説明

真空処理装置

【課題】成膜処理の生産性の向上を図ることができ、且つキャリアの洗浄回数を減らすことができる等のキャリアの管理コストの低減に寄与する真空処理装置を提供する。
【解決手段】真空処理装置は、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCの間で移送されるキャリア7と、プロセスチャンバPC内に移送されたキャリア7から基板7を受け取るフック19を備えており、基板5への真空処理はキャリア7がロードロックチャンバLLに退避した後に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状又は板状の基板に対する真空処理に適した真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板などの基板に対して1〜3層程度の成膜を行う場合には、1室のプロセスチャンバ(PC)に1室のロードロック(LL)が連結された成膜装置を用いることあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような、プロセスチャンバ(PC)とロードロック(LL)が1室ずつで構成された成膜装置では、ロードロック室(LL)で基板の交換が行われる間はプロセスチャンバ(PC)で成膜することができないため、実質的な設備稼率を向上するには限界があり、成膜処理の生産性(スループット)向上を図ることが困難であった。
【0004】
また、プロセスチャンバ(PC)とロードロック(LL)が1室ずつで構成された成膜装置において、基板をキャリアに保持した状態で真空容器内を移送する装置が用いられることがある。このような装置では、キャリアを真空容器から取り出した状態で、基板の取付けと取り外しを行うことがあり、基板の取付けと取り外しの作業に要する工数が多く生産性の向上が課題となっていた。
【0005】
そこで、ロードロック室(LL)での作業時間短縮を図るために、プロセスチャンバ(PC)を挟んで上流側と下流側にそれぞれロードロック室(LL)を配置し、基板を一方方向に通過させる方法が採用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
例えば、特許文献2に開示された技術は、LOADチャンバとUNLOADチャンバの間に複数のプロセスチャンバが配設された真空処理装置を用いた方法である。この真空処理装置では基板をキャリアに保持した状態で移送することができるため、連続的に基板上に多層膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−272979号公報
【特許文献2】特開平7−243037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献2の技術では、基板を保持するキャリア(若しくはホルダ)を真空容器内で移送するための機構が複雑であり、成膜装置の低コスト化が困難であるという問題があった。また、キャリアに基板を保持した状態で真空処理を行うことから、キャリアを適切に管理する必要があり、多くの場合、キャリアを定期的にクリーニングしていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、キャリアの管理コストの低減に寄与する真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る真空処理装置は、所定の真空処理が基板に行われるプロセスチャンバと、プロセスチャンバに接続されたロードロックチャンバと、基板を搭載でき、ロードロックチャンバとプロセスチャンバの間で移送されるキャリアと、を備え、プロセスチャンバは、プロセスチャンバ内に移送されたキャリアから基板を受け取る係止部を有し、キャリアがロードロックチャンバに移送された後に、基板に前記真空処理が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
プロセスチャンバに、キャリアが存在しない状態で真空処理を行うため、キャリアの洗浄回数を減らすことができるため、メンテナンスコストの低減が容易な真空処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る真空処理装置の概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る真空処理装置の動作説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る真空処理装置の概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る真空処理装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の各実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変できることは勿論である。なお、図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略している。
【0014】
本願明細書中では、真空処理装置としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を成膜するCVD成膜装置(真空処理装置1)を例に挙げて説明するが本発明はこの限りではない。例えば、スパッタリング装置や他のPVD装置若しくは他のCVD装置などにも本発明は好適に適用可能である。本発明は成膜装置以外の処理装置、例えばドライエッチング装置若しくはアッシング装置、熱処理装置などの装置にも好適に適用可能である。
【0015】
(第1実施形態)
図1に基づいて真空処理装置1の概略構成を説明する。真空処理装置1はCVD装置であり、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCがゲートバルブGV2を介して連結されている。また、真空処理装置1は各チャンバ間で基板5を移送するための移送装置Tを備えている。
【0016】
基板5として導電性の板状若しくはシート状のものが用いられる。例えば、ステンレス板などの金属板に好適に適用することができる。基板5には後述するフック(係止部)を係止するための係止孔5aが形成されている。なお、プロセスチャンバPC内で、後述するバイアス印加など基板に電力を導通させないプロセスを行う場合は不導体の基板に本発明を適用することができる。
