説明

真空蒸発回収方法及び装置

【課題】蒸発物の回収部と回収物の収納場所とを切り離して別個のものとすることにより処理効率を向上させ、また、収納容器を十分に大きなものとすることを可能にしてその交換頻度を激減させてその交換の手間を省くことができ、以て、有価金属の加熱蒸発回収作業の簡素化と高効率化を実現し得る、真空蒸発回収方法及び装置を提供する。
【解決手段】有価金属を含む処理品を、還元ガスを用い又は用いることなく真空炉1内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための装置であって、前記真空炉1に付設され、前記処理により発生する蒸発金属を付着堆積させて前記有価金属を回収する回収筒2と、回収部2において回収され、加熱されてそこから剥落される回収金属を収納する収納容器4とが分離されて設置される。回収筒2は、真空炉1の下面に下向きに設けられる、ヒータ層5、6を備え、収納容器4は回収筒2の下方に搬入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空蒸発回収方法及び装置、より詳細には、有価金属等を含む、工場や一般家庭等から出る廃棄物、公害品、各種酸化物、その他の処理品を減圧下で処理して有価物を回収するための、真空蒸発回収方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記用途の処理装置としては、例えば、特開2007−196229号公報に記載のものがある。この処理装置は、図4に記載されるような回収機構を有するものである。即ち、その回収機構は、真空炉103と、真空炉103に連通するように設置された回収チャンバ115を備え、回収チャンバ115内には回収レトルト116が進退可能に配備され、回収レトルト116は、前進時に真空炉103の開口部104内に密に進入し得るようになっている。
【0003】
回収レトルト116は、真空炉103内における蒸発物を回収するための交換可能な中空円筒形状のカセットで、真空炉103内に臨む前面と、その前進時において回収チャンバ115の真空排気口117に対向する部分に通気口119を有する。
【0004】
回収チャンバ115は、排気系に接続される前記排気口117を有し、排気口117よりも真空炉103側に、回収チャンバ115の通路を気密に閉塞する真空扉118が設置される。この真空扉118は、回収レトルト116の真空炉103側進行時に開き、その後退時に閉まることにより、真空炉103内の真空度を保持する役目を果たす。
【0005】
真空炉103内からの蒸発物は、回収レトルト116の真空炉103内に臨む前端開口から回収レトルト116内に入り、排気口117に対向する通気口119から抜ける間に冷却されて回収レトルト116内で凝縮し、そこに堆積する。その後、回収レトルト116は、進退駆動用シリンダー120の作用で真空炉103の開口部104から引き出され、真空扉118を閉じた後、下段の駆動シリンダー121に駆動されて外部に搬出され、回収される。
【0006】
回収レトルト116に直結される進退駆動用シリンダー120のロッド124の先端には、拡径化された引掛板129が形成され、この引掛板129が回収レトルト116の後端面に形成された係止板127に係止されることにより、進退駆動用シリンダー120のロッド124が回収レトルト116に結合される(図5参照)。係止板127には下方から中央部にかけて、ロッド124の径より少し広幅で、引掛板129の径よりは幅狭の溝126が形成されていて、回収レトルト116を上方から降ろすことにより、引掛板129が係止板127によって係止され、逆に回収レトルト116を上方に移動させることによって外すことができるようになっている。
【0007】
上記従来の処理装置の場合は、横向きに配置された真空炉103の側面に開口部104を設け、そこに回収レトルト116の前半部を直接、密に嵌挿することにより、蒸発物を回収レトルト116内に導入するようにしている。そのような構成のため、蒸発物が真空扉118に触れないので、その真空シール性能が損なわれることなく保護されるという利点があると考えられている。
【0008】
しかし、そこで用いられる回収レトルト116は、蒸発物の回収機能と回収物の収納機能とを兼ね備えたものであり、直径が350mm程度の細い筒のため、凝縮した金属蒸発物が堆積すると短時間のうちにレトルト内につまりが生じやすい。その結果、真空炉103内の真空度が低下して回収速度が遅くなるという欠点があり、また、回収機能と回収物の収納機能とを兼ね備えているために、回収レトルト116を頻繁に交換しなければならない煩わしさがある。そして、この回収レトルト116の場合、現在行なわれている重量比1%程度の金属の回収の場合はそれ程の問題はないが、例えば、重量比20〜30%もの金属となると、その回収は実質的に不可能ということになる。
【0009】
