の内周面にリング状部材を取り付け、筒状部を有する基体ホルダーに該円筒状基体および該円筒状補助基体を設置し、該基体ホルダーをチャッキング部材によりチャックして真空排気可能な搬送容器内に搬入し、搬入した状態で該搬送容器内を真空排気し、該円筒状基体および該円筒状補助基体を真空状態で搬送する工程を有する真空処理方法において、
該リング状部材および該基体ホルダーの筒状部に貫通孔を設け、該搬送容器内を真空排気する際、該リング状部材の該貫通孔の少なくとも一部と該基体ホルダーの貫通孔の少なくとも一部とが重なる状態で該搬送容器内を真空排気することを特徴とする真空処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の真空処理方法を用いて円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108133(P2013−108133A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253963(P2011−253963)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】