真空脱脂洗浄装置および真空脱脂洗浄方法
【課題】洗浄物の積載方法に関わらず、少量の溶剤であらゆる被洗浄物に対して洗浄後の粒子状の付着物の再付着を防止できる真空脱脂洗浄装置および真空脱脂洗浄方法を提供する。
【解決手段】真空脱脂洗浄装置については、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器により蒸留した溶剤を貯留する補充タンクと、を有しており、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備されている真空脱脂洗浄装置とした。また、真空脱脂洗浄方法については、前述の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法とした。
【解決手段】真空脱脂洗浄装置については、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器により蒸留した溶剤を貯留する補充タンクと、を有しており、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備されている真空脱脂洗浄装置とした。また、真空脱脂洗浄方法については、前述の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空減圧下において機械部品等の脱脂洗浄を行う真空脱脂洗浄装置およびその真空脱脂洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械、農業機械その他産業機械等に使用される金属製の部品表面には、加工工程における切削油や焼入れ油などの油脂やゴミが付着しているため、これらの部品を製品へ組み込む前にそれらの付着物を除去しておく必要がある。特に、炭化水素系などの溶剤で部品表面の付着物を除去(脱脂)する場合には、溶剤の引火を防止するために空気を遮断した雰囲気下、例えば真空減圧下で脱脂洗浄が行われることが多い。
【0003】
このような真空減圧下での洗浄方法は、従来では洗浄室内に被洗浄物を溶剤により浸漬することで行われることが多かったが、このような洗浄方法は多量の溶剤を使用、廃棄することや大量の電力消費が環境面で問題となっていた。そのため、溶剤使用による環境対応を考慮して、洗浄室内の被洗浄物に対して溶剤をスプレー等で噴射したり、気化した溶剤を噴霧する洗浄装置および洗浄方法が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では被洗浄物に対して移動可能な複数の洗浄ノズルを備えた洗浄装置が開示されている。この装置は、複数の洗浄ノズルが互いに連携し合いながら移動するように構成されており、各洗浄ノズルは被洗浄物の異なる方向から別個に洗浄液を噴射するので、被洗浄物の複数の面を広範囲にわたって同時に洗浄することが可能となり、被洗浄物を全体的に満遍なく洗浄できるものである。
【0005】
また、特許文献2では溶剤を熱交換器に通すことで高温の溶剤蒸気を生成し、その溶剤蒸気を洗浄室内に導入する洗浄装置が開示されている。この装置の洗浄工程は、洗浄室に溶剤を充満させて行う超音波振動などによる真空下での浸漬洗浄工程で被洗浄物表面の脱脂を行った後、高温の溶剤蒸気を洗浄室に導入することで被洗浄物表面に溶剤の液滴跡を残さないで再度洗浄を行うものである。
【0006】
さらに、特許文献3では異なる洗浄液を貯留する複数のタンクを備えて、これらのタンク内の洗浄液を順次使用して、被洗浄物を洗浄する洗浄装置が開示されている。これによると、1回目から3回目までの各洗浄工程の場合において、3つのタンク内の洗浄液を使い分けて洗浄を行っている。すなわち、1回目の洗浄工程から3回目の洗浄工程にかけて、使用する洗浄液を清浄度の低いものから順に高いものへと切替えて使用していくことで、清浄度の高い洗浄液の使用量を最小限に抑えながら被洗浄物の洗浄を行う。清浄度の低い洗浄液は、数回の使用後にタンク外へ廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−342639号公報
【特許文献2】特許第3759439号公報
【特許文献3】特開2005−177567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された洗浄装置では、複数の洗浄ノズルから洗浄する方式であっても複雑形状な被洗浄物の場合には一定の規則に従った積載方法でなければ、満遍なく洗浄することは困難であるという問題があった。すなわち、満遍なく洗浄させるためには被洗浄物の形状や大きさによってその積載方法が自ずと決定されるので、被洗浄物の積載工程が煩雑になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に開示された洗浄装置では、溶剤の浸漬洗浄後に洗浄室内から溶剤を室外へ排出する際に、被洗浄物表面から除去した切削屑や研磨粉などの粒子状の付着物が、下方に積載された被洗浄物に再度付着し、後工程の溶剤蒸気による洗浄でもこれらの付着物を排除できないという問題があった。その上、熱交換器により溶剤蒸気が生成してから洗浄室へ導入される間に配管やバルブを介して溶剤蒸気が圧送される場合には、その間に溶剤蒸気が冷却されるので配管内に溶剤が結露して、熱交換器で発生した溶剤蒸気の割合に対する洗浄室内へ溶剤蒸気が導入される割合(導入効率)が低下するという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に開示された洗浄装置および洗浄方法では、洗浄室内に洗浄液を充満させて揺動やバブリングを行う洗浄方法にも対応しているので、各タンク内には洗浄室内の容積以上の洗浄液を備蓄する必要がある。また、当該洗浄装置には複数のタンクを有することから洗浄液が消防法などの法律における危険物に該当する場合には、法律が定める指定数量を超えて保有することになる。さらに、洗浄装置の設置や洗浄液の保有および取り扱いに関する許可などの届出が煩雑であることや法律に基づいた建築物の改修などの設置条件の変更が必要となるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明においては溶剤蒸気(気化した溶剤)を効率的に洗浄室内へ導入できる真空脱脂洗浄装置を提供することを課題とする。また、被洗浄物の積載方法に関わらず、少量の洗浄液(溶剤)で洗浄を可能とする真空脱脂洗浄方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明においては被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器にて蒸留する溶剤を貯留する補充タンクと、を有する真空脱脂洗浄装置であって、噴霧器の内部に加熱手段を入れ子状に具備している真空脱脂洗浄装置を提供する。本発明により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)する。以下、本発明に係る真空脱脂洗浄装置の構成について説明する。
【0013】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する洗浄室は、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有している。また、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に備えられている。したがって、噴霧器の内部において、入れ子の内部には溶剤を通して、入れ子の外部には加熱された油などの熱媒体を通すことで溶剤を加熱する。そのため、加熱された溶剤が減圧下の洗浄室内へ放出された瞬間に溶剤の飽和蒸気圧が下がるので、液体であった溶剤は気化して噴霧されることとなる。
【0014】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する貯留タンクは、洗浄室内へ噴射および噴霧するために使用する溶剤と使用(洗浄)後の溶剤を貯留しておくタンクである。貯留タンクは、洗浄室内の被洗浄物に対して大まかな汚れを洗浄するために噴射器より噴射する溶剤を貯留しておく第1の貯留タンクと、洗浄後の溶剤を貯留しておく第2の貯留タンクと、噴霧器より噴霧する溶剤を貯留しておく第3の貯留タンク、の少なくとも計3個の貯留タンクが必要である。
【0015】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する蒸留器は、第2の貯留タンクより、蒸留器との圧力差により移送された洗浄後の汚れた溶剤を、再度洗浄に供することのできる清浄な溶剤へ蒸留できる機器である。
【0016】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する補充タンクは、前述の蒸留器により蒸留された溶剤を貯留するタンクである。補充タンク内の溶剤は、前述の第1ないし第3の貯留タンク内の溶剤により被洗浄物を洗浄した後、最後の洗浄工程にて使用し、使用後の溶剤は洗浄室から排出された後に第1ないし第3の貯留タンク内のいずれかの貯留タンクにて貯留される。
【0017】
請求項2に係る発明においては、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器とを備えている真空脱脂洗浄装置とした。本発明により、被洗浄物の荷姿の態様(被洗浄物の形状や数量およびトレーや治具への固定、積載の方法)に関わらず、汚れの除去効率を高めることができる。以下、第1および第2の噴射器について説明する。
【0018】
第1の噴射器は、被洗浄物に対して0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、散水方式(シャワー方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は前述の第1ないし第3のタンクよりポンプを利用して圧送される。また、第1の噴射器は、洗浄室内において被洗浄物に対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物に対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向および奥行方向に往復動ができる構造とすることもできる。溶剤の圧力の下限を設けた理由は、圧力が0.1MPaを下回る(圧力が低すぎると)、噴射器のノズルからの溶剤の適正な噴射状態が保てず、被洗浄物に溶剤が満遍なく散布できない場合があるからである。
【0019】
第2の噴射器は、被洗浄物に対して2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、高圧方式(ジェット方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は前述の第1の貯留タンク、第3の貯留タンクおよび補充タンクより高圧ポンプを経由して圧送される。また、第2の噴射器は、第1の噴射器と同様に洗浄室内において被洗浄物に対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物に対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向に往復動ができる構造とすることもできる。なお、溶剤の圧力の上限を設けた理由は、圧力が5MPaを超える(圧力が高すぎる)と、噴射器のノズルからの溶剤が被洗浄物に衝突したとき、軽量な被洗浄物の場合は吹き飛ばされるなどして、治具、バスケット、トレー等から飛散してしまうことや被洗浄物同士が衝突して、傷がついてしまうことが想定されるためである。
【0020】
請求項3に係る発明においては、複数の貯留タンクは第1ないし第3の貯留タンクより構成しており、少なくとも1の貯留タンクには保温手段を具備している真空脱脂洗浄装置とした。これにより、他の貯留タンク中の溶剤を使用している間に保温手段を備えた貯留タンク内の溶剤を次の洗浄工程に備えて予め加温しておくことができる。
【0021】
請求項4に係る発明においては、複数の貯留タンクの各容積が洗浄室の容積よりも小さい真空脱脂洗浄装置とした。これにより、使用する溶剤の総量が従来の浸漬するタイプの洗浄装置に比べて減少する。