また、回収レトルト116はステンレス製とされているため、内部に亜鉛が付着しやすく、その剥取が必要となる。その剥取作業は剥離剤等を用いて行なうが、その作業は容易ではなく、手間と時間がかかる。それだけでなく、蒸発物が開口部104と回収レトルト116の間の隙間に入り込んで凝縮するおそれもある。
【0010】
更に、上記のとおり回収レトルト116は、頻繁に交換する必要があるところ、進退駆動用シリンダー120のロッド124に対する回収レトルト116の係脱作業は、回収レトルト116を持って上下に移動させて行なわなければならず、その分手間がかかる。
【0011】
【特許文献1】特開2007−196229号公報
【特許文献2】特開2007−127407号公報
【特許文献3】特許第3310245号公報
【特許文献4】特許第3763557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の処理装置が上述したような欠点を有していることに鑑みてなされたもので、蒸発物の回収部と回収物の収納場所とを切り離して別個のものとすることにより処理効率を向上させ、また、そのようにすることによって収納容器を十分に大きなものとすることを可能にして、その交換頻度を激減させてその交換の手間を省くことができ、以て、有価金属の加熱蒸発回収作業の簡素化と高効率化を実現し得る、真空蒸発回収方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための方法であって、前記真空炉に付設されて、前記処理により発生する蒸発物を付着堆積させて前記有価金属を回収する回収部と、前記回収部において回収し、そこから剥離される回収金属を収納する収納部とを分離することを特徴とする真空蒸発回収方法である。
【0014】
また、上記課題を解決するための請求項2に記載の発明は、有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための方法であって、内周面側及び/又は外周面側にヒータ層を配備した回収筒を真空炉の下面に下向きに設けると共に、その下に、前記回収筒とは別体の収納部を配置し、前記回収筒の内周面に蒸発金属を適量付着させて回収した後、前記ヒータ層によってその回収金属の前記回収筒との接触面を加熱溶解して、前記回収金属を自重で前記収納容器内に落下させることを特徴とする真空蒸発回収方法である。
【0015】
好ましくは、前記ヒータ層による前記回収筒の加熱は、前記真空炉内の真空度と前記収納容器を配置する真空回収室内の真空度の差が設定値以上となったときに開始させるようにする。
【0016】
前記収納容器の前記真空回収室からの搬出は、前記収納容器の重量を計測してそれが設定値以上となったときに行なうようにすることが好ましい。
【0017】
上記課題を解決するための請求項6に記載の発明は、有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための装置であって、前記処理により発生する蒸発金属を付着堆積させて前記有価金属を回収する前記真空炉に付設される回収部と、前記回収部において回収されて前記回収部から剥落される回収金属を収納する収納部とが分離されて設置されることを特徴とする真空蒸発回収装置である。
【0018】
前記回収部は、前記加熱蒸発処理を行う真空炉の下面に下向きに設けられる、ヒータ層を備えた回収筒とし、前記収納部は、前記真空炉の下に配置される真空回収室内の前記回収筒の下方位置に搬入される、前記回収筒の径よりも大きい上面開口を有する収納容器とすることができる。
【0019】
前記ヒータ層は、前記回収筒の内周面側及び/又は外周面側に配置される。その内周面側に配置される内側ヒータ層としては、パイプヒータ等の保護管付きヒータを用いることが好ましい。更に、前記ヒータは、前記真空炉内の真空度と前記真空回収室内の真空度の差が設定値以上になった際に自動的に加熱動作を開始するようにすることが好ましい。
【0020】
更に好ましくは、前記収納容器の前記真空回収室内への搬入及びそこからの搬出は、搬送シリンダーによって行なうこととし、前記搬送シリンダーはそのロッド先端に、そのシリンダー本体側にのみ垂直方向に回動するフック部材を備えていて、搬出動作時には前記フック部材が前記収納容器の側面に直接突き当たり、搬入動作時には前記フック部材が前記収納容器の側面に設置された係止部材に係止されることによって前記収納容器の搬入が可能となるようにする。
【0021】
更に好ましい実施形態においては、前記真空回収室は前記収納容器の搬入・搬出に際して開閉する真空扉を備え、前記真空扉は、前記真空回収室に設置される真空排気口からできるだけ離されて配置される。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記のとおりであって、蒸発金属を回収する回収部(回収筒)とその回収物を収納する収納部(収納容器)とが切り離されているために、収納容器を十分に大きく、即ち、多数回の回収処理分を賄うことができる程度に大きなものとすることができ、その交換頻度が激減してその交換作業の手間が省け、以て、有価金属の加熱蒸発回収作業の簡素化と高効率化を実現し得る効果がある。
