説明

真空紫外光発生装置

【課題】装置が大型化せず、パワー損失も少なく、且つ、ビームラインシフトを抑えつつ波長を可変可能な真空紫外光発生装置を提供する。
【解決手段】本発明の4波混合法を用いる真空紫外光発生装置は、セル10と可視光光源20と紫外光光源30と第1レンズ40と第2レンズ50と第3レンズ60とからなる。可視光光源20は、照射する可視光の波長を可変可能である。紫外光光源は、セル10内の希ガスの2光子吸収線に合わせられる紫外光を照射するものである。第1レンズ40は、オフアキシャルな状態で可視光及び紫外光をセル内で交差するように集光するものである。第2レンズ50は、オフアキシャルな状態で真空紫外光を平行化するものである。第3レンズ60は、可視光の波長の変化による真空紫外光の第3レンズ60への入射角の変化を、真空紫外光の波長の変化による第3レンズ60における出射角の変化により相殺するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空紫外光発生装置に関し、特に、真空紫外光の波長を可変可能な真空紫外光発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空紫外光は、半導体の製造過程や、化学分析等様々な用途に用いられている。波長が200nmよりも短い光は、空気中の水や酸素に吸収されてしまうため、通常、真空中での取り扱いが必要である。このため、紫外線の中でも最も波長の短い10〜200nm付近の波長の光は、真空紫外光と呼ばれている。真空紫外光は高エネルギの光であり、可視光や紫外光では起きない様々な化学反応を誘発する。したがって、真空紫外光発生装置は半導体製造や環境浄化、化学分析等の分野において有望なエネルギ源として注目され、その利用が進められている。
【0003】
一般に、真空紫外光の光源としては、真空紫外ランプや、エキシマーレーザを用いるものがある。これらは、放出される真空紫外光の波長が固定波長である。しかしながら、任意の波長の真空紫外光が得られれば、特定の化学反応をいわば狙い撃ちすることが可能となるため、真空紫外光の波長を可変可能な真空紫外光発生装置が望まれている。波長可変可能な真空紫外光発生装置としては、例えば軌道放射光光源が知られている。しかしながら、これは設備が巨大であり、任意の場所で任意のときに真空紫外光を発生させることはできなかった。
【0004】
これに対して、簡単な設備で容易に真空紫外光の波長を可変できるものとして、共鳴4波混合法を用いた真空紫外光発生装置が知られている(例えば特許文献1)。これは、まず、希ガス原子を紫外光(UV)で2光子励起する。そして、電子励起された原子は、光放出も2光子過程で起こる。このとき、可視光(Vis)も同時に希ガスに入射すると、可視光の波長で誘導放出が起こり、残りの波長の光も同時に発生する。例えば、希ガスとしてKrを用いた場合、UVに約216nm、Visに500nmの波長の光を用いると、216nmの2倍のエネルギ(108nm)から500nmのエネルギを差し引いたエネルギである137.7nmの光が発生する(エネルギは波長に逆比例する)。この差のエネルギの光が真空紫外光(VUV)である。ここで、可視光の波長を可変することにより、任意の波長の真空紫外光を発生させることが可能となる。
【0005】
通常、共鳴4波混合法では、KrやXe等の希ガスが用いられ、これらを封入したセルに紫外光と可視光を集光することにより、真空紫外光が発生する。しかしながら、このときの真空紫外光への変換効率は概ね1%未満であり、セルから出射する光の殆どは、未変換の紫外光と可視光である。この未変換の光による副次的な影響を取り除くために、真空紫外光のみを分離する必要がある。従来の真空紫外光を分離する手法としては、例えば特許文献2に開示されているようにプリズムを用いて分離するものや、例えば特許文献3に開示されているように回折格子を用いて分離するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−99482号公報
【特許文献2】特開平6−79478号公報
