説明

真空環境試験装置

【課題】コンタミネーションパネルを供えた真空装置の液体窒素消費量を削減できる真空環境装置を提供することにある。
【解決手段】供試体を収納する真空容器の内部にコンタミネーションパネルを具備した真空環境試験装置において、液体窒素を供給する手段と、供給された窒素を気相と液相に分離する手段と、分離された相中の窒素を各々独立したコンタミネーションパネルに供給する手段と、コンタミネーションパネルにて温度上昇してガス化された高温窒素ガスを大気へ放出する手段を備えたたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空環境下で使用される各種機器の試験を行う真空環境試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の真空環境装置は、真空容器の内部を各種真空ポンプで真空排気するともに、真空容器内部に収納する供試体などから放出されるアウトガスを吸収することと、前記真空ポンプを補助することを目的としたコンタミネーションパネルにより、真空容器内部を高真空とする構成となっている。アウトガスとなる各種気体は、到達真空度と凝縮可能なパネル温度の関係が低温蒸気圧曲線により決まっており、20K以下の極低温領域の微量気体はクライオポンプなどの高真空排気ポンプで排気され、HOなどの100K以下の領域の気体はコンタミネーションパネルで吸収排気される。コンタミネーションパネルの寒冷源としては、一般的に液体窒素が用いられる。液体窒素の消費量はコンタミネーションパネル面とその他内部機器との伝熱量に比例するため、窒素消費量の削減が困難である。
【0003】
このような、コンタミネーションパネルに関する従来の技術として、特開平5−65100号公報において、供試体を収納する真空容器の内部にコンタミネーションパネルを供えた宇宙環境試験装置において、前記供試体とコンタミネーションパネルとの間に、コンタミネーションパネル用シールドを着脱自在に設ける例が開示されている。本従来技術によれば、該シールド板を装着することで、シュラウド常温戻しと供試体枯らし運転の際の、供試体の放熱を防止するとともに、温度調整用シュラウドとの熱移動を制限して、コンタミネーション用液体窒素や、温度調整用窒素ガスの使用量を低減できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−65100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然しながら、本従来技術は、シールド板により供試体等の輻射熱を一時的に遮断して窒素消費量を低減させているため、文献記載のシュラウド常温戻しと、供試体枯らし運転の時などの短時間の作業では効果があると予想されるが、より多量の液体窒素を使用する試験期間中の液体窒素消費量の削減に関しては、抜本的な方策ではない。
【0006】
本発明の目的は、コンタミネーションパネルを供えた真空装置の液体窒素消費量を効果的に削減できる真空環境装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、供試体を収納する真空容器の内部にコンタミネーションパネルを具備した真空環境試験装置において、
上記コンタミネーションパネルは独立した気相パネルと液相パネルから構成され、さらに、
液体窒素を供給する手段と、
供給された窒素を気相と液相に分離する気液分離手段と、
分離された気相と液相の窒素を各々上記独立した気相パネルと液相パネルに供給する手段と、
上記各コンタミネーションパネル内で温度上昇してガス化された高温窒素ガスを大気へ放出する手段を備えたたことを特徴とする真空環境試験装置。
【0008】
また、上記に記載の真空環境試験装置において、上記気相パネルは上記液相パネルの上方に配置されたことを特徴とする。また、上記に記載の真空環境試験装置において、上記気相パネルは横向きに配置され、上記液相パネルは縦向きに配置されたことを特徴とする。また、上記に記載の真空環境試験装置において、上記液相パネルはパネル内部の下方から上方に液体窒素が流れるように縦向きに配置されたことを特徴とする。また、上記に記載の真空環境試験装置において、液相窒素が供給されるコンタミネーションパネルは複数個並列に連通した並列パネルからなり、各並列パネルの入口と出口は入口ヘッダーと出口ヘッダーにより接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の真空環境装置によれば、コンタミネーションパネルによるアウトガスの吸収排気性能を損なうことなく、より効率的に液体窒素消費量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1の真空環境装置を模式した図である。
【図2】本発明の真空排気特性の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施例2のコンタミネーションパネルを模式した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1を図1を用いて説明する。図1は本発明の実施例である真空環境装置を模式した図で、1は真空容器、2は真空容器1に収納される供試体、3は真空容器1内部を低真空状態にする粗引真空ポンプである。一般的に粗引真空ポンプ3とは、油回転真空ポンプに油拡散ポンプやメカニカルブースタポンプを組合わせたものを指し、低真空状態とは大気圧から0.1Pa程度とする。4は真空容器1内部を低真空状態から高真空状態にする高真空ポンプである。一般的に高真空ポンプとはターボ分子ポンプやクライオソープションポンプ、またはその両者を組合わせたものなどを指し、高真空状態とは0.1Pa程度以下の状態とする。
【0013】
5(5a1、5a2、5b)は、液体窒素と気体窒素で冷却されることにより、真空容器1内部に収納する供試体2などから放出されるアウトガスを表面に吸収すると共に、前記高真空ポンプ4を補助することを目的としたコンタミネーションパネルで、5a1、5a2は直列に連通して液体窒素(液相)が媒体として流れる液相パネル、5bは液体窒素のミストなどを含んだ低温窒素ガス(気体窒素)が媒体として流れる気相パネルである。両パネルは独立構成となっており、液相パネル5a1、5a2は縦向きに配置され、気相パネル5bは液相パネルの上方に横向きに配置されている。
【0014】
6は液体窒素を供給する手段としての液体窒素貯槽、7は液体窒素貯槽6から供給される窒素を気相と液相に分離する気液分離筒(気液分離手段)、7a、7bはそれぞれ、前記液相パネル5a1、5a2と気相パネル5bに、液体窒素と気体窒素を供給する手段としての配管、8はコンタミネーションパネル5内部にて温度上昇してガス化された高温の窒素ガスを大気へ放出する手段としての放散塔である。
【0015】
上記液相パネル5a1、5a2はそれぞれ縦向きに置いた状態で横に並べて配置され、液体窒素が、高真空ポンプ4側に配置されたパネル5a1の下方から、配管7aを経由して導入されて上方から導出され、さらにパネル5a2の下方から導入されてその上方から導出され、上記放散塔8に導かれる。従って各液相パネルは下方が低温で上方が高温となる。上記のように、上方に気相パネル5bを下方に液相パネル5aを配置し、しかも、上記したように液相パネル5aの下方より上方を高温に設定して、コンタミネーションパネル5全体として上方を高温にして、収納される供試体2が冷却されるのを防止している。
【0016】
また、9は液体窒素貯槽6の高圧液体窒素の供給量を制御する高圧供給弁、10は気液分離筒7の低圧液体窒素の供給量を制御する低圧供給弁、11は気液分離筒7の液面を指示する液面計、12はコンタミネーションパネル5aの高温側の液相パネル5a2の温度を測定する温度計、13は真空容器1の真空度を測定する真空計、14は液面計11・温度計12・真空計13を入力として、高圧供給弁9及び低圧供給弁10の開度を制御する制御装置である。
【0017】
以下、本発明の操作方法を説明する。供試体2を装着した真空容器1内部を、まず、粗引真空ポンプ3で低真空状態にする。次に、粗引真空ポンプ3と高真空ポンプ4を切替るとともに、コンタミネーションパネル5に気体と液体の窒素を供給し、真空容器1内部を高真空状態にする。真空排気特性の一例は図2に示す通りで、粗引真空ポンプ3、ターボ分子ポンプ(高真空ポンプ4)、コンタミネーションパネル5、クライオソープションポンプ(高真空ポンプ4)の順で起動(真空引き)し、真空容器1を高真空状態とする。
【0018】
真空容器1内の排気計算の基礎式は(式1)で示される。
【0019】
【数1】