【0023】
また、請求項2、3及び10に記載の発明においては、回収筒に付着堆積する回収金属が、適時自動的に加熱溶解されて剥落して下方の収納容器に収納され、また、請求項5及び11に記載の発明においては、収納容器における回収金属の収納量が設定値を超えたときに、自動的に収納容器の交換作業を行うことが可能となるので、人手を要さずに有価金属の回収作業を迅速且つ高効率に行うことが可能となる効果がある。
【0024】
更に、請求項12及び13に記載の発明においては、搬送シリンダーの収納容器に対する係着を人手を要さずに行うことが可能となり、また、請求項14に記載の発明においては、蒸発物が真空扉に触れにくくなるために、真空扉の真空性能が劣化することが防止される効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る真空蒸発回収方法は、有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための方法であって、前記真空炉に付設されて、前記処理により発生する蒸発物を付着堆積させて前記有価金属を回収する回収部と、前記回収部において回収した有価金属の堆積物を収納する収納部とを分離することを特徴とするものである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態においては、内周面側及び/又は外周面側にヒータ層を配備した回収筒を真空炉の下面に下向きに設けると共に、その下に、前記回収筒とは別体の収納部を配置し、前記回収筒の内周面に蒸発物を適量付着堆積させた後、前記ヒータ層によって前記付着堆積した回収物の前記回収筒との接触面を加熱溶解させて、前記回収物を自重で前記収納容器内に落下させるようにする。
【0027】
そして、前記回収筒の加熱は、前記真空炉内の真空度と前記収納容器を配置する気密回収室内の真空度の差が設定値以上となったときに開始させることが好ましく、また、前記収納容器の前記真空回収室からの搬出は、前記収納容器の重量を計測してそれが設定値以上となったときに行なうようにすることが好ましい。
【0028】
本発明に係る真空蒸発回収装置は、上記本発明に係る真空蒸発回収方法を実施するためのものであって、有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理することにより発生する蒸発物を付着堆積させて前記有価金属を回収する回収部と、前記回収部において回収した有価金属の堆積物を収納する収納部とが分離されていることを特徴とするものである。
【0029】
図1は、本発明に係る真空蒸発回収装置の主要部の構成を示す図であり、そこに示された本発明に係る装置は、還元ガスを用いて加熱蒸発処理を行う真空炉1の下面に下向きに設けられる、内周面側及び/又は外周面側にヒータ層5、6を備えた回収筒2を以て回収部とし、真空炉1の下に配置される真空回収室3内の回収筒2の下方位置に搬入される収納容器4を以て回収部としたものである。収納容器4は、後述する作用により回収筒2から落下してくる回収金属を受け入れるものであるので、その上面開口は、回収筒2の径よりも十分に大きいものとされる。
【0030】
好ましくはヒータ層5、6は、回収筒2の内外両周面に配備される。その内周面側に配備される内側ヒータ層6は、パイプヒータ等の保護管付きヒータを埋設して構成することが好ましい。これらの内外ヒータ層5、6は、後述するように、凝縮して回収筒2の内周面(内側ヒータ層6)へ付着する回収金属の堆積量に応じて動作させ、該回収金属の回収筒2の内周面に当接している部分を加熱溶解させ、以て、該回収金属が回収筒2の内周面から剥離して自重で落下するように作用する。
【0031】
回収筒2の下端は、真空炉1の下に設置される真空回収室3内に向けて開口する。真空回収室3は気密状態が保持される室であって、真空排気管7が設置されていて、真空炉1内の蒸発物を真空回収室3側に誘導し得るようになっている。真空回収室3には、収納容器の搬入・搬出に際して開閉する真空扉、好ましくは、真空二重扉12が設置されるが、真空排気管7は、蒸発物がこの真空二重扉12に与える悪影響をできるだけ避けるようにするため、できるだけ真空二重扉12から離れた位置に開口することが推奨される。例えば、その開口位置は、真空二重扉12設置面と反対面の下端部とされる。
【0032】