【0017】
プロセスチャンバPCは、ロードロックチャンバLLから基板5を導入され、真空処理後に、ロードロックチャンバLLを介して基板5を大気側に排出する。プロセスチャンバPCは、DLC(Diamond Like Carbon)を成膜するためのCVD成膜チャンバであり、図示しないがガス導入系と電力供給系及び排気系などを備えている。ガス導入系7から導入されるガスはCxHy(炭化水素系ガス),H2,N2,Arなどである。その他にも、プロセス中の圧力をモニターする真空計がプロセスチャンバPCに備えられている。また、プロセスチャンバPCには、DLC膜を成膜するCVD処理装置の他にアッシング処理装置及び基板5を所定温度に加熱するヒータが備えられている。
【0018】
ロードロックチャンバLLは基板5を大気側から導入するチャンバであり、プロセスチャンバPCにゲートバルブGVを介して接続されている。ロードロックチャンバLLには不図示のガス導入系や排気系が備えられている。
【0019】
移送装置Tについて説明する。移送装置Tは、ラックアンドピニオン機構を用いて構成されており、基板5を搭載したキャリア7をロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCとの間で移送することができる。
【0020】
キャリア7は、基板5を立てた状態で保持するホルダ11の底部にラック13とローラー15が設けられて構成されている。また、ロードロックチャンバLLにはモーター(動力源)に連結されているピニオン17が2箇所に設けられている。また、ローラー15は回転自在なベアリングを介してホルダ11側に取り付けられている。なお、基板5を立てた状態とは基板5の被成膜面が水平方向の両側に向いた状態をいうものとする。
【0021】
ラック13に歯合しているピニオン17を回転させることでキャリア7をロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCとの間で移送させることができる。なお、2つのピニオン17は、プロセスチャンバPCに近い方をピニオン17aとし、プロセスチャンバPCから遠い方をピニオン17bとする。なお、2つのピニオン17a,17bは同一の動力源に連結されているため同期回転する。
【0022】
キャリア7がプロセスチャンバPC内に位置しているときにも、ラック13はピニオン17aと歯合する寸法に構成されている。同様に、キャリア7がロードロックチャンバLLの基板移載位置Aに位置しているときにも、ラック13はピニオン17bと歯合する寸法に構成されている。このような構成では、プロセスチャンバPC内にピニオン17がないため、ピニオン17に成膜などの真空処理がされることがなく、メンテナンスが容易である。
【0023】
なお、基板移載位置Aとは、ロードロックチャンバLLのゲートバルブGV1の大気側であり、基板移載位置Aにキャリア7が位置するときに、キャリア7に未処理の基板5を搭載し、又はキャリア7から処理済の基板5を取り外すように構成されている。
【0024】
プロセスチャンバPCには、係止部としてのフック19が設けられている。フック19は、基板5の係止孔5aに係止して、プロセスチャンバPC内で基板5を支持するための手段であり、駆動源19aによって動作させることができる。駆動源19aは、フック19の先端(係止孔5aに挿入される部分)を進退動、及び上下動させることができる装置である。
【0025】
未処理の基板5を搭載したキャリア7がプロセスチャンバPC内に移送されたときに、駆動源19aによってフック19の先端を基板5の係止孔5aに挿入し、上昇させて基板5をプロセスチャンバPC内に保持する。また、真空処理が終わった後に、基板5を搭載していないキャリア7がプロセスチャンバPC内に移送されたときに、フック19を降下させて、キャリア7の搭載位置に基板5を載せてからフック19の先端を係止孔5aから抜くことで、処理済の基板5をキャリア7に再び搭載することができる。
【0026】
また、本実施形態のフック19は、タングステン製などの高融点金属であり、バイアス電源29から電力(バイアス電力)を印加できる。そのため、フック19が基板5を保持した状態でフック19に電力を印加すると、基板5にバイアス電力を印加することができる。
【0027】
図2に基づいて真空処理装置1での処理工程について説明する。
まず、ロードロックチャンバLLのゲートバルブGV1を開放し、キャリア7を基板移載位置Aに移送し、基板5をキャリア7に搭載する。そして、ピニオン17bを動作させてキャリア7をロードロックチャンバLL内に移送してGV1を閉鎖し、ロードロックチャンバLL内を真空排気する。このときが図1の状態である。
【0028】
次に、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCの間のゲートバルブGV2を開放し、ピニオン17(17a)を動作させてキャリア7をプロセスチャンバPC内に移送する(図2(a)参照)。そして、フック19を基板5の係止孔5aに係止し、キャリア7をロードロックチャンバLL内に移送し、GV2を閉鎖する。その後、プロセスチャンバPC内での真空処理を行う(図2(b)参照)。真空処理中のプロセスチャンバPC内にはキャリア7は存在していない。本実施形態ではCVDプロセスにより、基板5の両面に硬質カーボン膜(DLC膜)を成膜する。このとき、基板5にはフック19を介してバイアス電力が印加される。
【0029】
真空処理が終了したら、ゲートバルブGV2を開放し、ピニオン17aを動作させて、キャリア7をプロセスチャンバPC内に移送させる。そして、フック19を動作させて、処理済の基板5をキャリア7に搭載させた後、キャリア7をロードロックチャンバLL内に戻す。GV2を閉鎖し、ベント操作の後GV1を開放し、キャリア7を基板移載位置Aに移送させて基板5の交換を行う。
【0030】
本実施形態の真空処理装置1によれば、プロセスチャンバPCに、キャリア7が存在しない状態で真空処理を行うため、キャリア7が真空処理により汚染されることがない。そのため、キャリア7の洗浄回数を減らすことができる。また、真空処理装置1はプロセスチャンバPC内にキャリア7が存在しない状態で真空処理を行うため、キャリア7からパーティクルが生じることがない。
