説明

真空断熱部材の製造方法

【課題】 特別な溝加工を施すことなく、曲面に沿わせることが可能であり、また種々の曲面形状に対応可能な使い勝手の非常によい真空断熱部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 曲面部分を有する被着部材に対し、少なくとも芯材及び該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材を備えてなる真空断熱材を積層してなる真空断熱部材の製造方法であって、芯材は無機繊維製芯材からなり、厚み0.1〜6mmの板状真空断熱材を、被着部材の曲面部分に沿わせて変形させた状態で固着することを特徴とする真空断熱部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、自動販売機、保冷箱、保冷車、貯湯タンク、貯氷タンク、真空断熱配管、自動車の天井やドア等の内装材、浴槽等の断熱部材として用いる真空断熱部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷蔵庫、自動販売機、保冷箱、保冷車等には、種々の構造・性能を有する断熱部材が使用されている。近年においては、非常に優れた断熱性を有する真空断熱材が上記用途に多く使用されている。真空断熱材とは、一般的には、ガスバリア性の金属蒸着フィルム等からなる外包材に芯材を充填し、その内部を減圧して密封した構造を有するものである。このような真空断熱材の断熱性・生産性・取扱い性(作業性)は、芯材によって大きく左右されるが、現在汎用される芯材としては、繊維状芯材、粉末状芯材、連続気泡樹脂発泡体、連続気泡セラミック発泡体からなる芯材が挙げられる。また従来の真空断熱材における芯材の真空引き後の厚みは10mm以上の厚手のものがほとんどである。
【0003】
連続気泡発泡体を用いた芯材は、取扱い性だけでなく、軽量性等にも非常に優れているが、ガラス繊維等の繊維状材料に比較して、断熱性が劣る面がある。また粉末状芯材は、軽量性および取扱い性が非常に低下する。したがって、繊維状芯材、特にガラス繊維、ロックウール等の無機繊維を用いた芯材が近年多用されている。
【0004】
一方、真空断熱材の用途は近年において広がりつつある。例えば、真空断熱材を、給水機器における円筒状タンクや配管設備における円筒状配管にその外周から巻き付けて被覆し、タンクや配管の熱効率を向上させる用途が挙げられる。また、車両の内装材等であれば、天井等に用いて冷暖房効率を向上させる用途が挙げられる。また、住宅用断熱材でも同様に、天井、壁、その他目地部分に用いて、断熱効率を向上させる用途が挙げられる。そのような用途では真空断熱材は、タンクや配管の外周曲面、天井、壁等の曲面に合わせて変形させ、密着させる必要がある。しかしながら、上記のような従来の厚手の真空断熱材は、真空引き後に変形させるのは困難であった。たとえ真空引き前に芯材を容易に変形できたとしても、変形された芯材を用いた真空断熱材の製造は困難であった。
【0005】
そこで、芯材にあらかじめ折曲げ用の溝を付与しておき、真空引き後容易に折曲げ可能とするような真空断熱材が提案されている(特許文献1)。また、芯材を加熱後に曲面加工し、その曲面形状を保持するために硬質発泡性プラスチックを接着した複合真空断熱材が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−253243号公報
【特許文献2】特開2004−132438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されるような折曲げ用の溝は、確かに折曲げ部分に対しては有効であるが、曲面部分(いわゆるR形状部分)に対しては対応できない。折曲げ用の溝本数の間隔幅を短くし、多本数設けることにより曲面部分に沿わせることも可能性としては、考えられるが、現実的ではない。また、特許文献2のように真空断熱材に対し曲面加工を行った後、あらかじめ曲面形状を施した硬質発泡プラスチックを接着することは、一旦硬質発泡プラスチックを接着してしまうと、種々の曲面に対応することができなくなり、使い勝手が悪化することとなる。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、特別な溝加工を施すことなく、曲面に沿わせることが可能であり、また種々の曲面形状に対応可能な使い勝手の非常によい真空断熱部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の1〜5の発明が提供される。
