説明

真空蒸着物質の多目的容器及びその製造方法

本発明の多目的容器は外部容器と、内部充填材と、メッシュ及びワッシャーとを備える。外部容器はステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンなどの金属材料からなる。内部充填材は炭素繊維フェルト、炭素繊維又は金属フェルトなどからなる。メッシュ及びワッシャーは、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンなどの金属材料からなり、内部充填材上に配置される。これらの構成要素は安定した一体型の構造物として組み立てられるか又は溶接される。多目的容器に含浸又は充填された様々な機能を有する各種の蒸着物質は、真空蒸着装置内で電子ビーム加熱方法又は抵抗加熱方法によって超薄膜として均一に蒸着されうる。蒸着物質は粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、多目的容器に含浸又は充填される各種の蒸着物質を、真空蒸着装置内で電子ビーム加熱法又は抵抗加熱法によって均一に蒸着することにある。ここで、蒸着物質は、粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及び、スラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる。
【背景技術】
【0002】
本発明の真空蒸着物質の多目的容器は、外部容器と、内部充填材と、メッシュ及びワッシャーとを備える。外部容器は、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン、又はチタンなどの金属材料からなる。内部充填材は、炭素繊維フェルト、炭素繊維又は金属フェルトなどからなる。メッシュ及びワッシャーは、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン、又はチタンなどの金属材料からなり、内部充填材上に配置される。これらの構成要素は、安定した一体型の構造物として組み立てられるか又は溶接される。
【0003】
本発明の技術的特徴は、多目的担容器に含浸又は充填される様々な機能を有する各種の蒸着物質を、真空蒸着装置内で電子ビーム加熱法又は抵抗加熱法によって均一に超薄膜として蒸着することにある。ここで、蒸着物質は、粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる。
【0004】
最近、眼鏡レンズのような光学レンズ/フィルタだけでなく、携帯電話、MP3プレイヤー、PMP、ノート型パソコンのような携帯用電子製品及びディスプレイ製品において、反射防止、光学的フィルタリング、吸収率及び反射率の調節、及びカラーリング処理のために、真空蒸着工程を利用した様々な試みがなされている。真空蒸着工程において、薄膜蒸着層は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムのような酸化物、フッ化マグネシウムのようなフッ化物、若しくは、クロム、ニッケル、アルミニウム、SUSのような金属の無機粉末/粒子材料からなり、ガラス、プラスチック又は金属からなる基板上に形成される。
【0005】
しかし、金属及び金属酸化物からなる真空蒸着層は、外部環境で容易に腐食又は汚染される。その結果、蒸着層の剥離が生じる。蒸着層の剥離を防止するために、蒸着層に有機材料をコーティングして疎水性膜又は撥水性膜を形成するための試みがなされている。
【0006】
有機材料を真空蒸着するために、有機系蒸着物質を含浸する容器が真空装置内で使用される。特許文献1は高温で熱処理された多孔質セラミック材料で製造された容器を開示している。また、特許文献2は高温で熱処理された金属粉末及び金属フェルトを開示している。
【0007】
一般的に、蒸着工程においては、電子ビームを用いた真空蒸着方法、及び抵抗加熱方法のような熱を利用した方法が用いられる。電子ビームを用いた蒸着方法は、蒸着工程の利便性及び自動化の面で有利であるが、現在では、抵抗加熱方法がより広く用いられている。抵抗加熱方法は、真空蒸着工程で使用される有機系蒸着物質の特性を考慮し、有機系蒸着物質を含浸する容器を利用したものである。
【0008】
多孔質セラミック容器がある程度の化学的安定性を有していても、有機系真空蒸着物質を含浸する容器の内部には微細孔が存在しているので、微細孔の密度を調節する必要がある。そして、液体状の有機系蒸着物質が容器に含浸している間の漏洩を防止するための構造も考慮する必要がある。
【0009】
多孔質セラミック容器は、セラミック材料から形成されているため、外部からの衝撃によって破損し易い。従って、このような破損による容器の損傷を防止するため、高温の熱処理が必要となる。しかし、熱処理は密度を向上させることができるが、所望の空隙率(すなわち、蒸着物質の含浸される空隙)を確保することが難しい。
