説明

真空断熱材の製造方法

【課題】高温環境下でも優れた断熱性を有し、長期にわたって優れた断熱性を有する真空断熱材の製造方法を提供する。
【解決手段】タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを含む芯材用原料組成物を所定形状に成形して成形体を得て、該成形体を前記タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で焼成して芯材を製造し、この芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装して真空断熱材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空断熱材は、芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装した断熱材であって、内部を真空に保つことにより気体の熱伝導性を低下させたものである。真空断熱材は優れた断熱性を有することから、冷凍庫、冷蔵庫、保温庫、自動販売機等の電気製品や、住宅の壁材等様々な産業で使用されている。
【0003】
真空断熱材の芯材としては、ガラス繊維等の無機繊維系芯材、発泡ウレタン等の樹脂発泡体系芯材、微粉末シリカ等の微粉体系芯材が用いられている。特に無機繊維系芯材を用いた真空断熱材は、優れた断熱性を有することから、より高い断熱性を求められる用途に広く使用されている。また、真空断熱材の断熱性をより向上させるため、無機繊維系芯材の改良が種々行われている。
【0004】
例えば、芯材を構成する無機繊維の配向状態が不規則であると、芯材の無機繊維自身が伝熱経路となって芯材の熱伝導率が増加する。このため、特許文献1では、伝熱方向に対してほぼ垂直に無機繊維を積層配列することで無機繊維による伝熱を抑制し、芯材の熱伝導率をより低減している。
【0005】
また、無機繊維系芯材の成形にバインダーを使用すると、固形化したバインダーが熱架橋となることで断熱方向の熱伝導が増大する。このため、特許文献2では、バインダーを使用することなく、所定形状に成形された芯材を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3513143号公報
【特許文献2】特許第3580315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機繊維系芯材を用いた真空断熱材は、雰囲気温度の上昇に伴って熱伝導率が著しく上昇し、高温環境下での断熱性は十分満足できるものではなかった。この原因は、無機繊維系芯材は、気体分子の移動度が比較的良好であるため、雰囲気温度が高温になるに伴い気体分子の運動が活発になって、気体の熱伝導率が高くなったためであると考えられる。
【0008】
また、真空断熱材が高温環境下に曝されると、包材などからアウトガスが発生して、真空度が徐々に低下し、断熱性が経時劣化し易かった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、高温環境下でも優れた断熱性を有し、長期にわたって優れた断熱性を有する真空断熱材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するに当たり、本発明の真空断熱材の製造方法は、タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを含む芯材用原料組成物を所定形状に成形して芯材用成形体を得て、該芯材用成形体を前記タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で焼成して芯材を製造し、この芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装することを特徴とする。
【0011】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材用成形体を赤外線加熱により焼成することが好ましい。
【0012】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記有機溶媒が、極性有機溶媒を少なくとも含むものであり、前記芯材用成形体をマイクロ波加熱により、又はマイクロ波加熱と赤外線加熱とを併用して焼成することが好ましい。
【0013】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記タルク族の粘土鉱物として、平均粒径が1〜25μmであるものを用いることが好ましい。
