説明

真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体、希ガス放電ランプ用蛍光体混合物、希ガス放電ランプ及び液晶表示装置

【課題】 加熱処理工程や経時での輝度劣化が少なく、色再現範囲が広く、高輝度な真空紫外線励起用蛍光体及びLCDのバックライトとして用いた場合、色再現範囲が広く、高光束で経時的な光束低下の少ない希ガス放電ランプ、及び高輝度で経時的な輝度低下の少ないLCD用バックライトを提供すること。
【解決手段】 蛍光体の組成式が(M1-a,Mna)(Al1-b,Gab24で表わされることを特徴とする真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体(但し、前記式中、MはMg、Ca、Sr、及びZnの中少なくとも一種であり、a及びbは、それぞれ0.0005≦a≦0.3及び0.02≦b≦0.17なる条件を満たす数である)。少なくとも前記蛍光体、赤色発光蛍光体、及び青色発光蛍光体を含む蛍光体混合物を蛍光膜として用いた希ガス放電ランプをLCD用バックライトの光源とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波長180nm以下の真空紫外線励起によって高輝度で色純度の良好な緑色発光を呈し、輝度劣化の少ないアルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体、該蛍光体を含み、少なくとも赤色、緑色、及び青色波長域に発光スペクトルのピーク波長をもった3波長型蛍光ランプ等の蛍光膜として用いられる色再現範囲が広い希ガス放電ランプ用蛍光体混合物、該混合蛍光体を用いた希ガス放電ランプ、及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)などに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)の普及は著しい。FPDはPDPなどのパネル上で画像を構成する画素自体が発光するいわゆる発光形ディスプレイと、LCDのようにパネル上で画像を構成する画素自体は発光せずバックライトと組み合わせて使用される非発光形ディスプレイがある。LCDではバックライトと液晶シャッターとの組み合わせでパネル上に画像を構成し、さらにカラーフィルターを組み合わせることにより画像のカラー表示を可能にしている。
【0003】
近年LCDは従来のパーソナルコンピュータ用ディスプレイの用途からモニターやテレビなどカラー画像表示を必要とする用途へ急速に普及しつつある。このような用途では、画像の色を忠実に再現することが非常に重要であり、少なくともカラーブラウン管(CRT)と同程度の色再現範囲が必要となってきている。
【0004】
ところで、LCDに使用されるバックライトには、およそ450nm近辺(青色波長域)、540nm近辺(緑色波長域)および610nm近辺(赤色波長域)の各波長域付近に強く、かつ半値幅の狭い発光スペクトルのピークを有する蛍光体を蛍光膜とする三波長型の冷陰極蛍光ランプが主に使用されている。従来、この三波長型の冷陰極蛍光ランプでは、青色成分の蛍光体としてBaMgAl1017:Eu蛍光体(BAM)が、緑色成分の蛍光体としてLaPO4:Ce,Tb蛍光体(LAP)が、また、赤色成分蛍光体としてY23:Euがそれぞれ主に使われている。
【0005】
これら三波長型蛍光ランプ用の蛍光体は照明用途を目的に開発され、LCDなどのバックライト用途の冷陰極蛍光ランプにも照明用途に開発された蛍光体がそのまま使用されてきた。しかし、冷陰極蛍光ランプは高光束であってもこれら照明用の蛍光体をそのままLCDのバックライトに使用するとLCDの画像の色再現範囲が狭くなる。その対策としてLCDのカラーフィルターの膜厚を厚くすると色再現範囲は広がるが透過率が低くなりLCDの輝度が低下するという弊害があった。
【0006】
また、従来の冷陰極蛍光ランプはランプ中に封入された水銀の蒸気から放電によって発生する紫外線で蛍光体を励起して発光させ可視光を得ている。水銀蒸気を利用した蛍光ランプは入力された電気エネルギーを可視光のエネルギーに変換する効率が高く、一般照明の蛍光ランプや冷陰極蛍光ランプに広く使用されてきたが、有害物質の水銀を多量に含むことから水銀レスの蛍光ランプとして希ガス放電ランプが注目を集めるようになってきた。
【0007】
希ガスランプは内部に水銀の代わりにXe、Xe−Ne、Xe−Ne−Heなどの希ガスが封入されていて、この希ガスの放電によって放射される波長が180nm以下の真空紫外線により内部の蛍光膜を励起して発光させる蛍光ランプであり、水銀が封入された蛍光ランプでは周囲温度及び管表面温度の変化により水銀の飽和蒸気圧が変化し蛍光膜からの発光出力が大きく変化する。