【0022】
洗浄方法の発明については、請求項5に係る発明において、請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)する。
【0023】
溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給することで、噴霧器の内部にある加熱手段により加熱することができる。減圧された洗浄室内におけるその圧力に対する溶剤の飽和温度以上に加熱した後、予め減圧雰囲気にしておいた洗浄室内へその溶剤を噴霧する。洗浄室内が減圧されていることから、洗浄室内の飽和蒸気圧が常圧に比べて下がっているため、噴霧された溶剤は液体からガス状(気体)に変化して、洗浄室内の四方に分散する。例えば、炭化水素系溶剤のうち消防法における第三石油類に分類される溶剤を用いる場合には、良好な噴射状態を維持するために溶剤の加圧を3〜5MPa、加熱温度を約110〜120℃、洗浄室内の圧力(絶対圧)を300Pa以下とすることが好ましい。
【0024】
請求項6に係る発明において、請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、第1のタンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第2の貯留タンクへ排出する第1の工程と、第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第2の工程と、第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第3の工程と、第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する第4の工程と、から構成されており、第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行う真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、洗浄に長時間を要する場合であっても少量の溶剤により多量の被洗浄物を連続して洗浄することができる。以下、第1ないし第4の工程について詳細に説明する。
【0025】
第1の工程は、第1の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、噴射後の溶剤を第2の貯留タンクへ排出する工程である。本工程は被洗浄物に対する最初の洗浄工程であり、被洗浄物に付着した大まかな汚れを除去することを目的としている。また、被洗浄物の洗浄前の温度は室温である場合が多く、洗浄性を促進するため第1の貯留タンクに備え付けの加温手段にて溶剤を加温し、洗浄に供することも可能である。さらに、被洗浄物が多く、噴射時間を要する場合には、噴射後の溶剤が第2の貯留タンクへ排出された後、第1の貯留タンクからの溶剤の供給を止めて、第2の貯留タンクから溶剤を吸い上げることで上述の洗浄工程を行うこともできる。なお、第2の貯留タンク内に貯留された噴射後の溶剤は、第1の工程終了後に蒸留器により蒸留できる。
【0026】
第2の工程は、前述の第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、噴霧後の溶剤を第3の貯留タンクへ排出する工程である。本工程では、最初に第3の貯留タンク内の常温または加温された溶剤を噴霧器へ加圧供給して、洗浄室内でミスト状(霧状)に散布した後に、第3の貯留タンクに備え付けの加温手段にて加温した溶剤を、更に噴霧器内の加熱手段により減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱することで、減圧下の洗浄室へ導入した際にガス(気体)として分散させる工程である。本工程により第1の工程にて噴射器からの溶剤でも除去できない部分、例えば溶剤の噴射では届きにくい下向き止まり穴の奥側に付着した汚れも除去可能となる。
【0027】
第3の工程は、前述の第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する工程である。前述の第1および第2の工程におけるミスト洗浄やベーパー洗浄では、溶剤が届きにくい被洗浄面へ行き渡らせることが主な目的であるため、使用する溶剤量が少ない。そのため、洗浄後であっても汚れが多く溶け込んだ溶剤が、被洗浄面に残っている場合が想定される。そこで、本工程では第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射することで、第2の工程終了後に被洗浄物表面に汚れを多く含んだまま残っている溶剤を洗い落とすことができる。なお、第3の工程中もしくは工程終了後に、蒸留器により蒸留された溶剤を補充タンクへ圧送することもできる。
【0028】
第4の工程は、前述の第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する工程である。本工程では洗浄の最終工程であり、補充タンクに貯留されている未使用または蒸留により再生された清浄な溶剤により、被洗浄物を洗浄することで一連の洗浄工程が完了する。また、被洗浄物が多く、噴射時間を要する場合には、噴射後の溶剤が第1の貯留タンクへ排出された後、補充タンクからの溶剤の供給を止めて、第1の貯留タンクから溶剤を吸い上げることで、上述の洗浄工程を行うこともできる。
【0029】
請求項7に係る発明において、1サイクルの終了後に第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行う真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、被洗浄物の清浄度をより向上させることができる。
【0030】
なお、1サイクルの終了後の第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換する作業は、作業者により手動で行うこともできるし、プログラミングソフトを用いて自動で行うこともできる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明においては、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器により蒸留する溶剤を貯留する補充タンクと、を有する真空脱脂洗浄装置であって、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備する真空脱脂洗浄装置により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)するので、溶剤蒸気(気化した溶剤)を効率的に洗浄室内へ導入できる(導入効率が高い)。その結果、散水、噴射、浸漬などの洗浄方式では溶剤が届き難い、例えば下向き止まり穴内部の被洗浄面の隅々まで溶剤が行き渡り、洗浄が可能となる。
【0032】
また、請求項2に記載の発明においては、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器とを具備する真空脱脂洗浄装置とすることにより、溶剤を散水方式および噴射方式により被洗浄物に散布するので、被洗浄物の荷姿の態様に関わらず、汚れの除去効率を高めることができる。
【0033】
さらに、請求項3に記載の発明においては、複数の貯留タンクを第1ないし第3の貯留タンクより構成して、少なくとも1の貯留タンクに保温手段を具備する真空脱脂洗浄装置とすることにより、洗浄前に貯留タンク内の溶剤を温めることができるので、被洗浄物に対する洗浄効果を高めると同時に洗浄時間を短縮することができる。
【0034】
また、請求項4に記載の発明においては、複数の貯留タンクの各容積が洗浄室の容積よりも小さい真空脱脂洗浄装置とすることにより、使用する溶剤の総量が従来の浸漬するタイプの洗浄装置に比べて減少するので、装置全体の容積および設置面積の増加を抑制して、装置の小型化を実現できる。また、使用する溶剤の総量が減少することで法律に基づいた役所(自治体)への届出や申請が不要または簡便なものとなり、同時に建物構造などの変更を行うことなく洗浄装置の導入が可能となる。
【0035】
真空脱脂洗浄方法に関する発明について、請求項5に記載の発明においては、請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)するので、ガス化した溶剤が洗浄室内の隅々まで行き渡り、散水、噴射、浸漬などの洗浄方式では溶剤が届き難いような、例えば下向き止まり穴の内部の奥側まで洗浄できる。
【0036】
また、請求項6に記載の発明においては、請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、第1の貯留タンクから吸い上げた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第2の貯留タンクへ排出する第1の工程と、第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第2の工程と、第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上た溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第3の工程と、第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する第4の工程と、から構成して、第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行う真空脱脂洗浄方法により、多量の被洗浄物の連続した洗浄の場合であっても少量の溶剤により洗浄を行うことができるので、装置全体の容積および設置面積の増加を抑制して、装置の小型化を実現できる。
【0037】
さらに、請求項7に記載の発明においては、1サイクルの終了後に、第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行うこととする真空脱脂洗浄方法により、被洗浄物の清浄度が向上するので、サイクル数(累計洗浄回数)に関わらず常に高品質の洗浄が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る真空脱脂洗浄装置1全体の模式図である。
【図2】図2は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4の縦断面図である。
【図3】(a)真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4に具備されている噴霧器3の縦断面図であり、(b)同図(a)のA−A線断面図である。
【図4】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程を示す模式図である。
【図5】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程における使用する貯留タンクの切替え(第1の貯留タンク5a→第2の貯留タンク5b)を示す模式図である。
【図6】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程における第2の貯留タンク5b内の溶剤を蒸留器6へ圧送することを示す模式図である。
【図7】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第2の工程を示す模式図である。
【図8】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第3の工程を示す模式図である。
【図9】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第4の工程を示す模式図である。
【図10】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第4の工程における使用する貯留タンクの切替え(補充タンク7→第1の貯留タンク5a)を示す模式図である。