1.曲面部分を有する被着部材に対し、少なくとも芯材及び該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材を備えてなる板状真空断熱材を積層してなる真空断熱部材の製造方法であって、芯材は無機繊維製芯材からなり、厚み0.1〜6mmの板状真空断熱材を、被着部材の曲面部分に沿わせて変形させた状態で固着することを特徴とする真空断熱部材の製造方法。
2.前記無機繊維が、繊維長1〜100mmのガラス繊維で有ることを特徴とする上記1に記載の真空断熱部材の製造方法。
3.前記無機繊維製芯材の密度が、150〜450kg/mであることを特徴とする上記1または上記2記載の真空断熱部材の製造方法。
4.ガス吸着物質が軟質包袋に収容されてなるガス吸着材をさらに外包材中に収納してなる上記1〜3いずれかに記載の真空断熱部材の製造方法。
5.上記1〜4のいずれかに記載の真空断熱部材の製造方法によって製造されたことを特徴とする真空断熱部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の真空断熱部材の製造方法は、芯材が無機繊維から構成され、厚みが非常に薄いため曲面加工性に優れ、曲面形状を有する被着部材に対し、曲面形状変形性に優れる。特に、繊維長1〜100mmのものが、曲面加工性が向上し、また、さらに芯材の密度100〜450kg/mのもの曲面追随性に優れる。当該特定厚みの芯材を用いた場合、真空断熱材は変形時において復元力が比較的弱く、しかも折れシワが比較的小さく、かつ少ない。そのため、当該真空断熱部材は円筒状タンクや配管設備における円筒状配管等の曲面部に対し、形状が沿いやすく、追随性に優れ、しかもそれらへの十分な密着を達成でき、接着が極めて容易になる。また、復元力が弱いため、接着後の剥がれも少ない。同様に、車両の天井等の内装材、住宅の壁等で曲面部分が存在する場合でも、真空断熱材の形状追随性が優れるため、容易に曲面形状に沿わすことが可能となり、また接着後剥がれも生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の真空断熱部材の製造方法は、芯材及び該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材を備えてなり、被着部材に対し曲面形状を沿わせた状態にて固着してなる。
【0011】
本発明において芯材は、無機繊維製芯材が使用される。無機繊維製芯材としては、例えば、ガラス繊維(グラスウール)、アルミナ繊維、スラグウール繊維、シリカ繊維、ロックウール等の無機繊維が挙げられ、1種からなる単独繊維または複数種の混合繊維として用いられる。断熱性に優れ、しかも量産性、コスト性に優れる観点から、好ましくはガラス繊維(グラスウール)である。
【0012】
無機繊維製芯材の厚みは、真空引き後において0.1mm〜6mmとなるよう設定される。0.1mmより薄いものは、極端に生産性が低下するためである。また、6mm以上の場合は、芯材が硬くなるため、折れしわが増加する。特に真空引き後の厚みが、0.5mm〜3.5mm程度となるのが、形状追随性、断熱性、生産性の面でバランスがよい。また、繊維製芯材は、1層のシートからなっていても良いが、無機繊維の1層シートで、真空引き後の厚みが5mm程度の厚い芯材を形成する場合は、シート製造が難しいため、2層以上のシートを積層し、平板状芯材とするのが好ましい。なお、芯材厚み(真空引き後)の測定において、外包材の厚みは非常に小さいので考慮しないものとする。
【0013】
本発明においては、無機繊維製芯材、特にグラスウールを使用する場合における繊維長は、1〜100mmが好ましい。繊維長が長すぎる場合、熱伝導性能が低下傾向になるとともに曲面加工性も低下する。また、繊維長が短すぎる場合、曲面形状に沿わせる際の、折れしわの発生が増加する。好ましくは、3〜30mmである。
【0014】
本発明において芯材の密度は150〜450kg/mが好ましい。当該密度が小さす
ぎると、芯材としての強度が低下してしまうと共に断熱性が低下する傾向がある。一方、
大きすぎると、芯材が硬くなり、形状追随性が低下し、折れしわの発生が増加するためである。また、重くなる断熱性が低下する傾向もある。すなわち、密度は軽すぎても、重すぎても断熱性が低下する傾向がある。最も好ましい密度は、200〜300kg/mである。
【0015】
本明細書中、芯材の密度は、芯材を外包材に収容し、真空引きした後の密度を測定したものである。すなわち、真空断熱材を作成した後、真空断熱材の重量から、あらかじめ測定した外包材及びガス吸着材等の重量を引き、芯材の重量を得る。また真空断熱材の体積から、あらかじめ測定したガス吸着材等の体積を引き、芯材の体積を得る。なお、外包材は厚みが非常に小さいので、体積算出には考慮しない。得られた芯材の重量および体積から密度を算出する。