ここで、Vは被排気容量、Pは圧力、Sは有効排気速度、Q(t)はアウトガス量である。コンタミネーションパネル5は上式のQ(t)成分を吸収し、クライオソープションポンプの負荷を軽減させる役割を有する。
【0020】
コンタミネーションパネル5の操作方法は、まず、高圧下にある液体窒素貯槽6から、高圧供給弁9を介して、気液分離筒7に液体窒素が供給される。この際の供給量は気液分離筒7に設置された液面計11の信号を入力として制御装置14により高圧供給弁9を制御し、液面計11の信号が所定範囲になるように気液分離筒7の液面を制御する。気液分離筒7に供給された高圧液体窒素の一部は、略大気圧下にある気液分離筒7でフラッシュガスとなる。ここで、液体窒素貯槽6の飽和液エンタルピをhLCE、気液分離筒7内の飽和液エンタルピをhLT、飽和ガスエンタルピをhVTとすると、液化量hと全潜熱Hfgは(式2)となる。
【0021】
【数2】


気液分離筒7で分離された液相の液体窒素は、配管7aと低圧供給弁10を介して、コンタミネーションパネル5aの下部から供給され、パネル内を上方に向かい流通し、上部から窒素ガスとして排出される。この際の供給量はコンタミネーションパネル5aの上方に設置された温度計12、及び真空容器1に設置された真空計13の信号を入力として、制御装置14により低圧供給弁10を制御し、温度計12及び真空計13の信号が所定範囲になるようにする。
【0022】
一方、気液分離筒7で分離された気相の低温窒素ガスは、気液分離筒7の圧力と大気圧の差圧により、配管7bを経由してコンタミネーションパネルの気相パネル5bに流れ、ここを経由して、コンタミネーションパネルの液相パネル5aの窒素ガスと合流混合され、放散塔8により大気放出される。
【0023】
ここで、コンタミネーションパネル5aで消費される窒素消費量をFNCとすると、フラッシュガスによる液体窒素ロス量(フラッシュロス量)FLossは(式3)となる。
【0024】
【数3】