【0014】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記カリウム化合物として、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる一種以上を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材用原料組成物が、固形分中に前記タルク族の粘土鉱物を10〜50質量%、前記カリウム化合物を50〜90質量%含有し、前記タルク族の粘土鉱物と前記カリウム化合物との合計100質量部に対して、前記有機溶媒を5〜20質量部含有することが好ましい。
【0016】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材用原料組成物が、燃焼助剤を更に含有し、前記燃焼助剤の含有量が、前記タルク族の粘土鉱物と前記カリウム化合物との合計100質量部に対して、0.1〜20質量部含有であることが好ましい。また、前記燃焼助剤が、脂肪酸、脂肪酸エステル及びパラフィンから選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材用原料組成物を、圧延成形して前記芯材用成形体を得た後、前記焼成を行うことが好ましい。
【0018】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材用成形体を700℃以上1000℃未満に加熱して焼成することが好ましい。
【0019】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材の嵩密度が、真空包装前の状態で0.15〜1.5g/cmであり、真空包装した後の状態で1.6〜1.7g/cmであることが好ましい。
【0020】
本発明の真空断熱材の製造方法は、前記芯材の空孔率が、真空包装前の状態で55〜95%であり、真空包装した後の状態で49〜86%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の真空断熱材の製造方法によれば、タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを含む芯材用原料組成物を所定形状に成形して得られる芯材用成形体を、タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で焼成することにより、タルク族の粘土鉱物の層間でカリウム化合物が熱分解して炭酸ガス等の発泡ガスが発生し、タルク族の粘土鉱物の層間が拡大されてへき開し、その少なくとも一部が部分的に結合している芯材が得られる。また、有機溶媒は、タルク族の粘土鉱物の層間に挿入されるなどして、芯材用成形体中にほぼ均一に分散して存在しているので、有機溶媒によって芯材用成形体の熱量が大きくなり、芯材用成形体の内部まで十分に加熱できる。このため、芯材用成形体表面のみならず、芯材用成形体内部においても、タルク族の粘土鉱物の層間が拡大されてへき開して、タルク族の粘土鉱物のへき開物(以下、タルクへき開物という)が複雑に積層した、タルク族の粘土鉱物の層間が拡大したようなカードハウス構造をなす芯材が得られる。
【0022】
このようにして得られる芯材は、気体分子の移動経路が複雑で、気体分子の移動度が低く、熱伝導率の温度依存性が低いので、該芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装することで、高温環境下であっても、優れた断熱性を有し、長期にわたって優れた断熱性を有する真空断熱材を製造できる。
【0023】
また、タルク族の粘土鉱物として、平均粒径が1〜25μmであるものを用いることにより、芯材が、気体分子の平均自由工程よりも小さな孔径を有するカードハウス構造を形成し易くなり、より優れた断熱性を有する真空断熱材を製造できる。
【0024】
また、有機溶媒として極性有機溶媒を少なくとも含むものを用いることにより、芯材用成形体をマイクロ波加熱により焼成できる。芯材用成形体をマイクロ波加熱することにより、芯材用成形体の内部から均一、かつ急速に加熱できるので、短時間で、タルクへき開物が複雑に積層したカードハウス構造をなす芯材を製造できる。
【0025】
また、芯材用原料組成物に、燃焼助剤を更に含有させることにより、芯材用成形体の熱量が増加し、焼成時に芯材用成形体内部まで速やかに加熱して、芯材用成形体全体を短時間で均一に加熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の芯材の形成モデル図である。
【図2】実施例1の芯材の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1の芯材の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、芯材を製造する工程と、芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装する工程とを経て真空断熱材を製造する。