【0016】
上記芯材を収納する外包材は、ガスバリア性を有し、内部を減圧に維持できるものであれば、どのようなものでも用いることができ、好ましくはヒートシール可能なものである。好適な具体例として、例えば、最外層から、ナイロン、アルミ蒸着PET(ポリエチレンテレフタレート)、アルミ箔、及び最内層として高密度ポリエチレンの4層構造からなるガスバリアフィルム、最外層から、ポリエチレンテレフタレート樹脂、中間層にアルミ箔、最内層に高密度ポリエチレン樹脂からなるガスバリアフィルム、最外層にPET樹脂、中間層にアルミニウム蒸着層を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、最内層に高密度ポリエチレン樹脂からなるガスバリアフィルム等が挙げられる。
【0017】
本発明の真空断熱材において外包材の中には、経時的な断熱性をより向上させる観点から、真空引き後に真空断熱材内部で発生するガス、例えば、芯材から発生するアウトガスや水分、および外部から侵入してくるガス・水分を吸着するガス吸着材を、芯材とともに収納させることが好ましい。
【0018】
ガス吸着材はガス吸着物質を粉状、粒状または錠剤状等のそのままの形態で使用してもよいが、取扱い性の観点から、ガス吸着物質が通気性のある容器に収容されてなる形態で使用されることが好ましい。
【0019】
ガス吸着物質としては特に限定されるものではないが、物理的にガスや水分等を吸着するものとして、例えば、活性炭、シリカゲル、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト等が挙げられる。また、化学的にガスや水分等を吸着するものとして、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム等や、鉄、亜鉛等の金属粉素材、バリウムーリチウム系合金、ジルコニウム系合金等が挙げられる。
【0020】
ガス吸着物質が収容される通気性のある容器は、本発明の目的が達成される限り、特に制限されるものではなく、例えば、金属製容器、プラスチック製容器等の硬質容器、紙袋、フィルム製包袋、有機繊維不織布製包袋等の軟質包袋等が挙げられる。容器の通気度は小さすぎると、真空断熱材の製造に際し、容器内部にある気体が外部に抜け難く、真空ポンプで排気する時間が長くかかるため、容器の通気度は中身のガス吸着物質が暴露の影響を受けない範囲で大きい方が好ましい。
【0021】
ガス吸着材は、真空断熱材の曲面加工性の観点から、ガス吸着物質が軟質包袋に収容されてなることが好ましい。軟質包袋を構成する具体的な材質として、例えば、紙、多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、ポリエステル繊維製不織布、ポリエチレン繊維製不織布、ナイロン繊維製不織布等が挙げられるが、好ましくはポリエステル繊維製不織布、中でもポリエチレンテレフタレート繊維製不織布である。芯材として好ましい材質であるポリエステル繊維製芯材、特にポリエチレンテレフタレート繊維製芯材と同材質であり、材質自体の吸湿性が小さく、また曲面加工時の加工性が非常に良いためである。包袋を構成する不織布の目付は、ガス吸着物質の保持性および真空引き工程の作業性の観点から、30〜200g/m、特に35〜130g/mであることが好ましい。
【0022】
本発明において、曲面部を有する被着部材とは、例えば、タンクや配管の場合であればタンク自身の金属部材や金属配管、プラスチック配管等が該当し、車両用途であれば、天井構成材、ドア構成材、床構成材、トランクルーム構成材等が該当し、住宅用途であれば、壁構成材、天井構成材、床構成材、屋根構成材等が該当する。材質は、特に制限されるものではなく、曲面形状を有し、かつ、断熱性能の付加を必要とする部材であればよい。
【0023】
本発明の真空断熱部材の製造工程について好ましい一実施形態を以下説明する。
芯材を、適当な大きさ及び形(例えば、四角形)にカットし、内部に含まれる水分等を除去するために乾燥を行う。当該乾燥は、100℃で1時間程度の条件にて行われるが、さらに、遠赤外線による乾燥を併用してもよい。真空度については、0.5〜0.01Torr程度で乾燥を行うのが好ましい。
【0024】
次に、該芯材を袋状にシールされた外包材の中に挿入する。なお、必要であれば、この時ガス吸着材を一緒に挿入する。ガス吸着材は、通常ガスバリア性の袋に入って保管されていることが多く、この時点でガスバリア性袋から取り出し、外包材中に挿入する。この状態で真空引き装置内に入れて、内圧が0.1〜0.01Torr程度の真空度となるよう減圧排気する。その後、外包材の袋状開口部を熱融着により封止し、真空断熱材が得られる。