【0031】
(第2実施形態)
図3に本発明の第2実施形態に係る真空処理装置2を示す。
真空処理装置2は、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCとアンロードチャンバULを連結したものである。アンロードチャンバULはゲートバルブGV3を介してプロセスチャンバPCに連結されている。なお、第1実施形態と同様の部材、配置等には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0032】
真空処理装置2は、ロードロックチャンバLLに供給された未処理の基板5を、プロセスチャンバPCで真空処理し、処理済みの基板5をアンロードチャンバULから排出する構成である。真空処理装置2の移送装置T2は、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCの間でのみ移送するキャリア7(第1キャリア)と、プロセスチャンバPCとアンロードチャンバULの間でのみ移送するキャリア8(第2キャリア)とを有している。
【0033】
図4に基づいて真空処理装置1での処理工程について説明する。まず、ロードロックチャンバLLのゲートバルブGV1を開放し、キャリア7を基板移載位置(不図示)に移送し、基板5をキャリア7に搭載する。そして、ピニオン17bを動作させてキャリア7をロードロックチャンバLL内に移送してGV1を閉鎖し、ロードロックチャンバLL内を真空排気する。このときが図3の状態である。
【0034】
次に、ロードロックチャンバLLとプロセスチャンバPCの間のゲートバルブGV2を開放し、ピニオン17aを動作させてキャリア7をプロセスチャンバPC内に移送する(図4(a)参照)。そして、フック19を基板5の係止孔5aに係止し、キャリア7をロードロックチャンバLL内に移送し、GV2を閉鎖する。その後、プロセスチャンバPC内での真空処理を行う(図4(b)参照)。真空処理中のプロセスチャンバPC内にはキャリア7は存在していない。本実施形態ではCVDプロセスにより、基板5の両面に硬質カーボン膜(DLC膜)を成膜する。このとき、基板5にはフック19を介してバイアス電力が印加される。
【0035】
一方、プロセスチャンバPCで真空処理を行っている間にキャリア7に次の未処理の基板5を搭載する。GV2の閉鎖後、GV1を開放し、キャリア7を基板移載位置(不図示)に移送し、基板5をキャリア7に搭載しておく(図4(b)参照)。
【0036】
真空処理が終了したら、ゲートバルブGV3を開放し、ピニオン18aを動作させて、キャリア8をプロセスチャンバPC内に移送する。そして、フック19を動作させて、処理済の基板5をキャリア8に搭載させた後、キャリア8をアンロードチャンバUL内に戻す。GV3を閉鎖し、ベント操作の後GV4を開放し、キャリア8に搭載された基板5を排出する。そして、GV3を閉鎖後、GV2を開放して次に処理する基板5をプロセスチャンバPC内に移送する。
【0037】
真空処理の終了後のキャリア7,8の操作手順として、上述の手順に替えてキャリア7,8を同時に動作させるようにしてもよい。すなわち、処理済の基板5を搭載したキャリア8をアンロードチャンバUL内に戻すと同時に、次に処理する基板5を搭載したキャリア7をプロセスチャンバPC内に移送する制御を行う。この場合、GV3とGV2が同時に開放されるタイミングを有する。スループットをさらに向上できる。
【0038】
真空処理装置1,2では、基板5をプロスチャンバPC内に係止する係止部としてフック19を有している。しかしながら、下方から基板5を支持できる係止部をフック19に替えて用いてもよい。下方から基板5を支持する係止部を使用する際には、キャリア7,8は基板5の上部(例えば係止孔5a)を支持するものを使用してもよい。
【0039】
本実施形態の真空処理装置2によれば、未処理の基板5を、ロードロックチャンバLLに供給し、プロセスチャンバPCで真空処理した後、アンロードチャンバULから排出する構成である。そのため、プロセスチャンバPCで真空処理中に次に処理する基板5を、ロードロックチャンバLLのキャリア7に搭載できるので、プロセスチャンバPCの稼働率を向上できる。真空処理装置2によれば、上述した真空処理装置1の効果に加えて、スループットを向上できる。
【符号の説明】
【0040】
LL ロードロックチャンバ
PC プロセスチャンバ
GV ゲートバルブ
T 移送装置
1,2 真空処理装置
5 基板
5a 係止孔
7,8 キャリア
11 ホルダ
13 ラック
15 ローラー
17,17a,17b,18,18a,18b ピニオン
19 フック
19a 駆動源
29 バイアス電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の真空処理が基板に行われるプロセスチャンバと、
前記プロセスチャンバに接続されたロードロックチャンバと、
前記基板を搭載でき、前記ロードロックチャンバと前記プロセスチャンバの間で移送されるキャリアと、を備え、
前記プロセスチャンバは、前記プロセスチャンバ内に移送された前記キャリアから前記基板を受け取る係止部を有し、
前記キャリアが前記ロードロックチャンバに移送された後に、前記基板に前記真空処理が行われることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記プロセスチャンバに接続されたアンロードチャンバと、
前記基板を搭載でき、前記プロセスチャンバと前記アンロードチャンバとの間で移送される第2キャリアと、をさらに備え、
前記係止部は、
前記キャリアから受け取り、前記真空処理が行われた前記基板を、前記プロセスチャンバ内に移送された前記第2キャリアに搭載することを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記係止部を介して前記基板にバイアス電力を印加できることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−98188(P2013−98188A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236596(P2011−236596)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】