【0028】
まず、芯材の製造工程について説明する。
【0029】
本発明では、タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを含む芯材用原料組成物を所定形状に成形して芯材用成形体を得て、該芯材用成形体をタルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で焼成して芯材を製造する。
【0030】
タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを混合することで、図1(a)に示すように、タルク族の粘土鉱物の層間に、有機溶媒やカリウム化合物が挿入されて、タルク族の粘土鉱物が膨潤する。そして、芯材用原料組成物を所定形状の芯材用成形体に成形したのち焼成することで、タルク族の粘土鉱物の層間に挿入されたカリウム化合物から、炭酸ガス、炭酸水素ガスなどの発泡ガスが発生して、タルク族の粘土鉱物の層間が拡大し、層状にへき開する。また、有機溶媒は、タルク族の粘土鉱物の層間に挿入されるなどして、芯材用成形体にほぼ均一に分散するので、有機溶媒によって芯材用成形体の熱量が大きくなり、芯材用成形体の内部まで十分に加熱される。そして、タルクへき開物が複雑に積層して、図1(b)に示すように、カードハウス構造が形成される。そして、積層したタルクへき開物どうしが焼成によって部分的に結合し、カードハウス構造が定着する。また、芯材用原料組成物の焼成時に、カリウム化合物が熱分解して炭酸カリウムや酸化カリウムなどの副生成物が生成するが、これらの副生成物は、タルクへき開物と混在、あるいは、タルクへき開物と部分的に結合している。
【0031】
なお、本発明において、「タルクへき開物」とは、タルク族の粘土鉱物の層が1枚1枚完全に剥離したもののみならず、タルク族の粘土鉱物の層が複数層まとまって剥離したものも含むこととする。
【0032】
芯材用原料組成物に用いるタルク族の粘土鉱物は、2層のシリカ四面体の層間に、マグネシウム八面体層又はアルミニウム八面体層が挟まれた、電荷的に中性な3層構造層(2:1層)が、複数積層したケイ酸塩の粘土鉱物が好ましい。2層のシリカ四面体の層間にマグネシウム八面体層が挟まれた3層構造層を単位層とするものは、タルク(化学式:MgSi10(OH))であり、2層のシリカ四面体の層間にアルミニウム八面体層が挟まれた3層構造層を単位層とするものは、パイロフィライト(化学式:AlSi10(OH))である。タルク族の粘土鉱物の融点は、純度等により異なるが、およそ、930〜1000℃である。なお、天然のタルク族の粘土鉱物は、Fe、Al、Na、F等の元素を不純物として含有している。
【0033】
芯材用原料組成物に用いるタルク族の粘土鉱物は、平均粒径が1〜25μmであることが好ましく、1〜20μmがより好ましい。タルク族の粘土鉱物の平均粒径が上記範囲内であれば、空孔率が高く、気体分子の平均自由工程よりも小さな孔径を有する芯材が得られ易くなる。なお、本発明におけるタルク族の粘土鉱物の平均粒径は、レーザー回折法で測定した値である。
【0034】
タルク族の粘土鉱物は、芯材用原料組成物中に10〜50質量%含有するように混合することが好ましく、20〜40質量%がより好ましく、25〜35質量%が特に好ましい。タルク族の粘土鉱物の含有量が10質量%未満であると、芯材用原料組成物中におけるカリウム化合物の含有量が多くなるので、芯材用原料組成物の焼成時に発泡ガスが大量に発生し、得られる芯材の孔径が大きくなる傾向にある。また、50質量%を超えると、カリウム化合物の含有量が少なくなるので、芯材用原料組成物の焼成時における発泡ガスの発生量が少なく、タルク族の粘土鉱物を十分にへき開できないことがあり、得られる芯材の空孔率が低くなる傾向にある。
【0035】
芯材用原料組成物に用いるカリウム化合物は、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる1種以上が好ましい。また、カリウム化合物の平均粒径は、1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。カリウム化合物の平均粒径が上記範囲であれば、タルク族の粘土鉱物との混和性が良好で、タルク族の粘土鉱物がへき開し易い。なお、本発明において、カリウム化合物の平均粒径は、カリウム化合物の任意の一部をSEMで観察し、SEM像から任意で選択した100個の粒子の短辺を計測し、これらの平均値を平均粒径とする。
【0036】