真空回収室3内には空の収納容器4が搬入され、処理後、そこから搬出される。上述したように収納容器4は、上記内外ヒータ層5、6の作用にて回収筒2から落下してくる回収金属を受ける容体で、その上面開口は回収筒2の径よりも大きいものとされる。一実施例においてこの収納容器4は、800mmφ×1000mmHの円筒形とされ、その場合の容積は、0.502mとなる。これは、従来用いられている350mmφ×500mmL×0.5(つまり防止のために容積の半分程度で回収を終了させることによる減量)の回収レトルトの実効容積0.024mの約20倍にもなり、格段の収納力があるということができる。なお、図示してないが、収納容器4の真空排気管7の開口に近い側面に、蒸発ガスを抜くための通気部が形成される。
【0033】
収納容器4は、真空回収室3に隣接する真空置換室13から搬入され、また、真空置換室13に搬出される。その際収納容器4は、ロッド端が収納容器4の側面と係着し合う搬送シリンダー9によって駆動され、真空回収室3の底面に配設された搬送ローラ8上を移動する。
【0034】
本発明に係る装置における搬送シリンダー9のロッド端と収納容器4の側面との間の係着は、ワンタッチで行なうことができるものである。即ち、搬送シリンダー9のロッド端には、シリンダー本体側にのみ垂直方向に回動するフック部材10が取り付けられていて、このフック部材10が、収納容器4の真空置換室13からの搬入時に、その側面に設置された係止部材11に係止される。
【0035】
このフック部材10と係止部材11の相互作用関係を、図2を参照しつつ、より詳細に説明する。真空回収室3に真空二重扉12を介して連設される真空置換室13には、外部真空扉14と、真空回収室3の搬送ローラ8と同高の搬送ローラ15とが配備され、また、真空排気口16とチッ素ガス供給口17とが設置される。
【0036】
真空置換室13内には、外部真空扉14を開けて空の収納容器4が、自走ローラー等の図示せぬ押送手段によって搬入され、搬送ローラ15上に載置される。収納容器4を真空回収室3内に搬入するに当たっては、先ず、外部真空扉14を閉じた状態で真空排気口16から真空置換室13内の真空引きが行われ、真空置換室13内と真空回収室3とが同圧にされる。
【0037】
次いで、真空二重扉12が開かれ、搬送シリンダー9が定位置まで前進し(前進手段は図示してないが、図5に示す従来の装置と同様の構成による。)、その位置で伸動作をする。すると、その動作端近くでロッド先端のフック部材10が係止部材11に当たることで、フック部材10が図2において下方向反時計回りに回動して係止部材11の垂直部を越える(図2(A))。
【0038】
そして、更に伸動作が進むと、フック部材10は自重で、あるいは、必要に応じて設置される復帰スプリングの作用で回動して元の垂直状態に戻る(図2(B))。そこで縮動作をすると、フック部材10は係止部材11の垂直部に引掛かり、フック部材10は図2において時計回りに回動できないため、更に縮動作が進むと、フック部材10が係止部材11を引張るように作用することになる(図2(C))。かくして、係止部材11が固定されている収納容器4が真空置換室13から引き出され、搬送ローラ15上から搬送ローラ8上に乗り移って、真空回収室3内の定位置(回収筒2の下方位置)に配置される。
【0039】
逆に、収納容器4を真空回収室3から真空置換室13に搬出する場合は、真空二重扉12を開けた後、搬送シリンダー9を前進させると、ロッド先端が収納容器4の側面に当たるので(図2(B)参照)、そのまま搬送シリンダー9を前進させることにより、収納容器4を押送して真空回収室3から真空置換室13へと搬出することができる。その後、真空置換室13内においてチッ素ガスパージがなされ、真空置換室13内が大気圧にされた後に外部真空扉14が開かれ、収納容器4は適宜手段で搬出されて、次工程に回される。
【0040】
この搬送シリンダー9による収納容器4の真空回収室3からの搬出は、自動的に行なわせるようにすることができる。即ち、真空回収室3の収納容器4設置部に重量センサ18を配置して収納容器4の重量を計測し、その重量値が所定値を超えたときに搬出動作、即ち、真空置換室13内を真空回収室3と同圧にした後真空二重扉12を開かせ、次いで搬送シリンダー9を前進駆動させるようにする。図示してないが、これらの各部の動作を制御する制御装置が別途設置される。
【0041】
上記構成の装置の作用について説明する。上述したように、空の収納容器4は、外部真空扉14が開けられた後真空置換室13内に搬入される。次いで、外部真空扉14が閉じられ、真空排気口16を介しての真空引きが行われ、真空置換室13内が真空回収室3内と同圧にされる。
【0042】
その後真空二重扉12が開かれて搬送シリンダー9が前進すると、上述したように、そのロッドが伸動作することによりフック部材10が係止部材11に係止され、続いて搬送シリンダー9が後退することにより、収納容器4が引かれて真空置換室13から真空回収室3内の定位置、即ち、回収筒2の下方位置に配置される。この収納容器4の搬入作業の間は、内外ヒータ層5、6の動作は停止させる。なお、真空炉1からの蒸発物の回収処理は、この収納容器4の搬入作業の間も引き続き行われる。
【0043】