【0010】
さらに、所望の空隙率を確保するための低温の熱処理は、セラミック容器の硬度を下げる。これにより、セラミック容器は、容易に破損して、処理時、移送時及び保管時において粉塵を発生させるという短所を有する。
【0011】
真空蒸着方法の一つである電子ビーム加熱方法がセラミックを加熱可能な高出力状態で用いられる場合、多孔質セラミック容器の粉塵は蒸着物質と混ざり合って基板上に蒸着される。これによって、蒸着された薄膜の所望の機能的な特性は完全に発揮されなくなる。
【0012】
多孔質セラミック容器のように、金属粉末及び金属フェルトにおいても、多孔質にするための高温度の熱処理が必要となる。このため、製造工程において、さらに相当な時間及び製造費用が必要となる。そして、容器を成形するための圧力と温度が必要になるため、蒸着物質を容器に含浸させるための空隙率は容器全体で一定にならず、これによって有機系蒸着物質の効力が低下する。
【0013】
また、多孔質セラミック物質、金属粉末及び金属フェルトが使用され、液体状の有機系蒸着物質が過剰に容器に含浸していれば、蒸着物質は容器の外部に露出された状態で固化して、容器の外部の空気と酸化反応を起こし、電子ビームによって分解される。従って、このような問題点によって良質な薄膜の形成が妨げられる。
【0014】
多孔質セラミック、金属粉末又は金属フェルトを真空蒸着方法(即ち、電子ビーム加熱方法)に代えて抵抗加熱方法によって加熱する場合、タングステン、タンタル、又はモリブデンで製造されて熱伝導性を有するボートを使うが、これらのボートを数回使用後に交換しなければならないという短所がある。結果として、ボートの交換に起因する余分なコストと不便さが生じる。
【0015】
さらに、抵抗加熱方法では、真空蒸着時の自動化は難しいため、蒸着工程は手動での作業となる。電子ビーム加熱方法に比べて、抵抗加熱方法においては、均質な薄膜を得ることは難しい。
【0016】
焼結された多孔質セラミック容器、金属粉末容器及び金属フェルト容器の場合、液体状の有機系蒸着物質のみしか容器内に含浸されない。空隙の大きさを容易に調節することができないので、微細な固体状の有機系蒸着物質を真空蒸着する際に使用することができない。さらに、上記容器は固体状の有機系蒸着物質に対して使用できない。従って、これらの容器の使用範囲は非常に制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】大韓民国実用新案登録出願第20−2003−0015078号
【特許文献2】大韓民国特許出願第10−2003−0058223号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、多孔質セラミック容器、金属粉末容器及び金属フェルト容器に起因する問題点を解決するための多目的容器であって、大きな利便性及び幅広い適用分野を有する真空蒸着容器を提供することにある。
【0019】
本発明の別の課題は、上部及び下部が閉じた一体型の構造を有し、粉塵が発生せず、電子ビーム加熱方法及び抵抗加熱方法の両方を適用することが可能な多目的容器を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに別の課題は、多目的容器に含浸又は充填される様々な機能を有する各種の蒸着物質を、真空蒸着装置内で電子ビーム加熱方法又は抵抗加熱方法によって超薄膜として均一に蒸着することにある。ここで、蒸着物質は、粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る真空蒸着容器の好ましい一実施例は、円筒形状又は四角筒形状の外部金属容器と、金属ワッシャーとを備える。外部金属容器は、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン、又はチタンからなり、処理時、保管時及び移送時に安定性を有したものであって、熱を伝逹できるようになっている。金属ワッシャーは、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン、チタンからなっている。金属容器の上部縁はリング状に形成されている。金属ワッシャーは、金属容器の上部縁から下向きに蒸着物質を押し付けるようになっているか、又は金属容器に溶接される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多目的容器は、以下の効果を有する。
(1)粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機及び/又は無機化合物から形成される蒸着物質が容器内に含浸又は充填される工程において、蒸着物質の損失を防止でき、様々な機能を有する各種の蒸着物質の真空蒸着効率を最大にすることができる。