カリウム化合物は、芯材用原料組成物中に50〜90質量%含有するように混合することが好ましく、60〜80質量%がより好ましく、65〜75質量%が特に好ましい。カリウム化合物の含有量が50質量%未満であると、芯材用原料組成物の焼成時における発泡ガスの発生量が少なくなるので、タルク族の粘土鉱物を十分にへき開できないことがあり、得られる芯材の空孔率が低くなる傾向にある。更には、炭酸カリウムなどの生成量が少なくなるので、アウトガスや湿気などの除去効果が劣る。また、カリウム化合物の含有量が90質量%を超えると、芯材用原料組成物の焼成時に発泡ガスが大量に発生し、得られる芯材の孔径が大きくなる傾向にある。
【0037】
芯材用原料組成物に用いる有機溶媒は、極性有機溶媒、無極性有機溶媒のいずれも好ましく用いることができる。極性有機溶媒を用いた場合、芯材用成形体をマイクロ波加熱により焼成できる。芯材用成形体をマイクロ波加熱することにより、芯材用成形体の内部から均一、かつ急速に加熱できるので、短時間で、タルクへき開物が複雑に積層したカードハウス構造をなす芯材を製造できる。
【0038】
極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、グリコール、ジメチルエーテル、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ブチルアルコール、ジメチルフォルムアミド、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラハイドロフラン、トルエン等が挙げられる。
【0039】
無極性有機溶媒としては、直鎖状アルカンであるヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、へプラデカン、オクタデカン、ナノデカン、また脂環式有機化合物であるベンゼン、トルエン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンや、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液等が挙げられる。
【0040】
タルク族の粘土鉱物との混和性、熱量等を考慮すると、有機溶媒としては、グリコール、グリセリンが好ましく用いられる。
【0041】
有機溶媒は、芯材用原料組成物中に、タルク族の粘土鉱物とカリウム化合物との合計100質量部に対して、5〜20質量部含有するように混合することが好ましく、7〜20質量部がより好ましく、10〜20質量部が特に好ましい。芯材用原料組成物が有機溶媒を含有することにより、芯材用成形体の熱量が大きくなり、芯材用成形体を焼成する際、内部まで十分に加熱できる。更には、芯材用原料組成物の成形性が高まり、所望の形状に成形し易くなる。有機溶媒の含有量が多くなると、成形性が劣る。更には、芯材用成形体の熱量が高くなりすぎてしまい、焼成時にタルク族の粘土鉱物が溶融してガラス化し易くなる。このため、上限は20質量部が好ましい。また、成形性を考慮して下限は5質量部が好ましい。
【0042】
なお、芯材用原料組成物において、有機溶媒の代わりに、水を使用した場合、芯材用成形体を内部まで十分に加熱できず、焼成ムラが生じ、芯材用成形体内部のタルク族の粘土鉱物について、その層間を十分にへき開できないことがある。
【0043】
本発明において、芯材用原料組成物には、上記原料の他に、燃焼助剤を含有させることができる。燃焼助剤を含有させることにより、芯材用成形体の熱量が増加し、焼成時に芯材用成形体内部まで速やかに加熱されて、芯材用成形体全体を短時間で均一に加熱できる。
【0044】
燃焼助剤としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アラギジン酸等の脂肪酸、これらの脂肪酸とグリセリンとのエステル、パラフィン等が挙げられる。
【0045】
燃焼助剤を含有させる場合、その含有量は、タルク族の粘土鉱物とカリウム化合物との合計100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましく、1〜10質量部が特に好ましい。燃焼助剤の含有量が多くなると、芯材用成形体の熱量が高くなり、焼成時にタルク族の粘土鉱物が溶融してガラス化し易くなる。このため、上限は20質量部が好ましい。また、0.1質量部未満であると、添加効果は殆ど得られない。
【0046】
本発明において、芯材用原料組成物には、更に、アミド基及び/又はアゾ基を有する有機系発泡剤を含有させることができる。有機系発泡剤を含有させることにより、詳細な理由は不明であるが、タルク族の粘土鉱物がへき開し易くなって、カードハウス構造を形成し易くなり、より断熱性に優れた芯材が得られる。
【0047】