これに対して、水銀レスの希ガスランプでは温度の差によるガス密度の変化が少ないので即時点灯し安定した発光出力が得られる上、有害物質である水銀を使用しないためランプの廃棄に際しても環境を汚染しないことから、ファクシミリの読み取り用光源など、情報関連機器用光源として現在多く用いられ、最近、LCDのバックライト用蛍光ランプとして使われるようになってきた。
【0008】
しかしながら、従来の希ガスランプ等、水銀レスの真空紫外線励起蛍光ランプの緑色発光成分の蛍光体には、照明用ランプに使用されているLAP蛍光体が使われていたため、これをLCDのバックライト用に用いた場合、色再現範囲の狭いLCDとなってしまうという欠点があった。
【0009】
そこで、高光束でLCDなどのバックライトに用いた場合に色再現範囲が広くなり、蛍光ランプの光束が経時的に低下することのない希ガスランプの開発が望まれており、その対策の1つとして、例えば組成式がa(P1-xEux)O・(Q1-yMny)O・bAl23で表され、波長180〜300nmの紫外線を照射したとき高効率の発光を呈するアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体を液晶バックライト用冷陰極蛍光ランプの緑色成分に使うこと(特許文献1)をはじめ、蛍光膜として使用する真空紫外線励起用蛍光体の改良に関する提案が多々なされている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された蛍光体や、PDP用の緑色蛍光体として従来から用いられているZn2SiO4:Mn蛍光体を希ガス放電ランプ等の真空紫外線励起蛍光ランプに使うと、色再現範囲は広がるものの発光効率(光束)が必ずしも実用上十分ではなく、また、使用時の経時的な蛍光体の輝度劣化による光束の低下や、ランプの蛍光膜形成工程におけるベーキング処理など加熱処理による輝度低下が大きいという欠点を有していた。
そのためLCDのバックライトとして用いたときに画像の色再現範囲が広く、発光効率(光束)が高く、かつ、長時間点灯による経時的な輝度低下が小さい水銀レスの真空紫外線蛍光ランプと、それを実現するための蛍光膜形成工程におけるベーキング処理などの加熱処理や真空紫外線照射による経時的な輝度低下(真空紫外線劣化)の小さい蛍光体が望まれていた。
【0011】
【特許文献1】特開2005−68403号公報
【特許文献2】特公昭54−35996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、加熱処理工程や経時での輝度劣化が少なく、色純度が良好で高輝度な真空紫外線励起用蛍光体、色再現範囲が広く、高輝度な希ガス放電ランプ用混合蛍光体、LCDのバックライトとして用いた場合、色再現範囲が広く、高光束で経時的な光束低下の少ない希ガス放電ランプ、及び高輝度で経時的な輝度の低下が少なくて表示画像の色再現範囲の広いLCDの提供を目的とする。
【0013】
本発明者らは、前記目的達成のため波長180nm以下の真空紫外線励起によって緑色系発光を呈する種々の蛍光体について探索する中で、Mnで付活されたガリウム酸塩系複合酸化物蛍光体がガス放電パネル表示装置用の緑色発光蛍光体層として使用し得ること(特許文献2参照)に着目し、2価金属のアルミン酸塩蛍光体、2価金属のガリウム酸塩蛍光体、及びその固溶体からなるスピネル系結晶を母体とし、これにMnを付活した時の真空紫外線励起時の発光特性に関して鋭意検討した。
スピネル型のMgのアルミニウム・ガリウム酸塩系複合酸化物蛍光体{Mg(Al,Ga)24:Mn}に関しては、従来から電子線励起及び紫外線(254nm)励起下での特性については種々検討されてきたが、真空紫外線との組み合わせについてはほとんど検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
特許文献2によると、アルミニウム酸マグネシウムとガリウム酸マグネシウムとの固溶体にMnを付活した、Mn付活アルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体をガス放電パネル表示装置の蛍光体層とした場合、アルミニウム(Al)とガリウム(Ga)をほぼ等モルの割合で固溶させてなるアルミニウム・ガリウム酸マグネシウムは、アルミニウム酸マグネシウム蛍光体やガリウム酸マグネシウム蛍光体よりも発光輝度が向上すると考えられていた。
【0015】