(2)電子ビーム加熱方法と抵抗加熱方法の両方を、本発明の容器に対して適用することができる。
(3)本発明の容器は、金属材料で製造されるため、処理時、保管時、移送時に安定的を有し、且つ再使用ができる。
(4)本発明の多目的容器内に、液体状の有機系/無機系蒸着物質を含浸することができる。また、固体状の有機系/無機系蒸着物質及び半固体状の有機系/無機系蒸着物質を充填材と混合し、容器内に充填して使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の容器の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示されるように、本発明の基本的な構成は、円筒形状の外部容器10からなっている。外部容器10は、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンからなる。外部容器の厚みは0.10mm〜0.50mmであり、外部容器の直径は5mm〜60mmである。
【0025】
好ましくは、外部容器の厚みは0.15mm〜0.35mmであり、外部容器の直径は10mm〜25mmである。外部容器は、薄すぎると変形し易くなり、厚すぎると組立及び溶接のような後工程の処理を施しにくくなる。
【0026】
外部容器の高さは4mm〜12mmであり、好ましくは6mm〜8mmである。
【0027】
外部容器は内部に収容される充填材を保護する。そして、粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる蒸着物質の損失が、完全に防止される。外部容器はステンレススチールからなり、電子ビーム加熱方法や抵抗加熱方法に関係なく、效果的に熱を伝達することができる。
【0028】
外部容器の材料は、ステンレススチールだけに限定されず、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンのような效果的に熱を伝達しうる金属材料であってもよい。
【0029】
本発明の重要な構成要素の一つである内部充填材20は、コーティング材料の特性に応じて、炭素繊維フェルト、炭素繊維、炭素粉末、及び鉄、銅、ステンレススチールのような金属フェルト/金属粉末のグループの中から適宜に選択される。
【0030】
特に、非常に軽い炭素繊維及び炭素繊維フェルトは、外部環境に対する高い安定性及び高い熱伝逹効率を有し、最も効果的である。
【0031】
空隙の大きさ及び空隙率を調節するため、様々な直径を有する1種類の炭素繊維を使用してもよく、少なくとも2種類の炭素繊維を使用してもよい。
【0032】
好ましくは、空隙の直径は20μm〜500μmであり、最も好ましくは100μm〜300μmである。
【0033】
一般的に、空隙の大きさ及び空隙率は、炭素繊維の直径及び炭素繊維含有量によって制御される。空隙の大きさ及び空隙率は、具体的には、炭素繊維を金属容器10に挿入し、ステンレススチールメッシュとワッシャーを、炭素繊維上に配置し、さらに金属容器10のリング状の上部縁から押し下げて、充填材(即ち、炭素繊維)の密度を調節することによって制御される。従って、空隙の大きさ及び空隙率は、粉末及び粒子のような固体状、様々な粘性を有する液体状、及びスラリーのような半固体状のうちのいずれかの状態を有する有機系及び/又は無機系化合物からなる蒸着物質の密度及び含有量によって制御される。
【0034】
また、炭素繊維は優れた熱伝逹効率を有するため、抵抗加熱方法又は電子ビーム加熱方法によって発生された熱が蒸着物質に效果的に伝達し、これにより蒸着物質が急峻に気化し、薄膜の蒸着の効率が最も大きくなるという長所がある。
【0035】
炭素繊維は、金属材質とは異なり、外部環境に対する変化がないため、長時間保管可能になる。これにより、本発明の容器は、高温熱処理後も再使用ができる。
【0036】
充填材の上部には、金属メッシュ40及び金属ワッシャー50が配置される。金属メッシュ40及び金属ワッシャー50は、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンからなる。
【0037】
金属メッシュ40は、充填材として使われた微細な炭素繊維が容器外に離脱することを防止する。
【0038】
より效果的に、充填材の離脱を防止、又は真空蒸着工程での充填材の分散を防止するためには、炭素繊維フェルト30を、容器内部に収容された微細な炭素繊維上に薄く配置し、当該炭素繊維を覆い囲むようにする。
【0039】
金属ワッシャー50は、容器のリング状の上部縁から下げられ、全体的に充填材を押し付ける。これにより、押し付けられた炭素繊維を通じて、空隙の大きさ及び空隙率が最終的に制御される。