【0025】
真空断熱材の完成後は必要有れば、プレス加工してもよく、芯材の厚み調整も可能であり、また密度制御も可能である。
【0026】
続いて、被着部材の曲面部分に沿わせて変形させた状態で固着する。固着は通常接着剤塗布による接着、接着テープによる貼着等により行う。配管等管状部材であれば、巻き付けるように真空断熱材を設けても良く、復元力により戻らぬように、接着テープで保持すればよい。また、壁構成部材、天井構成部材等の曲面を有する板状部材であれば、壁構成部材、天井構成部材に両面テープを貼着し、それに対して真空断熱材を貼り付けるようにすればよい。なお、真空断熱材に両面テープを貼り付けておき、それを壁構成部材、天井構成部材に貼着するようにしても良い。
【実施例】
【0027】
<実施例1>
無機繊維製芯材として、シート状に加工したグラスウールを用いた。当該シートを500mm×500mmの大きさに裁断し、温度120℃にて1時間乾燥を行った。乾燥後のシートを芯材としてナイロン、アルミ蒸着PET、アルミ箔、高密度ポリエチレンの4層構造からなるガスバリアフィルム製外包材に挿入し、その後、真空引き装置にて、内圧が0.01Torrとなるよう真空引きを行い、熱融着により密封した。得られた真空断熱材は、500mm×500mmの大きさで厚み1mmであった。得られた真空断熱材の芯材の密度は220kg/mであった。
【0028】
<実施例2〜4および比較例1〜3>
芯材の厚み、芯材に使用する繊維の繊維長、密度、厚みおよびガス吸着材の有無を表に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法にて真空断熱材を得た。なお、使用するガス吸着材は、平均繊維太さ1.5デニールおよび平均繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート繊維からなる目付50g/mのPET不織布(寸法50mm×100mm)を2枚重ね合わせて三方をシールし、その中へガス吸着物質を入れて残りの開口部をシールし得られたものである。
【0029】
<断熱性>
断熱性の評価は、「Autoλ HC−074」(英弘精機(株)製)を用いて、平均温度20℃の熱伝導率を測定することにより行った。なお、測定は真空引き工程から1日経過後に測定した。
【0030】
<曲面加工性>
得られた真空断熱材を直径150mm、長さ600mmの円筒状プラスチック製配管に巻き付けた。そのときの真空断熱材の折れしわの発生、配管との密着度合いを相対評価した。
○;折れしわの発生が少なく、密着度合いも良い;
△;やや折れしわが発生するが、密着度合いは良い
×;折れしわが多数発生し、密着度合いが低い
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の真空断熱部材の製造方法は、給水機器における円筒状タンク、配管設備における円筒状配管等の断熱に適用可能であり、さらに、冷蔵庫の筐体、保冷ボックスの筐体、車両用断熱部材、住宅用断熱部材等の曲面部に沿わせた断熱材としても適用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面部分を有する被着部材に対し、少なくとも芯材及び該芯材を収納し内部を減圧状態に維持できる外包材を備えてなる真空断熱材を積層してなる真空断熱部材の製造方法であって、芯材は無機繊維製芯材からなり、厚み0.1〜6mmの板状真空断熱材を、被着部材の曲面部分に沿わせて変形させた状態で固着することを特徴とする真空断熱部材の製造方法。
【請求項2】
前記無機繊維が、繊維長1〜100mmのガラス繊維で有ることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱部材の製造方法。
【請求項3】
前記無機繊維製芯材の密度が、150〜450kg/mであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の真空断熱部材の製造方法。
【請求項4】
ガス吸着物質が軟質包袋に収容されてなるガス吸着材をさらに外包材中に収納してなる請求項1〜3いずれかに記載の真空断熱部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の真空断熱部材の製造方法によって製造されたことを特徴とする真空断熱部材。



【公開番号】特開2007−50521(P2007−50521A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235172(P2005−235172)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】