しかしながら、アルミニウム・ガリウム酸マグネシウムをMnで付活したアルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体は、発光輝度の点での最適組成は励起源によって異なり、例えば蛍光体母体中のAlをごく少量のGaで置換し、これにMnを付活すると146nmや172nmの真空紫外線等の、波長が180nm以下の真空紫外線で励起した場合に特に高輝度となり、しかも、アルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体に限らずマグネシウム以外の2価金属のアルミニウム・ガリウム酸蛍光体もこれと同様の発光特性を有することがわかった。
さらに、2価金属のアルミニウム酸のアルミニウム(Al)を少量のガリウム(Ga)で置換した、2価金属のアルミニウム・ガリウム酸塩をMnで付活した蛍光体と、他の青色蛍光体、及び赤色蛍光体との混合蛍光体を希ガス放電ランプ(以下、単に「希ガスランプ」ともいう)の蛍光膜とすれば、経時的な発光輝度の低下や、ランプ製造時のベーキング工程での発光の輝度の低下が抑制され、この希ガスランプをLCDのバックライトとして用いれば、表示画像の色再現範囲が広いLCDが得られ、前記本発明の目的が達成されることを見いだした。
【0016】
即ち、本発明は以下の構成からなる。
(1)組成式が(M1-a,Mna)(Al1-b,Gab24で表わされることを特徴とする真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
(但し、前記式中、MはMg、Ca、Sr、及びZnの中の少なくとも一種の2価金属元素であり、a及びbは、それぞれ0.0005≦a≦0.3及び0.02≦b≦0.17なる条件を満たす数である)
(2)前記MがMgであることを特徴とする前記(1)に記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
(3)前記bが0.05≦b≦0.15なる条件を満たす数であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
【0017】
(4)波長180nm以下の真空紫外線により励起されて、それぞれ赤色波長域、緑色波長域、及び青色波長域に発光スペクトルのピークを有する三種類の蛍光体を少なくとも含む蛍光体混合物であって、前記緑色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が前記(1)〜(3)のいずれかに記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体であることを特徴とする希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
(5)前記赤色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が、組成式(Ln,Eu)BO3で表される蛍光体及び/又は組成式(Ln,Eu)MO4で表される蛍光体であることを特徴とする前記(4)に記載の希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
(但し、前記式中、LnはY及び/又はGdであり、MはP及び/又はVである)
(6)前記青色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が、組成式(M’,Eu)(Mg,Mn)Al1017で表される蛍光体及び/又は組成式(Mn”,Eu)MgSi26で表される蛍光体であることを特徴とする前記(4)又は(5)に記載の希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
(但し、前記式中、M’はBa及び/又はSrであり、M”はBa及び/又はCaである)
【0018】
(7)透光性気密容器と、該容器内に封入されて放電により波長180nm以下の真空紫外線を発生する希ガスと、前記容器内に放電を起こさせるように配設された電極と、前記容器内に形成された蛍光膜とを具備し、前記蛍光膜が請求項4〜6のいずれか1項に記載の混合蛍光体からなることを特徴とする希ガス放電ランプ。
【0019】
(8)光シャッターとして機能する液晶からなる複数の液晶素子と、該複数の液晶素子のそれぞれに対応する少なくとも赤、緑、青の3色の色素を有するカラーフィルターと、透過照明用のバックライトとを組み合わせて構成されるカラー液晶表示装置において、前記バックライトが前記(7)に記載の希ガス放電ランプからなることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の組成を有する真空紫外線励起用2価金属アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体は、波長180nm以下の真空紫外線により高輝度で色純度の良好な緑色系発光を呈し、しかも、蛍光ランプ製造工程などの熱処理工程におけるベーキング劣化、及び得られた蛍光ランプを長時間点灯した際の経時的な輝度劣化が共に少ない。