【図11】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Aのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図12】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Bのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図13】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Cのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図14】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Dのワーク形状および荷姿の模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施の形態の一例について、本発明に係る真空脱脂洗浄装置について図面を参照して説明する。図1は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1全体の模式図、図2は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4の縦断面図、図3(a)は真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4に具備されている噴霧器3の縦断面図、(b)は同図(a)のA−A線断面図である。
【0040】
図1および図2に示すように真空脱脂洗浄装置1には、被洗浄物Wに対して溶剤を吐出する噴射器2a、2bおよび噴霧器3を有する洗浄室4と、溶剤を貯留する複数の貯留タンク5a〜5cと、貯留タンク5b内の溶剤を蒸留する蒸留器6と、蒸留器6により蒸留された溶剤を貯留する補充タンク7とを有している。また、図3に示すように噴霧器3の内部には加熱手段30が入れ子状に具備されている。さらに、噴射器は0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器2aと、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器2bとから構成されている。なお、図2中の矢印は、溶剤または熱媒体の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0041】
第1の噴射器2aは、被洗浄物Wに対して0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、散水方式(シャワー方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は後述する第1ないし第3のタンク5a〜5bよりポンプP1を利用して圧送される。また、第1の噴射器2aは、図2に示すように洗浄室4内において被洗浄物Wに対して上面の位置に任意に設置できる。
【0042】
第2の噴射器2bは、被洗浄物Wに対して2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、高圧方式(ジェット方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は第1のタンク5a、第3のタンク5cおよび補充タンク7より高圧ポンプP2を経由して圧送される。また、第2の噴射器2bは、図2に示すように第1の噴射器2aとは異なり、洗浄室4内において被洗浄物Wに対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物Wに対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向および奥行方向に往復動ができる構造とすることもできる。
【0043】
噴霧器3は、溶剤を液体または気化(ベーパー)して噴霧し、被洗浄物W表面全体に溶剤を行き渡らせることで汚れの除去を行う機器である。図3(a)に示すように内部には熱媒体の流出入によって溶剤を加熱することのできる加熱手段30が入れ子状に設けられている。また、図3(b)に示すように噴霧器3の断面は内筒部分3aと外筒部分3bから構成されており、内筒部分3aと外筒部分3bとの空隙部分、すなわち加熱手段30の部分に熱媒体を流入させた状態にて内筒部分3aの内部に溶剤を流入させることで溶剤を加熱することができる。熱媒体には、合成系または鉱物系の熱媒体油や加熱蒸気を用いることができる。なお、図3中の矢印は、溶剤または熱媒体の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0044】
洗浄室4は、被洗浄物Wに対して溶剤を吐出する第1の噴射器2a、第2の噴射器2bおよび噴霧器3を有しており、噴霧器3の内部には前述したように加熱手段30が入れ子状に備えられている。また、第2の噴射器2bを被洗浄物Wに対して洗浄室の高さ方向(上下方向)に自由に可動させる場合には、第2の噴射器2bへ溶剤を圧送する配管上部が洗浄室4外へ飛び出すことになるが、そのような場合でも充分に気密性が保たれている構造となっている。さらに、洗浄室4の床面は傾斜しており(勾配が設けられており)、洗浄後の溶剤が自然流下して洗浄室4外の貯留タンク5a〜5cへ排出できる構造となっている。
【0045】
貯留タンク5a〜5cは、洗浄室内へ噴射および噴霧するために使用する溶剤と使用(洗浄)後の溶剤を貯留しておくタンクである。貯留タンクは、洗浄室内の被洗浄物に対して大まかな汚れを洗浄するために噴射器より噴射する溶剤を貯留しておく第1の貯留タンク5aと、洗浄後の溶剤を貯留しておく第2の貯留タンク5bと、噴霧器より噴霧する溶剤を貯留しておく第3の貯留タンク5c、の少なくとも計3個の貯留タンクが必要である。また、貯留タンク5a、5cには保温手段50を備えることで他の貯留タンク5b中の溶剤を使用している間に保温手段50を備えた貯留タンク5a、5c内の溶剤を次の洗浄工程に備えて予め加温しておくこともできる。なお、貯留タンク5a〜5cの各容積は洗浄室4の容積よりも小さい。
【0046】
蒸留器6は、第2のタンク5bより、蒸留器6との圧力差により移送された洗浄後の汚れた溶剤を、再度洗浄に供することのできる清浄な溶剤へ蒸留できる機器である。また、補充タンク7は蒸留器6により蒸留された溶剤を貯留するタンクである。補充タンク7内の溶剤は、第1ないし第3の貯留タンク5a〜5c内の溶剤により被洗浄物Wを洗浄した後、最後の洗浄工程にて使用し、使用後の溶剤は洗浄室4から排出された後に第1ないし第3の貯留タンク5a〜5c内のいずれかの貯留タンクにて貯留される。
【0047】
次に、本発明に係る真空脱脂洗浄方法の手順について図4ないし図10を用いて説明する。図4は本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程を示す模式図であり、図5は同方法の第1の工程における使用する貯留タンクの切替え(第1の貯留タンク5a→第2の貯留タンク5b)を示す模式図であり、図6は同方法の第1の工程における第2の貯留タンク5b内の溶剤を蒸留器6へ圧送することを示す模式図であり、図7は同方法の第2の工程を示す模式図であり、図8は同方法の第3の工程を示す模式図であり、図9は同方法の第4の工程を示す模式図であり、図10は同方法の第4の工程における使用する貯留タンクの切替え(補充タンク7→第1の貯留タンク5a)を示す模式図である。なお、図4ないし図10中の矢印は、溶剤の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0048】
第1の工程は、図4に示すように第1の貯留タンク5aから吸い上げられた溶剤をポンプP1および高圧ポンプP2を経由して第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、噴射後の溶剤を第2の貯留タンク5bへ排出する工程である。また、被洗浄物Wの洗浄前の温度は常温である場合が多く、洗浄性を促進するため第1の貯留タンク5aに備え付けの加温手段50にて溶剤を加温し、洗浄に供することも可能である。さらに、被洗浄物Wが多く、噴射時間を要する場合には、図5に示すように噴射後の溶剤が第2の貯留タンク5bへ排出された後、第1の貯留タンク5aからの溶剤の供給を止めて、第2の貯留タンク5bから溶剤を吸い上げて洗浄を継続することで本工程を行うこともできる。また、図6に示すように第2の貯留タンク5b内に貯留された噴射後の溶剤は、第1の工程終了後に蒸留器6へ圧送することで蒸留できる。
【0049】
第2の工程は、図7に示すように第1の工程の後に、第3の貯留タンク5cから吸い上げられた溶剤を高圧ポンプP2を経由して噴霧器3より被洗浄物Wに対して噴霧した後、噴霧後の溶剤を第3の貯留タンク5cへ排出する工程である。本工程では、最初に第3の貯留タンク5c内の常温または加温された溶剤を噴霧器3へ加圧供給して、洗浄室4内でミスト状(霧状)に散布した後に、第3の貯留タンク5cに備え付けの加温手段50にて加温した溶剤を、更に噴霧器3内の加熱手段30により減圧下の洗浄室4内における飽和温度以上に加熱することで、減圧下の洗浄室4へ導入した際にガス(気体)として分散させる工程である。
【0050】
第3の工程は、図8に示すように第2の工程の後に、第3の貯留タンク5cから吸い上げられた溶剤をポンプP1および高圧ポンプP2を経由して第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンク5cへ排出する工程である。また、第1の工程において蒸留器6内で蒸留された溶剤を補充タンク7へ圧送することもできる。
【0051】
第4の工程は、図9に示すように第3の工程の後に、補充タンク7から吸い上げられた溶剤を第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンク5aへ排出する工程である。本工程は最終の洗浄工程であり、補充タンク7に貯留されている未使用または蒸留により再生された清浄な溶剤により、被洗浄物Wを洗浄することで一連の洗浄工程が完了する。また、被洗浄物Wが多く、噴射時間を要する場合には、図10に示すように噴射後の溶剤が第1の貯留タンク5aへ排出された後、補充タンク7からの溶剤の供給を止めて、第1の貯留タンク5aから溶剤を吸い上げて継続して洗浄することで、本工程を行うこともできる。
【実施例】
【0052】
本発明の実施形態に示した図1の真空脱脂洗浄装置1を用いて、各々異なる形状および荷姿である4種類のテスト品(被洗浄物W)を対象にした洗浄試験を行ったので、その結果について図11ないし図14を用いて説明する。図11は本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Aのワーク形状および荷姿の模式図、図12は同試験に用いたテスト品Bのワーク形状および荷姿の模式図、図13は同試験に用いたテスト品Cのワーク形状および荷姿の模式図、図14は同試験に用いたテスト品Dのワーク形状および荷姿の模式図を示す。なお、洗浄結果については、脱脂、乾燥、粒子状の汚れ残りの有無を目視により評価した。
【0053】
洗浄を行ったテスト品について説明する。本試験で用いたテスト品は、図11ないし図14に示す以下のテスト品A〜Dの計4種類として、全てのテスト品はワーク形状および荷姿が異なるものとした。
【0054】
テスト品Aは、図11に示すように歯車部品を多段バスケット上に平置きして、歯車部品の表面および伏せ面(裏面)には多くの汚れが付着しているものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き760mm、高さ760mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0055】
