説明

真空成膜装置

【課題】大型の基板に蒸着を行うための防着板の取付け/取外しが容易で、メンテナンス作業の向上が可能となる真空成膜装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバと、真空チャンバ内に設けられて蒸着材料を蒸発して供給する蒸着源と、真空チャンバ内に導入された基板を直立した状態でマスクの所定の位置に位置合わせするための機構と、位置合わせ機構により、直立した状態で前記マスクに対して位置合わせされた基板の蒸着表面に沿って、蒸着源を移動させる手段と、マスクと前記蒸着源との間に配置されたベースプレートとを備えた真空成膜装置において、真空チャンバ内において、蒸着源から供給されてマスクを介して前記基板の蒸着表面に蒸着されると共にその周囲にも飛散する蒸発した蒸着材料が付着する壁面に、薄膜状の防着膜100を着脱可能に取り付けるための手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、有機ELデバイスや液晶ディスプレイ等の表示装置用の大型の基板に有機EL材料を蒸着するための真空成膜装置に関し、特に、当該材料のチャンバ内壁への蒸着を防止する構造を備えた真空成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELデバイスを製造する有力な方法として真空蒸着法が広く採用されている。この真空蒸着法では、所謂、蒸着チャンバ内において、抵抗加熱や誘導加熱などの方法を用い、蒸着源から蒸着材料の蒸発速度を一定に保つように制御しながら、蒸着材料を加熱し物理蒸着(PVC)を行なうことが一般的である。
【0003】
なお、上述した蒸着装置により成膜を行う場合、特に、有機ELデバイス等の大型基板の広い表面上で均一に成膜するためには、基板であるワークよりも広範囲に蒸着物を飛ばす必要があるが、その場合、当該蒸着物は、基板表面だけではなく、装置の機構部やチャンバ内壁へも付着してしまう。そのため、従来においては、蒸着物のチャンバ内壁への付着を防止するための、所謂、防着板と呼ばれる部材を取り外し可能に設置することが行われていた。
【0004】
例えば、以下の特許文献1によれば、プロダクトチャンバー部の内部にプラネタティ(ドーム状のウェハ取り付け装置)を有するEBアルミ蒸着装置において、当該プラネタティを取り囲むように覆うブラインド防着板を、円柱状に配置し、更には、その上部に防着天板を配置することにより、プロダクトチャンバー部内に飛散したアルミニウムに起因するメンテナンス時間を短縮するものが、既に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-64470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年においては、表示装置の大型化と共に、そのワークである基板の大きさも大型化しており、これに伴って、その製造装置である成膜装置も大型化している。一方、上述した防着板は、所定の作業時間の経過に伴って行われるメンテナンス時において交換される必要があり、そのため、特に、近年の大型化した成膜装置においても、その取り付けや取り外しが容易であること、即ち、そのメンテナンス性能の向上が求められていた。
【0007】
なお、上記特許文献1に記載のブラインド方式の防着板は、プラネタティを取り囲んで円柱状に配置され、下方のソースチャンバー部からその上部に配置されたプロダクトチャンバー部内に飛散するアルミニウム粒子を、プラネタティに取り付けたウェハ表面に蒸着させ、プロダクトチャンバー部の床面には蒸着されないようにするものである。
【0008】
一方、本発明が関わる成膜装置、特に、有機ELの表示装置用の大型基板に有機EL材料を蒸着するための成膜装置では、当該基板を直立させた状態で蒸着源を上下方向に移動することによって必要な有機EL材料を蒸着することが行われている。そのため、上述した特許文献1記載のブラインド方式の防着板を採用することは困難であった。