また、本発明の蛍光体と、少なくとも青色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体とからなる本発明の蛍光体混合物を蛍光膜とする本発明の希ガスランプは水銀による環境汚染の恐れが無く、この希ガスランプをバックライトとする本発明のLCDは、高輝度、高寿命で、表示画像の色再現性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体(以下、単に本発明の蛍光体ともいう)は、i)酸化マグネシウム(MgO)、もしくは高温で容易にMgOに変わりうる炭酸マグネシウム(MgCO3)、硝酸マグネシウム{Mg(NO)3}等のマグネシウムの化合物、ii)酸化ガリウム(Ga23)、もしくは高温で容易にGa23に変わりうるGaCl3等のガリウムの化合物、iii)酸化アルミニウム(Al23)、もしくは高温で容易にAl23に変わりうる硫酸アルミニウム{Al2(SO4)}、水酸化アルミニウム{Al(OH)3}等のアルミニウムの化合物、及びiv)酸化マンガン(MnO)、もしくは塩化マンガン(MnCl2)、炭酸マンガン(MnCO3)等の高温で容易にMnOに変わりうるマンガンの化合物を、化学量論的に、組成式が、(M1-a,Mna)(Al1-b,Gab24(但し、前記式中、MはMg、Ca、Sr、及びZnの中少なくとも一種であり、a及びbは、それぞれ0.0005≦a≦0.3及び0.02≦b≦0.17、特にb値に関しては得られる蛍光体の発光輝度の点でより好ましくは0.05≦b≦0.15なる条件を満たす数である。以下同様。)となる割合で秤取し、これらを十分に混合して得た蛍光体原料混合物を耐熱性の容器に詰めて空気中、又は窒素雰囲気中1200〜1600℃の温度で2〜10時間かけて焼成することよって製造される。
【0022】
蛍光体の粒子成長のために、前記蛍光体原料混合物に融剤としてMgF2、AlF3、LiF、等を予め混合し焼成してもよい。
焼成は2回以上行うことがより好ましく、焼成を2回行う場合は最初に空気中において1200〜1600℃、好ましくは1300〜1500℃の焼成温度で焼成を行った後、例えば、2容積%の水素を含む窒素気流等の還元性雰囲気中において1000〜1400℃、好ましくは1100〜1300℃の温度で再度焼成することにより、還元雰囲気下ではメタル化しやすいGaを含んだ蛍光体を安定に製造することができる。
【0023】
なお、一回目の焼成で得た焼成物は一旦粉砕し、充分混合してからさらに二回目の焼成をすると、得られる蛍光体の発光輝度をいっそう高め得る点でより好ましい。この場合、得られる蛍光体の発光輝度や、残光改善(残光低減)のために、更に400〜1200℃の温度下、空気中で再加熱処理しても良い。
二回目の焼成を終えた焼成物は粉砕し、分散、水洗、乾燥、篩による分級等、通常の後処理を施すことによって本発明の蛍光体を得ることができる。
【0024】
前記のようにして得られた本発明の蛍光体は、スピネル系アルミニウム酸マグネシウム蛍光体(MgAl24:Mn)結晶中のAlのサイトをGaにより一部置換した、スピネル構造で組成式が(M1-a,Mna)(Al1-b,Gab24で表されるMn付活2価金属アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体であり、電子線、紫外線、真空紫外線等で励起すると高輝度で色純度の良好な緑色発光を呈し、波長180nm以下の真空紫外線により特に高輝度の発光を呈する。
【0025】
図1〜図4は組成式が(Mg1-a,Mna)(Al1-b,Gab24で表される本発明のMn付活アルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体の母体組成中のAlを置換するGaの量(b値)と、その蛍光体を各種の励起源により励起した時の発光輝度との関係を示すグラフであり、図1、2、3、及び4はそれぞれ波長146nmの真空紫外線、172nmの真空紫外線、加速電圧12KVの電子線、及び波長254nmの紫外線で励起した時の相関を例示したものである。
【0026】
図1〜図4からわかるようにMn付活アルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体を電子線で励起した場合(図3)、蛍光体母体中のAlをGaで置換したときのAlを置換するGaの量(b値)の増加とともに発光輝度は次第に低下する。