上記有機系発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等が挙げられる。
【0048】
上記有機系発泡剤を含有させる場合、その含有量は、タルク族の粘土鉱物とカリウム化合物との合計100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。上記有機系発泡剤の含有量が1質量部未満であると、添加効果が殆ど得られない。また、50質量部を超えると、芯材用原料組成物の焼成時における発泡ガスの発生量が多く、得られる芯材の孔径が大きくなる傾向にある。
【0049】
本発明において、芯材用原料組成物には、必要に応じて、水、無機系発泡剤、上記以外の有機系発泡剤等を、物性を損なわない範囲で更に添加してもよい。
【0050】
次に、このようにして調製した芯材用原料組成物を所望の形状に成形して芯材用成形体を製造する。芯材用原料組成物の成形方法は、特に限定はない。圧延成形、プレス成形、押出成形等が挙げられる。なかでも、装置コストやランニングコストが低く、生産性に優れるという理由から圧延成形が好ましい。また、芯材用原料組成物を圧延成形することにより、タルク族の粘土鉱物の配向性が高まり、カードハウス構造が形成し易くなる。
【0051】
次に、所望の形状に成形した芯材用成形体を、タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で加熱して焼成して芯材を製造する。
【0052】
焼成方法は特に限定は無い。例えば、赤外線加熱、マイクロ波加熱等が挙げられる。また、赤外線加熱とマイクロ波加熱とを併用してもよい。マイクロ波加熱は、芯材用成形体の内部から均一、かつ急速に加熱できるので、短時間で、タルクへき開物が複雑に積層したカードハウス構造をなす芯材を製造できる。また、赤外線加熱とマイクロ波加熱とを併用した場合は、芯材用成形体全体をより均一に加熱できるので、焼成ムラが生じ難くなる。
【0053】
なお、マイクロ波加熱の原理は、被加熱物をマイクロ波の電界の中に置くと、被加熱物を構成している極性分子が電波(電界)の力を受けてマイクロ波の周波数に応じて激しく振動し、各分子間で摩擦熱が発生し被加熱物が加熱されるというものである。このため、マイクロ波加熱により芯材用成形体を焼成するには、芯材用成形体が極性分子を含む必要があるので、有機溶媒として極性有機溶媒を用いる。一方、極性有機溶媒を含まない場合は、マイクロ波加熱では芯材用成形体を焼成できないので、この場合は、赤外線加熱により焼成する必要がある。
【0054】
赤外線加熱による焼成装置としては、電気炉、ガス炉、電磁誘導加熱炉等が挙げられる。マイクロ波加熱による焼成装置としては、マイクロ波加熱装置等が挙げられる。
【0055】
焼成温度は、タルク族の粘土鉱物の融点よりも10〜230℃低い温度が好ましい。具体的には、700℃以上1000℃未満が好ましく、750℃以上900℃以下がより好ましい。芯材用成形体をタルク族の粘土鉱物の融点よりも高い温度で加熱すると、カードハウス構造を形成できず、緻密な焼結体となってしまう。芯材用成形体を、タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で加熱することで、タルク族の粘土鉱物の層間で、有機溶媒や、カリウム化合物が熱分解して、炭酸ガス、炭酸水素ガス等の発泡ガスが発生する。この発泡ガスによって、タルク族の粘土鉱物の層間が押し広げられて層状にへき開する。そして、層状にへき開したタルクへき開物どうしの接する部分において、部分的に固相反応などにより結合し、カードハウス構造が定着する。そして、芯材用成形体を700℃以上で加熱することにより、カリウム化合物がほぼ完全に熱分解し、発泡ガスが効率よく発生して、タルク族の粘土鉱物を効率よくへき開できる。芯材用成形体の加熱温度が低すぎると、カリウム化合物が熱分解し難く、発泡ガスの発生量が減少するので、タルク族の粘土鉱物がへき開し難くなる。なお、芯材用成形体に含まれるカリウム化合物は、焼成時にその一部または全部が熱分解して、炭酸ガス、炭酸水素ガス等の発泡ガスと、酸化カリウム及び/又は炭酸カリウムとに分解される。発泡ガスは大気中に排出されるが、酸化カリウムや炭酸カリウムは、多孔質焼成体中に残留する。
【0056】
焼成時間は、焼成方法により異なる。例えば、赤外線加熱による焼成の場合、1〜12時間が好ましく、1〜8時間がより好ましい。また、マイクロ波加熱による焼成の場合、照射するマイクロ波の周波数により異なるが、例えば、0.93〜24.1GHzのマイクロ波の場合、0.08〜4時間が好ましく、0.1〜2時間がより好ましい。
【0057】