真空回収室3では真空排気管7を介しての真空引きが行なわれ、真空炉1内の蒸発物は、回収筒2内に引き込まれて通過する際に冷やされ、凝縮して回収筒2の内周面に付着し、次第に堆積していく。その際、真空二重扉12は真空排気管7から離れた位置に設置されるため、蒸発物による影響を受けにくく、その真空性能が劣化することが回避される。
【0044】
回収筒2の内周面に付着堆積する回収金属の量がある程度のものとなると、真空炉1内の圧力と真空回収室3内の圧力との差が大きくなってくる。その結果、真空排気状態が悪くなって、回収速度が低下する。
【0045】
そこで本発明の一実施形態においては、真空炉1内と真空回収室3内の圧力差が設定値を超えた場合に、自動的に内外ヒータ層5、6が動作させて、回収筒2の内周面に付着堆積している回収金属の、回収筒2との接触面を加熱溶解させるようにする。例えば、回収金属が亜鉛の場合は、約430℃に加熱することにより溶解させることができる。かくして上記接触面が溶解した回収金属は、回収筒2の内周面から離れて自重で落下し、収納容器4内に回収される。もちろん内外ヒータ層5、6の動作は、人的操作やタイマー制御によって開始させるようにすることもできる。
【0046】
本発明に係る方法及び装置によれば、このようにして回収筒2の内周面へ堆積した回収金属が、適時自動的に剥落されて回収されるので、回収筒2につまり現象が生じて回収効率の低下を招くおそれはなく、しかも回収金属は、従来の回収レトルトの約20倍もの収納力のある収納容器4に連続的に収納されていくため、極めて高効率にて有価金属の回収作業を行うことができるのである。
【0047】
なお、真空炉1中における処理品の搬送に当たり処理品は、敷設されるスキットレール上を滑走するトレー上に載せられる。このスキットレール及びトレーの材質としては、多くの場合耐熱鋼、炭化ケイ素又はカーボンが用いられる。このうちカーボンは、比較的廉価であり、しかも、高温(例えば900℃)下で摩擦係数が0.34と低いために、押送用プッシャーの出力が少なくても済むという、他の材質よりも有利な面がある。しかし、その半面、強度に欠けるという欠点があるために、処理品が重量物である場合には用いられていない。
【0048】
そこで、スキットレール及びトレーの材質として、上記利点を有するカーボンを重量物搬送用にも採用できるようにするために、カーボン中に浸炭しない強化線材を混入することが推奨される。ここで用いる強化線材としては、0.05〜0.5mmφ、長さ20〜100mm、重量比1〜5%のものが好適である。
【0049】
上記本発明に係る装置は、種々の真空蒸発処理プラントに組み込むことができる。図3はその一例として、本装置を還元処理装置に組み込んだ例を示すものである。
【0050】
図3に示す処理装置は、処理品の未処理分をストックする未処理品ストックヤード51、未処理品ストックヤード51から処理品を搬入ライン53に供給する積込機54、処理品を予熱する予熱炉56、不活性ガス(通例チッ素ガス)のパージを行う第1パージ室57、有機物を含む処理品をチッ素ベースで乾留処理し、比較的低温で蒸発分解するHg、K、Na、HO、ハロゲン化物等の不純物を常圧除去すると共に、COとHの合成ガスを得るための乾留室59、第2パージ室63を介し、上記乾留によって発生する処理品中のカーボン及び水分から、水性ガス反応及び水性ガス転化反応を利用して還元ガス又は他の反応ガスとして利用するためのCOとHの合成ガスを発生させる反応室66が連設されたものである。
【0051】
そして、この反応室66に、第3パージ室71を介して本発明における真空炉1が連設され、真空炉1に真空回収室3が設置されている。この場合真空炉1には、乾留室59で発生した還元ガスがガス処理装置61を介して、また、反応室66で発生した還元ガスが直接導入される。真空炉1内は、設定温度に昇温されると共に、設定真空度に減圧しつつ還元ガスが供給されることにより、処理品が還元分離又は還元蒸発分離し、不純物が除去されて、回収筒2において有価物を純度の良い製品として回収することが可能となる。なお、この装置においては、処理済品は、冷却室77において冷却された後に排出される。
【0052】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る真空蒸発回収装置の一実施例の要部を示す簡略構成図である。
【図2】本発明に係る真空蒸発回収装置における収納容器に対する搬送シリンダーの係着関係及び作用を示す図である。
【図3】本発明に係る装置を組み込んだ処理装置の構成例を示す図である。
【図4】従来の真空蒸発回収装置の構成例を示す図である。
【図5】従来の真空蒸発回収装置における回収レトルトに対する搬送シリンダーの係着関係を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 真空炉
2 回収筒
3 真空回収室
4 収納容器
5 外側ヒータ層