一方、波長が200nmよりも大である紫外線で励起した場合(図4)にはAlを置換するGaの量(b値)が増加するとともに発光輝度は次第に向上し、ガリウム酸マグネシウム(MgGa24:Mn)蛍光体(b=1)が、アルミニウム酸マグネシウム(MgAl24:Mn)蛍光体(b=0)に比較してその発光輝度は著しく高輝度である。
これに対して波長146nmの真空紫外線、及び172nmの真空紫外線で励起した場合(図1、2)には電子線励起や波長が200nmより大の紫外線による励起の場合とは発光特性が大きく異なり、蛍光体母体中のAlを少量のGaで置換するとGaの量(b値)が特定量(およそ0.02〜0.17)の範囲内ではガリウム酸マグネシウム(MgGa24:Mn)蛍光体(b=1)やアルミニウム酸マグネシウム(MgAl24:Mn)蛍光体(b=0)に比較して発光輝度は著しく向上する。
【0027】
なお、図1〜4にはMn濃度(a)が一定のアルミニウム・ガリウム酸マグネシウム蛍光体(Mg1-a,Mna)(Al1-b,Gab24について、蛍光体母体中のAlをGaで置換した場合のGaの量(b値)と得られる蛍光体の発光輝度との相関について例示したが、Mgに代えてMg以外の2価金属元素(M)を用いた場合も、また、Mnの濃度(a値)を変化させた場合にも、蛍光体母体中のAlをGaで置換した場合のGaの量(b値)と得られる蛍光体の発光輝度との間には図1〜4に例示した関係とほぼ同様の相関が有ることが確認された。
【0028】
そのため、本発明のMn付活2価金属アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体は、波長180nm以下の真空紫外線による励起下での発光輝度の観点から、母体結晶中のAlを置換するGaの量(b値)はおよそ0.02≦b≦0.17の範囲とするのが好ましく、0.05≦b≦0.15となる組成とするのがより好ましい。
一方、同じく真空紫外線励起下での発光輝度の観点から母体中の2価金属(M)を置換する付活剤のMnの濃度(a値)は0.0005≦a≦0.3の範囲とするのが好ましい。
【0029】
本発明の希ガスランプ用蛍光体混合物は波長が180nm以下の真空紫外線励起下で青色波長域、緑色波長域、及び赤色波長域にそれぞれ発光スペクトルのピーク波長を持った、青色発光成分蛍光体(青色蛍光体)、緑色発光成分蛍光体(緑色蛍光体)、及び赤色発光成分蛍光体(赤色蛍光体)の少なくとも3種類の発光成分蛍光体を混合してなり、その中の緑色蛍光体が前記本発明のMn付活2価金属アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体を含有するものである。
このような構成を有する本発明の希ガスランプ用蛍光体混合物は、3波長型の希ガスランプ等の蛍光膜用として好適に用いられる。混合蛍光体中には必要に応じて青色蛍光体、緑色蛍光体、及び赤色蛍光体の少なくとも3種類の発光成分蛍光体に加えて、さらに必要に応じて黄色系発光成分蛍光体や深赤色発光成分蛍光体を混合しておけば、該蛍光体混合物を蛍光膜として用いた希ガスランプの色再現範囲をより広げることができる。
【0030】
また、本発明の希ガスラランプ用混合蛍光体は、得られるランプの光束や色再現性をより向上させるために、該混合蛍光体の緑色蛍光体である、前記本発明のMn付活2価金属アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体とともに用いられる青色蛍光体として、組成式(M’,Eu)(Mg,Mn)Al1017(但し、M’はBa及び/又はSr)で表されるMn及び/又はEu2+付活アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、及び/又は組成式(M”,Eu)MgSi26(但し、M”はBa及び/又はCa)で表されるEu2+付活アルカリ土類金属珪酸塩蛍光体を用いるのが好ましく、また、赤色発光成分蛍光体としては、(Ln,Eu)BO3で表されるEu3+付活希土類硼酸塩蛍光体、及び/又は組成式(Ln,Eu)MO4で表されるEu3+付活希土類リン酸・バナジウム酸塩蛍光体が特に推奨される(但し、前記式中、LnはY及び/又はGdであり、MはP及び/又はVである)。
【0031】
本発明の希ガスランプは、前記本発明の希ガス放電ランプ用混合蛍光体を蛍光膜として用いる以外は従来の希ガスランプと同様にして製造される。
すなわち、本発明の希ガスランプは、例えば細長い透光性放電容器と、該容器内に封入されて放電により波長180nm以下の真空紫外線を発生する希ガスを主成分とする放電媒体と、該透光性放電容器内に放電を起こさせるように配設された一対の電極と、該透光性放電容器内に形成された蛍光膜とを具備し、本発明の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体と、真空紫外線励起により青色発光を呈する青色蛍光体と、同じく真空紫外線励起により赤色発光を呈する赤色蛍光体とを少なくとも含む本発明の希ガス放電ランプ用蛍光体混合物を用いて前記蛍光膜を形成することによって製造される。
本発明の希ガスランプによれば、蛍光膜中に本発明の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体が含まれていない従来の希ガスランプに比べて色再現範囲が広く、かつ経時的な光束の低下が少なく、また、ランプ製造時におけるベーキング工程での加熱処理時の輝度劣化が少ないためより高輝度(高光束)の希ガスランプを得ることができる。
【0032】
また、本発明のLCDは、光シャッターとして機能する液晶からなる複数の液晶素子と、該複数の液晶素子のそれぞれに対応する少なくとも赤、緑、青の3色の色素を有するカラーフィルターを備え、該複数の液晶素子による複数の画素からなる液晶表示面と、該表示面の裏面に配置されて直接、もしくはその後面又は側面に配置された導光板や拡散板などの光学部品を介して間接的に該表示面を照明するバックライト(発光光源)とを具備し、画像や文字を表示するLCDであって、前記バックライト(発光光源)として前記本発明の希ガスランプが用いられる以外は従来公知のLCDと同様の構成からなる。本発明のLCDはそのバックライト(発光光源)として本発明の希ガスランプを用いたため、従来LCDに較べてより高輝度で色再現範囲が広い。
次に実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0033】
〔実施例1〜6、比較例1〜6〕
原料として炭酸マグネシウム(MgCO3)、酸化亜鉛(ZnO)、炭酸マンガン(MnCO3)、酸化アルミニウム(Al23)、及び酸化ガリウム(Ga23)を用い、これらを表1に示す蛍光体組成となる割合で秤取し、これに融剤としてAlF3を0.2モル%加えてビニール袋に入れて充分に振盪した後、オープニング0.2mmのメッシュで篩にかけることによって各蛍光体原料を混合した。
上記混合物をアルミナルツボに投入し、空気中1500℃の温度で4時間焼成を行ない、得られた焼成物を粉砕、メッシュを通し、再度アルミナ製ルツボに投入して、2容積%の水素を含む窒素気流の還元性雰囲気中において1150℃の温度で5時間2回目の焼成を行った。
上記方法で得られた蛍光体をメッシュに通した後、蛍光体粉末:アルミナボール(メディア):純水=1:2:2の割合で混合した蛍光体スラリーを回転数60rpmで5時間ボールミル分散した。
分散処理を終えた蛍光体スラリーをオープニングが20μmのメッシュを用いて水篩し、水洗を3回繰り返した後、脱水、乾燥後、オープニング100μmのメッシュで篩にかけることによって実施例1〜6及び比較例1〜6の蛍光体を製造した。得られた各蛍光体の組成、蛍光体母体中の2価金属元素(M)の種類、及び蛍光体母体中のAlを置換しているGaの量(b値)を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、前記のようにして製造された実施例1〜6、及び比較例1〜6の各蛍光体30重量部と1.1重量%のニトロセルロースを含む酢酸ブチル200重量部と、0.7重量%の硼酸塩系結合剤とを充分に混合して蛍光体スラリーを調製し、この蛍光体スラリーを内径がおよそ6.5mmφのガラスバルブ内面に塗布し、800℃で20分間ベーキング処理して乾燥させ、内部にXeをおよそ10kPの封入圧で封入して電極を取り付け、30Wの実施例1〜6及び比較例1〜6の希ガスランプ(緑色の単色発光希ガスランプ)を製造した。
このようにして得られた実施例1〜6及び比較例1〜6の希ガスランプを点灯後、ランプ内の温度が一定の温度まで上昇し、封入ガスの放電状態がほぼ安定した時点(点灯してから約3分後)に各ランプの発光輝度(光束)を測定した結果を同じく表1に示す。また、これら実施例1〜6及び比較例1〜6の各ランプの蛍光膜に用いられている蛍光体母体中のGaの含有量(b値)とランプの相対発光輝度(光束)との関係を図5に示す。
【0036】
表1及び図5からわかるように、蛍光体の母体中におけるGaの量(b値)が0.02≦b≦0.17の範囲内にある蛍光体を蛍光膜として用いた実施例1〜6の希ガスランプでは、Gaの量(b値)が0.02≦b≦0.17の範囲外にある蛍光体を蛍光膜として用いた比較例1〜6の希ガスランプに比べて、輝度が大幅に向上した。
さらにGaの量(b値)が0.05≦b≦0.15の範囲にある蛍光体を蛍光膜として用いた実施例2、3、4、及び6の希ガスランプでは輝度向上がより顕著であった。
【0037】
また、実施例3及び比較例1の希ガスランプを96時間連続点灯した時の該希ガスランプの発光輝度(光束)の相対的な経時変化(希ガスランプの寿命)を測定した結果を図6に示す。
図6において、横軸は点灯時間(点灯してからの経過時間)であり、縦軸は輝度維持率(点灯してから3分後の各放電ランプの発光輝度(光束)に対する発光輝度(光束)の相対値を百分率で示したもの)である。
【0038】
図6からわかるように、母体中にGaを含まない(b=0である)Mn付活2価金属アルミニウム酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた希ガスランプ(比較例1の希ガスランプ)では、点灯後96時間経過した時点では10%の輝度低下が見られるが、母体中のGaの量(b値)がb=0.1である蛍光体を蛍光膜として用いた希ガスランプ(実施例3の希ガスランプ)では殆ど経時的な輝度低下が見られず、初期輝度だけでなく寿命特性も改善されていた。
【0039】
〔実施例7、8〕
蛍光体として実施例3の蛍光体(緑色蛍光体)単独で用いる代わりに、実施例3の蛍光体(緑色蛍光体)と、Eu3+付活硼酸化イットリウム・ガドリニウム{(Y,Gd)BO3:Eu}蛍光体(赤色蛍光体、化成オプトニクス製 KX−504A)と、Eu2+付活アルミニウム酸バリウムマグネシウム蛍光体(BaMgAl1017:Eu)蛍光体(青色蛍光体、化成オプトニクス製 KX−501A)との混合物100重量部を用いた以外は実施例3の希ガスランプと同様にして蛍光体スラリーを調製した。なおその際、前記実施例3の蛍光体(緑色蛍光体)と(Y,Gd)BO3:Eu蛍光体(赤色蛍光体)と(BaMgAl1017:Eu)蛍光体(青色蛍光体)との混合割合は、得られた希ガスランプの発光色度がおよそx=0.310、y=0.320となるように調整した。
次に、得られた蛍光体スラリーを管径が外径2.6mm、内径2.0mmで管長が250mmのガラスバルブ内面に塗布し乾燥させ、650℃で15分間ベーキング処理をして、内部にXe−Neガスを、およそ20kPaの封入圧で封入して電極を取り付け、ランプ電流4mAの実施例7の希ガスランプを製造した。
また、赤色蛍光体として{(Y,Gd)BO3:Eu}蛍光体に代えてEu3+付活バナジン酸・リン酸イットリウム{(Y,Eu)(PV)O4}蛍光体(赤色蛍光体、化成オプトニクス製 KX−523A)を用い、青色蛍光体として(BaMgAl1017:Eu)蛍光体に代えてEu2+付活珪酸マグネシウム{(Ca,Eu)MgSi26}蛍光体(青色蛍光体、化成オプトニクス製 KX−508A)を用いた以外は実施例7の希ガスランプと同様にして発光色度がおよそx=0.310、y=0.320である実施例8の希ガスランプを製造した。
【0040】
〔比較例7〕
一方比較のために、緑色蛍光体として実施例3の蛍光体に代えてCe3+、Tb3+付活燐酸ランタン(LaPO4:Ce,Tb)蛍光体(LAP蛍光体)を使用した以外は実施例7の希ガスランプと同様にして比較例7の希ガスランプを製造した。
【0041】
実施例7、8、及び比較例7の希ガスランプに用いた混合蛍光体中の緑色蛍光体、赤色蛍光体、及び青色蛍光体のCIE表色系による色度値(x,y)を表2、及び図7に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
図7からわかるように、本発明のMn付活2価金属ガリウム・アルミニウム酸塩蛍光体を緑色発光成分とした本発明の希ガスランプ(実施例7の希ガスランプ)では色再現範囲が従来の希ガスランプ(比較例7の希ガスランプ)に比べ大幅に広がった。
さらに、本発明のMn付活2価金属ガリウム・アルミニウム酸塩蛍光体を緑色発光成分とし、赤色発光成分として(Y,Eu)(PV)O4蛍光体を用い、青色発光成分として(Ca,Eu)Mg2SiO6蛍光体を用いた実施例8の希ガスランプでは、さらに色再現範囲が広がった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】Mn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体母体中のガリウムの固溶量(b)とこれを波長146nmの真空紫外線により励起したときの発光輝度との相関を例示するグラフである。
【図2】Mn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体母体中のガリウムの固溶量(b)とこれを波長172nmの真空紫外線により励起したときの発光輝度との相関を例示するグラフである。
【図3】Mn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体母体中のガリウムの固溶量(b)とこれを加速電圧12kvの電子線により励起したときの発光輝度との相関を例示するグラフである。
【図4】Mn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体母体中のガリウムの固溶量(b)とこれを波長254nmの紫外線により励起したときの発光輝度との相関を例示するグラフである。
【図5】Mn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体母体中のガリウムの固溶量(b)と、この蛍光体を蛍光膜として用いた希ガス放電ランプの発光輝度(光束)との相関を例示するグラフである。
【図6】本発明のMn付活マグネシウムガリウム・アルミニウム酸塩系複合酸化物蛍光体を蛍光膜として用いた希ガスランプ、及び従来のMn付活マグネシウムアルミニウム酸塩蛍光体を蛍光膜として用いた希ガスランプの輝度(光束)維持率を例示するグラフである。
【図7】本発明の希ガス放電ランプ、及び従来の希ガス放電ランプの色再現範囲を示す色度図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式が(M1-a,Mna)(Al1-b,Gab24で表わされることを特徴とする真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
(但し、前記式中、MはMg、Ca、Sr、及びZnの中の少なくとも一種の2価金属元素であり、a及びbは、それぞれ0.0005≦a≦0.3及び0.02≦b≦0.17なる条件を満たす数である)
【請求項2】
前記MがMgであることを特徴とする請求項1に記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
【請求項3】
前記bが0.05≦b≦0.15なる条件を満たす数であることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体。
【請求項4】
波長180nm以下の真空紫外線により励起されて、それぞれ赤色波長域、緑色波長域、及び青色波長域に発光スペクトルのピークを有する3種類の蛍光体を少なくとも含む蛍光体混合物であって、前記緑色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空紫外線励起用アルミニウム・ガリウム酸塩蛍光体であることを特徴とする希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
【請求項5】
前記赤色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が、組成式(Ln,Eu)BO3で表される蛍光体及び/又は組成式(Ln,Eu)MO4で表される蛍光体であることを特徴とする請求項4に記載の希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
(但し、前記式中、LnはY及び/又はGdであり、MはP及び/又はVである)
【請求項6】
前記青色波長域に発光スペクトルのピークを有する蛍光体が、組成式(M’,Eu)(Mg,Mn)Al1017で表される蛍光体及び/又は組成式(Mn”,Eu)MgSi26で表される蛍光体であることを特徴とする請求項4又は5に記載の希ガス放電ランプ用蛍光体混合物。
(但し、前記式中、M’はBa及び/又はSrであり、M”はBa及び/又はCaである)
【請求項7】
透光性気密容器と、該容器内に封入されて放電により波長180nm以下の真空紫外線を発生する希ガスと、前記容器内に放電を起こさせるように配設された電極と、前記容器内に形成された蛍光膜とを具備し、前記蛍光膜が請求項4〜6のいずれか1項に記載の混合蛍光体からなることを特徴とする希ガス放電ランプ。
【請求項8】
光シャッターとして機能する液晶からなる複数の液晶素子と、該複数の液晶素子のそれぞれに対応する少なくとも赤、緑、青の3色の色素を有するカラーフィルターと、透過照明用のバックライトとを組み合わせて構成されるカラー液晶表示装置において、前記バックライトが請求項7に記載の希ガス放電ランプからなることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285517(P2008−285517A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129212(P2007−129212)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(390019976)化成オプトニクス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】