テスト品Bは、図12に示すように歯車部品の中央穴部に棒を等間隔に通した状態で治具を用いて整然と掛けられているものである。また、テスト品Aと同様に歯車部品の表面および伏せ面(裏面)には多くの汚れが付着している。テスト品全体の寸法は、 幅760mm、奥行き610mm、高さ760mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0056】
テスト品Cは、図13に示すように中空ギヤシャフトの通り穴を伏せた状態(加工穴部分を下向きにした状態)で、治具を用いて整然と並べたものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き610mm、高さ400mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0057】
テスト品Dは、図14に示すように金属製の小物部品が無秩序に装填されて部品同士が密集したバスケット複数個を積み上げた荷姿のものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き1220mm、高さ300mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。なお、洗浄前の各テスト品は冷温(室温)状態とし、汚れ(粘度の高い焼入れ油を使用)を各テスト品表面に万遍なく付着させて、自然落下での油切れが収まるまで待ってから、本発明に係る真空脱脂洗浄装置内に装入し、洗浄をおこなった。
【0058】
次に、洗浄方法について説明する。洗浄工程は、溶剤のシャワー(散水)、噴射、噴霧(ミスト)、気化導入(ベーパー)の組み合わせを用いた洗浄パターンとした。各工程時間は、工程順に洗浄室内の減圧(任意)、第1の噴射器による溶剤のシャワー100秒、噴霧器による液体溶剤の導入100秒、噴霧器による気化溶剤の導入180秒、第2の噴射器による溶剤噴射100秒、第1の噴射器による加温溶剤のシャワー420秒、第1の噴射器および第2の噴射器による最終洗浄100秒、真空乾燥420秒、洗浄室内の復圧(任意)とした。また、シャワー工程および最終洗浄工程においては第1または第2の噴射器のいずれかをワーク毎に最適と思われるものを選択して用いた。各テスト品A〜Dの洗浄結果について、以下に説明する。
【0059】
テスト品Aについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器による溶剤のシャワーでは、ワークの裏面やバスケット下段におけるワーク上面に溶剤が直接行き届かないことが想定されたため、第2の噴射器(可動式)により洗浄をおこなった。その結果、ワークの裏面や下段にあるワークの上面の被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは無く、洗浄状態は良好であった。また、粒子状の汚れの再付着についても確認されなかった。ワークの下面および下段バスケット内におけるワークに対しても脱脂効果が見られた理由は、ワーク側面方向からの第2の噴射器による溶剤の噴射と、噴霧器による洗浄室下面から上方に向けての噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、および噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状の汚れがワークの周囲を浮遊することが無いことによるものと考えられる。よって、油脂汚れの脱脂効果や粒子状の汚れの除去効果については、浸漬方式に比べて同等以上の洗浄効果が得られた。
【0060】
テスト品Bについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器によるシャワーでもワークに万遍無く溶剤が行き届くこと、第2の噴射器による高圧噴射ではワークが噴射圧により動いて傷が付くことが想定されたため、第1の噴射器による洗浄をおこなった。その結果、セット位置に関わらず、被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは見られず良好であり、粒子状の汚れの再付着についても確認できなかった。その理由は、ワーク同士の間隔が広く、上方から第1の噴射器で散水された溶剤が下段にセットされたワークにも十分に行き渡ることと、噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、および第1の噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状汚れがワークの周りを浮遊することが無いことによるものと考えれる。よって、油脂汚れの脱脂効果や粒子状の汚れの除去効果については、浸漬方式に比べて同等以上の洗浄効果が得られた。
【0061】
テスト品Cについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器によるシャワーでも、ワークに万遍無く溶剤が行き届くことおよび第2の噴射器による高圧噴射ではワークが噴射圧により動いて、傷が付くことが想定されたため、第1の噴射器からの洗浄をおこなった。その結果、セット位置に関わらず、ワーク外面の被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは見られず良好であった。また、粒子状の汚れの再付着についても、確認できず、中空部分の汚れ残りや乾燥も良好であった。その理由は、第1の噴射器によるシャワーのみで溶剤がワーク外面に十分に行き渡ることと、中空部分については噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、また第1の噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状汚れがワークの周りを浮遊することが無いことによるものと考えられる。よって、中空部分(下向き止り穴)の洗浄に関しては浸漬方式以上の効果が得られた。また、ワークが2段以上の多段となった場合は、第1の噴射器に変えて第2の噴射器を用いて噴射圧を調整しながら洗浄することにより良好な洗浄結果が得られると想定される。
【0062】
テスト品Dについては、上述の洗浄パターンにおいてワーク上面へ万遍無く溶剤をかけて、ワークの上部から下へ順時汚れを洗い落とす必要があるため、第1の噴射器のシャワーによる洗浄をおこなった。その結果、上段および下段バスケットの奥にセットされた被洗浄面の汚れ残りや乾燥残りは見られず良好であった。その理由は、第1の噴射器による散水でワーク上方から下方にかけての洗い落とし、噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるものと考えられる。粒子状の汚れの除去に関しては、ワークが密にバスケットに充填されていることにより、上部のワークの付着物が剥離した後、下部のワークに付着する可能性が高いことが想定されるため、浸漬方法を用いることによる粒子状汚れの再付着と同等の結果になると考えられる。
【0063】
なお、本実施例では貯留タンクが3個の場合について説明したが、貯留タンクが4個以上(第4のタンク、第5のタンクなど)となった場合においても同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。貯留タンクが4個以上となった場合でも、蒸留器への汚れた溶剤の移送を担う貯留タンクは貯留タンクが3個の場合と同様に第2の貯留タンクからのみである。
【0064】
貯留タンクが4個以上となった場合の各貯留タンク間の溶剤の移動や貯留のバリエーションは以下のようになる。補充タンク内の溶剤は、前述の第1ないし第3貯留タンクおよび第4以降の貯留タンク内の溶剤により被洗浄物を洗浄した後、最後の洗浄工程に使用し、使用後の溶剤は洗浄室から排出された後に第1、第2および第4以降の貯留タンクにて貯留される。
【0065】
例えば、溶剤の移送例としては最初の洗浄工程(第1の工程)で第1の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は第2の貯留タンクに排出され、貯留される。第2の貯留タンクに貯留された汚れた溶剤は蒸留器に移送され、蒸留再生された溶剤は補充タンクに移送され貯留される。次の洗浄工程(第2の工程)で第3の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第1の貯留タンクに排出され貯留される。次の洗浄工程(第3の工程)で第4の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第3の貯留タンクに排出され貯留される。最後の洗浄工程(第4の工程)で、補充タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第4の貯留タンクに排出され貯留される。
【0066】
すなわち、貯留タンクが4個以上に増えても、最初の洗浄工程(第1の工程)で用いた溶剤は、洗浄室から第2の貯留タンクに排出されて、蒸留器へと移送され蒸留再生された後、補充タンクへと移送させることができる。また、最後の洗浄工程(第4の工程)で補充タンクから溶剤をポンプにより吸い上げて洗浄室に移送して、噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第4以降の貯留タンクに排出されて貯留されることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 真空脱脂洗浄装置
2a 第1の噴射器
2b 第2の噴射器
3 噴霧器
4 洗浄室
5a 第1の貯留タンク
5b 第2の貯留タンク
5c 第3の貯留タンク
6 蒸留器
7 補充タンク
30 加熱手段
50 保温手段
W 被洗浄物
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空減圧下において機械部品等の脱脂洗浄を行う真空脱脂洗浄装置およびその真空脱脂洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械、農業機械その他産業機械等に使用される金属製の部品表面には、加工工程における切削油や焼入れ油などの油脂やゴミが付着しているため、これらの部品を製品へ組み込む前にそれらの付着物を除去しておく必要がある。特に、炭化水素系などの溶剤で部品表面の付着物を除去(脱脂)する場合には、溶剤の引火を防止するために空気を遮断した雰囲気下、例えば真空減圧下で脱脂洗浄が行われることが多い。
【0003】
このような真空減圧下での洗浄方法は、従来では洗浄室内に被洗浄物を溶剤により浸漬することで行われることが多かったが、このような洗浄方法は多量の溶剤を使用、廃棄することや大量の電力消費が環境面で問題となっていた。そのため、溶剤使用による環境対応を考慮して、洗浄室内の被洗浄物に対して溶剤をスプレー等で噴射したり、気化した溶剤を噴霧する洗浄装置および洗浄方法が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では被洗浄物に対して移動可能な複数の洗浄ノズルを備えた洗浄装置が開示されている。この装置は、複数の洗浄ノズルが互いに連携し合いながら移動するように構成されており、各洗浄ノズルは被洗浄物の異なる方向から別個に洗浄液を噴射するので、被洗浄物の複数の面を広範囲にわたって同時に洗浄することが可能となり、被洗浄物を全体的に満遍なく洗浄できるものである。
【0005】
また、特許文献2では溶剤を熱交換器に通すことで高温の溶剤蒸気を生成し、その溶剤蒸気を洗浄室内に導入する洗浄装置が開示されている。この装置の洗浄工程は、洗浄室に溶剤を充満させて行う超音波振動などによる真空下での浸漬洗浄工程で被洗浄物表面の脱脂を行った後、高温の溶剤蒸気を洗浄室に導入することで被洗浄物表面に溶剤の液滴跡を残さないで再度洗浄を行うものである。
【0006】
さらに、特許文献3では異なる洗浄液を貯留する複数のタンクを備えて、これらのタンク内の洗浄液を順次使用して、被洗浄物を洗浄する洗浄装置が開示されている。これによると、1回目から3回目までの各洗浄工程の場合において、3つのタンク内の洗浄液を使い分けて洗浄を行っている。すなわち、1回目の洗浄工程から3回目の洗浄工程にかけて、使用する洗浄液を清浄度の低いものから順に高いものへと切替えて使用していくことで、清浄度の高い洗浄液の使用量を最小限に抑えながら被洗浄物の洗浄を行う。清浄度の低い洗浄液は、数回の使用後にタンク外へ廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−342639号公報
【特許文献2】特許第3759439号公報
【特許文献3】特開2005−177567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された洗浄装置では、複数の洗浄ノズルから洗浄する方式であっても複雑形状な被洗浄物の場合には一定の規則に従った積載方法でなければ、満遍なく洗浄することは困難であるという問題があった。すなわち、満遍なく洗浄させるためには被洗浄物の形状や大きさによってその積載方法が自ずと決定されるので、被洗浄物の積載工程が煩雑になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に開示された洗浄装置では、溶剤の浸漬洗浄後に洗浄室内から溶剤を室外へ排出する際に、被洗浄物表面から除去した切削屑や研磨粉などの粒子状の付着物が、下方に積載された被洗浄物に再度付着し、後工程の溶剤蒸気による洗浄でもこれらの付着物を排除できないという問題があった。その上、熱交換器により溶剤蒸気が生成してから洗浄室へ導入される間に配管やバルブを介して溶剤蒸気が圧送される場合には、その間に溶剤蒸気が冷却されるので配管内に溶剤が結露して、熱交換器で発生した溶剤蒸気の割合に対する洗浄室内へ溶剤蒸気が導入される割合(導入効率)が低下するという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献3に開示された洗浄装置および洗浄方法では、洗浄室内に洗浄液を充満させて揺動やバブリングを行う洗浄方法にも対応しているので、各タンク内には洗浄室内の容積以上の洗浄液を備蓄する必要がある。また、当該洗浄装置には複数のタンクを有することから洗浄液が消防法などの法律における危険物に該当する場合には、法律が定める指定数量を超えて保有することになる。さらに、洗浄装置の設置や洗浄液の保有および取り扱いに関する許可などの届出が煩雑であることや法律に基づいた建築物の改修などの設置条件の変更が必要となるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明においては溶剤蒸気(気化した溶剤)を効率的に洗浄室内へ導入できる真空脱脂洗浄装置を提供することを課題とする。また、被洗浄物の積載方法に関わらず、少量の洗浄液(溶剤)で洗浄を可能とする真空脱脂洗浄方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明においては被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器にて蒸留する溶剤を貯留する補充タンクと、を有する真空脱脂洗浄装置であって、噴霧器の内部に加熱手段を入れ子状に具備している真空脱脂洗浄装置を提供する。本発明により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)する。以下、本発明に係る真空脱脂洗浄装置の構成について説明する。
【0013】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する洗浄室は、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有している。また、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に備えられている。したがって、噴霧器の内部において、入れ子の内部には溶剤を通して、入れ子の外部には加熱された油などの熱媒体を通すことで溶剤を加熱する。そのため、加熱された溶剤が減圧下の洗浄室内へ放出された瞬間に溶剤の飽和蒸気圧が下がるので、液体であった溶剤は気化して噴霧されることとなる。
【0014】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する貯留タンクは、洗浄室内へ噴射および噴霧するために使用する溶剤と使用(洗浄)後の溶剤を貯留しておくタンクである。貯留タンクは、洗浄室内の被洗浄物に対して大まかな汚れを洗浄するために噴射器より噴射する溶剤を貯留しておく第1の貯留タンクと、洗浄後の溶剤を貯留しておく第2の貯留タンクと、噴霧器より噴霧する溶剤を貯留しておく第3の貯留タンク、の少なくとも計3個の貯留タンクが必要である。
【0015】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する蒸留器は、第2の貯留タンクより、蒸留器との圧力差により移送された洗浄後の汚れた溶剤を、再度洗浄に供することのできる清浄な溶剤へ蒸留できる機器である。
【0016】
本発明に係る真空脱脂洗浄装置を構成する補充タンクは、前述の蒸留器により蒸留された溶剤を貯留するタンクである。補充タンク内の溶剤は、前述の第1ないし第3の貯留タンク内の溶剤により被洗浄物を洗浄した後、最後の洗浄工程にて使用し、使用後の溶剤は洗浄室から排出された後に第1ないし第3の貯留タンク内のいずれかの貯留タンクにて貯留される。
【0017】
請求項2に係る発明においては、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器とを備えている真空脱脂洗浄装置とした。本発明により、被洗浄物の荷姿の態様(被洗浄物の形状や数量およびトレーや治具への固定、積載の方法)に関わらず、汚れの除去効率を高めることができる。以下、第1および第2の噴射器について説明する。
【0018】
第1の噴射器は、被洗浄物に対して0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、散水方式(シャワー方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は前述の第1ないし第3のタンクよりポンプを利用して圧送される。また、第1の噴射器は、洗浄室内において被洗浄物に対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物に対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向および奥行方向に往復動ができる構造とすることもできる。溶剤の圧力の下限を設けた理由は、圧力が0.1MPaを下回る(圧力が低すぎると)、噴射器のノズルからの溶剤の適正な噴射状態が保てず、被洗浄物に溶剤が満遍なく散布できない場合があるからである。
【0019】
第2の噴射器は、被洗浄物に対して2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、高圧方式(ジェット方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は前述の第1の貯留タンク、第3の貯留タンクおよび補充タンクより高圧ポンプを経由して圧送される。また、第2の噴射器は、第1の噴射器と同様に洗浄室内において被洗浄物に対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物に対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向に往復動ができる構造とすることもできる。なお、溶剤の圧力の上限を設けた理由は、圧力が5MPaを超える(圧力が高すぎる)と、噴射器のノズルからの溶剤が被洗浄物に衝突したとき、軽量な被洗浄物の場合は吹き飛ばされるなどして、治具、バスケット、トレー等から飛散してしまうことや被洗浄物同士が衝突して、傷がついてしまうことが想定されるためである。
【0020】
請求項3に係る発明においては、複数の貯留タンクは第1ないし第3の貯留タンクより構成しており、少なくとも1の貯留タンクには保温手段を具備している真空脱脂洗浄装置とした。これにより、他の貯留タンク中の溶剤を使用している間に保温手段を備えた貯留タンク内の溶剤を次の洗浄工程に備えて予め加温しておくことができる。
【0021】
請求項4に係る発明においては、複数の貯留タンクの各容積が洗浄室の容積よりも小さい真空脱脂洗浄装置とした。これにより、使用する溶剤の総量が従来の浸漬するタイプの洗浄装置に比べて減少する。
【0022】
洗浄方法の発明については、請求項5に係る発明において、請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)する。
【0023】
溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給することで、噴霧器の内部にある加熱手段により加熱することができる。減圧された洗浄室内におけるその圧力に対する溶剤の飽和温度以上に加熱した後、予め減圧雰囲気にしておいた洗浄室内へその溶剤を噴霧する。洗浄室内が減圧されていることから、洗浄室内の飽和蒸気圧が常圧に比べて下がっているため、噴霧された溶剤は液体からガス状(気体)に変化して、洗浄室内の四方に分散する。例えば、炭化水素系溶剤のうち消防法における第三石油類に分類される溶剤を用いる場合には、良好な噴射状態を維持するために溶剤の加圧を3〜5MPa、加熱温度を約110〜120℃、洗浄室内の圧力(絶対圧)を300Pa以下とすることが好ましい。
【0024】
請求項6に係る発明において、請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、第1のタンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第2の貯留タンクへ排出する第1の工程と、第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第2の工程と、第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第3の工程と、第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する第4の工程と、から構成されており、第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行う真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、洗浄に長時間を要する場合であっても少量の溶剤により多量の被洗浄物を連続して洗浄することができる。以下、第1ないし第4の工程について詳細に説明する。
【0025】
第1の工程は、第1の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、噴射後の溶剤を第2の貯留タンクへ排出する工程である。本工程は被洗浄物に対する最初の洗浄工程であり、被洗浄物に付着した大まかな汚れを除去することを目的としている。また、被洗浄物の洗浄前の温度は室温である場合が多く、洗浄性を促進するため第1の貯留タンクに備え付けの加温手段にて溶剤を加温し、洗浄に供することも可能である。さらに、被洗浄物が多く、噴射時間を要する場合には、噴射後の溶剤が第2の貯留タンクへ排出された後、第1の貯留タンクからの溶剤の供給を止めて、第2の貯留タンクから溶剤を吸い上げることで上述の洗浄工程を行うこともできる。なお、第2の貯留タンク内に貯留された噴射後の溶剤は、第1の工程終了後に蒸留器により蒸留できる。
【0026】
第2の工程は、前述の第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、噴霧後の溶剤を第3の貯留タンクへ排出する工程である。本工程では、最初に第3の貯留タンク内の常温または加温された溶剤を噴霧器へ加圧供給して、洗浄室内でミスト状(霧状)に散布した後に、第3の貯留タンクに備え付けの加温手段にて加温した溶剤を、更に噴霧器内の加熱手段により減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱することで、減圧下の洗浄室へ導入した際にガス(気体)として分散させる工程である。本工程により第1の工程にて噴射器からの溶剤でも除去できない部分、例えば溶剤の噴射では届きにくい下向き止まり穴の奥側に付着した汚れも除去可能となる。
【0027】
第3の工程は、前述の第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する工程である。前述の第1および第2の工程におけるミスト洗浄やベーパー洗浄では、溶剤が届きにくい被洗浄面へ行き渡らせることが主な目的であるため、使用する溶剤量が少ない。そのため、洗浄後であっても汚れが多く溶け込んだ溶剤が、被洗浄面に残っている場合が想定される。そこで、本工程では第3の貯留タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射することで、第2の工程終了後に被洗浄物表面に汚れを多く含んだまま残っている溶剤を洗い落とすことができる。なお、第3の工程中もしくは工程終了後に、蒸留器により蒸留された溶剤を補充タンクへ圧送することもできる。
【0028】
第4の工程は、前述の第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げられた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する工程である。本工程では洗浄の最終工程であり、補充タンクに貯留されている未使用または蒸留により再生された清浄な溶剤により、被洗浄物を洗浄することで一連の洗浄工程が完了する。また、被洗浄物が多く、噴射時間を要する場合には、噴射後の溶剤が第1の貯留タンクへ排出された後、補充タンクからの溶剤の供給を止めて、第1の貯留タンクから溶剤を吸い上げることで、上述の洗浄工程を行うこともできる。
【0029】
請求項7に係る発明において、1サイクルの終了後に第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行う真空脱脂洗浄方法とした。本発明に係る洗浄方法により、被洗浄物の清浄度をより向上させることができる。
【0030】
なお、1サイクルの終了後の第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換する作業は、作業者により手動で行うこともできるし、プログラミングソフトを用いて自動で行うこともできる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本発明においては、被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、溶剤を貯留する複数の貯留タンクと、貯留タンク内の溶剤を蒸留する蒸留器と、蒸留器により蒸留する溶剤を貯留する補充タンクと、を有する真空脱脂洗浄装置であって、噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備する真空脱脂洗浄装置により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)するので、溶剤蒸気(気化した溶剤)を効率的に洗浄室内へ導入できる(導入効率が高い)。その結果、散水、噴射、浸漬などの洗浄方式では溶剤が届き難い、例えば下向き止まり穴内部の被洗浄面の隅々まで溶剤が行き渡り、洗浄が可能となる。
【0032】
また、請求項2に記載の発明においては、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器とを具備する真空脱脂洗浄装置とすることにより、溶剤を散水方式および噴射方式により被洗浄物に散布するので、被洗浄物の荷姿の態様に関わらず、汚れの除去効率を高めることができる。
【0033】
さらに、請求項3に記載の発明においては、複数の貯留タンクを第1ないし第3の貯留タンクより構成して、少なくとも1の貯留タンクに保温手段を具備する真空脱脂洗浄装置とすることにより、洗浄前に貯留タンク内の溶剤を温めることができるので、被洗浄物に対する洗浄効果を高めると同時に洗浄時間を短縮することができる。
【0034】
また、請求項4に記載の発明においては、複数の貯留タンクの各容積が洗浄室の容積よりも小さい真空脱脂洗浄装置とすることにより、使用する溶剤の総量が従来の浸漬するタイプの洗浄装置に比べて減少するので、装置全体の容積および設置面積の増加を抑制して、装置の小型化を実現できる。また、使用する溶剤の総量が減少することで法律に基づいた役所(自治体)への届出や申請が不要または簡便なものとなり、同時に建物構造などの変更を行うことなく洗浄装置の導入が可能となる。
【0035】
真空脱脂洗浄方法に関する発明について、請求項5に記載の発明においては、請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、溶剤を噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の洗浄室内にて溶剤を噴霧する真空脱脂洗浄方法により、噴霧器から噴霧する溶剤が洗浄室内でガス化(気化)するので、ガス化した溶剤が洗浄室内の隅々まで行き渡り、散水、噴射、浸漬などの洗浄方式では溶剤が届き難いような、例えば下向き止まり穴の内部の奥側まで洗浄できる。
【0036】
また、請求項6に記載の発明においては、請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、第1の貯留タンクから吸い上げた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第2の貯留タンクへ排出する第1の工程と、第1の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上げた溶剤を噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第2の工程と、第2の工程の後に、第3の貯留タンクから吸い上た溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンクへ排出する第3の工程と、第3の工程の後に、補充タンクから吸い上げた溶剤を第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンクへ排出する第4の工程と、から構成して、第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行う真空脱脂洗浄方法により、多量の被洗浄物の連続した洗浄の場合であっても少量の溶剤により洗浄を行うことができるので、装置全体の容積および設置面積の増加を抑制して、装置の小型化を実現できる。
【0037】
さらに、請求項7に記載の発明においては、1サイクルの終了後に、第1の貯留タンクと第3の貯留タンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行うこととする真空脱脂洗浄方法により、被洗浄物の清浄度が向上するので、サイクル数(累計洗浄回数)に関わらず常に高品質の洗浄が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る真空脱脂洗浄装置1全体の模式図である。
【図2】図2は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4の縦断面図である。
【図3】(a)真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4に具備されている噴霧器3の縦断面図であり、(b)同図(a)のA−A線断面図である。
【図4】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程を示す模式図である。
【図5】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程における使用する貯留タンクの切替え(第1の貯留タンク5a→第2の貯留タンク5b)を示す模式図である。
【図6】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程における第2の貯留タンク5b内の溶剤を蒸留器6へ圧送することを示す模式図である。
【図7】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第2の工程を示す模式図である。
【図8】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第3の工程を示す模式図である。
【図9】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第4の工程を示す模式図である。
【図10】本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第4の工程における使用する貯留タンクの切替え(補充タンク7→第1の貯留タンク5a)を示す模式図である。
【図11】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Aのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図12】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Bのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図13】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Cのワーク形状および荷姿の模式図である。
【図14】本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Dのワーク形状および荷姿の模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施の形態の一例について、本発明に係る真空脱脂洗浄装置について図面を参照して説明する。図1は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1全体の模式図、図2は本発明に係る真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4の縦断面図、図3(a)は真空脱脂洗浄装置1を構成する洗浄室4に具備されている噴霧器3の縦断面図、(b)は同図(a)のA−A線断面図である。
【0040】
図1および図2に示すように真空脱脂洗浄装置1には、被洗浄物Wに対して溶剤を吐出する噴射器2a、2bおよび噴霧器3を有する洗浄室4と、溶剤を貯留する複数の貯留タンク5a〜5cと、貯留タンク5b内の溶剤を蒸留する蒸留器6と、蒸留器6により蒸留された溶剤を貯留する補充タンク7とを有している。また、図3に示すように噴霧器3の内部には加熱手段30が入れ子状に具備されている。さらに、噴射器は0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器2aと、2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器2bとから構成されている。なお、図2中の矢印は、溶剤または熱媒体の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0041】
第1の噴射器2aは、被洗浄物Wに対して0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、散水方式(シャワー方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は後述する第1ないし第3のタンク5a〜5bよりポンプP1を利用して圧送される。また、第1の噴射器2aは、図2に示すように洗浄室4内において被洗浄物Wに対して上面の位置に任意に設置できる。
【0042】