また、コンタミネーションパネル5aの伝熱面積Aは(式4)で概算できる。
【0025】
【数4】


但し、Qはコンタミネーションパネル5aが必要とする伝熱量、αは輻射伝熱量とパネル面への凝縮確率の積を温度差で除した等価熱伝達率、ΔTは温度差(雰囲気温度−パネル温度)である。さらに、前述したコンタミネーションパネル5aで消費される窒素消費量FNCは前記Qを窒素の温度変化に相当するエンタルピ落差Jで除すことで概算できる。
【0026】
尚、液相パネルは下方から導入されて上方から導出されるので、下方が低温で上方が高温となるが、これは、前記したように供試体2の冷却されるのを防止するのに役立つ。また、パネル5a1がパネル5a2より低温となって、表面での吸収能力が高くなり、高真空ポンプ4の負担を少なくしている。
【0027】
本実施例によれば、供試体2や試験インターバルによる真空容器1内面の暴露時間などによるアウトガスの変動がある場合でも、コンタミネーションパネル5を制御することで高真空を維持でき、窒素消費量の好適化が図れる。また、アウトガスの成分の大半は水分であるため、パネル温度を150K程度で制御することで、パネル5aによる液体窒素の潜熱、パネル5bによる窒素ガスの顕熱の両方を用いて窒素を有効に利用できるので、窒素消費量の削減が可能となる。
【0028】
また、液体窒素貯槽6が本装置の専有機である場合は、供給圧力を自由に下げることで、フラッシュガス量を抑制して液相窒素をパネルに供給して吸収の効率を上げられるが、他の施設へも用いる共有機である場合は、圧力調整が他施設依存となり、高圧運転を余儀なくされる場合がある。この場合においても、フラッシュガス分の気相の顕熱をコンタミネーションパネルの気相パネル5bで消費することが出来るため、効率的に窒素を消費出来る。
【実施例2】
【0029】
本発明の実施例2を、図3を用いて説明する。図3は本発明のコンタミネーションパネルの実施例を模式した図である。
【0030】
実施例1との相違点はコンタミネーションパネル5aが複数のパネル50〜53と複数のヘッダー500〜503により構成されたことで、その他の構成、動作及び効果は実施例1と同等である。
【0031】
パネル50と51は複数並列に連通した並列パネルを構成しており、各並列パネルの入口は入口ヘッダー500で接続され、出口は出口ヘッダー501で接続されている。ヘッダー500はパネル50、51の下方位置の入口に接続され、ヘッダー501はパネル50、51の上方位置の出口に接続されている。これは、パネル52、53、ヘッダー502、503についても同じ構成である。そして、ヘッダー501と502は連通するように配管で接続されており、全体として、パネル50、51の並列パネルと、パネル52、53の並列パネル同士が直列に接続されている。
【0032】
本実施例特有の効果としては、パネルの個数が多く表面積が増加するので、アウトガス吸収に最低限必要な潜熱、顕熱を効率良く活用できるとともに、窒素の流れる経路が長くなるので窒素温度を常温付近まで回復させ放散塔へ排出できるため、窒素消費量の更なる好適化が図れる。また、窒素量の制御により有効伝熱面の制御が広範囲化できるため、アウトガスの広範囲な変動にも対応可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…真空容器、2…供試体、3…粗引真空ポンプ、4…高真空ポンプ、5…コンタミネーションパネル、5a、5a1、5a2…液相パネル、5b…気相パネル、6…液体窒素貯槽(液体窒素を供給する手段)、7…気液分離筒(気液分離手段)、7a、7b…窒素を供給する手段、8…放散塔(窒素ガスを大気へ放出する手段)、9…高圧供給弁、10…低圧供給弁、11…液面計、12…温度計、13…真空計、14…制御装置、50漢3…並列パネル、500、502…入口ヘッダー、501、503…出口ヘッダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体を収納する真空容器の内部にコンタミネーションパネルを具備した真空環境試験装置において、
上記コンタミネーションパネルは独立した気相パネルと液相パネルから構成され、さらに、
液体窒素を供給する手段と、
供給された窒素を気相と液相に分離する気液分離手段と、
分離された気相と液相の窒素を各々上記独立した気相パネルと液相パネルに供給する手段と、
上記各コンタミネーションパネル内で温度上昇してガス化された高温窒素ガスを大気へ放出する手段を備えたたことを特徴とする真空環境試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空環境試験装置において、上記気相パネルは上記液相パネルの上方に配置されたことを特徴とする真空環境試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の真空環境試験装置において、上記気相パネルは横向きに配置され、上記液相パネルは縦向きに配置されたことを特徴とする真空環境試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の真空環境試験装置において、上記液相パネルはパネル内部の下方から上方に液体窒素が流れるように縦向きに配置されたことを特徴とする真空環境試験装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の真空環境試験装置において、液相窒素が供給されるコンタミネーションパネルは複数個並列に連通した並列パネルからなり、各並列パネルの入口と出口はそれぞれ入口ヘッダーと出口ヘッダーにより接続されていることを特徴とする真空環境試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate