説明

真空処理装置

【課題】 本発明は、新規な構造の電力導入機構を開発し、摺動部を介して電力を安定して供給できる真空処理装置を提供することを目的とする。また、長寿命の電力導入機構を備えた真空処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 真空室の内部に回転可能に設けられた基板ホルダと、該基板ホルダと回転軸を同じくする回転体の外周に設けられた、該回転体の回転機構と、電力導入用電源から前記回転体を介して前記基板ホルダに電力を導入する電力導入機構と、を備えた真空処理装置であって、前記電力導入機構は、前記回転体外周に取り付けられた第1の環状部材と、前記電力導入用電源と接続され、端面が前記第1の環状部材の端面と摺動するように配置された第2の環状部材と、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明には真空処理装置に係り、特に回転する基板にバイアス電圧を安定して印加することが可能な真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スパッタリングなどにおいて、1つの真空室内に複数のターゲットがあり、基板が各ターゲットに対向する位置に順次移動して成膜を行う真空処理プロセスでは、基板面内の均一性を高めるために基板を回転させながら成膜処理等が行われている。真空処理装置としては、真空室内に基板ホルダを回転軸が真空室の壁を貫通するように配置し、回転軸を磁性流体シールにより気密で回転可能に保持する構成が用いられる。このようにして、真空室内を高真空に維持しながら基板を回転させることができる。
【0003】
また、磁気抵抗効果素子等の高機能素子の製造においては、素子の高特性化・高集積化には、真空処理時の基板バイアス印加が有効な方法であり、例えば、成膜時やエッチング時に基板に所定のバイアス電圧を印加して、基板に衝突するイオンのエネルギを制御することにより、膜の高品質化及び微細加工精度の向上を図っている。
【0004】
基板を回転させながらバイアス電圧を印加する手段を備えた、従来の真空処理装置の一例を図3の模式的断面図に示す。図に示すように、排気装置9を備えた真空室1の内部に基板36を保持した基板ホルダ3を配置する。基板ホルダ3と回転軸を同じくする回転体7は真空室1の底壁を貫通し、磁性流体シール12により回転可能でかつ気密に保持され、真空室内部を高真空に保っている。回転体7は電力導入機構15を介してバイアス用電源17に接続されている。
【0005】
電力導入機構15の詳細を図4(図3のI−I’断面図)を用いて説明する。図に示すように、電力導入機構は、回転体7との摺動部にカーボン電極32を備え、導電性板材33とバネ部材34により、回転体にカーボン電極32を所定の力で押しつけるように構成されている。導電性板材33は配線35を介してバイアス用電源17に接続されている。従って、バイアス用電源17から、例えば高周波電力が供給され、これが配線35,板材33、カーボン電極32を通って回転体7に、さらに基板ホルダ3を経由し、基板36に所定のバイアス電圧が印加される。
【特許文献1】特開2002−339064
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、TMRやMRAM等の磁気抵抗素子、その他の高機能素子では、さらなる高性能化、高集積化を図るべく、膜の均質化、膜厚均一化及び表面粗さ等のより一層の改善が求められているが、このためには、回転する基板ホルダ上に載置された基板への、バイアス電圧のより高精度の制御及び高電力の導入が必要である。しかしながら、上述した従来技術のように、回転している構造体(回転体)の側面から行われるバイアス電力導入機構の場合、曲面である回転体の表面に確実にカーボン電極を接触させるためにはカーボン電極32との接触面積を大きくすることができず、しかも、カーボン電極を回転体に接触させる機構を回転体の側面に配置する必要があり、構造的に複雑なものであった。またカーボン電極の摩擦熱による劣化や摩耗により、基板への電力の供給安定性が問題となってきた。即ち、基板表面でのバイアス電位に偏りが生じて均一かつ均質な成膜を阻害したり、また基板表面でチャージアップが生じて素子としての機能を破壊したり、エッチングではエッチング速度を上げられない等の場合もあった。さらに、カーボン電極は曲面である回転体と接触するため摩耗しやすい構造であり、短い周期での定期交換が必要という問題もあった。
【0007】
以上の事情は、スパッタリング等の成膜処理に限らずドライエッチング等の処理においても同様であるが、この場合はより大きな電流が流れることから、電力の供給はさらに不安定になる。
【0008】
かかる状況において、本発明は新規な構造の電力導入機構を開発し、摺動部を介して電力を安定して供給できる真空処理装置を提供することを目的とする。また、長寿命の電力導入機構を備えた真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の真空処理装置は、真空室の内部に回転可能に設けられた基板ホルダと、該基板ホルダと回転軸を同じくする回転体の外周に設けられた、該回転体の回転機構と、電力導入用電源から前記回転体を介して前記基板ホルダに電力を導入する電力導入機構と、を備えた真空処理装置であって、前記電力導入機構は、前記回転体外周に取り付けられた第1の環状部材と、前記電力導入用電源と接続され、端面が前記第1の環状部材の端面と摺動するように配置された第2の環状部材と、からなることを特徴とする。
【0010】
このように、位置的に上位にある環状部材の底面が下位にあるものの上面に接触して縦方向に2つの環状部材の端面(環状部材の上面若しくは底面)間で摺動させる構成とすることにより、従来のカーボン電極に比べ接触面積を大幅に増大させることができ、かつ、単純な構造であり、長期にわたり接触面積は変動しにくいことから、大きな電力であっても基板ホルダへの安定した供給が可能となる。
【0011】
前記第1及び第2の環状部材の少なくとも互いに摺動する端面は、硬質材料で構成するのが好ましく、例えばタングステンカーバイトやクロムを用いることにより、摺動による摩耗が抑えられ、長期にわたり変化の少ない電力供給が可能となる。
【0012】
さらに、前記第1の導電性環状部材と前記第2の導電性環状部材との間に、冷媒を供給するのが好ましく、冷媒により摺動部の摩擦熱は吸収されて環状部材の温度上昇(例えば、抵抗値変化)を防止し、より一層安定した電力供給が可能となり、さらに冷媒(例えば水)により、環状部材間の潤滑性を向上させることも可能である。
また、前記冷媒は、基板冷却用の冷媒とするのが好ましい。このように摩擦熱の除去に基板温度制御用の冷媒を兼用することにより、装置全体のコンパクト化を図ることができる。
【0013】
前記電力導入用電源には、高周波電原、直流電源及びパルス電源等を用いることができるが、特に基板へのバイアス電圧の印加には高周波電源が好適に用いられ、基板のバイアス電圧及びその均一性をを高精度に制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、基板ホルダと一体にある回転体への電力導入を互いに摺動する環状部材を介して行う構成としたことから、両者の接触面積を十分に大きくすることが可能となり、基板ホルダへの電力の安定供給が可能となる。従って、種々の高機能素子に適したスパッタ装置、エッチング装置、その他の真空処理装置を構築することが可能となる。さらには、冷媒により摺動による摩擦熱を効果的に除去する構成とすることから、摺動部材の劣化や抵抗値変化を防止し長期間にわたり安定した電力供給が可能となる。また、基板へのバイアス電圧印加に限らず、より大電流の供給等の用途への応用も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の真空処理装置の一例を示すスパッタ装置の模式的断面図である。真空処理装置は、図に示すように、真空室1内にターゲット2と基板36を載置した基板ホルダ3が対向して配置され、真空室1はバルブ8を介して排気装置9に連結されている。ターゲット2は整合器10を介して例えば直流電源11に連結されている。
【0016】
一方、回転体7は真空室1の底壁を貫通し、真空シール部材(例えば、磁性流体シール)12により真空室内部の気密が保たれている。真空シール部材12の下方には、回転体7に取り付けられた磁石とその外周周辺に配置された電磁石との相互作用により回転体7の回転制御を行う回転用ダイレクトドライブモータ14が配置されている。さらに、回転体7の回転数及び方位を検出するエンコーダ13が配置される。基板ホルダ3は、基板電極4と電極支持部材6間に絶縁部材5が配置された構造を有し、基板電極4は、電力導入棒20、電力導入機構15及び整合器18を介して電力導入用の高周波電源(例えば、13.56MHz)17に接続されている。
【0017】
電力導入機構15には、基板冷却用冷媒の供給ポート及び排出ポートが設けられ、それぞれ回転体7の供給路19及び排出路21を介して基板ホルダの流体路23と連通し、恒温槽16と基板ホルダの流体路23間で、所定温度に調節された流体が循環して基板36を所定温度に制御する構成となっている。
【0018】
次に、電力導入機構15を図2に示した拡大模式図を参照してより詳細に説明する。
電力導入機構15は、回転体7に取り付けられた第1の環状部材30と、該環状部材30の端面と接触して配置された第2の環状部材31とから構成され、本実施例では、2組の第1及び第2の環状部材が配置された構成となっている。ここで、第1及び第2の環状部材としては、例えば、外径58mm、内径48mmのSUS製リングの表面にタングステンカーバイトを被覆した部材が用いられる。従って、高周波電力は、高周波電源17から金属製の外枠部材(例えばSUS製)24を通って第2の環状部材31、31’、さらには第1の環状部材30,30’へと供給され、さらに電力導入棒20を通って基板電極4へと供給される。ここで、電力導入機構15上部の回転体7外周部は、絶縁体22により電極導入棒20と絶縁され、接地されている。
【0019】
また、外枠部材24には、冷媒供給ポート25及び排出ポート27並びにこれらにそれぞれ連通する環状の流体路26,27が設けられており、回転体7が回転しても、供給路19及び排出路21は常にそれぞれ冷媒供給ポート25及び排出ポート27と連通する構成となっている。さらに、外枠部材24には、第1の環状部材30、30’及び第2の環状部材31、31’の接触部にも冷媒が送られる構成とし、両者の間を漏れ出た冷媒を排出するためのドレイン29,29’が設けられている。
【0020】
このようにして、バイアス用の高周波電力は、大きな接触面積を有する環状部材30及び31、30’及び31’を介して供給される。また、環状部材間の摩擦熱が冷媒により効果的に除去されるため、安定した高周波電力の供給を継続して行うことができる。
【0021】
なお、第1及び第2の環状部材としては、タングステンカーバイト、硬質クロム等の耐摩耗性があり、かつ冷媒に対する耐食性を備えた導電性材料が好適に用いられるが、例えば、上述したようにSUS等の金属・合金を用いてその少なくとも摺動部をこれらの硬質材料で被覆する構成としてもよい。また、第1及び第2の環状部材としては異なる材質であっても良い。
【0022】