第2の噴射器2bは、被洗浄物Wに対して2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射することで、高圧方式(ジェット方式)にて汚れの除去を行う機器であり、溶剤は第1のタンク5a、第3のタンク5cおよび補充タンク7より高圧ポンプP2を経由して圧送される。また、第2の噴射器2bは、図2に示すように第1の噴射器2aとは異なり、洗浄室4内において被洗浄物Wに対して上面、側面および底面の位置に任意に設置できる。同時に、被洗浄物Wに対して上面、側面および底面において洗浄中に自由に上下方向、左右方向および奥行方向に往復動ができる構造とすることもできる。
【0043】
噴霧器3は、溶剤を液体または気化(ベーパー)して噴霧し、被洗浄物W表面全体に溶剤を行き渡らせることで汚れの除去を行う機器である。図3(a)に示すように内部には熱媒体の流出入によって溶剤を加熱することのできる加熱手段30が入れ子状に設けられている。また、図3(b)に示すように噴霧器3の断面は内筒部分3aと外筒部分3bから構成されており、内筒部分3aと外筒部分3bとの空隙部分、すなわち加熱手段30の部分に熱媒体を流入させた状態にて内筒部分3aの内部に溶剤を流入させることで溶剤を加熱することができる。熱媒体には、合成系または鉱物系の熱媒体油や加熱蒸気を用いることができる。なお、図3中の矢印は、溶剤または熱媒体の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0044】
洗浄室4は、被洗浄物Wに対して溶剤を吐出する第1の噴射器2a、第2の噴射器2bおよび噴霧器3を有しており、噴霧器3の内部には前述したように加熱手段30が入れ子状に備えられている。また、第2の噴射器2bを被洗浄物Wに対して洗浄室の高さ方向(上下方向)に自由に可動させる場合には、第2の噴射器2bへ溶剤を圧送する配管上部が洗浄室4外へ飛び出すことになるが、そのような場合でも充分に気密性が保たれている構造となっている。さらに、洗浄室4の床面は傾斜しており(勾配が設けられており)、洗浄後の溶剤が自然流下して洗浄室4外の貯留タンク5a〜5cへ排出できる構造となっている。
【0045】
貯留タンク5a〜5cは、洗浄室内へ噴射および噴霧するために使用する溶剤と使用(洗浄)後の溶剤を貯留しておくタンクである。貯留タンクは、洗浄室内の被洗浄物に対して大まかな汚れを洗浄するために噴射器より噴射する溶剤を貯留しておく第1の貯留タンク5aと、洗浄後の溶剤を貯留しておく第2の貯留タンク5bと、噴霧器より噴霧する溶剤を貯留しておく第3の貯留タンク5c、の少なくとも計3個の貯留タンクが必要である。また、貯留タンク5a、5cには保温手段50を備えることで他の貯留タンク5b中の溶剤を使用している間に保温手段50を備えた貯留タンク5a、5c内の溶剤を次の洗浄工程に備えて予め加温しておくこともできる。なお、貯留タンク5a〜5cの各容積は洗浄室4の容積よりも小さい。
【0046】
蒸留器6は、第2のタンク5bより、蒸留器6との圧力差により移送された洗浄後の汚れた溶剤を、再度洗浄に供することのできる清浄な溶剤へ蒸留できる機器である。また、補充タンク7は蒸留器6により蒸留された溶剤を貯留するタンクである。補充タンク7内の溶剤は、第1ないし第3の貯留タンク5a〜5c内の溶剤により被洗浄物Wを洗浄した後、最後の洗浄工程にて使用し、使用後の溶剤は洗浄室4から排出された後に第1ないし第3の貯留タンク5a〜5c内のいずれかの貯留タンクにて貯留される。
【0047】
次に、本発明に係る真空脱脂洗浄方法の手順について図4ないし図10を用いて説明する。図4は本発明に係る真空脱脂洗浄方法の第1の工程を示す模式図であり、図5は同方法の第1の工程における使用する貯留タンクの切替え(第1の貯留タンク5a→第2の貯留タンク5b)を示す模式図であり、図6は同方法の第1の工程における第2の貯留タンク5b内の溶剤を蒸留器6へ圧送することを示す模式図であり、図7は同方法の第2の工程を示す模式図であり、図8は同方法の第3の工程を示す模式図であり、図9は同方法の第4の工程を示す模式図であり、図10は同方法の第4の工程における使用する貯留タンクの切替え(補充タンク7→第1の貯留タンク5a)を示す模式図である。なお、図4ないし図10中の矢印は、溶剤の流れ(流入および流出)を示すものである。
【0048】
第1の工程は、図4に示すように第1の貯留タンク5aから吸い上げられた溶剤をポンプP1および高圧ポンプP2を経由して第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、噴射後の溶剤を第2の貯留タンク5bへ排出する工程である。また、被洗浄物Wの洗浄前の温度は常温である場合が多く、洗浄性を促進するため第1の貯留タンク5aに備え付けの加温手段50にて溶剤を加温し、洗浄に供することも可能である。さらに、被洗浄物Wが多く、噴射時間を要する場合には、図5に示すように噴射後の溶剤が第2の貯留タンク5bへ排出された後、第1の貯留タンク5aからの溶剤の供給を止めて、第2の貯留タンク5bから溶剤を吸い上げて洗浄を継続することで本工程を行うこともできる。また、図6に示すように第2の貯留タンク5b内に貯留された噴射後の溶剤は、第1の工程終了後に蒸留器6へ圧送することで蒸留できる。
【0049】
第2の工程は、図7に示すように第1の工程の後に、第3の貯留タンク5cから吸い上げられた溶剤を高圧ポンプP2を経由して噴霧器3より被洗浄物Wに対して噴霧した後、噴霧後の溶剤を第3の貯留タンク5cへ排出する工程である。本工程では、最初に第3の貯留タンク5c内の常温または加温された溶剤を噴霧器3へ加圧供給して、洗浄室4内でミスト状(霧状)に散布した後に、第3の貯留タンク5cに備え付けの加温手段50にて加温した溶剤を、更に噴霧器3内の加熱手段30により減圧下の洗浄室4内における飽和温度以上に加熱することで、減圧下の洗浄室4へ導入した際にガス(気体)として分散させる工程である。
【0050】
第3の工程は、図8に示すように第2の工程の後に、第3の貯留タンク5cから吸い上げられた溶剤をポンプP1および高圧ポンプP2を経由して第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、溶剤を第3の貯留タンク5cへ排出する工程である。また、第1の工程において蒸留器6内で蒸留された溶剤を補充タンク7へ圧送することもできる。
【0051】
第4の工程は、図9に示すように第3の工程の後に、補充タンク7から吸い上げられた溶剤を第1の噴射器2aまたは第2の噴射器2bから被洗浄物Wに対して噴射した後、溶剤を第1の貯留タンク5aへ排出する工程である。本工程は最終の洗浄工程であり、補充タンク7に貯留されている未使用または蒸留により再生された清浄な溶剤により、被洗浄物Wを洗浄することで一連の洗浄工程が完了する。また、被洗浄物Wが多く、噴射時間を要する場合には、図10に示すように噴射後の溶剤が第1の貯留タンク5aへ排出された後、補充タンク7からの溶剤の供給を止めて、第1の貯留タンク5aから溶剤を吸い上げて継続して洗浄することで、本工程を行うこともできる。
【実施例】
【0052】
本発明の実施形態に示した図1の真空脱脂洗浄装置1を用いて、各々異なる形状および荷姿である4種類のテスト品(被洗浄物W)を対象にした洗浄試験を行ったので、その結果について図11ないし図14を用いて説明する。図11は本実施例の洗浄試験に用いたテスト品Aのワーク形状および荷姿の模式図、図12は同試験に用いたテスト品Bのワーク形状および荷姿の模式図、図13は同試験に用いたテスト品Cのワーク形状および荷姿の模式図、図14は同試験に用いたテスト品Dのワーク形状および荷姿の模式図を示す。なお、洗浄結果については、脱脂、乾燥、粒子状の汚れ残りの有無を目視により評価した。
【0053】
洗浄を行ったテスト品について説明する。本試験で用いたテスト品は、図11ないし図14に示す以下のテスト品A〜Dの計4種類として、全てのテスト品はワーク形状および荷姿が異なるものとした。
【0054】
テスト品Aは、図11に示すように歯車部品を多段バスケット上に平置きして、歯車部品の表面および伏せ面(裏面)には多くの汚れが付着しているものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き760mm、高さ760mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0055】
テスト品Bは、図12に示すように歯車部品の中央穴部に棒を等間隔に通した状態で治具を用いて整然と掛けられているものである。また、テスト品Aと同様に歯車部品の表面および伏せ面(裏面)には多くの汚れが付着している。テスト品全体の寸法は、 幅760mm、奥行き610mm、高さ760mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0056】
テスト品Cは、図13に示すように中空ギヤシャフトの通り穴を伏せた状態(加工穴部分を下向きにした状態)で、治具を用いて整然と並べたものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き610mm、高さ400mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。
【0057】
テスト品Dは、図14に示すように金属製の小物部品が無秩序に装填されて部品同士が密集したバスケット複数個を積み上げた荷姿のものである。テスト品全体の寸法は、幅760mm、奥行き1220mm、高さ300mm、トレーおよびバスケット類を含めた総重量は約250kgとした。なお、洗浄前の各テスト品は冷温(室温)状態とし、汚れ(粘度の高い焼入れ油を使用)を各テスト品表面に万遍なく付着させて、自然落下での油切れが収まるまで待ってから、本発明に係る真空脱脂洗浄装置内に装入し、洗浄をおこなった。
【0058】
次に、洗浄方法について説明する。洗浄工程は、溶剤のシャワー(散水)、噴射、噴霧(ミスト)、気化導入(ベーパー)の組み合わせを用いた洗浄パターンとした。各工程時間は、工程順に洗浄室内の減圧(任意)、第1の噴射器による溶剤のシャワー100秒、噴霧器による液体溶剤の導入100秒、噴霧器による気化溶剤の導入180秒、第2の噴射器による溶剤噴射100秒、第1の噴射器による加温溶剤のシャワー420秒、第1の噴射器および第2の噴射器による最終洗浄100秒、真空乾燥420秒、洗浄室内の復圧(任意)とした。また、シャワー工程および最終洗浄工程においては第1または第2の噴射器のいずれかをワーク毎に最適と思われるものを選択して用いた。各テスト品A〜Dの洗浄結果について、以下に説明する。
【0059】
テスト品Aについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器による溶剤のシャワーでは、ワークの裏面やバスケット下段におけるワーク上面に溶剤が直接行き届かないことが想定されたため、第2の噴射器(可動式)により洗浄をおこなった。その結果、ワークの裏面や下段にあるワークの上面の被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは無く、洗浄状態は良好であった。また、粒子状の汚れの再付着についても確認されなかった。ワークの下面および下段バスケット内におけるワークに対しても脱脂効果が見られた理由は、ワーク側面方向からの第2の噴射器による溶剤の噴射と、噴霧器による洗浄室下面から上方に向けての噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、および噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状の汚れがワークの周囲を浮遊することが無いことによるものと考えられる。よって、油脂汚れの脱脂効果や粒子状の汚れの除去効果については、浸漬方式に比べて同等以上の洗浄効果が得られた。
【0060】
テスト品Bについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器によるシャワーでもワークに万遍無く溶剤が行き届くこと、第2の噴射器による高圧噴射ではワークが噴射圧により動いて傷が付くことが想定されたため、第1の噴射器による洗浄をおこなった。その結果、セット位置に関わらず、被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは見られず良好であり、粒子状の汚れの再付着についても確認できなかった。その理由は、ワーク同士の間隔が広く、上方から第1の噴射器で散水された溶剤が下段にセットされたワークにも十分に行き渡ることと、噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、および第1の噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状汚れがワークの周りを浮遊することが無いことによるものと考えれる。よって、油脂汚れの脱脂効果や粒子状の汚れの除去効果については、浸漬方式に比べて同等以上の洗浄効果が得られた。
【0061】
テスト品Cについては、上述の洗浄パターンにおいて、上方からの第1の噴射器によるシャワーでも、ワークに万遍無く溶剤が行き届くことおよび第2の噴射器による高圧噴射ではワークが噴射圧により動いて、傷が付くことが想定されたため、第1の噴射器からの洗浄をおこなった。その結果、セット位置に関わらず、ワーク外面の被洗浄面の汚れ残り、乾燥残りは見られず良好であった。また、粒子状の汚れの再付着についても、確認できず、中空部分の汚れ残りや乾燥も良好であった。その理由は、第1の噴射器によるシャワーのみで溶剤がワーク外面に十分に行き渡ることと、中空部分については噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるもの、また第1の噴射器により被洗浄面より払い落とさた粒子状汚れがワークの周りを浮遊することが無いことによるものと考えられる。よって、中空部分(下向き止り穴)の洗浄に関しては浸漬方式以上の効果が得られた。また、ワークが2段以上の多段となった場合は、第1の噴射器に変えて第2の噴射器を用いて噴射圧を調整しながら洗浄することにより良好な洗浄結果が得られると想定される。
【0062】
テスト品Dについては、上述の洗浄パターンにおいてワーク上面へ万遍無く溶剤をかけて、ワークの上部から下へ順時汚れを洗い落とす必要があるため、第1の噴射器のシャワーによる洗浄をおこなった。その結果、上段および下段バスケットの奥にセットされた被洗浄面の汚れ残りや乾燥残りは見られず良好であった。その理由は、第1の噴射器による散水でワーク上方から下方にかけての洗い落とし、噴霧器により洗浄室下面から上方に噴霧および気化導入される溶剤の効果によるものと考えられる。粒子状の汚れの除去に関しては、ワークが密にバスケットに充填されていることにより、上部のワークの付着物が剥離した後、下部のワークに付着する可能性が高いことが想定されるため、浸漬方法を用いることによる粒子状汚れの再付着と同等の結果になると考えられる。
【0063】
なお、本実施例では貯留タンクが3個の場合について説明したが、貯留タンクが4個以上(第4のタンク、第5のタンクなど)となった場合においても同様の効果を得ることができるのは言うまでもない。貯留タンクが4個以上となった場合でも、蒸留器への汚れた溶剤の移送を担う貯留タンクは貯留タンクが3個の場合と同様に第2の貯留タンクからのみである。
【0064】
貯留タンクが4個以上となった場合の各貯留タンク間の溶剤の移動や貯留のバリエーションは以下のようになる。補充タンク内の溶剤は、前述の第1ないし第3貯留タンクおよび第4以降の貯留タンク内の溶剤により被洗浄物を洗浄した後、最後の洗浄工程に使用し、使用後の溶剤は洗浄室から排出された後に第1、第2および第4以降の貯留タンクにて貯留される。
【0065】
例えば、溶剤の移送例としては最初の洗浄工程(第1の工程)で第1の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は第2の貯留タンクに排出され、貯留される。第2の貯留タンクに貯留された汚れた溶剤は蒸留器に移送され、蒸留再生された溶剤は補充タンクに移送され貯留される。次の洗浄工程(第2の工程)で第3の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第1の貯留タンクに排出され貯留される。次の洗浄工程(第3の工程)で第4の貯留タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第3の貯留タンクに排出され貯留される。最後の洗浄工程(第4の工程)で、補充タンクから溶剤をポンプで吸い上げ、洗浄室に移送する。洗浄室に噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第4の貯留タンクに排出され貯留される。
【0066】
すなわち、貯留タンクが4個以上に増えても、最初の洗浄工程(第1の工程)で用いた溶剤は、洗浄室から第2の貯留タンクに排出されて、蒸留器へと移送され蒸留再生された後、補充タンクへと移送させることができる。また、最後の洗浄工程(第4の工程)で補充タンクから溶剤をポンプにより吸い上げて洗浄室に移送して、噴射または噴霧または蒸気として導入された溶剤は、第4以降の貯留タンクに排出されて貯留されることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 真空脱脂洗浄装置
2a 第1の噴射器
2b 第2の噴射器
3 噴霧器
4 洗浄室
5a 第1の貯留タンク
5b 第2の貯留タンク
5c 第3の貯留タンク
6 蒸留器
7 補充タンク
30 加熱手段
50 保温手段
W 被洗浄物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、
前記溶剤を貯留させる複数の貯留タンクと、
前記貯留タンク内の前記溶剤を蒸留する蒸留器と、
前記蒸留器により蒸留された前記溶剤を貯留する補充タンクと、
を有する真空脱脂洗浄装置であって、
前記噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備されている
ことを特徴とする真空脱脂洗浄装置。
【請求項2】
前記噴射器は、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、
2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器と、
から構成されている噴射器であることを特徴とする請求項1に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項3】
前記複数の貯留タンクは第1ないし第3の貯留タンクより構成されており、少なくとも1の前記貯留タンクには保温手段が具備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項4】
前記複数の貯留タンクの各容積は、前記洗浄室の容積よりも小さいことを特徴とする
請求項1ないし3のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、
溶剤を前記噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の前記洗浄室内にて前記溶剤を噴霧することを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、
前記第1のタンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第2のタンクへ排出する第1の工程と、
前記第1の工程の後に、
前記第3のタンクから吸い上げられた溶剤を前記噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、前記溶剤を前記第3のタンクへ排出する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、
前記第3のタンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第3のタンクへ排出する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、
前記補充タンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第1のタンクへ排出する第4の工程と、から構成されており、前記第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行うことを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【請求項7】
前記1サイクルの終了後に、前記第1のタンクと前記第3のタンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行うことを特徴とする請求項6に記載の真空脱脂洗浄方法。
【請求項1】
被洗浄物に対して溶剤を吐出する噴射器および噴霧器を有する洗浄室と、
前記溶剤を貯留させる複数の貯留タンクと、
前記貯留タンク内の前記溶剤を蒸留する蒸留器と、
前記蒸留器により蒸留された前記溶剤を貯留する補充タンクと、
を有する真空脱脂洗浄装置であって、
前記噴霧器の内部には加熱手段が入れ子状に具備されている
ことを特徴とする真空脱脂洗浄装置。
【請求項2】
前記噴射器は、0.1MPa〜0.5MPaの圧力で溶剤を噴射する第1の噴射器と、
2MPa〜5MPaの圧力で溶剤を噴射する第2の噴射器と、
から構成されている噴射器であることを特徴とする請求項1に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項3】
前記複数の貯留タンクは第1ないし第3の貯留タンクより構成されており、少なくとも1の前記貯留タンクには保温手段が具備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項4】
前記複数の貯留タンクの各容積は、前記洗浄室の容積よりも小さいことを特徴とする
請求項1ないし3のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、
溶剤を前記噴霧器の内部へ加圧供給して、減圧下の洗浄室内における飽和温度以上に加熱した後、減圧下の前記洗浄室内にて前記溶剤を噴霧することを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の真空脱脂洗浄装置を用いて、
前記第1のタンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第2のタンクへ排出する第1の工程と、
前記第1の工程の後に、
前記第3のタンクから吸い上げられた溶剤を前記噴霧器から被洗浄物に対して噴霧した後、前記溶剤を前記第3のタンクへ排出する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、
前記第3のタンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第3のタンクへ排出する第3の工程と、
前記第3の工程の後に、
前記補充タンクから吸い上げられた溶剤を前記第1または第2の噴射器から被洗浄物に対して噴射した後、前記溶剤を前記第1のタンクへ排出する第4の工程と、から構成されており、前記第1ないし第4の工程を1サイクルとして洗浄を行うことを特徴とする真空脱脂洗浄方法。
【請求項7】
前記1サイクルの終了後に、前記第1のタンクと前記第3のタンクとを交換してから次のサイクルによる洗浄を行うことを特徴とする請求項6に記載の真空脱脂洗浄方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−245460(P2012−245460A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118645(P2011−118645)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】
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