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みて達成されたものであり、その目的は、大型の基板に蒸着を行うための成膜装置であって、取り付けや取り外しが容易であることによりメンテナンスの作業性向上が可能となる防着板により、蒸着材料のチャンバ内壁への蒸着を防止する真空成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、まず、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられ、蒸着材料を蒸発して供給する蒸着源と、前記真空チャンバ内に導入された基板を直立した状態でマスクの所定の位置に位置合わせするための機構と、前記位置合わせ機構により、直立した状態で前記マスクに対して位置合わせされた前記基板の蒸着表面に沿って、前記蒸着源を移動させる手段と、前記マスクと前記蒸着源との間に配置されたベースプレートとを備えた真空成膜装置であって、前記真空チャンバ内において、前記蒸着源から供給されて前記マスクを介して前記基板の蒸着表面に蒸着されると共にその周囲にも飛散する蒸発した蒸着材料が付着する壁面の一部分に、薄膜状の防着膜を着脱可能に取り付けるための手段を備えた真空成膜装置が提供される。
【0011】
また、本発明では、前記に記載した真空成膜装置において、前記真空チャンバ内における壁面の一部分は、前記マスクと前記蒸着源との間に配置された前記ベースプレートの、前記蒸着源側に面した表面部分であることが好ましく、更には、前記薄膜状の防着膜の取り付け手段は、前記薄膜状の防着膜を、複数回の使用が可能な長さで、ロール状に巻いて格納しており、各回の使用の際には、所定の長さで引き出して、前記蒸着材料が付着する前記真空チャンバ内における壁面の一部分に取り付けられることが好ましい。そして、前記薄膜状の防着膜の取り付け手段は、更に、遠隔からの操作により、ロール状に巻いて格納された前記薄膜状の防着膜を取り出すための手段を備えていることが好ましく、又は、前記薄膜状の防着膜は、各回の使用で必要な長さで分離可能にされて、ロール状に巻いて格納されていることが好ましい。
【0012】
そして、本発明では、更に、前記に記載した真空成膜装置は、有機ELデバイスの基板に蒸着材料を蒸着するための真空成膜装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上に述べた本発明によれば、大型の基板に蒸着を行うための成膜装置であって、取り付けや取り外しが容易であることによりメンテナンスの作業性の向上が可能となる防着板により、蒸着材料のチャンバ内壁への蒸着を防止することが可能な真空成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一の実施の形態になる成膜装置を利用した有機ELデバイス製造装置の全体構成を示す上面図である。
【図2】上記有機ELデバイス製造装置の成膜装置である処理チャンバを、隣接する搬送チャンバと共に、その内部構成の一例を示す透視斜視図である。
【図3】上記有機ELデバイス製造装置の成膜装置である処理チャンバの内部詳細構造を示す側面断面図である。
【図4】成膜装置において、内部の清掃のためのメンテナンスを行う際に真空蒸着チャンバから現れるベースプレートと、本発明の特徴である防着膜を示す斜視図である。
【図5】上記ベースプレートの一部に取り付けられる上記防着膜の内部詳細構造を示すための、一部透視図を含む斜視図である。
【図6】上記防着膜をベースプレートの一部への取り付けるための構造の一例を示す断面を含む一部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態になる成膜装置、特に、有機ELデバイス用の大型の基板に有機EL材料を蒸着するための成膜装置について、添付の図を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず、添付の図1は、本発明の一実施の形態になる成膜装置をその一部に利用した有機ELデバイス製造装置の一例を示しており、図において、当該有機ELデバイス製造装置1は、概略、処理対象(ワーク)である基板6を搬入するロードクラスタ3、基板6をそれぞれ処理する4つのクラスタ(A〜D)と、隣接するクラスタの間、又は、クラスタAとロードクラスタ3の間、更には、次工程(例えば、封止工程)との間の設置された、合計、5つの受渡室4とから構成されている。
【0017】
ロードクラスタ3は、前後に真空を維持するためにゲート弁10を有するロードロック室31と、当該ロードロック室31から基板6を受け取り、これを旋回して受渡室4aに基板6を搬入する搬送ロボット5Rからなる。また、各ロードロック室31及び各受渡室4は、その前後にゲート弁10を有し、当該ゲート弁10の開閉を制御することにより、内部の真空を維持しながら、ロードクラスタ3又は次のクラスタ等に対して、上記基板6を受け渡しする。
【0018】
各クラスタ(A〜D)は、一台の搬送ロボット5を有する搬送チャンバ2と、搬送ロボット5から基板を受け取って所定の処理を行う(図面上で上下に配置されている)2つの処理チャンバ1(添え字a〜dはクラスタを示し、添え字u、dは上側下側を示す)を有する。また、搬送チャンバ2と処理チャンバ1の間には、ゲート弁10が設けられている。