6 内側ヒータ層
7 真空排気管
8 搬送ローラ
9 搬送シリンダー
10 フック部材
11 係止部材
12 真空二重扉
13 真空置換室
14 外部真空扉
15 搬送ローラ
16 真空排気口
17 チッ素ガス供給口
18 重量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための方法であって、前記真空炉に付設されて、前記処理により発生する蒸発物を付着堆積させて前記有価金属を回収する回収部と、前記回収部において回収し、そこから剥離される回収金属を収納する収納部とを分離することを特徴とする真空蒸発回収方法。
【請求項2】
有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための方法であって、内周面側及び/又は外周面側にヒータ層を配備した回収筒を真空炉の下面に下向きに設けると共に、その下に、前記回収筒とは別体の収納部を配置し、前記回収筒の内周面に蒸発金属を適量付着させて回収した後、前記ヒータ層によってその回収金属の前記回収筒との接触面を加熱溶解して、前記回収金属を自重で前記収納容器内に落下させることを特徴とする真空蒸発回収方法。
【請求項3】
前記ヒータ層による前記回収筒の加熱は、前記真空炉内の真空度と前記収納容器を配置する真空回収室内の真空度の差が設定値以上となったときに開始させる、請求項2に記載の真空蒸発回収方法。
【請求項4】
前記回収筒の内周面側に配設される内側ヒータ層は、パイプヒータ等の保護管付きヒータによって構成される、請求項2に記載の真空蒸発回収方法。
【請求項5】
前記収納容器の前記真空回収室からの搬出は、前記収納容器の重量を計測してそれが設定値以上となったときに行なう、請求項2に記載の真空蒸発回収方法。
【請求項6】
有価金属を含む処理品を、還元ガスを用いてあるいは用いることなく真空炉内において減圧下で加熱蒸発処理して前記有価金属を回収するための装置であって、前記処理により発生する蒸発金属を付着堆積させて前記有価金属を回収する前記真空炉に付設される回収部と、前記回収部において回収されて前記回収部から剥落される回収金属を収納する収納部とが分離されて設置されることを特徴とする真空蒸発回収装置。
【請求項7】
前記回収部は、前記加熱蒸発処理を行う真空炉の下面に下向きに設けられる、ヒータ層を備えた回収筒であり、前記収納部は、前記真空炉の下に設置される真空回収室内の前記回収筒の下方位置に搬入される、前記回収筒の径よりも大きい上面開口を有する収納容器である、請求項6に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項8】
前記ヒータ層は、前記回収筒の内周面側及び/又は外周面側に配置される、請求項7に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項9】
前記内周面側に配置される内側ヒータ層は、パイプヒータ等の保護管付きヒータで構成される、請求項8に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項10】
前記ヒータ層は、前記真空炉内の真空度と前記真空回収室内の真空度の差が設定値以上になった際に自動的に加熱動作を開始する、請求項7乃至9のいずれかに記載の真空蒸発回収装置。
【請求項11】
前記真空回収室内における前記収納容器の搬入部に重量センサを設置した、請求項6に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項12】
前記収納容器の前記真空回収室内への搬入及びそこからの搬出は、搬送シリンダーによって行なわれる、請求項6に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項13】
前記搬送シリンダーはそのロッド先端に、シリンダー本体側にのみ垂直方向に回動するフック部材を備えていて、搬出動作時には前記フック部材が前記収納容器の側面に直接突き当たり、搬入動作時には前記フック部材が前記収納容器の側面に設置された係止部材に係止されることによって前記収納容器の搬入が可能になる、請求項12に記載の真空蒸発回収装置。
【請求項14】
前記真空回収室は前記収納容器の搬入・搬出に際して開閉する真空扉を備え、前記真空扉は、前記真空回収室に設置される真空排気口からできるだけ離されて配置される、請求項13に記載の真空蒸発回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−249730(P2009−249730A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102718(P2008−102718)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(508081282)
【Fターム(参考)】