【0040】
金属ワッシャー50は、炭素繊維、炭素繊維フェルト又は保護用のメッシュを安定的に保護し、抵抗加熱方法又は電子ビーム加熱方法によって伝達された熱の放出を防止する。さらに、真空蒸着工程において、熱によって気化された有機系蒸着物質は、金属ワッシャーの中心に形成された円状の孔を通って基板に移動する。
【0041】
孔の大きさは真空蒸着チャンバーの大きさ及び高さ、並びに外部容器の大きさによって適宜に決定されうる。孔の大きさは3mm〜20mmであり、好ましくは5mm〜8mmである。
【0042】
ワッシャーの孔の大きさは非常に重要である。ワッシャーの孔の大きさによって、真空蒸着工程の間に、気化された有機系蒸着物質が基板に向かって直進して分散する角度が決定され、有機系真空蒸着物質の損失を最小にすることができる。
【0043】
本発明の多目的真空蒸着容器の製造工程について、以下説明する。
【0044】
(実施例1)
炭素繊維粉末20及び炭素繊維フェルト30を容器10に充填し、その後、炭素繊維粉末20及び炭素繊維フェルト30を覆い囲むように、金属メッシュ40及び金属ワッシャー50を炭素繊維フェルト30上に配置して容器に溶接する。こうして、蒸着物質を含浸した真空蒸着用物質は、60mgの液状フッ素系化合物を含浸することによって製造される。
【0045】
(実施例2)
実施例1で製造された真空蒸着用物質を、真空蒸着装置の電子ビームポートに装入する。電子ビームの直径は、真空蒸着装置を使用して、5×10−5torrの真空度及び20mAの電子ビーム電流で、30mmに設定される。そして、真空蒸着物質をガラス、PMMA、PC及びPET基板上にコーティングする。
【0046】
(実施例3)
実施例1で製造された真空蒸着用物質を、真空蒸着装置のモリブデン発熱体のボートに装入する。5×10−5torrの真空度及び50mAの電流で、ガラス、PMMA、PC及びPET基板上にコーティングする。
【符号の説明】
【0047】
10 外部金属容器
20 炭素繊維(フェルト)充填材
30 炭素フェルト
40 保護用の金属メッシュ
50 金属ワッシャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部縁がリング状に形成され、内部に蒸着物質を収容する金属容器と、
前記金属容器の内部に収容され、前記蒸着物質上に配置される金属ワッシャーを備え、
前記金属ワッシャーが、前記金属容器の上部縁から下げられ、前記蒸着物質を押し付けた状態で前記金属容器に固定されることを特徴とする真空蒸着用容器。
【請求項2】
内部に蒸着物質を収容する金属容器と、
前記金属容器の内部に収容され、前記蒸着物質上に配置される金属ワッシャーを備え、
前記金属ワッシャーが、前記蒸着物質を押し付けた状態で前記金属容器に溶接されることを特徴とする真空蒸着用容器。
【請求項3】
前記蒸着物質と前記金属ワッシャーの間に配置され、前記蒸着物質の前記金属容器からの離脱を防止する金属メッシュをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着用容器。
【請求項4】
前記金属容器、前記金属ワッシャー及び前記金属メッシュは、ステンレススチール、鉄、銅、モリブデン、タングステン又はチタンからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着用容器。
【請求項5】
前記蒸着物質と前記金属ワッシャーの間に配置され、前記蒸着物質の前記金属容器からの離脱を防止する炭素繊維フェルトをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着用容器。
【請求項6】
前記金属容器は、円筒形状又は四角筒形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着用容器。
【請求項7】
前記金属ワッシャーは、中央に孔を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着用容器。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534767(P2010−534767A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518125(P2010−518125)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004352
【国際公開番号】WO2009/014398
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510023827)セコ コーポレイション リミテッド (2)
【Fターム(参考)】