次に、図1のスパッタ装置を用いた薄膜形成方法を説明する。基板36を基板ホルダ3上に載置した後、真空室1内部を排気装置9で高真空に排気する。続いて、ガス供給機構(不図示)から所定流量のArガスを導入しバルブ8を調節して真空室内部を所定の圧力に設定する。このとき、回転用ダイレクトドライブモータ14を駆動して回転体7を回転させ、基板36を所定の回転数(例えば100rpm)に制御する。また、恒温槽16をONして所定温度に設定した冷却水を基板ホルダ3との間で循環し、基板36を所定の温度に調節する。
【0023】
直流電源11から高周波電力をターゲット2に供給してプラズマを発生させるとともに、バイアス用高周波電源(13.56MHz)17からバイアス電力を電力導入機構15に供給し、基板上に成膜を開始する。このようにして、バイアス用の高周波電力は電力導入機構15及び電力導入棒20を介して基板電極4に供給されて、基板全面に均一に所望のバイアス電圧が印加される。即ち、基板に衝突するイオンのエネルギを要求される膜質に適した値に設定した状態で、基板上に薄膜が形成されるため、高品質で、しかも均質かつ表面粗さのきわめて小さな薄膜が形成される。また、電力導入機構15の摺動部はタングステンカーバイトとし、かつ冷媒を供給したことから、摺動熱による電気的変化が防止され、又摩耗しにくいため、長期間にわたり再現性のある薄膜形成を行うことができる。
なお、上記バイアス用電源としては、高周波電源に限らず、直流電源等を用いることもできる。
【0024】
図2の構成例では、第1及び第2の環状部材の2組を配置する構成としたが、1組又は3組以上としても良いことは言うまでもない。また、第1及び第2の環状部材の組み合わせについても、1対1に限定するものではなく、第1の環状部の上下の端面に摺動するように第2の環状部材を配置することも、又はその逆の構成も可能である。さらに、第1の環状部材は回転体と一体に形成しても良いことは言うまでもない。また、環状部材と基板の冷媒を兼用する構成としたが、別々に冷媒を供給する構成としても良い。
以上は、ドライエッチングの場合も同様であり、また、本発明は回転体へのバイアス電圧の印加に限らず、他の電力導入の用途(例えば回転体内部の静電吸着電源への電力導入等)又は基板ホルダのチャージアップ防止等に用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の真空処理装置の一例を示す模式的断面図である。
【図2】図1の電流導入機構の拡大図である。
【図3】従来の真空処理装置を示す模式的断面図である。
【図4】図3の電流導入機構の拡大図である。
【符号の説明】
【0026】
1 真空室、
2 ターゲット、
3 基板ホルダ、
4 基板電極、
5 絶縁部材、
6 電極支持部材、
7 回転体、
8 バルブ、
9 排気装置、
10 整合器、
11 直流電源、
12 真空シール部材、
13 エンコーダ、
14 回転用ダイレクトドライブモータ、
15 電力導入機構、
16 恒温槽、
17 バイアス用高周波電源
18 整合器、
19 供給路、
20 電力導入棒、
21 排出路、
22 絶縁部材、
23 基板ホルダの流体路、
24 外枠部材、
25 冷媒供給ポート、
26,28 環状の流体路、
27 排出ポート、
29,29’ ドレイン、
30 第1の導電性環状部材、
31 第2の導電性環状部、
32 カーボン電極、
33 導電性板材、
34 バネ部材、
35 配線、
36 基板、
37 シール材、
38,38’ ベアリング。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室の内部に回転可能に設けられた基板ホルダと、該基板ホルダと回転軸を同じくする回転体の外周に設けられた、該回転体の回転機構と、電力導入用電源から前記回転体を介して前記基板ホルダに電力を導入する電力導入機構と、を備えた真空処理装置であって、
前記電力導入機構は、前記回転体外周に取り付けられた第1の環状部材と、前記電力導入用電源と接続され、端面が前記第1の環状部材の端面と摺動するように配置された第2の環状部材と、からなることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記第1の環状部材及び前記第2の環状部材の少なくとも互いに摺動する端面は、硬質材料で構成したことを特徴とする請求項1記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記硬質材料は、タングステンカーバイト又は硬質クロムであることを特徴とする請求項2記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記第1の環状部材と前記第2の環状部材との間に、冷媒を供給する構成としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記冷媒は、基板を冷却するためのものであることを特徴とする請求項4記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記電力導入機構は、基板に所定のバイアス電圧を印加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【請求項7】
前記電力導入用電源は、高周波電原であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の真空処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−336034(P2006−336034A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158678(P2005−158678)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】