【特許文献3】特開2005−61831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、共鳴4波混合法を用いた真空紫外光発生装置により、可視光掃引を行うことで真空紫外光の波長を連続的に変化させた場合、真空紫外光の出射方向が波長によって変化してしまう(ビームラインシフト)。このため、例えばプリズムを用いるものでは、真空紫外光の出射方向を一定に保持することが困難であった。また、真空紫外光がプリズムを透過する際にパワー損失が生じるため、真空紫外光の実効的な出力が低下してしまっていた。一方、回折格子を用いるものでも、真空紫外光の出射方向が変化してしまうとスリットから真空紫外光が出射しなくなってしまう。さらに、強力な未変換の紫外光により回折格子が損傷を受ける場合があり、真空紫外光の反射効率が著しく低下するという問題も生じ得る。さらにまた、高輝度の真空紫外光を安定的に得るためには、回折格子に照射する紫外光のビームサイズを大きくする必要があるが、そのためには巨大な回折格子が必要となり、装置が大型で且つ高価なものとなってしまっていた。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、装置が大型化せず、パワー損失も少なく、且つ、ビームラインシフトを抑えつつ波長を可変可能な真空紫外光発生装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明の真空紫外光発生装置は、所定の2光子吸収線を有する希ガスが封入されるセルと、照射する可視光の波長を可変可能な可視光光源と、セルに封入される希ガスの2光子吸収線に合わせられる紫外光を照射する紫外光光源と、可視光光源からの可視光及び紫外光光源からの紫外光をセル内で交差するように集光する第1レンズであって、可視光及び紫外光が第1レンズの光軸からずらされて入射されるように配置される第1レンズと、セルから発生する真空紫外光を平行化する第2レンズであって、真空紫外光が第2レンズの光軸からずらされて入射されるように配置される第2レンズと、第2レンズにより平行化される真空紫外光を所望の焦点に集光する第3レンズであって、可視光の波長の変化により生ずる真空紫外光の第3レンズへの入射角の変化を、真空紫外光の波長の変化により生ずる第3レンズにおける出射角の変化により相殺するように構成される第3レンズと、を具備するものである。
【0010】
ここで、第1レンズは、可視光及び紫外光がセル内で一点に集光するように配置されても良い。
【0011】
また、第1レンズ、第2レンズ及び/又は第3レンズは、平凸レンズであっても良い。
【0012】
また、平凸レンズは、可視光、紫外光及び/又は真空紫外光の入射面及び出射面のみを残してカットされるカットレンズであっても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の真空紫外光発生装置には、装置が大型化せず、パワー損失も少なく、且つ、ビームラインシフトを抑えつつ波長を可変可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の真空紫外光発生装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図2】図2は、本発明の真空紫外光発生装置の具体的構成を説明するための概略ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の真空紫外光発生装置において可視光を掃引したときのイオンの飛行時間スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の真空紫外光発生装置の構成を説明するための概略ブロック図である。図示の通り、本発明の真空紫外光発生装置は、4波混合法を用いるものであり、セル10と、可視光光源20と、紫外光光源30と、第1レンズ40と、第2レンズ50と、第3レンズ60とで主に構成されている。
【0016】
ここで、セル10は、所定の2光子吸収線を有する希ガスが封入されるものである。希ガスとしては、例えばKrやXe、及びそれらとArとの混合ガスが挙げられる。また、セル10には、所定の位置に、入射される光用の入射窓や出射される光用の出射窓が設けられれば良い。
【0017】
可視光光源20は、照射する可視光Visの波長を可変可能なものである。可視光Visの波長は、例えば400nm−700nmの範囲で可変されるものである。
【0018】
紫外光光源30は、セル10に封入される希ガスの2光子吸収線に合わせられる紫外光を照射するものである。例えば、希ガスにKrを用いれば、紫外光光源30により照射される紫外光は、例えば216.599nm、214.701nm、212.488nmの何れかの波長を選択すれば良い。また、希ガスがXeの場合には224.240nm、225.049nm、255.945nm、252.415nm、249.559nmの何れかの波長を選択すれば良い。このように、希ガスの種類やその吸収線を適宜選択し、それに合わせた紫外光を紫外光光源30から照射すれば良い。
【0019】
これらの光源を用いて、以下に説明する光学系により真空紫外光のビームラインシフトを抑制する。まず、図示の通り、第1レンズ40は、可視光光源20からの可視光Vis及び紫外光光源30からの紫外光UVをセル10内で交差するように集光するものである。そして、第1レンズ40は、可視光Vis及び紫外光UVが第1レンズ40の光軸からずらされて入射されるように配置されている。即ち、第1レンズ40と可視光光源20、紫外光光源30との関係は、オフアキシャルな状態となっている。また、第1レンズ40は、可視光Vis及び紫外光UVがセル10内で一点に集光するように配置されると、即ち、第1レンズ40を透過した可視光Vis及び紫外光UVがセル10内で一点に集光するように配置されると、効率が良い。
【0020】
第2レンズ50は、セル10から発生する真空紫外光VUVを平行化するものである。そして、第2レンズ50は、真空紫外光VUVが第2レンズ50の光軸からずらされて入射されるように配置されている。即ち、第2レンズ50と真空紫外光VUVとの関係も、オフアキシャルな状態となっている。なお、第2レンズ50は、真空紫外光VUVを平行化するような位置に配置されれば良く、可視光Vis及び紫外光UVについては、第2レンズ50を透過後、適当な遮蔽板75にて遮蔽されれば良いため、平行化されなくても良い。
【0021】
また、第3レンズ60は、第2レンズ50により平行化される真空紫外光VUVを所望の焦点、即ち、集光スポット70に集光するものである。第3レンズ60は、可視光Visの波長の変化により生ずる真空紫外光VUVの第3レンズ60への入射角の変化を、真空紫外光VUVの波長の変化により生ずる第3レンズ60における出射角の変化により相殺するように構成されている。ここで、レンズに入射する光の波長の変化によって、レンズからの出射光の出射角は変化する。即ち、可視光Visの波長を可変する(掃引する)と、第2レンズ50からの出射光の出射角が変化する。したがって、第3レンズ60に入射する真空紫外光VUVの入射角も変化することになる。このとき、真空紫外光VUVの波長も可視光Visの掃引に従って変化するため、この波長の変化により生ずる出射角の変化により、第3レンズへの真空紫外光VUVの入射角の変化を相殺するように、第3レンズが構成されれば良い。また、基本的に第1レンズ40の光軸と第3レンズ60の光軸は一致するように配置されている。
【0022】
ここで、図示例では、第1レンズ、第2レンズ及び第3レンズは、すべて平凸レンズを用いた例を示した。しかしながら、本発明はこれに限定されず、これらのレンズは、平凸レンズから、可視光、紫外光、真空紫外光の入射面及び出射面のみを残してカットされるカットレンズであっても良い。また、レンズの片面側が平行光線又はそれに近い場合には、収差を抑える観点からは平凸レンズ、又は平凹レンズが好ましい。しかしながら、上述のような条件の光学系が構築できれば、両凸レンズのような他の形状のレンズを用いても良い。さらにまた、第1レンズ、第2レンズ及び第3レンズは、それぞれ同一種のレンズでなくても良く、各種レンズをそれぞれ組み合わせて選択しても良い。
【0023】
以下、このように構成される本発明の真空紫外光発生装置の各光線の光路を中心に説明する。図示の通り、可視光光源20及び紫外光光源30からそれぞれ出射された可視光Vis及び紫外光UVが、第1レンズ40の光軸からずれた位置に、即ちオフアキシャルな状態で入射される。集光レンズである第1レンズ40により、可視光Vis及び紫外光UVがセル10に設けられた入射窓を介してセル10内に集光され、セル10内で交差する。そして、セル10内に封入された希ガス原子が紫外光UVにより2光子励起され、同時に入射された可視光Visの波長で誘導放出が起こり、紫外光UVのエネルギから可視光Visのエネルギを引いた残りのエネルギの光である真空紫外光VUVが発生する。このような共鳴4波混合法の原理により発生した真空紫外光VUVは、差分エネルギの光であるため、可視光Visの波長を可変することにより、真空紫外光VUVの波長も変化する。そして、可視光Vis、紫外光UV及び真空紫外光VUVが、セル10に設けられた出射窓から、拡散する方向に出射する。セル10から出射する可視光Vis,紫外光UV及び真空紫外光VUVは、空間的に分離した状態で発生する。したがって、この段階でプリズム等を用いて真空紫外光と他の波長の光を分離する必要がないため、プリズムによるパワーの損失等が生じない。
【0024】
そして、このように拡散する方向に出射する可視光Vis,紫外光UV及び真空紫外光VUVが、第2レンズ50の光軸からずれた位置に、即ちオフアキシャルな状態で入射されれる、第2レンズ50を通過した可視光Vis,紫外光UV及び真空紫外光VUVは、それぞれ平行化され、可視光Vis及び紫外光UVが出射される方向に設けられた遮蔽板75により遮蔽される。一方、真空紫外光VUVは、第3レンズ60に入射される。そして、第3レンズ60により集光スポット70へ集光される。
【0025】
ここで、可視光Visの波長を掃引することにより真空紫外光VUVの波長が変化した場合の真空紫外光VUVの光路について、より詳細に説明する。例えば、可視光Visを長波長側(低エネルギ側)に掃引すると、真空紫外光VUVのセル10からの出射方向は、図1の図面上、下側、即ち、第2レンズ50の光軸に対して外側にシフトする。そして、発生する真空紫外光VUVはより短波長となるため、第2レンズ50により、図面上、逆により上方向、即ち、第2レンズの光軸に対して内側にシフトする。これは、波長が短いほどレンズの屈折率が高くなり、レンズの焦点距離が短くなるためである。その結果、第3レンズ60への入射角が僅かながら小さくなる。即ち、レンズへの入射角が小さくなると、そのレンズからの出射光の焦点距離は伸びるが、真空紫外光の波長が短くなると、焦点距離は短くなる。したがって、真空紫外光の波長の変化が入射角の変化により相殺され、結果として可視光の波長掃引を行っても、真空紫外光の集光スポットは一定の位置を保つことになる。即ち、本発明の真空紫外光発生装置は、発生する真空紫外光のビームラインシフトを抑えることが可能である。
【0026】
また、上述のように、本発明の真空紫外光発生装置は、真空紫外光の分離にプリズム等を用いる必要が無いため、装置自体を小型に構成することが可能である。
【0027】
以下、本発明の真空紫外光発生装置の集光スポットが一定の位置を保っていることを、飛行時間型質量分析を用いて確認したので説明する。図2は、本発明の真空紫外光発生装置の具体的構成を説明するための概略ブロック図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0028】
セル10に希ガスとしてXeを内圧200mbarで封入する。セル10には、入射窓12は高純度フッ化カルシウム板からなり、出射窓13はフッ化マグネシウム板からなる。
【0029】
可視光光源20は、パルスレーザ22と色素レーザ23とで主に構成される。パルスレーザ22にはSpectra−Physics社製のNd3+:YAGパルスレーザLAB−150を用い、色素レーザ23にはSirah社製のCobra−Stretchを用い、パルスレーザ22の3倍波の355nmで色素レーザ23を励起し、500−530nmの波長可変可視光光源とした。そして、発生した可視光は、ミラー24により第1レンズ40方向に屈折させられ、焦点距離220mmの合成石英製レンズ25で集光され、焦点距離200mmの合成石英製レンズ26を用いて略平行光となるように調整される。なお、レンズ25とレンズ26との間の距離は460mmとした。
【0030】
紫外光光源30も、パルスレーザ32と色素レーザ33とで主に構成される。パルスレーザ32にはSpectra−Physics社製のNd3+:YAGパルスレーザLAB−150を用い、色素レーザ33にはFine Adjustment社製のPulsare−S PROを用い、パルスレーザ32の2倍波の532nmで色素レーザ33を励起し、649.797nmの光を発生させる。そして、これをλ/4板34を用いて円偏光とした後に、第1のBBO結晶(β−BaB)35に導入し、2倍波の324.898nmの波長の光を発生させる。そして、未変換の649.797nmの波長の光と2倍波をそのまま第2のBBO結晶36に導入し、和周波発生により216.599nmの波長の光を発生させる。ここで、第2のBBO結晶36からは、3つの波長の光が混合して出力されるので、これらの光をペランブロッカプリズム37に導入し、各波長の光を空間的に分離して216.599nmの紫外光のみを取り出す。これをミラー38.39を用いて第1レンズ40方向に屈折させる。
【0031】
そして、このようにして得られた500−530nmの可視光と216.599nmの紫外光を、希ガスとしてXeが封入されたセル10内に第1レンズ40を用いて集光する。第1レンズ40は、曲率半径50mm(波長213nmの場合には焦点距離100mmに相当)の高純度フッ化カルシウム製レンズからなる。紫外光と可視光のレーザの焦点を一致させるには、合成石英製レンズ26を調整すれば良い。なお、レンズ26と第1レンズ40との間の距離は550mmとした。また、パルスレーザ22,32は、そのレーザ出射タイミングをデジタル遅延パルス発生器90を用いて同期させ、焦点位置で紫外光と可視光のタイミングが一致するように調整する。
【0032】
そして、セル10内で発生した真空紫外光と、紫外光及び可視光は、第2レンズ50により平行光に戻される。第2レンズ50は、曲率半径110mmのフッ化マグネシウムレンズからなる。なお、第1レンズ40と第2レンズ50との間の距離は215mmとした。そして、空間的に分離された紫外光及び可視光は、セラミックス製の遮蔽板75でカットされる。
【0033】
平行化された真空紫外光は、第3レンズ60により所定の真空チャンバ80内に位置する集光スポットに集光する。第3レンズ60は、曲率半径160mmのフッ化マグネシウムレンズからなる。なお、第2レンズ50と第3レンズ60との間の距離は490mmとした。このとき、第3レンズ60と集光スポット70との間の距離は370mmである。なお、セル10の出射窓13以降のレンズ等はすべて真空チャンバ80内に設置されれば良い。
【0034】
このように構成された本発明の真空紫外光発生装置において、真空紫外光の集光スポットで発生するイオンの飛行時間を飛行時間型質量分析を用いて測定することで、波長掃引に伴う真空紫外光の集光スポットの位置ずれを飛行時間変化により評価することができる。まず、真空紫外光の集光スポットに、トリエチルアミン及び1,2,4−トリクロロベンゼン蒸気を含むヘリウムガスを、直径0.8mmのオリフィスより噴射し、真空紫外光によって発生したそれぞれの分子の正イオンラジカルを飛行時間型質量分析により検出する。真空紫外光を入射したタイミングをt=0とし、イオン検出器100によりイオンが検出されるまでの時間(飛行時間)を、デジタルオシロスコープ101を用いて測定した。なお、デジタルオシロスコープ101についてもデジタル遅延パルス発生器90を用いて同期させる。測定に用いた真空チャンバ80では、0.1mm位置ずれがあると飛行時間が約67nsずれる。したがって、波長掃引に伴う真空紫外光の焦点位置のずれを、飛行時間の変化として10μm程度の精度で測定することが可能である。
【0035】
図3は、上述のような構成で、可視光を500−530nmの範囲で掃引したときのイオンの飛行時間スペクトルを示すグラフである。真空紫外光の波長(エネルギ)は、136.1nm(9.11eV)−138.2nm(8.97eV)の範囲で可変する。米国国立標準技術研究所データベースによると、トリエチルアミンのイオン化ポテンシャルは7.53±0.10eVであるため、今回用いた真空紫外光のすべての波長において、トリエチルアミンはイオン化される。一方、1,2,4トリクロロベンゼンのイオン化ポテンシャルは9.04±0.03eVであり、9.02−9.04eV付近でイオン化効率の増大が観測されているため、必要とする波長の真空紫外光の発生が確認できる。また、1,2,4トリクロロベンゼンは、塩素原子の質量数35と37との同位体のため、35Cl35Cl37Cl35Cl37Cl37Cl=27:27:9:1の強度比に分裂する。
【0036】
真空紫外光の集光スポットのずれ、即ち、飛行時間のずれの有無を確認するために、図3には各波長の真空紫外光でイオン化したときのトリエチルアミンの質量ピークを重ねて示した。同図から、すべての波長で飛行時間11.76μsにおいて質量ピークが観測され、完全に一致していることが分かる。したがって、今回波長掃引により真空紫外光の波長を136.1nm−138.2nmの範囲で可変させた場合に、飛行時間の変動、即ち、ビームラインシフトが無いことが確認できる。
【0037】
なお、本発明の真空紫外光発生装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上述の説明で用いた具体的な数値や波長については、あくまでも単なる一例であり、本発明はこれに限定されるものではないことも勿論である。
【符号の説明】
【0038】
10 セル
12 入射窓
13 出射窓
20 可視光光源
22,32 パルスレーザ
23,33 色素レーザ
24,38 ミラー
25,26 合成石英製レンズ
30 紫外光光源
34 λ/4板
35,36 BBO結晶
37 ペランブロッカプリズム
38 ミラー
40 第1レンズ
50 第2レンズ
60 第3レンズ
70 集光スポット
75 遮蔽板
80 真空チャンバ
90 デジタル遅延パルス発生器
100 イオン検出器
101 デジタルオシロスコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空紫外光の波長を可変可能な、4波混合法を用いる真空紫外光発生装置であって、該真空紫外光発生装置は、
所定の2光子吸収線を有する希ガスが封入されるセルと、
照射する可視光の波長を可変可能な可視光光源と、
セルに封入される希ガスの2光子吸収線に合わせられる紫外光を照射する紫外光光源と、
前記可視光光源からの可視光及び紫外光光源からの紫外光をセル内で交差するように集光する第1レンズであって、可視光及び紫外光が第1レンズの光軸からずらされて入射されるように配置される第1レンズと、
前記セルから発生する真空紫外光を平行化する第2レンズであって、真空紫外光が第2レンズの光軸からずらされて入射されるように配置される第2レンズと、
前記第2レンズにより平行化される真空紫外光を所望の焦点に集光する第3レンズであって、可視光の波長の変化により生ずる真空紫外光の第3レンズへの入射角の変化を、真空紫外光の波長の変化により生ずる第3レンズにおける出射角の変化により相殺するように構成される第3レンズと、
を具備することを特徴とする真空紫外光発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空紫外光発生装置において、前記第1レンズは、可視光及び紫外光が前記セル内で一点に集光するように配置されることを特徴とする真空紫外光発生装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の真空紫外光発生装置において、前記第1レンズ、第2レンズ及び/又は第3レンズは、平凸レンズであることを特徴とする真空紫外光発生装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の真空紫外光発生装置において、前記平凸レンズは、可視光、紫外光及び/又は真空紫外光の入射面及び出射面のみを残してカットされるカットレンズであることを特徴とする真空紫外光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−204882(P2011−204882A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70306(P2010−70306)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、「収束イオンビーム/レーザーイオン化法による単一微粒子の履歴解析装置」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】