【0019】
次に、添付の図2は、上述した有機ELデバイス製造装置の一部、特に、搬送チャンバ2と共に、その内部に有機EL材料を蒸着するための成膜装置を備えた処理(成膜)チャンバ1の構成を示す。なお、ここでは、処理チャンバの構成として、真空中で発光材料を蒸着して基板6上にEL層を形成するための真空蒸着チャンバ1buが示されている。
【0020】
真空蒸着チャンバ1buは、図にも示すように、大別して、発光材料を蒸発させ基板6に蒸着させる蒸着部7と、基板6の必要な部分に蒸着させるアライメント部8と、搬送チャンバ2内の搬送ロボット5との間で基板6の受け渡たしを行い、蒸着部7へ基板6を移動させる処理受渡部9によって構成されている。ここでは、蒸着部7、アライメント部8及び処理受渡部9の概略構成を説明する。
【0021】
アライメント部8と処理受渡部9は、それぞれ、右側Rラインと左側Lラインの2系統が設けられる。処理受渡部9は、搬送ロボット5の櫛歯状ハンド52と干渉することなく基板6を受渡し可能であり、かつ、基板6を固定する手段を有する基板チャック91と、前記基板チャック91を旋回させて基板6を直立させアライメント部8に移動するハンド旋回駆動手段92を有する。なお、基板6を固定する手段としては、真空中であることを考慮して、例えば、電磁吸着やクリップ等が用いられる。
【0022】
また、アライメント部8は、マスク81mとフレーム81fとからなるシャドウマスク81と、ここでは図示しない基板上のアライメントマークによって基板6とシャドウマスク81とを位置合せするためのアライメント駆動部83とを有する。
【0023】
蒸着部7は、蒸着源71と、当該蒸着源を上下方向に移動させるための蒸着源駆動手段(図示せず)を有する。なお、この蒸着源71には、内部に蒸着材料である発光材料が充填され、そして、当該蒸着材料を加熱制御することにより、蒸発した有機EL材料が安定した蒸発速度で得られる。
【0024】
続いて、添付の図3には、上述した真空蒸着チャンバ1buのうち、特に、そのRラインを構成するチャンバ部分の詳細な構成が示されている。
【0025】
まず、基板6はゲート弁10を介して処理受渡部9に水平に搬入される。処理受渡部9では水平に搬送されてきた基板6を直立させる。この直立を実行するため、チャンバ内第1ベースプレート88上にはハンド旋回駆動手段92の回転アーム92aを設け、その先端に直立ベース95を取り付ける。この直立ベース95には基板チャック91が取り付けられている。なお、この例では、直立ベース95には、気密容器97に収納されたアライメントカメラ86も取り付けられている。
【0026】
アーム92aの回転は、紙面上手前に設けた回転アクチュエータ(図示せず)により行なう。具体的には、このアクチュエータの動力を軸92cに伝達させる。なお、図中の参照符号92bは軸受である。
【0027】
続いて、基板6を直立させた後、アライメントカメラ86によりマスク81及び基板6に設けられたアライメントマーク(図示せず)を撮像し、アライメント機構8によりマスク81を動かし、その後、アライメントが完了した後に、複数のノズルを直線状に配列した蒸着源71(リニアソース)を揺動させて基板6上に蒸着を施す。
【0028】
アライメント機構8のアライメント駆動部83は、真空チャンバ1buの外周上部に設けられている。アライメント駆動部83は紙面奥行き(Y)方向と上下(Z)方向の2自由度を有する。具体的には、紙面奥行き(Y)方向はアライメントベース83bから吊り下げたアクチュエータ83yにより、上下(Z)方向はZ軸アクチュエータ83zにより、ロッド83rを、それぞれ、駆動することにより行う。アライメント機構8は、回転対偶である支持機構89sでマスク81を支持し、チャンバ内の第2ベースプレート87に設けられたリニアガイド89gと共に、マスクホルダ89hをスムーズに回転摺動させるものである。紙面奥側には、更にもう1セットのアライメント機構8が設けられており、これにより、マスクホルダ89hのY方向及びZ方向の移動、及び、紙面に垂直な面における回転を制御してアライメントを行なう。
【0029】
次に、上記真空チャンバ1buの奥側に、即ち、上記チャンバ内の第1ベースプレート88及び第2ベースプレート87の奥側に設けられた、基板に蒸着を施すための蒸着源駆動装置70について、詳細に説明する。この蒸着源駆動装置70は蒸着源71を紙面上下方向に移動させる上下駆動機構72と、紙面奥行き方向に移動させる左右駆動機構74からなる。
【0030】
上下駆動機構72は、チャンバ内第3ベースプレート79上に設置されている。また、真空装置では、駆動源のモータ72mを、その冷却の都合を理由として、真空チャンバ1buの外周の上部に設置される。当該モータからの動力を真空チャンバ1bu内に伝達するために、磁性流体シール72sを介してボール螺子72bを回転させ、もって、ナット78を移動させる。そして、蒸着源台71dの摺動子72pが上下レール76上を摺動し、これに伴い、蒸着源台の蒸着源71が上下に移動される。なお、ナット78は、蒸着源71を載置する蒸着源台71dの中央部から突き出た連結棒78rの先端に設けられている。基板6の蒸着時においては、蒸着源71はマスク開口領域81aの範囲を上下している。磁性流体シール72sが真空チャンバ壁1hの変形で傾く場合、モータ72mと磁性流体シール72sの間、及び、磁性流体シール72sとボール螺子72nの間に、軸間の変位や角度誤差を吸収するカップリング72cを設けることで、スムーズな動力の伝達が可能になる。
【0031】
次に、左右駆動手段74について説明する。左右駆動手段74は、左右駆動ベース74kや上下レール76等を一体にして、左右レール75上を左右(この図では図面奥行き方向)に移動させ、蒸着源71をRライン、Lラインに亘って移動させる。左右駆動手段74は、基本的には、上下駆動手段72と同様な機構を有しており、左右レール75やボール螺子74bは、下壁1h上に設けられた複数のチャンバ内ベース74d上において、Rライン、Lラインに亘って設置されている。また、真空装置では駆動源のモータ(図示せず)は、上下駆動手段72と同様に、冷却の都合から真空チャンバ1buの外部(紙面手前側、図示せず)に設置する。このモータ動力を真空チャンバ1bu内に伝達するのに、上下駆動手段72と同様に、磁性流体シールや軸間の変位や角度誤差を吸収するカップリングを介してボール螺子74bを回転させる。ボール螺子74bを回転により、左右駆動ベース74kに固定されたナット74nが移動し、これに伴い、左右駆動ベース74kに固定された摺動子74sが左右レール75上を移動する。
【0032】
左右への移動時、即ち、RラインとLライン間の移動時において、上下駆動機構72の構成から解かるように、上下駆動機構72は移動しないし、ボール螺子72bも移動しない。即ち、上下駆動手段72は、Rライン及びLラインにそれぞれ独立して設けられている。従って、両ラインの上下駆動機構72のボール螺子72bと蒸着源台71dの中央部から突き出た連結棒78rの先端に設けたナット78が係合しかつ離脱する係合離脱機構が必要である。
【0033】
また、図3に引き出し線で示した一部拡大部図Aは、係合離脱機構を有するナット78の一実施例を示した図である。ナット78は左右に突出た半円形部78R、78Lを有している。その半円形部には上下駆動機構72のボール螺子72bと係合する螺子が切られている。そこで、左右駆動機構74によりナット78がRラインに来ると、半円形部78RがRラインの上下駆動機構のボール螺子72bと係合し、また、Lラインに来ると、半円形部78LがLラインの上下駆動機構のボール螺子72bと係合する。これらの結果、上下駆動機構72、特に、モータ72mを移動させることなく、簡単な機構でR、Lラインで基板の全面に蒸着することができる。
【0034】
なお、上述した真空蒸着チャンバ1buは、そのメンテナンス時には、上記図3における一点鎖線B−Bで示す面において左右に分離可能になっている。なお、近年における大型表示装置で使用される、例えば、有機ELデバイス等のための大型基板に有機EL材料を蒸着するための装置では、当該基板の大型化に伴い、真空蒸着チャンバ内に配置される蒸着装置も大型化している。
【0035】
ここで、添付の図4は、内部の清掃のためのメンテナンスを行う際に、上記の一点鎖線B−B面で左右に分離した真空蒸着チャンバ1buを、上述した蒸着源駆動装置70が設けられた側(上記図3の右側)から見た場合の様子を示している。その際、真空蒸着チャンバ1buの分離面には、図にも示すように、上述したチャンバ内の第1ベースプレート88と第2ベースプレート87とが現れる。
【0036】
なお、蒸着作業時においては、上記真空蒸着チャンバ1buの内部では、蒸着源71で蒸発した有機EL材料が、当該図示の面に向かって供給されることにより、基板上に有機EL材料が蒸着される。その際、蒸発した有機EL材料は、マスクを介して、基板の表面だけではなく、その周囲にも飛散してしまい、装置の機構部やチャンバの内壁へも付着してしまうが、特に、上述したチャンバ内の第1ベースプレート88と第2ベースプレート87の表面、即ち、その略中央の開口部(当該開口部には、上記のマスクが取り付けられた基板の表面が露出される)の周囲の壁面に、多くが付着することとなる。
【0037】
本発明では、上述したように、蒸発した有機EL材料が付着する壁面に、防着膜100を設けると共に、当該防着膜100を、メンテナンス時において容易に交換可能な構造とするものである。なお、その際、特に、上述した基板の大型化に伴う蒸着装置の大型化によれば、その略中央に開口部(基板表面の露出部)有する壁面を形成する上記第1ベースプレート88と第2ベースプレート87の合計した高さは、その基礎部分から測定して、例えば、人間の平均的な身長を越えて、例えば、3mを越えて、場合によっては5mにも達し、危険な高所作業が必要となる場合がある。そのため、防着膜100を交換する作業は、特にその上部においては、作業者の安全等を考慮した場合には、危険で難しい作業となっている。そこで、簡単で安全な作業によって交換可能な、即ち、メンテナンスの作業性を向上することの可能な防着膜100が求められていた。
【0038】
そこで、本発明では、当該防着膜100を、ロールシート状として装置内の壁面に取り付け、これを、適宜、引き延ばして、必要な壁面に取り付けることを可能とするものである。なお、このロールシート状の部材としては、例えば、金属の薄膜や樹脂の薄膜を採用することが出来る。
【0039】
添付の図5には、上述した防着膜100のより詳細な例が示されている。なお、図5(A)は、上記図4において、特に、上部の壁面を形成する第2ベースプレート87の表面に引き延ばして取り付けられる防着膜100を示している。図からも明らかなように、薄膜状の防着膜100が芯材101の上に巻かれており、そして、当該芯材101は、長尺の箱状のケース102の内部において、水平方向に、回転可能に収納されている。なお、このケース102の一部(本例では、ケースの下面の第2ベースプレート87との接合面の近傍)に形成されたスリット部103が形成されており、当該スリット部103を介して内部の薄膜状の防着膜100をケース102の外部に取り出すことが出来る。
【0040】
また、この芯材101の一方の端部には、例えば、傘歯車104が取り付けられている。そして、当該傘歯車104には、更に、垂直方向に伸びたロッド部105の上端部に取り付けられた他の傘歯車106が互いに噛合した状態で取り付けられ、かつ、その他端には、所謂、ハンドル107が設けられている。かかる構造によれば、有機EL材料が付着する壁面の高い位置に取り付けられた場合にも、図に矢印で示すように、作業員がハンドル107によりロッド部105を回転することにより、薄膜状の防着膜100が巻き付けられた芯材101を回転させ、もって、箱状のケース102の一部に設けたスリット部103を介して、ケース内のロール状にして格納した薄膜状の防着膜100を取り出し(図中の白抜き矢印を参照)、第2ベースプレート87の表面、更には、下方の第1ベースプレート88にまで引き延ばして、その表面に取り付けられることが出来る。
【0041】
一方、図5(B)には、上記図4において、壁面の下部を形成する第1ベースプレート88の表面に引き延ばして取り付けられる防着膜100を示しており、ここでも上記と同様に、薄膜状の防着膜100が芯材101の上に巻かれており、そして、この芯材101は、長尺の箱状のケース102’の内部において、水平方向に、回転可能に収納されている。但し、当該ケース102’は、上記図5(A)に示したものとは異なり、有機EL材料が付着する壁面の低い位置に取り付けられることから、上述した一対の傘歯車、ロッド部、ハンドル等を含む機構を設けることなく、スリット部103を介して内部の薄膜状の防着膜100をケースから上方に取り出して(図中の白抜き矢印を参照)、下方に配置された第1ベースプレート88の表面上で引き延ばして取り付けられることが出来る。
【0042】
即ち、上述したロールシート状の防着膜100によれば、先ず、予め、芯材101の上に、例えば、数回に亘って使用出来る程度の長さを持つ薄膜状の防着膜100をロール状に巻いてケース102及び102’内に格納して、当該ケース102及び102’を、真空蒸着チャンバ1bu内部の機構部やチャンバの内壁に加え、上記の図4にも示したように、チャンバ内の第1ベースプレート88の上端部と、第2ベースプレート87の下端部に取り付ける。その後、壁面上部に取り付けたケース102に格納された防着膜100については、上述したハンドル等により下方に引き出し(上記図5(A)を参照)、ベースプレートの表面上に引き延ばして固定する。他方、壁面下部に取り付けたケース102’に格納された防着膜100については、直接、ケース102’から引き出し(上記図5(B)を参照)、ベースプレートの表面上に引き延ばして固定する。なお、その際、防着膜100の先端部等を、例えば、クリップ機構や、磁石のプレート等を利用して壁面上に固定してもよく、又は、添付の図6(A)及び(B)にも示すように、予め、第2ベースプレート87の下側面や第1ベースプレート88の上側面にスリット871、881を形成しておき、図にも示すように、引き延ばした防着膜100の先端を当該スリット871、881内に挿入して固定する等々、様々の固定手段を利用することが可能であろう。
【0043】
続いて、その後の真空蒸着装置の所定期間の運転により、その内部の清掃が必要となり、所謂、メンテナンスを行う際には、上記図3における一点鎖線B−Bで示す面において真空蒸着チャンバ1buを左右に分離し、ロール状に巻いて格納されている薄膜状の防着膜100を、上記と同様にして、ハンドル等により、又は、直接、ケース102及び102’から取り出して壁面上に固定すると共に、その表面上に有機EL材料が付着した使用済みの部分については、壁面から引き剥がして破棄する。なお、その際、薄膜状の防着膜100には、1回分の使用長さ毎に、予め、例えば、ミシン目等を形成しておくことによれば、当該ミシン目を境にして、使用済み部分と新しい部分とが容易に分離することが出来て便利であり、作業性の向上にも大きく貢献することが可能となろう。
【符号の説明】
【0044】
1bu…真空蒸着チャンバ、6…基板、7…蒸着部、8…アライメント部、81m…マスク、9…処理受渡部、87…第2ベースプレート、88…第1ベースプレート、100…防着膜、101…芯材、102、102’…ケース、103…スリット部、104,106…傘歯車、107…ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられ、蒸着材料を蒸発して供給する蒸着源と、
前記真空チャンバ内に導入された基板を直立した状態でマスクの所定の位置に位置合わせするための機構と、
前記位置合わせ機構により、直立した状態で前記マスクに対して位置合わせされた前記基板の蒸着表面に沿って、前記蒸着源を移動させる手段と、
前記マスクと前記蒸着源との間に配置されたベースプレートとを備えた真空成膜装置であって、
前記真空チャンバ内において、前記蒸着源から供給されて前記マスクを介して前記基板の蒸着表面に蒸着されると共にその周囲にも飛散する蒸発した蒸着材料が付着する壁面の一部分に、薄膜状の防着膜を着脱可能に取り付けるための手段を備えたことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した真空成膜装置において、前記真空チャンバ内における壁面の一部分は、前記マスクと前記蒸着源との間に配置された前記ベースプレートの、前記蒸着源側に面した表面部分であることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項3】
前記請求項2に記載した真空成膜装置において、前記薄膜状の防着膜の取り付け手段は、前記薄膜状の防着膜を、複数回の使用が可能な長さで、ロール状に巻いて格納しており、各回の使用の際には、所定の長さで引き出して、前記蒸着材料が付着する前記真空チャンバ内における壁面の一部分に取り付けられることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項4】
前記請求項3に記載した真空成膜装置において、前記薄膜状の防着膜の取り付け手段は、更に、遠隔からの操作により、ロール状に巻いて格納された前記薄膜状の防着膜を取り出すための手段を備えていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項5】
前記請求項3に記載した真空成膜装置において、前記薄膜状の防着膜は、各回の使用で必要な長さで分離可能にされて、ロール状に巻いて格納されていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項6】
前記請求項1〜5の何れか1項に記載した真空成膜装置は、有機ELデバイス又は液晶ディスプレイの基板に蒸着材料を蒸着するための真空成膜装置であることを特徴とする真空成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87354(P2013−87354A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231827(P2011−231827)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】