本発明においては、芯材用成形体を焼成するに先立ち、芯材用成形体を乾燥することが好ましい。乾燥方法としては特に限定は無い。熱風乾燥、天日乾燥、真空乾燥、亜臨界乾燥、超臨界乾燥等が挙げられる。芯体用成形体を乾燥することにより、その後の焼成において、ひび割れ等の発生を防止できる。
【0058】
このようにして得られる芯材は、タルク族の粘土鉱物の層状構造がへき開して、その少なくとも一部が部分的に結合している多孔質焼成体で構成される。この多孔質焼成体は、タルクへき開物が複雑に積層して、タルク族の粘土鉱物の層間が拡大したようなカードハウス構造をなしている。そして、積層したタルクへき開物どうしが、部分的に固相反応などにより結合して、保形性が高められている。多孔質焼成体がカードハウス構造を形成しているかどうかは、電子顕微鏡で確認できる。
【0059】
また、このようにして得られる芯材は、真空包装前の状態で、嵩密度が、0.15〜1.5g/cmであることが好ましく、0.15〜1.3g/cmがより好ましく、0.15〜1.0g/cmが特に好ましい。また、空孔率が55〜95%であることが好ましく、65〜95%がより好ましく、75〜95%が特に好ましい。
【0060】
また、このようにして得られる芯材は、タルク族の粘土鉱物を、13〜59質量%含有することが好ましく、20〜40質量%がより好ましい。また、カリウム化合物を、41〜87質量%含有することが好ましく、51〜73質量%がより好ましい。カリウム化合物としては、酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、炭酸カリウムが好ましい。炭酸カリウムは、包材から発生するハイドロカーボンなどのアウトガスや、湿気の吸着除去効果に優れるので、高温に曝されても真空断熱材の真空度が低下し難く、長期にわたって優れた断熱性を維持することができる。
【0061】
次に、芯材を真空包装する工程について説明する。
【0062】
上記のようにして得られた芯材をガスバリヤー性の包材内に配置し、包材の内部を減圧後、密封して真空包装する。
【0063】
包材は、ガスバリヤー性を有するものであればよく、特に限定は無い。例えば、熱溶着層と、ガスバリヤー層と、保護層とで構成されるラミネート材が一例として挙げられる。熱溶着層としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。ガスバリヤー層としては、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル及びこれらの合金等で構成される、金属箔又は金属蒸着膜等が挙げられる。保護層としては、ナイロンフィルム等が挙げられる。
【0064】
包材の内部は、10Pa以下に減圧することが好ましく、1〜10Paに減圧することがより好ましい。包材内部の圧力が10Paを超えると、十分な断熱性が得られない。
【0065】
真空包装後の状態の芯材は、嵩密度が、0.16〜1.7g/cmであることが好ましく、0.15〜1.3g/cmがより好ましい。嵩密度が0.16g/cm未満であると強度的に不足する傾向にあり、1.7g/cmを超えると熱伝導率の向上につながる。なお、芯材の嵩密度は、定容積膨張法で測定した値である。
【0066】
また、真空包装後の状態の芯材は、空孔率が49〜86%であることが好ましく、58〜86%がより好ましい。空孔率が49%未満であると熱伝導率の向上につながり、86%を超えると強度的に不足する傾向にある。なお、芯材の空孔率は、定容積膨張法で測定した値である。
【0067】
このようにして得られる真空断熱材は、高温環境下であっても、熱伝導率が高くなり難く、優れた断熱性を有する。また、炭酸カリウムなどによって、湿気やアウトガスを吸着除去できるので、真空度が低下し難く、長期にわたって優れた断熱性を維持できる。また、平均温度20℃、温度差20℃における熱伝導率は、0.015W/mK以下が好ましく、0.001〜0.015W/mKがより好ましく、0.001〜0.010W/mKが特に好ましい。
【0068】
本発明の製造方法によって得られる真空断熱材は、真空包装された状態での芯材の孔径が、気体分子の平均自由工程よりも小さいことが好ましい。芯材の孔径が、気体分子の平均自由工程よりも小さくされていることにより、気体の熱伝導性をより低くすることができる。なお、気体分子の平均自由工程とは、気体分子のある衝突から、次の衝突までの気体分子の飛行距離の平均値のことである。例えば、大気圧下での空気の平均自由工程は約68nmであり、約1Paでの空気の平均自由工程は約100μmである。芯材の孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察より測定できる。
【0069】
本発明の製造方法によって得られる真空断熱材は、冷凍庫、冷蔵庫、保温庫、自動販売機等の電気製品や、住宅の壁材等様々な産業において好ましく用いることができる。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
タルク(平均粒径14μm、融点960℃)400gと、炭酸水素カリウム(平均粒径50μm)600gと、グリセリン150gとを混練して芯材用原料組成物を調製した。この芯材用原料組成物を、厚さ5mmのシート状に圧延成形してグリーンシート(芯材用成形体)を得た。このグリーンシートを電気炉に入れて赤外線加熱により900℃で6時間焼成した。焼成したグリーンシート(焼成体)を真空乾燥機に入れ、150℃で2時間真空乾燥を行ったのち、真空乾燥機内で真空を保持したまま、室温まで冷却して芯材を製造した。この芯材の嵩密度は0.23g/cm、空孔率は90%であった。得られた芯材の電子顕微鏡写真を図2に示す。
次に、得られた芯材を、ポリアミド、アルミ箔、ポリエチレンからなるラミネートフィルムを三方製袋したものに入れ、真空チャンバー内で10Pa以下に減圧して真空封止し、真空断熱材を作製した。
得られた真空断熱材の熱伝導率を、熱伝導率計(英弘精機HC−074)を用い、JIS−A1412に基づき、平均温度20〜60℃、温度差20℃の条件で測定した。平均温度20℃での熱伝導率は、0.003W/mKであった。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、芯材用成形体をマイクロ波加熱装置に入れ、2.45GHzのマイクロ波を60分間照射して芯材用成形体を900℃に加熱して焼成した以外は実施例1と同様にして芯材を製造し、得られた芯材を用いて実施例1と同様にして真空断熱材を製造し、実施例1と同様にして熱伝導率を測定した。
得られた芯材の嵩密度は0.23g/cm、空孔率は90%であった。また、得られた真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.003W/mKであった。
【0072】
(実施例3)
実施例1において、芯材用成形体をマイクロ波加熱装置に入れ、2.45GHzのマイクロ波を20分間照射して芯材用成形体を900℃に加熱した後、電気炉に入れて赤外線加熱により900℃で1時間焼成した以外は実施例1と同様にして芯材を製造し、得られた芯材を用いて実施例1と同様にして真空断熱材を製造し、実施例1と同様にして熱伝導率を測定した。
得られた芯材の嵩密度は0.23g/cm、空孔率は90%であった。また、得られた真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.003W/mKであった。
【0073】
(実施例4)
タルク(平均粒径14μm、融点960℃)400gと、炭酸水素カリウム(平均粒径50μm)600gと、グリセリン150gと、ステアリン酸80gを混練して芯材用原料組成物を調製した。
この芯材用原料組成物を、厚さ5mmのシート状に圧延成形してグリーンシート(芯材用成形体)を得た。このグリーンシートを電気炉に入れて赤外線加熱により900℃で5時間焼成した。焼成したグリーンシート(焼成体)を真空乾燥機に入れ、150℃で2時間真空乾燥を行ったのち、真空乾燥機内で真空を保持したまま、室温まで冷却して芯材を製造した。この芯材の嵩密度は0.22g/cm、空孔率は91%であった。
次に、得られた芯材を用いて、実施例1と同様にして真空断熱材を製造し、実施例1と同様にして熱伝導率を測定した。この真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.003W/mKであった。
【0074】
(比較例1)
タルク(平均粒径14μm、融点960℃)400gと、炭酸水素カリウム(平均粒径50μm)600gと、水200gとを混練し、芯材用原料組成物を調製した。この芯材用原料組成物を、厚さ5mmのシート状に圧延成形してグリーンシート(芯材用成形体)を得た。このグリーンシートを電気炉に入れ、赤外線加熱により900℃で6時間焼成した。焼成したグリーンシート(焼成体)を真空乾燥機に入れ、150℃で2時間真空乾燥を行ったのち、真空乾燥機内で真空を保持したまま、室温まで冷却して芯材を製造した。この芯材の嵩密度は0.25g/cm、空孔率は83%であった。得られた芯材の電子顕微鏡写真を図3に示す。
次に、得られた芯材を用いて、実施例1と同様にして真空断熱材を製造し、実施例1と同様にして熱伝導率を測定した。この真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.004W/mKであった。
【0075】
(比較例2)
比較例1において、芯材用成形体をマイクロ波加熱装置に入れ、2.45GHzのマイクロ波を20分間照射して芯材用成形体を900℃に加熱した以外は比較例1と同様にして芯材を製造し、得られた芯材を用いて比較例1と同様にして真空断熱材を製造し、比較例1と同様にして熱伝導率を測定した。得られた芯材の嵩密度は0.24g/cm、空孔率は87%であった。また、得られた真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.004W/mKであった。
【0076】
(比較例3)
比較例1において、芯材用成形体をマイクロ波加熱装置に入れ、2.45GHzのマイクロ波を20分間照射して芯材用成形体を900℃に加熱した後、電気炉に入れ、900℃で1時間焼成した以外は比較例1と同様にして芯材を製造し、得られた芯材を用いて比較例1と同様にして真空断熱材を製造し、比較例1と同様にして熱伝導率を測定した。得られた芯材の嵩密度は0.24g/cm、空孔率は87%であった。また、得られた真空断熱材の平均温度20℃での熱伝導率は、0.004W/mKであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タルク族の粘土鉱物と、カリウム化合物と、有機溶媒とを含む芯材用原料組成物を所定形状に成形して芯材用成形体を得て、該芯材用成形体を前記タルク族の粘土鉱物の融点よりも低い温度で焼成して芯材を製造し、この芯材をガスバリヤー性の包材で真空包装することを特徴とする真空断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記芯材用成形体を赤外線加熱により焼成する、請求項1に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、極性有機溶媒を少なくとも含むものであり、前記芯材用成形体をマイクロ波加熱により、又はマイクロ波加熱と赤外線加熱とを併用して焼成する、請求項1に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記タルク族の粘土鉱物として、平均粒径が1〜25μmであるものを用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項5】
前記カリウム化合物として、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる一種以上を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項6】
前記芯材用原料組成物が、固形分中に前記タルク族の粘土鉱物を10〜50質量%、前記カリウム化合物を50〜90質量%含有し、前記タルク族の粘土鉱物と前記カリウム化合物との合計100質量部に対して、前記有機溶媒を5〜20質量部含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項7】
前記芯材用原料組成物が、燃焼助剤を更に含有し、前記燃焼助剤の含有量が、前記タルク族の粘土鉱物と前記カリウム化合物との合計100質量部に対して、0.1〜20質量部含有である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項8】
前記燃焼助剤が、脂肪酸、脂肪酸エステル及びパラフィンから選ばれる1種以上である、請求項7に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項9】
前記芯材用原料組成物を、圧延成形して前記芯材用成形体を得た後、前記焼成を行う請求項1〜8のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項10】
前記芯材用成形体を700℃以上1000℃未満に加熱して焼成する請求項1〜9のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項11】
前記芯材の嵩密度が、真空包装前の状態で0.15〜1.5g/cmであり、真空包装した後の状態で0.16〜1.7g/cmである請求項1〜10のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項12】
前記芯材の空孔率が、真空包装前の状態で55〜95%であり、真空包装した後の状態で49〜86%である請求項1〜11のいずれかに記載の真空断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−50122(P2013−50122A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186894(P2011−186894)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】